こんにちは!

僕はいろいろなコミュニティサイトを使うのが大好きだったり、自分でも作ったりしているのですが、そんなこんなで、Twitter創業者の人の本の解説を書くことになりました。


Kindle版はそろそろでるみたいです。

僕個人としてはTwitterの成功要因の一つは、ビズ・ストーン氏のコミュニティ哲学だと思っています。Twitterの特徴はそれぞれの創業者の個性が反映されており、個人のメディア力をエンパワーメントする部分はエヴァン・ウィリアムズによるものであり、140文字のミニマリズムはジャック・ドーシーだとすると、コミュニケーションのなめらかさは、ビズ・ストーンによるものではないかと(ノアはよくわからない笑)。

というわけで、解説文を全文載せていいという許可をいただきましたので、掲載しておきます。

解説:ツイッターを育て上げたビズ・ストーンの哲学

この本を読むような人は、「フェイスブックを創ったのは誰か?」という質問に対して「マーク・ザッカーバーグだ」と答えられる人が多いのではないでしょうか。フェイスブックは、大学生だったマーク・ザッカーバーグ氏が創業したというのは、IT業界では有名な話です。もし知らなくても、アップルの創業者のスティーブ・ジョブズ、マイクロソフトのビル・ゲイツの名前なら知っているでしょう。

しかし、一般的な人はもちろん、IT業界の人に「ツイッターを創ったのは誰か?」という質問をしても、多くの人が答えられないかもしれません。これだけの大規模なサービスであるにもかかわらず、創業者やCEOの存在感が薄いのは意外です。

それもそのはずで、ツイッターを誰が創り上げたか、という点については、「この人だ!」とすっきりと言い切れるエピソードがないのです。ツイッターは、フェイスブックのように「ザッカーバーグという天才が、初期の部分のほとんどを作り上げて、今もCEOとして絶大な影響力を保持している」というストーリーではなく、様々な人の力によって成り立ったプロジェクトである、と考えたほうが自然です。ツイッターの前身のプロジェクトであるオデオのCEOのノア・グラスや、ツイッターのアイデアを思いつき、作り上げたのちにCEOを務めたジャック・ドーシー、大株主でもありその次のCEOも務めた、経験豊富なエヴァン・ウィリアムズ、いずれもツイッターにとって不可欠な存在であることは言うまでもありません。

しかし、「ツイッターを今のコミュニティに育て上げたのは誰か?」いう質問に対しては、私は「ビズ・ストーンである」と述べたいと思います。

こう書くと、読者の中には「ツイッターなんて、140文字で投稿できるだけの単純なサービスだから、誰が育てたとかはないんじゃないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。「誰がやっても同じなんじゃないの?」と感じる人もいるでしょう。

しかし、この解説を書いている筆者は、14年近く、日本でコミュニティサービスを作り、運営するという仕事をしていますが、ツイッターというサービスは、近年で見ても、かなり特異なサービスだと感じております。

まず、アイデアが「ふつう」であること。「現在のステータスを共有する」というのは、そこまで優れたものではありませんでした。IM(インスタントメッセンジャー)系のサービスでは、この「ステータスを共有する」という機能は一般的であり、そこから思いつく人も多くいたと推測されます。実際に、筆者も、日本でツイッターが流行する以前に、2回ほど同じアイデアを述べている人に会ったことがあります。ダメなアイデアとはいうわけではもちろんありませんが、誰にも思いつかなかった突飛なアイデアというわけでもないのです。

もちろん、インターネット業界では、「アイデアよりも実行力が大事」とよく言われます。アイデアだけではダメで、それをいかにユーザーにとって良い形で実現するかが重要です。しかし、プロジェクトの実行力という意味でも、ツイッターは強いわけではありませんでした。サービス自体は、「単に動く」だけのものであればプログラミング初心者でも作れるほどのシンプルなものです。特殊な技術などは使っておらず、他の会社でもすぐに作れるものです。もちろん、多くの人が使うのに耐えうるようにするという点では難易度が非常に高いのですが、有名人や、政治家が使うレベルになっても、サービスはしょっちゅう停止をしていました。初期に、誰でもツイッターのデータを使えるように、APIと呼ばれるものを公開したのも、のちのちにビジネス上の障害になっていたりします。

人材という点では、優秀な人たちが集まっていたものの、他のベンチャーのように、名門校のエリートたちが作っているわけではないというのも特徴です。インターネット業界は、学歴は関係なく挑戦できるのが良い点ですが、一方で、やはり一度は優秀な大学に入った人が成功しているケースもよくあります。グーグルの創業者2人やインスタグラムの創業者2人はスタンフォード出身、ザッカーバーグやビル・ゲイツはハーバード出身などと、メガサービスを作っている人たちが、名門出身であるパターンは多くあります。しかし、ツイッターを創ったメンバーは、誰ひとりとしてそういったピカピカの経歴を持っていませんでした(エヴァン・ウィリアムズはブロガーという有名なサービスを作り、グーグルに売却していますが)。

さらにいうと組織としても、CEOが3年間で3人入れ替わるという混乱状態であり、とても安定しているとは言いがたい状態でした。

つまり、アイデアとしても、人材としても、実行力としても、まあ好意的にいっても、普通のベンチャーと同程度といえるでしょう。では、そんなツイッターがなぜここまで爆発的なサービスになったのか。それは、ビズ・ストーンの哲学にあると思います。ビズ・ストーンの哲学とは、簡単に言うと「人の性質は善であると思い、そのパワーをサポートしてあげれば、人は善いことをする。そして世の中がよくなる」という考えです。

この考えは、シリコンバレーの中では特殊かもしれません。というのも、シリコンバレーでは、「テクノロジーやサービスで世界を変える」という人は多いのですが、人を信じることを中心に考えている人は少ないからです。

この本を読むと、ビズ・ストーンは、ちょっとしゃべりすぎるけど明るく陽気でジョークが好き、という印象を持ちますが、その中でも、人間の良い面を見ようとするポジティブな性格が強く伝わってきます。その性格がツイッターの哲学に反映されていき、シンプルなツールであるツイッターが、大きなエネルギーを持つようになったのではないでしょうか。

159ページでは「ごくシンプルなツールも、すばらしいことをする力を人に与えてくれる」といい、260ページでは「人は基本的に善であり、正しいツールを手にすれば、それを使って正しいことをする」と述べています。これが彼の一貫した考え方です。 これには反論を述べたいという人も多いでしょう。インターネット上には、様々な誹謗中傷が投稿されており、傷つく人も多いのではないか、と。人間は基本的に悪であり、自分の正体がばれないところでは、平気で人を悪くいったり、陰口を叩いたりするではないか、と。たとえば、日本最大級のオンライン掲示板である「2ちゃんねる」は、誹謗中傷が多く、悪意が多いサイトだと思われることが多い代表例で、「便所の落書き」と評されたりしています。

しかし、創設者の西村博之氏は『本人 vol.09』(太田出版)の中で、当時招待制であったSNSの「ミクシィ」と2ちゃんねるを比較して「でも2ちゃんねるはアカウント招待制もない。何をしても自由ですよ。だって人は悪いことなんかしないんだもん。そういう発想で2ちゃんねるは運営されています」と述べています。他のインタビューでも「2ちゃんねるは性善説で作られている」という発言もしています。 筆者もコミュニティサイトを今まで多く運営してきましたが、多くの場合、悪意は長続きしません。たとえば、荒らしと呼ばれる、コミュニティを台無しにするような行為をする人がいても、それが長期間にわたって続くことは稀なのです。人間の悪意は長続きしない、ということを経験から感じています。ビズ・ストーンは人々を疑うところからスタートしているのではなく、最初から信じるところからスタートしており、そしてそれを曲げなかったのではないでしょうか。 また、もう一つの大きな哲学は「ユーザーが主役である」ということです。

162ページには「ツイッターが強く賢いのではない。強く賢い人々が、強く賢い行動をとったのだ」とあります。こんなにも大きなサービスを作り影響力があると、自分たちが偉くなった気持ちになるのが人間です。特に多くの人が投稿するようになると、そのコミュニティに影響力を行使できる自分は神のようだと錯覚することすらあります。 しかしビズ・ストーンはあくまで、ユーザー、言い換えると人間が素晴らしいのであり、ツールはそれを手助けしているだけだ、というスタンスを崩しません。「ツイッターは会社としての意見は持たない。誰の側にもつかない。ツイッターは僕たちが作ったソフトだが、議論の内容はその人たちの問題だ」と彼自身述べています。

287ページでは、ビズ・ストーン氏が珍しく怒りを表に出して社員全員に送ったメールについて書かれていますが、これはまさに彼の哲学を表したものです。ツイッター自身が政治的信念や特定の団体に偏ることなく中立を守る、というのはツイッター自身が影響力を持ちたいからではなく、ユーザーのいいことをしようとするパワーを増幅させたいからなのです。

このような話を聞いて、フェイスブックと同じように感じる人もいるかもしれません。フェイスブックもサイトから信念を押し付けるようなことはせず、ユーザーを主においているからです。しかし、フェイスブックとの決定的な違いは、フェイスブックはあくまで「プラットフォーム」として存在しており、人々がつながり、オープンに近況をシェアするという、透明な存在である一方で、少なくともビズ・ストーンが関わっていたツイッターでは、人間の素晴らしい部分を増幅させたいという明確な気持ちがあったのではないかと思います。 この本の後半には、ビズ・ストーンが立ちあげた新しい会社「ジェリー」のことも書いてあります。ジェリーは知りたいことがあったときに、人に気軽に聞けるソーシャルQ&Aサービスですが、ツイッターよりも人間の善意を信じる点が強調されたサービスとなっています。ジェリーのブログでは、最初の投稿に以下のように書かれています。

People are basically good—when provided a tool that helps them do good in the world, they prove it.

訳すと、「人間は基本的には善です。もし良いことをする手助けをしてくれるツールが与えられたら、人々はそれを証明してくれます」といった意味でしょうか。ツイッターで大成功し、金銭的にも億万長者になり、名声も得たビズ・ストーンが、小さなチームで立ちあげたサービスの想いが、それまでと全く変わっていないことは驚きです。

我々がこの本から学ぶべき点は、ビジネスマンとして成功し大金持ちになる方法でも、大きなサービスを作る手法でもなく、人間の良い面を信じぬくこと、なのかもしれません。