2015年05月30日
多礼の石鎚神社(薬師堂):追記(宗像市多禮)
前回「岩ケ鼻(宗像市多禮)」からつづく。
本稿は、以前書いた「多礼の石鎚神社(1)」(2010.5.13)、「多礼の石鎚神社(2)」(2010.5.14)と一部重複するが、その追記とする。
(1)「石鎚神社 ichizuchi shine ←」と記した行政「公式表示板」(緑色プレート・ポール)を多禮(たれ)地区で2枚見かけた。
1枚は、多礼橋口T字路で、ここより先「1.0km」。もう1枚は、その先の「岩が鼻」に突き当たったところにあり、「0.9Km」と付記してある。
この先には立っていないが、別に小標石が1本ある(下記)。
多禮に「石鎚神社」の「公式表示板」があるのは、「石鎚神社」が有名でお参りが多いということなのだろうか。
なお、籏立大明神の由緒のある多禮産神「指來神社」の表示板はない。
確かに多禮地区で、単に「近くに神社がありますか」と尋ねると、決まって「石鎚神社」を教えてくれるのでそれほど有名なのだろう。ただし、私は、ここでほかの参拝者と出あったことがないので、いつもタイミングがあってないのだろう。
(2) この「多礼 石鎚神社」は、明治12年(1879)に四国(愛媛県西条市)の石鎚神社(以下「本宮」と書く)から「石鎚大神」の御神霊を勧請して造営した神社である。(※注:文中「多礼」と「多禮」の字を使い分ける)。
以降、本宮参詣「講」が形成され、講大先達とともに本宮に団参するときは、県内外から多くの教信徒・行者、一般参詣者等が多礼の当社を参拝して出発する。
余談になるが、かつての(故)師僧も本講に参加して「石鎚山」に登っていたが、私は同行したことはない。このとき、師僧が同行する人たちに対してきまって言っていた次の注意事項が未だに脳裏に残っている。
「どこの誰とも分からない人たちと一緒に同行同宿(船では雑魚寝)するのですから、特に懐中物を取られないように用心してください。信仰する人は心がきれいなので人の物を盗むような人はいない、などと思わないこと。心が汚いから信仰するのですから、盗み癖の取れない人も交じっているかもしれないと心得、他人に悪業を積ませないためにも自分の大事なものは身に着けて自分で守るように心がけておいてください」。言いにくいことでも歯に衣を被せずにはっきりという修験道大先達だった。
(3) 上記岩ケ鼻の下で見た表示板の「0.9Km」だが、本当に岩ケ鼻から0.9Kmしかないのかと思う。山道を歩いて上ると意外と遠く感じるからだ。
「岩が鼻」の下に付いている狭い道を左に回り、釣川右岸築堤上道路の里道が自転車道の右下に下がった部分にある三叉路を右(農道)に曲がる。この角地の足元に「石鎚神社参道→」と刻した「小石標」がある。
この先は、田畑の間を通る農道(非舗装)で、田畑が途切れる所(山麓)の左側に三本桜の広場がある。ここが参拝者駐車場になっているので、ここまでは車でも行けるが、岩が鼻からの道幅は狭く、車の離合は難しい。
(4) この先は、カーブの多い狭い凸凹の上り道となる。
上記「多礼の石鎚神社(1)」に、この途中で「イノシシの罠(鉄の檻)」を見たと書いていたが、現在、この罠はないので、イノシシは出なくなったのだろう。
なお、イノシシに出あったら大きな黒蝙蝠傘をイノシシに向けてパッと開くとよいと聞いた。今どきの山に入るとき、黒蝙蝠傘は必需品となるのか。
また、山道に「大きな榊を囲む荒垣」(しめ縄)がある、と書いていたが、最近は、そのしめ縄も見かけない。
(5) 多礼石鎚神社が鎮座する山(低丘陵の一角)を「極楽寺山」(弥勒山・石鎚山)と言うが、低丘陵といえども、杉、檜ほかの大樹林や孟宗竹林等が全山を覆い山中は暗く山深い感じがする。
山道の道幅が急に倍ほどに広くなる場所の左側に「石鎚大神の石鳥居」や「石鎚神社碑」「石段建設碑」、参詣者用竹杖等がある。(※画像)
因みに、この前から先に続いている山道は、石鎚神社・拝殿薬師堂に直登する旧参道口石段前に至る。
さらにそれより先は、道幅が極端に狭くなり、やがて竹林道を抜けて多礼ダム駐車場前に出ることができるが、参道整備がされていないときには蜘蛛の巣を払いながら進む竹藪漕ぎとなるので要注意。
(6)「石鎚大神の石鳥居」は、平成11年(1999)11月にその後ろの「石段」(22段)と合わせて建設された。
この建設は「平成天皇即位十年記念事業」として実施されたもので、当時の多礼区総代と先達元老大顧問が代表となって参詣者等から募った浄財が、その建設費用に充てられた。多礼区総代が代表となっているが、既に石鎚神社が当地の産神的な位置付けになっていたということなのだろう。
だから、多禮地区に立っている上記「公式表示板」も、多禮産神の「指來神社」ではなく、「石鎚神社」となっているのかもしれない。
(7) この鳥居から上が極楽寺山(弥勒山)の多礼石鎚神社境内で、この鳥居と石段道の完成により、ここが正式参道となり、石段の上から右寄りに緩やかに上る参道(舗装)の途中にはトイレも作られている。
山頂には石鎚神社(社祠)、薬師堂(拝殿)、手洗舎、役行者石像、弘法大師修行石像、十三仏石仏(十八仏あり)などがある。
周りに背丈の高い樹林が繁り、遠望はできず、昼なお暗き、といった感じである。
また「手洗舎」はあるが、別に水道や湧水があるわけではなく、日々、信者が山下から運んできた水をバケツやタライ、ポリタンクなどに一時的に貯水して奉祀や手洗水、清掃奉仕(トイレ含む)等に使用しているので、この一件を見ても、当地が霊験ある霊地であることが伺えそう。
(8) 当地を「極楽寺山(弥勒山)」と記したが、当地にかつて「極楽寺」という寺があったことに由来し、「弥勒菩薩」がおられることから「弥勒山」とも呼ばれた。今は「石鎚神社(石鎚大神)」が鎮座するので多礼の「石鎚山」とも呼ばれている。
筑前國續風土記拾遺に「彌勒佛 :極楽寺山といふ所に在。むかしの寺跡のよしいへり。」とある。
現在「弥勒菩薩」(彌勒佛石仏)は、大正3年(1914)設置の｢十三仏｣のなかに合祀されているが、旧安置石祠には「寛政年間再建」(1789~1801)の文字が刻まれていたという。
(9)「極楽寺」の名は、おそらく極楽浄土を説く浄土教から採ったものと思うが、その極楽寺に未来仏「弥勒菩薩」がおられたのであれば、当地は亡くなった人の霊魂が極楽浄土に上り、やがて未来仏に導かれ転生する霊山であったということなのか。
明治時代、多禮の人たちは、当地が先祖の霊魂の未来転生の故地だと知っていたが、明治維新の神仏分離、修験道廃止で霊魂を扱うことができなくなり、明治12年(1879)に対抗策として、この霊地に修験系の「石鎚大神」を勧請し、同41年(1908)、この山の樹林(霊木)で拝殿を建設し、薬師の森の薬師如来を祀り、大正3年(1914)境内に十三仏を設置し密かに神仏混合の霊地としたのだろうか。
(10) 昭和37年(1962)再建の多礼石鎚神社神殿(社祠)の前に建っている「拝殿」(木造瓦葺)は、合わせて「宗像四国東部霊場第23番札所(多礼石鎚神社境内)薬師堂(本尊薬師如来)」となっているので、完全に神仏習合の霊場である。
拝殿薬師堂のサッシ戸を開けると、堂内に充満している臭い線香の匂いが一気に溢れ出す。この臭いを嗅ぐと咳き込み息がつまりそうになる。
ここで焚いている線香の匂いはどうも苦手で、こんなとき、自らを行者とは言ってもサラブレッド的すぎるのか、と思うことがある。堂前で戸を開けずに、手持ちの香炉に香りのよい線香を立てて合掌する。「オンコロコロセンダリマトウギソワカ」。
因みに「四国霊場第23番札所」は「医王山無量寿院薬王寺・本尊厄除薬師如来(高野山真言宗)」(徳島県海部郡美波町奥河内寺前285-1)である。
(11) なお、「極楽寺」は、鎮国寺(吉田)の六子院(実相院、花藏院、妙観院、円塔院、山之坊、般若院)の一「(津瀬村)実相院」と係わる寺だったのではないかとの考えもあるそうだ。鎮国寺六子院は、永禄10年(1567)10月25日豊後大友軍の宗像乱入時の兵火ですべて焼失したという。津瀬村は、後の多禮村(現宗像市多禮)で、実相院は瀧ノ口辺りにあったと推定されている。
来た道を下り、上記「石鎚神社参道」の小石標がある三つ角を右折、次の参拝地「多禮瀧の口観音堂」を目指す。なお、この観音堂は、昔は薬師堂で、ここにある瀑布(瀧)は多礼石鎚神社(石鎚山修験)教信徒の行場だったと思う。
※つづく→「多禮瀧の口瀑布(宗像市)」。
本稿は、以前書いた「多礼の石鎚神社(1)」(2010.5.13)、「多礼の石鎚神社(2)」(2010.5.14)と一部重複するが、その追記とする。
(1)「石鎚神社 ichizuchi shine ←」と記した行政「公式表示板」(緑色プレート・ポール)を多禮(たれ)地区で2枚見かけた。1枚は、多礼橋口T字路で、ここより先「1.0km」。もう1枚は、その先の「岩が鼻」に突き当たったところにあり、「0.9Km」と付記してある。
この先には立っていないが、別に小標石が1本ある(下記)。
多禮に「石鎚神社」の「公式表示板」があるのは、「石鎚神社」が有名でお参りが多いということなのだろうか。
なお、籏立大明神の由緒のある多禮産神「指來神社」の表示板はない。
確かに多禮地区で、単に「近くに神社がありますか」と尋ねると、決まって「石鎚神社」を教えてくれるのでそれほど有名なのだろう。ただし、私は、ここでほかの参拝者と出あったことがないので、いつもタイミングがあってないのだろう。
(2) この「多礼 石鎚神社」は、明治12年(1879)に四国(愛媛県西条市)の石鎚神社(以下「本宮」と書く)から「石鎚大神」の御神霊を勧請して造営した神社である。(※注:文中「多礼」と「多禮」の字を使い分ける)。
以降、本宮参詣「講」が形成され、講大先達とともに本宮に団参するときは、県内外から多くの教信徒・行者、一般参詣者等が多礼の当社を参拝して出発する。
余談になるが、かつての(故)師僧も本講に参加して「石鎚山」に登っていたが、私は同行したことはない。このとき、師僧が同行する人たちに対してきまって言っていた次の注意事項が未だに脳裏に残っている。
「どこの誰とも分からない人たちと一緒に同行同宿(船では雑魚寝)するのですから、特に懐中物を取られないように用心してください。信仰する人は心がきれいなので人の物を盗むような人はいない、などと思わないこと。心が汚いから信仰するのですから、盗み癖の取れない人も交じっているかもしれないと心得、他人に悪業を積ませないためにも自分の大事なものは身に着けて自分で守るように心がけておいてください」。言いにくいことでも歯に衣を被せずにはっきりという修験道大先達だった。
(3) 上記岩ケ鼻の下で見た表示板の「0.9Km」だが、本当に岩ケ鼻から0.9Kmしかないのかと思う。山道を歩いて上ると意外と遠く感じるからだ。
「岩が鼻」の下に付いている狭い道を左に回り、釣川右岸築堤上道路の里道が自転車道の右下に下がった部分にある三叉路を右(農道)に曲がる。この角地の足元に「石鎚神社参道→」と刻した「小石標」がある。
この先は、田畑の間を通る農道(非舗装)で、田畑が途切れる所(山麓)の左側に三本桜の広場がある。ここが参拝者駐車場になっているので、ここまでは車でも行けるが、岩が鼻からの道幅は狭く、車の離合は難しい。
(4) この先は、カーブの多い狭い凸凹の上り道となる。
上記「多礼の石鎚神社(1)」に、この途中で「イノシシの罠(鉄の檻)」を見たと書いていたが、現在、この罠はないので、イノシシは出なくなったのだろう。
なお、イノシシに出あったら大きな黒蝙蝠傘をイノシシに向けてパッと開くとよいと聞いた。今どきの山に入るとき、黒蝙蝠傘は必需品となるのか。
また、山道に「大きな榊を囲む荒垣」(しめ縄)がある、と書いていたが、最近は、そのしめ縄も見かけない。
(5) 多礼石鎚神社が鎮座する山(低丘陵の一角)を「極楽寺山」(弥勒山・石鎚山)と言うが、低丘陵といえども、杉、檜ほかの大樹林や孟宗竹林等が全山を覆い山中は暗く山深い感じがする。
山道の道幅が急に倍ほどに広くなる場所の左側に「石鎚大神の石鳥居」や「石鎚神社碑」「石段建設碑」、参詣者用竹杖等がある。(※画像)
因みに、この前から先に続いている山道は、石鎚神社・拝殿薬師堂に直登する旧参道口石段前に至る。
さらにそれより先は、道幅が極端に狭くなり、やがて竹林道を抜けて多礼ダム駐車場前に出ることができるが、参道整備がされていないときには蜘蛛の巣を払いながら進む竹藪漕ぎとなるので要注意。
(6)「石鎚大神の石鳥居」は、平成11年(1999)11月にその後ろの「石段」(22段)と合わせて建設された。
この建設は「平成天皇即位十年記念事業」として実施されたもので、当時の多礼区総代と先達元老大顧問が代表となって参詣者等から募った浄財が、その建設費用に充てられた。多礼区総代が代表となっているが、既に石鎚神社が当地の産神的な位置付けになっていたということなのだろう。
だから、多禮地区に立っている上記「公式表示板」も、多禮産神の「指來神社」ではなく、「石鎚神社」となっているのかもしれない。
(7) この鳥居から上が極楽寺山(弥勒山)の多礼石鎚神社境内で、この鳥居と石段道の完成により、ここが正式参道となり、石段の上から右寄りに緩やかに上る参道(舗装)の途中にはトイレも作られている。
山頂には石鎚神社(社祠)、薬師堂(拝殿)、手洗舎、役行者石像、弘法大師修行石像、十三仏石仏(十八仏あり)などがある。
周りに背丈の高い樹林が繁り、遠望はできず、昼なお暗き、といった感じである。
また「手洗舎」はあるが、別に水道や湧水があるわけではなく、日々、信者が山下から運んできた水をバケツやタライ、ポリタンクなどに一時的に貯水して奉祀や手洗水、清掃奉仕(トイレ含む)等に使用しているので、この一件を見ても、当地が霊験ある霊地であることが伺えそう。
(8) 当地を「極楽寺山(弥勒山)」と記したが、当地にかつて「極楽寺」という寺があったことに由来し、「弥勒菩薩」がおられることから「弥勒山」とも呼ばれた。今は「石鎚神社(石鎚大神)」が鎮座するので多礼の「石鎚山」とも呼ばれている。
筑前國續風土記拾遺に「彌勒佛 :極楽寺山といふ所に在。むかしの寺跡のよしいへり。」とある。
現在「弥勒菩薩」(彌勒佛石仏)は、大正3年(1914)設置の｢十三仏｣のなかに合祀されているが、旧安置石祠には「寛政年間再建」(1789~1801)の文字が刻まれていたという。
(9)「極楽寺」の名は、おそらく極楽浄土を説く浄土教から採ったものと思うが、その極楽寺に未来仏「弥勒菩薩」がおられたのであれば、当地は亡くなった人の霊魂が極楽浄土に上り、やがて未来仏に導かれ転生する霊山であったということなのか。
明治時代、多禮の人たちは、当地が先祖の霊魂の未来転生の故地だと知っていたが、明治維新の神仏分離、修験道廃止で霊魂を扱うことができなくなり、明治12年(1879)に対抗策として、この霊地に修験系の「石鎚大神」を勧請し、同41年(1908)、この山の樹林(霊木)で拝殿を建設し、薬師の森の薬師如来を祀り、大正3年(1914)境内に十三仏を設置し密かに神仏混合の霊地としたのだろうか。
(10) 昭和37年(1962)再建の多礼石鎚神社神殿(社祠)の前に建っている「拝殿」(木造瓦葺)は、合わせて「宗像四国東部霊場第23番札所(多礼石鎚神社境内)薬師堂(本尊薬師如来)」となっているので、完全に神仏習合の霊場である。
拝殿薬師堂のサッシ戸を開けると、堂内に充満している臭い線香の匂いが一気に溢れ出す。この臭いを嗅ぐと咳き込み息がつまりそうになる。
ここで焚いている線香の匂いはどうも苦手で、こんなとき、自らを行者とは言ってもサラブレッド的すぎるのか、と思うことがある。堂前で戸を開けずに、手持ちの香炉に香りのよい線香を立てて合掌する。「オンコロコロセンダリマトウギソワカ」。
因みに「四国霊場第23番札所」は「医王山無量寿院薬王寺・本尊厄除薬師如来(高野山真言宗)」(徳島県海部郡美波町奥河内寺前285-1)である。
(11) なお、「極楽寺」は、鎮国寺(吉田)の六子院(実相院、花藏院、妙観院、円塔院、山之坊、般若院)の一「(津瀬村)実相院」と係わる寺だったのではないかとの考えもあるそうだ。鎮国寺六子院は、永禄10年(1567)10月25日豊後大友軍の宗像乱入時の兵火ですべて焼失したという。津瀬村は、後の多禮村(現宗像市多禮)で、実相院は瀧ノ口辺りにあったと推定されている。
来た道を下り、上記「石鎚神社参道」の小石標がある三つ角を右折、次の参拝地「多禮瀧の口観音堂」を目指す。なお、この観音堂は、昔は薬師堂で、ここにある瀑布(瀧)は多礼石鎚神社(石鎚山修験)教信徒の行場だったと思う。
※つづく→「多禮瀧の口瀑布(宗像市)」。
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