【童話】カラスの王様

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

カラス

【童話】カラスの王様 1

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

ベイタウンの朝は早い。

信号機の上では、海鳥たちが羽を休めている。
ぴったりと寄り添うでもなく、とは言え、それぞれが孤立して見えるほどは間隔は開けずに、整然と信号機の上に並んでいた。
羽繕いをするために隣に遠慮気味に翼を広げられるその間隔が、彼らの仲の良さを表していた。

彼らはこの場所が大好きだった。
夜明けとともに飛び回った彼らは、一仕事を終え少し温まってきた外気がほどよく眠気を誘う、この時間が大好きだった。

下界を眺めれば、子供たちはワイワイと通学をし、大人たちはそれぞれ早足で駅に向かう。
真下に車が止まったかと思えば、右の方から走り出す車がある。
そんな人間たちのあわただしい喧騒も、海鳥たちには心地よく、ミュート状態で目に映っている。

唐突に。
そんな彼らのささやかな憩いの時間を、奪う者が現れた。
大きな1羽の烏(カラス)がやってきたのだ。

「ほらほら、どけっ」と言わんばかりに彼らの間に割り込んでくる。
彼らは、蹴散らされるようにその場を開けざるを得なかった。
しかたなく、傍の鉄柵にしがみ付く者、揺れる電線に飛び移る者・・・
それを見た烏は、半ば嬉しそうに含み笑いをしていた。

「またカラスの王様がやってきたよ」
1羽の海鳥がため息をつきながら言った。

『カラスの王様』とは、その烏のあだ名である。
烏仲間で王様と呼ばれているわけでも、崇められているわけでもない。
大きな体とその力を利用して、いつも小さな海鳥たちを脅かしている1羽の烏なのである。
いつの間にか海鳥たちが、皮肉を込めて『カラスの王様』と呼ぶようになったのだった。

「あの力に僕らが立ち向かえないと知っているから、僕らのところにやってきては大きな顔をするんだ」
「いつも仲良く休んでいると割り込んでくるよね」
「この間、やっと餌を取れるようになった子鳥を脅かして、その餌を奪い取って行ったよ」
「そうなんだ。いつも自分では何にも努力しないで、我々のモノを取っていくんだ。そして当然のように自分のモノにする」
「かと言って、我々に感謝するわけでもないよね」
「いいや、それどころかぁ。昨日なんか、まるで差別でもするように、自分の大きな羽を広げて自慢していたよ。『どうだ、この美しい黒々とした艶は。お前たちにはないだろう』だってさ」
「いやだね、烏(カラス)じゃなければ鳥(トリ)じゃない・・って思ってるんだよ、彼らは」
海鳥たちは『カラスの王様』にいじめられ、

いつしか烏全体を憎むようになっていた。                 
                               

【つづく】・・・らしい
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【童話】カラスの王様 2

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

 

ある日のことだった。

珍しく早起きした『カラスの王様』は、まだ人通りのないマンションの片隅で「カァ、カァ」と鳴いていた。
その声は、松林にいた海鳥たちにも届いていた。
木々の間から漏れ聞こえる王様の鳴き声に反応し、彼らは思わず話し始める。

「そうか、今日は人間たちがゴミを出す日だね」
「カラスの王様は、この日だけは早起きなんだよ」
「どうして人間の残した食べ物なんかを欲しがるんだろう」
「こうやって林に来れば、美味しい虫や美味しい実が沢山あるのに」
「そうだよ。あの海に行けば魚や貝だって手に入るよ」
「あの王様が、自分で努力するわけがないじゃないか。僕らの食事まで横取りするのだから」
「今日は王様、そうとうお腹が空いているんだね。人間たちを起こそうと必死で鳴いているよ」

カラスの王様は、通りの隅に置かれていた生ゴミの袋を見つけて目が輝いた。
「あ、あんなところに宝物があるじゃないか」
早速、ひとっ飛びに降りて行った。
王様にとってあの透明の袋は、サンタが置き忘れた袋のように宝の塊に見えるのだった。

「人間は親切だよなぁ。黒い袋から透明なものに変えてくれるのだもの。この袋なら中身もよく分かるし、宝が選び放題だよ」
王様は、パンパンにゴミが詰められた袋に飛び乗り、中身の査定を始める。
袋の上で位置を変え飛び跳ねながら、目を凝らし中を覗いていた。
「あっ、奥の方にハンバーガーの残りがあるぞ。いや、あの包みはもしかしてフライドチキンの残りかもしれん」
流石にベイタウンの烏は、目が肥えている。
包み紙で中身が想像できるらしい。
彼の言うとおりだ。
時は12月、フライドチキンの可能性の方が高い朝だった。

おもむろに、袋を突っつき破き始めた。
王様にとって、人間のゴミ袋なんてお手の物だ。
太い足の指でしっかりと袋を抑えながら、クチバシで2度ほど突っつけば小さな穴が開く。
後はその袋の切れ端をクチバシでくわえて引きちぎればいい。
おあつらえ向きに、王様のクチバシは頑強で、その舌は袋を引きちぎるに堪える肉厚な造りだった。

神は烏をゴミ荒しに任命するためにお造りになられたのか。
ふと、そんな思いがよぎるほど見事な腕前のカラスの王様の仕事っぷりだ。

通りに散らばった紙クズやビニール袋。
その中から、お目当ての肉を探し当てた。
「僕はこの肉が大好きなんだ」
いざ、朝食に食らいつこうとしたその時。

「こらぁー」
ホウキを頭の上に振りかざした人間が王様に迫ってくる。
どうやら、サンタが置き忘れた袋じゃないようだ。
ちょっと何かを取りに行こうと目を離したすきに、道路に仮置きした袋を烏に引き裂かれている。
そりゃ、オジサンの怒り心頭はもっともだ。

捕まっては大変だと、カラスの王様は一目散に飛び立ち逃げ去った。
危機一髪、オジサンの上を通り過ぎる王様。
だがそのクチバシには、しっかりとチキンの肉がくわえられていたのだった。

「ごちそうさま、サンタさん。今朝はフライドチキンのモーニンングだぜ」



神よ、あなたは烏が鶏を食べるのをお許しになるのか・・・

                         【つづく】・・・・とは聞いているが

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【童話】カラスの王様 3

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

 

カラスの王様は人間が大嫌いだ。

オジサンから這う這うの体で逃げ出した彼。
捕まることを異様に恐れていた。
あたかも人間に捕らえれれたことがあるかのように。

昔のことである。
カラスの王様も素直でまっすぐな青年鳥だった頃がある。
生まれ育った山里の林の中でのんびりと日々を送っていた。

鳥として生まれてきて、この広い空を飛び回ることが出来る。
自分はとても幸せだと思った。
ある日、まだ見ぬ都会の噂を聞いた。
人間という動物が住む街があるらしい。
街には、いろいろなものがあり毎日が面白いと言う。
「そうだ、僕は飛べるんだ。いろいろな街だって見に行けるんだ」
思い立った彼は、その街探しに旅することを決めた。
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住み慣れた山里が見えなくなると、彼は飛ぶことに疲れてきた。
こんなに長い道のりを飛び続けたことは初めてだっだのだ。

眼下には整然としつらえられた畑が広がっていた。
「少し休んでいこう」
彼は、どこに降りようかと悩んだ。
見渡す限り一面の畑で、彼が足を下ろす止まり木が見つからなかったからだ。
仕方なく、畑の真ん中に1人立っていた人間の肩に恐る恐る止まった。
人間の肩の上で休んでいると、気持ちのいい風が過ぎていく。
周りの黄金の稲穂も風になびき全体が美しく揺れ動く波のワルツのようだった。
「人間って優しい動物なんだな。僕が肩に止まってもじっと休ませてくれている」

そう思った時だった。
後ろから思いっきり棒を振り下ろして怒鳴りつける声があった。
「こらぁー、この泥棒ガラスめ。生意気に案山子に止まりやがってぇ。うちの稲は狙わせねえぞぉ」
カラスの王様が初めて出会った人間も、棒切れを振り回すオジサンだった。
「うわぁ、なんだ?なんだ?何にもしていないのに・・」
思い起こせばこの時も、オジサンの棒切れから身を避け、危機一髪飛び立つことが出来たのだった。

「人間って怖い動物なんだな。僕を目がけて殴りかかってくるもの。もう畑の真ん中の人間には止まらないようにしよう」
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つ学習をした王様だったが、既に山里が恋しくなっていた。
「ここには安心して休める大きな木々もないよ。今夜はどこで過ごせばいいんだ」
美しかった夕焼けもだんだんと闇の中に溶け込んでいき、いつの間にか彼の嫌いな夜になった。

闇夜の烏が今夜は一番震えている。不安で、不安で、震えている。

仕方なく彼は、畑の先にいくつも並んでいた黒い大きな箱の上で眠った。

                               【つづく】・・・かな?

 

【童話】カラスの王様 4

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

 

ガタン。
地面が大きく揺れるのを感じて、カラスの王様は飛び起きた。
「地震か?」
見渡すと、すっかり夜は明けていた。

「そうだ、昨日は黒い箱の上で眠ったんだったけ」
地面じゃない、その黒い箱が今揺れているのである。

ガタン。ガタン。
大きな黒いいくつもの箱が、ゆっくりと動き出した。
彼が一晩過ごした所は、貨車の屋根の上だったようだ。
動き出した箱に分けもわからずしがみ付いたが、スピードが増した途端に振り落とされそうになった王様。
かろうじて貨車と貨車の隙間の溝に落ち着いた。

周りを見ていると、自分が飛び回る時よりも景色が早く流れていく。
「なんなんだ?この動物は?こんなに早く飛ぶ・・いや、空を飛べないのだから鳥ではないな」
初めての体験を冷静に分析する余裕が出来ていた。
「なんだか飛んでいるのは、世界の方みたいだ」
畑が飛び、木々が飛び、遠くの山々がゆっくりと後ろに飛んでゆく。
それを見ているといつしか気分が悪くなってきた。
気が遠くなっていった・・・

「オイ、こんな所に烏が引っ掛かっているぞ」
その声でカラスの王様は我に返った。
黒い四角い動物はすでに止まっていた。
そして、2人の人間が自分を珍しそうに覗きこんでいたのだった。
「生きているのか?面白いな、捕まえてやろう」
2
人は、彼を生け捕りにしようと襲いかかってきた。
「え?どうして?人間はどうして僕を見ると捕まえようとするんだろ?」
彼は4本の腕をするりと抜け、貨車の下に落ちるように飛びくぐり、またもやかろうじて逃げ遂せたのであった。

自分の羽で飛び回る空はやはり格別だ。
ただ、眼下に見える新しい世界は、山里の懐かしい景色ではなかった。
一面の畑でもなかった。
家、家、家。
ともすると、飛びながらも見上げる高い建物すらそこには存在していた。

カラスの王様は、都会の空を飛んでいる興奮を抑えきれなかった。
「ここが噂で聞いた人間の街なんだね」

                            【つづく】・・・・かも。

 makuhari

【童話】カラスの王様 5

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

 

『カラスなぜ鳴くの〜
     ・・・・・・・・・・・・の歌があるが、
『カラスの勝手でしょ
     ・・・・・・・・・・・・とつなげるほどの烏になっていない彼は、
『かわいい七つの子があるからよ〜
     ・・・・・・・・・・・・の童謡が似合う烏だった。

お腹が空いていた。

そういえば、故郷の山里を出て以来すっかり餌探しをすることを忘れていた。
「この街には僕の食べられる餌はあるんだろうか?」
見る限り、美味しそうな実のなっている木々がない。
山がないのに虫やネズミが捕まるのだろうか。
カラスの王様は、新たな不安に襲われてきた。

「もう少し飛んでみよう」
餌を探して、自分の安住の地を求めて、王様は更に先に進むことにした。

背の高い建物ばかりの街並みを後にして、暫く飛ぶとなにやら故郷を思い出させる緑の塊が見えてきた。
「林だ!」
人間が住む家々の先に、小さなスケールではあるがこんもりと緑の林が見てとれる。
「虫がいるぞ!木の実があるぞ!そうだ、今夜はあそこに止まろう」
忘れていた安堵感を久々に感じながら、彼はその林をまっすぐに目指した。

いつの間にか夕方の金色の日差しが、彼の後ろから舞台効果のように照らしつけていた。
目指す緑の林は、それこそ楽天地のように輝いて、カラスの王様を手招きしている。
「もう少しだ。この人間の寝床の群を越していけばあの林にたどり着く」

ただただ一心不乱に飛び続けた。
すると、急に彼の前に四角い建物が見えてきた。
前の街で見かけた背の高い建物たちよりは低いが、しかし人間の寝床の群よりは一段と秀でている。
「あの四角い物の上を飛び越えなくてはいけないのか?」
王様は考えた。
「飛行高度を上げて飛び越えるには、今の体力では少々無理がある。かと言って、迂回して飛ぶにのは時間のロスだよな。まっすぐに少しでも早くたどり着きたいもの。あの林に。日が暮れる前までに」
そう考えている間にも、建物が近づいて来る。

「ん?なんだぁ。この四角い物は、真中があいているんじゃないかぁ」
目の前にやってきた建物は、四角いドーナッツのように真中があいていた。
「問題ないじゃないか、この間をくぐり抜ければいいんだ」
王様は飛行速度も高度も変えず、まっすぐ建物をくぐり抜けて行った。
・・・行くはずだった。

だが突然、そこから彼の記憶がなくなった。

四角いドーナッツに見えた建物は、一面のガラス張り様式だった。
夕焼けの日差しがいたずらし、彼の目にはそこには何もないように映ったのだった。

『ガラス』に汚れがついてなければ・・・『カラス』だもの・・・
なんて冗談を言っていられる場合じゃない。
カラスの王様は見えない何か大きなものにぶつかって、まっさかさま地上に落ちて行ったのだった。

                  【つづく】・・・よね?
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【童話】カラスの王様 6

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

「ママ〜、キューちゃんが動いたよ〜」

『キューちゃん』とはなんだ?
それを言うなら『カーちゃん』だろう。

どのくらいの時間、眠っていたのだろうか。
カラスの王様が目を覚ますと、まるで魔法にかけられたような別世界が広がっていた。

空も太陽も見えないのに、なんて明るいんだ。
今は昼なのか?
まぶしい電灯の光の下で、目に映るもの全てが初めて見る不思議なものばかりだった。

ところで、なんで僕はこの窮屈な棒の箱の中にいるんだ?
「出してくれっ、出してくれぇー」
彼は自分の置かれた状況を理解できないでいた。

「ママ、ママ、キューちゃんがバタバタいってるよ」
「よかったわね、元気になったのね」
「うん。キューちゃん、お腹空いているんだよ」
「そうね、ご飯あげましょうね」
「あ、それ、キューちゃんが食べていたご飯だね」
「そうよ、キューちゃんが大好きだったご飯よ」
人間の大人が何やら持ってきて、カゴの中に入れた。

カラスの王様は、目の前に出されたものが食べ物だとは思えなかった。
なんだ?この気持ち悪い緑色の塊は?
そう思いながらも確かめるように1つ口に入れてみた。
しかし、呑み込めない。
「うっ、まずいっ」
八名信夫ばりに、大きな声で言った。

「わぁ〜、キューちゃんが『カー』って鳴いたぁ〜」
そりゃそうだろう、カラスなんだから。

「ご飯食べないね。僕のパンをあげてもいい?」
「食べるかしらね」
今度は人間の子供が、パンをカゴの隙間から押し入れる。

王様は、何やらいい匂いにつられて、疑いもせず思わずパクついた。
「こりゃなんだ?うまいっ」

同時に、彼の記憶がよみがえってきた。

そうだ、僕は腹が減っていたんだっけ。
そうだよ、あの林までもうひとっ飛びだったんだよ。
痛た・・たたた。肩が痛いぞ。あ、・・・
(烏に肩があっただろうか)
なんだか大きなものにぶつかったんだ。

夕焼けに染まったあの美しい林の輝きが、走馬灯のように浮かんできた。
林が遠くへ行ってしまった・・・
そんな思いがして、なんだか涙があふれてきた。

カラスの王様は思った。

「それでも、こいつはうまい」

「ママ、食べたよ。コロッケパン。キューちゃんがコロッケパン食べたよぉ」

                         【つづく】・・・つもり
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【童話】カラスの王様 7

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

 

人間の家に来て1週間が経った。
体の痛みはなくなり、あの衝撃の転落の記憶も幻のように消えかかっていた。

カラスの王様は知らないのだが、
あの日道路に横たわっていた彼を、拾い上げて連れてきたのがこの家の子供だったのである。

その名は『田中翔』。
小学校1年生の優しい男の子だ。

翔の家族は水道設備工事を営む父と母の3人。(国勢調査か)
いや、先月までは田中家に1羽の九官鳥がいたので4人(?)暮らしだった。
お察しの通り、『キューちゃん』である。
翔の生まれる前から田中家で飼われていた九官鳥。
奇しくも『キューちゃん』は、先月天国へ旅立ったばかりだった。

ぽっかり空いた家族の心のすきまを埋めるように・・・
『カラスの王様』は絶妙なタイミングで田中家に降り立ったのだった。

王様の一日は、初日から既にタイムスケジュールが組まれていた。
人間の寝床の2階から、朝、みんなと一緒に1階の仕事場に下りてくる。
翔はそのまま学校へ向かい、入れ替わるように店の従業員たちが次々に出勤してくる。

人間たちは一様に、王様のそばによってきては声をかけた。
そのどれもが同じような音でこう言うのだった。
「キューちゃん」「おはよう」「こんにちは」

なんだ、なんなんだ? 僕に何を要求しているのだ?

仕事場の柱と右足が紐で結ばれた王様には、昼間は、半径2メートルの自由が与えられた。
常に事務所の扉は開け放たれているので、事務所の土間と表の歩道を出たり入ったりはしていられた。
しかしそれは、自由のように見える不自由だった。

「キューちゃん、ただいまぁ」
翔が帰ってくると、また会話の練習が始まる。
「こんにちは。こんにちはっ」
「キューちゃん、こんにちは・・だよ」
人間は、一日中僕に「おはよう」だの「こんにちは」だのと言っている。
ただ、他の人間と違うのは、いつも翔の手にはあのいい匂いの食べ物が握られていることだ。
「こんにちは・・が言えたら、コロッケパン、もっと食べていいんだよ」

今日、翔の望んでいることが、少しわかるような気がした。
あのいい匂いの物をたくさんくれるんだ、きっと。
ん〜? 何かをしたら。

後ろから、母親の声がした。
「さ、お家に入りましょ。翔、キューちゃん」

あの狭い棒の箱に入る時間かぁ。

「キューちゃんもご飯にしましょ」

ああ、頼む。
勘弁してくれ、その緑の塊は。
まずくて喉を通らないんだよぉ。

「ママ、キューちゃんが天国からもどって来たんだね」
「そうね、翔が寂しがっていたから、キューちゃん、来てくれたのよ」

「良かったわ。キューちゃんが来てくれて」
母親は、鳥かごの中のカラスの王様を見つめて嬉しそうにつぶやいた。


「買いだめておいた『九官鳥の餌』をどうしようかと思っていたのよ」

                       【つづく】・・・・の?
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【童話】カラスの王様 8

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

 

カラスの王様がキューちゃんとなって、そろそろ1か月になる。
巷ではクリスマスイルミネーションが華やかに年の暮れを飾っている。
文字通りの『かごの鳥』となった王様には、その賑わいを目にすることはできない。
だが、田中家の壁のシミがどこにあるかと尋ねられれば、つぶさに答えることができた。

「キューちゃん、フライドチキン食べる?」
カラスの王様は、翔が大好きだった。
いつも自分の食べ物を半分わけてくれる、優しい翔が大好きだった。
「でも、ママには内緒だよ」
「僕が何かあげるから、キューちゃんがご飯食べないっておこってたよ」

翔の言っていることはわからなかったが、今日の食べ物が故郷で食べたことがあった肉だとはわかった。
ただ今日の肉は、死んだ鶏の肉をついばんだ時よりも格段と美味しい味がする。
「うまいっ」
菅原文太ばりのドスのきいた声を思わず発した。

「ママ〜、キューちゃんが『おはよう』って言ったよぉ〜」
「パパ〜、来て来て。『おはよう』って言ったよぉ〜」

「カー」と鳴いたつもりが「おはよう」と言ってしまったのか。
「おはよう」としか鳴けなくなってしまったのか。
カラスの王様は、いつのまにか耳に入っていた言葉を覚えていたらしい。

「キューちゃん、おはよう。フライドチキンだよ。おはよう」
何だかわからないが、翔が喜んでいる。
僕が鳴いて、翔が喜んでいる。

もう一度、鳴いてみた。
「おはよう」と。

「ほらね。キューちゃんが『おはよう』って言えたんだよ」
「すごいわね。『おはよう』って言ってるわね」
「カラスも九官鳥のようにしゃべれるんだな」
なんだ、あれだけ強いていたのに、しゃべれるとは思っていなかったのか。

その日から、カラスの王様はスター街道まっしぐらだった。
翔だけでなく、母親も、父親も、王様のそばに寄ってくる時間が多くなった。
店の従業員たちも。
ひいては近所の人たちまで集まってきた。
いつも人間の輪の真ん中にカラスの王様はいた。

それぞれが手に何か食べ物を持っている。
ま、近所の子供が差し出すものは落ちていた木の葉だったりはしたが。
そして皆、一様に王様に話すよう要求するのだ。
『おはよう』
これはクリアできた。
いつでも人間の要求に答えることも自在にできるようになった。

『こんにちは』・『キューちゃん』
この2つは難易度が高かった。
烏は『カー』と短く吐き捨てる言葉が得意なんだ。
あの『おはよう』だって、いっこく堂のように綺麗に発音はできていない。
だが、人間の耳にはそう聞こえるらしい。

要求通り『おはよう』と言えば、人間は喜ぶ。
そして美味しい食べ物を僕にくれる。
王様は、僕は人間と会話ができる烏なのだとその時思った。

「キューちゃん、おはよう」
ママがやって来た。
「キューちゃん、おはよう」
「どうして私にはしゃべらないのかしら」
ママは手に持っている九官鳥の餌の中で、一番大きな塊につまみなおした。

「はい、キューちゃん、お・は・よ・う」

カラスの王様は優しいママと会話する言葉をまだ会得できないでいた。

                          【つづく】・・・と言いたい
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【童話】カラスの王様 9

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

人気アイドルの寿命は短かった。
あれほどカラスの王様の周りには人だかりがいっぱいだったのに。
今は、翔とパパとママの3人が優しくしてくれるだけになっていた。

カラスの王様は最近悩んでいる。
いいや、人気アイドルの座に返り咲こうと悩んでいるのではない。
むしろ今の方が、静かで心地よい状態だと思っている。
そうなのだ。
その『心地よい状態』に悩んでいるのである。

昼間、人間の大人たちはパパを筆頭に全員仕事に出かけてしまう。
勿論翔は学校に行っていて、その姿はない。
ママと2人きりにはなるが、忙しいママは家と事務所を行ったり来たり。

そんな平日の静かな昼下がり、カラスの王様は思うのだった。
「僕は、翔やパパやママに大切にしてもらっている」
「僕は3人が大好きだ」
本当にそう感じるようになっていた。

鳥かごに入れられたままの生活でもない。
こうやって1階の事務所に紐でつながれていれば、ある程度の解放感もある。
そばに寄ってくる人間たちは皆笑顔で、僕とのコミュニケーションを楽しんでいる。
今まで食べたことのない美味しい食べ物もたくさんもらえる。
自分で餌を探し回る必要もない。
そんな毎日になんの不服もあるわけはなかった。

ふと見上げると屋根と屋根の隙間に青い空が見える。
僕が飛んでいたあの空だ。
自分の羽で飛び回るあの感覚は、鳥でなければ味わえない醍醐味だ。
なのに今はここにいて、あの大きな空を切取ったスクラップのようにしか見ることができない。

僕は烏だ。
僕は鳥だ。
この羽が、そう言っているように思えてきた。


「あ、またあいつがやって来た」

  

 

                【つづく】・・・あいつって誰?

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【童話】カラスの王様 10

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

 

「あ、またあいつがやって来た」

人間が誰もいなくなる昼下がりのこの時間、決まってやって来る『あいつ』である。
カラスの王様が人気アイドルだった時代から、どうも気に入らなかったようで。
最近は至近距離までやって来ては、すぐさまにも戦闘状態に入れる殺気を放ってくる。

「にゃぁ〜」
しっぽをコブラのごとく振り上げて遠巻きにゆっくりと行ったり来たり。
白と茶の縞模様が薄汚れているし、見るからに『ノラ』だとわかる目つきをもしていた。

幕内力士の取り組みですら対戦相手はそうかけ離れていないものだが。
今日の顔合わせは、まるで異種格闘技のような2人であった。

烏とノラ猫。

まだ世間に疎い王様にはわからなかったが、あいつは知っていた。
烏は自分たち野良猫と、テリトリーも餌の内容も、すっかり重なり合っているのだと言うことを。
自分たちと人間の食べ残しを奪い合ってこそが、烏と言うものだと。
なのにここにいる烏は、人間にチヤホヤされて餌までもらってノウノウとしている。
あいつは、そんなカラスの王様が大嫌いだった。

もしこのノラ猫の気持ちが王様に聞こえたら、きっと彼はこう言い返すだろう。
「君に、生きたねずみが捕れるかい?」
(本当は捕れなきゃおかしいんだけどね、猫だから)
都会の烏とノラ猫の生きざまを知らない王様は、自信を持って言うだろう。
「僕は人間の食べ残しで暮らすなんてまっぴらだ」


突然、あいつが飛びかかってきた。
「上等じゃないか。受けて立ってやろう」
カラスの王様は、仁王立ちをして構えた。

だがあまりにも分が悪い。
あいつはフリーだが、僕は右足を紐で結ばれている。
半径2メートルの球を描くことしかできないじゃないか。
得意の『脳天必殺突き』をくらわすにも、十分な飛行距離がとれないぞ。

結局辺りをバタバタと逃げ回るしかなかった。
情けない。
そう思うと、敵はますます図に乗ってきた。

王様目がけて、得意の右手引っ掻き技を繰り出してきた。
内心、あいつの空を切る爪の鋭さに恐れをなしてしまった。
「おっと、顔はやめてくれ。アイドルは顔が命なんだ」
そう言って、飛退いた瞬間。
あいつの左手攻撃が、足の紐に引っ掛かった。

「わぁ〜」
飛び上がった途端に紐に引っ張られ土間に強く叩き付けられる。
「こいつぁ、次に飛びかかってくるんだろうな」
恐る恐る振り向くと、案に反した場面があった。

紐が爪に絡みつき、『あいつ』は『カラスの王様』との勝負の前に、紐と戦いざるを得なくなっていたのだった。

                【つづく】・・・・かなきゃ、ここは。
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【童話】カラスの王様 11

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

爪に紐が絡みつき、あいつは今、僕との勝負を忘れたかのようだった。
紐との格闘を始めたノラ猫を横目に。
カラスの王様が、ホッとしたのもつかの間だった。

「わぁ、痛てて・・」
「そうか、あいつが紐を振り解こうと手を振ると、僕の足も引っ張られるんだ」

紐が引かれるたびに、彼は叩き付けらるようにバタバタとその辺を転がった。
何度も何度も転がされて、たまらん。
「もう、たまらん」
と思った、その時だった。
紐が、ぱらりと解けたのだ。

それはなんと偶然にも、王様の右足の結び目だった。

「あっ」
彼は、自分の足をまじまじと見た。
「自由だ」
「僕の足に何もついていない」

何もついていない足を見つめて、考えていた。
考えてみれば今までだって、紐の結び目をほどこうと思えば解けたわけだ。
だが王様は、一度も紐を解こうとは思わなかった。
むしろ結ばれていることが、ここにいる証のような気さえしていた。

突然。
後ろからあいつが飛びかかってきた。
弛んだ紐があいつの爪の絡まりをも解いたらしい。
ノラ猫と烏は、まるで1個のボールのように絡み合いながら、戦いながら表へ転げ出て行った。

暫くの死闘の末。
どちらからともなく組み合った絡まりを解くと、2人は疲れ果てていた。
そしてお互いが勝者の顔をして背を向けて歩き始めた。

気が付くと王様は、いつのまにか田中家からずいぶん離れた所に来てしまっていた。
こんな形であの家を後にするとは思ってもいなかった。
かと言って、彼には、今さら戻って行く大義名分が見つからなかった。
もうすぐ学校から帰ってくる翔に、
「紐が解けちゃったよ。結んでよ」と軽く言いたい気持ちもある。
だが、久々に得た自由に、体が、羽が、ウズウズする嬉しさもあった。

僕は烏だ。
僕は鳥だ。
この羽が、大空を望んでいるんだ。

翔、ごめんね。
パパ、ママ、ありがとう。
さようなら・・・翔。

カラスの王様は、自分に言い聞かせるように、田中家に別れを告げて歩きだした。

                  【つづく】・・・・・。
karasu1


【童話】カラスの王様 12

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

「これは凄いな」
荒らされた事務所を見渡して、パパが言った。

「キューちゃんがいない。キューちゃんがどこかへ行っちゃったよ」
翔は今にも泣きそうな面持ちで震えていた。

戦場の痕跡は、

そこにいなかった者にもリアルに想像がつくものだった。
「この足跡は猫だな。猫の毛も飛び散っているし」
「キューちゃんは野良猫にやられたんだな」
「えっ?キューちゃん、猫に食べられちゃったの?」
「食べられてはいないよ」
「それでも傷ついているんでしょうね、キューちゃん」
「可哀相に」
ママがため息交じりで言った。

「帰ってくるよね。キューちゃん、帰ってくるよね。お家に」
祈るように繰り返す翔の言葉に、パパもママも胸が迫る想いでいた。

「夜になって、どうしているのかしら?夜、鳥は目が見えなくなるのよね」
「野犬に噛み付かれたらひとたまりもないよな」
「車に轢かれたりしてないかしら」
「そんなぁ。キューちゃんは大丈夫でしょ?飛べるんだもん。大丈夫だよね?」

「ん〜」
パパは思わず、言葉を呑んでしまった。
今の翔に言えないことがあった。
実はパパは、キューちゃんの足の紐が解けてしまっても開け放たれた事務所の入り口から飛んで行けないようにと、キューちゃんの羽を数枚切り落していたのである。
翔に『今のキューちゃんは飛べないんだよ』とは言えなかった。
同時に、こう言う結末になるのだったらキューちゃんの羽を切るのではなかったと後悔もしていた。

「翔、探しに行こうか」
「そうね、夜、鳥は見えないんだもの。飛んで行ってないわよ。きっとまだ近くにいるわ」
そう言ってはみたものの。

パパもママも、見つかる可能性が少ないとは思っていた。
飼い犬なら、名前を呼べば向こうから走ってやってくる期待は出来る。
だが、野生の烏を1ヶ月ほどペットにして、どれだけ我々になついたものか。
映画のように、キューちゃんが我々を見つけて飛んで帰って来る・・とは、流石に期待は出来なかったのだ。
それでも、もしどこかで息絶えているのなら、抱えて帰ってやりたいと思った。

そんな大人の思いとは反して、翔の心は期待で膨らんだ。
「そうだね、迎えに行こう。キューちゃんはお家が分からなくて困っているんだよ」
「キューちゃんを探しに行こう。パパ、ママ。探しに行こう」

                                   【つづく】・・・・探しに、

 P1000954

【童話】カラスの王様 13

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

烏が鳥目だと誰が言ったのだろうか。
烏は夜だって、猫にも負けず劣らずよく目が見えるのだ。
だから暗闇を自在に飛ぶことだってできるのだ。

カラスの王様は、人間の夜の街を飛び回ってみようと思った。

いざ、離陸。
「あれ?飛び立てない」
王様は飛び方を忘れてしまったのかと嘆いた。
「ああ、しばらく怠けていたからなぁ」
再度、挑戦してみた。

しかし、どうも具合がおかしい。
大きな何かにぶつかって落下した時、体のどこかを痛めたのだろうか。
さっきのあいつとの格闘で翼が歪んでしまったのだろうか。

「飛行前の機体点検をしなくちゃな」

王様は自分の体を確認し始めた。
「足はちょっと痛いけど、こんなのは大丈夫だ」
大きく左右の翼を広げてみた。
「翼は、歪んでいないよ、オーケー」
「・・ん?・・あっ?ない!」
「誰だよ、僕の翼から4枚の羽を取ったのは!」

まるで乳歯が抜け落ちた子供の口元のように、ところどころの羽が切り落されていた。
勿論、犯人は田中家のパパである。

夜の国道を烏が歩く。
演歌の歌詞にもなりゃしない。

突然、カラスの王様のすぐ脇を猛スピードで通り過ぎる大きな動物がいた。
「ギャー、怖い」
人間の夜の街には、2つの光る目を持った恐ろしい速さで走る動物がいるんだ。
王様は何度も車に轢れそうになった。

夜の国道、渡り鳥。
烏が歩くにゃ、無理がある。
スリルという名の綱渡り。
(烏は渡り鳥かい?)



「もう少し、高いところに上ろう」
「あの家のてっぺんに上がろう」
飛べない王様は、鶏が飛び上がる方法で地道に上を目指した。
停めてあった自転車に飛び乗り、石塀に飛び上がり、庭木の枝に飛び移り、屋根の樋に到達した。
まるで泥棒が這い上がっているかのようだ。
ベランダの桟からクーラーの室外機に乗り移り、2階の屋根のてっぺんに辿り着いた。

そこからは、人間の街が見渡せた。
「きれいだなぁ、ピカピカと光っている」
夜の街は、いたるところイルミネーションで輝いていた。
季節はまさにクリスマス。
カラスの王様が初めて見る美しい景色だった。
「今夜は、ここで眠るとしよう」

街にはクリスマスソングが流れていた。
その音でかき消されるような小さな声が、夜の街に響いてきた。
カラスの王様には聞こえていた。

「キューちゃーん、どこにいるの?」
「キューちゃ〜ん、帰っておいでよぉ〜」

         【つづく】・・・つづいてぇ。


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【童話】カラスの王様 14

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

美しい朝焼けだ。
家々の屋根や背の高いビルの先に海が見える。
青い海が朝日に照らされ、昨夜のイルミネーションよりキラキラと輝いている。
カラスの王様は、人間の街にやって来て初めてゆっくりと昇る朝日を眺めていた。

「さて、これからどうしたものか」

太陽を見つめて考えていた。
「そうだ、あの林に行ってみよう」
「僕の目指していたあの林に」
長時間飛び続けることのできない今の彼にとっては、果てしのない道のりになりそうだが。
あの太陽を見ていると、勇気と希望しか涌いてこない朝だった。
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「そう決めたら、先ずは腹ごしらえだな」
一晩泊めてもらったこの家で朝食も済ませていくことにした。
朝食付きのホテルなら『朝はバイキング食べ放題』が相場なのだが、どうやらここには用意されていそうもない。

虫でも捕まえようと大きな庭木に移ってみた。
だがこの冬の時期、流石に虫も引きこもり生活のようだ。
虫たちは一匹たりとも姿を見せていなかった。


突然、雨戸が開けられた。
住人が起きてきたのである。
こんなに早い時間に起きてきたのは、この家のお爺さんだった。
日の出とともに起床する規則正しい生活の始まり。

おてんとう様を拝もうと窓を開ければ、今朝はなんとそこに烏がいるではないか。
「朝っぱらから烏がいるのか」
お爺さんは、突っ掛けで庭に下りてきては木の下からホウキの柄で王様を突っつき始めた。
カラスの王様は驚いて枝から枝に行ったり来たり。
「なんだ?なんだ?僕は何にもしていないよ」
「いるだけでいけないの?」

昔の人にとっては、烏は不吉の象徴である。
ましてや自分の家に烏がいると知ったお爺さんは、このまま居ついちゃ溜まらんと追い出しにかかったのだった。

「そうだ、僕は人間と会話のできる烏じゃないか」
この場を切り抜けるいいアイディアが浮かんだ。
「そうだよ、『おはよう』って鳴けば美味しい食べ物をくれるかもしれない」
そう思いついた王様はお爺さんに向けて、最高のパフォーマンスを披露してみた。
「おはよう」
今までで一番良い出来だったかもしれない一鳴きだった。

「なんだと?『あほー』などと鳴きよって。追い出してくれるわ」
さっきよりも一段と怒りが増したお爺さんは、ホウキを竹ぼうきに代えて振り回してきた。

王様は慌てて転げるように飛びながら、その家を後にした。
「人間は、僕がいるだけで怒っていたよ」
「こんなに上手く『おはよう』と言えたのに」
何がいけないのか理解できない王様は、人間に少し悲しい思いを抱いた。

カラスの王様は知らなかった。
お爺さんは耳が遠くて、よく聞き取れなかったと言うことを。
最高の出来栄えの『おはよう』を。

         【つづく】・・・よ。
     チナミニ、「突っ掛け」とはサンダルのことです。

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【童話】カラスの王様 15

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

 

ふとあたりを見渡すと、あちらこちらに木々がちらほら見える。
人間の家々にも林ほどではないが、木々があることに王様は気がついた。
数件先には、何か実がなっている木まである。
「あ、柿の木があるじゃないか」
今日の食事は、柿の実にすることに決めた。
彼がもし人間なら、レストランで注文を決めるその決断力の潔さに彼女も惚れ惚れすることだろうに。

葉を落とした裸の枝に、幾つか残された柿の実。
空気の澄んだ青空に映えて、赤いその実は冬のシーンを彩っていた。
だがその柿の実たちは、不思議なほど歪な形をしている。
どれもこれも、果実の球形をとどめていないものばかりだった。

既に誰かによって食べつくされた実であることは王様にも分かった。
しかし今は、そんな贅沢は言っていられない。
彼は、その残った果肉を一口ついばんでみた。
「甘い実だ。これは美味しい」
「ここで腹いっぱい食べていこう」

二口目を食べようとしたその時だった。
人間の声がした。
「お前が、犯人だったのか。やっと見つけたぞ」
「朝から見張っていたとは思わなかったろう」
オジサンが言っている言葉は理解できなかったが、その怒りはヒシヒシと伝わってきた。
次の行動が予想できるような予感さえした。
予感的中だ。
またもやオジサンは棒で叩きつけようとしてくる。

王様は、もう一度『おはよう』作戦を実行してみた。
「おはよう」
唯一の観客に向かって心をこめて一声鳴いた。

オジサンの手が止まった。
持っていた棒を投げ捨て、なにやら緑の大きな物を持って来た。
「あ、言葉が通じたのかな」
「美味しいものをくれるのかな」
王様の期待を裏切って、オジサンはその緑色の網を彼に向かって投げかけた。
カラスの王様は驚いて飛び逃げた。

逃げながら、心に硬く硬く誓っていた。
「もう決して人間に向かって『おはよう』とは鳴かないんだ」

そして、いつの間にか人間が嫌いになっていた。
僕を見るだけで叩こうとする人間。
僕を捕まえようとする人間。
「人間って、怖い動物なんだな」

烏を鳥逃がしたオジサンは1人呟いていた。
「惜しかったぁ、逃げられたよ」
「九官鳥みたいだったな」
「話が出来る烏か。捕まえたかったなぁ」

でも、オジサン。
流石に柿の木に網を投げたって烏が捕まるわけはない。
漁の投網じゃないんだから。

   【つづく】・・・一声鳴いては旅から旅へ?
  チナミニ、「烏を鳥逃がす」は親父ギャグです。

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【童話】カラスの王様 16

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

松林にいた海鳥たちは、いつものように信号機の上に陣取った『カラスの王様』を眺めながら話を続けた。

「不思議だと思わないか?」
「烏たちはゴミをあさってはいるけど、もっと上手に食べているよね」
「そう言えばよく人間に追い掛け回されているのは、カラスの王様だけだわ」
「楽しんでいるのかな」
「いや、カラスの王様は『人間なんて大嫌いだ』って言っていたよ」
「僕なんか『カラスの王様なんて大嫌いだ』って言いたいけどぉ」
「他の烏たちみたいに、グループにも入らないね」
「理不尽だってまかり通ると思ってる『王様』だもの。皆と一緒には行動しないさ」
「皆と一緒って、こんなに楽しいのにね」

オジサンのゴミ袋からいただいた戦利品のフライドチキンモーニングを食べ終え、
カラスの王様は信号機の上で上機嫌だった。
凱旋兵士よろしく、一声『カー』と勝利の雄たけびを挙げた。

遠く眺めれば、今年もイルミネーションが街を飾っている。
あれから何度目のクリスマスを迎えるのだろうか。


「今日は天気もいいし、久々に海辺へ行ってみようかな」

彼は太陽の暖かい昼下がりに、海を眺めるのが好きだった。
青い海に光がキラキラと反射して、時がゆっくりと流れる不思議な世界に包まれた。

海辺といっても、ベイタウンの海辺である。
海に面した工場地帯の半ば機能的に作られた人工の海辺だ。
辺に置かれた重機の物々しさ。
数々の資材が積み上げられたコンクリートの世界である。
それでも、そこはカラスの王様の別天地だった。

こうやって海の上を飛びまわる心地よさは、爽快感そのものだ。
鳥として生まれた幸せすら感じていた。



「あ、あそこに銀色包み紙のチーズが落ちているぞ」
海に突き出た資材置き場の網の下に、確かに光る何かが落ちている。
本当にあの有名な三角形おつまみチーズか?
どうも、王様の弱点は昔から食い意地が張っていることらしい。

旋回をしたかと思ったら、突然急降下。
目的地の網の上に飛び乗ったカラスの王様は、光るものの品定めを始めた。

資材保護にかける網が、無造作に塀に投げかけられていた。
その網の塊の下の下の方に、光る何かは存在している。
「ん〜、よく見えないな」
くちばしを突っ込んでみたが、到底届くわけがない。
網に足を踏ん張りながら、自分の体を横にしたり、逆さになったり。
こと食べることとなると熱心な王様である。

逆さまになると光るものに近づける感じだ。
くちばしを伸ばして・・・
「あっ」
しまった、足が網の間に挟まってしまった。
「う、動きが取れない」
中刷りになった王様はもがいてみるが、もがけばもがくほど網の間に足が食い込んでいく。

ここは海に面した資材置き場。
品物がないこの日、あの大嫌いな人間すらやってこない場所だった。

                      【つづく】・・・がんばれ。
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【童話】カラスの王様 17

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

夕日が昇っていく。
赤塚富士夫のギャグ漫画のようだが、逆さ吊りにされたカラスの王様には実際に目の前の光景だった。

「美しすぎて、涙が出るぞ」

そう言いつつ自分の姿を見ながら思わず苦笑いをした。
「マンションのベランダに吊り下げられている『烏の人形』みたいじゃないか」
烏に似せた黒い塊やら、目玉だけのお化けやら。
そう言えば人間は烏除けの人形をたくさん考案してきた。

畑の真ん中の案山子の肩に、人間だと思い込んで恐る恐る止まったのは誰だったっけ?
あの純粋だったカラスの王様も立派に成長(?)したものだ。
人間の作った『烏の人形』が分かるようになったとは。

何度となく目にしてきた夕焼けが、今日はやけに目に染みる。
この輝きが暫くすると暗い闇に吸い込まれることも王様は既に知っていた。
夜が来る前に。
もう一度、網から抜け出そうともがいてみた。
だが力を入れるたびさらに網が締まってくるような、ただそんな気がしただけだった。

あんなに暖かな午後だったのに。
夜は打って変わって冷たい空気が辺りを支配する。
王様は、吊り下げられたまま幾時間もただそこにいるしかなかった。

体力が奪われていく。
だんだん意識まで薄れていく。
「このまま僕は『烏の人形』になるんだろうか」

貨車に乗って走ったって。
ビルにぶつかり落下したって。
野良猫と死闘を演じたって、不死身だった王様じゃないか。
弱気になってどうするんだ・・・

街にはクリスマスソングが流れていた。

今日はまさにクリスマスイブ。
彼にはそんなことは知る由もなかったが、風に乗ってこの海辺にも届いてきた懐かしい音を聞くともなしに聞いていた。
その音がBGMのように、カラスの王様を眠りに誘う。
いつの間にかウトウトとし始めた。
眠りに落ちるその意識の片隅で、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。

「キューちゃん、どうしたの?」
懐かしい声だった。
あの楽しかった日々の思い出が無数にフラッシュバックされてきた。

「翔・・・」

次第に冷たくなってきた『カラスの王様』の黒い翼に、白いものが舞い降りる。
今夜はホワイトクリスマスか・・・

                    【つづく】・・・I'm dreaming of a White Christmas

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【童話】カラスの王様 18

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

「うっ、眩しい」
閃光が走った。
一瞬瞼の裏が真っ赤になった衝撃で、カラスの王様は意識を取り戻した。

恐る恐る目を開いてみた。

そこには、朝が訪れていた。
目の前には、朝日が・・・。

あぁ・・・、
朝日が・・・・・、沈んでいく。

王様は、状況が変わっていないことを改めて知らされ深い絶望感を感じた。


「烏さん、何をため息ついているのですか」
上の方から声がした。

見れば、自分の足元に海鳥たちがいる。
「何をしているんだ?」
彼は、海鳥たちに尋ねた。
「何をしているかって?そりゃ、僕たちのセリフですよ」
「どうしてこんな格好で挟まっちゃったんですか」
そりゃ、三角チーズが欲しくって・・・とは言えない王様だった。

海鳥は続けた。
「今、海辺を飛んでいたら、烏さんのその姿が目に入ったんです」
「これは大変だ。助け出さなくちゃって」
「僕たちは、あなたを助けに来たんです」
それは、十数羽の青年鳥たちだった。
純粋な目をして、心からカラスの王様を心配していた。
「みんなで網をこじ開けますから、烏さん、あなたは足を引き抜いてください」
クチバシをこじ入れる者、網を精一杯引きちぎろうとする者。
皆懸命に王様を助けようとしていた。

小一時間かけて網と格闘をしているうちに、王様の足が少し動くようになってきた。
「あ、足が動かせそうだよ」
「みんな、もうひと踏ん張りだ」
「それっ」
海鳥たちが一斉に力を込めて網を引っ張ると、王様はするりと抜け出ることができた。

「ありがとう」
カラスの王様は、海鳥たちに心の底から感謝をしていた。
そして、皆が自分のために力を合わせてくれたその心が嬉しかった。
海鳥たちも自分たちの連帯感と達成感に感動していた。
今、カラスの王様と海鳥たちは、確実に仲間だった。

いつものように、朝日が高く昇って行くのが見えた。

王様はそれを見て言った。
「あ、こんな時間か?行かなくちゃ」
海鳥たちは驚いて言葉を返した。
「烏さん、今あなたは自由になったばかりじゃないですか」
「少し休んでいったらどうですか?」
「そうですよ。一晩中挟まっていたんだもの、体が疲れているだろうし」
「さっき、我々が捕った魚があっちに置いてあるんです」
「一緒に朝ご飯にしましょうよ」

お腹がペコペコな王様にとって、それはとても嬉しい誘いだった。
「ありがとう」
「でも、僕は行かなきゃならないんだ」
「今度また誘ってくれるかい?一緒に食事をしようね」
そう海鳥たちに告げると、カラスの王様は勢いよく飛び立った。

明るくなった海の上を飛びながらブツブツとつぶやいていた。
「急がなくちゃ」
「急がなくちゃ、間に合わない」

                   【つづく】・・・・今日はゴミの日か?
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【童話】カラスの王様 19

  • author: keshigomu1
  • 2012年01月22日

カラスの王様は体力が消耗していた。
昨日から何も食べていない体は風圧に負けそうになるほど弱っている。
それでも力の限りを振り絞って、懸命に飛んでいた王様だった。
「急がなくちゃ」
「急がなくちゃ、間に合わない」
脇目も振らずに一直線に飛んでいた。



いつもの交差点にやって来た。

信号機の上では、海鳥たちが羽を休めている。
ぴったりと寄り添うでもなく、とは言え、それぞれが孤立して見えるほどは間隔は開けずに、整然と信号機の上に並んでいた。

いつものベイタウンの朝だった。


信号機の上の1羽の海鳥が、彼を見つけて叫んだ。
「またカラスの王様がやってきたよ」

カラスの王様は、いつものように彼らの所へやってきて。
いつもと違う言葉をかけた。
「この隅に、止まらせてもらってもいいかい?」

海鳥たちは驚いた。
王様が、僕らをどかそうとしない。
思わず全員が、間隔を少しずつ詰め合ってしまった。
電車の座席に後から乗ってきた人を1人詰めて座らせる・・・そんなシーンを連想させるかのように。

大きな烏1羽と小さな海鳥たちが信号機の上に並んでる。
滅多にお目にかかれない光景かもしれない。

海鳥が尋ねた。
「そう言えば、カラスの王様。あなたは毎日決まってこの時間にここにいるのね」
彼は答える。
「君たちだって同じじゃないの。いつも皆でここにいるよね、楽しそうに」

「いいや、僕たちは暖かい天気のいい日にしかいないもの」
「そうそう。あなたは、雨でも風の日でも、いつも決まってここにいる」
「王様、どうしてあなたはこの時間にここにいるの?」

カラスの王様はこう言った。
「今日と同じだよ。朝飯をたらふく食べてここで一服しているのさ」


始めて人間の街にやって来た日から。
カラスの王様は、1日たりともこの場所に来るのを欠かしたことはない。
いつもきまった朝のこの時間。
いつもきまったこの信号機の上に。
そして、ここから下を眺めるのが毎日の日課だった。

今日も子供たちがワイワイと通学をしていく。
『間に合った』
『この時間にここにいなくちゃいけないんだ』


カラスの王様は待っている。
子供たちを見つめながら待っている。
今日こそと。
あの声が聞こえてくるのを待っている。

「あっ、キューちゃんだ!」
「キューちゃん、ここにいたんだね。探したんだよ」
「一緒におうちに帰ろうね」


カラスの王様は、小さな声でつぶやいた。

「おはよう」

shingou


【おわり】
                読んでくださりありがとうございます


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