日本の国際競争力について、「サービス業」と「物流業」の生産性の低さが指摘される事がある。もう4年前も前の話だが、「業種別生産性向上に向けた検討課題(中間とりまとめ)」というものがある。そこでは生産性の低い産業について課題が挙げられているが、その課題に誰が何をどう取り組もうと思ったか良く分からない。まあ、内閣府の委託事業での調査ならば言いっぱなしも当たり前ではあろう。
この報告の中にIT産業も含まれていて、所謂「受託開発産業」について以下の様な課題が取り上げられている。
(1)IT(ソフトウェア・情報サービス)
  • 多重下請け構造、曖昧な受注契約書、「人月単価」の見積もり計算方式、仕様変更・出戻りの多さなど業界構造・慣行の見直し
  • フル業態・フル業務が一般的で米国などと比べて低い専門性の向上
  • IT標準化、パッケージ化、受注・開発管理のノウハウ共通化の促進
  • 政府IT調達の標準・技術参照モデル(Technical Reference Model)の導入
  • オープン標準に準拠するSaaS/ASPの導入促進
  • 統計・市場データ、共通開発ツールの整備
  • 自治体システムの重複開発の見直し
  • 委託開発契約における著作権移転の慣行の見直し
  • 信頼性の高いシステム作りのための規制・ガイドラインの整備
  • エンジニアの英語教育の推進
これらの課題は、別にご丁寧に調査されなくとも業界では有名な話ではあるのだが、この課題が建設業の課題と重なっていて面白い。

(3)住宅・建設・不動産
  • 部材等の規格化・標準化
  • 宅地の形状・規模、相続による敷地分割への規制の検討
  • 多重下請け構造、工事・入札の地元優先割り当ての見直し
  • 丸投げ、上請け、材料費のバックマージン等の業界構造・慣行の改善
  • 設計・積算・発注を統合した自動積算プログラム普及のための標準化
  • Build-to-order(受注生産方式)、ダイレクト・ソーシング(直接調達)、エスクロウ金融など先進的な取組み
  • 水道工事の指定業者制度、産業廃棄物規制、完了検査・瑕疵保証・性能表示・地盤検査など各段階における類似・重複審査・検査等の見直し
  • 土地の用途規制の複合化
  • 都市再生特別措置法に関して、自治体の裁量による上乗せ規制の見直し
  • 文化施設が地下容積率に算入されること、道路法による立体的土地利用の制約、都心部における日影規制などの見直し
どちらの業界も同じ課題にまとめられる。
1)標準化の促進
2)見積もり手法の洗練化(人月見積もりの見直し)
3)多重下請け構造の改善
4)行政の非効率の改善
5)商習慣の見直し

IT産業と土木建築業は、「高知識労働集約型」産業であるという点で良く似ている。単なる労働ではなく、工法やインテグレーションに対する専門知識や経験を持った職人が集まって作るという点で良く似ている。更に、どの開発や工事でも、同じものは二つとないという点でも似ている。最近では、ITではフレームワークや新しい言語仕様、建築業でもユニットや新しい工法などが開発されて、その技術にキャッチアップしていないと良い仕事ができなくなっている。

そして、この二つの産業は構造も良く似ていて、大手の他に無数の零細・中小企業がいて、業界としての品質の保証というものがなかなか浸透しないというものだ。そして、発注者側にも他にないものを作るという考えが根強く、プロジェクトの中途における変更が相次ぐのも良く似ている。違いがあるとすると、ITエンジニアはIT企業以外でも活躍出来るという点だろう。 

IT企業にとってこの課題に対する対応は重要である。特に、システム開発プロジェクトにおける「仕様変更のリスク」をどの様にカバーして対応するのかという点は特に重要だ。いまだにシステム開発の基本は「完成品のリリース」である。このマネジメントは建築業から拝借して来たものだ。ビルは完成しなければ入居出来ない。しかし、情報システムであれば1階部分だけを作ってリリースすることは可能だ。

1階を作って実際に入居して貰い、そのフィードバックを受けて1階の改修と2階以上の建築を進めるということが情報システムならば可能なのだ。にも関わらず、システムやシステムを使ったサービスの企画は全てが出来上がってからリリースされることが前提となっている。それはあまりにもやり方として旧態依然としているのではないだろうか。

まず、1階を作ろう。しかもシンプルに、分かりやすく。そうすれば入居者は使い方がイメージしやすいし、フィードバックもしやすくなる。最初から迷路の様なマンションに、アミューズメントパークでもなければ誰も住もうとは思わない。