1時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。
 3日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。
 8日間、幸せになりたかったら豚を殺して食べなさい。
 永遠に、幸せになりたかったら釣りを覚えなさい。(中国の諺)
 
 
 とある山の中、男が渓流釣りをしている。彼の前に流れる川はかなり急だが、水はきれいそうだ。魚だっていないことはないだろう。だが、彼の横に置いてあるバケツには、水と、あと小魚のみ。本来なら設置してある釣竿や、そこから垂れた釣り糸に注がれるべき視線が、宙をさまよっているところから判断すると、随分と長いことこの状態が続いているらしい。あくびをひとつ。
 その後ろから男が近づいてくる。登山をしていて、近くを通ったのであろうか。男のバケツをのぞいて、
 「釣れますか?」
 と訊く。釣り人は不機嫌そうに答える。
 「見りゃわかるでしょう」
 登山客はもう一度バケツの中をのぞく。
 「あんまり釣れてないように見えますが………」
 (ちっ、いやみなやつだな)
 と小声で釣り人はつぶやいたが、釣れてないのは本当なので反論ができないようだ。
 釣り人は大きめの岩に座り込んでいて、登山客はその後ろに立ち、流れを眺めている。その状態がしばらく続いた。すると突然登山客が、釣り人の耳元で、他に誰かがいるわけでもないのに、秘密めかして囁いた。
 「大物を釣らしてあげましょうか?」
 「ハァッ??」
 思わず素っ頓狂な声が出てしまったようだ。この男いったい何を言っているのだ。
 「どうでしょうか。悪い話ではないと思いますが?」
 釣り人は、最初はふざけているのかとも思ったが、この男の顔を見ているうちに、もしかしたら真面目も真面目、大真面目なのではないかと、だんだん不安になってきた。
 一体この男何者だ。大物を釣らす、なんてどうやって? 釣りの達人か何かなのか? その割には道具も何も持ってはいないようだが……… 大体、達人だって毎回大物が釣れるわけでもあるまい。それじゃあ、なんだろう、大物が釣れることを保障できるような人物って。たとえばこの川の精霊か何かとか。ああ、そうか、さっき持って帰って捨ててやろうと、転がってた空き缶をビニール袋に入れてたのを、この川の精霊が見ていて、恩返しに来たのかもしれない。でも、いまどき清掃登山のボランティアも珍しくなくなったし、それくらいで恩返ししてくれるかな? じゃあ、もしかして、こいつは悪魔の類かもしれない。大物を釣らしてやる代わりにこの契約書に血でサインしろ、さすればお前の魂は私のものだ、ハーハッハッハッハ………って釣りくらいで魂を売るやつなんているのかな? いるかもしれないけど、とりあえず俺は違うしなぁ。じゃあ、じゃあさ、一体全体こいつは結局何者なわけよ? ああ、ただ単に穴場を知っているってだけかも知れんな。
 というようなことを釣り人は約三秒で考えた。そして最後には興味も勝って、どうやって大物を釣らしてくれるのかお手並みを拝見しようじゃないか、ということを決心したであった。
 「じゃあ、釣らしてみせてくださいよ」
 するとその登山客は背負っていた荷物を降ろすと、釣り人の横に立って川の流れを覗き込んだ。そして、深呼吸すると、二の腕を耳につける型通りの姿勢で、川に飛び込んでしまった。
 ザブン!
 
 前回までのあらすじ
 親の仇を倒すために、剣術修行の諸国放浪をしていた稀近(まれちか)は、行く先々でなぞの組織の刺客たちと遭遇していた。しかし、彼らを倒しながら、確実に剣士として稀近は成長していくのであった。そんな折、伊賀に立ち寄った稀近は、なぞの忍術使いにより絶体絶命の窮地に立たされたのであった。


 「はーはっはっはっは。我が奥義、『分け身の術』が貴様にやぶれるかな?」
 「く、くそ、いったいどれが本物なんだ」
 正眼の構えで立つ稀近の周りには、幾つもの忍者の姿が見える。それが同時に動くと、森の中で視界も悪いため、幾つの像が見えているのかすらもわからない。もちろん、そのほとんどすべては残像にすぎないのだ。どうにかしてこの技を見破らなければ。
 「そーら。ぼけっとしてるんじゃないぞ」
 スッと、背筋に悪寒が走る感覚がした。後ろに気配するので、刀を体の正中線に立て、振り返りながら飛び下がる。しかし、見えたのは、日の光が刀に反射した、一瞬の閃きだけだ。刀の先が頬をかする。一瞬遅れていたら頚動脈だ。手の甲で顔をぬぐうと、袖まで赤く染まる。
 「俺の一の太刀が皮一枚とは、なかなかいい反応をするじゃないか。だが、つぎはどうかな?」
 このままではだめだ、やられる。
 そのときだった。心の中に直接呼びかけてくるような声が、響いてきたのだ。
 (稀近よ、よく聞け)
 (この声は。お師匠!)
 ふと、上を見上げると、青空に懐かしい師匠の顔がうっすら浮かぶような気がした。
 「そらそら、よそ見していると、首から上と首から下が、さようならしちまうぞ」
 どうやら相手には聞こえていないらしいことに、稀近は気づいた。それでは、これは遠くにいるお師匠が、直接私の心に話しかけているのか?
 (稀近よ、よく聞くのだ。上辺だけの幻なんぞに惑わされてはいかん。真実を見極めるためには、雑念を振り切って、心の目で見るのじゃ。そして理力じゃ、理力を使え)
 (心の目、すなわち心眼!なるほど。しかしいったいどうやって?ぼやぼやしていて、気づいたらすでに俺の体は傷だらけだ。くそっ、こうなったら賭けるしかない)
 稀近は、一念発起すると、心をできうる限り静めて、目を軽くつぶった。敵の忍者はそれを見てあざ笑うように言った。
 「おいおい、もうあきらめちゃったのか? 念仏でも唱えるってんなら、唱え終わるまで待ってくれるなんて思わないほうがいいぜ」
 しかし、稀近の心は内側へ内側へと、沈んでいった。外側への一切の知覚の扉を閉じ、今まで閉じていた心の目を開こうとしたのだ。次第に外界の物音は背景に後退し、最後にはほとんど聞こえなくなる。触覚もまた然り。世界には自分しかいなくなり、それ以外は静寂の海。すると次第に、心のふたが開けられ、その中にあるものがあふれ出そうとしているのがわかるのだった。
 見えた!見えたぞ!心の目によって見える、今この眼前にありありと! いくつもの虚像の中でどれが本物なのかも見えるし、そいつをどうやって倒せばいいかも見えるぞ! 俺の一撃を敵が避けようとするが、避けきれずに致命傷を受けてしまうのも、そして奴はあの俺を付け狙う組織の一員であるが、結局その組織の正体も今回はわからずじまいなのもみんな、ちゃんとちゃんと見えるのだ! それだけではない。俺はこの後傷ついた体を引きずりながら、山を降りようとするが、あまりの痛みに気を失ってしまう。俺が気がつくと、そこは小さく粗末な農家の家の中だ。一人の優しい農家の娘が、偶然薪を取りに山に入っていて、助けてくれたのだ。彼女は、俺が回復するまで手厚く看護してくれる。そしていつしか二人の間には、単なる偶然を必然のように感じさせるような思いが、育っていったのであった。しかし、俺にはやらなくてはいけない使命があるのだ。あの憎き父の仇、あの隻眼の男を探し出すまでは、俺は立ち止まるわけには行かないのだ。ごめんよ、お冬、君と俺とは双曲線のように、一度接近することはあっても、最終的には交わることのない運命なのさ。「ああ、なんて好いたらしいお方。なのにあなたは出て行こうとなさる。こんなにお慕い申し上げているのに、こんなに身を焦がしているのに」俺は、未練を残さないように、ある夜こっそり寝床を抜け出し、旅を再開した。まだ、怪我が治りきったとは言いがたいのだが、しかしこれ以上ここに残れば、俺の理性の歯止めがいつまできくかどうかもわからない。俺は敵討ちのための恨みだけで生きている人間なのだ。剣の交わり以外の、人同士の交わりなど、俺には必要ない。いや、そんなもの、してはいけないのだ。俺は明日もわからない、いつ死ぬかもわからない人間だ。いつ死んでもいいようにしていなければ。
 俺は町に出た。町にいれば、奴ら、つまり俺を付けねらう奴らに見つかる可能性も高い。怪我が治りきらない俺にとっては危険だといえる。しかし、町に出なければ情報収集もままならないのも確かだ。俺は、まず町外れの茶屋に入った。
 そこで俺は、幼馴染のさっちゃんに出会ってしまったのだったグハァァッ
 「命の取り合いをしてるって時に、目をつぶってニヤニヤしてんじゃねぇ!!!!」
 
 彼は後悔していた。なぜこんなことになったのだろうかと考えていた。だが彼はまだこれからどんなことが起こるか知らないし、よってもっと後悔することも知らない。
 毛の長い絨毯ですら消しきれない足音を立てて、あれがまた近づいてきた。喚き声、怒鳴り声、そして突然噴き出すけたたましい笑い声をともなって。何を言っているのかはほとんど分からない。分かるのは、時々立ち止まって叫ぶ、「そこにいるのは分かっているんだぞ」と、時どき発作的にドアを開けた時の勝ち誇った「そこだ、そこにいるんだろ」だけだ。しかし、何かの確信があるわけでなく、当たるを幸い、手当たり次第にドアを開けているだけらしい。その探している誰かが誰なのかも、分かっている形跡はない。彼を探しているのでもないのだろう。要は、噂は本当だったということだ。噂を信じていなかったわけではない。噂を信じたからこそここにいるのだ。だが、ここまでとは思っていなかったのだ。彼は女中部屋のクローゼットの、古びたお仕着せのあいだに身を潜ませながら、心底後悔した。
 だいたい、彼はもうこの町にはいないはずだった。昨日、遅くとも今日には、汽車に飛び乗って、こんな辺鄙な場所からおさらばしているつもりだったのだ。あまり長い期間、同じ地域で稼ぎ続けるは危険だし、それにもうすぐ熱砂の季節が来る。野外では目も開けていられないし、それに砂が家に入らないように戸締りも厳重になり、仕事がしにくくなる。それなりの収穫もあったし、そろそろ引き上げて、どこかカジノのあるリゾート地で羽を伸ばしたい、と候補地の表を頭の中に作ろうとしていながらグラスを傾けていた、あの酒場でのことだった。この屋敷の話を聞いたのは。
 ―あの気違い屋敷知ってるだろ。
 ―ああ、それがどうかしたのか。
 ―あそこ、もう十年近くなるだろ。
 ―おい、何の話だよ。混ぜろよ。
 ―だから、気違い屋敷のじいさんの話だよ。
 ―何だよ、それ。詳しく話せよ。
 ―知らないのか、お前。あの、アタラテ山の麓にでっかい屋敷があるだろ。
 ―ああ、あるな。あそこって、誰か住んでるのか。俺はてっきり……
 ―住んでるも何も。昔はかなりはぶりが良かったらしいぜ。いろんな事業に手を出してぼろ儲けだ。ところが家主のじいさん、十年くらい前に頭のねじをどこかに落っことしたらしくて、それ以来家族は出て行くし、使用人もみんなやめちまって、今では大昔から仕えているじいやだかなんだかが、一人で身の回りを世話しているらしいんだが、やっぱ一人ではあんなでかい家の世話までは手がまわらず、家は荒れ放題ってわけだ。
 ―へえ、あそこ人が住んでたんだ。俺はてっきり……
 ―で、話は戻るけど、あのじいさんがどうしたんだ。
 ―そうそう、あそこ、気が狂う前は相当あくどいことまで手を出してたらしくて、奥さんが出て行くときに持っていった分を引いても相当残っているらしくて……
 ―それで。
 ―しかも、あのじいさん、おかしくなる前から相当の変人だったらしくて、銀行とかそういう類の物の一切信じなかったらしくて、あの家の中に金とかそういう物の形でためこんでるらしいんだよ。
 ―なんでお前がそんなこと知ってるわけ。
 ―そりゃお前、俺も噂を聞いただけなんだけど……
 人気のない屋敷なら潜りこむのも簡単だろう。それに頭のイカれたじいさんと年老いた使用人なら見つかっても大丈夫だ。もし何か獲物があったら、見っけもん、何もなくても痛くもかゆくもない。だったらここでの仕事おさめとしても悪くはない。そのときには彼にもそう思えたのだ。
 だが、今はとてもそうは思えない。とうに夜半を過ぎているのに、一向にこの家主は落ち着こうとしない。錠をこじ開ける前に灯りが点いていないことは確認した。だがこのじいさんが手に持って歩き回っている小さな燭台の光りには気がつかなかったのだ。廊下を抜き足差し足で歩いていると、廊下の曲がり角の向こうから、このじいさんのたてる騒音が聞こえてきて、思わず手近にあったドアに飛び込んだ結果がこうだ。そのときに何か物音でも聞こえたのだろうか、これだけ広い屋敷の中で、今夜の捜索区域をこの近辺と定めたらしく、じいさんは同じところをぐるぐる回り続け、当てずっぽうに誰かを、何かを探し続けている。このドアが開かれるのも時間の問題と言えそうだ。「今日こそ必ず見つけてやる。私の人生を台無しにしおって。今日こそ必ず、今日こそ必ず」とぶつぶつ呟きながら、足早にこの部屋の前を通り過ぎたのを確認してクローゼットから這い出し、ドアに耳をつけて、足音を追う。足音が変わる。階段を昇って行くようだ。今しかない。音を立てないようにドアを開け、身を滑り出させる。階段があるほうの反対側にいけば、窓があって外に出られるはず。足音を立てないように、だができるだけ急いで、いつ気が変わって戻ってくるかもしれない階段の方へと意識を向けながら、角を曲がって前を向くと、途端に目がくらんで立ちすくんだ。
 光り、蝋燭、人。なんで。むこうにいった筈なのに、階段を昇ったはずなのに。顔の前に手をかざして光りをさえぎろうとする。目が慣れてくる。いや違う。あのじいさんよりさらに年老いた、枯れ木のような男が、わざわざ寝巻きから着替えてきたのであろうか、使用人の制服に身を包み立っている。ベルトの尻のところに差し込んでいた鞘からナイフを抜き放つ。左手で目を覆い、刃を持った右手を前に突き出し腰を低くする。いつだって殺しは最終手段だ。できることならもうやりたくない。
 蝋燭の炎に下から照らされて、ぼうっと生気のない顔が浮かび上がる。目はまっすぐ彼を見ているが、まるで体を通り抜けて向こうの壁を見ているようだ。さもなければ何も見ていないよう。ナイフを閃かせても何の反応もない。なんだ、こいつも狂ってるのか。可愛そうに。どこにも存在しないものを探し続ける主人に十年近くも仕えていたら、頭の一つや二つおかしくなってもおかしくはない。
 「ようし、そこから動くなよ。あんただって死ぬのはいやだよな。動かなければ死ななくてすむんだ。あんな主人への忠義のために命を投げ出す必要なんかないってもんだ」
 微動だにせずに右手に燭台をもってまるで自分自身が大きな燭台に成り果てたように突っ立っているその姿から目を離さずに、彼はナイフを構えたまま老人の横を迂回する。そしてすばやくナイフを鞘に戻して、一目散に一番近くにあった窓に取りすがる。手探りで金具を探す。錆びていて、動かない。もう一度抜いたナイフの柄で何度か叩いてようやく金具が外れる。しかし窓自体に相当ガタが来ていて、なかなか体が通るまで開かない。そのとき、窓の外の景色が動いた。違う、動いたのは影だ。斜め横に伸びていた影が真正面に来て、短くなる。動いているのは窓の外のものではなく、光源。
 
 前回までのあらすじ
 親の仇を倒すために、剣術修行の諸国放浪をしていた稀近(まれちか)は、行く先々でなぞの組織の刺客たちと遭遇していた。しかし、彼らを倒しながら、確実に剣士として稀近は成長していくのであった。そんな折、伊賀に立ち寄った稀近は、なぞの忍術使いにより絶体絶命の窮地に立たされたのであった。


 「はーはっはっはっは。我が奥義、『分け身の術』が貴様にやぶれるかな?」
 「く、くそ、いったいどれが本物なんだ」
 正眼の構えで立つ稀近の周りには、幾つもの忍者の姿が見える。それが同時に動くと、森の中で視界も悪いため、幾つの像が見えているのかすらもわからない。もちろん、そのほとんどすべては残像にすぎないのだ。どうにかしてこの技を見破らなければ。
 「そーら。ぼけっとしてるんじゃないぞ」
 スッと、背筋に悪寒が走る感覚がした。後ろに気配するので、刀を体の正中線に立て、振り返りながら飛び下がる。しかし、見えたのは、日の光が刀に反射した、一瞬の閃きだけだ。刀の先が頬をかする。一瞬遅れていたら頚動脈だ。手の甲で顔をぬぐうと、袖まで赤く染まる。
 「俺の一の太刀が皮一枚とは、なかなかいい反応をするじゃないか。だが、つぎはどうかな?」
 このままではだめだ、やられる。
 背後で、地面を強く蹴る音がした。ぎりぎりまで集中していたからこそ、そのかすかな音に気づき、瞬間的に反応できて、振り返った。しかし、相手はほとんど体当たりするように飛び込んできており、こちらはのけぞりながら振り返っているため体勢が悪い。受けが間に合わない。終わった、と稀近は思った。体がこわばる。幾つもの死線を潜り抜け、死の恐怖などとっくに克服したと考えていたにもかかわらず。しかるべき痛みが感じられるのを彼は待った。
 しかしそれはなかなか来なかった。いったいこれはどういうことだ?稀近は異常に気がついた。周りから音が消えていた。そして、今まで速すぎてほとんど見えなかった忍者の動きが、まるで油の中を泳いでいるように、ゆっくり見えたのだった。これはいったいどうしたことだ、と稀近は考えた。
 そのときだった。心の中に直接呼びかけてくるような声が、響いてきたのだ。
 (稀近よ、よく聞け)
 (この声は。お師匠!)
 ふと、上を見上げると、青空に懐かしい師匠の顔がうっすら浮かぶような気がした。前にも経験があるのですぐにわかったが、これは遠くにいる師匠が直接心に語りかけているのだ。
 (今、おぬしは人間の限界に挑戦しようとしているのじゃ。人間は普段、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、の五感によってこの世界を認識しておる。じゃが、極限状況に追い詰められた人間は、その状況を正確に認識するため、視覚以外の感覚を締め出し、そしてその視覚を極限まで張り詰めさせる。その際、恐るべき集中力を発揮させることになる。それがお前が今見ているその景色じゃ)
 なるほど。人が死ぬ寸前に走馬灯を見る、という話を聞いたことがあるが、瞬間的に一体どれほどのものが見えるのかといぶかしんでいたが、それもこの時間の引き延ばしで納得ができるのかもしれない。しかし今はそんなのんきなことを考えている暇はない。
 (行け、稀近、人間の潜在能力の力を見せ付けてやれ)
 「な~る~ほ~ど~、こ~ん~な~お~そ~い~う~ご~き~だ~っ~た~ら~か~ん~た~ん~に~よ~け~ら~れ~る~ぜ~、っ~て、あ~れ~、お~れ~の~う~ご~き~も~お~そ~く~な~っ~て~、(ズッバシューッ)うわあ~ち~が~で~た~、こ~れ~じゃ~は~な~し~が~ぜ~ん~ぜ~ん~ち~が~う~じ~ゃ~ね~か~!~!~」
 そのとき、敵の忍者の唇がゆっくりと、次のような言葉を言うように動くのが見えた。
 「な~に~わ~け~の~わ~か~ら~ん~こ~と~を~い~っ~と~る~ん~だ~、け~っ~と~う~の~さ~い~ちゅ~う~に~、こ~わ~く~て~き~で~も~く~る~っ~た~か~!~?~」
 ズバァァァッシューーーーーーーーーーーー
 川平彩子は極彩色の死の夢から悲鳴とともに目を覚まし、夜の暗い静寂に響くその余韻に耳を澄ました。卵を内側から割って這い出ようとする胸の鼓動と、頭蓋の奥で羽ばたく耳鳴り以外、何も聞こえない。毛布を握りしめてしばらく震えているとだんだん落ち着いて来て、もうあの金粉をまぶしたような夢の内容も、定かには思い出せなくなる。彩子は水を飲もうと、ベッドから降りて、素足のままぺたぺたと廊下に出る。きっとまだ少し寝ぼけているのだろう。あの夢のお腹の中にいるみたいに床や壁がぐにゃぐにゃして、裸の足の裏がひたひたと濡れているみたいに感じる。深呼吸して、気をとりなおすと、壁のぐにゃぐにゃは止まった。でも廊下の床は相変わらずぬらぬらと湿っている。大きな蛞蝓が這い回ったみたいだ。常夜灯に反射して、きらきらとその道筋が見える。それは廊下を真っすぐに進んで、明かりがついたままのキッチンに入っていっている。そこに倒れていたのは、いつも遅く帰ってくる父親だった。まだスーツも脱がないまま、床に倒れふしているその体の周りが、薄緑の粘液でべたべただ。
 お父さん!
 彩子は驚いて駆け寄り、肩を揺らそうとするが、手のひらについたキャベツの汁のような臭いの糸を引く液体に思わず手を引っ込める。顔や手など、肌が出ているところはもう表情が見えなくなりそうなほど、どろどろになっている。でも服を着ているところは、まだ湿っている程度だ。一体これはどういうことなんだろう。理解できず、立ち尽くしていると時間だけが過ぎていき、そのことに驚いて、母親の寝室に走る。
 お母さん! お父さんが!
 意味のある言葉は何も出てこず、ただ叫びながら、シーツに包まれた母親の体を揺らす。シーツがじっとりと濡れていた。意味のない叫びすら、喉に引っかかって出てこなくなる。
 お母さん?
 母親の体の向きをごろりと変えると、長い髪が頬や首筋にべっとりと絡み付いている。耳や鼻や口、それだけでなく体中の毛穴からしみ出してくる青臭い粘液が、枕にしみ込んだあと堅く乾きはじめて、体の向きを変えると一緒についてくる。シーツ自体も、母親の体と一体化してしまっている。彩子はたじろいで、ベッドから離れようと後ずさる。背中にごつんと何かが当たる。半年前、生まれたばかりの弟だ。弟の体はすっかりもう粘液に包まれて、おぼろげな影としかその体が見えない。粘液は固く固まって、その中から弟を助け出すことも、もう出来そうにない。
 こぽこぽと何かが泡立つ音。母親の口が動いている。彩子は、懸命に手を動かして、固まりかけの気持ちの悪い液体を、母親の口の周りから取りのける。
 ごめんね。
 母親が言った。
 お母さん! 大丈夫なの!?
 しかし彩子の声は母親には届いていないようだ。ただ、存在だけは感じているのだろう。
 今まで黙ってたけど、あなたはわたしたちの本当の子どもじゃないんだよ。
 なんで今そんなことを言い始めるんだろう。彩子には理解できない。
 あなたはね、施設から貰ってきた、魂のない人間なの。
 魂? 一体何のこと?
 魂は肉食で大食いだから、みんながみんな魂を持っていると、魂たちは餓死してしまうの。だから、あなたみたいに魂のない人間が必要なの。ごめんね。
 母親の声にごぼごぼという音が混ざる。
 いつか言おうと思ってたんだけど、こんなに早くこの日が来るとは思っていなくて……
 お母さん? お母さん!
 彩子は一生懸命にその液体を払いのけようとするが、まるで井戸のように後から後からそれは湧いて出る。いつの間にか、母親の体もすっかりぶよぶよと弾力のあるゴム状の物質に覆われてしまう。
 自分の手の周りでも黄緑色のものが固まろうとしているのを感じて、彩子は急いでまたキッチンに向かう。スーツが内側から破れ、すっかり人間サイズの何かに変わってしまった父親を跨ぎ、一心不乱に水道で手を洗う。手洗い用の石けんではなかなか落ちず、食器洗い用の洗剤まで使って、なんとかそれを洗い流したとき、彩子はしばらく忘れていられた現実に向かい合わなければいけないことに気づいた。でも、一体どうすればいいのだろう。警察、救急車、親戚、友達、思いつくあらゆるところに電話を掛けたが、機械音声以外の誰かが出ることは無かった。
 しばらくして、電気が消えて、電話も繋がらなくなった。
 それからはずっと、明けそめていく東の空を、母親の寝室の窓から眺めていた。魂の無い人間も夢をみるのだろうかと、考え続けながら。
 
 前回までのあらすじ
 親の仇を倒すために、剣術修行の諸国放浪をしていた稀近(まれちか)は、行く先々でなぞの組織の刺客たちと遭遇していた。しかし、彼らを倒しながら、確実に剣士として稀近は成長していくのであった。そんな折、伊賀に立ち寄った稀近は、なぞの忍術使いにより絶体絶命の窮地に立たされたのであった。


 「はーはっはっはっは。我が奥義、『分け身の術』が貴様にやぶれるかな?」
 「いや、わが奥義はいいからさ、いい加減そろそろお前、疑問に思い始めねえか?」
 刀を持った右手を無造作に下にたらして、左手をちょっと待ったという風に前に出して稀近が言う。その周りをいくつもの忍者の姿が見える。
 「俺のほうはなんだかもう、厭きてきちまったんだが。これでもう三度目だろ」
 「何をとち狂ったことを言ってるんだ。ぼさっと突っ立ってると死ぬぜ!」
 スッと、背筋に悪寒が走る感覚がした。後ろに気配するので、刀を体の正中線に立て、振り返りながら飛び下がる。しかし、見えたのは、日の光が刀に反射した、一瞬の閃きだけだ。刀の先が頬をかする。一瞬遅れていたら頚動脈だ。手の甲で顔をぬぐうと、袖まで赤く染まる。
 「俺の一の太刀が皮一枚とは、なかなかいい反応をするじゃないか。だが、つぎはどうかな?」
 「あぁもう、頭の堅い分からず屋め!やりゃあいいんだろ、やりゃあ。やってやろうじゃねえか」
 なんだかわからんが投げやりに、稀近は正眼の構えを取った。しかしだからといって、何かよい策があるわけではない。いくつもの虚像の中からたった一つの本体を見分けるにはどうすればよいのか。
 そろそろだな、と稀近は思った。そして案の定、心の中に直接呼びかけてくるような声が、響いてきたのだ。
 (稀近よ、よく聞け)
 (はい、お師匠、今回は何でしょう)
 ふと、上を見上げると、青空に懐かしい師匠の顔がうっすら浮かぶような気がした。これは遠くにいる師匠が直接心に語りかけているのだ。
 (稀近よ、よく聞け。ESPじゃ、ESPを使うんじゃ)
 (はぁっ!?)
 稀近の心の中の声が裏返った。
 (師匠、なんだか自棄になってませんか?)
 師匠はそれには答えず、自分の話を続ける。
 (ESPとは「Extra Sensory Perception」(感覚外知覚、超感覚的知覚)の略で、普通は知覚系の超能力に使われる言葉じゃ。PK(サイコキネシス)とは通例区別されるが、エスパーという場合はごっちゃにされることもある。お前はこれからテレパシーを使って、相手の心を読み、分け身の中の実体を見破るのじゃ)
 (テ、テレパシーといってもいったいどうやって?)
 (それはじゃな、相手の脳内の量子干渉パターンをじゃな、こちらの脳内のそれと、EPRパラドックスなどによって知られる量子のもつれ状態に持ち込んで、スピンネットワークの…)
 (いや違いますって。原理の説明じゃなくって、具体的に私がどうすればよいのかです。ていうか、そんなことできませんよ)
 (今、現にやっておろうが)
 (あっ、これ、テレパシーだったんですか!)
 (そうじゃ、お前はエイリアン・アブダクションによって記憶の操作を受けているから覚えていないのも仕方がないが、逆行催眠を施せば、きびしいESPの修行も思い出すじゃろう)
 (そういやあ、そんな気もしてきました)
 (いけ、稀近!お前のアストラル体のヴァイブレイション・パワーを見せてやるんじゃ!)
 (うん、いまいち納得できないこともあるけど、心を読むことができれば、本体がわかることは事実だ。悩んでいても話が進まないから、やるだけやってみるか)
 稀近は、一念発起すると、心をできうる限り静めて、目を軽くつぶった。敵の忍者はそれを見てあざ笑うように言った。
 「おいおい、もうあきらめちゃったのか?念仏でも唱えるってんなら、唱え終わるまで待ってくれるなんて思わないほうがいいぜ」
 しかし、稀近の心は内側へ内側へと、沈んでいった。外側への一切の知覚の扉を閉じ、今まで閉じていた心の耳を開こうとしたのだ。次第に外界の物音は背景に後退し、最後にはほとんど聞こえなくなる。触覚もまた然り。世界には自分しかいなくなり、それ以外は静寂の海。すると次第に、心のふたが開けられ、その中にあるものがあふれ出そうとしているのがわかるのだった。
 最初はまるで遠くに聞こえるさざなみのようだった。慣れてくると次第にそれが人の思考の声だとわかってきた。
 (何だこいつ、目つぶって、動かなくなっちまった)
 これは明らかに敵の忍者の思考だ。これなら勝てる。どこにやつがいるかも、いつ次の攻撃が来るのかも、手に取るようにわかる。自分が有利になったことを感じると、稀近にも余裕ができてきた。
 (相手の心が読めるんだったら、すぐに倒してしまうのは損だ。できる限りの情報を手に入れるべきだろう。こいつがあのよくわからない組織の一員なのか。その組織の正体は何なのか。そして、父上の敵の隻眼の男は関係があるのか。どうせこいつは下っ端の一人だろうから、たいしたことは知らないのかもしれないが、やってみる価値はあるだろう)
 稀近はさらに精神を集中する。すると、表面には現れない、深層構造までが見えてくる。
 (こいつさっさと片付けて、帰ったら何食おうかな)
 (こんなときに何を考えてるんだ。自分が反対に追い詰められていることも知らずに)
 (部屋の掃除もしなくちゃいかんよなぁ…あと、この任務が終わると給金があるはずだから、それを何に使うかも考えとかないと……こっちは命かけてるんだから、もっといい待遇をしてもらっても……)
 人間というのは、まじめな顔をしても、大概頭の中はろくなことを考えていないものである。たとえ、命の駆け引きの場であろうと、ふと油断する瞬間、どうでもいいことを考えてしまうことはよくあるものだ。
 稀近は、表層付近に目的のものがないことを確認すると、深く深く、心の海の中を潜っていった。
 (あの饅頭、全部食べちまったかな…そろそろ、終わらすか……腹減った………殺す………金…………女………)
 次第に思考は文の形を成さなくなり、言葉は単語の形に分解され、最後には、図像や音声の断片的なイメージへと融解していく。その中に、おそらく敵の組織の構成員の顔もあるし、上層部らしき人物もいる。だが首領らしき人物はいないし、隻眼の男の姿もない。もしかしたら、今の任務の意味も知らないかもしれない。
 稀近は次第に、そのイメージの乱舞に翻弄され始めた。
 (心の奥底とはこんなにも混乱したものであるのか。さまざまな記憶、思考のかけら、欲望、などがまるで、赤熱した刃のように俺の心に突き刺さる。いくら敵から情報を探るためとはいえ、これ以上これを続けるとやばそうだ。そろそろ上がらなければ……おや?……こいつ、この男どこかで見たことがあるような気がする………確か、俺の目的であるはずの…………隻眼の男!………そうだ隻眼の男だ!………どうして忘れていたんだろう………そのためにこの男の心に入り込んだのに………この隻眼の男を捜すために、この男を半殺しにして、情報を引き出そうとしたんだろ……あれ、そうだっけ………そもそもこの隻眼の男は親父を殺した男のはず………でも俺に親なんていたっけ?…………俺は生まれたときから訓練所にいたんだから親なんて………あれ、やべえ、なんかわかんなくなってきた!)
 彼は、意識の深層から大急ぎで浮かび上がり、表層の光の世界に戻ってきた。目を開けて、懐かしき色と音と手触りの世界を確認すると、目の前には相変わらず目を瞑ったままの、標的の剣士の姿があった。
 (まだやってやがるぜ。殺しはしねえが、腕の二三本切り落としてやろう)
 剣士の周りをぐるりと囲んでいた、忍者の多数の影が、急にその半径を小さくし始めた。そしてその影の中のいくつかが四方八方から輪の中心めがけて、同時に飛び掛った。その中心である剣士にまったく動く気配がなかった。忍者の影が同時に切りかかった。しかし、その直後叫び声を上げたのは忍者のほうだった。
 「ぎゃーーーーっ!?」
 忍者はもんどりうって倒れた。そして自分の右手を不思議そうに見つめている。どうして自分が叫びをあげたのかまったくわからないからだ。稀近のほうも自分の右手を不思議そうに見つめている。どうしてひじから先が地面に落ちているのかまったくわからないからだ。
 「ぎゃーーーーっ!?」
 次の叫び声を挙げたのは稀近の方だ。ようやく痛みで術が解けたのだ。
 「ちょっと待って、え?これどういうこと?ちょちょちょちょっとタンマ、タンマですって!」
 忍者のほうも正気づいて、稀近に刀を振り上げながら叫んだ。
 「タンマもマンタもあるかーーー!」
 振り上げられていたものが振り下ろされ、後頭部への鈍い衝撃に視界暗転。頭を抑えて床に転がった。しかしそれほど強く叩かれたわけではない。意識は保っている。急いで、状況を把握しようとし、取り落としたナイフに手を伸ばす。その手の甲をしっかりと手入れされた革靴の踵が踏み潰す。思わず叫び声をあげる。その声を聞いたのであろう、階段を駆け下りる音が聞こえる。砕かれた手を抱えて、上を見上げると、あいも変わらず真正面を見つめ続ける空ろな目がそこにあった。この暗さでは色が分からないその双眸の嵌め込まれた顔が、何の表情の変化も見せないまま振り返る。
 「でかしたぞ、フェルナンド」
 さすがに息を切らしているこの館の主人が、ローブに身を包んで立っていた。
 「とうとう、とうとう見つけたぞ。もう、逃がしはしないからな」
 息が上がったまま、目を血走らせてそう呟く。なんだか穏やかではない雰囲気に、彼は下手に出ることにした。
 「すみません。ごめんなさい。これはちょっとした出来心なんです。職を失い生活に困っていたので、思わずこのような犯罪に手を染めようとしちまったんす。お願いでさぁ、役人に突き出すのだけはどうかご勘弁を。これでも家に帰れば家族が待っとるんです。これからは心入れ替えて、もう二度とこのようなことはしません、ですから」
 平身低頭してそう嘆願する彼を一顧だにせず、主人は早足で自らの尾を追う犬のように歩き回り、大声で独り言を言っている。
 「とうとう見つけたのだ。貴様のせいでどれだけの苦渋を舐めさせられたことか。十年。そう十年も私を悩ませおって。その十年のあいだに多くの土地を手放さなくてはならず、また妻と子も私から離れて行った。それもこれもすべてお前のせいだ」
 何かがおかしい、と彼は思った。この男は何かを勘違いしている。
 「だが、今日でそれも終わりだ。こうやって捕まえたからには、もう壁の向こうの物音や僅かな痕跡にこめられた私への愚弄で私を悩ませることもあるまい。どれ、顔を見せてみろ。何回も心の中で思い描いた顔を、確かめてやる」
 床に擦り付けんばかりだった顔の下に、足が差し込まれて無理やり顔を上に向かせられる。
 「ふむ、存外特徴のない顔をしておるのだな」
 見上げた目が爛々と輝いている。口の端が裂けたように釣りあがっている。何かが狂っている。もちろんこの男は狂っている。だがそれだけでなく、彼自身が狂った状況に組み込まれようとしている。彼は思わず土下座を崩し、背中で這うように後ろに跳び退った。手を顔の前で振り回し、必死の抗弁。
 「だ、旦那は何か勘違いなさっておられるようですが、あっしはこの屋敷に足踏み入れたのがそもそも今日初めてでして、だいたい十年前っつったら、あっしはまだ小僧っ子でして、それに生まれはこの近くでもなんでもないんでして」
 すると館の主人、興味深そうに彼を見て、
 「ほう、こやつ、逃げようとするぞ。フェルナンド、縛っておけ」
 そういわれたフェルナンドは、いつから持っていたのか麻縄を持って、彼の後ろに回りこみ両手を後ろ手で縛り始めた。
 いくら老人とはいえ二人相手にナイフもなく抵抗するのは危険と判断した彼は、とりあえずなされるがままに任せて、舌による最後の抵抗を試みる。
 「わかりました。罰は受けます。どうぞ鞭を持ち寄って叩いてくだせえ。ただ、役人に突き出すのだけはどうかご勘弁を」
 役人に突き出されれば、手配書と見比べられてしまう。そうすれば過去の罪状から見て軽い刑とはいかないだろう。まだその罪状が盗みだけだったら良かったのだが。
 だが、相手の反応は予想外のものだった。まず目を見張り、その後身を反らせて大笑いを始めたのだ。
 「はーはっはっはっは。何が可笑しゅうて、お前を官憲の手などに渡さねばならんのか。そんなことをすれば、ますます私がおかしくなったと思われるのがオチだて」
 今度は彼が目を丸くする番だ。さすがにもうついていけない。この男が何を言っているのかさっぱり分からない。
 足首に痛みが走る。麻縄がきつく食い込んだのだ。呆然としていたために、足まで縛られようとしていたことに気付かなかったのだ。これではもう逃げられない。打ち上げられた魚のように無力な格好で転がっている以外にやりようがない。その顔のところに館の主人がしゃがみこみ、不思議そうな顔で尋ねる。
 「もしかしてお前、気付いておらんのか」
 気付く。何をだ。何を気付けというんだ。
 「お前は私の妄想に過ぎないという事実に」
 俺がお前の妄想だって。
 「まあ、仕方がないといえばそうかもしれん。私だって、最初の一二年は気付けなかった。しかしだんだんと気付いていった。何者かの気配に悩まされ始めてからもう数年経つのになんの、確実な証拠も得られない。もし実在の人物なら飯も食えば糞もする。絶対に何らかの痕跡を残すはずだ。しかし得られるのは遠くで聞こえたような気がする微かな物音、部屋の中に残る僅かな残り香、そんなようなものばかり。さすがの私もそのような存在の実在を疑い始めた。そうすれば残る候補はひとつ。私の妄想に過ぎないということだ。
 「だがそれが分かってどうなるというんだ。それが妄想だとしてもそれがいるという感触は現実のものだ。探さないわけにはいかない。しかし見つからないのは分かっている。それが妄想に過ぎないことは分かっているんだから。探しても見つからないと分かっているもの、そもそも存在しないことを分かっているもの、そんなものを探す気持ちが貴様には分かるか。幾度気が狂いそうになったことか。妻子も去った。地位も名誉も失った。
 「だがそれも今宵までだ。なぜなら、私はとうとうお前を捕まえたからだ。私を悩ます私の妄想め」
 「おいおいちょっと待てよ」
 哀れを誘うためのわざとらしい田舎者口調をかなぐり捨てて彼は叫んだ。
 「だいたい、もしそうなら、俺はお前にしか見えないはずじゃねえか。だったらその男はどうなんだ。その男にも俺は見えてるじゃねえか」
 すると館の主人はフェルナンドを見つめて、
 「フェルナンド、お前何か見たか」
 するとフェルナンド
 「いえ、旦那様、わたくしは何も見ておりません。そもそも見るとか聞くとか申すものは、旦那様の手足に過ぎない使用人の仕事ではございませんゆえ」
 「だそうだ」
 彼はますます混乱する。何なんだ、こいつらは。
 「だ、だが、さっき俺を縛ったのは何なんだ。見えてもいないものを縛ることができるのか」
 「わたくしはただ、旦那様のお言いつけに従ったまででございます」
 「というわけだ。だからお前は私の妄想であって、私が自分で処分するほかはないというわけだ」
 処分。処分とはどういう意味だ。
 「これでお前とおさらばできる。この歳ではもう失われた十年を取り戻すというわけにはいかんだろう。だが、妻子を呼び戻すことならできるかもしれない。財政界でもう一暴れするくらいの気概と体力はあるつもりだ。だがそのためには、お前を完璧に始末しなければいけない。妄想というやつは、予想以上にしぶとく、ちょっとやそっとじゃ退治できずに、退治したと思ってもまた形を変えて蘇ったりするものだ」
 「ちょっと待ってくれ、お前らまさか俺を殺す気なのか」
 「殺すとな。可愛そうに。貴様、まだ自分が現実の人間のような気でいるのか。さっさと真実を悟ったほうが楽になれるのにの。
 「そうだ、庭に埋めるというのはどうだろう。あそこなら、跡形もなく消し去って、すぐに自分が妄想を持っていたことも忘れ去ってしまえるだろう。すぐにホセを呼んで穴を掘らせよう」
 なんということだ。ちょっとこそ泥に入ったくらいで、殺されてたまるものか。しかも何かを盗んだわけじゃない、鍵を抉じ開けただけで、何も盗らずに退散しようとしていたところなのに。こんな気違い屋敷に足を踏み入れたのが間違いだった。知らないうちに何もかもが手詰まりになっていたのだ。混乱しきった彼の頭の上からフェルナンドが冷静に口を出した。
 「旦那様、その考え自体は大変良いアイディアかと存じ上げますが、ただ残念至極なことに、馬丁のホセはすでに……」
 「そうかやつも出ていったんだったか、そうすると自分で掘るしかないのか」
 「旦那様、僭越ながら申し上げさせていただきます。中庭にはいくつか以前旦那様がご自分でお堀りになって埋められずにそのままになっている穴がございます。それをご利用になったらいかがかと愚考するものにございますが」
 「穴とな。はてなんでそんなものを掘ったんだったのか」
 「それは、地面の下にもしや何者かが潜んではいないか、というお考えだったように思われますが」
 「そうだそうだ。あれはあの時は無駄骨だったように思われたが、世の中とは不思議なもので何もかもがつながっていて、無駄なものなど何一つないのだなぁ、フェルナンド」
 「まったくその通りかと存じ上げます、旦那様」
 そう言い終ると二人はまず、彼が大声で喚き散らさないように、猿轡を食ませ、胴体を何重かに縛り上げると、二人がかりで中庭に運び出した。彼も何とか身をくねらせ抵抗しようとしたが、鳩尾と首を殴りつけられ、意識のみ何とか保っている状態になっていた。二人はそのぐったりした体を穴の中に放り込んだ。その衝撃でもう一度意識を取り戻しかけた彼の耳に二人の会話が届く。
 「知らないうちに、すっかり庭を荒れ果ててしまったな」
 「使用人として、慙愧の念に耐えません」
 「お前は良くやってくれたよ。どう礼を言えばいいのか分からんくらいにな。何か褒美をやらねばいかんな」
 「そう言って頂くだけで恐悦至極でございます」
 「すぐに庭師を雇おう。その他の使用人もな。財産目録の確認も急がねば。今はお前しかいないから、しばらくはお前にも働いてもらわねばいかんな。だが、すぐに楽にしてやるよ。隠居してのんびりした暮らしをさせてやるから安心しろ」
 「いえ旦那様。わたくしにとって幸せとは、旦那様の近くで働かせていただくことでございます」
 だがそれらの会話も次第に降り積もる土によってかき消され、音が聞こえなくなり、光りが届かなくなり、身動きができなくなり、そして呼吸ができなくなった。
 いつしか土が覆いかぶさる音も絶え、自分の心臓の音だけが頭の中に響く中、ただ自分が意識を失う瞬間を待ち続けていると、耳の奥から、まるでどこか遠くから聞こえてくるような声が聞こえ出した。
 それは前回までのあらすじだった。
 親の仇を倒すために、剣術修行の諸国放浪をしていた稀近(まれちか)は、行く先々でなぞの組織の刺客たちと遭遇していた。しかし、彼らを倒しながら、確実に剣士として稀近は成長していくのであった。そんな折、伊賀に立ち寄った稀近は、なぞの忍術使いにより絶体絶命の窮地に立たされたのであった。


 「はーはっはっはっは。我が奥義、『分け身の術』が貴様にやぶれるかな?」
 「く、くそ、いったいどれが本物なんだ」
 正眼の構えで立つ稀近の周りには、幾つもの忍者の姿が見える。それが同時に動くと、森の中で視界も悪いため、幾つの像が見えているのかすらもわからない。もちろん、そのほとんどすべては残像にすぎないのだ。どうにかしてこの技を見破らなければ。
 「そーら。ぼけっとしてるんじゃないぞ」
 スッと、背筋に悪寒が走る感覚がした。後ろに気配するので、刀を体の正中線に立て、振り返りながら飛び下がる。しかし、見えたのは、日の光が刀に反射した、一瞬の閃きだけだ。刀の先が頬をかする。一瞬遅れていたら頚動脈だ。手の甲で顔をぬぐうと、袖まで赤く染まる。
 「俺の一の太刀が皮一枚とは、なかなかいい反応をするじゃないか。だが、つぎはどうかな?」
 このままではだめだ、やられる。とりあえず、この術を見破らなければダメだ。虚像に惑わされていてはいけない。
 稀近は、正眼に構えていた刀をゆっくりと頭上に上げ、上段の構えを取った。一見、わき腹などを見せた、守りの薄そうな構えである。しかし、攻撃へと移るには、モーションが小さくてすむ。つまり、あえて隙を大きくし、相手に攻撃をさせ、そして相手がこちらの間合いに入った瞬間に、相打ち覚悟の攻撃をしようと考えているのだ。敵のすばやい動きを捉えるにはそれしかない、と稀近は考えた。
 稀近は目を半眼西、周囲に気を飛ばした。小さな動きも見逃さないためである。すると、相手の忍者にも、その場の空気が変わったのがわかった。今飛び込んだらやられるな。経験と勘がそう告げた。
 (こいつ、思ったよりやるじゃねえか)
 こうなっては、うわべだけ派手な技は通じない。やり方を変えなければいけない。
 (面白いじゃねえか。こちらも正攻法でいかせてもらおう)
 いくつもあった虚像が消え、稀近の五メートルほど前に忍者が降り立った。右手に小太刀を逆手に持っている。すれ違い様に、わき腹を切るつもりだ。
 稀近のほうも構えを変えた。頭上に掲げていた刀を、すうっとまた正眼の構えに戻した。半眼にしていた目を、少し開いて前方を見据える。刀の先から今度は相手のいる一方向に気を放つ。切っ先から光の刃が出て、相手の目を貫くさまをイメージする。
 お互いに気を放ちながら、少しずつ間合いを詰める。そして、双方の気合がつりあう地点で、どちらもぴたっと止まってしまう。もう一歩前に出れば殺せる。そこで二人とも止まってしまったのだ。
 傍目から見ると何もおきていないようだが、水面下では、気を送りあい、相手の呼吸を読みながら、激しい勝負が繰り広げられているのだ。気力の消費はすさまじい。少しでも気を抜けば、少しでも隙を見せれば、少しでも呼吸を乱せば、それが命取りになる。このとき二人は同時に同じことを思った。
 ((先に動いたほうが負けだ!))
 風が二人の間を吹きぬけた。木の葉がすれてさわさわと音を立てた。雲が太陽を覆い隠し、森が暗くなる。しかし二人は動かない。
 稀近の頬を、汗が通と一筋流れた。先ほどの傷はもう血が止まりかけている。二人とも瞬きさえ忘れたようだった。鳥が近くの木から飛び立った。太陽がまた雲の合間から顔を出し、二人を平等に照らす。風がやむ。森が一瞬静寂に包まれた。
 緊張が頂点に達した。先に耐えられなくなったのは忍者のほうだった。気迫に押されて、前足を少し引いた。稀近がそのわずかな動きを見逃す筈もなかった。勝負はその一瞬に決してしまったのである。
 「あっ、動いた!先に動いたからお前の負け~!!」
 忍者は、急いで否定した。
 「動いてない動いてない」
 忍者は実は心の中では自分が動いていたことに気づいているので、余計にあわてている。
 「動いたったら動いたって」
 稀近は、忍者の立っているところまで歩いて、足の跡を刀で指した。
 「ほら、ここに足を擦った後があるじゃねえか」
 「く、くそお、もう一回、いや、三回勝負だ。三回勝負にしよう」
 「あっ、お前、卑怯者!そういうことは最初に言わないとダメなんだぞ」
 忍者は負けたままでは組織の者たちにあわせる顔がないので、食い下がろうとする。
 「なっ、頼むよ、なっ」
 「仕方がないなぁ、三回勝負までだぞ」
 「「だぁるまさんがこぉろんだ!!」」
 男たちの、命を賭けた戦いは続く………あっ、お師匠出すの忘れた!
 地平線の下からの太陽の一触れが、濃い紫の空に血のような紅をにじませる頃、ごそごそとキッチンで物音がした。見に行く勇気は出なかった。すぐに見に行く必要もなくなった。同じ物音が、母親のベッドと傍らのベビーベッドでしはじめた。ぴりぴりと音がして、あの黄緑色の物体が大きく裂けて、中から肉が腐った臭いが吹き出す。そして、窓から差し込む朝焼けに照らされて、ゆっくりと濡れてしわしわになった羽が中から現れる。次第に乾きながらピンとしなやかにその四枚の羽を伸ばすと、金属光沢を持った青緑赤のきらびやかな編み目模様が目を射る。見る角度を変えると色や光りかたが変わり、ホログラフのように夢幻的な立体模様が浮かび上がる。少し羽ばたくだけで光り輝く鱗粉が舞い飛び、油の浮いた水たまりのように虹色に色づいた。
 その立派な羽の根元にぶら下がっているさほど大きくない体を見ると、それは六本の足の生えた胸の下に、珊瑚蛇のような縞模様の腹がぶら下がり、頭にはその半分以上もある巨大な複眼が全ての目で彩子を見つめ、その下には大きな顎が左右に開いたり閉じたりを繰り返している。
 弟のベビーベッドからも、小さなそれが飛び立って、目が痛くなるほどの鱗粉をまき散らす。開いていたドアから、もう一匹が入って来て、所狭しと天井を飛び回る。
 突然、それらが鳴いた。それを鳴くと言っていいのなら。彩子は耳を押さえながらもんどりうって倒れた。その顔の上に割れた窓ガラスが降りそそぐ。そして、三匹が一斉に彩子の体の上に舞い降りて、その大きな顎で体中の肌を切り裂きはじめた。
 痛い! 痛い! やめて! やめてよ! お父さん! お母さん! あたしだよ! わかるでしょ! やめてよ!
 彩子は泣き叫びながら、手足を振り回して、なんとかその攻撃から逃れようとする。彼女の耳に、嗄れた、だけど確かに聞き覚えのある声が聞こえる。
 暴れてはだめ。
 それは母親の声だった。ベッドの上の蛹の中から、彩子に向かって這い出してきている。その体は見る影も無く萎びていて、背中には大きな裂け目があり、内側には内蔵らしいものがほとんど見当たらない。蛹からはい出したときに、片足がぽろりと抜け落ち、ベッドから転がり落ちるときに、もう片足もとれ、地面を這い進もうとして踏ん張った手は、ぐじゅぐじゅと崩れ落ちた。
 あなたはわたしたちの魂の為に育てていたの。だから、あばれちゃだめ。
 お母さん! お母さんはお母さんだよ! こいつらじゃないよ! こいつらはお母さんじゃないよ!
 そうよ。これはお母さんたちの、魂だもの。
 彩子は母親に助けを求め続けるが、もう返事はない。見れば、首から下がすでに半ば溶け落ちて、声も出せなくなっているのだ。
 魂たちの顎が、首筋の頸動脈を切り裂いて、飛沫を上げて血が流れ始める。魂たちは、おいしそうにそれを嘗めとっていく。薄れ行く意識の中で、彩子は懸命に窓まで体を持ち上げる。割れた窓から見た町では、すべての家々から朝日に黄金色に輝く魂たちが舞い上がり、雲一つない青空に向けて、極彩色の竜巻が立ち上がっていた。
 別に頭の中に極彩色の竜巻を立ち上がらせ続けよう、というわけだけではないのだが、いつでも複数の本を同時並行に読む癖が付いている。出かける鞄に数冊、定期的にする遠出用の鞄に数冊、ベッドの枕脇に数冊、机の上に数冊、いつでも10冊近くを平行して少しづつ読んでいる。
 各グループの内訳は大概、科学技術の専門書と重めの小説か哲学書、そして軽めの小説か各種読み物、という構成になっている。
 もちろん、その中でもその時々で主に読んでいるのは二三冊であることが普通だ。それでも読んでいると頭の中で妙な化学反応が起こることもある。別々に読んでいたら気づかなかったかもしれない、暗合や一致を見つけることもある。妙な具合に頭の中が混乱して面白いときもある。バルガス・リョサの『緑の家』とダニロ・キシュの『砂時計』を同時並行で読み進めたのは、今思い出しても得も言われぬ至福の体験だった。本当に頭の中がわやくちゃになって、翔べた。
 いわばブック・ジョッキー、略してBJ。右手にメス、左手に鈍器。鋭さと鈍さで本をシャッフル。
 そもそも本を読むという行為は、決して受動的な行為ではなく、素材を加工し、再配置し、新しい素材として出力する創造的行為だ。その出力を文章という形で残せば、それは執筆と呼ばれる。
 読書が多重化すると自然に執筆も多重化するのだろうか。実際今同時にいくつの小説を書いているのか数えたこともない。幾つもの小説を同時に書くのも素敵な体験だ。だんだんと頭の中が混線していき、ある小説で張った伏線を全く別の小説で解決してしまったりする。素敵だ。
 登場人物たちの誰が誰かも分からなくなり、世界はまるで量子的に縺れた泡のようになる。
 その中にはこの私の姿はない。他人たちの中に紛れ込んでしまって、顔も分からない。
 それはそうだ。小説とは他人の人生を生きることなのだから、そこに私がいるはずもない。
 そして他人の人生を生きることほど、生きるということの本質的な部分もなかろう。
 マルセル・デュシャンの墓には「D'ailleurs, c'est toujours les autres qui meurent(死ぬのはいつも他人ばかり)」と刻まれているが、言い換えれば「生きるのもいつも他人ばかり」だ。
 くだらない文字列から目を離し、世界を眺めて見ればよく分かる。360度、どこにも私はいない。この世界には私なんていないのだ。
 では「私」とはなんだ。
 実は「私とはなんだ」と問うことが間違いのはじまりなのだ。「私」とは「何か」ではない。「私」とは「関係」だ。「私とはなんだ」と問うことをやめ、「私であること」とはどういうことか、と問わなくてはいけないのだ。
 「私であること」とは過去を思い出し、それを物語として語ろうとする存在が物語との間に持つ関係だ。その物語を無視してその語り部を「私」と同定してしまうと分けがわからなくなる。
 だから、私であるためには、過去を収集し続けなくてはいけない。そしてたとえ脳内であろうと、語り続けなくてはいけない。
 私は独我論者である。私は私にしか興味が無い。私にとって重要なのは畢竟私だけであり、この世界とは結局「私の世界」であり、そこには実は私しかいないからだ。だからこそ私は私を見つめる。熱と呼ばれているものが、電子顕微鏡で見れば単なる分子の振動へと還元されるように、そこにあるのは無数の他人(決して「唯一の他者」ではなく)の縺れ。だから他人に合ってそこから徹底的に情報を収集しなくてはいけない。だから大量の本を読まなければいけない。だからあらゆる場所に行きあらゆる経験を積まなくてはいけない。
 そしてそこから幾つもの断片を切り取り、結び合わせ、新しい縺れをこんがらがらせる。縺れを解いて、中に本当の私がいるとでも思っても、そこには何も残らない。
 だから、読み続け、書き続けろ。読むことと書くことを一致させ続けろ。
 死にたくなければ、存在し続けたければ、mixし続けろ。remixし続けろ。それこそが「私である」ことだからだ。「私である」とはどういうことか? 「私である」とは過去の幾つもの断片を解し再び纏めあげ、新しい流れにすること……
 すなわち前回までのあらすじなのだ。
 親の仇を倒すために、剣術修行の諸国放浪をしていた稀近(まれちか)は、行く先々でなぞの組織の刺客たちと遭遇していた。しかし、彼らを倒しながら、確実に剣士として稀近は成長していくのであった。そんな折、伊賀に立ち寄った稀近は、なぞの忍術使いにより絶体絶命の窮地に立たされたのであった。


 「はーはっはっはっは。我が奥義、『分け身の術』が貴様にやぶれるかな?」
 「く、くそ、いったいどれが本物なんだ」
 正眼の構えで立つ稀近の周りには、幾つもの忍者の姿が見える。それが同時に動くと、森の中で視界も悪いため、幾つの像が見えているのかすらもわからない。もちろん、そのほとんどすべては残像にすぎないのだ。どうにかしてこの技を見破らなければ。
 「そーら。ぼけっとしてるんじゃないぞ」
 スッと、背筋に悪寒が走る感覚がした。後ろに気配するので、刀を体の正中線に立て、振り返りながら飛び下がる。しかし、見えたのは、日の光が刀に反射した、一瞬の閃きだけだ。刀の先が頬をかする。一瞬遅れていたら頚動脈だ。手の甲で顔をぬぐうと、袖まで赤く染まる。
 「俺の一の太刀が皮一枚とは、なかなかいい反応をするじゃないか。だが、つぎはどうかな?」
 このままではだめだ、やられる、と思った次の瞬間だった。いくつもの虚像が消え、目の前の地面の上にただ一人の姿で、忍者が立っていたのだ。
 「どういうことだ?」
 「ふふふ、いつもと同じ先方で倒していても、いい加減飽きが来るからな。今回は新式の分け身の術でいかせてもらう」
 「新式だと?」
 「そうこれが今年の新作、新式分け身の術だぁ!」
 「な、なに~~~!!?」
 稀近はおのれの目を疑った。
 「俺が増えた~~!?」
 驚いている稀近の周りには、まったく同様に驚いている稀近の姿が無数にあった。みな一様に周囲をきょろきょろ見回している。
 「はーはっはっはっは。この技は相手をものすごい速さで移動させることにより、いくつもの残像を残して相手を混乱させるという、すばらしい技なのだ!」
 「く、くそう、これがいったいなんだっていうんだ!」
 そう叫んだ、像のひとつが棒立ちの忍者に切りかかる。しかしその刃先は、忍者の体を素通りしてしまった。
 「馬鹿め!貴様は虚像に過ぎん!」
 「く、くそったれ!」
 いくつもの稀近の像が忍者に飛び掛るがどれも、忍者を通り抜けてしまう。混乱した稀近たちは、お互いにお互いの体に触れ合って、誰が実体なのか確かめようとする。しかしどの腕と腕もすれ違ってしまうのだ。
 「はっはっは、うつけものどもが!実体は一つしかないのだから、お互いに触ろうとしても、無理に決まっておろうが!」
 「こ、これならどうだ」
 稀近の群れは今度は集団で、森の木々に張り手をし始めた。その姿はまるで地震か何かの災害でで部屋を失った相撲部屋のようであった。
 「そもそも止まっているものだったら、触ってどれが本物なのかわかるはずだ!」
 「なるほどそうかも知れん。だが先ほども言ったように、これはは相手を高速で移動させることによる技なのだから、どの像が実体なのかは刻一刻と変わっているのだ。だから今実体なのがどの像なのかが分からない以上、この技を見破ることはできん!」
 「ぐ」
 ぐうの音も出なかった。すべての稀近が天を仰いだ。このままこの技が見破れなければ、食事をすることもできなければ女人と乳繰り合うこともできない。それでは自分の人生は台無しだ。どうすればいいのか。
 彼は最後の手段を使った。
 彼は東西南北に息を吹きかけると、ぶつぶつ何かを唱えながら、懐から鷲の羽毛を取り出して、空中にある図形を書いた。それは五茫星と聖四文字であった。そしてなにやら祈祷のようなことをし始めた。
 まずは懐から水筒と塩と灰を取り出す。そして塩と灰に向かって呪文を唱え始める。
 まず塩に向かって
 "In isto sale sit sapientia, et ab omui corrupione servet mentes nostras et corpora nostra, per Hochmael et in virtute Ruach-Hochmael, recedant ab isto fantasmata hylae ut sit sal coelestis, sal terrae et terra salis, ut nutrietur bos triturans et addat spei nostae cornua tauri volantis Amen."
 (日本語訳 この塩に叡智宿りて、ホクマエルの庇護のもと、さらにまたルアク=ホクマエルのちからもて、すべての堕落よりわれらが精神とわれらが肉体を守りたまえ! この中よりヒラスの亡霊退きて、こが天の塩、地の大地となりて、脱穀の牡牛を育てはぐくみ、天翔ける雄牛の角もてわれらが願いに力貸し給わんことを! アーメン)
 次は灰に向かって
 "Revertatur cinis ad fontem aquarum viventium, et fiat terra fructificans, et germinet arborem vitae per tria nomina, quae sunt netsah, hod et Jesod, in principio et in fine, per Alpha et Omega qui sunt in spiritu AZOTH. Amen."
 (訳 汝、灰よ、生命の水の源に戻り、肥沃なる土地と化し、「勝利」「名誉」「基盤」なる三つの名によりて、そして最後は「アゾト」の精神の内に存する「アルファ」と「オメガ」によりて「生命の樹」を芽吹かせんことを。アーメン)
 そしてその塩と灰と水とを、熊葛、つるにちそう、紅花、薄荷、鹿子草、とねりこ、めぼうき、を生娘が紡いだ糸で束ねて、まだ実をつけたことのない榛の木の柄を取り付け、柄には魔術用鑿で七体の精霊の記号を彫り付けた潅水刷毛で掻き混ぜながら
 "In sale sapientiae setenae, et in aqua regenerationis, et in cinere germinante terram novam, omnia fiant per Eloim Gabriel, Raphael et Uriel, in saecula et aeonas. Amen."
 (訳 永久なる叡智の塩の中において、復活の水の中において、そして新しい土地の生まれ出ずる灰の中において、時代と「永劫」を貫いて、エロイム、ガブリエル、ラファエル、そしてウリエルらの手によりてすべてのものが作り出されんことを。アーメン)
 叫ぶようにそう唱えたかと思うと、その混ぜていたものを周りの地面に撒き散らした。すると灰と塩の混合物が不思議なことに彼の周りに、二重円の中に五茫星をを配した、『ソロモンの鍵』の中の水星の1の護符を描いた。五茫星の十の角にはヤキエルとアギエルのなまえがヘブライ文字で書かれている。空の精霊を呼び出す魔法陣である。
 「なんとバテレンの怪しの術を使うか!」
 途中までは静観の構えだった忍者も、これは一大事と止めに入ろうするが、ときすでに遅く、魔方陣からは竜が昇るかと思えるようなつむじ風がおき、近づくことすらできず、地に伏せ踏みとどまるのがやっとという有様。
 先ほどまで晴れていた空は、一転どす黒い雲に覆われ、雹交じりの雨が降り始める。風に森はざわめき立ち、獣たちは怯えて巣穴に潜り込む。どこからともなく、地獄の責め苦を受ける悪霊たちの叫びのような地鳴りが聞こえる。
 それら自然の絶叫に負けぬ大音声で稀近は天を仰ぎ叫んだ。
 「王国の力よ、わが左の足の下、わが右手の内にあれ。
 
  栄光と永遠よ、我が肩に触れ、我が勝利の径へと導け。
  
  慈悲と正義よ、我が生命の中庸と光輝たれ。
  理解と叡智よ、我に王冠を授けよ。
  マルクトの精霊よ、神殿を支える二本の柱の間に我を導け。
  ネツァクとホドの精霊よ、我をイェソドの立法石の上にて力を授けよ。
  
  おお、ゲドゥラヘル! おお、ゲブラヘル! おお、ティファレト!
  ビナヘルよ、我が愛たれ!
  ルアク・コクマヘル、我が光たれ!
  おお、ケテリエルよ、汝たる者たれ、欲する者たれ!
  
  イシムよ、シャダイの名のもとに我を助けよ。
  ケルビムよ、アドナイの名のもとに我が力たれ!
  ベニ・エロヒムよ、息子の名において。ツァバオトの力によりて我がはらからたれ。
  
  エロヒムよ、テトラグラマトンの名において我のために戦え。
  マラキムよ、ヨド・へー・ヴァウ・へーの名において我を守れ。
  セラフィムよ、エロアーの名において我が愛を純化せよ。
  カシュマリムよエロヒおよびシェキーナーの輝きにて我を照らせ。
  
  アラリムよ、立て。オファニムよ、回転し、輝け。
  カイオート・ハ=クァドシュよ、叫べ、語れ、唸れ。
  クァドシュ、クァドシュ、クァドシュ、シャダイ、アドナイ、ヨド、
  カヴァー、エヘイヘー、アシェル、エヘイヘー!
  
  ハレルヤ! ハレルヤ!! ハレルヤ!!! アーメン」
 天空で黒雲が凝集をはじめ、それは次第に鬼のような面相の人の顔になっていった。眼は釣りあがり、燃え上がるように爛々と輝き、その口は耳まで裂け、薄い唇からはナイフのように鋭い牙がのぞいている。嵐のようなその呼気からは硫黄の臭いがし、たちまち木々を立ち枯れさせた。
 「うぐぁああああっ!!暗闇の底の永い眠りからわしを呼び覚ますのは誰じゃ!?」
 天に浮かぶ巨大な人面は、地上を睥睨し、にらまれた物体はことごとく、真っ黒い炎を吹き上げた。その視線が天を仰ぐ稀近の姿を捉えた。
 「お師匠! お久しぶりです」
 「何じゃ稀近か。しばらく見ない間に、ずいぶん増えたのお。何かあったんか?」
 「そうなんですよ、師匠。相手に術にかかって分身してしまいまして、どれが本物の自分か分からなくなってしまったんです」
 「それで?」
 「術を破るにはどうすればいいんでしょう」
 「そんな術破らんでも、全員でいっぺんに襲い掛かればどうなんじゃ?」
 稀近は思わず感心してしまった。さすがお師匠だ。常人では考え付かないことを思いつきなさる。しかし感心してばかりもいられない。細かい疑問点を詰めていかねば。
 「しかし、もし相手を倒しても、術が解けなかったらどうすればいいんでしょう。結局何の解決にもならないんじゃないでしょうか。こんなにぞろぞろ大勢で町を歩いていたら怪しまれるでしょうし、敵にも発見されやすいです。ご飯を食べるときも、女子を抱くときも全員でいっぺんに襲い掛かるというわけには行かないのではないでしょうか」
 この質問にはさすがのお師匠も困ってしまった。嵐も静まった青空にぽっかり浮かんで思案顔だ。
 「そうじゃなぁ、心の目でも使って見ればいいんじゃなかろうかなぁ?」
 「自信なさげですね」
 「ま、心の目で見ないよりは心の目で見たほうがましなような気がするからな。その線でがんばってみるんじゃな。じゃあの。See you later, Aligater.」
 「After a while, Crocodile.」
 お師匠は投げやりなことを言うと、ゆっくり西の空を降りて、雲を茜色に照らしながら、山の端の向こう側に消えていってしまった。稀近は釈然としないものを感じ続けているものの、ほかにどうする手もないので、地面にどっかと座って瞑想を始めた。
 稀近の心は内側へ内側へと、沈んでいった。外側への一切の知覚の扉を閉じ、今まで閉じていた心の目を開こうとしたのだ。次第に外界の物音は背景に後退し、最後にはほとんど聞こえなくなる。触覚もまた然り。世界には自分しかいなくなり、それ以外は静寂の海。すると次第に、心のふたが開けられ、その中にあるものが白日の下にさらけ出されようとしているのがわかった。
 ふたが開けられた。稀近は底にたどり着いたと思った。そこは静かだった。それどころか何もなかった。稀近は、そこで虚像でない実体としての自分を探そうとした。一切の煩悩や迷いから離れて、この世の実相を会得しようとした。
 しかしそんなものはどこにもなかった。形あるものは、変化から逃れることはできず、はっきりと他から区別することができるものなど皆無であった。自分などというものも、どこにもなかった。そこにあるものはただ、お互いに生成しあい、縁起しあう、存在の諸相だけであった。
 その生成消滅の絡まりの中に様々な光景を見た。空っぽの屋敷の中を歩きまわる老人。少女を中心とした和気藹々とした家族。額に汗して庭の幾つもの穴に木を植えていく老使用人。極彩色の竜巻に吹き上げられて青空を飛ぶ青ざめた少女の死体。そして死んでも死んでも前回までのあらすじを続ける自分の浅ましい姿。
 稀近は理解した。悟った。色即是空、空即是色。私などというものがそもそもまやかしであったのだ。一切はただただ空であるのだ!
 こうして稀近は解脱し、涅槃の境地に至ったのだった。独我から無我へと突き抜けて、回る六道輪廻の糸車から逃れたのだ。そもそも輪廻する主体が存在しない。だから輪廻などありえない。もう前回までのあらすじを続けることもない。
 なぜならそもそも前回など存在しないからだ。よって今回もありえない。
 
 風に吹き飛ばされた忍者が、どうにかこうにか元の場所にたどり着いたのはそれから半刻ばかり後であった。
 「ふう、ひどい眼にあった。あいつ、ただじゃおかねえからな」
 しかしそこはもぬけの殻であった。倒れたり、立ち枯れたり、黒焦げになったりしている木があることだけが、そこで何かがあったことの痕跡を残している。だが、今はただ草の間を風が行くだけであった。
 忍者はしばらくは立ち尽くして、それを見ていた。まさか命を狙っていた男がそこで無の境地に至ったばかりに本当に無になってしまったとは、思うまい。その男が呼び出した師匠とやらが、付近の村々を焼き尽くしていることも、ここからでは分からない。
 ただ忍者は呆然と辺りを見回したのち、何も情報を得られないことを観念したのか、その場を静かに去っていった。
 彼にも生活はある。稀近が勝手に悟りを開いて存在するのをやめてしまっても、たとえ彼が悟ったように「私」が幻だとしても、前回も今回もないとしても、それでも生活は続くのだ。熱がたとえ単なる粒子の振動に過ぎないとしても、沸騰した薬缶に触れば火傷をするように。
 物語は、mixとremixの連鎖は、続くのだ。
 The show must go on!
 というわけで忍者は川に沿って歩いていた。
 その途中で出会ったのが、あの釣り人であったのだ。
 ザブン!
 おいおい何をするんだと思って、釣り人が立ち上がると、釣り糸が引いている。しかもとてつもない大物だ。設置してある竿が持っていかれそうになったので、急いで両手に持って、引っ張る。スピニングリールが回りきってしまう前に、右手で止めようとするが、すごい力だ。釣り人が全体重を後ろに乗せて引っ張ると、怪力の正体が、水中から姿を現した。さっきの男だ。
 男は、水をいくらか飲んでしまって苦しそうな風で、息も絶え絶えになりながら、叫んだ。
 「どうです、1.7メートル急の超大物ですよ! こんな代物はめったにお目にかかれませんよ。ここで逃したらゴボボボ………ブガッ、一生出会えないかもしれません」
 釣り人は、獲物の立派さに一気に吊り上げるのをあきらめ、しばらく様子を見て、相手の体力がなくなるのを待つ戦術を選んだ。リールをうまく調節しながら、相手の力をいなし続ける。
 「釣りは、ゴバッ、魚との知恵比べともいいます、ゴボボボグブルブ、私はいっぺんでいいから、つられる側になってみたかったのです!」
 徐々にではあるが、釣り人は相手を引き寄せることに成功する。リールを巻き上げようとしてみると、先ほどよりは抵抗が少なくなっている。だんだん参ってきているようだ。先ほどの戦略が功を奏しているのだ。この調子なら、あれを吊り上げて、魚拓をとって、剥製にして、釣り仲間に自慢するのも夢じゃない。
 「さあ、勝負だ、この川の主よ! おたがい乾坤一擲を賭して、最後の力まで振り絞ろうではないか。息子たちよ! お前たちの父は今最高に輝いている。この姿をお前たちや美佐子にも見せてやりたかった。今日の夕御飯を楽しみにしていろ!!」
 川の主(?)は最後の力を振り絞って、抵抗した。一度は勝てると思った釣り人も、思わずバランスを崩し、川に引きずり込まれそうになる。足がバケツにあたり、水がこぼれ小魚が逃げてしまう。しかし今はそんなことに気をとられている場合ではない。あんな雑魚一匹どうでもよいし、どうせこいつはバケツには入りきらない。尻餅をつきそうになったが、そこから体勢を立て直し、一世一代の力を出して、竿を引っ張り上げる。リールを力いっぱい回す。流れ落ちる汗、飛び散る川の雫。きらきらと太陽の光が反射する。
 相手の全体像が見えてくる。もうすぐ手が届きそうだ。
 「どうやら、私の負けのようですな、釣り人よ」
 「いやいや、なかなかの勝負だったぞ、川の主よ」
 勝負の中ではぐくんだ熱い友情。お互いにどちらからともなく差し出す右手。美しい握手が交わされる、と思った瞬間、
                     ブチッ
 「あっ!」
 「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
 最後の最後で糸が千切れてしまい、せっかくの獲物が急流によって流されていってしまった。しばらくは浮いたり沈んだりを繰り返していたのだが、川の中ほどにある、大きな岩にぶつかった後は水面の下に隠れて見えなくなってしまった。
 釣り人は帰る準備をしはじめた。しかし、その表情は明るい。一匹も収穫がなかったにもかかわらず、満足そうだ。口先だけは惜しそうにこうつぶやいた。
 「おしかったなぁ、すごい大物だったのになぁ、あれはどう見たって2メートルはあったね」
 
 
 1日幸福でいたかったら、床屋に行きなさい。
 1週間幸福でいたかったら、結婚しなさい。
 1ヶ月幸福でいたかったら、良い馬を買いなさい。
 1年間幸せでいたかったら、新しい家を建てなさい。
 もし、一生幸せでいたかったら釣りを覚えなさい。(イギリスの諺)

(頭脳改革 了)

この小説はこれまで書いた短編小説の中から割りと気に入っているものを選び、切り刻んで再配置した、いわばremixアルバムである。
元となった作品は
『魚には死後の生命があり、釣られた後も成長し続ける』(原題『釣り』)
『 妄想になった男』
蛹の日
『剣士稀近シリーズ』( 「心眼」「一瞬」「読心」「緊迫」「混乱」)
『生きるも死ぬもみな他人』(書きおろし)

あとこの作品を作るきっかけとなった作品はとり・みきの『もう安心』である。こういう迷宮的、モンティパイソン的、入籠的、マルコム・レオ的、クラブDJ的作品をいつか自分も書いてみたい、と思っていたのだ。
今回の作品の一番の収穫はなぜ「もう安心」なのか? なんで収録作の中でも地味な作品の題名を全体の題名に選んだのか? という疑問についに答えが出たことである。
この作品の題名もそれに対するオマージュだ。

 
もう安心。―Peace of mind (Cue comics)
とり みき
イースト・プレス
1999-09-01

頭脳改革 <FOREVER YOUNG CAMPAIGN 2015>対象商品
アイアン・メイデン
ワーナーミュージック・ジャパン
2014-01-29