去年の続き

旅をしながら旅を探すバルタザールとホルミスダスとバダダハリダの三人組は、深い森の中へと入っていきました。
あまりに深くて暗いので、自分の顔も見えないことにホルミスダスは気づいて、パニックになってしまいました。
バルタザールとパダダハリダの顔をペタペタ触ったあとに 自分の顔を触って、「やっぱり見えない」と叫びます。
「もともと自分の顔なんて見えないだろう」
そう言うバルタザールの言葉も耳に入らないようです。
パダダハリダはホルミスダスを押さえつけて耳元で叫びました。
「ホルミスダス、考えてみろ。自分の目を見ることができるやつはいない。自分の右手で右手と握手できるやつはいない。これは普通のことだ」
「ではなぜ脳は自分のことを考えられる? もしお前の脳が何かを考えたことがあるというなら、答えてみろよ」
「そりゃ、右手で左手とは不器用ながら握手できるし、鼻がよほど引っ込んでれば右目で左目を見ることだってできるだろう。脳ってのは多分、そういう色々組み合わさったものだから、脳の一部がほかの部分を考えることはできるんだろうさ」 
「なるほど、では俺の顔というのは、どちらかというと、分けることのできない一体なものに近いということか?」
「いや、そういうことじゃないが……」
 バダダハリダの言葉が止まります。ホルミスダスの顔が中心の一点へと潰れ始めてしまったからです。顔自体が、分けることのできない一体なもの、つまり窓のないモナドへと潰れて行こうとしているのです。
「あわわ、どうしようどうしよう。このままではブラックホールになってしまう」
バダダハリダは慌てふためいて、何もすることができません。
「鼻だ!」
バルタザールが叫びます。
「「鼻?」」
二人には何のことかわからない様子。
「バダダハリダがさっき言っただろう。鼻だ。鼻があれば、誰だって寄り目にすれば自分の鼻が見える。唇を尖らせれば唇だって見えるさ」
そう言われて、ホルミスダスはもうほぼ一点に潰れてしまった顔で寄り目にしたり、唇を尖らせたりします。
「なるほど、確かに自分の顔が少し見られる」
ホルミスダスは納得して、元の顔に戻りました。綺麗でも格好良くもない顔だけど、この時ばかりは安心できる顔でした。
「どうやらこの森はどこか変だな」
バルタザールが呟きます。
「人の心に迷いをもたらす森かもしれないぞ」

(来年のクリスマスに続く)