kobo Touchを買ってから本腰を入れて書籍を電子化していこうとBOOKSCANに自炊代行を依頼してから早いもので2ヶ月。僕はプレミアム会員に登録せずに100冊弱発注、しかも名前変更オプションとOCRオプションも付けて(今思えばプレミアム会員にすれば・・・詳細は後述)。
8月初旬に前払いで発注、スキャン開始予定は9月初旬、スキャン完了が10月初旬。期待に胸躍らせていた僕としてはこのスキャン開始から完了まで1ヶ月、というのはちょっとばかし長く感じた。「混雑状況・時期により1ヶ月程度大幅に変動する場合がございます。」という注意書きはあったけれど、発注したときに表示される「スキャン開始予定日」と「スキャン終了予定日」が同日だったので、「一旦スキャン作業に入れば集中的にやってくれるのか」と期待してしまった。そして、納品データの出来を見て「早く次のものを送りたい(=部屋をすっきりさせたい)」という願望があったので、ここ1ヶ月間逸るこの気持ちをぐっと我慢するのは少し辛かった。
発注から2ヶ月、ようやく納品データが届いた。早速Webからダウンロードするも、一般会員は1冊ずつ(1ファイルずつ)ダウンロードしなければならない。1冊当たり大体平均50MBくらいあるので、1冊ずつクリックしてダウンロードするとなると、意外と面倒な手間と時間がかかる(プレミアム会員は一括ダウンロードツールが付いてる)。全てダウンロードしてから早速見てみると、OCRもきちんとできていた。

元データのファイル容量(※iPhoneやiPad用の各種チューニングツールを使用する前)
OCRについては、Web上では結構厳しいレビューが散見されたけれど、僕が試したものを比較すると、(PDFを)閲覧するソフトにで認識率に大きな差が出ていた。Mac標準搭載のプレビューとAdobe Readerを“縦書き”文章で試したが、プレビューの場合、範囲選択が使いものにならず(ページ中の文字全部を“一括指定”みたいになる)、結果、コピー&ペーストも暗号文みたいになった。Adobe Reader(※厳密にはAdobe Acrobat Professionalを使用したが範囲指定とコピー&ペーストという機能に差はないだろう)では、きちんと範囲選択ができ、コピー&ペーストもきちんとできた。
※以下、『2011年新聞・テレビ消滅』佐々木 俊尚 著のプロローグページを使って閲覧ソフトでの違いを比較したキャプチャ画面を貼付け。

Adobe Readerでの表示(※厳密にはAdobe Acrobat使用)

プレビュー(Mac標準の閲覧ソフト)での表示

Adobe Readerで範囲指定し、テキストをコピー&ペースト(※クリックで拡大)

プレビュー(Mac標準の閲覧ソフト)で範囲指定し、テキストをコピー&ペースト(※クリックで拡大)
マカーの皆様も、コピー&ペーストしたければ、このときくらいはAdobe社のReader使いましょう。
思うに、1冊200円(※350ページ以内で1冊:100円+OCRオプション:100円)でこれだけのことをやってくれるなんて本当に素晴らしい。これをするとなると、紙の本を片目をつぶったりして本の傾きに神経質になりながらある瞬間に迷いを断ち切るかのようにあの不格好な裁断機の取っ手を振り下ろさなくてはならないし、それをScanSnapで紙詰まりに気をつけながらここでもページの傾きに注意してスキャンして、その後OCRソフトに取込んで透明テキストがうまく付かないところを原本と睨めっこしながら文字打ち込みしたりするのを考えると、この価格でこれだけの精度は感動の域に達する。とくに、紙のものをOCRを付けて電子化する、というのは僕が知る限りだが、この電子書籍化の工程で一番しんどい作業だ。OCRソフトの認識率も完璧ではない、というかそんなによくなくて、そのソフトの認識率の悪さを人間が力技で修正していることが本当に多かったりする。だから、本1冊とか2冊だとかを電子化するのに数万円、中には数十万円もかかったりするものだ。それに比べて、本1冊をたった200円でこれだけの精度のOCRを付けて電子化する、というのは極めて安い価格だと思う。
そして、驚くべきことに、各種端末用にデータをチューニングするサービスもある。これは一般会員でもプレミアム会員でも、“無料で”利用できるものだ。

データ容量の比較(上から、元データ、iPhone4用チューニング後データ、kobo用チューニング後データ。「iphone4_」と「kobo_」はチューニングサービスを使うと自動で付くようになっている)
チューニングをすると(OCRとかの文字情報をぶっ飛ばして)サイズを頗る小さくしてくれる。上図のように、スキャン後OCRを付けた「元データ」が53.4MBだったのが、iPhone4用(ファイル名先頭「iphone4_」)は17.6MBに、koboTouch用(ファイル名先頭「kobo_」)は9.6MBに。サイズが小さくなることで、iPhoneだとかkoboTouchだとかでページめくりといった操作でもストレスが緩和される。それに、ページの余白部分をうまいことカットしてくれるから、小さい画面でも文字が見えやすくなる。以前試しに自分で自炊したデータをkoboTouchで見てみたら、ページの余白が広すぎてちっちゃいちっちゃい文字で、拡大しようにも非力省力な実メモリ1GB(データ用も1GB)マシンにはデータが重すぎて動作がモッサリモッサリしてて、これ以上ページめくりなんてできない、読み進めるなんてできないとげんなりした経験を持つ者にとっては非常に嬉しい。一方で、チューニングするとOCRはなくなるのでこれについて不満をもらしている人もいるみたいだけれど、スマートフォンやkoboTouchとかのあのちっさいちっさい画面で電子書籍を読みながら文字検索なんてする人がどれだけいるのだろうか。あれば便利だけれど、それがタッチ操作でのモッサリ感と引き換えになるのなら、OCRは別になくてもよい。
スポンサードリンク
BOOKSCANのサービスには他にも驚くべきことに、ある種のクラウド環境も提供されている。
今回僕が100冊弱頼んで出来上がったデータは5GB以上(6GBに近い)もある。5GBなんて言うと、2TB(2,000GB)のHDDが7,000円前後の時代においては大して大きなデータのようにも思えないが、このデータをクラウド、というか、Web上に保存できるというのはすごくメリットがある。きっと自炊をするようなユーザというのは外付HDDだとかにバックアップをとったりしてデータの保全は万全の状態をつくったりしているだろうし、今流行のDropboxだとかEvernoteだとかのオンラインストレージサービスを使っているだろう。後者のようなオンラインストレージサービスという一つのクラウドサービスは、HDD故障でのデータぶっ飛びの恐怖から解放される(※こんなことがなければ、だけど)。けれど、BOOKSCANの場合「My本棚」というサービスが提供されていて、書籍一覧が物理的な本棚のように表紙や背表紙が表示されるようになっていて非常に見易い。

My本棚(β)
見易さ、というか物理的な本棚の一覧性に似せたユーザインターフェースというのは案外重要だと思っていて、電子書籍が進まない理由の一つ、それも出版業界の供給側の商流だとか既得権益の問題ではなく、ユーザ側が取り入れない理由の一つと思っているが、その壁を和らげてくれるものだと思う。といっても、これは一般会員だとデータ保存期間である3ヶ月程度しか使用できないが、プレミアム会員(月額9,980円)だとこれを“容量無制限で”保存してくれる。このプレミアム会員の月額9,980円という金額は、一般会員の1冊100円、OCRオプション1冊100円、名前変更オプション1冊50円の合計250円が50冊まで無料(一般会員だと12,500円がプレミアム会員だと9,980円/月)で、なおかつ納期の大幅な短縮(一般会員:2ヶ月以上[2012/10/07時点]、プレミアム会員:当日〜1週間以内)があることも含まれていることを考えると断然安い。ただ、月額でずーっと継続利用する程毎月何十冊も電子化したい本がある人というのは、自炊代行業者のサービスを利用している人でも比較的少数だろうから、皆プレミアム会員で自炊したい本を自炊してもらったらプレミアム会員を解約しているようだ。「電子書籍化したい本が毎月50冊は流石にない」僕にとっても割高に感じる。単にデータを保存するという用途なら、Dropbox以外にも、Googleドライブ(5GBまで無料)やMicrosoftのSky Drive(7GBまで無料)、AppleのiCloud(5GBまで無料)だとかを利用すればよくて、これら世界的大企業のサービスのストレージ単価には圧倒的に敵いそうにはない。大体50GB程度の容量で月額2〜8$(年間25〜100$)、100GBでも月額4〜10$(年間50〜100$)と100GB以内なら年間100$程度という相場。

Google Drive 対 Dropbox、SkyDrive、iCloud 詳細比較チャート -engaget Japan-
でも、「My本棚」が使えるオンラインストレージサービスというのは個人的にありがたい。現状の「月額9,980円で容量無制限」とは別に、幾らか容量制限をしてもらって有料課金サービスを提供してくれたらと思う。My本棚は現時点では「β(ベータ)版」の新しいサービスのようだから、これはきっとMy本棚の一覧性(と容量無制限)がプレミアム会員の固定化のためのサービスだと推測するけれど、やっぱり「毎月50冊無料の枠を使い切る」というのは少数派だろうからこういったオンラインストレージサービスがあればとても嬉しい。けれど、それはすごく難しいんだろうなと思う。それは2つの意味で。まず、GoogleやMicrosoft、Appleがこういったオンラインストレージサービスを安く提供できるのは「オンラインストレージサービスが自社の他のサービスの収益に繋がる」からやっているわけで、それがBOOKSCANの場合、それが他の何に繋がるかという点だ。GoogleならWeb検索広告プラットフォームの拡大(Googleの検索をもっと多くの人が使うようになる)、MicrosoftならエンタープライズでのOffice等のソフト利用(Office365とかのWebメールサービスとドキュメントソフトとのシームレスな連携)、AppleならOSと一体の自社のハードウェア販売の拡大(ハード・ソフトの違いも気にしない環境にデータもプラス)、といったような相乗効果が生まれる。BOOKSCANならそれは「自炊代行サービス」になるのだろうが、果たしてオンラインストレージサービスで獲得したユーザが自炊代行サービスを使うようになるだろうか。そして、そもそもBOOKSCANがオンラインストレージというサービスを(切り出して)提供できるのかどうかというのも気になるところ。
BOOKSCANは自炊代行業を切り開いた会社で上述のように「痒いところに手が届く」サービスを提供しているからこういったサービスもきっと考えているんじゃないかと思うが、同時に自分たちを目の敵にする出版業界をはじめとする著作権者にもきちんと配慮している。電子書籍化した裁断された本を返送したりしている会社もあるみたいだが、BOOKSCANは再流通を防ぐために徹底して廃棄処分をしているようだし、電子書籍化したデータを再利用していない。あくまで各個人が購入した本を電子化するサービスを提供しているだけであって、その(電子書籍という)コンテンツを配信しているわけではない。だから、もし仮に「My本棚+オンラインストレージ」の切り出しサービスが月額数百円〜数千円で提供されるとしても、それは「BOOKSCANに自炊代行をお願いした本のみ」になるだろう。その点で、GoogleやMicrosoftやAppleが提供するオンラインストレージサービスが気にする必要のない「(ストレージ上に保存するものが)どんなデータか」をBOOKSCANはきっと気にしなくてはいけないように思う。オンラインストレージサービスを切り出してユーザを獲得して、メインの自炊代行サービスに繋げるといった裾野を広げる展開はやりにくいんじゃないかと思う。「“本の自炊(裁断+スキャン読み込み→電子化)”が伴わないサービスへの課金は問題」みたいなことを既得権益側が言ってきそうだ。でも「月5冊の自炊」とかをちょっとだけ付けたりなんかして何とかできたらと思う。
色々書いたが、BOOKSCANは、すごくコストパフォーマンスの良いサービスだと思う。冒頭に「ちょっと納期が長く感じた」と書いたがそれもこのコストパフォーマンスを考えると文句は言うまい。ただ、「スキャン開始予定日」と「スキャン終了予定日」が同日表記、は期待を抱くユーザがいると思う。この同日表記もきっとデフォルトだろう。タイムリーな納期情報を表示させようとするとそれこそ管理負荷がかかる。現時点[2012/10/07]の一般会員の納期情報を考えると、やっぱり「スキャン開始予定日」と「スキャン終了予定日」が同日なのはやめたほうがいいんじゃないかと思う。「スキャン開始予定日まで2ヶ月」だったら、スキャン開始予定日の1週間前にやっと本を発送できて(※1週間以上先のお届け日の荷物 は物流業者が受け取ってくれないので、1週間前にやっと部屋の荷物が片付く)、スキャンが始まったらきっと早く終わるだろう、と期待していたらそうでもなかった、というのは思ったより長く感じたという人が多い気がする。納期が不明というのはユーザからするといささか不安なものなので、「作業進捗」を開示することで「ちゃんとやっていますよ」というのがわかるようになっている。といっても、この進捗情報を見たところで「どれくらい進んでいるか」「いつ終わるのか」という目処はユーザは立てられない。何か工程フローがあって、それの進捗率を表示しているわけではないからだ。その意味で、ある人にとっては「ちゃんとやってくれている」という気休め程度にはなるだろうが、逆に「んなもん見せるな!」とイライラする人もいるだろう。僕は前者のタイプなので、こういう情報はあったほうが助かるけれど。
こういった(作業)進捗報告をしている会社は自炊代行同業者もやっているかどうかは知らないが、自炊代行業者に関わらず、こういった情報開示をする企業自体少ないように思う。物品の輸送なら(クロネコヤマトとか日本通運とか)、輸送状況の情報開示もリアルタイムな情報更新も当たり前のようにできているが、こういった作業(サービス)の進捗をWebで開示しているというのは珍しいしすごいなと思う。
と、コストパフォーマンスが良い以前に、色々と工夫が見られて感心させられる。とりあえずまだ本があるので僕はプレミアム会員になろうと思う。
8月初旬に前払いで発注、スキャン開始予定は9月初旬、スキャン完了が10月初旬。期待に胸躍らせていた僕としてはこのスキャン開始から完了まで1ヶ月、というのはちょっとばかし長く感じた。「混雑状況・時期により1ヶ月程度大幅に変動する場合がございます。」という注意書きはあったけれど、発注したときに表示される「スキャン開始予定日」と「スキャン終了予定日」が同日だったので、「一旦スキャン作業に入れば集中的にやってくれるのか」と期待してしまった。そして、納品データの出来を見て「早く次のものを送りたい(=部屋をすっきりさせたい)」という願望があったので、ここ1ヶ月間逸るこの気持ちをぐっと我慢するのは少し辛かった。
発注から2ヶ月、ようやく納品データが届いた。早速Webからダウンロードするも、一般会員は1冊ずつ(1ファイルずつ)ダウンロードしなければならない。1冊当たり大体平均50MBくらいあるので、1冊ずつクリックしてダウンロードするとなると、意外と面倒な手間と時間がかかる(プレミアム会員は一括ダウンロードツールが付いてる)。全てダウンロードしてから早速見てみると、OCRもきちんとできていた。

元データのファイル容量(※iPhoneやiPad用の各種チューニングツールを使用する前)
OCRについては、Web上では結構厳しいレビューが散見されたけれど、僕が試したものを比較すると、(PDFを)閲覧するソフトにで認識率に大きな差が出ていた。Mac標準搭載のプレビューとAdobe Readerを“縦書き”文章で試したが、プレビューの場合、範囲選択が使いものにならず(ページ中の文字全部を“一括指定”みたいになる)、結果、コピー&ペーストも暗号文みたいになった。Adobe Reader(※厳密にはAdobe Acrobat Professionalを使用したが範囲指定とコピー&ペーストという機能に差はないだろう)では、きちんと範囲選択ができ、コピー&ペーストもきちんとできた。
※以下、『2011年新聞・テレビ消滅』佐々木 俊尚 著のプロローグページを使って閲覧ソフトでの違いを比較したキャプチャ画面を貼付け。

Adobe Readerでの表示(※厳密にはAdobe Acrobat使用)

プレビュー(Mac標準の閲覧ソフト)での表示

Adobe Readerで範囲指定し、テキストをコピー&ペースト(※クリックで拡大)

プレビュー(Mac標準の閲覧ソフト)で範囲指定し、テキストをコピー&ペースト(※クリックで拡大)
マカーの皆様も、コピー&ペーストしたければ、このときくらいはAdobe社のReader使いましょう。
思うに、1冊200円(※350ページ以内で1冊:100円+OCRオプション:100円)でこれだけのことをやってくれるなんて本当に素晴らしい。これをするとなると、紙の本を片目をつぶったりして本の傾きに神経質になりながらある瞬間に迷いを断ち切るかのようにあの不格好な裁断機の取っ手を振り下ろさなくてはならないし、それをScanSnapで紙詰まりに気をつけながらここでもページの傾きに注意してスキャンして、その後OCRソフトに取込んで透明テキストがうまく付かないところを原本と睨めっこしながら文字打ち込みしたりするのを考えると、この価格でこれだけの精度は感動の域に達する。とくに、紙のものをOCRを付けて電子化する、というのは僕が知る限りだが、この電子書籍化の工程で一番しんどい作業だ。OCRソフトの認識率も完璧ではない、というかそんなによくなくて、そのソフトの認識率の悪さを人間が力技で修正していることが本当に多かったりする。だから、本1冊とか2冊だとかを電子化するのに数万円、中には数十万円もかかったりするものだ。それに比べて、本1冊をたった200円でこれだけの精度のOCRを付けて電子化する、というのは極めて安い価格だと思う。
そして、驚くべきことに、各種端末用にデータをチューニングするサービスもある。これは一般会員でもプレミアム会員でも、“無料で”利用できるものだ。

データ容量の比較(上から、元データ、iPhone4用チューニング後データ、kobo用チューニング後データ。「iphone4_」と「kobo_」はチューニングサービスを使うと自動で付くようになっている)
チューニングをすると(OCRとかの文字情報をぶっ飛ばして)サイズを頗る小さくしてくれる。上図のように、スキャン後OCRを付けた「元データ」が53.4MBだったのが、iPhone4用(ファイル名先頭「iphone4_」)は17.6MBに、koboTouch用(ファイル名先頭「kobo_」)は9.6MBに。サイズが小さくなることで、iPhoneだとかkoboTouchだとかでページめくりといった操作でもストレスが緩和される。それに、ページの余白部分をうまいことカットしてくれるから、小さい画面でも文字が見えやすくなる。以前試しに自分で自炊したデータをkoboTouchで見てみたら、ページの余白が広すぎてちっちゃいちっちゃい文字で、拡大しようにも
スポンサードリンク
BOOKSCANのサービスには他にも驚くべきことに、ある種のクラウド環境も提供されている。
今回僕が100冊弱頼んで出来上がったデータは5GB以上(6GBに近い)もある。5GBなんて言うと、2TB(2,000GB)のHDDが7,000円前後の時代においては大して大きなデータのようにも思えないが、このデータをクラウド、というか、Web上に保存できるというのはすごくメリットがある。きっと自炊をするようなユーザというのは外付HDDだとかにバックアップをとったりしてデータの保全は万全の状態をつくったりしているだろうし、今流行のDropboxだとかEvernoteだとかのオンラインストレージサービスを使っているだろう。後者のようなオンラインストレージサービスという一つのクラウドサービスは、HDD故障でのデータぶっ飛びの恐怖から解放される(※こんなことがなければ、だけど)。けれど、BOOKSCANの場合「My本棚」というサービスが提供されていて、書籍一覧が物理的な本棚のように表紙や背表紙が表示されるようになっていて非常に見易い。

My本棚(β)
見易さ、というか物理的な本棚の一覧性に似せたユーザインターフェースというのは案外重要だと思っていて、電子書籍が進まない理由の一つ、それも出版業界の供給側の商流だとか既得権益の問題ではなく、ユーザ側が取り入れない理由の一つと思っているが、その壁を和らげてくれるものだと思う。といっても、これは一般会員だとデータ保存期間である3ヶ月程度しか使用できないが、プレミアム会員(月額9,980円)だとこれを“容量無制限で”保存してくれる。このプレミアム会員の月額9,980円という金額は、一般会員の1冊100円、OCRオプション1冊100円、名前変更オプション1冊50円の合計250円が50冊まで無料(一般会員だと12,500円がプレミアム会員だと9,980円/月)で、なおかつ納期の大幅な短縮(一般会員:2ヶ月以上[2012/10/07時点]、プレミアム会員:当日〜1週間以内)があることも含まれていることを考えると断然安い。ただ、月額でずーっと継続利用する程毎月何十冊も電子化したい本がある人というのは、自炊代行業者のサービスを利用している人でも比較的少数だろうから、皆プレミアム会員で自炊したい本を自炊してもらったらプレミアム会員を解約しているようだ。「電子書籍化したい本が毎月50冊は流石にない」僕にとっても割高に感じる。単にデータを保存するという用途なら、Dropbox以外にも、Googleドライブ(5GBまで無料)やMicrosoftのSky Drive(7GBまで無料)、AppleのiCloud(5GBまで無料)だとかを利用すればよくて、これら世界的大企業のサービスのストレージ単価には圧倒的に敵いそうにはない。大体50GB程度の容量で月額2〜8$(年間25〜100$)、100GBでも月額4〜10$(年間50〜100$)と100GB以内なら年間100$程度という相場。

Google Drive 対 Dropbox、SkyDrive、iCloud 詳細比較チャート -engaget Japan-
でも、「My本棚」が使えるオンラインストレージサービスというのは個人的にありがたい。現状の「月額9,980円で容量無制限」とは別に、幾らか容量制限をしてもらって有料課金サービスを提供してくれたらと思う。My本棚は現時点では「β(ベータ)版」の新しいサービスのようだから、これはきっとMy本棚の一覧性(と容量無制限)がプレミアム会員の固定化のためのサービスだと推測するけれど、やっぱり「毎月50冊無料の枠を使い切る」というのは少数派だろうからこういったオンラインストレージサービスがあればとても嬉しい。けれど、それはすごく難しいんだろうなと思う。それは2つの意味で。まず、GoogleやMicrosoft、Appleがこういったオンラインストレージサービスを安く提供できるのは「オンラインストレージサービスが自社の他のサービスの収益に繋がる」からやっているわけで、それがBOOKSCANの場合、それが他の何に繋がるかという点だ。GoogleならWeb検索広告プラットフォームの拡大(Googleの検索をもっと多くの人が使うようになる)、MicrosoftならエンタープライズでのOffice等のソフト利用(Office365とかのWebメールサービスとドキュメントソフトとのシームレスな連携)、AppleならOSと一体の自社のハードウェア販売の拡大(ハード・ソフトの違いも気にしない環境にデータもプラス)、といったような相乗効果が生まれる。BOOKSCANならそれは「自炊代行サービス」になるのだろうが、果たしてオンラインストレージサービスで獲得したユーザが自炊代行サービスを使うようになるだろうか。そして、そもそもBOOKSCANがオンラインストレージというサービスを(切り出して)提供できるのかどうかというのも気になるところ。
BOOKSCANは自炊代行業を切り開いた会社で上述のように「痒いところに手が届く」サービスを提供しているからこういったサービスもきっと考えているんじゃないかと思うが、同時に自分たちを目の敵にする出版業界をはじめとする著作権者にもきちんと配慮している。電子書籍化した裁断された本を返送したりしている会社もあるみたいだが、BOOKSCANは再流通を防ぐために徹底して廃棄処分をしているようだし、電子書籍化したデータを再利用していない。あくまで各個人が購入した本を電子化するサービスを提供しているだけであって、その(電子書籍という)コンテンツを配信しているわけではない。だから、もし仮に「My本棚+オンラインストレージ」の切り出しサービスが月額数百円〜数千円で提供されるとしても、それは「BOOKSCANに自炊代行をお願いした本のみ」になるだろう。その点で、GoogleやMicrosoftやAppleが提供するオンラインストレージサービスが気にする必要のない「(ストレージ上に保存するものが)どんなデータか」をBOOKSCANはきっと気にしなくてはいけないように思う。オンラインストレージサービスを切り出してユーザを獲得して、メインの自炊代行サービスに繋げるといった裾野を広げる展開はやりにくいんじゃないかと思う。「“本の自炊(裁断+スキャン読み込み→電子化)”が伴わないサービスへの課金は問題」みたいなことを既得権益側が言ってきそうだ。でも「月5冊の自炊」とかをちょっとだけ付けたりなんかして何とかできたらと思う。
色々書いたが、BOOKSCANは、すごくコストパフォーマンスの良いサービスだと思う。冒頭に「ちょっと納期が長く感じた」と書いたがそれもこのコストパフォーマンスを考えると文句は言うまい。ただ、「スキャン開始予定日」と「スキャン終了予定日」が同日表記、は期待を抱くユーザがいると思う。この同日表記もきっとデフォルトだろう。タイムリーな納期情報を表示させようとするとそれこそ管理負荷がかかる。現時点[2012/10/07]の一般会員の納期情報を考えると、やっぱり「スキャン開始予定日」と「スキャン終了予定日」が同日なのはやめたほうがいいんじゃないかと思う。「スキャン開始予定日まで2ヶ月」だったら、スキャン開始予定日の1週間前にやっと本を発送できて(※1週間以上先のお届け日の荷物 は物流業者が受け取ってくれないので、1週間前にやっと部屋の荷物が片付く)、スキャンが始まったらきっと早く終わるだろう、と期待していたらそうでもなかった、というのは思ったより長く感じたという人が多い気がする。納期が不明というのはユーザからするといささか不安なものなので、「作業進捗」を開示することで「ちゃんとやっていますよ」というのがわかるようになっている。といっても、この進捗情報を見たところで「どれくらい進んでいるか」「いつ終わるのか」という目処はユーザは立てられない。何か工程フローがあって、それの進捗率を表示しているわけではないからだ。その意味で、ある人にとっては「ちゃんとやってくれている」という気休め程度にはなるだろうが、逆に「んなもん見せるな!」とイライラする人もいるだろう。僕は前者のタイプなので、こういう情報はあったほうが助かるけれど。
こういった(作業)進捗報告をしている会社は自炊代行同業者もやっているかどうかは知らないが、自炊代行業者に関わらず、こういった情報開示をする企業自体少ないように思う。物品の輸送なら(クロネコヤマトとか日本通運とか)、輸送状況の情報開示もリアルタイムな情報更新も当たり前のようにできているが、こういった作業(サービス)の進捗をWebで開示しているというのは珍しいしすごいなと思う。
と、コストパフォーマンスが良い以前に、色々と工夫が見られて感心させられる。とりあえずまだ本があるので僕はプレミアム会員になろうと思う。
スポンサードリンク
まだ、本を送るのが2ヶ月も前であるにもかかわらず、です。
電話番号も明記していませんが、電話番号も頑なに知らせることを拒んで、応対はしません。
業務効率化のため、だそうです。
安心できる業者ではありません、気をつけましょう。