松山ケンイチ

July 30, 2011

『マイ・バック・ページ』  2011年52本目 チネ・ラヴィータ4

赤衛軍事件/朝霞自衛官殺害事件:1971年8月21日午後8時45分。歩哨中の陸士長が何者かに刺殺された事件。殺害現場に「赤衛軍」と書かれたヘルメットとビラがまかれており、当時過激さを増していた新左翼の犯行と目され、活動家が逮捕された。後の調査によりマスコミの記者が手助けしていた事が判明し、マスメディアの信頼が疑われた。

『マイ・バック・ページ』

別の映画のレビューでも書きましたが、健太郎は全共闘をはじめとする学生運動には否定的です。
健太郎が好きな作家の作中の言葉を借りるなら「反抗期。革命ごっこ」でしかありません。
なのに、何人もの人が命を落とし、一生残るような怪我をして、未だに成田空港は無様な様をさらしています(当初の計画通りの滑走路が未だに完成せず、千葉県の担当委員会の委員は過激派に襲撃され一生不自由な体に成り、怪我を苦にして自殺し、以来担当委員会は機能不全に陥っています)。
「人名は地球よりも重い」との妄言で世界に恥をさらしたり、警察の公安偏重の元凶でもありますし、左翼議員の温床になりました。

戦後日本に沢山ある恥で、バブル文化に次ぐ恥でしか有りません。

安田講堂事件、リンチ総括大量殺人事件、あさま山荘事件等々、沢山の事件がありましたが、「赤衛軍事件/朝霞自衛官殺害事件」はマスコミを巻き込んだ事件になりました。

『マイ・バック・ページ』の原作者の体験談です。
厳密に云うと、「赤衛軍」を名乗る活動家から殺害の証拠の腕章を受け取った《朝日ジャーナル》(作中では《東洋ジャーナル》)の記者が、腕章を焼いたのが「証拠隠滅」「犯人隠匿」として罪に問われました。
他に《週刊プレイボーイ》の記者が逃走資金を渡して問題になりました。

取材対象に「謝礼」や「お車代」と称して交通費を渡すのは珍しくないのですが、相手が犯罪者で資金に困っていた場合は「資金援助」に問われてしまいます。
食事に事欠き、潜伏先にも困るような場合は、食事を与えたり、匿っただけでも「逃走幇助」や「犯人隠避」になってしまいます。

「取材なのか、幇助なのか」はジャーナリズムとして難しい問題なのですが、日本のジャーナリストに偉そうに語る資格があるのでしょうか?

作中では「彼は思想犯ですよ」とありましたが、政治犯なら人を殺しても良いのですか?

《朝日ジャーナル》自体、「右手にジャーナル、左手にマガジン」(『週刊少年マガジン』全共闘世代の愛読書。よど号ハイジャック事件の犯人達も「我々は明日のジョーである」と云って北朝鮮に飛び立った)と云われたぐらいに(「手にはジャーナル、心にはマガジン」「右手にジャーナル、左手にパンチ」(『平凡パンチ』)とも云われた)全共闘の活動家達に愛読されたけれど、今起きている現状を伝えたり、隠された事実、真相を伝える以外にジャーナリズムのやるべき事はあるのでしょうか?
世論を操作する、世論を作るのはジャーナリズムの有るべき姿なのでしょうか?

作中でも再現されていた雑誌の回収と懲罰人事の元になった、「アカイ、アカイ、アサヒ、アサヒ」「朝日は赤くなければ朝日ではないのだ」は偏向報道そのものを表している様に感じてなりません。

コント集団《ニュースペーパー》のギャグで「一番右は産経新聞。一番左は朝日です」とあるけれど、正にその通り(このギャグの落ちは「赤旗は居ません」なんだけど)。

ジャーナリズムの本分は「報道」であって、それは公正命題、かつ中立でなければならない筈です。
偏向報道著しく、世論操作をもくろむ日本のジャーナリスト共にジャーナリズム云々を語る資格は無い。

と、健太郎はこんな男なので、観る前は「どんな全共闘万歳映画なんだ」「ジャーナリストがお高くとまった自伝映画なんだろ」と散々馬鹿にしていました。

がしかし。

青春映画でした。

原作者の自伝小説ベースなので、多大に美化されているかもしれませんが、若き記者と活動家との交流。上司、会社との軋轢。
大志を抱いて社会に出た若者が打ちのめされる現実。

業種、業界が違っても、社会に出た若者が誰もが感じる、ぶつかる現実。

物凄く現実的でした。

そして活動家。

今まで何本かの全共闘映画を観てきましたが、監督や脚本家や原作者が全共闘世代か、その一つ下で全共闘に憧れていた世代のせいか、全く描かれていないものがしっかり描かれていました。

にせ活動家。いわゆるエセ左翼です。

妻夫木聡演じる若き記者と、松山ケンイチ演じる活動家の交流を軸とした話なんだけれど、この活動家が何を考えているのか、何をやりたいのかがさっぱり解らない。
ぶっちゃけ口だけ男。
冒頭のなんたら哲学会での討論だって自己中そのものだし、その後の活動にしても何をしたいのかが解らない。

数名しか居ない仲間には大きな事を云い、マスコミに演説を打つ。
正に口だけ男。

実際、活動家にはこうい云った手合いが多く、作中でも描かれていた「カンパ」と称して学生やOB、マスコミから金をせびるのもざらにやっていました。

一番リアルに感じたのは、仲間が居る隣の部屋で女性活動家とイイ事してるシーン。
『光の雨』でも、「資金調達」と称して街に出た男女の活動家が、当時の世代の「淫らな同棲生活」をしているシーンが有ったけれど、活動家の間では「革命」と称して男性活動家から女性活動家へ行為の強制はざらにありました。
『光の雨』でも露骨な猥褻シーンや台詞もありました)

なのに、こう云った「口だけ活動家」「淫行」は、全共闘を扱った作品ではほとんど扱われていませんでした。
事実なのに、あたかも無かったかのように無視されていました。

そこをきちんと描いているのが、とても感心しました。

妻夫木聡演じる若き記者の葛藤も良かったです。
ロック好きで(エセ活動家との唄い合うシーンは良かったです)、映画好き(オールナイト好き)なのも共感が持てました。

妻夫木聡も今年で31歳。三十路に入っても見た目は未だ若手ですが、演技がしっかりしてました。
松山ケンイチの「口だけ男」も良かったですが、妻夫木聡がダントツに良かったです。

冒頭に、身分を隠してのフーテン(コード大丈夫かな?)の体験取材をしてるんだけれど、最後に思わずばったり再会してしまう。
そこで泣く。何故か分からないけど、兎に角泣く。

『ジョゼと虎と魚たち』に匹敵する泣きの名シーンです。
一瞬、「成長してないのかな?」とも思ったけれど、良いシーンです。


『映画一覧』
(mixiもやってます→健太郎@仙台)

2011/08/14追記→
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March 24, 2008

『人のセックスを笑うな』 2008年23本目5

『人のセックスを笑うな』 2008年23本目 3/16(日) チネ・ラヴィータ

やっと観ました。
山ナオコーラ先生の小説を『犬猫』の井口奈己監督が映画化。
『犬猫』なまら好きっす。
あの独特の雰囲気。
平凡と云うか、特にドラマが起きる訳でもなく、淡々と時間が流れる。
だからと云って決して味気ない訳ではなく、一つ一つの平凡さが過度に強調される事無くそのままに映っている。
好きです。

健太郎的にはカメラワークも好きです。
ひきで撮ってスクリーンで小さくなっている人物。
走っているシーンで、被写体の人物のスピードに関係なく常に一定のスピードで進むカメラ。
スクリーンの置くまで移動して小さくなっているのに、動かず寄りもしないカメラ。
カメラの動きと、スクリーンの間、空間の使い方が凄く上手い。

これは撮影監督の力かもしれないけれど、井口監督の作品はカメラを気にして観てます。

美大(美術学校とありましたが美大ですよね?)の男子2人と女子1人。
そこに臨時の講師で実は人妻の話。
19歳と云えば年上の女性に憧れる歳です。
この辺は「羨ましい」と「懐かしい」、そして「若いなあ」が混在してました。
相手は人妻なんで当然悩むんですが、悩む様も「悩め少年」(少年とか云う歳じゃないけどね)とか思いながら観てました。
相手が永作博美さんですからね。
とても39歳には見えません。
『ドッパルゲンガー』『空中庭園』(キツイ映画ばかりだ…)しか観てませんがすんごい好きなんです。
なんで、二人が愛し合うシーンは…(検閲)…でした。
若いっていいね。

女子はえんちゃん(蒼井優)。
人妻に恋するみるめ(松山ケンイチ)を好きな役。
なのですねるすねる。
機嫌が悪い。
人妻、ユリ(永作博美)に抵抗するも、人妻と小娘では勝負にもならない。
可愛かった。
学校を辞めてしまったのはもったいないけど(何しに学校に通ってんの?)、それが女心なのでしょうか?
男の健太郎には永遠の謎です。
映画館でバイトするのは羨ましいけれど(しかも会員制があったり、特集上映をやったり良い映画館だ)バイト中に寝るのはダメだよ。
コーヒーでも飲んだら?

後の男子は堂本(忍成修吾)。
通常男子A、B、女子Cの3人だったら典型的名三角関係パターン。
女子Cを巡って男子A、Bで張り合うか、男子Aが外部の女子を好きになって、それで女子Cが不機嫌になって、男子Bが男子Aを「お前気づかねえのかよ!」と殴るのですが、井口監督の作品でそんな熱い演出はありません。
なので、堂本の立ち位置は一言で云うとぬるい。
健太郎はこの「ぬるさ」が井口監督のカラーに感じた。
えんちゃんに気があるようだけれど、えんちゃんの不機嫌の原因のみるめには突っ込んだりしない。
そこまで熱くないのが何かかえってリアルでした。

ユリは当然、魅力的な女性でした。
あんな女性ならいくらでもモデルします。
つうか、みるめって美大生の癖にモデルがヌードだって気づかなかったの?
中学や高校の美術の授業じゃないんだから、モデルはヌードが基本でしょ。
裸体で骨格や筋肉の付き方や流れを見るんだからさ。
気づけって。
そもそも美術の専攻何?
温水先生の授業だと造形物っぽいけど?

あと個性的なキャラはみるめの爺ちゃんとユリの旦那さん。
爺ちゃんボケの半歩手前だし、ユリの旦那さんはイイ人だ。
信玄餅の正しい食べ方って何だ?

そして、健太郎的にメイン?なカメラワーク。
今作でも存分に堪能しました。

自転車のシーン。
『犬猫』の疾走シーンよりはスピードはダウンしてましたが、カメラワークは健在でした。
それと、これも『犬猫』に通じるんだけれど、知らない場所に行く時に道に迷うシーンでの道の映し方。
明らかに「人」よりも「道」がメインになってました。
バス停のシーンで背景の電柱が遠近感モロわかりで映っている画は素晴らしいです。

みるめとユリが愛し合うシーンは20歳の歳の差を感じない良いシーンでした。
愛し合う男女には歳や立場は関係なんだと。
ただ、男女の関係はそれだけでは無い訳で、みるめは悩む。
ユリは遊びなのか何なのか突然消える。
悩むみるめ。

悩め 性年 青年。
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February 13, 2008

『L change the WorLd』 2008年15本目4

『L change the WorLd』 2008年15本目 2/9(土) 仙台フォーラム

『デスノート』の名探偵Lを主役にしたスピンオフ。
『デスノート』前後編の最後で、キラことライトに先を越されない為に自らの名をデスノートに書き込んだL。
デスノートで人の死を操れるのは最大23日。
『L〜』では、キラ/ライトとの対決に勝利したLの、命が尽きる最期の時までを描いた作品。

Lをメインに据えたスピンオフなので主役は当然L。
なのでデスノート関連の話も無し。
Lが対決する「死神」は殺人ウイルス。
インフルエンザとエボラの混合ウイルスで、インフルエンザの感染力とエボラの殺傷力を持つ最悪の殺人ウイルス。
散布するのは「地球の環境を回復するには増えすぎた人類を抹殺するしかない」と考える過激な団体、ブルーシップ。
て事で『L〜』はバイオテロの映画です。

健太郎としては、この「バイオテロ映画」として観たので十分楽しめました。
この映画の評価の別れは↑かもしれませんね。

漫画の『デスノート』を読んでいないので、詳しくは知りませんが、Lはワイミーズハウスと云う組織に所属していて、ワタミは執事に見えるけれどどうもワイミーズハウスの創設者。
Lはワイミーズハウスのエージェントの一人で、同じくエージェントのFがタイの村でブルーシップのバイオテロの捜査をしていて、その村の生き残りの少年をワタリに託すも、ワタリは既に死亡。
Lが代わりに引き取るも「子守はどうも苦手です」とお手上げ。
同じころ、感染症の研究施設にこのテロの調査が持ち込まれ、その結果インフルエンザ・エボラ混合ウイルスだと判明。
抗インフルエンザ薬(ワクチン)の研究を進めるも、同僚がブルーシップのメンバーと判明。
研究者は自らの命と引き換えにワクチンを葬るも、もはや引き返せないブルーシップは死亡した博士の娘を捜索する。
この同僚がKでワタリ亡き後のLに近づき…

と云った感じのバイオテロもの。
個人的に好きなパターンなのでかなり楽しめました。

ワタリの組織のメンバーKがバイオテロのメンバーってのは、「思想的に危険人物」をメンバーにしてたって事で、セキュリティ的にどうよ? と思った。

Lの事が色々と見れたのは楽しかった。
秘密のアジトにはスイーツ部屋がある。
秘密のアジトに何かあった時の移動本部は移動クレープ屋。しかもちゃんとクレープが焼ける。
甘いものばかり食べるのは「脳に必要なのは糖分です」との事。

脳に必要なのは糖分って、あれだけひきこもりの運動不足で、あれだけ大量のスイーツを食べてるのに太らないで痩せ型の体形って事は、摂取した糖分を脳だけで消費してるって事?
どんだけ頭使ってんの?

猫背は伸ばせば伸びるけど、ポキポキ音してる。
70過ぎの爺様か?

L独特の物の持ち方、親指と人差し指で摘む。
椅子の上でも立て膝座り。
キーボードを打つのは人差し指一本。しかも早い。

元の漫画を読んでいないのでLの事は全く知らないのですが、秘密を知れたのは楽しかったです。

バイオテロの映画なので話の流れは、お約束ですね。

逃げる。

敵に先手を打たれて指名手配されてしまう。

何とかして協力者の元に向かう。

最初協力者は渋るが、最終的には協力してくれる。

何とかワクチンが完成するも、敵が最後の活動に出てしまう。

で最終決戦と。
なので、あまり突っ込まないように。
この映画はLの映画ですから。
てな事云うほどLの事は知らないけれど、あれだけ個性的なキャラを見せられたら十分じゃないのかな?

他の役者さんはこんな感じでした。

自ら命を絶ったウイルス学者役の鶴見唇吾さん。
プラズマで焼かれるシーンは鬼気迫る迫真の演技でしたし、父娘のシーンは優しいお父さんでした。

K役の工藤夕貴はてんぱってたかな。

FBIエージェントの南ちゃんは酷かった…

福田麻由子はやっぱり上手い。

健太郎の観方は世間一般とどのぐらいずれが有るかは知れませんが、バイオテロ映画として楽しめたし、Lの秘密の数々も楽しかったし、演者さんの演技も良かったです。
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ken_taro at 13:43|PermalinkComments(7)TrackBack(14)mixiチェック