さて、僕のこれまでに書いた解説記事や予想(別に当たれば金が儲かるというわけではありませんが)を簡単に自己採点しておきましょう。もちろん、理研がこれから1年以上かけてやる、というSTAP「現象」の実証研究プロジェクトの結果を待たなければいけませんが、笹井氏の会見でかなり色々なことがわかりました。

STAP細胞論文に関する笹井芳樹副センター長の会見時の資料について、独立行政法人理化学研究所、2014年4月16日




まずは、一連のSTAP細胞捏造疑惑のバックグラウンドを解説した記事です。

いまさら人に聞けないSTAP細胞と細胞生物学の基礎、2014年3月16日
いまさら人に聞けない小保方晴子のSTAP細胞Nature論文と捏造問題の詳細 その1 TCR再構成と電気泳動実験、2014年3月22日
いまさら人に聞けない小保方晴子のSTAP細胞Nature論文と捏造問題の詳細 その2 TCR再構成を否定した3月5日の理研の発表とコピペ問題、2014年3月29日
いまさら人に聞けない小保方晴子のSTAP細胞Nature論文と捏造問題の詳細 その3 テラトーマの画像使い回しとキメラマウスを作った若山さんが憤る、2014年3月31日

これらは専門用語の厳密性がちょっとないのですが、他分野の読者向けにはなかなか良く書けているし、現在のところ、間違いは報告されていません。これらの記事を書いた後に、博論のコピペばかりに言及していた文系学者の方々やジャーナリストの方々が、急に捏造問題の本質部分に目を向けはじめたので、今回の一連のSTAP細胞騒動の本質的な問題を、多くの一般読者に伝えることに成功した、と胸を張って言えるでしょう。ある程度の社会的意義はあったかと思います。

90点

STAP細胞は単なる仮説のひとつに戻った、2014年4月3日

自分で言うのも何ですが、笹井氏の記者会見の後にこれを読むと、なおさらのことよく書けています。笹井氏が言ってたことは、全体像としては、これと同じじゃないでしょうか。ただ、彼は、もう一度研究するだけの価値がある「有望な」仮説だとしましたが。

95点

「STAP細胞があるのかないのか」と言う問いの不毛さ、2014年4月14日

これは上のアゴラの記事の補足的な説明なので、それほど外しようもなく、無難な記事ですね。
理研が、今回のSTAP細胞捏造疑惑に関して、ほとんど調査しておらず、また調査する必要も感じていないことが、小保方氏、笹井氏の会見で明らかになったのですが、そうした理研の組織上の問題点を指摘しているのは重要だと思います。
間違いはなくても、リスクを取っていない無難な記事なので、自己採点は低めです。

70点

若山氏は小保方晴子にハメられるのか? 2014年4月15日

小保方氏と笹井氏はいまでもお互いに深く結ばれていて、若山氏に双方が責任を擦り付けようとしている政治的な動きは、かなり正確に予測できたと思います。

Q「実際に実験を見れば良かったのでは?」

A「見てディスカッションできれば、より深い指導ができたと思います。ただ若山氏のチェックが済んでいたので、それを飛び越すことは難しかった。ただ、生データを見る、ノートを共有すべきだったのかを改めて考えている」

笹井氏は、今回のSTAP論文は、ほとんどの実験が終わった後に、論文の文章を書きなおしたり、構成にだけ協力したと強調しました。実験の直接の管理者責任は、若山氏である、と暗に言いました。

80点

謎はすべて解けた!! それでも、STAP細胞は捏造です、2014年4月10日
Corrigendum(論文訂正): 2014年4月10日付『謎はすべて解けた!! それでも、STAP細胞は捏造です』、2014年4月13日

これは小保方氏の会見を受けて、わからないことを僕の想像力で補完して、外れるリスクをかなり取りにいった、科学者なら書けない、証券会社のアナリスト的な、大胆な推理の記事です。あの時点で、小保方さんの「200回以上成功」の意味は多くの人がわかっていなかったので、これを概ね当てたのは、評価に値します。

しかし、今日の笹井氏の会見を受けて、ES細胞混入だったいう点は、彼らも一番最初に考えることで、その可能性はかなり潰していると感じました。少なくともSTAP幹細胞ではなく、増殖能力がない(それゆえに医療への応用は難しい)STAP細胞に関しては、単純なES細胞混入じゃないかもしれない、という可能性もそれなりにありそうです。

笹井氏は必死にES細胞「混入」ではない、と言っていましたが、小保方氏の「すり替え」だという仮説はどうなんでしょうか? 僕は、すり替え疑惑は、最初から最後まで全部と言わないまでも、まだ極めて有望な仮説だと思うのですが、なぜ、笹井氏が混入、混入と言って、すり替えとは一言も言わなかったのか、現段階では分析しかねています。まだまだ不明な点が多く、自己採点は暫定的に厳し目にしておきましょう。

70点


STAP細胞捏造事件の新たな最有力仮説=Muse細胞?

なぜ、笹井氏は会見でこの可能性に言及せず、また、記者たちもつっこまなかったのか、理解に苦しみますが、小保方氏がやっていた実験プロセスは、成体に僅かに残っている多能性幹細胞をスクリーニングしていたに過ぎなかったのではないか、という可能性があります。

STAP細胞を作るプロセスというのは、すでにヒトで確認されているMuse細胞とそっくりなのです。Muse細胞に関しては、以下の記事を参考にして下さい。

・・・翌日、培養室に戻ってきたら、普通は培地がピンクなのに黄色なんです。細胞は消化酵素の中に12時間以上漬けられていたためほとんど死んでしまっていました。ショックでしたねえ。ただ捨てる前にもう一度チェックする癖があって、のぞいてみたら、わずかに生きている細胞がいたんです。なぜこの細胞は生きているんだろう、なにか発見できるかもしれないと、ダメでもともとと遠心分離器にかけて集めた細胞をゼラチン上で培養したところ、多能性幹細胞だったんです。
共同研究者の藤吉教授とこの細胞を「Muse(ミューズ)細胞」と名付け、2010年4月に発表したところ、「第3の多能性幹細胞」などとマスコミでも取り上げられました。

生命科学DOKIDOKI研究室 第9回 がん化の可能性が低い多能性幹細胞「Muse細胞」を発見東北大学 出澤真理教授


しかも、小保方氏は、Muse細胞の追試を自分でやっています。

「メディアはほとんど指摘していないが、小保方さんは博士論文で、2010年に出た黒田論文(黒田康勝・東北大学大学院助教)にある、ヒトの骨髄や皮膚の細胞から誘導される多能性幹細胞『Muse細胞』(※注)の追試をやっていたようだ。

しかし、追試だけでは話題にならないので、『完全に体細胞になったものでも同じことができる』と主張した。理研に移ってから、それが『分化しきった体細胞がリセットされてSTAP細胞という万能細胞になる』という論文に化けた。もとは黒田論文の真似なのです。

【※注】もともと細胞内にわずかに存在し、皮膚や筋肉、肝臓などのさまざまな細胞に分化できる幹細胞。2010年に東北大学の出澤真理教授が発見し、藤吉好則教授が命名した。

週刊ポスト2014年4月18日号


若山氏は、非常に誠実な研究者なので、ES細胞混入の可能性も、当然、このMuse細胞という可能性も考えていたでしょう。しかし、若山氏は、リンパ球由来のTCR再構成が確認されたSTAP細胞だと言われて、キメラマウスの実験をしています。

ところが、小保方氏と笹井氏が、3月5日に急にTCR再構成が確認できていないと発表して、その直後に博士論文のぜんぜん違う実験のテラトーマ写真の流用が発覚し、これらを受けて、論文撤回という非常に重い決断をしたわけです。この点でも、STAP細胞というのは、若いマウスのMuse細胞的な幹細胞を、単にスクリーニングしている可能性が高いと思われます。その心配していたことは、若山氏は、TCR再構成で自信を持っていました。しかし、急にそれを共同研究者が覆しました。こうして、論文の根幹となるデータに全く信頼がおけなくなったわけです。

現段階では、ES細胞すり替え仮説の他に、マウスのMuse細胞的な残留幹細胞スクリーニング仮説がかなり有力なように思います。笹井氏が検証するだけの価値があると言うSTAP現象仮説の可能性も、ゼロではありません。僕はその可能性は低いと思っていますが。笹井氏自身も、今回の研究は、最後の最後に論文の体裁を整えるために加わっただけで、俺は関係ない、と終始主張しているので、実際のところすでにSTAP現象仮説には自信がないんでしょう。

というか、そもそも論としては、STAP現象の仮説を一から確かめようとか、そんな呑気なこと言ってないで、すでに過去に起きた研究不正を理研は徹底的に調査するべきなのですが、そうしたことは行われておらず、またその必要性も感じていないようです。とほほ。

いずれにしても、笹井氏の言う通りに、STAP現象は仮説に戻ったのであり、すでに人間で成功しているMuse細胞と比べても、医療応用の点では、楽観的に見ても、STAP現象(仮)は前途多難でありましょう。そもそも、まだマウスですら実証できていない現象です(小保方氏のNature論文は、アイディアを提示する論文ではなく、実証研究であり、その実証の過程に捏造データが発覚して、完全に失敗しているのですから、共著者たちが撤回しようとしているわけです)。一般メディアが騒ぐほどの科学研究ではありません。笹井氏の大げさなアピールと、リケジョの珍しさに乗せられすぎです。なぜ、みんなこんなに騒いでいたのでしょうか? 僕はとても不思議です。

笹井氏も自ら言っています。マスコミが勝手にSTAP現象=夢の万能細胞と勘違いして騒いだだけじゃないか、と。俺たちは最初から、あくまで基礎的なマウスの研究段階で、実用性を目指したものでないと、ちゃんと強調したじゃないか、と。マスコミって本当にアホだな、と。
(笹井氏、華麗な開き直りですwww)

1月のプレスリリースの際に、あくまで基礎的なマウスの研究段階での発表であり、実用性を目指したものでないことを強調しました。補足資料の説明では、京都大学iPS細胞研究所の皆様と山中教授にご迷惑をおかけしました。資料の撤回をしたところであります。

この補足資料ではiPS細胞とSTAP細胞では後者の方が効率が良いように書いてありましたが、実際にはそんなことはなく、京都大学iPS細胞研究所と理研は協力関係にあり、今後もそのように進めていきたいと思っております。

Q「笹井さんはSTAP細胞論文の作成に関して、iPS細胞を発見した山中氏への対抗意識はあったのか?」

A「そうしたことはありません。山中先生と僕は強い信頼関係を持っているし、山中先生は僕が京都大学を辞めた後に受け継いだ方で、非常に素晴らしい方が継いだと喜んでいました。こうしたことから、iPS細胞の有用度の高さは非常に強く感じていました。iPSは100歳の高齢者の方からも作れますが、STAPは今のところマウスだけで全然違う。iPSとSTAPは原理が違うので、STAPはiPSとは違う使い方できるということを強調したかった。ただ、補足資料では間違った比較数値が入っていたので、2月に謝罪しに行ったということであります」


STAP細胞、改めSTAP現象は、地味な学問的な仮説に戻ったわけです。仮説に戻ったというと聞こえはいいかもしれませんが、要するにゼロになった、ツチノコと同じになった、ということです。笹井氏は研究実績は一流ですが、研究プロジェクトのマネジャーとしては無能だということが国内外に示されました。降格でしょう。また、理研は組織として、危機管理能力がゼロで、またそれを改善する意思もないことが明らかになりました。今後、税金を注入し続ける正当性が問われます。

小保方氏が少なくともいくつかの実験データを捏造したことは事実で、今後、STAP現象が実証されようがされまいが、小保方氏の罪は変わりません。博論など、他の研究でも様々な不正が見つかっており、研究者を続けるのは極めて困難だと思います。
(だって、研究者が論文の査読を頼まれて、その論文の著者にHaruko Obokataって書いてあったら、読まずに、「実験データが信用できない」と言ってRejectするでしょ。僕なら間違いなくそうするw)

実験データの捏造がどれほど罪が重い行為かというのは、奇しくも、直属の上司やとなりで研究していた共同研究者でさえ、いまだに何が起こって、何が本当のデータで、何が嘘のデータなのかが把握できていないことで、明白になったでしょう。

コンビニの棚に100本のジュースが並んでいて、その中の1本に毒が入れられたと想像して下さい。正しくないジュースは、この1本だけですが、そのために残りの99本も全て無価値どころか、マイナスの価値になってしまうのです。

こうした大きな研究プロジェクトで、ひとりでもデータを捏造する人が混じると、共同研究者さえ、どういう現象が起こっているのか、さっぱり理解できなくなるのです。それゆえに、全てが無駄になってしまいます。

これはそっくりそのまま、理研という組織、あるいは日本という国の科学技術論文の信用問題にもなります。1通でもそのような捏造データに基づく論文があると、理研全体の論文が信用されなくなります。そして、日本から出る論文も信用されなくなってしまうのです。