アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ

アメリカの人事管理に関する最新の話題を現地オレゴン州からお届けします

アメリカではオフィスがロックダウンされ、エッセンシャルビジネスで働くエッセンシャルワーカーを除いて多くの従業員が自宅などでのリモートワークにほぼ強制的に移行という状態になってから1年半以上が経過しようとしています。なかば有無を言わさずにリモートワークに移行させられてから、従業員の生産性や士気(エンゲージメント)には何ら変わりはなかった、いやむしろ生産性や士気は上昇した、という企業の声も聞こえてくる一方で、生産性や士気は低迷し、企業業績も落ち込んだままという企業の声もあり、決して一様ではないことが感じられます。もちろん、それらは業種によって、地域によって、さらに企業規模によっても当然違いがあります。IT業界やソフトウエア業界はリモートへの職場環境にもっともスムーズに移行できた業界であったかといえるでしょう。それに対して製造現場を持つ製造業では社内でリモートできる従業員と毎日出勤しなければならない従業員とに分けれ、同じ社内での不均衡さが問題化している企業も目立っています。

 

これらリモートに移行したことによって発生している問題を数え上げれば、枚挙に暇がないのですが、その中でも共通して管理側の頭を最も悩ませているひとつにリモートワーカーの人事評価ではないかでしょうか。前置きが長くなりましたが、本日はこの問題について取り上げてみます。おそらくコロナ禍前のオフィス勤務が当たり前であったときの評価制度を温存させて、リモートに移行してからも同じ制度で従業員を評価するというのはやはり無理があるわけです。このドラスティックにシフトした勤務環境の中で、人事評価制度の見直しがどうしても必要です。しかもこのコロナ禍は長期戦で対峙する覚悟をもたねばならず、リモートワークは一過性の流行で終わる性質のものではないことを管理側としては肝に据える必要があります。

 

では、評価制度の見直しに着手するにはどこから手をつけたらよいのでしょうか。おそらく多くの評価者は最初の一手から迷ってしまうのではないかと察します。私がお勧めしたいのは、月並みであるかもしれませんが、ジョブディスクリプションの見直しからです。コロナ禍に入って1年半が経過した中でオフィス勤務であったときとリモートワークとでの業務内容の違いもはっきりしてきた頃ではないでしょうか。このタイミングでまずはジョブディスクリプションの見直しをしてみてください。ジョブディスクリプションは評価フォームとは一線を画してはいますが、最新のジョブディスクリプションと紐付けして、評価フォームの中にある評価項目に落とし込んでいくことができるはずです。

 

 

その評価項目についてですが、よく巷でいわれているのは、リモートの評価はできるだけ実績や数字で評価するとよいということです。ですが、私はあえて反対意見を述べたいと思います。つまり、管理側はリモートをしている従業員がオフィスで働いていたときと比べて実際どのようにリモートワークしているのかがなかなか見えないので、だったら数字で評価しましょうと言っているに過ぎないと見えます。これでは、管理側の言い訳にしか聞こえないと私には映ります。リモートであれ、オフィスであれ、数字で評価できる点は一定であり、リモートになったからといって、数字で評価できる項目が数段増えるということなのでしょうか。従業員がタイプした文字数またはワード数の量や時間、あるいはスピードなどをモニターして、管理側に報告する機能がついたソフトなども出回っているようですが、確かにこれらのソフト機能を駆使すれば、数字は取ることができます。ただし、それらが従業員の生産性や士気の向上に直接的な相関関係があると証明できているのか、疑問を感じ得ません。

 

そこで、私としては数字には直接表わされない部分における評価をむしろリモートではウェイトをおくことをお勧めしたいと思います。リモートになっていると、そういった部分が見えないからこそ数字に比重をおくというのは一見もっともなように感じられるのですが、そこによりウェイトをおくことなると、従業員は会社からより強く管理されていると感じ、ただでさえコロナ禍で先行きの見えにくい混沌とした状況の中での不安やストレスを抱えている従業員の士気やモチベーションに暗い影を投げかけることになりかねません。リモートだから管理を強くするというのは、必ずしも適切ではないと思いますので、管理面を強くした数字中心の評価は従業員に対してあとあと禍根を残すことにつながるリスクがあることを意識していただきたいと存じます。

 

数字では直接表わせない評価項目の構築にぜひ使ってみていただきたいのが、「コンピテンシー」(Competency)です。辞書を引きますと、能力、適正、力量などの訳語が出てきますが、これは心理学用語のひとつでもあり、高成績を上げている従業員を調べてみると共通した特性や行動様式を持っていることがわかり、この高成績を生み出す人が持つ共通した特性のことをコンピタンシーと呼んでいます。コンピテンシーは、ポジションや職務内容が異なれば、やはり違いが出てきますので、最初は試行錯誤があるかもしれませんが、その職務内容に見合ったコンピテンシーを選んで評価フォームの評価項目に入れます。コンピテンシーは通常複数あり、必ずしも数が多ければよいというわけでもありませんが、10項目ぐらいまででしたら、異なるコンピテンシーを使ってみていただいて問題ないものと考えます。

 

 

最後にリモートワークをする従業員への評価で、最も重要であるのは評価者と従業員との間の信頼(Trust)関係の構築だと申し上げられます。信頼関係が弱ければ、どうしても管理面を強くせざるを得ないのは当然かもしれません。けれども、それは必要悪であって、本来の趣旨ではありません。リサーチ会社であるギャラップの調査によると、士気の高い従業員の96%は会社の管理側を信頼していると答えたのに対して、士気の低い従業員のそれは46%であったといいます。さらに信頼関係が高い職場においては、生産性が平均よりも50%高く、病気欠勤が13%低かったという調査結果が出ています。さらに会社を信頼している従業員のストレスレベルは74%、バーンアウト(燃え尽き症候群)に陥る従業員は会社を信頼していない従業員に比べてそれぞれ低かったという結果が出ています。これらの数字は、他山の石として管理者の方々の頭のどこか片隅に残しておいていただきたいと思います。

HRM Talk 9-2021

 

《記事執筆》

Ken Sakai

President & CEO

Pacific Dreams, Inc.

kenfsakai@pacificdreams.org

www.pacificdreams.org


先ごろ連邦労働統計局から発表のあった先月(20217月)の農業部門を除く失業率(速報値)は5.4%だということで、前の月(20216月)の5.9%に比べて1ヵ月の間に0.5%も下がっています。それだけ雇用された人々が増えたという証左になりますが、さらにその背景状況を垣間見てみますと、猛威を振るうデルタ変異種の影響で労働参入率は今も相変わらず低調なままであることがうかがわれます。それは、2年前(2019年)のコロナ禍前に比べると全米での労働就労者はいまだ570万人も下回っているということで、失業率の政府統計調査からも排除されてしまっている人々が相当数いることが推測される次第です。

 

州の最低賃金が連邦のそれ(7.25ドル)と同じである南部のある州においては、時給16ドルにて求人募集をかけたところ、募集に答える求人はまったくのゼロであったため、今度は求人面接に来てくれるだけで50ドル支払いますという広告を出しているレストランがあって、ちょっとした話題になっていました。ことほど左様に、特に飲食業や接待業ではとりわけ求人の採用難に直面しています。他に深刻な求人難に見舞われている業種としては、長距離の大型トラック運転手、建設業者、引越し業者、製材工場の従業員、そして精神科の医師や獣医師なのだそうです。

 

これらの業種に直接的には関係のない日系企業様におかれましても、人材の採用難に関しましては、もはや他人事では済まされないと申し上げられるものかと察します。多くのアメリカ企業では、社内に求人が出た場合、そのことを自分の知っている友人や親戚などに照会(Referral)をして、首尾よく採用までの暁に至った際には、特別ボーナスを支給するという施策を提供しています。SHRMSociety of Human Resource Management)が会員アンケートで調査したところによりますと、その特別ボーナスは $1,000 ~ $30,000 のレンジであったといいます。ここまでしないと、アメリカ企業であってもいまや人材の確保はままならないということかと思われます。

 

人材の採用難が深刻になる一方で、現在皆様の日系企業様で働き続けている既存の従業員の人たちに今後とも働き続けてもらうためのケアや配慮が必要になることは想像に難くありません。こう書きますと、すぐにでも給与体系の見直しを行い、賃上げの検討をしなければならないのかと頭を悩ませる日系企業の管理職の方々が多くいらっしゃるのでありますが、給与の引き上げや見直しだけが従業員の引止めに直接つながる施策というわけではありません。長年にわたって従業員の退職理由の調査を行っているSHRMによりますと、給与が一番の原因で従業員が辞めるという調査の年は今までに一度もないといいます。代わりに常に一番の理由に来るのが上司との間の人間関係なのだそうです。給与が理由に挙げられるのは通常4番目か5番目の理由になります。

 

弊社では全米規模での給与調査サービスをご提供しているのですが、日系企業様への給与調査を行っていてわかることは、日系企業様の給与水準は全体レベルで(低い方での)3分の1の水準に入っているケースが多く、中間値を下回っていることがほとんどです。そういう意味で給与レベルだけで日系企業様を見られてしまいますと、どうしても見劣りする不利な状況となってしまいます。ところが、日系企業様の多くは多少規模が小さくても、従業員への手厚い医療保険プランを提供しているところが多く、会社からの負担率もアメリカ企業と比べて高い水準を維持しています。特にこのコロナ禍の昨今にありましては、こういった医療保険の手厚さ充実さは従業員にとってはとても心強く、安心につながるわけです。とりわけ年配者やご家族をお持ちの従業員にとってはなくてはならないまさにエッセンシャルであるわけで、当然従業員の定着を維持する上での重要な求心力になります。

 

それではあまり病気もせず医療機関にお世話になることも少ない独身の若い世代の(ミレニアルスと呼ばれる)従業員へはいかがでしょうか。確かに年配者や家族持ちの従業員と比べて医療保険の重要さはさほどないのかもしれません。そうなりますと、若い世代にとっては給与レベルだけのことに目がいってしまうということは仕方ないことなのかもしれません。特に4年制大卒者や大学院卒業者は学生時代に多額の学生ローンを組んでいて、卒業後はそのローンの返済に苦しめられているのが現状です。アメリカの一部の企業では、そのような学生ローン返済プログラムを会社のベネフィットとして従業員に提供しているところが出てきています。このような施策によって若くて優秀な従業員をつなぎとめ、自社に定着させようとしているのです。

 

私は今後企業からの従業員への待遇面でいうと、給与の話だけではなく、もっとベネフィットの提供について企業として議論を傾けるべきではないかと考えています。会社から提供されているベネフィットに満足している従業員はそうでない従業員と比べて定着率が3倍高いという報告がSHRMから出されています。日系企業様で働いている従業員の方々が求めているところにマッチしたベネフィットを会社から提供することができれば必ずや従業員の定着率改善につなげられるはずです。そのような従業員が求めているニーズを知り出すためには、普段から従業員との間の会話が欠かせません。会話のひとつに従業員定着のためのリテンションインタビューという方法があります。従業員を会社につなぎとめておくためにも簡単にできる方法です。一度社内で試してみる価値は十分あるものではないかと思います。

HRM Talk 8-2021



《記事執筆》

Ken Sakai

President & CEO

Pacific Dreams, Inc.

kenfsakai@pacificdreams.org

www.pacificdreams.org









深刻なコロナ禍に見舞われた昨年春には、全米各州および各主要都市では軒並み大々的なロックダウンが敷かれ、一時は失業率がリーマンショック時を大幅に上回る戦後最悪の数字を記録したことはいまだ記憶に新しいところです。 それ以降、コロナ禍で職を失った人々が一斉に失業保険の申請を行うようになり、失業保険給付者は全米で2,000万人を超える未曾有の記録が散見されました。 現在は、ワクチン接種の広範囲な普及に伴い、失業率も緩和の方向に向かってはいるものの、最新の統計では20214月の速報値は6.1%と前月の3月に比べて、0.1%足踏みした状況にとどまっています。 現在でも失業保険給付者は、経済の回復が進んでいる割にはそれほどには顕著な減少には至っておらず、いまも全米で1,000万人近くが給付金を毎週受け取っているものと考えられています。

 

 

 

ご存知であるかと存じますが、バイデン大統領はこの3月にコロナ禍救済のための巨額の経済支援策としての新たな連邦法であります、ARPAAmerican Rescue Plan Act of 2021;アメリカ人救済計画法)の制定と施行に舵を切りました。 本法令の中には、連邦からの9月上旬までの失業保険の増強支援も含まれており、1週間あたり、通常州政府当局から給付される失業保険給付に追加して、連邦政府から毎週$300が給付されることになりました。 州から出される給付金額は州によってまちまちなのですが、全米の平均では$351/weekで、これに連邦からの$300が毎週追加されますので、1週間で$651が失業中に給付されることになります。 これを時給に換算しますと$16.28、さらに年収に換算しますと、$33,852となります。 何も働かずにこれだけのお金が入ってくるのであれば、まさに左団扇(うちわ)だと思う人も相当数いてもまったくおかしくありません。

 

 

 

実際に先月4月の労働参加率は61.7%であり、これは専門家筋の予想を下回った数字となりました。コロナ禍前の労働参加率は63.6%でしたので、現在経済が回復基調にある中では、いまひとつ力強さに欠ける印象は否めません。 その要因として指摘されているのは、失業保険給付が手厚すぎるのではないかという点です。 確かに最低賃金近くの低賃金でオファーされる仕事に就くのであれば、家にいて失業保険給付を黙っていただいていた方がはるかに楽ですし、職場に出向いてコロナに感染するようなリスクもほぼないわけですので、誰しもそのような職場や仕事に率先して働きに出ようとは考えないわけです。 そうなりますと、ビジネスのほとんどが全面的に再開していくこれからの趨勢の中で今後労働力不足は深刻なボトルネックになりかねないという懸念が顕在化してまいります。 実際に飲食店関係者の中では、コロナ禍でレイオフした従業員の人たちを職場に呼び戻そうとしたところ、その呼びかけにほとんど応じてこなかったという話を耳にします。 流通業界でもトラックやタンクローリーなどの長距離運転手が慢性的に不足していて、生活物資などの運搬に今後支障が出てくるのではないかと危惧されています。

 

 

 

本来、アメリカの失業保険制度には3つのA”というルールがあります。 3つのAとは何かと申し上げますと、”Actively look for work, Available for work, and Accept work”となります。 つまり、失業保険というのは、いったん仕事にあぶれた人が次の仕事を探して再就職できるまでのあくまでも“つなぎの”一時的支援金に過ぎないわけです。 ですから、仕事探しもしないし、家にこもってゲームに興じたり動画の配信をながめていたりして日長1日が過ぎていくために給付金をばら撒いているわけではないのです。 仕事も探さず、仕事もせず、給付金だけが自動的に入ってくる昨今の失業保険制度の増強はコロナ禍から立ち上がろうとしているアメリカの経済復興に対して暗い影を落とすことになりかねません。

 

 

 

しかも雇用主側であれば、レイオフした従業員が仕事も探さず、失業保険からの給付金で以前働いていたときと同じかそれ以上のお金が得られる、そのもともとのお金の原資というのは、雇用主が100%支払っている失業保険税によるところからきているのです。 元従業員の何人かが再就職もせず、失業保険給付金で食いつないでいるとしたら、とばっちりはいずれ雇用主の方にもそのつけがまわってまいります。 これは保険制度である以上、そしてその保険は使えば使うほど、原資自体は収縮する一方となりますので、雇用主に課せられる将来の失業保険税のレートに当然跳ね返ってくることになります。 ですので、雇用主としては仕事探しもせず、会社からの呼び戻しのオファーにも応じようとしてこない元従業員をそのまま放置しておくのはいかがなものかと私としては考え込んでしまいます。

 

 

 

まさにアメリカの失業保険制度の抜け道を突いたような一種の制度乱用をいつまでも放置するようであれば、将来禍根を残すことにつながりかねません。 共和党が主導しているレッドステイトの一部では、ここにきて、失業保険給付金のカットを検討しているところも出てきています。 手厚い失業保険をいつまでも出し続けるのではなく、再就職が決まった人にはボーナスのような一時金を支給するという案も実施に移す州も出てくるようです。 アメリカは社会主義国家ではないですし、北欧諸国のような高度な社会福祉体制を実現させている国でもありませんので、やはり現状のような失業保険制度では人々の働く意欲やインセンティブを奪い取ってしまいかねません。 労働力不足が原因で、アメリカ経済が再度停滞しかねない状況に陥る前に何とかして先手を打っていく必要があると思います。 巨額の大盤振る舞いはワクチン接種の普及とともにそろそろ終止符を打つ頃合いにさしかかってきているのではないでしょうか。

 

 

酒井 謙吉

President & CEO

Pacific Dreams, Inc.

kenfsakai@pacificdreams.org

www.pacificdreams.org



HR Talk 5-2021

このページのトップヘ