事業承継と地域創生が日本の産業基盤を守るための要素として、その重要性が注目されています。
そんな中、沈む地方の活性化に対する一つの挑戦として、元サッカー日本代表監督で現在FC今治のオーナーである岡田武史氏の記事(HUFFPOST)目が留まりました。今回は、地方創生・地域活性化について考えてみたいと思います。

元前日本代表監督とFC今治

publicdomainq-0006043bbfイメージ画像(FC今治の「ありがとうサービス.夢スタジアム」ではありません)
岡田氏については、以前このブログでも「『守破離』自由への道」 として、いざというときにチーム力を発揮するための「規律の中の自由」という考え方について紹介しました。今回は、地域の活性化の推進にも、これに似た「規律」のようなものが必要なのではないかと思い、岡田氏の動向や発言からヒントを探ろうと思います。

岡田氏は、サッカー指導者として日本代表などのトップチームを率いるための資格である、S級ライセンスを返上しています。つまり、「もうサッカー監督はやらない」宣言をしているということです。現在は、FC今治(愛媛県今治市)のオーナーとして、クラブを率いています。

FC今治はJFLというアマチュアリーグに所属しており、プロリーグであるJ3リーグを目指しています。その先にはJ2があり、さらにそのまた先にあるのがJ1リーグです。道のりは険しいですが、これは地方の街が活気を取り戻し、多くの若者が地元で仕事を得て豊かな家庭を持てるようになるという、地方の街が目指している道のりともダブって見えます。

今治におけるサッカーチームのあり方への気づき

岡田氏の率いるFC今治は、はじめから今治市民に歓迎されたわけではなかったようです。当初は、多くても2,000人の観客がせいぜいだったそうです。
「なかなか地域のみなさんに受け入れてもらえませんでしたね。ちょうど今治に乗り込んで2年目を迎えていた頃で、焦りもありました。サポーターが増えていないという課題もあった。夜遅くまで残って皆で話してて。どうすれば地域の皆さんに認めてもらえるのか考えたけど、まったく答えは分かりませんでした」
そんな時、岡田氏は冷静に自分たちことを見てふと気づいたと言います。
俺たち、ここへ来て「FC今治」の仲間と働いて、「FC今治」の仲間と飯食って、「FC今治」の仲間だけで会議して、自分たちのことしか見てなかったんですよ。俺たちが町に出ていって、皆さんに馴染んでいかなければいけないんじゃないかって。
このことに気づくと、岡田氏は「市内で友達を5人つくること」を社員・選手全員の目標に掲げました。このような自分達から今治の人たちに馴染む努力を通して、2017年9月にはスタジアムも完成、初めてのホーム戦には定員を超える5000人超の観客が押し寄せるようになりました。雨の日でも3,000人、台風の日でも2,000人超の人がスタジアムに足を運ぶようになったということです。

大きな渦の広がりを感じさせるスタジアム・ビジョン

スタジアム・ビジョンは、「そこにいる全ての人が、心震える感動、心躍るワクワク感、心温まる絆を感じられるスタジアム」です。勝っても負けても、フットボールパークに集まることで、何かを感じ取れるような場所を作ることが、この構想にははっきりと表れています。

更に、岡田氏は「スタジアムを、地域のコミュニティハブにする」ことを考えています。これは、単なるスローガンではない、ビジョンの具現化を意味しています。岡田氏が考える、コミュニティハブの具体的な形が複合型スマートスタジアム構想です。
「今、掲げているのが "複合型スマートスタジアム構想" です。スタジアムに 国内トップクラスのトレーニング設備や医療機関、ホテルを併設する。いろんなスポーツのトップアスリートがトレーニングや治療、リハビリできるようになる。スタジアムではコンサートやコンベンション、イベントもやる。日本全国、海外からも来たお客さんを、お年寄りの家にホームステイさせたり。そうしたら、そこでおじいちゃんおばあちゃんの料理教室がはじまったりするかもしれない」
僕はね、自分の町を誇りに思えるような場所を作りたい。だから、そこにみなさんがお金を回してくれるような社会を作る。なぜなら、自分の子供や孫たちに良い社会を残して行くことが使命だと思ってるから。僕らは、目に見えないモノを売ってるんですよ、感動とか夢とかね」

地域活性化の核と規律

岡田氏の取組みが、成功モデルとして結果を出すのはもう少し先ですが、このような力強い渦の核を求心力にした地域活性化モデルは、掛け声だけの地域活性化に比べて、現実味を大いに感じます。オタクが集う街「中野」や、かつての電気街で今やメイド喫茶やアイドルの街などの新文化を生みだす秋葉原などは、このモデルの代表ではないでしょうか。

このモデルが成功するためのKFS(Key for success: 成功の鍵)は、渦の核、つまり中心となる企業や団体のオープン性と献身性、更に、その小さな成功の渦を乱さない、中心の渦に同調して周辺に広がる人や企業の同調性です。ここに、地方活性化における規律の一端が見えてくるのではないでしょうか。

地域活性化モデルにおいては、競合が存在せず、求心力を強め合える点で、スポーツを渦の種にすることは理にかなっていると、改めて頷けるものがあります。既存の事業者が既存の事業で渦を起こそうとすると、競合の存在や既得権の問題で、その渦を弱めようとする力が発生することは容易に想像できます。スポーツやエンタメなど、業種・業態を超えて、また企業や消費者それぞれの関与の仕方で支援を呼び込めるものは、ビジョン次第で、大きな求心力になるのではないでしょうか。

スポーツによる地域活性化の可能性

J.LEAGUE.jpのホームページによると、Jクラブの原点は、ドイツにあるとしています。ドイツではどこの街にもスポーツクラブがあり、老若男女がそれぞれのレベルに応じて好きなスポーツを楽しみ、地域における人々の交流の拠点になっていると言います。J.LEAGUEは「地域とスポーツ」を一つの理念にしているのですが、これ自体もJ.LEAGUE創設が1993年ですから、25年を経た現在を見ると、大きな渦になりつつあるように思います。いわば、「ビジョンを持った規律」の下での繁栄です。

日本では戦後、「学校とスポーツ」の上位に「企業とスポーツ」という縦の流れが固い仕組みとして出来上がりましたが、ここに来て徐々に変化が見えはじめました。岡田氏のモデルは、地域の交流と文化を越えて、地域の再生・活性化を目指すモデルとして注目していきたいと思います。また、岡田氏の「規律の中の自由モデル」が開花して、チームの成績に繋がり、J3リーグへの昇格がかなうことを期待したいものです。(2018.12.29)