彼が、消えていきたい、とずっと思っていることは折に触れ聞いていた。
本気だとは分かっていた。
薬でべろんべろんになっているときは、少し消えられて、楽なんだと思っていた。
だが、なぜかその日が今日だとは思っていなかった。
明日も、消えていきたいと思いながらそこにいると思っていた。
そんな明日は来なかった。
消えていく文化が好きな奴だった。
消えていく文学が好きな奴だった。
そういえば奴はバンドの「たま」が好きだった。カラオケでもよく歌っていた。「たま」の歌は、メンバーでハーモニーするので、私もパートの一つを担当することがあった。
「たま」には、美しく消えていくことを歌った歌がいくつかある気がする。
今夜は「たま」を聞こうと思う。

奴のいない世界に、知久寿焼の声が妙に移ろに響き渡る。美しいハーモニーとともに消えていくことなど、我々には出来ないのに。