アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ

アメリカの人事管理に関する最新の話題を現地オレゴン州からお届けします

前回は新年最初の記事ということもあり、今年の「HRが果たすべきパーパス」というテーマで執筆させていただきました。書きたいテーマがなかなか見つからなかった今回もまたこの「パーパス」についてひとつ違った角度から深掘りしてみたいと思います。(ここのところ、なぜかパーパスという言葉に腹落ちする自分がおりまして、今回もまたお付き合いいただけましたら有り難いです)

 

古くは、会社では「社是」と呼ばれていたりして、毎日の朝礼で社員全員で唱和するという職場も多かったように思われます。その後、企業理念であるとか、行動規範とか、ミッション、バリュー、ビジョン、プリンシプル、スローガン、モットーというふうに呼び方はいろいろと変わってまいりました。皆様の会社では何と呼ばれているのか、興味を引くところでもあります。そんな中でも最近ではパーパス経営という言い方がもてはやされていて、会社を始めた当時創業者は単にお金儲けをするためだけに事業を始めるということでは決してなかっただろうと想像します。もちろん、お金を稼げなければ、会社を存続させていくことが出来ないわけですが、お金を稼ぐこと以外に会社が世の中や人々に貢献すべき事業対象があり、社会的公器としてそこに経営資源や人的資本を投入していくことがとりもなおさず、パーパス経営であったのではないかと申し上げられます。

 

呼び方としては、理念でもバリューでもパーパスでも、いずれでも構わないのですが、要はそれらが単なる紙切れに書かれたお題目などではなく、毎日の職場で仕事をしていく中で、働く者たちへの血となり肉となって、会社の本来あるべきパーパスを達成していく上で正しい行動がとれるガイドラインとなっているのかどうかなのではないでしょうか。そういう意味では、書かれたものがあまりにも広範囲過ぎていて、漠然としたもの、あるいは抽象的でどうとでも捉えられることのできるものであったら、果たして仕事の正しい行動に使えるガイドラインとしての役目を担ってくれるものでしょうか。いやいや本来、会社の理念は高潔なものでなければならないのだから、少々抽象的で理解に難を要する概念であった方が望ましいのだと、ご回答なされる向きがおありであるかもしれません。

 

よく好んで使われている言葉の中には、「誠実、信頼、協調、チームワーク」などが見かけられます。特に日本企業の中では好感が持たれているようなのですが、アメリカ企業では協調の代わりに「尊重」や「透明性」というのが最近では幅を利かせているように感じられます。いずれにしても、みな響きの良い抽象的概念で、誤って真逆の解釈をするようなことはまずありません。ですが、会社のパーパス経営を追求していく中では、ときに行動の選択が一筋縄ではいかない場合が現実的に出てまいります。二者択一でどちらの行動を取ったらよいのか、難しい局面はどなたでも職場でご経験があることでありましょう。そんな状況下で会社のそれら心地よい言葉が、果たして正しい行動の選択を導いてくれるものになっているのでしょうか。

 

ウォールマートを抜いてアメリカ最大の小売企業に返り咲いたアマゾンには、リーダーシップ・プリンシプルと呼ばれている一連のモットーの中に、とりわけ有名な次のような一節があります。” Have Backbone, Disagree and Commit” (「気骨を持ち、異議を唱え、コミットせよ」)そう、このモットーには抽象的な概念はほとんど感じられず、行動に移すことを促してくれています。例えば、新製品開発過程の中で、上司は新たな製品機能だけで新製品を開発しようとしているとします。ところが代わり映えのない似たような機能がいくつも引っ付いているよりは、流麗なデザイン性で選ぶべきだと自分は考えているとしたら、どうでしょうか。一番目の選択肢として、「自分の意見を述べ、上司を説得しようと試みる」のか、二番目の選択肢として「いや、上司との人間関係や評価を悪くしたくないので、自分は黙っていて上司の選択を尊重する」のか。アマゾンのプリンシプルに従えば、自ずと最初の選択肢を選ぶ方に決まってまいります。

 

職場の日常で、このような二者択一の場面に遭遇した時に、明確な方向性を与えてくれることによって、会社が持つパーパス経営において正しい選択肢が導き出せることになります。それを誠実や尊重といった概念的な言葉からだけではそうはいかなかったではあろうということはほぼ明白です。抽象的な概念をいくらちりばめてみても、あるべき行動にはなかなか結び付かないということがお分かりいただけかと存じます。皆さんの会社のモットーやパーパスがお題目や念仏を唱えるようになっていないかどうか、今一度検証してみていただくことをお薦めいたします。それらから正しい行動が促せられているのか、そして会社で働く従業員の誰しもが難しい局面であっても望ましい行動の選択が取れているかどうかも、まさにそのあたりが肝心要(かなめ)の拠り所となるのではないかと思います。

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《記事執筆》

Ken Sakai

President & CEO

Pacific Dreams, Inc.

kenfsakai@pacificdreams.org

https://pacificdreams.org/

新年おめでとうございます。

毎年新しい年を迎えても、その年の1年が実際どう動いていくのかを予測することはほぼ不可能に等しく、その意味では世界はますます混迷を深くしていると申し上げても過言ではないでしょう。それでも多くの人間が共に働く組織の中では、何らかのトレンドや傾向というものは常にあり、その進展具合を予測し、見守っていくことは十分可能です。そこで、この1年を予測するのではなく、組織や職場におけるHR2025年に果たしていかなければならない、パーパス(存在するための目的)を今回の記事では検証をして、取り上げてみることにいたします。

 

予測をして検証するためにまずは過去のHRが辿ってきた変遷を紐解いてみることから始めてみたいと存じます。私が20代後半で初めてアメリカに駐在で派遣されたのは1987年夏のときでしたが、当時買収先の米国半導体企業では、まだHRという名称も定着しておらず、社内ではPersonnel Department と呼ばれていました。1980年代後半の日本はちょうどバブルたけなわのころで、金余りの状態にあった日本企業は世界中の企業やホテル、リゾートといった不動産の買い占めを始めたころでもありました。逆にアメリカでは、日本のようなバブルの到来はほとんどなく、むしろリセッション(景気後退)に陥っていました。

 

当時のアメリカでは人件費は固定費ではなく、変動費として会計上では扱われていました。また、人件費は貸借対照表上における資産にも分類されてないのです。さて、半導体業界にはその頃から「シリコンサイクル」と呼ばれる4年から5年の周期による景気の大きな変動があり、サイクルが下降線を辿りだすと、どこの半導体企業も一斉に従業員の人員整理に走り出しまていました。その人員整理を主導するのがまさに当時のPersonnel Department でありました。ですので、Personnel Department はコストカッターあるいはコストセンターとして社内では従業員から見て近寄りがたい存在感を醸し出していたのです。

 

それ以前の時代のことは私はアメリカには来て働いたことはありませんでしたので、経験してはないのですが、逆に戦後50年代から80年代前半までは、アメリカでも労働組合活動が全盛期を迎えており、従業員の組合加入を阻止するためにPersonnel Department は従業員への待遇改善や福利厚生の充実を図ることに注力していたということを聞いていました。つまりPersonnel Department は、一般的に80年代前半までは従業員側に寄り添い、従業員を組合から守る立場にあったことがうかがわれるのです。

 

それが1980年に入ってから、Personnel Department はコスト削減にその注力が移り、HR Departmentに名称が変更になってからも、何とコロナ禍が訪れる2020年代初頭までコストカットの傾向は続いていましたしかし、世界中がパンデミックに襲われたことが大きな転換期となって、HRが注力しなければならない役割やパーパスは以降大きく振れているように思われます。世界的な感染症から組織は従業員を守らなければならず、人の行き来も厳しい制限を受けて、労働人口の伸びにも急ブレーキがかかり、コロナ禍で退職せざるを得ない熟練労働者も職場で多数発生しました。労働力不足はどんな業種や組織であってももはや無視することできず、日々の業務では喫緊の大問題となっています。企業のサプライチェーンにも大きな支障をきたし、遅延や停滞が日常化し、労働力逼迫および人材不足はもはや簡単には解決できそうにない大きな現代の試練として立ちはだかっていることは誰も否定することは出来ません。

 

今年のHRが果たさねばならないパーパスは学習能力のある良質な従業員のリクルートと採用、そしてさらに重要であるのは採用した従業員および現在働いている従業員の維持と定着ならびに教育なのではないかと考えます。そのためには、HRPersonnel Departmentであった原点の時代に立ち戻って、従業員に寄り添って支援を行うという本来のパーパスに原点回帰をしていかなければならないと申し上げられます。従業員をコストとして見るのではなく、資産として捉え直す、そのことを組織の経営陣やCEOに説得やプレゼンを続ける、 待遇改善やベネフィットの拡充を図る、従業員教育、とりわけリスキリング機会の提供、フレキシブルな職場環境の構築、キャリアの開発、従業員側に立った組織編制、過剰な職場ストレスの低減、DEIDiversity, Equity & Inclusion)への取り組みなどに自らの存在を示すためにもパーパスとして推進していくことが求められます。

従来アメリカでは、企業は株主のものという認識が非常に強かったわけですが、それもコロナ禍を契機にして、あるアメリカの金融調査機関が大手企業の経営陣を対象として行ったいくつかのアンケート調査の結果では多くの企業の
CEOは従業員をステークホールダーとしての重要度を株主よりも高く位置付けたということが判明しています。折しもクリスマスシーズン中でのスターバックスの店舗やアマゾンの配送センター、さらにはボーイング社でのスト突入、それ以前にも大手医療機関やドラッグストアなどでの大規模なスト決行があり、組合活動が盛んであった60年代や70年代を彷彿とさせるような状況が垣間見られるようになりました。労働市場が安定していて豊かな労働市場が存在していた時代はもう当面戻ってこないことをいまや企業は肝に据えるべき時代なのです。

先ほど列挙したHRのパーパスは今年1年間で達成させることはほぼ不可能です。膨大な時間がかかることは承知の上で申し上げています。ですが、HRは大きな転換期を迎えているということをまずはHRご自身ならびに経営陣が強く認識する必要があり、それが転換の第一歩となります。コロナ禍前のコストセンター的なパーパスでは早晩立ち行かなることは論を待ちません。いつまでも同じパーパスを変えずに惰性的に続けていくわけにはいかないのです。その手をこまねいていれば、遅かれ早かれ、企業競争の中で後塵を拝していくことになるでしょう。そんなことは従業員の誰もが望んでいないことでありましょう。2025年はその第一歩を果敢に踏み出し、今後HRの果たすべきパーパスのリセットをまずはやり遂げてみてほしいと思います。

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《記事執筆》

Ken Sakai

President & CEO

Pacific Dreams, Inc.

kenfsakai@pacificdreams.org

https://pacificdreams.org/

今回の大統領選挙では予想以上にトランプ氏への支持層が強く、特に混沌としていた7つの激戦州(スィング・ステート)すべてにおける勝利がトランプ氏の当選を地滑り的なものにしました。アメリカはご存じのように共和党と民主党という二大政党が、ほぼすべての選挙戦で得票数を競い合う展開となり、大統領選をはじめ連邦上下院議員や州議員そして州知事などが選出されます。今回の大統領選のように直前までまったく予断を許さない両党の候補者が大接戦を繰り広げるといった場合(蓋を開けてみると予想以上の大差になりましたが)、州によっては投票した人々の半数近くかそれ以上の票が死票と化してしまうことになります。

 

とりわけ民主党が基盤である東部地域および西部地域の大都市圏を抱えた、日系企業様も多く進出なされている州(ブルー・ステイト)では、相当な数の人々の票が水泡に帰すという結果になっています。そこでは民主党に投じた人々の落胆する度合いは大きく人々の無気力感や怒り、将来への失望や恐怖、ひいては鬱などメンタル部分への深刻なインパクトが心配されるところとなります。集中力も散漫となり、職場で働く従業員の生産性や仕事の質にも看過できない負の影響が現れてくることも予想されます。これは何もブルーステイトだけの問題ではなく、共和党が支配的なレッドステートの中にありましても何らかの負の影響が出てくることが考えられ、全米の職場で起こりうる懸念材料であると申し上げることが出来ます。

 

さらに今までの民主党政権では肩身の狭かった共和党およびトランプ支持者の人たちは、過去4年間のうっ憤を晴らすべくして攻撃的な発言や態度がつい出てしまったり、職場での従業員同士での不用意な軋轢(あつれき)が期せずして生じてもおかしくはないでしょう。すでに二大政党制よる深い分断で世の中全体が覆いつくされているアメリカ社会の中にありましては、職場だけが分断とは無関係にそして平穏にやっていけるというのはもはや非現実的であるのかもしれません。

 

これらの職場での懸念は、日系企業であればおよそ無縁でスルー出来る話というわけにもまいりません。日系企業様にありましても、職場でのメンタルヘルスを含む従業員各自のウェルビーィングへの微妙な変化などについては、ここ少なくとも数ヵ月は社内で十分注視して彼らに寄り添っていく必要があるのではないかと考えます。それらをそのままにして放置しておくのであれば、従業員の度重なる遅刻や早退、会社で決められたシックリーブを超える欠勤日の増加、そして長期無給休暇や退職というシナリオにまでいきつく可能性があることは否めません。

 

では会社はどのようにして従業員の心の変容に気づきを持ち、従業員に寄り添っていくことが出来るのでしょうか。社内に適切なコーチングや心のケアができる人間が常駐しているわけでもなく、ましてやメンタルヘルスの専門家がどこにいるのかを知っているものでもないというのが、多くの日系企業様が置かれている状況ではないでしょうか。アメリカ企業の事例から申し上げますと、マネジャーが従業員に対して果たす役割がとても大きいということが知られています。ほぼ毎週のように行われているのがマネジャーと従業員とのOne-on-One Meetingです。この11におけるミーティングで肝となりますのが、仕事の話や業務内容の質問に終始するだけではなく、家族や家庭、勤務時間外や週末の過ごし方、さらにプライベートな状況までをマネジャーは従業員から話を逐次聞き出そうと努力されます。

 

プライベートな話を職場でするというのは適切ではないのではないかとお思いの方もきっといらっしゃることでしょう。実は優秀なマネジャーの多くは従業員の会社以外での私生活についても関心を示して、出来るだけ話をしてもらい、それに対して真摯に耳を傾けているものです。日本人のマネジャーがそこまでできるのか、あるいは果たしてそこまでする必要があるのかとお考えになることもまた理解できます。しかし、そこまで入り込んでいくことによって、初めて従業員に寄り添うことが出来るのではないかと思われます。“One-on-One Meeting”で従業員とどんな話をしたらよいのか、途方に暮れてしまうよりはまずはご家族や勤務時間外での過ごし方などについて質問を投げてみてください。

 

もしどうしてもOne-on-One Meetingが上手く出来ない、何から話をしてよいのか見当もつかない、いった場合には外部からのサポートを躊躇せずにお受けしてみてください。確かに暗闇の中を手探り状態でトライアンドエラーするよりも、ご自身の勉強およびトレーニングの位置づけだとお考えになって、プロの外部コンサルタントやコーチなど第三者からのサポートをお受けになってみられることをお薦めしたいと思います。すべてをご自身だけでやらなければならないというわけではありません。今後の4年間は残念ながらそのような職場状況に迫られる段階が格段に増えてくる、そんな不穏な予感がいたします。特に皆様の職場で働く女性スタッフや就労ビザで働いている外国出身者への心のケアが喫緊の課題ではないかと察せられる次第です。

 

 

 

Ken Sakai

President & CEO

Pacific Dreams, Inc.

kenfsakai@pacificdreams.org

https://pacificdreams.org/

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