先日、インターネットの登録サイトから情報提供を受けることがあり、守秘契約をクラウドサービスで締結することになりました。これをきっかけにして「契約の最前線」の一端に触れることができました。そこで、今後増えてくるであろう「電子契約」について、簡単に整理してみましたのでご紹介します。

電子契約とは

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電子契約とは、電子ファイルをインターネット上で交換して電子署名を施すことで契約を締結し、企業のサーバーやクラウドストレージなどに電子データを保管しておく契約方式の事です。

2000年以降、「電子署名法」や「電子帳簿保存法」といった電子契約に関する法的環境が整備され、電子署名やクラウドストレージ等の技術的開発も進んでおり、電子契約を導入しやすい環境になっています。これによって、日本の商慣習において当たり前に行われてきた「紙と印鑑」による契約締結だけでなく、電子契約による契約締結も徐々に増加してきています。

書面契約と電子契約の比較
まずは、全体像把握ということで、書面契約と電子契約とを表て比較してみます。
分類 書面契約 電子契約
書類媒体 紙への印刷 電子データ
署名方法 記名押印、署名 電子署名
印紙税 契約内容により印紙 税がかかる 印紙税は不要
締結日時の証明 日付記入、確定日付 の取得 認定タイムスタンプ
相互確認 原本の郵送、持参に よる受け渡し インターネット上で の電子データによる受け渡し
保管方法 倉庫やキャビネット による原本の物理的な保管 自社内のサーバーや 外部のデータセンターによる電子的な保管

出典: ゼロから学ぶ電子契約の基礎<https://www.cloudsign.jp/media/20170125-basics-of-e-contract-01/>


電子署名とは

書面を用いた従来の契約では、押印した印影や手書きの署名を施すことによって、その紙に書いた内容が本人の意思であることを証明できるようにします。通常「記名+捺印」または「署名」ですが、稀に「署名+捺印」を求められることもあります。いずれにしても、一般に印鑑が本人だけが保有しているものであることが推定されること、また手書きの署名であれば筆跡鑑定で本人が推定されることを前提とした仕組みです。この仕組みをより確実なものにするために、実印というものもあるわけです。

一方、電子ファイルを用いる電子契約では、この伝統的な本人意思でなされたことを推定することを、印章の代わりに電子署名で行うことになります(電子署名法)。これが、電子契約の大切な要素の一つになります。

デジタル的な印影や署名を画像として貼り付けることはできますが、デジタル画像はコピーが容易であるため、本人の意思で署名(捺印)したものか、そのファイルが勝手に手を加えたものでないことを証明することができません。

現在、これを証明できるようにする手法として用いられているのが、コンピュータの暗号技術を用いた公開鍵暗号システムです。公開鍵暗号システムについての詳細は割愛しますが、要は、後述する電子署名法の要件を満たした電子署名を実現する、国の認証を受けた「認証事業者」が提供するサービスの事です。印影が本人または当該会社のものかどうかは、自治体または法務局が「印鑑登録証明」することによって行いますが、電子署名では民間の認証機関がこれに代わります。

電子契約に関連する法律

電子署名法
2000年に施行された電子署名法により、本人による電子署名を施した電子ファイル(電磁的記録)についての法的効果が定められました(電子署名法第3条)。

電子署名法第三条は、「電磁的記録(電子文書等)は、本人による一定の電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する」という内容になっています。

ここで言う「一定の電子署名」とは、以下の要件を満たす電子署名を付与された電子ファイルの事を言い(電子署名法第2条)ます。

電子文書が署名者本人により作成されていることが証明できること
署名された時点から電子文書が改ざんされていないことが証明できること

以上により、書面に押印または署名された契約書に同等の法的効力が生じることとなります。

電子帳簿保存法
電子署名法では、税法上、契約書、注文書、領収書、見積書等の取引情報に係る書面は、7年間保存する義務があります(法人税法施行規則59条ほか)が、これを電子的に行うためには、電子帳簿保存法に適合した上で、税務署町の承認を受ける必要があります(下記電子取引のケースを除)。

電子データとしての保存にも、以下のようなケース分けができます。

パソコンで作成したものを紙などで発行した場合のデータを保存するケース
取引をペーパーレスで行う電子取引のケース
紙で受け取った書類をスキャナーやカメラで撮影して保存するケース

電子帳簿保存法では、これらのそれぞれのケースに対して、「真実性の確保」と「可視性の確保」を求めています。

保存方法としては、電磁的記録による保存とスキャナ保存がありますが、スキャナ保存が認められるのは、取引関係書類(紙で受け取った書類)のみになります。

電子契約のように契約書を電子データで保存する場合も、同様の要件を満たすことで、紙の契約書等の原本と同等に扱われ、長期保存にかかる負担が解消できます(電子帳簿保存法10条)。

電子契約の導入メリットとデメリット

電子契約を導入することによって、企業はその特徴を利用して、ペーパーレス化のメリットとして、単なる紙代や印刷代の節約に加えて、契約文書の押印に掛かる文書往復のための事務手数料なども享受できます。また、電子的な検索機能の利用などによる、契約管理コストの削減も多いメリットと言えます。

更に、何よりも大きいのは、当該文書が税法上の課税文書に当たる場合は、収入印紙代の節約が可能になることがあります。国税庁は課税文書を「紙の原本」と定義しています。したがって、契約書の電子データはもちろん、電子データのコピー(写し)も課税対象文書に当たらないため印紙代はかかりません。

一方デメリットとしては、電子・ネットワーク手段の利用における、サイバー攻撃などのセキュリティ面、およびそれに掛かるコストの面などはリスク要因です。必ずしもデメリットというわけではありませんが、その費用対効果次第という側面は否定できません。

また、一定要件を満たせば、書面交付において電子化が可能な下請法のような例も含め、多くの契約において電子契約が利用可能となっているようですが、法律上電子化が認められていない、契約類型もある様ですので、この点は頭に入れておく必要があります。
  • 定期借地契約(借地借家法22条)
  • 定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項)
  • 投資信託契約の約款(投資信託及び投資法人に関する法律5条)
  • 訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引における書面交付義務(特定商品取引法4条etc)
更に、契約というからには、相手がいるわけですが、この相手が電子契約に同意しない限り、紙の契約は残ることになります。こちらはこちらで進める必要がありますので、コスト・工数の節約にも限度があります。

以上電子契約について、現状を共有させていただきました。
色々問題はあるにしても、電子契約はやってみると便利で面倒さは、印紙の貼付を含む、紙の契約書のやり取りを考えると、極めてシンプルで事務処理なハードルはかなり低くなります。

但し、契約内容そのものの理解と交渉においては、何ら違いはありませんので、こちらの方は依然としてしっかりやる必要があります。この契約内容の検討については、AI化が進んでいるという情報もありますので、こちらについても今後調査してみようと思います。(2019.1.4)