日ごろ私たちが使うアマゾンはオンライン通販サイト、マイクロソフトはパソコンの基本ソフト(OS)であるウィンドウズの印象が強い。しかし、この2社の現在の利益の源泉はいわゆるクラウドビジネスに負うところが大きい。「ジャックの豆の木」において、ジャックは豆の木を登り雲の上にある巨人の城にたどりつくが、いわばアマゾンはクラウドビジネスという雲の上に住む小売の巨人なのである。

クラウドとはFF7の主人公のことでなく、インターネット経由でコンピューティング、データベース、ストレージ、アプリケーションをはじめとした様々な IT リソースをオンデマンドで利用することができるサービスの総称である。クラウドを利用するメリットは多いが、たとえばデータセンターサーバーやシステムの構築、運用、保守、管理に対して、多大な労力や投資資金を費やす必要がないことがあげられる。イチから自社でやるのは大変だから、こうしたサービスを活用するわけだ。
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6/5付のWSJによると、アマゾンのクラウドビジネスであるAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の昨年の売上高は175億ドルだった。投資会社スタイフェル・ニコラウスの推計によれば、2位の マイクロソフト は昨年、クラウドインフラ事業で53億ドルの売上高を計上したという(3位はグーグル、4位はアリババ、WSJより)。

AWSのアクティブ顧客数は2015年時点ですでに100万件を超えており、日本ではKDDI、キヤノン、キリン、任天堂、花王、丸紅、住友化学、日本電産など名だたる企業が導入している。思えば、アマゾンが本格的な上昇に転じたのはAWSの業績の開示を始めた2014年からだった。リテール営業マン時代にもっともお世話になった外国株はなんといってもアマゾンだった。小売の巨人としての存在感はあまりに強いが、その小売業の大帝国を築き上げている莫大な投資の源泉はAWSが生み出す潤沢なキャッシュフローなのである。
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クラウドビジネスの業界のパイが拡大するなか、2位のITの雄マイクロソフトも追撃する。6/5付のBIJによると
マイクロソフトは株式交換によりGitHubを75億ドル(約8200億円)で買収する。リンクトイン、スカイプに次ぐ規模の大買収である。サティア・ナデラ氏が2014年にCEOに就任してから、50件以上のM&A(合併・買収)を実施し、積極攻勢を強めている。

今回の買収はマイクロソフトにとって、AWS(アマゾンウェブサービス)に対抗する強力な武器となる。GitHubは、開発者自らが手がけるソフトウェアプロジェクトを公開できるオンラインサービスだ。公開されたプロジェクト、具体的にはプログラムコードやデザインデータなどは、世界中の誰もがダウンロードでき、使用することができる。そして何よりも、マイクロソフトがGitHubを自社のクラウドサービス、Microsoft Azureに統合できれば、クラウドサービスをAWSと差別化できる。
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また、今回の買収はマイクロソフトの印象を変えるという附随的な効果もあろう。マイクロソフトはかつてオープンソースを敵視していた。なぜなら、自社開発した基本ソフト「ウィンドウズ」に顧客を囲い込むことで長年にわたる独占的な地位を維持してきたからである。GitHubは2400万人もの開発者が愛用しており、自社サービスにGitHubを組み込み利便性をより高めることで、開発者フレンドリーな姿勢を打ち出すというメッセージにもなりうる。

さて、上記2銘柄の業績・株価は極めて重要だ。というのも現在の相場はテクノロジーセクターが牽引役だからだ。6/4にアマゾンの時価総額は8000億ドルを突破し、今やアップルの約9400億ドルに次ぐ2位となっている。ナスダックは6/4に3月以来の史上最高値を更新したが、その牽引役はアマゾン、マイクロソフトに加え、アップル、ネットフリックスの史上最高値更新が原動力だ。また、S&P500種指数はいわゆるFAANG(フェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグルの親会社であるアルファベット)にマイクロソフトを加えた6銘柄が概ね20-25%を占めると言われている。つまり、米国の株式市場を6人の巨人たちが牽引しているのだ。
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さて、冒頭で言及した「ジャックと豆の木」の続きはこうだ。巨人が寝た後、ジャックは金の卵を産む鶏を奪って家に戻る。味をしめたジャックは後日豆の木を登り金と銀の入った袋を奪う。しかし、ハープを持っていこうとした時にハープが喋り出し巨人は起きてしまう。急いで地上に戻ったジャックは豆の木を斧で切り、追って来ていた巨人は落ちて死んでしまう。

クラウドビジネスは業界のパイが拡大し続けるうちはよいが、成長ビジネスの常としてシェア争いが激化し利益率が低下すれば、高株価を支える業績の伸びは鈍化する可能性がある。シンプルに考えれば、テクノロジーセクターの巨人たちがクラウドビジネスという雲の上で抗争を繰り広げた後に、そうした状況に陥るときが、ブル・マーケットの終焉なのもしれない。また、巨人たちのクラウドビジネスにとっての"ジャック"は誰で、"金の卵を産む鶏"とは何を意味するかについても考えを巡らせてみる必要もありそうだ。
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