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けんさく。が、いろいろ趣味のことをやるページです。

post-humanism

ずっと読みたかったけど読んでみたらそれほどびっくりしなかったことが感慨深い傑作『マイクロチップの魔術師』

マイクロチップの魔術師 (新潮文庫)
著者:若島 正
販売元:新潮社
(1989-01)
販売元:Amazon.co.jp
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Amazonでプレミアついて1000円以上していて、買おうか買うまいかずっと悩んでいたんだけど、先日やっとブックオフで105円で売っているの見つけて買ったこの本。山本弘やいろんな人が絶賛し、「技術的特異点」や「ポストヒューマン」の話題に必ず顔を出すヴァーナー・ヴィンジの代表作であり、しかも「人工知能の父」と呼ばれる、マービン・ミンスキーの解説付きで、気にならないわけはない。
しかし読んでみて、興奮を感じるというよりか、静かな満足感を感じ続けていた。
物語は、前半は『ニューロマンサー』に似ている(主人公が事件の渦中に入っていく理由や、実際には間違っていたが、敵の正体の推理なんかが似ていた)
ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
販売元:早川書房
(1986-07)
販売元:Amazon.co.jp
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後半は攻殻機動隊(特にアニメ映画の『Ghost in the shell』の感じ。敵の設定も最後のオチや余韻はほとんど同じだ)で、なんだかすごく見慣れた感じがした。
攻殻機動隊 (1)    KCデラックス攻殻機動隊 (1) KCデラックス
著者:士郎 正宗
販売元:講談社
(1991-10-02)
販売元:Amazon.co.jp
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GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [Blu-ray]GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [Blu-ray]
出演:田中敦子.大塚明夫.山寺宏一.仲野 裕.大木民夫
販売元:バンダイビジュアル
(2007-08-24)
販売元:Amazon.co.jp
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しかしもちろん、日本紹介時期は逆になったが、ヴィンジのこの作品は『ニューロマンサー』が1984年にサイバーパンク運動の口火を切るより前の1981年の作品である。攻殻機動隊のさらに前だ。あと、この物語では、電脳空間に飛び込んだハッカーたちは、主にファンタジーのキャラクターに似せた姿をとるが、これは今のオンライン・RPGの雰囲気をほとんどまるごと予言している。そう言う意味で『.hack』などもこの作品の子孫に当たる。
.hack//Integration (DVD-BOX).hack//Integration (DVD-BOX)
出演:斎賀みつき
販売元:バンダイビジュアル
(2003-10-24)
販売元:Amazon.co.jp
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この160ページ前後の物語がこれらを始めとした作品群の祖型になっているということがそもそも驚きだ。
ミンスキーの解説も面白い。ここでミンスキーは「心」というものが、一つのまとまりというより、幾つもの役割分担したより単純な(「心」を持たない)モジュールからなり、それらがある種の社会(行動を決定する議会のような物)を成すことにより「心」が、「心を持たないパーツ」から構成されることを説明している(「心の社会理論」)。これは伊藤計劃の『ハーモニー』のタネ本となった、ジョージ・エインズリーの『誘惑される意思』のあらすじを説明しているような物だ。
誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか
著者:ジョージ・エインズリー
販売元:NTT出版
(2006-08-30)
販売元:Amazon.co.jp
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逆にいえば、エインズリーは20年前にはアイディアにしか過ぎなかった理念を、実験によって実証したと言える。また、どうして自分には、自分がそう言うメカニズムで物を考えているようには思えないかを、コンピュータのインターフェイス、つまり『マイクロチップの魔術師』の中で、ハッカーの行うことが「魔法」のアナロジーでとらえられていることと、アップル・コンピュータのGUIとの類似をまず語り、それと人間が自分の思考内容を内省するときの類似を語ることによって説明する。つまり、人間にとってはメカニズムが分かるように見えるよりも、単に「なにがしたいか」すなわち「機能」が分かるアイコンで見せてくれた方が便利だ。だからこそ、より高度のハッキングは、単に意図を遂行しようとする「魔法」に見えるし、コマンドを打つCUIより、何がしたいかを直観的に理解させるGUIの方が便利だし、脳は自分が何をやっているかを自分に見せたりはしない。後の「ユーザー・イリュージョン説」である(しかし、この言葉は脳以外にユーザーがいるように思わせるのであまり良くないと思うが。ここで行われているのはコンピュータが自分をモニタリングしようとする行為なのだから、ユーザーと呼ばれる人物はどこにもいない)。
ここら辺の議論は例えばダニエル・デネットの本なんかを読めば詳しく載っている。
自由は進化する自由は進化する
著者:ダニエル・C・デネット
販売元:NTT出版
(2005-05-31)
販売元:Amazon.co.jp
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これまた伊藤計劃の『虐殺器官』のタネ本だったりする。
まあ、このように、この本はその後発展した様々な考え方の種が凝縮された形で入っている。だからこそ、再販していろんな人に読めるようにしてほしい。僕はこの数年くらいに、この本から発展した考え方が乗っている小説や学術書をたくさん読んでしまったから、驚かなかった。しかしもし読むのが二年前なら、話は違っていた。
目が飛び出すくらい驚いていただろうね。
これに驚けない、というのは少し寂しいけど、仕方ないことで、なんだかんだいって自分がちゃんと勉強しているという事実に、少し感慨深さも感じたよ。

DEVOの20年ぶりのアルバムが出たというのになんでこんなに盛り上がっていないのか?

大好きなDevoの20年ぶりのアルバムが出て、アメリカのビルボード・アルバムチャートにおいて、なんと初登場30位(2010年7月3日)をとって祭りだ祭りだという気分なのに、なぜかあんまり盛り上がっている気がしないので、遅ればせながら紹介して見る。

Devoは1973年結成の、アメリカの田舎も田舎オハイオはアクロン出身のロックバンド。結成のきっかけは当時オハイオ州のケント州立大学の美術部に所属していたマーク・マザーズバー(以降マーク)とジェラルド・カセール(以降ジェリー)という内臓などのグロテスクなものばかり作って奇異の目で見られていた二人がキャプテン・ビーフハート(牛心隊長)のファンクラブというこれまたマニアックな場所で運命的な出会いをしたことである。すでに才能よりもコネが物をいうアート界に見切りをつけ始めていた二人は、その頃読んだ人文自然科学的本『The Beginning Was The End Knowledge Can Be Eaten』の思想に感銘を受けて(1979年のインタビューで話してたけど、どう考えても冗談。史実ではジェリーはマークと出会う前から別の仲間とproto-devo的パフォーマンスをしていた。マークはそれを見てのちの名曲「jocko-homo」につながるネタを携えてジェリーに近づいたのだ。しかし事実より神話の方が好みな俺は、もしそんな本が実在するなら読んでみたいので誰か捏造してほしい。というか俺がいつか書こう)、その思想を表現するための映画撮影と音楽活動をはじめる。それがDevo(De-evolutionの略)の母体となった。初期の流動的なメンバー交代の後、マークの弟のボブ1号とジェリーの弟のボブ2号がギターを担当、ドラムは最初はマークのもう一人の弟ジムだったが、すぐにアランという実力派を見つけてきて、その後長いこと活動する基本形が完成する。

Devoの思想を簡単に要約するとこうだ。「このテクノロジーに囲まれた現代社会では人間は退化していく?」そのことを繰り返し楽曲や映像で表現していく。しかし、彼らは必ずしもそれらを批判的にとらえているわけではない。退化した人間はまぬけで哀れだが、何だか楽しそうでもある。当たり前だ。よく知られているように退化とは進化の一形態に過ぎない。必要なくなったから消えていくのだ。つまりそちらの方が暮らしやすいから退化するのだ。今では色々なことが人間よりも機械の方が上手くできるようになった。これからもっとそういうものが増えるだろう。考えること、創造すること、生きること。だったらなんで機械の方が上手くできることを、わざわざ人間がやらなくちゃいけないのさ。さあ、みんな退化しようぜ。パソコンやケータイのディスプレイをぼうっと眺めて、2chやニコニコでも口を開けっ放しで見ながら、よだれでも垂らして、楽しい白痴ライフを満喫しようぜ。ちゃんと退化してないから神経症になんかなるんだ。

Devoの音楽スタイルはテクノパンクという感じで(もちろんロンドンにおけるパンクムーブメントよりも前の時代だ)特に初期は電気洗濯機を使うなど、かなりノイジーなものだったらしいが、あんまりにもウケがよろしくなくて、だったらギターやドラムがいれば音楽と思ってくれるだろう、という分けで今の編成になったという。メジャーデビュー後でも、その実験的な作風の名残を一番残している名曲「jocko-homo」(マークがどこからか見つけてきた1924年頃の反進化論のパンフレットからとった「猿人間」を意味する言葉)を見てみよう。



か、かっこええ。演説しているマークの変な動きといい、開陳される退化思想といい、ストッキングかぶってるやつらといい、反社会的な臭いのする教室風景といい、ノイズの利いた電子音といい、完璧だ。もしカラオケにあったら盛り上がると思うんだけどな(気の合う友達がいたらな。昔の日本公演の時は、観客がこの掛け合いを上手く出来なくて、盛り上がってなかった)。
ちなみに最初に走っているのはブジ―ボーイで、Devoのマスコット。日本の24時間テレビにDevoが出た時も大暴れしていた。正体は謎。なぜかこいつが画面にいる時はマークはどこかに行ってしまっているが、それも謎。もう一人のおっさんはジェネラルボーイといって、その年でボーイはないだろうとも思うのだが、ときどきpvに出てきて退化思想についてレクチャーしてくれる優しいおっさんである。正体はマークの父親のボブ・マザーズバー・シニア。

次はDevoが有名になるきっかけになった名カヴァー、The Rolling Stonesの「(I Can't get no) Satisfaction」を何だかよく分からない物にしてしまっています。


俺はこっちの方が好きです。ていうか水中メガネや3Dメガネがこんなかっこいいアイテムだとは知りませんでした。勉強不足です。ここらで、メンバー紹介をしておくとvocal & monstrous guitar(魔改造したギター)がマーク、今流行りのレフティのbassがジェリー、guitar二人のうち、音が出りゃいいってな感じの通称鉛筆ギターを持っているのがボブ1号、もう一人の特に特徴のないのがボブ2号、ドラムがアラン。ちなみにマークは60になっても死にそうになって「べびべびべびべびべび……」の部分をやってます。この黄色いジャンプスーツはDevoのトレードマークになります。原子力時代っぽさを表してるんでしょうか。ここら辺のセンスは漫画家の永野のりこに強い影響を与えます。

少し中期になるとパンクっぽさが減って少しポップな音づくりになります。が気持ちの悪さは減らない。次に紹介するのは「Peek-a-boo」、決して電気鼠の鳴き声ではなく、英語で「いないいないばあ」を意味していますが、歌詞は何だか監視社会を思わせる不穏な物になっています。ジェリーのセンス爆発のpvはもはや意味不明の領域に

後ろに大写しになる、赤いピラミッド状の物体は「エナジードーム」という帽子状の装置で、世界中のエナジーを集める事ができるんだとか。アメリカのなんかの音楽番組でマークが「これは絶対に壊れないんだよ」とか言いながら踏んづけてバッキバキにしていたのが忘れられません。

マークの変な動きを堪能したければ次の動画がおすすめ

マークのメガネ萌えである。俺は勝手にマークをロック界メガネ四天王の一人にしています。残り三人もいつか紹介しますが、この手のブレインズ君みたいな非オシャレ系のメガネの良さの分からん奴にメガネ男子の良さを語ってほしくない。

こう見えてDevoはライブが熱いバンドなのです。あのジャンプスーツをビリビリに破きながら走り回り絶叫しながらのパフォーマンスは相当燃えます。



マークとジェリーが半ズボンなのは破いてしまったから。半ズボンで歌うロックバンドって非常に珍しいのでは? あと、曲名にもなっている「mongoloid」ってのは「one chromosome too many」という歌詞があるように、黄色人種ではなく「ダウン症」を意味する俗語。ダウン症は目がつりあがって、黄色人種みたいになるから、という意味。この歌はダウン症の人間がいたが、それなりに生きてて、誰も彼のことなんか気にしてないんだから、僕や君よりずっと幸せだったのだ、ということを歌っている。

Devoはたいへん息の長いバンドで、今でも現役でがんばっている。2年前には来日もして、外見は変わっても相変わらずパンクなところを見せてくれている。「パンク」というのはどうしても年をとると痛々しくなってしまうものだが、こいつらの「冗談と見せかけて本気、本気と見せかけて冗談」というスタイルがそういうものから救っていると思う。



ドラムのアランはすでに脱退していてサポートメンバーが入っています。2曲目の「Whip it」はDevoで一番売れたシングル曲で唯一カラオケに入っている。B面の「Turn around」はnirvanaのカヴァーした名曲。それにしてもマーク太ったな。

と思っていたら、今年に入ってバンクーバーオリンピックの開催中のイベントに招待されたときの映像。日本のテレビは確か放映しなかったと思う。

痩せてる! あと何か今年からバンドのカラーを青に変更するらしくてエナジードームも青くなってコスチュームも新しいのにしたらしいんだけど、なんだかダサさが足りないような気がするのは、俺のダサさの基準がおかしくなってしまったせいなのか? 客席のエナジードーム率には吹かざるを得ない。青いのが現場で配られたものとすると、赤いのをかぶっている奴は自前の持ち込みだろうか?
しかしどの動画でもボブ2号は全く目立たないな。

さあ、このDevo。このようにライブ活動は継続して続いている物の、アルバムは90年の「ディーヴォのくいしん坊・万歳(原題はSmooth Noodle Maps、どうしてこんな邦題がついたんだ?)」以来出てなかった。その間も映画やテレビ、ビデオゲーム(有名どころではクラッシュ・バンディクーとか)のサントラ作成は続いていて、こんなかっこいい名作を作ったりしていたのだが、



やっぱりこういう確固とした世界観を持っているバンドはアルバム単位でまとめて聴いて見えてくる物があると思うので、なんかもの足りないと思っていたら確かおととしくらいに、「来年出します」って話が出て楽しみにしていたら結局出たのは今年だったんだけど、出てみたらやっぱりこれはもうDevoというほかない代物でした。結構これを入門にしてもいい出来だと思うので、この記事で興味を持った方はどうぞ買ってみてください。

サムシング・フォー・エヴリバディサムシング・フォー・エヴリバディ
アーティスト:ディーヴォ
ワーナーミュージック・ジャパン(2010-06-23)
販売元:Amazon.co.jp
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グダぐダのままこの記事は紹介を終える。

第一回 けんさく。の書評 J・G・バラード『クラッシュ』の巻

クラッシュ (創元SF文庫)クラッシュ (創元SF文庫)
著者:J.G. バラード
販売元:東京創元社
発売日:2008-03-24
おすすめ度:4.5
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ストーリーは単純だ。
語り手のバラードが妻と乗った車で交通事故を起こす。その後、ヴォーンという不思議な男と出会う。その男の不思議な哲学に触れるうち、彼らもだんだんその影響下にとらわれていく。
ただそれだけだ、と言っていい。だから、一種の哲学小説なのだろう。そして哲学小説というのは大概退屈だ。なぜなら、哲学と言うのは大概退屈なものだからだ。
しかし、この小説は面白い。
これはすごいことだ。小説が面白くなる理由は主に二つ。一つは新しい書き方。人間が思いつく話の内容なんて、たかが知れている。だから面白くするには新しい書き方に限る。もう一つは新しい細部。細かい部分にはいろいろ工夫する余地がある。そこに神を宿らせよう。大概はこの二つ。
しかしバラードは一番難しい方法を選んだ。新しい考え方、新しい哲学だ。すごい。
その哲学はこうだ。「交通事故はエロチックだ」。ヴォーンは主人公夫婦にこう語り、事故車や事故現場でのセックスグループに二人を誘う。彼の教義によると、車とはペニスであり、事故の傷は人工的なヴァギナだ。衝突はオルガスムスの瞬間だ。この愛情的なセックスによって我らは自動車だけでなく、道路交通網と言う巨大なネットワークに接続することができるのだ。それにより最終機械戦争(カーマゲドン)に生き残ることができる。さらにヴォーンは、もう一つの巨大ネットワーク、メディア網とも交合するために、車の中でマスターベーションしながら、エクスタシーの瞬間に女優エリザベス・テイラーに突っ込んで果てることを願っているのだ。事の顛末はこの際どうでもよい。問題はこの哲学だ。
はっきり言って狂ったことを言っている、筈だ。しかし僕はここに妖しい魅力を感じざるを得ない。どうやら他の人々もそうなのだ。この魅惑を感じるためにもぜひ読んでほしい。山形浩生氏が言うように、サドがサディズム、マゾッホがマゾヒズムを発見したのと同様に、バラードは新しい欲望を発見した。
そしてこの欲望が僕らにさせようとしていることは、普通、多くの人々、良い人や悪い人、頭の良い人や頭の悪い人、文学者や科学者、がするべきだと言っていることと反対のことだ。つまり個人であることではなく全体の一部であること、人間的であることではなく、機械的であることを、僕らに唆すのだ。
多くの人はそれは悪いことだという。現代社会において人間は非人間的にされようとしている。家畜化されようとしている。機械化しようとしている。それは悪い!
なんで? なんで悪いの? 説明してよ。それは楽だし、気持ちいいし、しかもバラードによればセクシーかもしれないんだよ。ただ単に昔と違うから悪いって言ってるだけじゃないの。「何だか気持ち悪い」ってだけの話を権威っぽく言ってるだけじゃないの。
僕らは人間の時代の終わりに面している。これは本当の話だ。遺伝子操作やサイボーグ技術、脳の解明、コンピュータの発展、宇宙への進出は僕らの肉体を激変させる。文化や芸術、道徳、愛やら感情やらは、全部僕らの肉体や地球環境を下部構造に出来上がっている。その下部構造が変えられたら、丸ごと意味をなくしてしまいかねない。
もうすぐ僕らは、非人間的な何かに変わるだろう。それなのに、未だに文学者(馬鹿にするわけではないが池澤夏樹とか)は、人間がいかに人間的にあるか、どうやったら非人間的にならないかについて書き続けてるし、書き続けるつもりらしい。
目を覚ませ。周りを見回してみろ。数万年前に今の人間の脳や身体が大体出来上がったときに、周りにあったものなんかほとんどない。はっきり言って、我々の脳や身体はこんな世界で生きるようにはできていない。神経症にもなるさ。戦争が非人間的なのもむべなるかな。生物の進化はこんな年単位の急激な技術進化に追いつけない。
ではどうする。手は二つある。非人間的になった文明の人間化、または人間の非人間化、すなわち人工的手段による進化加速。どちらが良い? 多分前者だと答えるんだろう。でもだれが選ぶ? 君じゃない。僕でもない。それは経済原則だ。どちらが効率的かだ。つまり、自然進化と加速進化との、生存競争、メタ進化論だ! どちらが勝つ? 答えは決まっていると僕は思っている。みんなはどう思う。
だったら、その変化を喜びを持って受け入れよう。僕は気持ち悪いかどうかよりも面白いかどうかでことを判断する人間だ。僕にとって面白いのははっきり言って、人間の非人間化だ。人間には少々飽きてきた。これを読んだみんなはとりあえず表へ出て、または家の中で。自動車やパソコン、TV、コンセントなど思い思いの相手とセックスをしよう。どんな醜い奇形のあいのこが生まれるか楽しみだ(事故・怪我等の苦情は遠慮ください)。
バラードはそんな21世紀の今なお十九世紀的な脳しか持ち合わせていない作家と違い、真に20世紀的な作家だ。人間の非人間化、小説も含めた文化が意味を失ってしまう地平線を喜びをもって夢見れる作家だ。
これを読んでともに夢見れるなら、幸せだ。

ちなみにこれ、映画にもなっている。『ビデオドローム』で人間とビデオデッキとの交合を描き、『ザ・フライ』などでも非人間化の喜びを描いたデイヴィッド・クローネンバーグが監督。内容は事故車でカーセックスする映像が延々と流れるだけ。別に過激でもないけど「事故を賛美している」という特殊な理由で上映禁止になったりしていました。特殊な映画なので特殊な人以外見なくてもいいかも。吹き替えを池田秀一がしているので、ファンは目をつぶってみるとシャア少佐の濡れ場を感じることができるやも!クラッシュ 《ヘア解禁ニューマスター版》 [DVD]クラッシュ 《ヘア解禁ニューマスター版》 [DVD]
出演:ジェームズ・スペイダー
販売元:日活
発売日:2007-05-25
おすすめ度:4.0
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