2014年09月

2014年09月22日

幻想から目を覚ましつつある浜田氏と岩田氏

リフレ政策導入の原動力となった浜田宏一氏と岩田規久男氏の両名が、ここのところは「成長戦略が大事である」と言い出し始めています。両名の持論は、「金融政策で景気は回復できる」というものであったはずなのですが、どうして変節してしまったのでしょうか。

私の安倍政権発足前からの持論は、「量的緩和よりも成長戦略のほうがずっと大事である」ということです。その理由は、過去のブログでも繰り返し述べてきておりますが、ここで改めて拙書『日本経済大消失~生き残りと復活の新戦略』(2012年12月出版)の149~156ページを引用し、補足を加えさせていただきたいと思います。

以下の引用文章は、安倍政権が発足する数カ月前に書いた文章ですが、今でもその考えにまったく変わりはありません。

(以下『日本経済大消失~生き残りと復活の新戦略』の149~156ページから引用)

ここまでは、国民の所得が下がり続ける原因について、3つの出来事を挙げながら考えてきました。1997年の金融システム危機を契機に、薄利多売による競争激化、金融緩和の長期化、経済のグローバル化による雇用喪失という出来事が複雑に絡み合って、国民の所得を押し下げることにより、デフレ脱却を極めて困難にしているのです。

日本政府はデフレ脱却のために、日銀に対して大規模な金融緩和を求めています。日銀も物価上昇率が1%になるまで、金融緩和を進めていく方針を示しています。

しかしながら、日本経済が長いデフレの状態にあるからといって、現状で物価上昇を目指す金融政策が本当に正しいと言えるのでしょうか。

すでに述べているように、何よりも重要なのは、デフレの本質的な原因を見誤ってはならないということです。本質を見誤ってしまうと、間違った対応策を行い、デフレは解消されたとしても、国民生活をいっそう苦しくしてしまいかねないからです。

デフレの本質は、国民の所得が下がり続けていることです。デフレを克服するためには、間違った対応策を取らないように、この本質を多くの国民が認識する必要があるのです。

経済が上昇に向かう正しい道筋は、「所得の増加→消費の拡大→物価の上昇」というプロセスで生じなければなりません。物価が上昇すれば、所得も増加するだろうという見方は、非常に短絡的だと言わざるをえません。

たとえ大規模な金融緩和により物価を上昇させることができたとしても、今の日本では所得の増加はとても見込めないのではないでしょうか。所得の増加が伴わない物価の上昇は、大多数の国民生活を苦しくさせてしまうだけなのです。

現に、米国では大規模な金融緩和を行った結果、さらなる金利低下が銀行の貸し渋りを強め、苦境に陥る中小企業を増加させましたし、ガソリン価格の高騰に代表される物価高は生活コストを上昇させ、国民の生活をいっそう苦しくしました。

日本にいるとあまり実感できないかもしれませんが、国土の広い米国では、いちばん近くにあるスーパーまで50キロ、100キロ離れていることも珍しくありません。それゆえ、ガソリン価格の高騰は国民の生活を直撃してしまうのです。

当然、雇用の中核を担っている中小企業が苦しんでいるので、国民の所得も思うように増えるわけがありません。2011年の米国民の平均所得は前年比で1%ほどの微増で、物価上昇率の3.14%を大きく下回るものとなっています。

「物価の上昇→所得の増加→消費の拡大」という順序立てが成り立たないのは、ここまで読んでいただければ分かると思います。日本でインフレが起こるとすれば、それは、国民の所得が伸びない中での悪いインフレしかないだろうと思うのです。金融緩和に過度に依存しようとしている日本政府には、この当たり前の考えが抜け落ちてしまっています。

ユニクロの服やソフトバンクの携帯、HISの旅行、大手スーパー・コンビニエンスストアのプライベートブランドなど、これらの商品やサービスが繁盛している限り、デフレから脱却し、健全なインフレが起きるわけがありません。

それでも、消費者が好んでより安い商品やサービスを求めているのですから、今のうちはそれで良いのではないでしょうか。国民の所得が上がらない中でインフレになるくらいなら、まだデフレのほうがマシだと言えるでしょう。

デフレから抜け出せずに健全なインフレが起きないのは、日銀の努力不足を示しているのではありません。国民の所得が右肩上がりに増え続けて、国民が将来に明るい展望を描けるようになるには、金融緩和に過度に頼るのではなく、所得の底上げを含めた成長戦略が必要なのは明らかなのです。つまり、日銀ではなく、政府の出番であると言えるのです。

(~中略~)

そこで、日銀による金融緩和ではなく、政府による成長戦略こそが必要となっていきます。まず、政府がデフレ克服の対応策としてやらなければならないのは、生産性の低い産業や企業を法律や補助金によって延命させることではなく、そういう産業や企業に働いている人々のために新しい雇用を生み出すこと、すなわち、生産性の高い成長産業をつくりだすことであるのです。

もちろん、新しい成長産業には、工場の海外移転が進む製造業や賃金が低いサービス業などからの雇用の受け皿になってもらいます。

そのために政府は、国内外で潜在的な需要が見込まれる分野に、積極的に投資をしていかなければなりません。幸い日本には、成長産業になりうる分野がまだたくさん残されています。

私が将来有望だと考えるのは、「農業」「医療」「観光」の3分野です。詳しくは第4章で触れますが、現状では、「農業」と「医療」は国の規制でがんじがらめになっていますし、「観光」は国の経済規模で見ると、諸外国に比べ圧倒的に予算が少ないというハンデを背負っています。

しかし政府が、新しい成長産業をつくり、国民の所得を増やそうと本気で考えることができれば、このような閉塞した状況は打ち破ることができるはずです。

ところが呆れたことに、新しい首相が誕生するたびに、新しい成長戦略が一応はそれなりに策定されてはいるのです。しかし、結局は実行されることなく、その成長戦略は忘れ去られていく運命にあるようです。

なぜ、そのようなことが繰り返されているのでしょうか。

それは、政府が成長戦略をやる気はまったくないからなのです。新しい成長産業をつくるにしても、その成果が目に見えるかたちで現れるには、早くて5年、普通は10年の年月を要すると言われています。

政治にとって優先されるのは、成果が出るのが先になる政策ではなくて、目先の選挙で投票してもらえる政策を実行することです。したがって、政府は成長戦略において総花的な政策を掲げて賛成しているような素振りを見せますが、結局は真剣に取り組もうとはしないのです。

国民は本当の政治を求めています。政治が国民に本気で明るい未来を見せたいのであれば、政府が優先してやるべきことは決まっています。それは、いくつもの新しい成長産業をつくりだし、国民の所得を増加させ、デフレ脱却と経済成長につなげていくことなのです。

(引用終わり)

補足を加えると、アメリカの主流派経済学が唱えるインフレ推進策では、国家は借金を減価し、富裕層はさらに豊かになる一方で、大多数の国民は生活がいっそう苦しくなっています。これは、歴史的にも証明されています。

実際に、過去30年間でダウ平均株価は15倍超になったものの、物価を考慮に入れたアメリカ国民の実質賃金は20%ほど下がってしまっています。実質最低賃金も1970年代の水準を下回っているくらいなのです。

その一方で日本はどうかというと、安倍政権誕生以降の実質賃金の推移を見ると、消費税増税の3%分を差し引いても、デフレの時よりも早いペースで実質賃金が下がってしまっているのです。

浜田氏と岩田氏が成長戦略を語り出したのは、「お金の量を調整すれば、経済が思うように操れる」といった幻想から目覚めつつある証拠であります。私はそう思うのですが、みなさんはいかがお考えでしょうか。

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keizaiwoyomu at 11:17|この記事のURL金融政策分析 
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