灘中学や開成中学に合格する天才小学生たちも、下の3分の1ぐらいは、高校を卒業するぐらいまでには、立派にただの人になっている。でも、ひとつの高校で、上の3分の1ぐらいがみんな東大に現役で受かる学力というのも、これまたなかなかすごいことではある。まあ、中学の偏差値と、大学の偏差値は、かなり高い正の相関があるのは、紛れも無い事実だ。

それで、僕が重要だと思っているのは、灘中学や開成中学の中でも、トップ層の子供たちのキャリア・パスである。ここでとうとう表題に戻ってくる。灘や開成に行く子供こそ中卒で働いたほうがいい、ということだ。ちなみに、入学試験での順位と、その後の成績は、あんまり相関がない。なんといっても、合格した後に、勉強のモチベーションが続くかどうかのほうがはるかに重要だ。

灘中学に入学して、その後も勉強を続ける、上位10%ぐらいの子供たち、まあ、学年20番ぐらいには入っている子供たちはどうなるかというと、英語がどれぐらい得意かによるけど、中3か高1ぐらいには東大に合格するぐらいの学力になっている。帰国子女なんかで英語が得意な灘中生なら、中2の終わりぐらいで東大の簡単な学部なら受かるだろう。

灘中学のカリキュラムでは、中学1年のうちに中学の数学を全部終わらせて、中2から高校数学をはじめる。よって、英語さえなんとかなれば、中3で東大の医学部以外なら受かるのだ。実際に、駿台の高3・浪人用の全国模試を受けると、中3の灘中生や、高1の灘校生が上位に名を連ねている。開成は、灘よりはカリキュラムが遅いし、全般的に多少劣るが、まあ、似たようなものだろう。

この子たちは、残りの3年間や4年間やることがない。しょうがないから、さらに偏差値を上げて、医者になりたくもないのに、日本の大学受験業界の最高峰である東大の理3(医学部)を受ける。医学部よりは少数だが、東大の文1に行って官僚を目指したり、まあ、理1などに行って科学者を目指すケースもある。

問題なのは、これらのキャリア・パスのどれもが、あまりパッとしないことだ。まずは、東大医学部に行って、医者になっても、簡単に入れる私大の医学部に親に高い学費を払ってもらって入学し、親の病院を継ぐようなお医者さんに、年収でぜんぜん勝てないし、臨床医としての能力と、こうした受験勉強の能力はそもそも違うものだ。なので、東大の医学部に行って医者になっても、医者としてのセンスがないと、平凡以下の医者になってしまう。

官僚のような高級公務員になると、労働時間が非常に長い上に、とても貧乏だ。正直、マゾなんじゃないかと思う。なんか、とてもかわいそうだ。正直、何が面白くて、官僚になりたいのか、僕にはさっぱり理解できない。

大企業のサラリーマンになるなら、会社に入ってしまえば、東大も早稲田も慶応も、他の6大学も変わりない。それで、日本人は多少なりともみんな学歴コンプを持っているので、東大だと、あいつは東大なのに仕事ができない、などと陰口を叩かれてしまうぐらいだ。

そうすると、科学者ということになるが、科学者としての必要なセンスと、大学受験で高偏差値を叩き出すセンスは、これまた似て非なるもので、やってみないと自分が向いているかどうかもわからない上に、向いていないと分かった後には、歳を取り過ぎていて、他のキャリアに移れないという、恐ろしいものだ。こうした事情は、以前ブログに書いた通りだ。

僕は高2のときの数学の偏差値が30台だったが、いろいろあって理論物理学の研究を続けるキャリアになり、後に、こうした灘や開成の中でも、勉強ができる人たちと合流した。東大の理3に行ったけど、やっぱり医者になりたくないから物理の研究に移ってきたような人にも何人か会った。僕は、大学4年生で物理の一流ジャーナルに論文を掲載でき、修士を飛び級して、当時バリバリ研究していたので、東大理3のドロップアウト組は僕より年上だったが、研究者としては僕がはるかに先輩だったので、いろいろアドバイスしていた。まあ、これはたまたま僕が知っているほんのわずかなサンプルに限る話なんだが、この人たち本当にセンス無いなぁ、論文がぜんぜん出せてなくて、この先どうなっちゃうんだろう、と人事ながら心配していたりした。

東大の理3に入る高校生の何がすごいかというと、18歳の時点で、かなり難しい東大入試の数学の問題を、たったの1時間で、8割ぐらい解いてしまうことなんだけど、じつはその能力は、大学以降では、あまり役に立たない。東大の理3よりもはるかに偏差値の低い、ふつうの私大の工学部の学生が、たとえば研究が好きで大学に入ってからもこつこつ勉強していて、大学3年生ぐらいになって、東大の数学の問題を解いたらどうなるだろうか? 制限時間内に、8割取れるか? 難しいだろう。

ふつうの工学部の学生じゃなくて、世界的な物理学の研究者や、ノーベル賞学者、たぶん、アインシュタインでも取れない。まあ、数ヶ月ぐらいは練習すれば、そうした研究者の何人かは取れると思うけれども。さらにいうと、アインシュタインも、練習せずに受けたら、たとえ算数だけでも、灘中学に合格できないことを、僕はすごく確信している。

じゃあ、ふつうの工学部で大学に入ってからも勉強している大学3年生が、東大の数学の問題を1日かけて、教科書を読みながら、ネット検索してもよくて、さらにコンピュータを使って計算してもいい、となったら満点が取れる。実際の研究では、そもそも解いたら価値がある問題を見つけることが一番大事なんだが、その問題の解き方自体も、こういうやり方のほうがはるかに重要になるので、受験秀才のアドバンテージはかなり削られてしまうのだ。

こうやって考えていくと、受験秀才というのは、日本の教育システムの中での勝者だと思われているが、僕は実際には、日本の教育システムの一番の犠牲者だと思っているのだ。そのことを、次に説明する。

灘や開成に行く子供こそ中卒で働いたほうがいい その1
灘や開成に行く子供こそ中卒で働いたほうがいい その2
灘や開成に行く子供こそ中卒で働いたほうがいい その3
灘や開成に行く子供こそ中卒で働いたほうがいい その4