以前、online etymology dictionaryを紹介したとき、「語源学は遊べる」という話は書いたと思うが、またネタがたまったので記事にしたいと思う。
古代インドの聖典「Veda」はもともと「知識」という意味だが、これはPIEの“*weid-”=「見る」から来ている。「見る」という言葉に「知る」という意味が出来るのはよく見られる現象である(そう考えると、「sapiens」=「知識」の語源「sapio」が「味わう」という意味なのは珍しいのかも。「science」の原義は「分ける」であり、これは日本語の「分かる」と共通しているので珍しくない)
例えば、ケルトの司祭兼政治指導者であった、「Druid」は「daru」+「vid」であり、これは「オークの賢者」を意味し、後半はもちろん「veda」と同語源である。
これはゲルマン系の言語を通して英語にも入っており、「wit」=「智恵、ユーモア」や「wise」=「賢い」、「wizard」=「賢者、魔術師」などの言葉になるほか、少し音が変化して「guide」=「導く」などの言葉になる。
また「wise」に「方法」という意味が出て英語の「otherwise」や「likewise」、「clockwise」という言葉が発生する。ここで「もしかしてwayも?」と考えるのが人情だが、これは「運ぶ」が原義でむしろ「weight」などと関係が深いんだそうだ。ふむふむ。
英語ではないが、名前の意味である「真実」を全く報じてこなかったこととして有名なソ連共産党の機関紙「Pravda」の後半も同語源である。
一方、ラテン語からロマンス語を通して英語に入った流れはどちらかというと、「見る」という意味を残している。
「vision」、「view」、「video」などである。
で、ここら辺までは確か以前の記事にも書いたような気がするけど、最近気付いたのは、哲学用語でギリシャ語の「idea」=「イデア」と「eidos」=「形相」が両方とも「見る」と意味する「idein」から派生しており、これはもちろん、上の様々な言葉と同系統だ、ということだ。
(「イデア」はプラトン哲学の根本用語で、「形相」はアリストテレス哲学の重要用語である。プラトンによれば、この世のすべては非物質的な「イデア」の影に過ぎず、本当に存在するのは「イデア」なのだ。だからひとつひとつの「机」は、本当に存在するものではなく、本当に存在するのはそれらの原型である「机のイデア」だ、という議論だ。それにたいしてアリストテレスは「机」を、それを実現するための材料である「質料」、例えば「木」と、実現された形である、「机の形相」に分け、「形相」は「質料」なくしては存在し得ない、と考えた)
「idea」も「eidos」も元は「見た目」という意味だったのだ。
「idea」は英語の「idea」=「アイディア、観念」という意味になっていまだに使われ続けている。
それに対して、「eidos」は「見た目」という部分が拡大され、「見た目だけのもの」という意味から、「idol」=「偶像」、つまり(キリスト教から見ての)異教徒が拝む神の象を表すようになる。フランシス・ベーコンの「四つのイドラ」もこれである。
そしてもちろん、ここから「人びとが熱狂的に支持する人物」という意味の「アイドル」が出てくるのである。
さらに、「見た目」の意味から「eidos」を接尾辞にしたのが、「-oid」である。これは「~に似ている」という意味なのだ。
人間に似ているから「anthropos+oid」=「anthropoid」=「類人猿」、望遠鏡で見ても恒星と同じで点にしか見えないのに惑星みたいな挙動をするから「aster+oid」=「asteroid」=「小惑星」、アルカリみたいだから「アルカロイド」、etc。
でも、日本人にとっては「モンゴロイド」=「黄色人種」とか「ネグロイド」=「黒人種」とか「コーカソイド」=「白人種」などの人種を意味する使い方がより心に残ったのか、『ガンダム』における「スペースノイドとアースノイド」みたいな、人種を表す接尾辞と勘違いする例も多い。
なんだよ「スペースンみたいなの」とか「アースンみたいなの」ってのは?
というわけで今回の記事は終わり。
これを書いてて思いついた話としては、いつかフランシス・ベーコンの「四つのイドラ」に対応した「四人のアイドル」の出てくる話を書こう。
「種族のアイドル」
「洞窟のアイドル」
「市場のアイドル」
「劇場のアイドル」
面白そうじゃありませんか?
私には面白そう何だがなあ……
古代インドの聖典「Veda」はもともと「知識」という意味だが、これはPIEの“*weid-”=「見る」から来ている。「見る」という言葉に「知る」という意味が出来るのはよく見られる現象である(そう考えると、「sapiens」=「知識」の語源「sapio」が「味わう」という意味なのは珍しいのかも。「science」の原義は「分ける」であり、これは日本語の「分かる」と共通しているので珍しくない)
例えば、ケルトの司祭兼政治指導者であった、「Druid」は「daru」+「vid」であり、これは「オークの賢者」を意味し、後半はもちろん「veda」と同語源である。
これはゲルマン系の言語を通して英語にも入っており、「wit」=「智恵、ユーモア」や「wise」=「賢い」、「wizard」=「賢者、魔術師」などの言葉になるほか、少し音が変化して「guide」=「導く」などの言葉になる。
また「wise」に「方法」という意味が出て英語の「otherwise」や「likewise」、「clockwise」という言葉が発生する。ここで「もしかしてwayも?」と考えるのが人情だが、これは「運ぶ」が原義でむしろ「weight」などと関係が深いんだそうだ。ふむふむ。
英語ではないが、名前の意味である「真実」を全く報じてこなかったこととして有名なソ連共産党の機関紙「Pravda」の後半も同語源である。
一方、ラテン語からロマンス語を通して英語に入った流れはどちらかというと、「見る」という意味を残している。
「vision」、「view」、「video」などである。
で、ここら辺までは確か以前の記事にも書いたような気がするけど、最近気付いたのは、哲学用語でギリシャ語の「idea」=「イデア」と「eidos」=「形相」が両方とも「見る」と意味する「idein」から派生しており、これはもちろん、上の様々な言葉と同系統だ、ということだ。
(「イデア」はプラトン哲学の根本用語で、「形相」はアリストテレス哲学の重要用語である。プラトンによれば、この世のすべては非物質的な「イデア」の影に過ぎず、本当に存在するのは「イデア」なのだ。だからひとつひとつの「机」は、本当に存在するものではなく、本当に存在するのはそれらの原型である「机のイデア」だ、という議論だ。それにたいしてアリストテレスは「机」を、それを実現するための材料である「質料」、例えば「木」と、実現された形である、「机の形相」に分け、「形相」は「質料」なくしては存在し得ない、と考えた)
「idea」も「eidos」も元は「見た目」という意味だったのだ。
「idea」は英語の「idea」=「アイディア、観念」という意味になっていまだに使われ続けている。
それに対して、「eidos」は「見た目」という部分が拡大され、「見た目だけのもの」という意味から、「idol」=「偶像」、つまり(キリスト教から見ての)異教徒が拝む神の象を表すようになる。フランシス・ベーコンの「四つのイドラ」もこれである。
そしてもちろん、ここから「人びとが熱狂的に支持する人物」という意味の「アイドル」が出てくるのである。
さらに、「見た目」の意味から「eidos」を接尾辞にしたのが、「-oid」である。これは「~に似ている」という意味なのだ。
人間に似ているから「anthropos+oid」=「anthropoid」=「類人猿」、望遠鏡で見ても恒星と同じで点にしか見えないのに惑星みたいな挙動をするから「aster+oid」=「asteroid」=「小惑星」、アルカリみたいだから「アルカロイド」、etc。
でも、日本人にとっては「モンゴロイド」=「黄色人種」とか「ネグロイド」=「黒人種」とか「コーカソイド」=「白人種」などの人種を意味する使い方がより心に残ったのか、『ガンダム』における「スペースノイドとアースノイド」みたいな、人種を表す接尾辞と勘違いする例も多い。
なんだよ「スペースンみたいなの」とか「アースンみたいなの」ってのは?
というわけで今回の記事は終わり。
これを書いてて思いついた話としては、いつかフランシス・ベーコンの「四つのイドラ」に対応した「四人のアイドル」の出てくる話を書こう。
「種族のアイドル」
「洞窟のアイドル」
「市場のアイドル」
「劇場のアイドル」
面白そうじゃありませんか?
私には面白そう何だがなあ……