けんさく。

けんさく。が、いろいろ趣味のことをやるページです。

2011年09月

馬鈴薯

「子どもができないみたいなの」
 彼女がそう言ったとき、自分でも悲しいことに、それが彼女にとってどれだけ悲しいのか私にはよく分からなかった。
 私は、彼女も含め全ての知り合いに隠していたことだが、繁殖とか増殖とかいうことに対して強迫観念的な怖れを持っている。なにやらコントロールできないものをそこに感じるからである。どうやら人気があるらしいテレビの「大家族特集番組」は私にとっては恐怖映像である。“鏡と父性はいまわしい、宇宙を増殖し、拡散させるからである”。この世に存在する唯一の数は「1」であり、それ以外は単なるその繰り返しにすぎない。
 だから、彼女が子どもを持ちたがっていることに対して私はいつもはっきりした答えを出してこなかった。うまく生きていくために嘘を厭わない私が彼女に対して聞こえのいい嘘を付かなかったのは、ある意味ではそれだけ彼女を愛していたということなのかもしれないが、ここで嘘を付いてもどんどん自分を逃げだせない場所に追い詰めるだけだと分かっていたからだ、と言う方が正解に近いであろう。また、さすがの私も彼女の望みにはっきり否やを突きつけることはできなかった。そんなことをしてもお互い傷つくだけだ。それならばうやむやにして時間の経つのを待つしかない。時間が彼女を変えるかもしれないし、私を変えるかもしれないからだ。私は彼女の繁殖欲と同じくらい、私の繁殖恐怖が非理性的なものであることを理解していた。その点、自分の強迫観念に合理的な理由づけをしようとしてきた人びとよりは私は少しばかりましだったと言えよう。だから時間が経てば、生活条件などを鑑みて彼女が子どもを持つことを諦めてくれるかもしれないし、社会情勢などを鏡みて私が1人くらいなら吐き気を我慢してやるかと考えを改めるかもしれなかった。
 それが私たちの意思をはまったく関係のないところから横槍が入る形になってしまった。
 生理不順に悩む彼女に産婦人科に行くことを勧めてから、彼女の様子がおかしくなった。なにか私に言えない悩みを抱えているようだった。何かを話そうとして、急に話題を変えてしまう。私は最初のうちは彼女が話す気になるまで待とうと思っていたが、顔に吹き出物がやくさんできはじめたあたりでそうも言ってられないようだと気付く。彼女は寝不足になると吹き出物がすぐにできるたちで、そして睡眠不足ってのは鬱の結果でありまた原因でもある。肌のケアにあれだけ金と時間をかけていた彼女が、少し見れば分かるくらい顔にぶつぶつを作って、厚めに塗った化粧でもそれが隠せれていない。そろそろ聞きだしておくべきだよな、と思って個室っぽくて落ち付いて話ができる喫茶店に連れていって、何かリラックスできる話でもしてから本題に入ろうと、この前見たゾンビ映画の話をしながらゾンビ映画以外の話題を一生懸命探していると、彼女が話の流れをぶった切っていきなりそう言ったのだ。
 私は自分でも情けないと思っているのだが、人を慰めるのがすごく苦手だ。黙っているべきなのか話すべきなのかがそもそも分からない。口を開けば場違いで空気を悪くする、毒ガスのような言葉しか出てこない。だからと言って黙っているとどんどん雰囲気が重くなっていく。何とかしなくてはと思ってる私の頭の中は名作『ゾンビ』の後半で暴走族の一人がバイクで走りながら鉈をゾンビの顔に一振りしてめり込ませる名シーンがエンドレスリピート。あれは確かゾンビ役の人の顔の部分にちょうど嵌まるような鉈を作ったんだよな。やはりトム・サヴィーニは偉い。顔も濃いし。あのTシャツ欲しいな。
 「だから、結婚はできない」
 急に現実に引き戻される。
 「別れましょう」
 「えっと、ちょっと待って?」
 そもそも私は子どもも欲しくないし、結婚だって長いこと付き合ってるうちに世間的圧力とかそういうもので、いつの間にかもうすぐそうすることになっていただけで、しないで済むんだったらそっちの方が面倒くさくなくていいくらいなのだが、別れるとなったら話は別だ。それは困る。今の生活は私にとってかなり心地いいし、彼女も大学を卒業後私の話を聞いてくれる数少ない人間であり、よりパーソナルな部分に踏み込んだことまで共有しあっている家族以外の唯一の人間だ。その人間にこんなふうに前触れもなく去られたら、さすがの唐変木の私でもショックが大きい。
 「君のも僕にも僕達にももっと時間が必要だよ。こういう人生に大きく関わる問題にはいくら時間を掛けても掛け過ぎってことはないんだから、もっと落ち着いてからまた話そう……」
 自分の言葉の中身のなさに思わず声が小さくなっていく。目を合わせられないので、コーヒーを見る。これが味噌汁ならベナール対流を眺めて時間が過ぎるのを待つことも出来るのだが。
 彼女が立ちあがる。慌てて追いかける。ああ、やっぱり泣いている。手を掴もうとすると振り払われる。心が折れかけるが、それでも追いかけようとすると、後ろから手を掴まれる。振り払おうとすると、喫茶店の店主だ。かつてはアマレスでオリンピックを目指していたらしいガチムチである。お金を払っているうちに彼女は消えてしまった。
 それからしばらくの間は彼女の部屋に行って、入れてくれと頼むことが日課の一つに加わった。電気は付いていないが、中にいる気配はする。なのに中に入れてくれない。合鍵を持っていてもチェーンは外せない。彼女が仕事から帰ってくるのより先に部屋に辿りついていようと仕事を早めに切り上げて同僚に睨まれたりしたが、結局いつもチェーンに阻まれてガンガンやっているうちに同じ階の住人の目が肌に痛くなりはじめて、返事の帰ってこないメールを入れながら退散することになる。そんなことをしているうちに、彼女が仕事に行っていないことを知った。
 これは本格的にまずいと思い、ホームセンターでバンセン切りを買ってくる。これを使えばドアチェーンを簡単に切れることで一部の業界で有名な道具だ。まずは合鍵で鍵を開ける。そして廊下に誰もいないのを確認して、素早くカバンからバンセン切りを出してチェーンを断ち切る。中にすべり込んで、電気を付ける。奥のベッドルームから気配がする。キッチンから異臭。皿やお椀やインスタント食品の容器が流しに山盛りになっていて、油がこべりつき、真っ黒な水が流れずに溜まっている。こんなことする女じゃないはずなんだが。
 「おい、大丈夫か?」
 今日は病院に入院させることも視野に車で来た。しかし、あれ以来顔を見ることも出来なかったので判断しようがない。とにかく顔を見て声を聞くこと、それが先決だと思い、安心させるように声を掛けながらゆっくり歩いていく。
 「ご飯とか、ちゃんと食べてる? 部屋の片づけとかも、僕がやっていいし……その、僕が精神的にヤバかったときにいろいろ助けてもらったしさ……」
 ベッドの上に彼女が蹲っている。こちらの気配に気づいて顔を上げた拍子に全身を覆っていたシーツが滑り落ちる。暗くて表情が良く見えない。
 「こんなところにいたのか」
 ここにいることは分かっていたけど何となくそういう。
 「電気付けないの?」
 疑問形で言いながらも、答えを待たずに明かりを付けようとする。しかしその待っていなかった答えが来る。
 「付けないで!」
 小さい声だが、私の手を止めさせるだけの何かがこもった声だった。しわがれていてとても彼女の声とは思えなかった。
 「大丈夫? 調子悪いなら、病院行こうか?」
 思わず掛け寄って背中を撫でる。人でなしと言われ、母親に「あんたは人の心が分からないから人を愛することはできない」と言われた私が本気で人を心配し始めている。
 そのとき風が部屋の中に流れ込んできて、外の光を遮っていたカーテンが舞い上がった。思わずそちらに目を向ける。狭いベランダで大切に育てていた家庭菜園のプランターが荒れ放題になっているのが目に入る。それに関して、何か言おうとしたとき、その光に反応したのか自分の内側を見つめるように腕に抱いた膝の間に頭を垂れていた彼女が顔を上げた。
 ギョッとした。
 顔が異様に腫れあがっていた。まるで天龍源一郎にボコボコにされた神取忍のような顔である。表面がでこぼこになっていて、うりざね型の顔の形が見る影もなくなっている。まるでジャガイモだ。肌の肌理も薄暗闇の中ですぐに気がつかざるを得ないほど荒れていて、しみかなにかでまだらになっているように見える。そして最後に会ったときにも気になっていた肌のでき物はさらにひどくなっていて、赤く腫れているだけでなく、膿だろうか、中から何かが出てきている。
 背後の廊下の光と窓の外にある街灯の光だけがわずかに部屋の中に差し込んでくる中、瞼の上の膨れ上がった肉が覆いかぶさってかくれてしまいそうになっている、いつもよりずっと小さく見える目が、奇妙に感情のない光を宿して私を見ていた。
 そしてギョッとしてしまった自分にショックを受ける。どんな顔になっても彼女は彼女だ。こんな生理的な嫌悪感を感じることはよくない。それで平静を装って、いやむしろ適度なショックを受けた様子を装って声を掛ける。
 「どうしたのその顔? 病気なら病院へ行かなくちゃ」
 頬に手を伸ばす。彼女に触れた時、私は戦慄する。肌のザラザラさが人間の物とは思えなかったからだ。どんなに理性が理性的に説得しようとしても、醜い物に対する単純な嫌悪感はなかなか静まらない。
 そしていくら隠そうとも私の表情や声色にそれは出ていたのであろう。
 「行かない」
 力なく言ってまたうなだれてしまう。私は何とか説得しようとする。
 「そんなこと言わないで……」
 「女じゃなくなっちゃったから……」
 下を向いたまま誰に言うともなくつぶやきはじめる。
 「女じゃなくなっちゃったから、こんな顔になっちゃったんだ」
 「なにを言ってんだよ、君は」
 「女である必要がなくなったから……」
 私は腹が立ってきた。子どもが欲しいという彼女の希望は共有はしないまでも一般的な物として理解不可能ではなかった。が、ここまでの妄執となると付き合いきれない。
 「いい加減にしないか。君は女は子ども産むためにあるって言うのか? そういうのは、女であることを貶めることになるよ」
 思わずフェミニスティックなことを口走る私。それに対して彼女はまた顔を上げ、私の目を真っすぐににらみ、
 「じゃあ、抱いてくれるの?」
 と訊く。女のこの、答えにくい質問をここしかないというタイミングで私に訊く機能は、どのような進化によって獲得されたのであろうか。
 「抱いてくれないんでしょ?」
 だから女であるってこととそれとはなんの関係もないじゃないか、と言うのは反論にならない。思い切り関係があるからだ。もしここで正しく反論しようと思えば、それは女であることの一部に過ぎないじゃないか、と言うのが正しいのだろうけど、世の中が上手く出来ていないと感じることの一つは正しい反論と言うのはたいがいあまりに長く、説明が面倒くさく、理解に時間がかかるということだ。だいたいフェミニズムと言うのはいくら正しさで優っていても、この手の女性の直観的な実感を前にしてあまりに無力だ。そして正しさなどより瞬発力が必要とされる場面でこんな長々しいモノローグを垂れ流してしまう私もまた、無力の骨頂と言えよう。
 「出てって」
 彼女はそれだけ言って、また彼女の内部に潜っていこうとする。
 「でも……」
 驚くほど言葉が出てこない。
 「出てって!」
 どうすることも出来ずに、自ら外へ出ていく。交換用に買ってきておいたチェーンを付け直して、外から手と指を必死に伸ばして引っ掛ける。30分くらいかかったが、もしかして切らなくても、こうやってやれば何とかチェーンを外せたかも。そして合鍵で自ら、鍵を掛けて、ドアの外に蹲る。
 どうすればいいんだろうか。このまま帰るわけにはいかないような気がしてならない。でもここにいてもどうすることも出来ないような気もしてならない。救急車を呼ぼうか。でも救急車って嫌がる患者を無理やり搬送することまでやってくれたろうか。自信がない。こんなことをしていると深夜アニメに遅れてしまう。もちろん録画はしているが、リアルタイムでないと実況に参加できない。
 どうするべきかと悩んでいると、携帯電話にメール着信が入る。彼女だ。件名には「今気付いた」とある。一体なんのことだと本文を見ると、
 「子どもできるかも」
 とだけある。一体こいつは何に気付いてしまったんだと真意を測りかねている私の耳に部屋の中から物音が聞こえる。ベッドから起きだようだ。
 中に入ろうとして、自分で苦労して掛けたチェーンに邪魔される。ドアを開けながら中に入ろうとしたのに、ドアが開かなかったから勢いよく頭を打ってもんどり打つ。握っていた携帯電話が手から離れ、廊下をスルスル滑って行く。慌てて拾おうとしたら、また着信。今度は無題だ。
 「簡単なことだけど、普通と違う方法。これなら一人でできる」
 なんの話なんだ。私はドアの隙間から腕を出来る限り差し込んでガチャガチャチェーンを外そうとしたあと、一回目はどうやって入ったかをようやく思い出し、バンセン切りをカバンから取り出してチェーンを切る。なんかものすごく効率の悪いことをしている。靴を脱ぐのも忘れて中に掛け込むと、カーテンが開け放たれていて、外からの明かりに彼女が照らされている。
 「大丈夫か?」
 私は訊く。彼女が振り返る。私は息をのむ。
 彼女の顔から何かが生えている。それは吹き出物だとばかり思っていた物だ。しかしそれは明らかにそんなものではない。彼女の顔から薄いピンク色の細長い物が幾つも幾つも生えて上に向かって伸びていこうとしている。
 私は声にならない悲鳴を上げて、尻もちを付く。それを見て、彼女が手に持っていた携帯電話を落とす。メールを打っていたらしい。私の携帯電話に着信が入る。しかしそれを見ている余裕はない。
 彼女の顔は腫れあがり切って真ん丸になり、人間らしさを完全に失っている。口はおうとつの中に埋もれて見えなくなり、その目はどこを向いているのか分からない、まるで出来の悪い人形のそれのようだ。
 彼女がふらふらと私の方に近づいてこようとした。私は立つことも出来ずに、壁を背にして逃げた。私は恐怖のあまり彼女の顔から目を離すことができなくなり、そしてようやく彼女の顔に生えたそれがなんなのかを理解した。それは芽だ。膨れ上がった彼女の顔はジャガイモそのもので、それに芽が生えているのだ。
 そう理解したときに私は、ベランダへのわずかな段差を転げ落ち、尻を強く打った。ひどく痛かった。尻とコンクリートの床の間に何かが挟まれている。それは西日本では主にシャベルと呼ばれ東日本ではスコップと呼ばれるものだった。とっさに私はそれを両手に持つと、思いっきり彼女の頭に向けて振り回し、振り抜いた。
 腕に確かな感触が残り、彼女は床に倒れた。好きだった長く黒い髪がすべて抜け周囲に散らばり、頭の片隅が衝撃で欠けていた。しかし血は出ていない。頭蓋骨も脳もなく、ただ一様な固い物質で出来ているようだ。それはまさにジャガイモだった。彼女がまた立とうとする。私はなにも考えずただ夢中で、その頭にもう一度手に持ったものを振り下ろした。固い感触はするが、人間を叩いた感じはしない。殺した感じもしない。私は今度は土に突き入れるための刃を立てて、彼女の首に付き立てようとする。狙いを定めようと、刃を首に当てると、ぐにと柔らかい肉の感触がする。首から下は彼女のままだ。全てを白っぽくする街灯の明かりの下、ただでさえ白い彼女の首筋から鎖骨の滑らかなラインが浮かび上がる。私は頭の中がひっくりかえるような感覚を懸命にこらえ、刃先を顎の下の頸動脈辺りに当てて、一度両腕を引き上げる。そして体重を掛け突き刺す。がっと固い感触がして途中で刃が止まる。もう一度引き抜いて突き刺す。もう一度。やはり血は出ない。白く固い欠片がぽろぽろ出てくる。少しずつ深くまで刃が入って行く。私は何回もそれを繰り返した。何回やったか分からなくなって繰り返した。私は気がつくと「離れろ。離れてくれ」と呟いていた。叫んでいたかもしれない。刃に足を掛け、全体重を掛けた最後の一突きで、それは彼女の体から離れてゴロンと転がった。勢いのあまり刃先が床に食い込んだ。私はその巨大なジャガイモにさらに刃を何回も振り下ろした。切った種イモのように細かいブロック状になるまでそれを続けた。最後には大きさのバラバラなそれが山積みになった。指に力が入らなくなり、道具を床にとりおとした私は、息を切らしたまま彼女の体を抱き起こす。胸に耳を付ける。呼吸はしていなかった。当たり前だ。首がこんなふうにふさがっているのだ。そこを手で触ると、私が削り取ったごつごつした断面ができている。何とかして、気道を確保して人工呼吸をしようと断面を撫でまわしながら頭をめぐらそうとする。そこで自分がしていることがどれくらい異常なことかへの理解が突然訪れ、私は彼女の体を突き飛ばす。吐き気が襲いかかってきて、私はトイレに駆け込んだ。そしてそのまま鍵も掛けずにアパートから転げ落ちるように逃げだすと、どうやって帰ったかもよく分からないまま車を運転して、とにかく自分の部屋に帰って、自殺でもするのかというような量の睡眠導入剤を飲み込んで、床に倒れ込んだ。
 次の昼すぎに目覚める。仕事場に侘びの電話を入れると、「最近どうも様子がおかしかった」と逆に心配されてしまう。そして彼女のアパートへ。すでに警察が来ているだろうか、帰る時ドアを閉めたかどうか、などと考えながらいくが、真昼間のアパートは人の気配もなく静かである。何か凄惨なことが起きたとは思えない。
 鍵が締まっていてギョッとする。一体誰が。もう二度と使わないと思っていた合鍵を差し込んでドアを開ける。切られたチェーンが垂れさがっている。
 部屋には誰もいなかった。まるで何事もなかったかのような彼女の部屋だった。もちろん首なし死体なんか転がっていなかった。
 もしかして昨日のことは全部私の夢なのではないかと思いはじめた時、床に出来た大きな傷に気がついた。昨日、彼女の首を切断した場所だ。
 「あら、何か御用ですか?」
 開けっ放しにしていたドアから、アパートの管理人のおばさんが覗く。
 「あ、あの、最近ずっと調子悪かったから、お見舞いに来たらいなくて……」
 しどろもどろになっていいわけしようとする私。
 「あら、今朝は早く起きて、ベランダで何かしてましたよ」
 「なにをですか?」
 予想外に強い私の反応に気圧される管理人さん。
 「え、ええと。多分、ジャガイモか何かを植えてたと思うんですが……たくさん」
 「その後は?」
 「出かけていきましたよ?」
 「何か変わったことはありませんでしたか?」
 首から上がなにもなかったとか? とはさすがに訊けない。
 「特になにも?」
 それは首から上になにもなかった、という意味ですか?
 「分かりました。多分、元気になって仕事に行ったんでしょう」
 私は心にもないことを言い、その場の会話を切りぬけた。
 もちろん彼女は仕事になんか行っていなかった。どこにも行っていなかった。彼女がこの部屋に帰ってくることも二度となかった。私が彼女を見ることもなかった。
 家族から彼女の捜索願が出て、警察の手で探されることになって、当然恋人の私も話を聞かれることになった。彼女が不妊で悩んでいたこと、そのせいで私たちの関係も壊れかけていたこと、それで彼女がかなり精神的におかしくなっていたことについて話した。そして昨日、会おうとしない彼女と話をするためにチェーンを切ったのは自分だということまでは話した。それからのことは当然話さないし、話せない。警察も別に怪しいところはどこにもないと判断し、チェーンを切ったことだけ説教されてそれでおしまいになった。
 彼女の部屋は、彼女の家族が金を出して、しばらくはそのままにすることになった。家族は、まだ帰ってくるかもしれないと信じているのだ。大家としても分けあり物件として売るよりそちらの方がうれしいだろう。家族たちは自分たちもつらいだろうに、私にもやさしく声を掛けてくれた。私が一番彼女の近くにいて、私たちの関係の変化が失踪の原因になったわけだから、残された者の中では私が一番当事者であり、私が一番つらいというのだ。実際何もかもその通りだ。何もかも彼らが想像している物とは違う形でだが。
 私が最初にやったことは、彼女が最後にやったことである、プランターに埋められたジャガイモのかけらを掘り出すことだった。それは確かに私があのとき削り取ったものに見える。なぜそんなものを吐き気を我慢してまで掘り出すのか、自分でもよく分かっていなかった。確かに埋め方が密集しすぎていて、あのままではまともに育つものは少なかったろうが、そんなことと私になんの関係があろう。なんのためにやるのかも分からずに掘り出してしまったそれを、とりあえず定石にのっとって暗い所に保管しておいてのだが、その後どうするかはなにも考えていない。彼女の園芸友だちに配ろうかとも思ったのだが、なにも具体的な行動に出る前に、しばらく放っといて久しぶりに確認してみたら、腐ってドロドロになってしまっていた。
 それを見たとき、私はなぜか溜飲が下がる思いをした。そして、そこでようやく自分が彼女に対して怒りを感じていたことに思い当った。そう、私は怒っていた、生殖への欲望のあまり、自分のコピーをそのまま作るという単性生殖に手を出し、男というものを蔑ろにした彼女に。
 要は、置いてけぼりにされたような気がしていたのだ。それでは私は必要なくなってしまうじゃないか、と。
 今でも私は彼女が最後に出したメールに付いて考えることがある。あの日の次の日、ベランダで粉々になった私の携帯電話をみつけた。どうやら知らない間に踏みつけてしまったらしい。そして彼女の携帯電話は彼女とともに行方不明だ。だから、彼女が最後に出したメールに何と書かれていたのかは、今のところ確かめようがない。なんだか私はそこに
 「だから、あなたはもう必要ない」
 と書かれていたような気がしてならない。
 でもそれでは私もあんなに嫌がっていた彼女との子どもを欲しがっていたことになってしまう。自分でも意味が分からない。だからますますいらいらする。とにかく、「俺の意見は聞かないのかよ」という感覚に似ている。
 だから、腐った種イモの山を見たとき「ざまあみろ」と思ったのだ。「一人で増えようったって、そうはいかないぞ」と。復讐でも果たしたかのような感覚だった。それとも、自分の種でない子どもを殺す父親のような感覚だったのか?
 とりあえずそれで私は彼女を断ち切ることができた。今では段々彼女について考えることも減ってきている。彼女がどこに消えたのかは知らないし、知りたいとも思わない。私の知らないところ、どこか事象の地平面の向こうがわで、好きなだけ増えて蔓延るがいいさ。

タングルド

美しく聡明なラプンツェルは幾ら外に助けを求めても無駄であることを早々に悟ってしまいました。いくら窓の外にその美しい歌声と長い髪で男を誘っても、すぐに魔女に気付かれてせっかくの美しい髪を切られてしまうだけです。それならもっと他の手があるではありませんか。ラプンツェルは発想の転換を図ります。
 外に逃げることを止め、内側に逃げることを考えたのです。
 ラプンツェルはその日から、その長い髪を織って、長い長い織り者を作りはじめました。魔女の工房から魔法の染料を失敬して自慢のブロンドを様々な色に染め変えて、黄金色の地の上に色鮮やかな世界を織り上げていきました。
 それは一つの物語でした。黄金色に輝く世界にも悲しみや問題はありました。あるところに子どもを欲しがっているのになかなかそれに恵まれない夫婦がいたのです。しかしあるときようやく神さまに願いが届いて、妻が子どもを身ごもります。
 その夫婦の家の裏にはひとつの窓があり、そこからは妖精の庭が見えました。その庭には世界中のあらゆる花や薬草が植えてありましたが、そこに住んでいる妖精が怖くて誰も入ろうとはしませんでした。しかし赤ん坊を身ごもった女は毎日その庭を見ているうちに、そこに植わっている見事なラプンツェルが食べたくて食べたくて仕方なくなってしまったのです。しかしそんなことをしてはいけないと分かっていた彼女は、気に病むあまりとうとう痩せこけて倒れてしまいます。
 夫はそんな妻を見て決心して、黄昏時に高い高い塀を越え妖精の庭に入り込んで、ラプンツェルの葉っぱを一掴み取って逃げかえると、サラダにして食べさせました。女の喜びようといったらありませんでした。それをガツガツ食べた次の日、女はその三倍ものラプンツェルを食べたくなっていました。夫はまた庭に忍びこもうとします。そこに妖精が立っていました。怒り狂った妖精に男は懸命に説明します。そのおかげか妖精は納得したようでした。しかし妖精は言います。
 「しかたがない。好きなだけラプンツェルを持って行くがいい。ただし、おかみさんが身ごもった子供を私に渡すというならね」
 男は恐怖のあまり全てを承諾してしまいました。
 こうして女は可愛い女の子を産み、妖精はその子を連れて行き、ラプンツェルと名付けました。胸にラプンツェルの葉の形の痣があったからです。妖精に大切に育てられたラプンツェルはこの黄金色の世界で一番美しい女に育ちましたが、高い塔から出ることは禁じられていました。その塔には出口もなければ階段もありません。ただずっと上の方に小さな窓があるきりだです。妖精は美しいラプンツェルが人間に奪われることを恐れていたのです。人間たちが庭に生えていたラプンツェルを盗んだように。
 その出口も入口もない塔に妖精が入りたいときには、妖精は

 ラプンツェル、ラプンツェル
 お前の髪を垂らしておくれ

と呼びかけることになっていました。そうするとラプンツェルは普段は結いあげている黄金を紡いだようなその綺麗な輝く長い髪を解いて、おさげ髪を窓の鉤に巻き付けます。すると髪は塔の下まで垂れ下がって、妖精はそれを手ン繰ると上まで登っていくのです。
 そんなある日、この国の王子が馬で森を通り抜けようとして、近くを通りかかったときのことでした。毎日塔に閉じ込められて暇を持て余したラプンツェルの歌声が王子の耳に届いたのです。王子は思わず馬を止め、うっとりと聴き惚れました。
 王子は歌声のやってくる方に吸い寄せられます。塔を見つけた王子は入口を探しますが、そんなものはどこにもなく、梯子を掛けるにも高すぎました。王子はがっかりして家に帰りましたが、歌声が彼の胸をそこまでかき乱していたので、それから毎日森へ出かけては歌声に耳を傾けていたのです。
 それが何日も続いた日でした、気の陰で歌を聴いていた王子が魔女が例の合言葉を言って塔の中に入る様子をみたのは。なんだそんな簡単なことか、と思った王子は、黄昏時に塔に行くと呼びかけます。

 ラプンツェル、ラプンツェル
 お前の髪を垂らしておくれ

 すると髪の束が垂れさがって来たので、王子はそれを手ン繰るとするすると昇っていきました。
 ラプンツェルは初めて見た男と言うものに最初はひどく驚いたものの、王子がやさしく話しかけるのを聞いていると、育ての親の妖精よりもこの人の方が自分を大事にしてくれるのではないかと思いはじめ、王子を部屋に入れます。王子は朝までその部屋にいて、胸の上のラプンツェルを味わいました。
 王子が帰るときラプンツェルは言います。
 「わたくし、あなたに付いてまいりたいのですけれど、どうやって下に降りればいいのか分かりませんの。あなた、これからここにおいでになる度に絹の紐を一本ずつ持っていらして。それで梯子を編みますわ。梯子が出来上がったらわたくしは下へ降ります。そうしたら、あなたの馬に乗せてくださいませね」
 それ以降、黄昏のたびに王子はラプンツェルを訪れ、2人で楽しく夜を過ごしました。妖精はそのことにまったく気付いていませんでしたが、とうとう絹の縄梯子が完成しようというころ、ラプンツェルはうっかり言ってしまいました。
 「ねえ、どうして服がきつくなって着れなくなってしまったのかしら」
 箱入りで育てられたラプンツェルは性教育もまともに受けていませんでした。しかし妖精はすぐにことの次第を悟ります。
 「なんだって、この罰当たりめ! お前を俗世間から守ってやっていたのに。裏切り者め!」
 妖精はラプンツェルの見事な髪を掴むと、二巻き三巻きおさげを左手に巻きつけて、右手に持ったはさみでジョキジョキ切り落としてしまいました。そしてラプンツェルを荒野に連れていき、置き去りにしてしまいました。可哀そうなラプンツェルは、そこで哀れな暮らしをするよりありませんでした。
 その日の黄昏時にも王子はやってきます。そして下からラプンツェルに呼びかけ。降りてきた金色のおさげに掴まって登って行きましたが、そこに待っていたのは妖精でした。おさげは切りとったものを、窓の鉤に結び付けただけでした。
 「おやおや! 可愛い嫁さんを迎えに来たのか? だが、あのきれいな小鳥はもう籠から出ていてしまったんだ! だからもうさえずりゃしない。猫がさらっていったんだよ。猫はお前の目玉もえぐり出すかもしれないぞ。ラプンツェルはもうお前のものじゃない。二度とあの子の顔は見られないね!」
 妖精は王子を口汚く罵ります。それでもうラプンツェルに会えないと分かった王子は錯乱し、ラプンツェルが作った縄梯子を抱きしめて塔から身を投げてしまいました。茨の藪の中に落ちて棘で両目を潰された王子は、森の中を彷徨い、木や草の根、山葡萄や草いちごのようなものだけ食べて、ただ手に持った縄梯子に頬擦りしながら泣き続けるだけの存在になってしまいました。
 こうして幾年かが過ぎた後、彷徨う王子はついに、ラプンツェルが産んだ男の子と女の子の双子と共に細々と暮らしている荒野に入り込ます。どこか聞き覚えのある声に惹かれて近付いてきた男を見て、ラプンツェルはすぐにそれが誰だか分かり、王子の襟首にかじりついて涙を流しました。その涙の二滴が王子の目に入ると、彼の目はたちまち見えるようになります。
 「ああ、王子様。ずっとお待ちしておりました。これがあなたの子でございます」
 目が見えるようになった王子はラプンツェルを見てこう言います。
 「ああ、あなたのおかげで目が見えるようになりました。いくら感謝の言葉を連ねても足りますまい」
 その他人行儀な言葉にラプンツェルは疑問を感じます。
 「これからは夫婦で一緒に暮らせるのでしょう?」
 それに王子は首を横に振ります。
 「いえ、それはできません」
 ラプンツェルは叫びます。
 「どうしてですか?」
 王子は悲しそうに答えます。
 「私があなたに惹かれたのは、あなたが美しく長い髪を持っていたからです。しかしあなたはもうそれを持っていません。私は髪の長い女性が好みなのです。いえむしろ、女性の長い髪が好みなのです、と言うべきでしょうか」
 ラプンツェルは怒りだします。
 「子どもまで産ませてその仕打ちですか?」
 いろいろあってラプンツェルも人並みの性知識を身に付けたようです。
 王子はそれに答えずに、黄金の髪で編まれた黄金の世界から目をあげて、その外側の世界を見上げます。
 「私が結婚したいと思うのはあの女性です」
 その指さした先にいる女性、それはこの物語を編んでいるラプンツェルでした。
 「彼女は誰も自分を助けに来ない現実に絶望し、物語の中だけでも自分を救うためにこの物語を作り、自分を救うために私を作りました。だから私が本当に助け出さないといけないのは、この物語の中のあなたではなく、この物語を作っている、あのまだ長い綺麗な髪を持ちつづけている女性なのです」
 2人のラプンツェルは同時に驚きます。特に物語を編んでいるラプンツェルは飛び上がるほど驚きました。これは髪を染めるのに使った精霊の薬のせいかと思いました。しかしそれは違います。中世の魔術などと言うのは未発達な科学に過ぎず、そのような超自然的力はなかったのです。ただラプンツェルにとって物語を編むのは初めての経験であり、当然物語がその作者を裏切って勝手に動き出すという経験も初めてだったので、ひどく混乱してしまったのです。
 王子は物語の編み物の中からラプンツェルに呼びかけます。

 ラプンツェル、ラプンツェル
 お前の髪を垂らしておくれ

 ラプンツェルは物語を編み込んだ自分の長い髪をその物語の中に垂らします。王子はそのもつれた髪を手ン繰って、するすると物語の外へと登っていきます。
 「あんた、そんな人でなしでいいのかい? あんただって捨てられるのかもしれないんだよ!」
 物語の中からラプンツェルが叫びますが、外のラプンツェルにとっては自分が空想の中で作りあげた理想の男が自分に実際に言い寄ってくることと比べたら、そんなことは些細な問題に思えます。
 「さあ、塔から逃げよう」
 王子はずっと持っていた絹の縄梯子を窓の鉤に結び付けると、ラプンツェルの手を引いて塔を降り、魔女の手の届かないところまで逃げていきました。
 その後、自分の父親にラプンツェルを会わせて妃にしようとしましたが、その世界では王子は別にいるので大変な騒ぎになりかけましたがそれも何とか切り抜け、お城での優雅な生活とは行きませんでしたが、男の子と女の子の双子にも恵まれ、末長く幸せな生活を送りましたとさ。
 でもラプンツェルは、窓際で赤ん坊に乳を含ませながら、ときどき考えてしまいます。今自分がいる場所はもしかしたらあのとき自分が織った物語の中なのではないだろうか、そもそも物語の中にその物語を織りこんだ髪を垂らすなんてことが物語の外で可能なのだろうか、本当の自分はまだあの塔の中でこの物語を織り続けているのではないだろうか、と。そうしたら、今自分は相変わらずあの無骨で居丈高な塔と繊細で滑らかな織り物の、二つに閉じ込められている、それって幸せって言えるのだろうか、と。またこうも考えます。もしそうなら、本当の自分はあの塔の中で、自分が幸せになる物語を、本当には助けに来ない王子様によって自分が救われる物語を織り上げ続けている、それも果たして幸せって言えるのだろうか。
 そういうことを考えはじめるとラプンツェルはかつて塔の中で魔女に見せられた一枚の絵を思い出します。その絵では、塔の中に閉じ込められたハート型の顔をした女たちがやはり同じ顔の女の監視者のもと、絵を描き続けていて、その絵が塔の外まで続いてそのまま塔を囲む世界になってしまいます。その絵を見ているとラプンツェルは立ちつくして、なぜだか涙が止まらなくなってしまったものでした。今になってようやくラプンツェルにもそのわけが分かってきたような気がします。物語の力で救われたと思っていた彼女はだんだん物語の力が信じられなくなってきてしまい、それどころか物語の力が怖ろしくなってくるほどでした。
 でもそんなときに、ラプンツェルは自分のもつれた髪の毛を手ン繰るのですけど、何回やっても元のところに戻ってきてしまって、もつれたお話のもつれたしっぽはどこにも見つからないのでした。

すっかり忘れてたけど、

ずっと前にSF相撲小説書くって知り合いと話してて結局ぜんぜん書いてねえや(ちなみにSは「SUMOU」の略なのでSF相撲小説じゃ冗語である)。

と言うわけでみんな知ってるけど、知らない人もまだいるかもしれないこの動画でお茶を濁そう。

小説完成のあかつきにはこんな感じの戦闘シーンが入るんじゃないかな?

けんさく。の映画評 最近のラノベのヒロインにうだうだ言ってないで『赤ちゃん教育』を見ろよ!

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まず最初に宣言しておくがヘップバーンといったらキャサリン・ヘップバーンである。というかヘップバーンといったらオードリーになってしまうのは日本くらいで欧米では当然キャサリンである。これはもう、ネット初心者とレッテル張りされる恥辱を覚悟で言うのだが、Wikipediaにそう書いてあるのだから本当だ。あと権威主義者と罵られる恥辱も覚悟で言うのだが、蓮實重彦も彼女への追悼文でそう言っているのだから本当だ。

別に僕は偉い人が言ってたとか、欧米の人たちが言ってた、とかでキャサリン・ヘップバーンを推してるわけではない。もう、こんなものは映画を見れば分かるくらいのレベルで違うのである。オードリーが単なるアイドルならキャサリンは演技の女王である。何もかもが違う。オスカー4回取っちゃうのも分かる(そんな俳優はこの人だけ)。
簡単に行っちゃうとキャサリン・ヘップバーンを知らない人たちは本物の映画を見たことがないのである。だからなにが本物なのか分からないのも仕方ない。

キャサリン・ヘップバーンには女優として重大な欠点がある。顔が可愛くない。美人ではある。でも可愛げは「一見」ない。背は170異常。肩幅は広い。頬骨はいかつい。胸はガタイの割に小さい。「若いころからおばさん」とある映画評論家は言ってた。
でもそれを補って有り余るダイナミックさ。手足がすらりとして長く、それの扱い方がもうかっこよすぎる。歩いてきて机の上にドカッと座って足を組む。その一連の動きに惚れる。いやそれどころか歩いてて振りかえるだけでいい! 「踵を中心とした足の使い方」の素晴らしさをたたえた淀川長治さんはやっぱりちゃんとよく見てらっしゃる! この人の魅力を最大限に発揮するのはやっぱりパンツ・スタイルである(もちろんドレス着ててもゴージャスでいいけど)。当時珍しかった、女性がパンツ・スタイルでいるというファッションをトレンドにしたのは彼女の功績の一つだ。女性はもっと感謝すべきでは?
それに声。「鼻と口の間から出てくる鼻声」と淀川長治さんは言ってたけど、その声で次々と気風のいいセリフが飛び出す。ギャングの女親分と間違えられたのを利用して、ギャング口調で喋って相手にまんまとギャングだと思わせるところとか最高! もう「姐さん! 付いて行きます!」って気分になっちまう。
でも要所要所でこの姐さんがしんなりしてしまうのである。調子に乗ってたパニクってしまったり、好きな男に嫌われたと思って泣きたくなってしまったりするのである。これには主人公もタジタジ。

キャサリン・ヘップバーンは涼宮ハルヒや逢坂大河などの最近のラノベの理不尽で気が強くて主人公を引きずりまわすヒロイン全ての祖母に当たる女性である。ツンツンしてて迷惑で腹も立つんだけど、実は脆い部分も持ってて、主人公だけにそれを見せるのだ。こう言うのに男はころりとだまされる。

というわけで『赤ちゃん教育』を見よう。今のラブコメの先祖に当たる作品だけど、もうほとんど完璧といってもいいほどラブコメに必要な要素は揃ってる。そして面白い。
主人公はいきなりヒロインじゃない女性と婚約中で今組み立ててる恐竜の骨(古生物学者なのである)が終われば晴れて結婚というところ。そこへキャサリン・ヘップバーン演じるヒロインが現れて主人公の生活をひっちゃかめっちゃかにしちゃうのである。佐々木とキョンが付き合ってるところにハルヒが現れて全部ひっくり返しちゃうような話だ。
こういうのを見てると、日本人がコメディだと信じて見てるものはほとんどコメディじゃないことが分かる。騙されてますよ、あなた方!

そう言えば

この前NO PAN NIGHT 2ND HEAVEN行った時、新木場の風景にすごい見覚えがあったんだけど、さっき久しぶりにパトレイバー読んでて思い出した。『廃棄物13号』の激戦地の一つだったんだ。あの海にファザコン女生物学者が飛び込んだんだなあ、と思うと感慨深いな。

NO PAN NIGHT 2ND HEAVENの動画

ポールダンス


コスプレ


『闘う者達』→『ビッグブリッジの死闘』→『風の憧憬』


Tetris→『God knows…』


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押井守の1作目2作目が良すぎて三作目の影が薄いけど、地味にいい作品。脚本のとり・みきはギャグ漫画家として無茶苦茶重要な人だけど、実はシリアス物もこなすことはファンなら知っている。この作品の良い分析は藤津亮太のアニメ評論集
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