2016年11月25日

映画評:「Ex Machina」

 Ex Machinaは2015年公開の映画で、公開当時は職場近くにある映画館でも上映されていて、ポスターのアンドロイドがすごく気になっていた。友人と見に行こうという話も出ていたが、うまく都合が合わずに見逃しているうちに、映画館での上映が終わってしまっていた。他の映画に比べて、ずいぶんと長い期間に渡って上映していたように思う。理由はわからない。ちょうど先日、持て余した時間があった折にいい機会なので観てみた。率直に言うと、背筋が凍り、視聴後は暫く気持ちが落ち着かなかった。

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 タイトルのEx Machinaはラテン語(元はギリシア語)のフレーズDeus ex machinaを想起させる(参考)。Deus ex machinaは物語の演出技法を指した言葉ではあるが、この映画ではラテン語語義通りの「機械仕掛け」という意味なのだと思う。

 映画を見終えた後、関連する情報を調べている中で映画公開当時、様々なSNSを使い宣伝されていたことを知った。下で引用しているInstagramに加えて、出会い系アプリのTinderまで使っていたらしい(参考)。更にはアンドロイドのAvaと話せるサイトまで見つけた(参考)。思っていた以上に世間に知られている映画だったようだ。

 また、この「Ex Machina」は昨年のアカデミー賞において「マッドマックス」、「スター・ウォーズ」といった名だたる大作を押しのけて、視覚効果賞を取っており、アンドロイドを表現するCGの素晴らしさは一見の価値がある。それにしても、CGによる体の透明化ってどうやって実現しているのかがとても気になる。

What's the difference between 'AI' and an 'I'? #ExMachina

A video posted by EX MACHINA (@meetava) on




 物語はあるソフトウェア会社で働く青年Calebがプログラミングテストで優勝し、創業者であるNathanの家に一週間訪れる権利を得るところから始まる。Nathanの家を訪れたCalebは、Avaと名付けられた人工知能を持ったアンドロイドを開発していることを聞かされ、Turing test(数学者Alan Turingが考案した人工知能かどうかを判定するテスト)(参考)を行い、Avaに意識があるかを判定してほしいと告げられる。

 Avaはロボット様の体に人のような顔を持った外見を持ち、閉鎖された場所で過ごしていた。Avaに意識があるかを判定するため、CalebはAvaと会話をしていくことに。そのうちにCalbeはAvaに惹かれ、一方のAvaもCalebに対して恋心のような感情を見せるようになる。また、Avaは意図的に研究室の停電を起こすことができ、一定時間はNathanによる監視がなくなり、AvaとCalebはプライベートな話をすることが出来る。そのプライベートな時間を使ってAvaと話すうちに、CalebはNathanへの不信を募らせ、ある日Nathanが酔っている時に彼のカードを使ってNathanの部屋に入り、アンドロイド開発の真実を知ることになる。

 と、ここまではありがちなSFの流れではあるが、ここからの展開は予想外だった。また人里離れた研究施設という密室が心理劇としての要素をより高めていると思う。人工知能Ava、若者Caleb、開発者Nathanの三者がそれぞれに騙し合いをする中で何が真実かがわからなくなってくる。またNathanがCalebにAva開発の経緯を説明した瞬間は心底虫唾が走った。そして最後の展開には鳥肌が立つほどゾッとさせられた。一級もののホラーと言っていいだろう。

 近年、例えばGoogleが開発したAlphaGoが囲碁のトッププレイヤーを打ち負かしたりと、人工知能が人間を凌駕するのでは、という風潮が見え隠れするようになってきた。勿論、人工知能は人間の可能性を拡張してくれるもので好意的に捉えるべきと思っているが、潜在的な恐怖を持っている人も少なからずいるだろう。Ex Machinaはそんな恐怖心を呼び起こす作品だと思うし、だからこそAIがこのように捉えられている今の時代にこそ、見るべき作品だと思う。未来になったら「なんか違うね」というものになってしまうかもしれない。

P.S.
 「ロボットと人間の対立」は幾度となく描かれてきたSFにおける普遍のテーマだが、そのテーマに対する救いのような物語もある。個人的には「アイの物語」が映像化されたらどのようなものになるかは気になっている。

 → Pursuing Big Oceans : 書評:「アイの物語(山本弘)」 - livedoor Blog(ブログ)

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