2013年12月02日

ぽりしすとろん

 専門的でマニアックな話になるだろう。先週ぐらいの話になってしまうけれど、いつものように論文を読んでいたところ、ある論文で2A ペプチドによるPolycistronicな遺伝子発現という今まで知らない技術が使われていた。そのことをTwitterに呟いたところ、その技術を使っている方々から多くのフィードバックを頂いた。

 2Aペプチドについての情報をインターネットで調べていくうち、英語ではある程度の情報があるのに対し、日本語では関連する情報が殆どないことに気付いた。そこでメモ書き程度に、日本語で書いておこうと思う。自分がこの技術を実験で使っているわけではないので、きちんとした解説ではない。あくまで、ただ興味があって調べただけなので、細かな部分で誤りがあるかもしれない。もし見つけたら、コメント欄などで指摘してくれると嬉しい。

Cistronとはなにか


 まず初めにCistronとは何かという話をしよう。端的に現代の生物学の言葉で言うと、Gene(遺伝子)の同等のものになる。

 Cistronについては、忘れ去られて久しいが、バクテリオファージを使ったT4 rII 実験系(参考)が有名なので、その例に沿って説明しよう。

 例えば、あるウイルス染色体の位置xに劣勢の変異が入ったと仮定しよう。さらに、yという別の位置に劣勢の変異が入ったと仮定する。染色体上の別の位置にあるが、xの変異とyの変異が持つ表現型は同じとする。今ここで、xの変異を持ったウイルスとyの変異を持ったウイルスを同時に大腸菌に導入してみるとどうなるだろうか。

 考えられるのは2パターンある。1つは、ウイルスの変異表現型が引き続き観察されるバターン。互いの変異が相補されずに劣勢の表現型を同様に示した場合、xとyは同じCistron中にあると言う。

cis-trans1


 一方、ウイルスの同時導入によって、互いの機能が相補された場合には、xとyは違うCistronにあると言える。英語で相補性試験のことをComplementation testというが、別名でcis-trans testとも言う。Cistronの語源はここから来ている。

cis-trans2


PolycistronicとMonocistronic


 OperonとはあるDNAの領域から転写される連続したRNAのことだけれど、場合によって1つ以上のCistron/Geneを含みうる。複数のCistronを含むOperonのことをPolycistronic、1つのCistronのみを含むOperonのことをMonocistronicと呼ぶ。

 一般に原核生物のmRNAはPolycistronicである。原核生物のmRNA中には、開始コドンの上流にShine-Dalgarno sequence(SD配列)と呼ばれる共通配列が存在する。原核生物の16SrRNAにはSD配列と相補的な配列があり、SD配列との結合がmRNAへのリボソームの誘導を担っている。原核生物のmRNAの構造と翻訳の流れをまとめると、以下の通りである。

prokaryotic


 対照的に、真核生物のmRNAはmonocistronicな構造をとっている。DNAから転写されたRNAはスプライシングという過程を経て、mRNAを形成する。1つのmRNAから翻訳されるタンパク質の種類は通常は1つだけだ。

eukaryotic


真核生物で実現するPolycistronicな発現1:IRES


 そんな真核生物の中でもPolycistronicな発現を実現するものがいる。ウイルスだ。そんなウイルスの仕組みを逆手に取って、分子生物学では共発現の仕組みとして、しばしば利用している。よく利用されているものの1つが、IRES(Internal Ribosome Entry Site)だと思う。

fig06


 IRESは特殊な立体構造を取るRNA sequenceだ。通常、真核細胞のmRNAはcap構造にリボソームを結合させることで翻訳を開始するが、IRESは独自に40Sリボソームと結合し、翻訳を開始することができる。

 IRES配列さえ入れておけば、1つのベクターから複数のタンパク質を発現できるという手軽さもあり、多くの研究で利用されているが、cap構造からの発現に比べて、翻訳効率がとても悪い。場合によっては、10倍近い発現量の差が生じる。したがって、ベクター導入のマーカーとして使う分には問題ないらしいが、共発現として用いるには今ひとつらしい。


真核生物で実現するPolycistronicな発現2:2Aペプチド


 冒頭でも書いたように、IRESとは別のPolycistronicな発現を実現する手法に、2Aペプチドというものがあることを知った。この手法では、ウイルス由来の特殊なペプチドとなる配列を共発現させたい遺伝子の間に挿入する。合成されたペプチドはリボソームのペプチドトランスフェラーゼ活性を阻害し、ポリペプチド鎖の連結を抑える。一連の過程を"Ribosomal Skipping"という。このプロセスは"2A-like"ペプチド、もしくはCHYSELペプチドと呼ばれるペプチドによって引き起こされる。

Ribskip


 この手法の長所はIRESに比べて、発現量が揃いやすいところだ。この発現量が揃いやすい特徴を利用して、iPS細胞の誘導、FRET、タンパク質精製などに用いられているようだ。

 一方、短所としては上流側のタンパク質には2Aペプチドの一部が付いてしまうこと、下流側のタンパク質はN末端がプロリンになってしまうという点が挙げられる。前者については自己分解する2Aタグなるものもあるようだ。また、実験で用いる場合の注意点としては、上流側の終止コドンを除去することに注意しなくてはいけないことと、(どのような手法でもそうだが)100%切れるわけではないという点があるらしい。


 即座に2Aペプチドの技術を自分の実験に使う予定はない。ただ、生き物にはこんなトリッキーな仕組みがあるのか!?ということを知って、改めて生物学おもしれーと思った。

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