ブッシュ・オブ・ゴースツ (ちくま文庫)
著者:エイモス チュツオーラ
販売元:筑摩書房
(1990-09)
販売元:Amazon.co.jp
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チュツオーラの『ブッシュ・オブ・ゴースツ』を読んでいたらとんでもないことに気付いた。
このナイジェリアの小説家、英語がまともに書けないことで有名だったが、数もまともに数えられてない。
11章の『「口をきく地面」と醜悪な女幽鬼』の冒頭で、神と間違えられて甕の中に入れられて、生贄の肉とぶっかけられる血で命をつないでいる主人公を奪っていこうとする泥棒と街の門番が戦うシーン。
門番は昼しか力が出ず、泥棒は夜にしか力が出ない。なので門番は夜を昼にする札を7枚持ってて、泥棒は昼を夜にする札を八枚持ってる。
それでまず門番が札を出して夜を昼にして、そこで泥棒が札を出して昼を夜にして、そこで門番が札を出して夜を昼にして、そこで泥棒が……そして門番が最後の札を出して夜を昼にすると、泥棒も最後の札を出して昼を夜にして、泥棒の方が一枚余分に持ってたから、泥棒のほうが勝負に勝つって話になるのだが、
門番が最初に札出してるんだから、一枚多くなくても泥棒が勝つだろ!
凄い小説家だとは思っていたけど、一桁の数が数えられないとは……
しかし、この小説は素晴らしい出来だ。主人公がひょんなことから幽鬼(ゴースト)たちの住むブッシュに紛れ込んでしまってひどい目にあうと言う筋立てだけど、絶対に思いつけない話がぽこぽこ出てくる。
命を狙われて追われている主人公があまりに醜くて誰とも暮らせないでブッシュの中に隠れ住んでいる女幽鬼を見つける場面が出色。
あまりの醜さに興味を覚えた主人公は自分が追われる身なのも顧みず、この女幽鬼を追いかけ始める。女幽鬼は顔を見られるのが嫌だから逃げる。主人公はあまりの醜さに追いかけながら大笑いしてしまうので、追手に場所が分かってしまう。女幽鬼の方も自分の醜さに思わず大笑いしてしまう。
やし酒飲み (晶文社クラシックス)
著者:エイモス チュツオーラ
販売元:晶文社
(1998-05-30)
販売元:Amazon.co.jp
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大好きなのは、主人公が死神の家を探す場面。五叉路でどちらに行けば分からなくなった主人公は、マーケットから帰ってきた女たちの姿を見て、いいことを思いつく。その五叉路のそれぞれの道に手足と頭を向け、交差点の真ん中に寝っ転がったのだ。すると女たちがそれを見て言うのだ。
「おや、この素敵な人は死神の家の方に頭を向けて寝ているぞ」
これで死神の居場所が分かると言うわけ。頭いいでしょ?
いいわけあるか!
皆さんも交差点の真ん中に寝っ転がっている人を見かけてもくれぐれも死神の家の方角を教えてはいけません。
私はあまりの感動に床を転げまわって喜んでしまった。こんな小説家がいたのか!?
そして『ブッシュ・オブ・ゴースツ』を読んで確信したのだ。こんな小説を数が数えられるような高等な人間が書けるはずがない! 反論は認めない。
実際、文字を読んだり、計算をしたり、ということは幼少期からすることにより、我々の脳が少なからぬ影響を受けることは、脳科学の研究から分かってきているのだ。
プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?
著者:メアリアン・ウルフ
販売元:インターシフト
(2008-10-02)
販売元:Amazon.co.jp
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この本では英語読者の脳と中国語読者の脳と日本語読者の脳がすべてどこを使って文字を読むのかが違っている、ということを書いている。そして「文字を読む」という行為によって脳がどんな変化を被り、どんな新しい能力を手に入れ、そして失ったか。そう、文字を読むことによって我々は確実にある種の脳の可能性を失った。文字を持った世代には稗田阿礼のような伝説的な記憶力を持つ人間は生まれない。また歴史上の天才たちの中に確実に多くの難読症患者が含まれるように、文字を読めない人はある種の空間認識において常人を越える能力を持ち合わせていたりする。
この本は「文字を読む」行為を軸に、過去現在そして未来に渡る、我々の脳の変化を見渡す事が出来る良い本だ。
チュツオーラは決して無文字の人間ではない。彼は高校程度の教育を受けたという噂だし、後期著作においてはかなりまともな英語が書けるようになっている。
それでも私は思うのだ。果たしてヨーロッパ人がこれを書けるのか。
もしかしたら、そこにはもう教育や文化の違いによって「脳が違う」という大きな断絶が横たわっているのかもしれない。
『ブッシュ・オブ・ゴースツ』に影響されてできた音楽。
My Life in the Bush of Ghosts
アーティスト:Busta Jones
販売元:Sire / London/Rhino
(1990-10-25)
販売元:Amazon.co.jp
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「Talking Haeds」のDavid Byrnsと「Roxy Music」そしてアンビエントの開祖として有名なBrian Enoが組んで作った名盤。アラブやアフリカの音楽やラジオ音声などをサンプリングして、「人工的な民族音楽」を作った傑作。
著者:エイモス チュツオーラ
販売元:筑摩書房
(1990-09)
販売元:Amazon.co.jp
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チュツオーラの『ブッシュ・オブ・ゴースツ』を読んでいたらとんでもないことに気付いた。
このナイジェリアの小説家、英語がまともに書けないことで有名だったが、数もまともに数えられてない。
11章の『「口をきく地面」と醜悪な女幽鬼』の冒頭で、神と間違えられて甕の中に入れられて、生贄の肉とぶっかけられる血で命をつないでいる主人公を奪っていこうとする泥棒と街の門番が戦うシーン。
門番は昼しか力が出ず、泥棒は夜にしか力が出ない。なので門番は夜を昼にする札を7枚持ってて、泥棒は昼を夜にする札を八枚持ってる。
それでまず門番が札を出して夜を昼にして、そこで泥棒が札を出して昼を夜にして、そこで門番が札を出して夜を昼にして、そこで泥棒が……そして門番が最後の札を出して夜を昼にすると、泥棒も最後の札を出して昼を夜にして、泥棒の方が一枚余分に持ってたから、泥棒のほうが勝負に勝つって話になるのだが、
門番が最初に札出してるんだから、一枚多くなくても泥棒が勝つだろ!
凄い小説家だとは思っていたけど、一桁の数が数えられないとは……
しかし、この小説は素晴らしい出来だ。主人公がひょんなことから幽鬼(ゴースト)たちの住むブッシュに紛れ込んでしまってひどい目にあうと言う筋立てだけど、絶対に思いつけない話がぽこぽこ出てくる。
命を狙われて追われている主人公があまりに醜くて誰とも暮らせないでブッシュの中に隠れ住んでいる女幽鬼を見つける場面が出色。
あまりの醜さに興味を覚えた主人公は自分が追われる身なのも顧みず、この女幽鬼を追いかけ始める。女幽鬼は顔を見られるのが嫌だから逃げる。主人公はあまりの醜さに追いかけながら大笑いしてしまうので、追手に場所が分かってしまう。女幽鬼の方も自分の醜さに思わず大笑いしてしまう。
わたしには、自分を殺そうととして背後から追っかけてくる『死』よりも自分にとって興味のあるものを見ることのほうが、だいじなのだ。私がこの小説家の魅力に捕われたのは、もちろん彼のデビュー作『やし酒飲み』である。

著者:エイモス チュツオーラ
販売元:晶文社
(1998-05-30)
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大好きなのは、主人公が死神の家を探す場面。五叉路でどちらに行けば分からなくなった主人公は、マーケットから帰ってきた女たちの姿を見て、いいことを思いつく。その五叉路のそれぞれの道に手足と頭を向け、交差点の真ん中に寝っ転がったのだ。すると女たちがそれを見て言うのだ。
「おや、この素敵な人は死神の家の方に頭を向けて寝ているぞ」
これで死神の居場所が分かると言うわけ。頭いいでしょ?
いいわけあるか!
皆さんも交差点の真ん中に寝っ転がっている人を見かけてもくれぐれも死神の家の方角を教えてはいけません。
私はあまりの感動に床を転げまわって喜んでしまった。こんな小説家がいたのか!?
そして『ブッシュ・オブ・ゴースツ』を読んで確信したのだ。こんな小説を数が数えられるような高等な人間が書けるはずがない! 反論は認めない。
実際、文字を読んだり、計算をしたり、ということは幼少期からすることにより、我々の脳が少なからぬ影響を受けることは、脳科学の研究から分かってきているのだ。

著者:メアリアン・ウルフ
販売元:インターシフト
(2008-10-02)
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この本では英語読者の脳と中国語読者の脳と日本語読者の脳がすべてどこを使って文字を読むのかが違っている、ということを書いている。そして「文字を読む」という行為によって脳がどんな変化を被り、どんな新しい能力を手に入れ、そして失ったか。そう、文字を読むことによって我々は確実にある種の脳の可能性を失った。文字を持った世代には稗田阿礼のような伝説的な記憶力を持つ人間は生まれない。また歴史上の天才たちの中に確実に多くの難読症患者が含まれるように、文字を読めない人はある種の空間認識において常人を越える能力を持ち合わせていたりする。
この本は「文字を読む」行為を軸に、過去現在そして未来に渡る、我々の脳の変化を見渡す事が出来る良い本だ。
チュツオーラは決して無文字の人間ではない。彼は高校程度の教育を受けたという噂だし、後期著作においてはかなりまともな英語が書けるようになっている。
それでも私は思うのだ。果たしてヨーロッパ人がこれを書けるのか。
もしかしたら、そこにはもう教育や文化の違いによって「脳が違う」という大きな断絶が横たわっているのかもしれない。
『ブッシュ・オブ・ゴースツ』に影響されてできた音楽。

アーティスト:Busta Jones
販売元:Sire / London/Rhino
(1990-10-25)
販売元:Amazon.co.jp
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「Talking Haeds」のDavid Byrnsと「Roxy Music」そしてアンビエントの開祖として有名なBrian Enoが組んで作った名盤。アラブやアフリカの音楽やラジオ音声などをサンプリングして、「人工的な民族音楽」を作った傑作。