8月2日、東京医科大学の一般入試で、受験生側に説明なしで女子受験者らに不利な得点操作が行われていた事をきっかけにして、医師の労働環境や外科医の減少という医療現場の問題が一般の人々の耳に入るようになりました。今日は、この報道を、企業経営における「透明性のあり方」という切り口で取り上げてみたいと思います。

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外科医(および整形外科医)の割合は、一貫して医師数の伸びに比べて低率で推移していて、とうとう平成16年をピークに、絶対数が減少に転じたのだそうです(NPO 日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会の設立趣旨書より)

外科医が減少する原因は、なにも女性医師が増えているだけではないと思います。医療ミスや手術の結果に問われる刑事訴訟リスクや仕事の負担・責任と報酬のアンバランスなども、大きな要因であると指摘する方もいます(「外科医がいなくなる?」中井修 2011年12月)。そういう諸々のことが原因で外科医になる医師が減っているのでしょう。

前もって知らせず、一方的に受験生を足切りすることは、法的にも倫理的にも問題はありそうだと思いつつも、こういったことをオープンに議論しにくい環境にも問題はありそうです。

さて、本題の「透明性」という切り口に戻りましょう。

ざっと検索しただけでも、前記したような2011年の雑誌投稿が見つかり、問題の本質がわかるくらいですから、外科医が少なくなっているという問題は、公に情報発信もされているわけです。つまり、医療関係者間ではもう周知の事実だったのだと推察します。そうすると、こんな大切な問題が、これまでの数年間、一般的に議論されていなかったのは何故でしょうか?

医療関係者としてみれば、内々では議論していたものの、一般社会に対する、しかるべきアプローチが無かったと考えれば合点が行くように思います。大学としては、何らかの手を早々に打つ必要が出てきたものの、説明が「難しいから」「誤解されそうだから」「議論を始めても方向性が見えるのには時間がかかる」などという意識から、話さないで実行するという態度に決めたということはないでしょうか。つまり、説明がしにくい、面倒くさいことは隠したいという心理です。この状態が長く続くと、もう言い出しにくいことが山積状態になります。そして、いつか思わぬ形で衆目を集めることになり、ドカンと衝撃的に取り上げられて炎上するというパターンです。

ここまで話を一般化してみると、企業経営においてもありそうな話題になってきました。

もう一つ、透明性の問題とは、外側にいる人たちが「興味を持たない」ことでも起きる要素も否定できません。外科医減少の問題は先にも触れたように、公に発言・発信されていることも多いので、興味を持つといくらでも情報は見つかります。ところが、興味を持たないと、そうした発言には触れることなく、今回の報道のように、センセーショナルな事件として取り上げられて、初めて気づいたときには、医学界や医科大学の「隠蔽・不正体質」というとらえ方になってしまうわけです。

企業経営における情報の発信も、目的とターゲットを決めて発信しないと、相手には届かないとはよく言われます。今回の事例を反面教師とすると、私たちは、何か問題解決や課題対応を外部に働きかけるときは、面倒くさいから独断で進めるのではなく、伝えるポイントを整理して、簡潔かつ丁寧な情報を前提に、透明性をもってターゲットに届ける戦略的アプローチが大切です。

一方で、少なくとも、積極的に情報を発信しなかったために気づかれなかったために、その後の何かの折に「隠ぺい」したなどとは、くれぐれも言われたくないものです。情報発信と発信情報の透明性は組織にとっての戦略的課題です。

(2018.8.7 山下記)