ヨーロッパ人は、「日本人はuncookedな魚を食べるからマジキチ」と言うが、それは別に「火を通していない」という意味ではない。ヨーロッパ人だって火を通していない肉や魚を食べることがある。
というか、別に生の肉を食べる習慣は、日本の刺身やイヌイットの食習慣だけでなく、世界中に存在するのだ。
例えば、ハンバーグステーキの元になった「タルタルステーキ」は、要はハンバーグの種を生のまま食べる料理だ。これの韓国版が食中毒で問題になった「ユッケ」である。
イタリア料理の「カルパッチョ」もまた、生の肉に様々に味付けして食べる料理だ。
音読みで「なます」と読む「膾(kuài)」はにくづきが付いていることでも分かるように、もともとは古代中国の生肉に調味料を合わせて食べる料理だ(日本語で「なます」と言うと魚料理だが)。

では結局ヨーロッパ人には、日本の「刺身」の何が異様にみえたのであろうか。
どうやら彼らの「cooked」と「uncooked」の間には、この「調味料をまぶして」あるかどうかが大きいらしい。調味料をまぶせば、それは「cooked」であり、それを食べることは文明人として何の問題もない。つまり「刺身」が異様に思えるのは、別に彼らの衛生感覚でもなんでもなく、非常に抽象的な感覚で、「調理してないものを食べるのは非文明人」という謎の思いこみなのだ。

なんてことを考えたのは、先日知り合いの知り合いのメキシコ人がメキシコ料理を作るのを手伝っていたときのことである。
彼は生のエビをたくさん買ってきて、殻を剥いてさいの目に切った後、やはりさいの目に切った茹でダコとトマト。みじん切りにした玉ねぎと一緒にボウルの中に入れて、100パーセントのレモンジュースに漬けておいたのだ。
すると見る見るうちに、まるで茹でたみたいに生のエビが赤く色づいて来たのだ(結構びっくりした)。
これを30分ほど放置して、最後にアボカドとピクルスを入れて、お好みで激辛メキシカンソース(名前は忘れた)を入れて、無塩クラッカーに乗せて食べるのだ。
タコは最初から茹でてあるのを買ってきたので、一切火は使わなかった。そして、レモン汁で赤く色づいたエビを見たとき、ヨーロッパ人にとって「cooked」と「uncooked」の間の深い狭間の正体が少し見えたような気がしたのだ。