2014年06月03日

ヒトの細胞数は60兆個じゃなくて37兆個

 5月は本業が忙しかったのと、前の記事に書いた通り、しばらく本を読むことに集中していたので、ブログから遠ざかっていたけど、ちょっと気晴らしに(古いネタを掘り返しつつ)軽く書いてみよう。

 この話は先月Twitterにいる生物系研究者界隈で少し盛り上がっていて、TLで見かけた時には「これはとても大事な情報だなあ」と思っていたのだけど、誰かがまとめてブログに書くわけでもなし、Googleで検索してもTwitterで話題になった情報が出てくるわけでもなし、ということで泡沫ブログながら、この話題を自分が参照する用にきちんとまとめて記事に書いておきたくなった。Togetterとかにまとまっているんだろうか。

 タイトルにもあるように、ヒト成人の推定細胞数の論拠について。日本ではよく60兆個という数字が使われるが、具体的な根拠の無いまま、これまで勝手に使われてしまっていた。この多くの人(研究者)が言及するヒト成人の細胞数をきちんとした根拠をもって推定した論文が昨年出ていたらしい。この論文にしたがって、今後は「ヒトの細胞数は37兆個」といった方が妥当だと思う。

 → An estimation of the number of cells in the human body, Annals of Human Biology, Informa Healthcare



細胞数推定の方法


 きちんと論拠が出たのなら、その論拠がどうやって得られたのか、その手続を理解することはとても大事だ。論文によれば、大きく分けて3つの段階を経て、ヒトの細胞数を推定している。

 1段階目は文献の検索。検索対象とした論文の出版時期は1809年から2012年1月までの203年間。検索対象は、1. PubMedのデータベースを特定のキーワードを元に検索、2. 細胞数などの一次情報を含む論文、3. NCBI books、4. Google Books、5. Google検索、で見つかった論文や情報全て。効率的に検索を行うために、検索クエリにいろいろと工夫をしていたようだ。

 2段階目は形態に基づいた細胞数の見積もり。細胞や器官の体積を推定するため、スケールバーが掲載され、かつ細胞/器官の境界がはっきりしている論文のデータを著者らはリストアップ。次に見つけ出した細胞や器官の画像を直交座標系にプロットし、近似関数を用いて、細胞や器官の体積を見積もっている。

 そして3段階目が実際に計算をする過程。2段階目で得られた器官の体積を細胞の体積で割ることで、おおよその細胞数を見積もることが出来る。以上の3つの段階を経て、ヒト成人の細胞数を推定している。とてもシンプルな過程ではあるけれど、気が遠くなるような手間がかかっていると思う。

実際の推定


 ヒト成人の細胞数を推定するにあたって、著者たちは個別の組織/器官に着目。組織/器官ごとの細胞数を計算し、得られた細胞数を合わせることで、ヒト全体の細胞数を導き出している。

 計算した組織は脂肪組織、関節軟骨、胆管系、血液、骨、骨髄、心臓、腎臓、肝臓、肺・気管支、神経系、すい臓、骨格筋、皮膚、小腸、胃、副腎、胸腺、血管系、になる。もちろん、ヒト体内には列挙したもの以外の組織もあり、また器官は大きさの異なる複数種類の細胞によって構成されてもいるので、あくまで暫定的な見積であるが、この概算によって、ヒト成人の細胞数は

3.72±0.81 x 10^13


 と言えるらしい。標準偏差が±0.81x10^13となっているので、少なくとも10^13オーダーであることは間違いない。論文の記載によれば、10^12オーダーや10^14オーダーという情報を掲載している過去の文献もあるらしいが、それらは信憑性にかけると言える。

ヒトの細胞は赤血球が大半を占めている


 この論文の巻末には、細胞数を推定した器官ごとの結果が表としてまとまっているのだけど、面白いことにヒトを構成する37兆個の細胞数のうち、約26兆個が赤血球という結果が載っている。



 つまり私達の体細胞の3分の2は無核の赤血球で構成されているということになる。これはかなり驚かされる情報だ。

おわりに


 ヒトの細胞数は誰もが言及し、誰もが気になるけれど、誰も調べる気にならないような情報だと思う。なので、ヒトの細胞数をここまで論理的にきっちりと調べ上げ、論文という形でまとめてくれた著者たちの仕事は本当に素晴らしいと思うし、今後言及するようなことがあれば、この仕事を引用していきたいと思う。

 また、この論文をTwitterで言及してくださった@gaou_akさんにも感謝したい。

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