2007年04月19日

沈黙を破る音。

また今日も、昨夜22時までの稽古のあと、悶々と岸田國士の世界と格闘して、朝になった。

昨日から抜き稽古。
今回の舞台は、7本の短篇戯曲をコラージュして1つの作品にしている。

といっても、オムニバス感がないわけではなく、なんというか、「きちんと区切られていないオムニバス」みたいな、あっちいったりこっちいったり、岸田戯曲なのに落ち着きのない、妙な舞台だ。

抜き稽古とは、時間で区切って、作品ごとに稽古しているわけである。
だから、稽古場には、4人ぐらいの役者しかいない。

人が少ないのは落ち着けてよい。
集中して稽古ができる。

ただ、地下で稽古している「ザ・コンボイ・ショー」の音がやかましいことだけが難なのだった。

岸田國士の芝居は、非常にセンシティブであり、咳ばらいひとつでも気になるほど繊細なシーンもある。
「長い沈黙」というト書きも多い。
その沈黙が、場の空気をグッと締めるのだ。

そんな、大切な大切な沈黙の最中に、床下から、壁が震えるような大音量で、往年のヒット曲「ZOO」の生演奏が聞こえてきたら、あなたはどうしますか。

♪愛をください
うぉう うぉう
愛をください

♪愛をください
うぉう うぉう
愛をください

そりゃまあ、愛も欲しかろうが、俺達は愛以上に沈黙を欲しているのである。
それも、奴ら、ハンパない音量で愛を欲しがっているのであり、もはやこれではこちらの稽古場の人々が咳ばらい我慢する意味なぞまったくなく、仮に猛然と咳き込んだところでさしたる影響もないほど、揺るぎないZOO的世界に支配されてしまう。

俺は、辻仁成の曲なんかを、岸田さんの芝居のBGMになんかしたくないのです。
人生の機微を描いた名作群が、とたんに一昔前の安いテレビドラマに見えてしまうのをどうしてくれましょう。

しかも、どうしたわけか、こちらが休憩すると、計ったようにコンボイどもも休憩し、こちらが再開するのと同時にZOOのイントロが始まる。

スパイがいるとしか思えないのである。

大体、そんなに何度も練習しなくたっていいじゃないか。
もう充分できてます。
もう充分いい曲です。嘘だけど。
もうあとは本番でいいと思いますぜ。

あのな、俺、仁成嫌いなのな。

もう25年ぐらい前、まだアマチュアだった有頂天が、やはりまだアマチュアだった仁成率いるエコーズと、あともうひとつのバンド、3バンドで、高田馬場のBIG BOXの中にあるステージの無料ライブに出演したことがあるのだが、初対面から印象がひどく悪かったのだ。
ライブの出演順は、くじ引きで決めることになっていた。
主催の人がその旨を伝えるやいなや、仁成はこう抜かしたのだ。

「あ、俺たちは、トリしかやらないんで」

なんだそりゃ。
何様だ。
くじ引きだって言ってんじゃん、BIG BOXの人が。でかい箱の人が。

結局、有頂天はトップに出て、MCでさんざんエコーズの悪口を言って、楽屋に戻るなり殴られないように隠れたのだが、エコーズが出る頃には客席はガラガラで、本当に嬉しかったのだった、20歳になったばかりの俺は。

その後、エコーズはメンバーチェンジをして、メジャーデビューし、二年だか三年遅れて、有頂天もメジャーからレコードを出すようになった。
あちこちのロック・フェスで一緒になったが、決してエコーズがトリだったことはなく、かと言って有頂天がトリだったこともないのだが、ともかく会わないように会わないようにコソコソとするのはとても疲れ、ステージに出る頃には歌うどころではなかった。

そんなことを思い出すから、そしてそんな思い出は、岸田國士を上演するに当たり、まったくもって邪魔でしかないから、コンボイの方々には一刻も早く、「ZOO」の出来に満足して頂きたいと、心から願うのだ。

keralino at 08:10