
東京の下町出身で、そのためか、この街に何十年住んでいてもいまだに「江戸弁」で話す男性がいます。
この人、「ひ」と「し」の区別ができません。(指輪物語みたい)
なので、「5月5日は、こどものしだな」とか言います。おいおい、子供を殺すなよ。
その男性が、あわてて管理室にやってきました。
「ていへんだ ていへんだ!」と「銭形平次や暴れん坊将軍のオープニングシーン」みたいに叫んでいます。
「どうしたんですか?」
「ていへんだ!」
「だから、どうしたんですか?」
「なんだと、だから言ってるじゃねえか、ていへんだよ! ていへんだからていへんなんだ!」
「え?」
まあ、我々管理人は社会の底辺の職業ですけど、そんなに馬鹿にしないでも・・・・
などと頭が混乱しましたが、
よく聞いてみると、
「停電」でした。
「え? 停電?」
「そうだ、部屋の中の電気が突然消えたんだ! 管理会社は何をしてるんだ! 今時、停電なんて。しっかりしろ管理会社! こっちは管理費払ってるんだぞ! 馬鹿野郎 この野郎」
とビートたけしみたいに罵声を浴びせてきます。
「停電」となると一大事ですが、とりあえず、管理室はなんともありません。
まあ、でも、この人の住んでいる部屋と管理室は別系統ですから、そういうこともあるかもしれません。
「それで、今は、エレベーターに乗って降りてきたんですか?」
「あたぼうよ! 階段なんか使ってられるか!」
ってことは、その棟のエレベーターは動いているってこと。
まずは、その部屋に向かいますが、途中に出会った他住民に話を聞いても「停電? うちは大丈夫よ」と皆さん言います。
その部屋の左右両隣の住民にもインターホンで話を聞きますが、インターホンも問題なく作動しており、停電はしていません。
となると、冬場ということもあり、「エアコンと電気ストーブと電子レンジをいっしょに使用して、ブレーカーが落ちた」といったことかとブレーカーを調べますが、何も異常はありません。
ドアの上の「スマートメーター」も見てみますが、ちゃんと動いています。
「なんなんだろう? この部屋以外は全然停電してないし、この部屋も特に問題はないようだし・・・・」と腕を組んで悩みます。
「何やってんだ、お前、なんとかしろよ!」と、その住民は怒り続けます。
しょうがないので、その住民の部屋の中から、私の携帯を使用して(電気が止まっているので固定電話も使用できない)、電力会社に電話をして問い合わせしますが、最近の電話は、自動音声対応のため、なかなか、係員につながりません。
おまけに「現在、新型コロナ対策として・・・・・」といったメッセージまで加わったので、長い長い、なかなかオプレーターにまで到達できません。
7分くらいかかって、ようやく、生身の人間に変わりましたが、個人情報なんたらかんたらで、「代理の管理人」では、受け付けてもらえないらしく、でもって、本人に電話口を代わってもらい、その住民自らが話をしますが、(スピーカーフォンに切り替えたので会話内容は私も聞こえます) この人の江戸弁が相手には聞き取りにくいようで、お客様番号を言う際も、「7」を「ひち」とか発音するので、向こうは「8」と聞いてしまったり・・・・
情報を正しく伝えるだけで時間がかかります。
そして、ようやく、正しい顧客情報が伝わって、それでもって調査してもらうと・・・・・
「え〜っと、お客様、ここ半年ほど、電気料金が未納になってますね。先月督促状を送ったのに、それでも支払いがないので、今朝ほど、電気を止めました」
との返答。
ライフラインに関しては「人を殺してはいけない」ということで、以前は「1〜2ヶ月滞納しただけで停止していた」のが、最近は猶予期間が少し長くなったのですが、以前と違い、今はスマートメーターなので電力会社のスタッフが現地に行かなくても、今は、会社の事務所から遠隔操作で電気を止めることができるようになっています。
以前なら、電気会社の人間がマンションの中に入ってきましたから、管理人も「あそこの部屋の電気を止める気だな」というのがわかりましたが、遠隔操作では、管理人は何も知ることができません。ですから、本人も管理人も知らない間に突然電気が止まるわけでして。
それを、この人は「停電だ!」って思ったわけです。
しっかしまあ、半年間も滞納すれば、止まりますよね。
それに、滞納のことも往生際が悪く、
「毎月コンビニに行ってちゃんと払ってるぞ」
「いつ行きました?」
「え〜っと、去年の夏」
とか、アホな会話をしてました。
原因がわかったので、「あとは勝手にそっちでやってくれよ。俺は忙しいから帰るよ」と言いたかったのですが、彼としてはすぐに電気を回復したいわけで、最も早い、料金の支払い方法を聞こうとするのですが、これがまた、現代的でして、「スマートホンで・・・・・して」という方法になりまして。
この人、ガラケーしか持っていないので、スマホであれこれというのはできないわけで。
かと言って、昔ながらの、「振り込み用紙を送ってください」では、「一週間ほど時間がかかります」となり、「そんなに電気なしに待てないよ」となって、あたふた。
その後、あれこれ、話し込んでいて、「コンビニに行って、お客さま番号を機会に入力すると、なんたらかんたらできる方法がある」らしく、それで払うことにしたそうです。
あ〜 疲れたなあ。
スマートメーターって、管理人を精神的疲労に追い込んで、痩せさせる機械なのかもしれません。
<追伸>
普通、こういうことがあると、翌日とかに、「悪かったねえ。迷惑かけちゃって・・・」とかなんとか、缶コーヒーの一本でも持ってきて、管理人に詫びるもんだと思いますが・・・
今朝会った、その住民は、こっちが「おはようございます!」と挨拶しても、シカト。
謝罪ではなく、シカトですよ。
ひでえなあ〜

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