刑務所の中の生活。 in 盛岡少年刑務所

自分が過ごした盛岡少年刑務所での暮らし、 そして、刑務所とは一体なんなのか、 捕まった時から今日までを書いたノンフィクションブログです。

落書き vol,79

足取りは重かった。

何が何だか分からなかったが、警備隊の言われるままに処遇部まで歩いた。

歩いている途中、警備隊の親父が何かしたのかと聞いてきたが、
何にもしてないと答えると、親父も苦笑いを浮かべていた。


処遇部に着くと、取調室に入れられた。


冷静に考えてみたが、何で連行されたのか分からなかった。


1分1分がすごく長く感じた。



どれくらい経っただろうか。



取調室の扉が開き、主任が入ってきた。


主任の手には官本が握られていた。


あるページを開き、僕に見せてきた。


そのページには落書きがしてあった。



「これ、おまえが書いたのか?」


主任が聞いてきた。


記憶にないので、書いていないと答えた。



主任がもう一度同じことを聞いてきたが、僕も同じように答えた。


落書きなんて注意だけで終わるんだから認めろと言われた。


自分もそうだろうと思いながらも、やっていないことをやったと言えるほど、心が出来てはいなかった。


それから同じようなやり取りが何度続いただろうか。


主任はちょっと待ってろと言い残し、部屋を出て行った。


僕はなんてくだらない件で連行されたんだと恥ずかしい気持ちになった。


少しして、部屋のドアが開いた。


主任が口を開く。


「夜勤の先生が、おまえが落書きするのを見ていたと言っている。」


そう言われた。



一気に頭に血が上った。


本当に書いていないのだ。


書いていないものを見たと言われている。



心から腹が立った。



僕も熱くなり、筆跡鑑定でもなんでもしてくれと言った。


くだらないやり取りを何度か繰り返した後、主任が言った。


「とりあえず、取り調べにするから。」



一瞬、固まった。



当時12月の半ばくらいだったのだ。


今取り調べになれば3週間くらいはかかる。


正月、取り調べ房で生活することになるのだ。


刑務所での正月と言えば、1年で一番娑婆に近づける瞬間だ。


取調房にいたら、テレビすら観られない。


最悪の嫌がらせだった。


けれど、いまさらやっていないことをやったとは言えない。


刑務所の決まりだから、どうあがいたって決定は覆らない。


知ってはいたが、文句を言わずにはいられなかった。


刑務官が嘘を言うとは思えない。


それが主任の答えだった。


じゃあ、刑務官が嘘をついてたらどうするんだ。


僕が言うと、

それを調べるために取り調べにするんだ。


もっともらしい言葉しか返ってこなかった。



それでも引き下がらず騒いでいると警備隊が部屋に入ってきた。



その瞬間、諦めに似た気持ちが僕の心には漂った。




次回へ続く・・・・・

パンチョ vol,78

翌日、彼は荷物をまとめ独居に移って行った。

その後ろ姿を見て、やりきれない気持ちになっていた。


特に取り調べになることもなく、親父からは何も言われなかったが、

当然、風当たりはきつくなっていった。


次に何かすれば、どんなことでも懲罰にしてやる。


親父の顔にはそんな決意が感じられた。



ただ、雑居の方は平和になった。


一番古かった人も満期釈放で釈前に上がり、

みんな和気あいあいと生活できるようになっていた。


これはこれで良かったのかな。


1か月以上が経ちそう思い始めた時だった。



些細な事だった。



刑務所の余暇時間は暇を持て余す。


本を読むか勉強するか将棋や囲碁をやるか。


それくらいしか出来ることがないのだ。


人の入れ替わりが激しければそんなに退屈にはならないが、

同じメンツで何カ月も過ごしていると暇になるのだ。


当時、自分の部屋では賭博が流行っていた。



将棋だったり囲碁だったりオセロだったり、

変わったものでは一発ギャグを言って笑ったら負けという、

最近大みそかでやっている番組のようなこともしていた。



賭博といってもお金を賭けれる訳ではないが、
チリ紙だったり、石鹸だったり、甘シャリだったり、飯だったり、本だったり、

ありとあらゆるものが賭けの対象になっていた。


たかがチリ紙といっても、刑務所では月に買える数が決まっているので、
大負けをするととんでもないことになる。


トイレに行けない事態に陥る可能性もあるのだ。

負けれないという思いが賭けを面白くもするので、
娑婆でお金をかけている感覚に似てるのかもしれない。



大人の男が何人も集まって賭博が始まらないわけもなかった。



その日も当然のように賭博をみんなでやっていた。


ただみんなで集まったりしていると親父に怪しまれるので、
自分は官本を読んでいるフリをしながらほかの人の勝負を見ていた。


その時、突然窓が開いた。

何だと思って見てみると、パンチョと呼ばれる夜勤の親父が見ていた。



この親父は自分の天敵なのだ。


なぜ嫌われているかは分からないが、

一度怒られた時、笑ってしまったことがあった。

多分そのことを根に持っているのだろう。

その日から何かと自分のアラを探し、注意してくるのだ。



自分はまさか賭博がバレたのかと思い、ハラハラしながらも官本を読んでいるフリをしていた。



さっきまで勝負をしていた2人も別の事をしているフリをしてとぼけている。


さっさと行けよと思いながら、楽しくもない官本を読んでいるフリをしていると、パンチョが口を開いた。


「ちょっとその官本見せろ。」



突然、何を言い出すのかと思い、何でですかと聞くと、いいから見せろと凄んできた。


気に食わなかったが、逆らってもしょうがないので官本を渡すとパンチョがページをペラペラめくり始めた。

その間、約10秒。


無言の沈黙の後、パンチョが無線機を取り出し口を開いた。



「刑務盛岡、刑務盛岡、一名連行!!」


僕は全く意味がわからないまま固まっていた。




次回へ続く・・・・・

変われない自分 vol,77

特に何も考えてなかった。

どう話そうとかどうしたいとか、そんなことはどうでもよかった。


ただ、腹が立っていた。

無性に腹が立っていた。


順序も話し方も部屋の決まりでさえも、どうでもよかった。

とにかく、自分が思っていることを言いたかった。


舎房に帰ってから、すぐに相手の所に行き話をはじめた。


「今すぐ報知機下ろしてこの工場から出ていくか、独居に行くか選んでください。」


それだけ言い、自分の席に戻った。


冷たい言い方かもしれなかったが、仕方なかった。
相手も明日の朝荷物をまとめ独居に行くと言っていた。

最悪、強要で懲罰になるかもしれなかったが、
それはそれでいいと思った。



頭に浮かぶのは娑婆で待っていてくれている人の事だった。


刑務所に落ちる時、無事故で過ごし仮釈で出てくるとあれだけ誓ったはずなのに、
思い通りにいかない懲役生活に、

自分自身に、

なぜかすごく腹が立った。


原因はきっと自分にもあって、

相手にしなければ済んでいた話だった。


見栄を、自分を、抑えれるように過ごそうとずっと思っていた。


捕まった理由も、ここにいる理由も、
すべては自分の見栄のせいだったから。



背伸びをして、無理をして、
引けなくなって、


娑婆で生活できなくなったのに、


何も変わってない、


何も変われてない自分に、



心から腹が立った。





次回へ続く・・・・・
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