2013年07月

2013年07月31日

成長戦略のもう一つの本丸

今の日本で高齢者以外の人たちがお金を使わないのは、雇用の質と将来の安心が確保されていないからです。良質な雇用がしっかり保たれていて、なおかつ将来の保障もあるのが理想ですが、今の日本には両方ともあるとは言えません。

そこに消費が増えない根幹があり、成長戦略にはそういったものも入れていかなければなりません。特に年金制度の改革は若い人たちが消費をするための起爆剤であり、本来ならば成長戦略のもう1つの本丸であって然るべきです。

しかし、安倍政権になってからは、年金制度についてほとんど議論がされていません。インフレ期待や企業収益ではなく、雇用維持や将来の安心感のほうが若い人たちにとっては重要であるということを、政権は認識すべきではないでしょうか。

その2つの要素を満たせば、消費は増えていくでしょう。若い人たちが老後を気にして貯蓄ばかりし、今しかできないことを我慢する社会はとても健全とは言えません。

若い人たちが最も不安に感じているのは、公的年金の脆弱さです。国民年金保険料の納付義務がある人のうち、40%程度が未納であり、若い層だと未納率は60%まで高まります。制度そのものが信頼されていないというわけです。問題を解消して制度を持続可能なものとし、国民全体を納得させる必要があります。

公的年金は運用利回りを年4.1%という想定で計算しています。昨今の運用環境を考えるとかなり無理のある利回りですが、その4.1%で計算しても年金財政は実質的に債務超過であることは周知の事実です。将来の積立不足が推計で500兆円ともいわれており、この金額は日本の名目GDPを上回っています。

政治家やトップにいる官僚たちが、代がかわるごとに事なかれ主義を続けてきたから、このような状況に陥ったと言えます。自分がトップにいるときは面倒な事業は処理したくないというわけです。

若い人たちが信用できる持続可能な年金制度にしていけるのか。それがクリアされなければ、若い人たちは車を買わず、旅行もしないし、趣味にもお金を使わないでしょう。そうなれば、内需が見込めないことを理由に日本企業は海外移転を止めることはありません。その結果、国内から雇用が失われるという悪循環が繰り返されます。

社会保障制度がきちんとしているのは北欧です。ただ、多くの人が知らないのは、北欧が厳しい競争社会であるということです。競争が激しく、失業する人も多い。それでも欧州の平均より失業率が低いのは、甘えを許さないからです。失業したらすぐに職業訓練でスキルを高めて、新しい仕事に就くことが求められるのです。

高福祉の国であっても、自立が原則です。国民も企業も税金をたくさん納めることだけで高福祉が成り立っているのではなく、日本より厳しい競争主義社会の上で成り立っているのです。

私の知人が北欧でタクシーに乗ったとき、シートベルトをする必要があるかを運転手に尋ねたそうです。すると運転手は、「あなたが事故に遭っても大丈夫だと思うか、そうでないか。あなた自身で決めてください」と答えたそうです。それくらい北欧は自己責任が徹底している社会なのです。

北欧の社会保障制度を目指すなら、国に甘えない国民性を持たなければなりません。日本人には昔はそういう国民性がありましたが、今や行政の世話になるのは恥だと思う風潮も徐々に失われつつあるようです。ですから、日本では北欧と同じことはできないでしょう。

若い世代の人たちが将来に不安を抱かない社会保障制度をつくるためには、高齢者にも相応の社会保険料を負担してもらうしかありません。それ以前に、バブルを経験している世代と経験していない世代には賃金の格差がありますし、若い世代はなかなか正社員になれないという雇用の格差もあります。そのうえ、年金の格差もあるのです。

こういった世代間の格差をどうやって埋めていくのかを真剣に考えていかなければ、本当の成長戦略とは呼べないし、日本に明るい展望をイメージすることができません。

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keizaiwoyomu at 10:16|この記事のURL政策提案 

2013年07月18日

インフレ目標政策は宗教のようなものだ

過去の著書の中でも指摘させていただいたことですが、インフレ目標政策の眼目は「インフレになるぞ!」「物価が上がるぞ!」と国民全体に信じ込ませることです。

信じ込ませることができれば、消費者はモノを安いうちに買おうと思うに違いない。消費が増えれば、企業の利益が増えるに違いない。企業の利益が増えれば、労働者の給料も上がるに違いない。

これがリフレ派の人々の根拠のひとつでもある「インフレ期待」というもので、要するに「信じる者は救われる」というような宗教みたいな学説なのです。

少しきつい言い方に換えれば、「早くしないとインフレになるぞ!」「現金を持っていても物価が上がれば目減りするぞ!」「今のうちに株を買ってしまえ!」「家も買ってしまえ!」と国民を脅しているだけです。

しかしそれだけで、本当に経済がよくなるのでしょうか?

確かに、金融市場は「思惑」で動くことが多いです。為替にしたって株価にしたって、実体経済とはまったく違う思惑で乱高下することが多すぎると言ってもいいかもしれません。

というのも、欧米の金融機関やヘッジファンドの運用担当者は、上がるにしろ、下がるにしろ、市場が大きく動くことを望んでいるからです。彼らは市場が大きく動かないことには、大きく儲けることができないのです。

ですから、彼らは相場が大きく動く材料にアンテナを張っていますし、ひとたび市場が大きく動き始めれば、強気でガンガン攻めてきます。ユーロ危機以降、大きく動き、かつ流動性が高い市場がなかったために、アベノミクスによる金融緩和は彼らにとって絶好の投資材料と映ったことでしょう。

しかし、国民の消費行動が「思惑」だけで動くことはごく稀なことです。資産のほとんどを株式で持っているような人には別の話となりますが、大多数の国民は株に投資などしていませんし、投資していたとしても何千万も株式を保有している人は10%もいないのが実情です。

リフレ派の人々はインフレになれば賃金が上がると言います。確かに、賃金が上がれば消費は増えるでしょう。

しかし、今の先進国では構造的に賃金が上がりにくい状況になっています。大きな原因のひとつが、2000年以降の資源エネルギー価格の高騰にあります。これによって、先進国の企業および国民の所得は新興国に流出し、その額は拡大し続けてきました。例えば日本の場合、2012年には所得の流出額が18.9兆円と過去最大となっています。

エネルギーは高くなっても輸入せざるを得ないわけですから、国全体での損失が大きくなるのはもちろん、エネルギーを使う企業にとっても負担が厳しくなっていきます。企業の売り上げが伸びても、エネルギー価格のコストが上がることによって、人件費に回す利益が削られてしまうのです。

リフレ派の人々は「何としてもインフレにするのだ」と言いますが、仮にインフレを起こすことができたとしても、大多数の労働者の賃金が上がることはありません。物価だけが上がり、賃金が上がらない社会がやってくるだけのことです。デフレ以上にひどい時代がやってくるのです。

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keizaiwoyomu at 13:55|この記事のURL金融政策分析 

2013年07月11日

アベノミクスの不都合な真実

(角川書店)2013/7/12発売


明日、新刊『アベノミクスの不都合な真実』(角川書店)が出版されます。目次は以下の通りです。

第1章 断末魔のアベノミクス
第2章 本当は怖いインフレ
第3章 デフレでいいじゃん!
第4章 リフレ派はなぜ嘘ばかりつくのか?
第5章 やっぱりアメリカと組むしかない
第6章 戦略さえ持てば日本は成長できる

本書の副題は『インフレ救国論の罠、デフレ悪玉論の嘘』となっておりますが、グローバル経済が進んだ今では、インフレ政策は格差拡大を進め、大多数の国民生活が苦しくなることを説明しています。このことは、過去20年の先進国の歴史が証明しています。日本がそうならないためには何をしたらいいのか、初心者向けにやさしく書きました。

興味のある方はご覧いただけると幸いです。

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keizaiwoyomu at 10:30|この記事のURL拙書の紹介 

2013年07月04日

中国の経済・金融の真相(その2)

2008年のリーマンショック後、中国は「4兆元投資」と呼ばれる巨大な財政出動と併せて空前の金融緩和を行い、世界を驚かせました。その効果は劇的で、2009年には経済は急回復します。ですが、その副作用として、インフラから不動産、製造業を巻き込む爆発的な投資ブームが巻き起こったのです。

このときには、前回の記事で取り上げた地方政府も大きな役割を果たしています。各地方政府が以後3年間に行った投資は10兆元を超え、向こう7年分の投資をこれで先食いしてしまったともいわれています。

しかも、地方政府の下にある国有企業や「融資プラットフォーム(融資平台)」がこのときに借りた資金はすでに償還期を迎えています。そのため、いまや地方政府の多くが借り換えなしでは償還にも応じられない重債務状態にあります。

そのような状況下で、2013年3月末に中国の資金供給量は初めて100兆元を突破しました。これはGDPの約2倍にあたりますが、いまやこの膨らんだマネーがさまざまな波紋を広げています。

近頃目立つようになった「理財商品」の債務不履行がそれです。預金や融資を当局が厳しく管理する中国では、それらとは別ルートである「シャドーバンキング(影の銀行)」が横行しています。理財商品はその代表格です。銀行は融資以外の信用仲介を行っており、4大国有商業銀行だけで取扱残高は3兆元を超えるといわれ、財源不足の地方政府のインフラ投資にも流れ込んでいます。
 

最近デフォルトを起こした理財商品は金融大手の子会社が発行したものですが、投資先の資金繰りが悪化して、投資家への元利払いに行き詰まったといいます。どうやら規制の網を掻い潜る危ない投資だったようで、世界的に著名な投資家ジョージ・ソロス氏はこうした中国の現状を「アメリカのサブプライム危機時と状況が似ている」と見ています。
 

中国は現在、効率がよいとはいえないインフラ投資で景気のテコ入れをねらっていますが、国の借金がどれだけあるのかは気になるところです。公式には国債などの債務残高は2012年末で約7兆7600億元、対GDP比で15%となっています。

ですが、これには地方政府が抱える「隠れ借金」が含まれていません。中国では原則として地方債の発行は禁止されており、銀行からの融資も規制されています。しかし現実には「融資プラットフォーム(融資平台)」といわれる投資会社を通じて、地方政府は資金を借り入れ、インフラ投資を拡大しているのです。

 
こうした融資平台を通じた借金の規模について、財務省の元幹部は20兆元以上と証言しています。民間証券の試算によると、このほかさまざまな公的借入を含めた政府債務は対GDP比で90%を超えるということです。

 
この問題については拙書『騙されないための世界経済入門』(2010年刊行)でも指摘済みですが、中国による大規模な財政出動が債務不安を招いたアメリカや欧州と似たような経路をたどるのではないかと、危惧する声が上がるゆえんです。

ケインズ型の財政出動の末路がどうなったのかを思い出してください。結局は債務を膨大に拡大させ、深刻な経済危機につながる可能性が高いのです。とくに実態が公開されていない地方政府の借金が大問題で、蓋を開けてみれば、不良債権の山となっていることはほぼ間違いないと思われます。

それでは、中国の頼みの製造業はどうかといえば、これも空前の投資ブームに乗って、重厚長大型の産業の設備投資に資金を使いすぎてしまいました。つまり、将来の需要をあまり考えずに、供給能力を増強しすぎてしまったのです。

 
その結果、こうした産業は過剰な設備を抱えたまま、製品価格の深刻な下落に直面しています。いまは必死の減産と在庫調整で凌いでいますが、それが一巡するまで価格は下がり続けます。たとえ価格が持ち直しても、当初に想定した需要は決して望めないでしょう。

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keizaiwoyomu at 08:36|この記事のURL経済分析 
レポート配信履歴
10/14・10/25

11/13

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