【耐震偽装】住宅ローン支払拒絶は可能か?【被害者】

  • author: kenji47
  • 2005年12月08日

政府の手厚い支援策によって、耐震偽装マンション被害者の一応の救済は図られそうです。
しかし、マンションの買取価格は土地価格相当分にとどまるため、住宅ローンは全額返済することはできず残額を支払い続けることになります。
そこで、今回の事件の場合、住宅ローンの支払拒絶が可能なのか考えてみました。

私ごときが説を垂れるよりも、ずっと信頼性が高いと思われるので、民法学の東大の先生、内田貴教授が著書で述べられている内容をご紹介したいと思います。

「…残された問題の中で最も重要なもののひとつが、ローン提携販売や割賦購入あっせんにおける、抗弁の切断の問題である。通常の売買契約で商品に瑕疵があると、買主は、民法571条により担保責任との同時履行を主張して代金の支払を拒める。また、売買契約が錯誤で無効となりあるいは詐欺で取り消されると、買主は当然代金支払を拒める。ところが、割賦購入あっせんの場合、売買と立替払契約とが別々になされているため、買主の売主に対する抗弁が信販会社に対して主張しうるかという問題が生ずる。もし主張できないとすると、消費者は本来なら支払わなくてよいはずの商品代金を支払わされる結果になり、不当である。そこで、全体が三者一体となった取引であるという実質に着目して、抗弁権の対抗を認めるべきだとの議論が生じた。

 このような要請に対応して、昭和59(1984)年の改正で、割賦購入あっせんについては[割賦販売法]30条の4、30条の5が入り、一定額以上の支払総額のものについて、(政令で定めることになっており、4万円とされている)、抗弁の対抗が認められた。金額制限をしたのは、アメリカで50ドルの制限が課されているのにならったもので、取引金額が小さい場合に抗弁の対抗を認めることは、実益が小さい反面、加盟店への求償等の事務処理費用が大きすぎることを理由とする。しかし4万円は50ドルより随分大きく、高すぎると批判されている。…。
 …改正法の射程が及ばないのは、非指定商品の売買や役務取引のほか、重要なのはローン提携販売である。ローン提携販売が法改正の際に対象から外されたのは、割賦販売法が旧通産省の所管であるため、旧大蔵省所管の銀行への影響を避けたのではないか、との推測もなされている。しかし、解釈論としては、最高裁の平成2年判決にもかかわらず、ローン提携販売等については抗弁の対抗を認める解釈を採用すべきだとの見解が有力である。
 なお、平成2年判決も信義則を理由とする抗弁の対抗を否定する趣旨ではなく、その後も、役務取引(英会話学校に関する大阪地判平成6年9月13日判時1530-82等)などにおいて信義則上抗弁の対抗を認めた裁判例が現れている。」(内田貴 民法)

判例の中に出てくる「信義則」という言葉は「信義誠実の原則」を略したもので、一般に社会生活上一定の状況の下において相手方のもつであろう正当な期待に沿うように一方の行為者が行動することを意味します。つまり「ずるい」「卑怯」だと思われるようなことは、たとえ一応合法だとしてもやってはいけない、というような意味です。
内田先生の記述を要約すると、売主と買主が契約して売主のほうにトラブル(例えば住宅の欠陥)がある場合、買主(住宅購入者)は一般に瑕疵担保責任を主張して代金の支払いを拒めるけれど、住宅ローンを組んでいる場合、金融機関は第三者なので原則的に瑕疵担保責任を追及することはできません。しかし、それだと住宅に問題があるにも関わらす住宅購入者はローン支払いを拒めないので、それでは瑕疵担保責任追及の追及の実効性がなく不当である、そこで特定の商品については商品に瑕疵がある場合、ローン支払い拒絶をすることができるようになりました。しかし、銀行が扱う住宅ローン等についてはまだ認められていない。けれども、学説では住宅ローンなどにも認められるべきとの声が強い。判例では、信義則を理由に法律で定められていないローン契約について支払拒絶を認めた例がある、というような具合です。

そこで、信義則でローン支払拒絶が認められた大阪地判平成6年9月13日判時1530-82を見てみました。
事件と判決の内容はこのようなものです。
ある父親が娘を英会話学校C校に通わせることにしました。そして、受講料支払のために父親と英会話学校と提携するローン会社との間にローン契約が結ばれたました。娘はしばらく順調にC校に通っていましたが、C校を経営する英会話学校はそのC校の業績がよくないため閉校し、娘に対し隣接する市に展開している学校に通うように申し出ました。しかし娘は以前通っていた学校に愛着があり、隣町の学校に移る気もなかったので、父親に英会話学校との契約を解除してもらいました。しかしローン会社からはローンの支払いを求められたため、父親がローン債務の不存在確認を求めて訴えたものです。
判決は、ローン会社と英会話学校とは、資金的にも人的構成の面でも密接不可分の関係にあるばかりでなく、ローン会社の営業対象は英会話学校の受講生に対する受講料相当額の貸付けをすることに限定されていて相互依存関係にあり、貸付金はローン会社から直接英会話学校に払い込まれる形式になっており、ローン契約は実質的には立替払契約と同じ内容というべきものであることなどからすると、C校の閉鎖により娘の受講が不可能となり、いわば貸金契約の目的を達することができなくなった後においても、なお未受講分についての貸金債務の返済を続けるべきであるとするのは信義則上許されない。
と述べて、ローン契約の不存在を認めました。

これを、今回の耐震偽装事件にあてはめるとどうなるでしょうか?
銀行など多くの金融機関は、ヒューザー等の建築主と資本関係や人的交流関係がありませんから密接不可分の関係にあるとまではいえなそうです。
大阪地裁判例の考え方による限りでは信義則違反と認めることはできないと思われます。

最高裁が、信義則の範囲を拡大するなどして住宅ローン契約者を保護する可能性がまったくないとはいえませんが、
現在の法律及び判例法理に拠る限りは、住宅ローン契約者の支払拒絶が認められるのは難しそうです。

[姉歯問題]
民事責任1
民事責任2
ヒューザー社買戻し提案1
ヒューザー社買戻し提案2
刑事責任1
刑事責任2
刑事責任3
刑事責任追及のあり方
行政の対応策
国・自治体への責任追及の可能性
耐震基準未満住宅の割合
被害者支援
政府の被害者支援策決定
建替え後のマンション価格
耐震基準値による支援の不公平
マンション投資への影響
震度ってなあに?

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この記事へのコメント

法律を現象追認してどうすんの? 一番まもられるべきは「個人」であり 会社ではないとおもう 
違うならかえなくては
それにはどうすればよいと
思いますか?

1. Posted by ja8ucv_lvd 2005年12月08日 20:55

コメントありがとうございます。

現状追認というわけではありません。
もし訴訟に持ち込まれたらどのような判断がなされるかを認識することは被害者にとっても大事なことだと思います。

学者も消費者保護の視点は持っています。今後の立法によって、大企業保護から消費者保護をより重視する方向にいくべきだと思います。

ただ、法律の適用は不遡及は守られるべき原則です。
今回の事件があったからといって今までなかった法律を作って遡及適用するというわけにはいきません。

2. Posted by kenji47 2005年12月08日 22:09

初めまして。

私もこの辺のところは調べてみたのですが、「ちょっとむずかしいね〜」という感じを受けました。
判例が変更されない可能性は高く、被害者の方に切り札として住宅ローンの支払い拒絶を進めるのは難しいでしょうね。

3. Posted by nonki 2005年12月11日 18:22

コメントありがとうございます。

法律に詳しい方に見られてるとは…適当な事も勢いで書いてるので恥ずかしい限りです。

判例変更は難しいでしょうね。金融関係のルールに従って取引されてるのを信義則で覆すのは裁判所はやりたがらないでしょう。消費者保護は今後の立法の課題だと思われます。

4. Posted by kenji47 2005年12月11日 21:44

趣味で法律関係のことをかじっているだけですので、「法律に詳しい方」と言われると恥ずかしいです。たぶん、法律についてはわたしよりkenji47さんの方が詳しいと思います。
住宅ローンをどうするかについては、最終的には被害者の方がどのような道を選ぶのかによりますが、しばらくはどのような道を選んでも大変でしょうね。

5. Posted by nonki 2005年12月12日 23:39

TBありがとうございます。
内田教授の説は大変参考になりました。

6. Posted by 電気鼠 2005年12月14日 11:27

耐震偽装と最高裁判決検索して来ました、無いものですね〜著名弁護士さんはわざと避けてるのでしょうかw

漠然とした話で恐縮ですが、ニュースで被害者(マンション購入者)の方が、ローンの銀行?は購入物件とのセットであったと言われてるのを聴いた記憶があります。この場合どうなるのでしょうか?

またイーホームズの24人の天下りさんは仕事してたんでしょうか?その辺りの報道もみかけませんね。
長文失礼しました。

7. Posted by 莫 2005年12月18日 17:50

莫さん、コメントありがとうございます。

著名弁護士の先生は負けるのが嫌だから避けてるんじゃないですか。
今回は社会的な大事件なので勝てる可能性も「ちょっと」はあると思いますけどね。

購入物件とセットというのも、紹介の一形態というものに止まると思われます。
「密接な関係」とまでいえるかは?

イーホームズの天下りに限らず、役所の建築指導課も審査でほとんど「見ていない」のが現状ではないかと思われます。
現在のシステム上の問題でしょうね。

8. Posted by kenji47 2005年12月19日 10:47

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