2018年01月01日

書評:「ルバイヤート(ウマル・ハイヤーム)」

 人から薦められて読んだ一冊。恥ずかしながら、ルバイヤートもウマル・ハイヤームの名前も薦められるまで知らなかった。高校時代に表層的な知識を覚えるだけで、世界史を真面目に勉強しなかったツケがこういうところで来ている。

 ルバイヤートとはアラビア語の四行詩を意味する「ルバーイー」という単語の複数形で直訳すると「四行詩集」というタイトルになる。11世紀にペルシアの詩人ウマル・ハイヤームによって書かれた。後述するが、詩の内容がイスラム教の教義と相反するため、イランを除くイスラム教社会ではハイヤームの死後ずっと見向きもされなかった(異端とされた)が、19世紀イギリスにおいて、エドワード・フィッツジェラルドが英訳したことにより一躍名を知られるようになった。

 多くの日本語訳があるようで、調べた限りでは古いものも含めると10名以上の方がルバイヤートを日本語に訳してきたようだ。ペルシア語から直接訳したものや英語訳から日本語に重訳したものもあるらしい。今回読んだのは、小川亮作訳のものでペルシア語から直接訳しており、著作権が切れているので、青空文庫(参考)や無料のKindle本もある。

ルバイヤート
ルバイヤート
posted with amazlet at 18.01.01
(2012-09-27)

 詩というのは韻が大事なので、原語でない日本語訳では、その詩的表現が大幅に損なわれているのだろう。Wikipediaによると、ペルシア語詩は詩形がかなり複雑なようだ。
ルバーイー形式の脚韻

━━━━━○  ━━━━━○
━━━━━(○) ━━━━━○

ルバーイー形式の韻律(Hazaj Muthamman 体の一種:長音は─、単音はUで表現)

ルバーイー形式の半句に用いられる長音と単音の韻律は以下の4つが用いられる。

1) ─ ─ U U | ─ U ─ U | ─ ─ ─ | ─
2) ─ ─ U U | ─ U ─ U | ─ ─ U U | ─
3) ─ ─ U U | ─ ─ U U | ─ ─ ─ | ─
4) ─ ─ ─ | ─ ─ ─ | ─ ─ U U | ─

ウマル・ハイヤームのルバーイヤートは3) ─ ─ U U | ─ ─ U U | ─ ─ ─ | ─ が好まれた。

ルバイヤート - Wikipedia

 詩というのは批評を述べるのがとても難しい。自分自身、詩というものに馴染みがないから解説らしきものを書く能力がないというのもあるが、それ以上に読んだことに何かを書き足すのが、詩においては蛇足のように思えてしまうからだ。

 ルバイヤートには酒を歌った詩が数多く出てくる。これが上にも書いた、イスラム教と相反する理由の一つであったと思われる。肯定的に酒を捉え、酒を飲むことでこの世の悲哀を忘れ、人生を謳歌することの素晴らしさを歌った詩がたくさん登場する。例えば、以下のような感じ。本書からの抜粋。
天国にはそんなに美しい天女がいるのか?
酒の泉や蜜の池があふれているというのか?
この世の恋と美酒を選んだわれらに、
天国もやっぱりそんなものにすぎないのか?

この世に永久にとどまるわれらじゃないぞ、
愛しい人や美酒をとり上げるとは罪だぞ。
いつまで旧慣にとらわれているのか、賢者よ?
自分が去ってからの世に何の旧慣があろうぞ!

時の中で何を見ようと、何を聞こうと、
また何を言おうと、みんな無駄なこと。
野に出でて地平のきわみを駈けめぐろうと、
家にいて想いにふけろうと無駄なこと。

酒をのめ、それこそ永遠の生命だ、
また青春の唯一の効果だ。
花と酒、君も浮かれる春の季節に、
たのしめ一瞬を、それこそ真の人生だ!

 彼の詩には、この世には苦しいことがあるし万物は流転してしまうのだから、イスラム教が教えるような禁欲生活ではなく、自らの感情を開放して自由に生きようという意志が通してあるように思える。こうした人間の自由意志を尊重する姿勢・思想が、900年もの間この詩集が残ってきた理由なのかもしれない。(あとは詩として美しいのかもしれないが、それは分からない。)

 それにしても、この詩集を読んでいると、酒が呑みたくなって困る。苦しいことから逃れるためではない楽しい酒だ。酒は20歳になりたての若い頃にはよく失敗したが、今は度を越して飲むこともなく、楽しんで飲むことが出来る。正直なところ、好きが高じて、日本酒については一家言あるくらいに詳しくなってしまった。この詩集が歌う、愛しい人と美酒を飲むというのは、確かに人生における最高の瞬間の一つだろう。

 俗物的な行動にも見えるし無駄なことだと思われがちだが、この世の美しいものを追い求める、というのは、人生において忘れてはいけないことのひとつに違いない。とかく現代社会ではこうしたことを忘れがちではあるんだけれども。ルバイヤートは、そんなことをふと思い出させてくれる一冊だと思う。無料で読めるし、早い人なら20分程度で読める本だと思うので、正月休みのお酒のお供にいかがだろうか?

 ちなみに、ルバイヤート関連の情報を調べていたところ、本書はイランでは知らない人がいないくらい有名なものらしい。これについては今度職場にいるイラン人に聞いてみよう。

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