PL-880がアップ・コンバージョンのトリプル・スーパー(トリプル・コンバージョン)であることが判明したが、どうやらそれが"multi-conversion"の正体のようである。
安価な小型ラジオでトリプル・スーパーというのは過去にあまり聞いたことがなく、クラスを考えると贅沢と言えば贅沢な仕様である。
ネット上の"dual conversion"という記述を鵜呑みにしてしまったことに加え、Satellitの取説に基本性能の詳しいスペック表記がないため、てっきりPL-880も同様であると思い込み、同機の取説のチェックを後回しにしていたのは迂闊だった。
PL-880の1st IFは55.845MHzとなっているが、これはPL-600やPL-660と共通であり、PL-880がこれら先代モデルの進化型であることが良く判る。
おそらく、在庫部品の都合や設計のしやすさから、1st IFを先代モデルと同じ55.845MHzにもってきたのだろう。そして2nd IFを10.7MHzとして、例のDSPレシーバー・チップに入力しているものと思われる。AIRバンドについては、コンバータでおそらく2nd IFの周波数まで落としているのではなかろうか。
以前、仲間内で中華ラジオの技術勉強会をやった際にバラバラに分解したPL-660が筆者の手元にある。
先代モデルのPL-600は、LF~HF(100kHz~29.999MHz)受信時が1st IF=55.845MHz/2nd IF=455kHzという典型的なアップ・コンバージョン/ダブル・スーパーで、FM(76~108MHz)受信時はIF=10.7MHzのシングル・スーパーとなっている。
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PL-660の基板を観察したところ、LF~HFの受信はPL-600と同じ回路構成と思われるが、660の場合はさらにAIRバンドの受信回路とAM同期検波回路が追加されている。
DE1103もそうであったが、PL-600/660も1stミキサにFETのYJ7(2SK2394の同等品)を2個使ったバランスド・ミキサが採用され、その後段にはMCF1段のルーフィング・フィルタが挿入されている。また、アンテナ入力の直後にはおそらくHF帯を通すBPFとATT回路、YJ7を1個使ったRFアンプ、そして1stミキサの手前には30MHz以下を通すLPFが入っている。一方、中波受信用のバー・アンテナの直後には、FET(PL-600では2SK192、PL-660では型番不明)を1個使ったRFアンプが入っている。多少の違いはあるものの、DE1103とそっくりなフロントエンドである。
このRFアンプは、実は回路的にはFETソース・フォロアそのもので、どうやらロッドアンテナ等からのハイ・インピーダンスの入力信号をロー・インピーダンスに変換するインピーダンス・コンバータ(バッファ・アンプ)として機能しているようである。理屈からすればゲインは0dB(x1)となるので、ゲインを大きく稼いで受信感度を一気に持ち上げるほどの役割はないということになる。同様に、中波用のバー・アンテナの直後に入っているFETアンプもどうやらゲインを稼ぐためのものではなく、バッファ・アンプとして機能しているようである。しかし、これらのFETアンプが静電気等によって故障すると、アンテナから入力された信号が上手く1stミキサ以降に伝送されないため、感度が大きく落ち込んでしまうものと考えられる。DE1103等の中華ラジオの特徴である高い受信感度は、ミキサやIFアンプでゲインを稼ぐことによって実現しているようである。
PL-600/660の2nd IFまでの基本的な回路構成は同じなので、ネット上で公開されているPL-600の回路図や技術情報は、PL-660や680、880を研究する上で大いに参考になる。
一方、Eton SatellitはGrundig G3の進化型らしいという説があるのだが、G3についてはネット上にPL-600ほどの詳細な技術情報がなく、また筆者自身も所有したことがないので、正確なIF構成や詳細な調整ポイント等は未確認である。ただ、筆者が所有しているEton E5(Grundig G5)はDE1103と同じIF構成であり、G3はG5の進化型らしいので、IF構成(1st IF=55.845MHz/2nd IF=450kHz)はそのまま継承している可能性が大きい。そうすると、satellitの1st IFも55.845MHzである可能性があるのではないだろうか。
Eton製品はTECSUN製品に比べると技術的な情報がネット上になかなか上がってこないようなので、ユーザー自身が内部を調べて回路や動作の仕組みを明らかにしていくしかなさそうである。
さて、PL-660の1st IFのルーフィング・フィルタには前後にマッチング用のトランス(T14/T13)があるが、新品時から調整がズレている場合があるほか、長く使っていると次第に調整がズレてきて感度が幾分下がってくることがある。調整方法はそれほど難しいわけではなく、外部アンテナ端子にSGから適当な信号(例えば7MHz/-70dBm程度/1kHz・AM30%変調)を入力して、内蔵スピーカーの両端子にミノ虫クリップでACボルト・メータ(テスターのACVレンジでも可)を接続し、測定に適した音量/測定レンジにして、メータの振れが最大になるように前後のトランスを交互に、何回か繰り返して調整してやればいい。ついでに2ndミキサ(2SK544×1)の直後にあるトランス(T12)も同様に最大出力になるように調整するといいだろう。Sメーターが普通のアナログ式ならわざわざACボルト・メータを使う必要はないのだが、この手のラジオは細かい読み取りができないいバー式のSメータなのでそうもいかない。
手元にSGがない場合には、信号の安定したAM放送波をSG代わりにすることもできる。ただ、いずれのトランスも耐久性があまりなさそうな安物が使われており、注意して扱わないとコアを破損する可能性があるので、可変は必要最小限とし、プラスチック製の調整棒を使って慎重に調整してやる必要がある(硬いセラミック製調整棒の使用はお勧めしない)。
PLL用ICもDE1103と同じLC72137Mが使われており、このICを駆動するリファレンス用のクリスタル(X1)も同じ75kHzのものが使われている。受信周波数が表示周波数とズレた場合には、DE1103の場合と同様に、このクリスタルの調整用トリマ(VC1)を調整してやればよいが、数Hz~数十Hzという微妙な調整のため、できるだけ精度の高い周波数カウンタをIC側に接続して調整するのがベストだろう。
このクリスタルもやはり価格相応の安物が使われているので、元々発振周波数に多少のズレがあり、しかも周囲温度によって発振周波数にかなりの変動が見られる。実際、周波数カウンタで測定すると周囲温度等の影響を受けてまったく安定しない。では、元々精度が低いから調整の必要がないかと言えば、そうでもない。本当に調整が必要なければ、そもそも調整用のトリマを付けるわけがないのである。もし、ズレがあまりにも気になる場合には、なるべく室温(20℃程度)環境で調整してやったほうがいいだろう。ただし、この調整用トリマも安物であり、滑らかな可変や確実な容量設定は期待できないので、やたらに回さずに、少しずつ慎重に調整してやる必要がある。また、安物のクリスタルだと経年劣化が進みやすく、調整用トリマの可変範囲ではズレを補正しきれないこともあるので、そうした場合にはクリスタルを新品同等品に交換するか、おおよその調整で妥協するしかない。
PL-660のBFO及びAM同期検波については、どうやら"Multi-detector"用のHQ8953SC-1というICで行っているらしいのだが、どうやらこのICはカスタム品のようで、ネットで調べても詳細は一切不明である。よって正式な調整方法は不明だが、経験的な知見として、VC2トリマでBFOの発振周波数(455kHz?)の調整を行い、VR5トリマでLSB/USBの発振バランスを調整するらしいことは判明している。ところが、設計上の問題なのか所有機に特有の現象なのか、受信周波数によってBFOピッチ・コントロールのセンター位置にズレが生じるという不可解な動作をすることから、試しに隣のVR4トリマを弄ってみたのだがとくに変化は見られず、センター位置のズレは解消しないままとなっている。いずれにしても、適切な測定器とある程度のスキルがなければ、やたらと弄らないほうが無難だろう。
このほか、PL-660のフロントエンドにはFM放送帯及びAIRバンドのトラッキングをとるためのコイル群もあり、前述のルーフィング・フィルタ周りと同じような調整方法で最適なトラッキングをとることができる。
PL-880についても、2nd IFの手前までの回路構成がPL-600/660と同じであれば、上述の調整方法が参考になるかもしれない。
中華ラジオはQCが徹底されていないケースが少なくないようで、筆者の経験では例え新品でも製造工程で調整ズレがある個体がいくつか見受けられた。もし不自然な感度不足や周波数ズレ等を感じた場合には、適切な測定器とスキルがあれば、再調整してやったほうがいいだろう。ただし言うまでもないが、たとえ安価なラジオとは言え、壊す覚悟と修理する自信がなければ内部は弄らないほうが賢明である。
それにしても、最近の中華ラジオの内部を見ると、あれだけの高性能を実現しながら、1970~80年代のBCLラジオに比べるとVC/コイル類の実装数や調整ポイントが少ないのは驚きですらある。ワンチップDSPラジオでは内部はさらにシンプルであり、RF&デジタル(PLL/DSP)技術の進歩を改めて実感する。
ラジオや受信機の調整や修理を行う場合、回路図があればベストだが、ブロック図だけでもあるとないとでは大違いである。ところが中華ラジオのほとんどはブロック図すらネット上で入手できないので、熱心なマニアが一つひとつ明らかにしていく断片的な情報だけが頼りである。
面倒な故障だと業者に頼んで修理してもらうより、思い切って買い換えたほうがよっぽど安くつく可能性もあるから、修理や調整はディープで物好きなマニアの楽しみと思っておくぐらいが丁度いいのかもしれない。