2013年05月

2013年05月31日

量的緩和は間違いなく失敗する

前回の記事でも述べましたように、黒田東彦新総裁が率いる日銀の量的緩和は間違いなく失敗するでしょう。

リフレ派の理論では、「量的緩和によってさらなる低金利を促すことで、設備投資が増える」という考え方が大きな柱となっています。ところが、この考え方は現場の経営感覚とは大きく乖離しています。経営者は需要が見込める時に設備投資をするのであって、低金利だから設備投資をするわけではないからです。

需要が見込めない中で設備投資を行ったら、中国の国営企業のように経営が急速に悪化してしまうでしょう。もっとも、長期金利が量的緩和を発表した時よりも上昇してしまっているので、リフレ派の理論はすでに破綻の上に破綻を重ねていると言っても良いでしょう。

リフレ派のもうひとつの柱である考え方に、円安により輸出が増えて国民所得が上がるというものがあります。この考え方が間違っているのは、拙書『アメリカの世界戦略に乗って、日本経済は大復活する!』(東洋経済新報社)でも述べたように、2000年以降のエネルギー価格の高騰が日本企業における賃上げを難しくしてしまっているからです。

特に日本では、企業が売上げを大きく回復したとしても、エネルギー価格の高騰分や輸入インフレによるコスト増加分をなかなか価格に転嫁しようとはしないので、その分、売上増に見合った賃上げをすることが難しいでしょう。   

さらに、「世界経済は過去30年で最も良い状態である」と言われた2005年~2007年の時と比べて、今の世界経済はアメリカだけが気を吐いており、欧州やBRICs諸国を中心に相当悪い状況にあるので、かつてほど日本からの輸出を受け入れる余裕がなくなっています。ゆえに、日本企業は思ったほどの輸出増は見込めないでしょう。

そのような状況にある日本が復活できるか否かは、アメリカのシェール革命の波にいかに上手く乗ることができるかどうかに懸かっているように思われますが、仮に復活できたとしても、それは2016年以降の話になるということは頭に入れておかなければなりません。

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keizaiwoyomu at 11:51|この記事のURL金融政策分析 

2013年05月14日

安倍政権はよくやっているが・・・

拙書『アメリカの世界戦略に乗って、日本経済は大復活する』では、日本経済が2016年以降に復活するために、米国との結びつきを強める必要があることを述べています。最低限必要なのは、「軍事上の安全保障」「エネルギー上の安全保障」「経済上の安全保障」の3点セットであるとしましたが、安倍政権はすでにこの3点について着手またはクリアしようとしています。

特にいちばんの懸案事項であった経済上の安全保障(=TPP)については、自民党内の反対勢力を押し切って、早々と交渉参加を実現させました。以前から何度も申し上げていることですが、TPPはアジアの成長を取り込むだけでなく、経済ルールを守らない対中国包囲網の性格を強く持っています。

この上で、拙書『日本経済大消失~生き残りと復活のための新戦略』の中で述べた成長戦略を実践できれば、日本経済の本当の復活(=国民の生活水準の向上)が見えて来ると考えております。政府関連の会議から聞こえてくるのは骨抜きの話ばかりですが、安倍首相がリーダーシップを発揮して、ここからの巻き返しを期待したいところです。

これまでの安倍首相はよくやっていると思います。しかし、とりわけ残念なのは、日銀総裁に黒田さんを据えて、過剰な金融緩和に踏み出してしまったことです。何故このような間違いを起こしてしまったのでしょうか。

私は断言します。この金融緩和は間違いなく失敗します。2000年以降に日本の経済構造は2度の大きな変革を経験してしまっています。ひとつは、エネルギー価格の高騰により交易条件が悪化したこと、もうひとつは、それに追い打ちをかけるように原発事故によりエネルギーの輸入量が増えてしまったことです。

そもそも15年ほど前にポール・クルーグマン教授が提唱した「インフレ目標政策(インフレ期待)」は、ここ10年の資源価格高騰の時代においては成り立っていません。先進国における「景気の拡大=所得の上昇」「企業収益の拡大=所得の上昇」という相関関係は、資源価格の高騰によって断ち切られてしまったからです。

2000年代に入ってこの政策がまったく機能していないにもかかわらず、経済学者は経済学の狭い塀域に閉じこもって物事を考えるために、こういった間違った理論が未だに正しいと思っているばかりか、物事の道理や本質が見えなくなってしまっているのでしょう。クルーグマン教授やバーナンキ議長が間違っていても正しいと評価されているところに、権威の前では反論しない経済学会の病理を見出さずにはいられません。

円安は100円~110円が望ましいなどと言っている経済学者や企業経営者は、国民生活に及ぼす影響を論理的に考える能力に欠けています。仮に2%の物価上昇が達成できたとしても、インフレ下の賃金下落という結末になってしまうのです。もちろん、2%の物価上昇をまったく達成できなかったほうが、日本国民にとってはダメージが少ないのは間違いありません。

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keizaiwoyomu at 15:27|この記事のURL金融政策分析 

2013年05月01日

安倍政権に期待する成長戦略(医療編)

私は安倍政権の金融緩和と財政出動には反対していますが、成長戦略には諸手を挙げて大賛成です。3月8日の記事にも書いているように、成長産業の育成が最も大事だからです。

私の持論は、「雇用の受け皿として、農業・観光・医療などの成長産業の育成をするべきだ」ということです。しかし、産業競争力会議での議論を見ていると、特に医療の分野では進歩的な議論が進んでいないことが非常に気にかかります。

そこで、私の医療産業についての考え方を昨年出版した『日本経済大消失~生き残りと復活のための新戦略』の中から引用し、補足の説明を加えたいと思います。

(以下、拙書の第4章「成長産業で日本経済大復活」より引用)

●世界の先端を行く日本の医療産業

日本を成長へと導く3つめの産業は「医療」です。目下、日本では新しい医療技術がたくさん普及しようとしています。

その一つが、がん細胞のDNAを破壊する粒子線治療です。患部を狙い撃ちできる粒子線は、エックス線やガンマ線と比べて患部周辺の正常な組織を傷める心配が少なく、高い治癒率を挙げています。

ただし、診察料だけは保険が適用されますが、治療費は保険の適用外のため250~300万円と高額になってしまいます。それゆえ保険適用を望む声が強いのは理解できますが、日本の厳しい保険財政を考えると、すべてを保険適用にするのは難しいと言わざるを得ないでしょう。

新しい医療技術としては、がんの粒子線治療のほかにも、がんの陽子線治療、高度な内視鏡手術や免疫療法、遺伝子治療や再生治療など数多くの技術が成果を上げています。さらには、最先端の医療器械としては、体に負担をかけずに済むガンマナイフや、患部だけを切りとれるITナイフなどがあり、また、医療ロボットも実用化に向けての研究が進んでいます。

これらの先端医療を普及させるには、混合診療を広げていくしかないでしょう。混合医療とは、保険が適用される診療と保険が適用されない診療とを併用した診療のことを言います。先端の医療技術を受ける場合の他にも、予防医学による治療や美容整形を伴う医療などが、保険が適用されない診療にあたります。 

非常に高額な先端医療における保険適用の範囲が大幅に拡大されることになれば、先端医療を希望する患者が急増し、際限なく医療費が膨張してしまいます。保険の財政も、それを負担する国や地方自治体や企業の財政も、行き詰ってしまうことは明らかです。

ところが、混合診療を進めれば、病院は保険適用を待たずに患者を集めやすくなるため、現場経験の蓄積が増え先端医療技術の進歩が早まるというメリットが生まれます。日本では先進医療を対象にした特約付きのがん保険も増えており、混合診療がじわりと広がり始めているのです。

日本医師会では、混合診療は貧富による医療格差につながるとして、一貫して反対の立場をとり続けています。しかしながら、国民負担を大幅に増やしてでも平等な医療にこだわるのか、それとも混合診療を推し進めていくのか、二者択一しか道はありえません。

仮に前者を選べば、国民や企業の負担は大幅に増大し、中小企業などはもはや正社員を雇うことができなくなってしまいます。そうなると、一部の人だけが膨大な医療費を使って先端医療を受けることに対して健康な人からは批判が集中するでしょうし、また、先端医療を希望しない代わりに保険料負担の軽減を求める人も数多く出てくることでしょう。したがって今後しばらくは、後者の混合診療を推し進めるという選択肢を取るしかありません。

●日本の医療技術で海外の需要を取り込め

ここで求められるのが、先端医療を外需に転嫁するという発想です。

観光について述べたところで、タイの医療ツーリズムの例に触れましたが、タイの病院を訪れた人は、まるで高級ホテルみたいだと一様に驚くと言います。タイは医療ツーリズム先進国で、年間100万人もの医療観光客を受け入れています。これに対し、日本は1万人足らずと、完全に出遅れているのが現状です。

世界的な健康・長寿への関心の高まりもあって、医療ツーリズムの市場規模は8兆円に達するという試算もあります。日本の先端医療の技術があれば、海外の富裕層を対象に医療ツーリズムで外貨を稼ぐことは難しいことではありません。

ただし、そのためには、いくつかの改善すべき課題があることも事実です。まず第1に、医療ツーリズムを単なる医療サービスとしてだけではなく、医療を超えたサービス産業としても捉えるという視点を持つことです。日本人は本質を追求することには熱心な一方で、それを少しでも外れたことには関心を持てない傾向があります。この傾向は製造業において象徴的であって、代表的な例では、家電メーカーが製品の機能や品質向上には大変な熱意を注ぐ一方、デザインやブランド価値など技術以外の面を疎かにするという失敗をしてしまったことが挙げられます。

医療ツーリズムも、医療産業としてだけではなく、観光の要素も取り入れたやサービス産業であるという考え方が大切です。たとえば、先端の医療技術や医療設備を揃えるのはもちろん、長期療養で滞在している患者や海外からお見舞いにやってくる家族や友人のために、さまざまな娯楽用の施設を整えることは大きな付加価値を生み出すことになるでしょう。

温泉に近い病院なら、地域のホテルや旅館と提携した家族向けのサービスを提供できるでしょうし、海のそばにある病院なら、海水浴や釣りといったレジャーを楽しめる施設が喜ばれるかもしれません。歴史や文化のある街なら、日本の伝統文化に触れる機会を設けることもできるでしょう。

このように、医療技術だけではなく、患者やユーザーの視点でサービスを提供していくことが、成功のカギとなるのではないでしょうか。

これまでの医療の業界は、農業と同じく競争がない業界でした。収入の大半を保険料や税金で賄っているため、ぬるま湯体質にあり、基本的には合理化やサービスの質の向上といった発想には疎かったのです。

したがって、医療ツーリズムを成功させるための第2のポイントとして、病院を株式会社化して、徹底した経営強化と合理化を行う必要があると考えています。病院が株式会社化して利益を追求するようになると、患者へのサービスが落ちるという意見がありますが、これは完全に間違った見解です。むしろ、海外を中心に、株式会社となってサービスの質が上がり、世界中から患者が来るようになったという例が数多くあります。

●医療に求められる「差別化」

病院の経営努力については、日本の先を行く東南アジアの病院に学ぶべきところが多いでしょう。例えば、マレーシアのIHHヘルスケアの病院経営は、これからの日本の医療産業にとって非常に参考になるでしょう。IHHヘルスケアは、クアラルンプール証券取引所などに上場もしているアジア最大の民間病院運営グループです。市場から約1500億円もの資金を調達し、それを元手にアジアや中東などの新興国で富裕層向け医療サービスの拡充をはかっています。

また、タイのバムルンラード国際病院は東南アジア最大級の病院ですが、海外からの患者の受け入れが増加傾向にあり、業績も絶好調な状況にあります。リーマンショック後の世界的な経済危機にあっても成長を続ける医療産業は、今や不況に強い産業の代名詞となっているのです。日本の病院もこれらのアジアの病院から、経営ノウハウを大いに吸収していく必要があるでしょう。

ただし、施す医療については、東南アジアとの競合は避けたほうがいいと考えています。日本が先頭を走っているがんの放射線治療などの分野に特化し、そこで勝負するべきです。

もちろん、ノーベル賞を受賞した山中伸弥京都大学教授が研究を進めているIPS細胞を使った再生医療も有望な分野ですが、実用化までには20年はかかると言われている医療だけに、医療産業の成長のためには放射線治療に先陣を切ってもらうのがいいでしょう。

放射線治療を中心とした先端医療は付加価値が高く、アジアのライバルとの差別化ができます。切らない医療として、放射線治療が一部で普及してきていますが、放射線の一種である中性子を使ってがん細胞をピンポイントで治療する「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」と呼ばれる次世代のがん治療が普及すれば、間違いなく国内外を問わず、この治療を受けたい患者が世界中から殺到すると思われます。

ホウ素中性子捕捉療法が優れているのは、陽子線や重粒子線などの先端治療と比べて、がん細胞だけをピンポイントで狙い撃ちすることができ、がん細胞周辺の正常な細胞への影響が最も少ない点です。この治療法が普及すれば、世界中から富裕層や中間層が日本へ治療に訪れることとなるでしょう。そのために国が主導して、日本では圧倒的に足りない放射線医師や技師を積極的に養成し、大幅な増員をすることも忘れてはなりません。

気を付けるべきは、収益源となる独自技術を決して公開しないことです。放射線治療は照射技術や画像解析技術が中核の技術になりますが、少なくとも使う機器のブラックボックス化された技術に関しては、知的財産の管理が重要となることは間違いありません。

日本の製造業がアジア勢に追い付かれた背景には、人材の流出によって、独自技術の情報が流出してしまった影響も少なくはありません。医療の世界においても、優秀な医師や研究者、または医療機器開発の中心的な技術者が海外へ流出しないように、あるいは、人材が流出しても独自の技術が漏れないように、政府と製造メーカーは早めに手を打つ必要があるでしょう。

そういう意味では、規制で縛られている業界の改革を急がなければなりません。医療特区を各地方につくり、国内・国外を問わず、高付加価値のある病院をつくりたい経営者、先進医療を開発したい研究者を集めて競わせることが望ましいでしょう。大資本が病院経営に参加し、これまでにない形態の医療サービスを始めてみる試みも必要かもしれません。

このままでは、農業と同じように、数多くの規制が日本の医療を弱体化させてしまうのは明らかです。しかし、現時点において、日本の医療が世界のトップレベルにあることは、唯一の救いであると言えます。そのおかげで、私たち日本人は健康・長寿を手にすることができているのです。

そして、日本人の健康・長寿は、世界の人たちが日本に対してあこがれを抱く大きな要因となっています。そのことを、私たち日本人自身がもっと自覚して、医療を新たな成長産業へと育て上げていかなければなりません。

(以上、引用終わり)

補足を加えると、医療産業を成長させるために必要な要素は「株式会社化」「混合診療」「先進医療」の3つになりますが、産業競争力会議では「株式会社化」という言葉はまったく出てきていないようなのです。混合診療もすでに骨抜きにされており、規制の壁は厚いと言わざるを得ないでしょう。

「先進医療」では、何と言ってもホウ素中性子捕捉療法が期待できます。従来の放射線治療では何回も治療に行かねばならず、再発したら再度治療ができないというデメリットがありました。しかし、ホウ素中性子捕捉療法では一回の照射で完治する上に、再発しても再治療できるという大きなメリットがあります。(ただしこの治療法にも、体の奥深くにある臓器には照射が届かないという弱点があります。)

マスコミではIPS細胞を使った再生医療ばかりが囃されていますが、ホウ素中性子捕捉療法のほうが実用化は早く、市場規模がはるかに大きいことは間違いありません。副作用の強い抗がん剤の巨大な市場をも奪ってしまうかもしれない、そういうポテンシャルをも秘めているのです。

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keizaiwoyomu at 13:54|この記事のURL政策提案 
レポート配信履歴
7/13・7/30

8/14・8/30

9/14

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