けんさく。

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東方の三博士(16)

去年の続き

三人はページを次々めくって物語を遡っていきました。
もしくはリンクを次々辿って物語を遡っていきました。

迷いの森、空腹を食べる、卵の中の卵、15年も書いている割に大した内容ではありません。
それはそう。だって1年に一回しか書かないのだから。
毎回毎回去年何を書いたのか忘れた状態で去年書いたものを読んで、こんなのどう続きを書いたらいいんだと悩みながら続きを書く。
そのせいで毎年似たような話にもなってしまう。
過去に戻る話だって、迷いの森で書いたばかりなのにまた書いてしまっている。
それくらい、三人は忘れん坊なのです。大した話でないものをすっかり忘れてしまっているのです。

しかし、物語の最初で遡って三人は思い出しました。
三人は、西の方にひときわ明るい星が落ちだのを追いかけて旅を始めたのです。

そして、物語を遡っている間も、三人の前方にはその星が輝き続けていたのです。

物語を遡っているつもりが、物語をしっかり進めている三人を導くように。

(来年のクリスマスに続く)

都市の夢判断へ、ようこそ

フロイトは、人間には無意識と呼ばれる領域があり、それは普段は抑圧されていると考えた。そして、夢や言い間違いなどに、その抑圧された無意識が現れると考え、また神経症などは抑圧された無意識が原因とした。

フロイト理論が正しいかどうかはここではあまり関係ない。はっきり言えば私は間違っていると考えている。しかし、人間の活動のかなりの部分が意識されずに行われているのは端的に事実だ。

そして、別に意識に限らず、さまざまなことは我々から見えないところにあり、それが見えるところに少しだけ仄みえたり、見えるところの大きな変化の原因になったりしているのも、取り立てて言うことのないつまらない事実であろう。

なので、フロイト理論は比喩としてとても便利で、20世紀の哲学者の多くがこの比喩を乱用した。

しかし、乱用してしまうだけの魅力がフロイト理論にあったのも確かだ。というのも、フロイト理論に多くの人が魅力を感じた一つの原因はおそらく(奇妙に捻れた議論であるが)20世紀の「無意識」にあるのだ。

マルクスのイデオロギーや、ニーチェのルサンチマンなど、20世紀に強い影響を与えた理論は、互いに強い影響関係があったわけではないにも関わらず、やはりある種の無意識とその意識への表れについての議論を含んでいる。

無意識はまさに20世紀の無意識だったのだ。

20世紀を代表する哲学者であるデリダもまた、この無意識を分かち持っている。彼はもちろんフロイトについて語っているが、ここで挙げる例はむしろマルクスについての議論だ。彼は存在論(ontology)をもじった憑在論(hauntology)という用語で、現実化することに失敗してしまったはずのマルクス主義が、亡霊のように現実に影響を与える様子を説明した。つまり、意識から滑り落ちてしまったマルクス主義が、無意識として今も我々に影響を与えている、と言うことだ。

2017年に自殺したマーク・フィッシャーはこの言葉を、1980年台の失われた未来を夢見続けている、21世紀のある種の音楽に対して使った。

21世紀の今も、さまざまな亡霊のような存在が、見えない場所から我々に影響を与えているのだ。

さて、ここで視線をあなたの目の前に印刷/表示された思想や批評から、窓の外に広がる光景へと転じよう。

そして、バラードの言葉を思い出そう。彼は、次のように主張した。

「今や我々の世界は我々の脳内から出てきた人工物で覆われているのだから、外界こそ、フロイト理論で分析すべきだ」

書を捨てて、街へ出よう。そして、そこに蔓延る無数の不思議な人工物を、初めて見るように眺めよう。

なぜ、そんな形なのか。なぜ、そこに建っているのか。なぜ、我々はそれを不思議に思わないのか。

もちろん、建築学や人間工学でそれを説明することもできる。しかし、それは全て「意識」の上の話。

当然都市にも無意識がある。

無意識である以上、それを直接見ることはできない。

ではどうすればいいのか?

フロイトと同じことをすれば良い。

都市の見る「夢」を観察するのだ。

都市の見る「夢」とはなんだろう?

その一つの候補として、計画はされたけど建築されなかった建築物、「アンビルト」「紙上建築」「Haunture= Haunt + Architecture」が挙げられるだろう(ちなみにフロイトが「夢」以外に注目した「言い間違い」の都市版はもしかしたら「トマソン」なのかもしれない)。

夢が現実原則から離れて我々の願望を強く表すように、「アンビルト」もまた現実原則から高く飛翔する。

だからこそ、多くの人は「アンビルト」を面白くはあるかもしれないが、現実的ではないもの、役に立たないもの、くだらないもの、として見るだろう。

通常夢がそう思われているように。

しかし、今、あなたが獲得しかけている視線で街を見るとき、あなたは「アンビルト」に色濃く反映している何かが、現実の都市のあちらこちらにも淡く滲み出していることに気づくだろう。

それは、都市が見る夢を紐解く術をあなたが身につけ始めた、ということなのだ。

ようこそ、都市の夢判断へ。



アンビルトアンソロジー「HAUNTURE」に参加します。
Poster

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ご興味のある方はぜひ
2025年11月23日(日)文学フリマ東京 N41
ブース:N-44(南1-2ホール)
場所:東京ビッグサイト


東方の三博士(15)

去年の続き

それからどれだけの年月が過ぎたでしょうか?
5万年ほどだったかもしれません。
もしかしたら、2・3年だったかもしれません。
いや、さらに言えば、5分くらいだったかも。
それどころか、数時間くらい前だったかもしれませんが、ホルミスダスがいいました。
「でも、何かを忘れている気がするんだよな」
バルタザールとバダダハリダはそれを聞いて顔を見合わせました。
「そりゃそうだ。俺たちはいつだって何かを忘れてる」
「忘れたことの大半は忘れたことも忘れてる。だから思い出そうともしない」
「でも、だから何かを覚えることもできるわけだ」
「そういう一般論じゃなくてさ」
とホルミスダスは首を振ります。
「そもそもなんで、旅をしてるんだっけ?」
「旅を探すためじゃなかったっけ?」
「それは途中で言い出したことだろ? 確か旅の真ん中あたりで、急に地の文が、実は三人の旅はとっくの昔に終わっていたのでした、とか言い出して」
「そういえばそうだったかも」
「そもそも、旅に出るきっかけってなんだったっけ」
「どうだったかなあ。ずいぶん前のことだからなあ」
バルタザールは下を見ながら思い出そうとし、バダダハリダは上を見ながら思い出そうとしますが、何にも出てこない様子です。
「じゃあ、読み直しに行こう」
とホルミスダスは立ち上がります。ここからわかるように、どうやら今まで座っていたようです。
「どこへ?」
「何を?」
慌ててバルタザールは昇ってきて、バダダハリダは降りてきました。どこからかはよくわかりませんが。
「この旅の始まりへ! この旅の始まりを!」
ホルミスダスはそう叫ぶとずんずんずんずん前へと進んでいきました。そこからわかることは、どうやらそれまで後ろにいたってことかもしれませんね。

(来年のクリスマスへ続く)
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