以前書いたルネ・ラルーとメビウスの『時の支配者』についての記事に語り残しがあったので追記しておく。ほんとは書くつもりだったんだけど、筆が弾んで話題がずれて、書くのを忘れてしまったんだ。
時の支配者〈デジタル・ニューマスター版〉 [DVD] [DVD]
出版: IMAGICA
(2005-03-10)
アニメーション制作の大きな問題は、人件費である。
1930年代から50年代のアメリカン・アニメーションの第一期黄金時代が終焉したのも、度重なるストライキで賃金が高騰し、作品製作が不可能になっていったことが一つの原因だ。MGMがアニメーションスタジオを閉鎖した1957年を一つの節目だとわたしは考えている。(ちなみに、ディズニーでのストライキにはソ連のスパイが関わっているという説もあるらしい。ほんとかよ)
アメリカのアニメーション業界が復活するのは1990年前後、そしてそこから現在まで第二期黄金時代が続いていて、そろそろ終わりが来るのではないか、ほらなんだか似たような作品ばかりになってきたではないかと、年のいったファンはいらない心配をしたりしていたりするのだが、今のところ『アドベンチャータイム』とか『レギュラーショウ』とか『マイリトルポニー』、いい作品が出続けている。それを支えているのは、韓国による作画下請けシステムだ(日本のテレコムも、アメリカのアニメーションの作画下請けをして、こちらより向こうのアニメーション業界で有名な気がする。いい会社なのに)。日本もまた80年代からは、韓国による下請けなしで業界を支えることは考えられない。
アニメーションというものは、賃金の安い被搾取国の存在なしではありえない芸術形式なのだ。
フランスだって事情は同じ。フランス人雇ってアニメーション作るなんて、無理な話である。
では、どの国から安い労働者を雇うか。そこには地理的な問題が絡むので、ヨーロッパでは解決策が異なるのは当然であろう。
例えばシルヴァン・ショメの傑作『ベルヴィル・ランデブー』は作画をカナダに下請けしていた。カナダは国営スタジオNFBもあるし、アニメーションには強いし、フランスとの関係も深いが、果たしてフランスと比べて賃金が安いのだろうか? と不思議に思ったものだ。
ルネ・ラルーでは『ファンタスティック・プラネット』が、当時のチェコ・スロバキアで制作している。チェコはアニメーションの盛んな国の一つだが、当時は鉄のカーテンの向こう側である。それほど交流も盛んではなかろうし、実際合作は大変だったという。
さらに、最後の長編『ガンダーラ』と最後の短編『ワン・フォはいかに助けられたか』(マルグリッド・ユルスナールの短編集『東方奇譚』で一番印象に残る作品『老絵師の行方』である)の制作はなんと北朝鮮で行っているという。やはりフランス人、共産主義好きなのか?
で、ようやく(今回も盛大に話がずれている)本題だが、『時の支配者』はフランス・ドイツ・ハンガリースイス共作とあるが、エンドロールをみたところ、作画の主力はどうやらハンガリーのようだ。また共産主義国か。
でも、私はハンガリーのアニメーションも幾つか見たことがあって、結構好きだったので、テンションが上がりはじめていたところ(エンドロールでテンションを上げてどうする)、あったのだ。スタッフの中に。知っている名前が。
「お! イシュトヴァーン・オロスいるじゃん!」
以前記事に書いたように、エッシャー的なアート・アニメーションを作る職人アニメーターで好きなのだ。
その人が若いころに関わっていた作品が分かる、というのはそれだけで得した気分になれる。
あと、下請け会社の名前が「パンノニア・フィルム・スタジオ」で、これがハンガリー最大のアニメーションスタジオらしいのだが、ダニロ・キシュの『砂時計』を読んでから、なんか「パンノニア」という地名がおどろおどろしいものにしか聞こえなくなってしまった。
砂時計 (東欧の想像力 1) [単行本]
著者:ダニロ・キシュ
出版: 松籟社
(2007-01-31)
![時の支配者〈デジタル・ニューマスター版〉 [DVD]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/310JPF1C97L._SL160_.jpg)
出版: IMAGICA
(2005-03-10)
アニメーション制作の大きな問題は、人件費である。
1930年代から50年代のアメリカン・アニメーションの第一期黄金時代が終焉したのも、度重なるストライキで賃金が高騰し、作品製作が不可能になっていったことが一つの原因だ。MGMがアニメーションスタジオを閉鎖した1957年を一つの節目だとわたしは考えている。(ちなみに、ディズニーでのストライキにはソ連のスパイが関わっているという説もあるらしい。ほんとかよ)
アメリカのアニメーション業界が復活するのは1990年前後、そしてそこから現在まで第二期黄金時代が続いていて、そろそろ終わりが来るのではないか、ほらなんだか似たような作品ばかりになってきたではないかと、年のいったファンはいらない心配をしたりしていたりするのだが、今のところ『アドベンチャータイム』とか『レギュラーショウ』とか『マイリトルポニー』、いい作品が出続けている。それを支えているのは、韓国による作画下請けシステムだ(日本のテレコムも、アメリカのアニメーションの作画下請けをして、こちらより向こうのアニメーション業界で有名な気がする。いい会社なのに)。日本もまた80年代からは、韓国による下請けなしで業界を支えることは考えられない。
アニメーションというものは、賃金の安い被搾取国の存在なしではありえない芸術形式なのだ。
フランスだって事情は同じ。フランス人雇ってアニメーション作るなんて、無理な話である。
では、どの国から安い労働者を雇うか。そこには地理的な問題が絡むので、ヨーロッパでは解決策が異なるのは当然であろう。
例えばシルヴァン・ショメの傑作『ベルヴィル・ランデブー』は作画をカナダに下請けしていた。カナダは国営スタジオNFBもあるし、アニメーションには強いし、フランスとの関係も深いが、果たしてフランスと比べて賃金が安いのだろうか? と不思議に思ったものだ。
ルネ・ラルーでは『ファンタスティック・プラネット』が、当時のチェコ・スロバキアで制作している。チェコはアニメーションの盛んな国の一つだが、当時は鉄のカーテンの向こう側である。それほど交流も盛んではなかろうし、実際合作は大変だったという。
さらに、最後の長編『ガンダーラ』と最後の短編『ワン・フォはいかに助けられたか』(マルグリッド・ユルスナールの短編集『東方奇譚』で一番印象に残る作品『老絵師の行方』である)の制作はなんと北朝鮮で行っているという。やはりフランス人、共産主義好きなのか?
で、ようやく(今回も盛大に話がずれている)本題だが、『時の支配者』はフランス・ドイツ・ハンガリースイス共作とあるが、エンドロールをみたところ、作画の主力はどうやらハンガリーのようだ。また共産主義国か。
でも、私はハンガリーのアニメーションも幾つか見たことがあって、結構好きだったので、テンションが上がりはじめていたところ(エンドロールでテンションを上げてどうする)、あったのだ。スタッフの中に。知っている名前が。
「お! イシュトヴァーン・オロスいるじゃん!」
以前記事に書いたように、エッシャー的なアート・アニメーションを作る職人アニメーターで好きなのだ。
その人が若いころに関わっていた作品が分かる、というのはそれだけで得した気分になれる。
あと、下請け会社の名前が「パンノニア・フィルム・スタジオ」で、これがハンガリー最大のアニメーションスタジオらしいのだが、ダニロ・キシュの『砂時計』を読んでから、なんか「パンノニア」という地名がおどろおどろしいものにしか聞こえなくなってしまった。

著者:ダニロ・キシュ
出版: 松籟社
(2007-01-31)