2013年01月

2013年01月24日

過度な円安にご用心(2)

前回の記事の続きです。

さらに、100円程度まで円安になってしまうと、もうひとつ大きな問題が生じてきます。それは、日本が経常赤字国に転落する可能性が高まってしまうということです。2011年の日本の経常収支は9.5兆円の黒字(2012年の数字は2月に発表ですが、黒字が大幅に減少する見通しです)になりましたが、前回の記事の試算では、円相場が100円になると6兆円近くの貿易赤字が増えるので、所得収支の黒字分では貿易収支の赤字を補うことができなくなってくるかもしれないのです。

貿易全体で見ても、収益が上がる見込みの輸出企業であっても、非常に長い年月に及ぶ円高に苦しんできたので、円高のリスクを軽減するために、輸出に占めるドル建て取引はすでに50%を割り込んでいる状況にあります。その一方で、輸入に占めるドル建て取引は70%を超えていて、円安の影響はドル建て取引の比率が高い輸入により強く出るので、日本の貿易赤字はかつてよりも円安によって膨らみやすくなっています。行き過ぎた円安は、日本が経常赤字に陥るリスクを高めてしまうでしょう。

経常収支の赤字は、国内における資金不足を意味しています。つまり、日本が経常赤字国に転落すれば、国内の貯蓄や資金が不足し、国債発行による資金調達を海外からの資金に頼らざるをえなくなります。仮に日本の経常収支が赤字に陥れば、最悪の場合、日本国債の利回りが急騰し、日本が財政危機に見舞われるという事態も想定しなければなりません。なぜならば、海外の投機筋の中には、日本の経常赤字転落を見越して「日本売り」で高収益をあげようと目論んでいるヘッジファンドが少なからずあるからです。

それでなくても、安部政権は物価上昇率2%を達成するために、日銀に積極的な量的緩和を行わせようとしています。1980年代のバブル期ですら物価上昇率は2%未満の時期が長かったことを考えると、目標としての2%がとても適当だとは思えないのですが、いずれにしても日銀が大量の国債を買い続ければ、先進国で最悪の政府債務が今以上に膨張するのは間違いありません。2013年4月には、量的緩和に消極的であった日銀の白川総裁の後任として新しい日銀総裁が誕生しますが、そこで緩和に積極的な総裁が誕生すれば、海外のヘッジファンドがタイミングを見計らって「日本売り」を仕掛けてくる可能性は十分にあるのです。

米欧を中心とした世界的な金融緩和の流れによって、現在の金融市場にはお金が有り余っています。2011年3月末時点では、世界のヘッジファンドの運用資産残高が初めて2兆ドルを超えています。これまで最高だった2008年6月末の1.9兆ドルを抜いたのですが、今現在においてもその運用資産残高は増え続け、最新の2012年9月末時点では2兆1900億ドルにも膨らんでいます。

米欧の過剰な金融緩和が、ヘッジファンドの再膨張に力を貸してしまっているわけです。この膨張したヘッジファンドの資金が、ギリシャやポルトガル、イタリア、スペインなどの財政が悪化した国々を次々と攻撃してきましたが、ヘッジファンドの標的となり攻撃されないためには、国家はもはや野放図な財政赤字を続けることができるはずがないのです。

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keizaiwoyomu at 10:39|この記事のURL経済分析 

2013年01月17日

過度な円安にご用心(1)

みなさんもご存知の通り、日本では安易に原子力発電所に頼れなくなったために、火力発電所による発電が急増しています。そこで、液化天然ガスを中心としたエネルギー資源の輸入が膨大に膨らみ、日本の貿易収支は2011年に2兆5000億円の赤字に転落しました。これは、第2次石油危機で2兆6000億円の赤字を計上した1980年以来、31年ぶりのことでありました。

さらに悪いことに、2012年の貿易収支は赤字額が6兆8000億円にまで拡大する見通しにあります。多少は今後の液化天然ガスや原油の価格が下がったとしても、2013年の赤字額はドル円相場が2011年~2012年と同じ水準という前提で、6兆円超の額は免れない情勢になってきています。

小泉政権の時とは違い、今の日本ではエネルギー事情がひっ迫しているため、売り手の国々からも足元を見られています。特に液化天然ガスは東南アジアや中東、オーストラリアなどから法外な高値で買わされています。日本の2011年~2012年における液化天然ガスの輸入価格は100万BTUあたり16台ドル~18ドル台で、液化していないとはいえ米国の天然ガス指標価格の2ドル台~3ドル台や英国(欧州)の天然ガス指標価格の9ドル台~10ドル台と比べても突出して高い状況にあるのです。

2012年における日本の液化天然ガスの輸入量は9000万トンで、日本が世界の液化天然ガスの供給量の約3分の1を買った計算になっているので、高値で買わされるのはある程度やむをえないのかもしれません。

しかし、ドル円相場が1円安くなるごとに、液化天然ガスや原油の輸入コストが2700~2800億円ほど増加することを考えると、円安が急激に進むことは一昔前と違って決して喜べるものではありません。2011年の平均為替レートが1ドル79円であるので、仮に90円まで下落すれば、貿易赤字がエネルギーだけで2兆9700億円~3兆800億円も増加する計算になってしまうのです。

輸出企業の経営者の中には「100円まで行ってほしい」などとコメントしている方が多いようですが、そんなことになったらエネルギーだけで5兆6700億円~5兆8800億円ものコスト負担が増加してしまいます。現在の原油価格は2005年~2007年の円安期よりも平均して2倍近く高いのに加え、液化天然ガスは2倍超にも急騰している状況にあります。おまけに、液化天然ガスの輸入量は数倍にも増加しています。エネルギーや原材料を輸入に頼る日本企業にとって、120円~130円の円安期と比べても、現在のほうがエネルギーコストの負担が大きく増えているのです。

だから、90円からさらに100円まで円安が進んでしまうと、一部の輸出企業が競争力を高めて輸出を増やしても、その他の企業は人件費を引き上げることがいっそう難しくなってしまうのです。大多数の企業が従業員の給料を増やすことができない中で、過度な円安によりエネルギーをはじめ、すべての輸入品の価格が上昇してしまうと、国民の生活が苦しくなるのは避けられないでしょう。

グローバル経済下では、「所得の増加→物価の上昇」というプロセスは成り立ちますが、その逆の「物価の上昇→所得の増加」という順序立ては決して成り立ちません。日本でインフレが起こるとすれば、それは、国民の所得が伸びない中での悪いインフレしかないでしょう。金融緩和に過度に依存しようとしている安部政権には、この当たり前の考えが完全に抜け落ちてしまっています。

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keizaiwoyomu at 14:21|この記事のURL経済分析 
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