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中小企業経営における、最近流行りのキーワードに「知的資産経営」という言葉があります。一方で、知財経営(知的財産経営)という、もう少し前から使われている言葉もあります。今回は、11月度の石塚弁理士の発表に触発されて、この二つのキーワードについて、事例も含めて少し考えてみたいと思います。
一つだけ、前もって言わせていただくとすれば、両社の経営における方法論・意義の違いにかかわらず、活用しようという経営者の意欲がなければ、いずれも単なるコストにしかならないということです。

知財経営と知的資産経営

知的財産経営(知財経営)は、競争力の源泉が技術にある場合に選択可能な経営戦略です。これに対して、知的資産経営は競争力の源泉を知財経営よりも広く、人材や技能、組織力、顧客、会社の成り立ちなどの、財務諸表にも現れない無形の資産に見出そうというものです。中小機構のリーフレットなどにおいては、右図のように表現されています。

知財経営としての代表格は特許権ですが、これは他者の参入を排除して、独占的な利益を上げることが本来の機能です。この機能を生かすためには、①権利行使がしやすい、強い権利を有する特許権を取得し、②一方で、権利行使が難しい製造技術については、ノウハウ(営業秘密)として保護するという戦略(オープンクローズ戦略)をとる必要があります(「中小企業の知財経営」企業診断(同友館)2012.1月号 木村貴司弁護士・弁理士 より)。

知財経営を導入することができる企業は、競争力の源泉が技術力にあることが前提になります。市場調査や需要予測などのビジネスの側面はもとより、競合会社や市場的な技術動向などの調査を怠らないことも大切です。何よりも、このような調査の上で、自らのリソースを活用して知的財産を創造・保護、そして活用していくことが求められます。

知的資産経営の在り方

有力な知的財産権を持つ企業にとっては、知的資産経営の主力は知的財産権ということになると思います。一方で、知的財産権には縁がない企業の場合でも、当社がお客様から選ばれている理由を財務諸表には現れない経営資産、つまり知的経営資産に見い出したうえで、それを積極的に活用・強化することで、業績のいっそうの改善につなげることが可能になるというものです。

つまり、登録された権利だけでなく、長年の失敗や成功、努力や偶然の積み重ねたものを知的な資産であると定義したわけです。これを「知的資産経営」と命名したのは、その価値と経営上の活用方向を的確に表現しており、意外や画期的な発明ではないでしょうか。

ちなみに、知的資産は、目に見えない資産とは言いましたが、自分だけが納得しているだけでは意味がありません。関係者と共有できるような「見える化」が必須です。これには、「知的資産経営報告書」の形で整理することが最も簡単かつ有効ではないかと思います。知的資産経営報告書の形であれば、銀行等に当社への理解を深めてもらう上でも有効なツールになります。

伝統工芸の「知的資産経営報告書」

特許などの知的財産権とは縁遠い産業と思われる、伝統産業について、その優位性について「知的資産経営報告書」にまとめた石川県の事例を紹介するホームページがあります(こちら)。その中で、私の故郷である輪島市の伝統工芸品である「輪島塗」の知的経営資産報告書(彦十蒔絵)の概要を紹介します。(こちら
彦十蒔絵の経営理念を「人の価値観や生き様に共鳴することで、その人に「しあわせ」を感じていただける作品を作り出す」としています。この理念を実現するために、伝統的な技法にとらわれず、最適な技法を時代や地域を越えて見いだし、テーマとなる作品を職人を束ねて作り上げ、国内外のどこかにいる、自分の作品に共感してくれる一人のお客様にアプローチしようという、当社の理念を丁寧に説明しています。

伝統工芸としての輪島塗の沿革、代表者である若宮氏が輪島塗にとらわれない技法研究に取り組む理由、そしてそれを広めていくために作り上げた仕組みを「構造資産」「人的資産」「関係資産」として分析しています。

そして、当社の挑戦として、本物の漆芸を自分と共鳴する人に届けるために、自らの表現力と精神レベルを高めることを行っているとしています。

言いたいことは山のようにあるけれど、当社のどこが最もアピールすべきところなのか、多くの人に共感してもらい、その共感をビジネスの優位性にしようというなら、このような「振り返り」と「展望」を整理しておく理由がはっきりするのではないでしょうか。

まとめ

知的資産経営そのものは、定義によれば知財経営の概念を含むものと紹介しました。しかし、実際には知財経営が他社との競争の中での製品そのものの優位性を得ようとするのに対し、知的資産経営は、自社の経営資源を整理・強化することで、銀行融資や取引、人材採用において優位にことを運ぶためのツールということで、お互いに似て非なるものと考えても良いと思います。

もちろん、知的財産を生むためのバックヤード・プロセスには知的資産がありますし、無形の資産が製品やサービスの品質や機能の差異化要因になることも当然としてあり得ますが、無理やり包含関係のように関係づけて考える必要もないように思います。

持てる者は知財経営で、技術的優位性を持たない者でも、だれもが市場における地位を確立している理由を分析・再定義し、それを見える形にした知的資産経営で、結局「みんなが頑張る」世界を作ることに、大きな意義があるのだと思います。

(2017.11.15 山下記)