原題:EYE IN THE SKY 製作年:2016年 製作国:イギリス 上映時間:102分 監督:ギャヴィン・フッド 脚本:ガイ・ヒバート 出演:ヘレン・ミレン、アーロン・ポール、アラン・リックマン、バーカッド・アブディ、ジェレミー・ノーサム、フィービー・フォックス、イアン・グレン、バボー・シーセイ、ギャヴィン・フッド、リチャード・マッケーブ、モニカ・ドラン、ダニエル・フォックス、マイケル・オキーフ、ライラ・ロビンズ

あらすじ:ロンドン。英国軍のキャサリン・パウエル大佐は国防相のフランク・ベンソン中将と協力して、英米合同テロリスト捕獲作戦の指揮に当たっていた。米国軍の最新鋭ドローン偵察機がケニアのナイロビで凶悪なテロリストたちのアジトを突き止めるが、彼らがまさに自爆テロを決行しようとしていることが発覚、パウエル大佐は即座にドローンのミサイル攻撃によるテロリスト殺害作戦の決行を決断する。その指示を受け、米国ネバダ州では、新人のドローン・パイロット、スティーブ・ワッツがミサイルの発射準備に入る。するとその時、アジトの真横でパンを売る少女の姿が発見される。民間人の少女が巻き添えになる可能性が明らかとなり、ロンドンの会議室では軍人や政治家たちの議論が紛糾し、結論が先延ばしされていく。大規模な自爆テロの決行が目前に迫っている以上、少女を犠牲にしてでもテロリストを攻撃すべきと訴えるパウエル大佐だったが…。-allcinemaより

現代兵器の象徴 “ドローン”

気づいたらドローンというものは玩具でも販売されており、すっかり身近なものになっています。そもそもドローン(=雄蜂)という呼称は第二次世界大戦中に開発された無線操縦機の名称Queen Bee(=女王蜂)に因んだものと言われるだけあって古くから研究開発が行われており、当然ながら軍用兵器として今や欠かせないものになっています。

ドローンの軍事作戦での運用については2014年の「ドローン・オブ・ウォー」が記憶に新しいところで、日常生活をしながら軍事作戦に従事するドローンの操縦者への強烈な精神的負担を描いていました。

本作は「ドローン・オブ・ウォー」と似たアプローチも織り交ぜられてはいますが、更に拡張して現代の “会議室で行われる戦争” を描いたものとなっています。

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場_場面写真01

既にSFは現実になっている

本作ではドローンが作戦遂行の要であり、ハンターキラー無人機として有名なMQ-9 リーパー以外にも変わり種が登場。こんなんあるか?と思いきやアメリカ空軍の研究機関が昆虫型、鳥型のドローンのCGムービーを2009年に発表しており、これに基づいたものと思われます。2015年にはイスラエルで昆虫型ドローンが使われたとの報道もありますし、アメリカでは昆虫そのものをドローン化することに成功しているそうで、実際に運用されていても全く不思議はないのが恐ろしいです。逆にこういったものをテロリストが使うようになったらどうなっちゃうんでしょう。

他にも顔の特徴や耳の形から本人かどうかを割り出す照合システムが現場からも本部からも遠く離れたハワイで受け持っていたりして、ソフトウェアやネットワークの発達によって一昔前ではSFの世界だったものが気づいたら現実に軍事運用されているのに改めて気付かされます。

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場_場面写真02

“道徳” と “大義” はどちらが勝るのか?

ストーリーはたまたま現場に居合わせた一人の少女の命か、自爆テロによって奪われるであろう80人の命か、どちらかを選ばなくてはならない究極の選択を突きつけられた作戦本部の面々の葛藤を描いていますが、これが実に緊張感たっぷりで一緒になってどうすればいいんだ!?と身悶えてしまいます。

まるで心臓の鼓動のような、時限爆弾の秒針のような、不気味なリズムを刻む不穏なBGMがまた切迫した状況を煽って胃が痛くなってきそう。

劇中で述べられるように法的議論においては「待てるが待つ必要はない」、軍事的議論では「待ってはいけない」。そして政治的には「テロリストが80人殺せばこちら側が宣伝戦に勝つ」が、「こちら側が少女を殺せばテロリストが勝つ」という議論は観客側にも突きつけられ、どちらかに考えが傾いても反対意見を聞くとそれも一理あると揺らぎ、自分自身でも答えを出すことができません。。

最終的に本部は80人の命を選びます。付随的損害予測が45%だということを拠り所にして。

しかし誰もが内心攻撃をしなくてはならないと思っていたのではないでしょうか。ただ、自らがそのために少女の命を犠牲にする覚悟と勇気がもてなかったのです。

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場_場面写真03

決して軍人に戦争の代償を知らないなどと言ってはならない

映画ではよく主人公はルールを曲げてまで信念を貫きヒーローとなります。本作での主人公的立場のパウエル大佐もある意味同じことを行いました。自爆テロを起こそうとしているテロリストを阻止するために付随的損害予測が45%であると嘘をついて攻撃を決行させたのですから。

彼女には葛藤はあれど迷いは無く、自らの信念を貫いて80人の命を救ったのです。では、果たして彼女はヒーローと言えるのでしょうか…。

こちらの気持ちを代弁するように政務次官が「安全な場所からやったこの作戦は恥ずべきものだ」とベンソン中将を非難します。自らは何の代償も払わず危険も負わず、一人といえど無関係な少女を巻き込んだではないかと。

しかし彼は自爆テロの爆破直後の凄惨な現場処理を経験したことを語り「決して軍人に戦争の代償を知らないなどと言ってはならない」と言い残してその場を去ります。

軍人は代償を知っている、そういうお前はどうなんだ?それを言えるのは本当の悲惨さを経験した者だけだ、と叱責されたようでちょっとショックを受けてしまいました。

パウエル大佐を演じたヘレン・ミレンといい、ベンソン中将を演じたアラン・リックマンといい、覚悟と凄みを感じさせる演技にはただただ感服させられます。彼らの演技力が無ければ単に頭が凝り固まっただけの軍人になってしまっていたでしょう。特にアラン・リックマンの声を荒らげるのではなく静かに、しかし強い台詞回しにしびれました。

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場_場面写真04

少女の生死の行方

議論となった少女は攻撃に巻き込まれ瀕死の重傷を負いました。病院へ搬送されることで息を吹き返し、ギリギリまで議論を重ねた苦渋の決断は無駄ではなかったというラスト…かと思いきや何とそのまま彼女は亡くなってしまいます。

非常にショッキングで後味の悪い結末ですが、そこに本作の意味があります。

攻撃で即死ではなく、敢えて希望を感じさせておいて死ぬことでより悲惨さが際立つことを意図したのでしょう。どんなに議論を尽くしても犠牲は犠牲であり、そこに都合のいい逃げはありません。だからこそそんな毒を食らう軍人の勤めの過酷さ、そしてドローンやテクノロジーを使って世界一安全な戦場を作り上げてもそれは攻撃する側にとってのことであり、攻撃される側には何の関係もなく、やはり現地では人が死ぬのです。

いくら議論しても、道徳を重んじても、大義を優先しても、人は死ぬ。戦争の現実はただただやりきれないものだということを改めて示すバッドエンディングでした。

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場_場面写真05

というわけで、比較的低予算でコンパクトな尺にも関わらずスリリングかつ重いテーマを扱ってまとめあげていることを評価しまして個人的評価は100点満点中80点です。

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