けんさく。

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クリスマス

東方の三博士(10)

去年の続き

迷いの森の中でバルタザールとホルミスダスとバダダハリダの三人組は、自分たちが迷っているのか迷っていないのか迷っていました。
もし自分たちが迷っているならば、それはとても困ったことです。それだけはどうしても避けたい。
もし迷っていないならば、それは矛盾です。なぜなら現に迷っているのですから。そして矛盾からはなんでも証明できてしまいます。これもとても困ったことです。これだけもどうしても避けたい。
三人は迷いの森の真ん中でいつまでも迷っていました。
どれだけ迷っても周囲の景色は全く変わりません。まるで、ずっと同じところを歩いている感じです。いや、それどころか全く歩いていない感じすらします。
いつまで経っても森が途切れることはありませんでした。どれだけ迷えばこの森を抜けられるのだろうか。バルタザールは胡座と腕を組んで迷います。ホルミスダスは寝っ転がって悩みます。パダダハリダはその場で地団駄を踏みながら悩みます。
このまま三人は森の中に閉じ込められたままになってしまうのでしょうか?

(来年のクリスマスに続く)

東方の三博士(9)

去年の続き

旅をしながら旅を探すバルタザールとホルミスダスとバダダハリダの三人組は、深い森の中へと入っていきました。
あまりに深くて暗いので、自分の顔も見えないことにホルミスダスは気づいて、パニックになってしまいました。
バルタザールとパダダハリダの顔をペタペタ触ったあとに 自分の顔を触って、「やっぱり見えない」と叫びます。
「もともと自分の顔なんて見えないだろう」
そう言うバルタザールの言葉も耳に入らないようです。
パダダハリダはホルミスダスを押さえつけて耳元で叫びました。
「ホルミスダス、考えてみろ。自分の目を見ることができるやつはいない。自分の右手で右手と握手できるやつはいない。これは普通のことだ」
「ではなぜ脳は自分のことを考えられる? もしお前の脳が何かを考えたことがあるというなら、答えてみろよ」
「そりゃ、右手で左手とは不器用ながら握手できるし、鼻がよほど引っ込んでれば右目で左目を見ることだってできるだろう。脳ってのは多分、そういう色々組み合わさったものだから、脳の一部がほかの部分を考えることはできるんだろうさ」 
「なるほど、では俺の顔というのは、どちらかというと、分けることのできない一体なものに近いということか?」
「いや、そういうことじゃないが……」
 バダダハリダの言葉が止まります。ホルミスダスの顔が中心の一点へと潰れ始めてしまったからです。顔自体が、分けることのできない一体なもの、つまり窓のないモナドへと潰れて行こうとしているのです。
「あわわ、どうしようどうしよう。このままではブラックホールになってしまう」
バダダハリダは慌てふためいて、何もすることができません。
「鼻だ!」
バルタザールが叫びます。
「「鼻?」」
二人には何のことかわからない様子。
「バダダハリダがさっき言っただろう。鼻だ。鼻があれば、誰だって寄り目にすれば自分の鼻が見える。唇を尖らせれば唇だって見えるさ」
そう言われて、ホルミスダスはもうほぼ一点に潰れてしまった顔で寄り目にしたり、唇を尖らせたりします。
「なるほど、確かに自分の顔が少し見られる」
ホルミスダスは納得して、元の顔に戻りました。綺麗でも格好良くもない顔だけど、この時ばかりは安心できる顔でした。
「どうやらこの森はどこか変だな」
バルタザールが呟きます。
「人の心に迷いをもたらす森かもしれないぞ」

(来年のクリスマスに続く)
 

東方の三博士(8)

去年の続き

実は三人の旅はとっくの昔に終わっていたのでした。
「え?」
「は?」
「どゆこと?」
実は三人は旅が終わったことにも気づかずに旅を続けていたのでした。
「つまり俺たちはとんだ間抜けだったってことか」
「じゃあどうしよう帰ろうか?」
「だが無理だ。帰るのも旅の一部だ。旅が終わったのだったら、僕らはここにいるしかない」
そうなるとバルタザールとホルミスダスとバダダハリダの三人組はそこに暮らすしかないのでしょうか。
三人は周りを見回します。
「僕、こんなところに住むのは嫌だなあ。だって何もないじゃない。僕は川がないところに住むのは嫌だな」
「川はないけど岸があるし、岸と岸を繋ぐ橋もあるからそれで我慢しよう」
「でも俺は山がないと嫌だな」
「山はないけど、頂があるし、麓もあるからそれで我慢しよう」
「でも人が1人もいないじゃないか」
「確かに人はいないけど、世間や社会がちゃんとある。なんとかやっていけるさ」
三人はお互いを慰めあいますが、実は誰も納得していないのでした。
「そうだ。ここに住むんだったら絶対に必要なものがある。もしそれがここにあるなら住んでもいいだろう」
ホルミスダスが突然そういうので、バルタザールとバダダハリダは傾聴します。
「旅だ。ここには旅があるのか。ここに旅があるなら、旅をするのをやめて、ここに住んでもいい」
「もしなければ?」
バルタザールは訊きます。
「探しに行こう」
「どこに?」
ホルミスダスも訊きます。
「どこかにだ」
そう言って、ホルミスダスは歩き出します。西の空には彼らを導く星が今も輝いていました。

(来年のクリスマスに続く)

東方の三博士(7)

去年の続き

「はあ食った食った」
「お腹いっぱい」
「もうすっかり空腹も収まったことだし行こうか」
バルタザールとホルミスダスとバダダハリダの三人組は腹ごしらえを終えてまた、西の空に落ちた星に向けて歩き始めます。
いったい彼らは何を食べたのでしょうか。
彼らの立ち去ったあとには、彼らを動けなくして、何も食べられなくしていた空腹の食べ散らかした跡が広がっていました。
「空腹を食べて、空腹が治まるだけでなく、腹が一杯になるなんて、なんだか2倍得した気分だな」
「何を言いたいのか分からないが、言いたいことは分かるよ」
「お前ら、くだらないこと話してないぜ、急ぐよ」
三人の旅はいつまで続くのでしょうか?

(来年のクリスマスに続く)

東方の三博士(6)

去年の続き


「こう腹が減っていては、何も考えられない。何も考えられなければ、何かを正しく判断することもできない。そうしたら、何を食べるのか決めることなどとても無理だ」
バルタザールは突然起き上がって、そう言いました。
「じゃあ、どうしたらいいだろう。何かを食べるためのは何を食べるか決めなくてはいけないのに、何を食べるか決められなければ、何を食べることもできない」
ホルミスダスも釣られて起き上がると、そう言います。
「それは困るなあ。お腹が減るのは困るんだよなあ。お腹が減ると、お腹が減るんだよなあ」
とバダダハリダは大の字に寝ころんだまま、そう呟いています。
「よし、だから何を食べるのか決める前に、何かを食べよう」
バルタザールは立ち上がりながら、 そう言います。
「なるほど一理ある。確かに何かを食べれば、考える力も戻ってくる。そうすれば何を食べるか決めることだって、不可能とは言い切れなくなるわけだ」
ホルミスダスも立ち上がります。 
「とにかく何か腹に入ればそれでいいよ」
バダダハリダも大の字に寝転がったまま立ち上がりました。
「でもどうするんだ?」
ホルミスダスが、どこへ行くか決める前にどこかへ行こうとする二人の背中に問いかけます。
「何かを食べようとすると、その前に何を食べるか決めないといけない。でもそれこそ僕らがさっきうんうんうなったり、ゴロゴロお腹を鳴らしたりしても、うまくいかなかったことじゃないか」
「そんなことどうでもいいじゃないか」
とバダダハリダは歩くのをやめずに立ち止まってそう言います。さっさと前に進みたそうです。
「確かに」
バルタザールはホルミスダスの疑問はもっともだという顔で歩くのをやめましたが、進むのは止めなかったので、ずいぶん遠くで顎に手を当てた考え込み始めます。
「 だからそんなことどうでもいいんだよ!」
バダダハリダは癇癪を起すのを我慢し、じっとじたばたしながらすでに遠く離れてしまった二人の耳元に叫びます。
「何かを食べる前に何を食べるか決めなくてはいけないのは、ものを考えているからだ。ものを考えているから決めないといけないんだ。だからものを考えなければ、何も決めなくていいから、何を食べるか決める前に何かを食べることができるんだ」
二人はその言葉に感銘を受けましたが、お腹が減ってご機嫌斜めのバダダハリダが少し怖いので、刺激しないように少し離れたところで、お互いの両耳に耳を近づけて、こそこそと囁き声で話し合います。
「しかし、何も考えないってどうすればいいんだ。人間だもの。どうしても何かを考えてしまうのが性だ」
「何も考えないと存在しなくなるって、昔の偉い人形遣いが言ってたから、何も考えないなんて怖くてできないよ」
「ああいうバダダハリダだって、昔しゃっくりを直すために、『狼のことを考えずに家の周りを三周する』ってお呪いをしようとしたけど全部失敗したんじゃないか。狼のことを忘れると家の周りを三周することも忘れちゃうし、『何をするんだっけ?』と聞かれて『狼のことを考えずに家の周りを三周するんだろ?』って答えてやると、『ああ、また狼のことを考えちゃった』ってなるし」
そんなことをしているうちに、ますますお腹が減ってきて、三人はますますますます何も考えられなくなってしまうのでした。
このままだと餓死してしまいます。 三人は一体どうなるのでしょうか。

(来年のクリスマスに続く) 
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