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ラボベンチに腰を下ろして、10 MHzクロックで何らかの奇妙な動作をデバッグしています。オシロスコープの電源を入れ、目的の位置にプローブを当て、自動スケールボタンを押します。そうすると、以下のような波形が表示されます。
図1
図1:自動スケール後の10 MHz方形波

そして、1秒に1,000万ものクロックサイクルがあることに打ちのめされます!一体どうして、このようなクリーンな信号波形をオシロスコープは正確に表示できるのでしょうか?どのようにして、クロックの立ち上がりエッジの中心が完全に画面の中央になるように調整しているのでしょうか?その答えがトリガシステムです。

トリガシステムは、リアルタイムオシロスコープで最もよく使用されていながら最も理解されていないサブシステムです。この記事では、少しだけ本質を明らかにして、トリガシステムが行っていること、その仕組み、それに注意を払わなければならない理由について説明したいと思います。


何を行っているのか

トリガシステムの唯一の役割は、オシロスコープの他の部分に、何が重要なデータなのかを知らせることです。トリガシステムは、収集システムが収集を開始するタイミングを決定します。これによって、画面に何を表示するのか、測定を実行するためにどのデータを使用できるのかが最初に決定されます。このような決定は、ユーザーの入力に基づいて、非常に簡単な条件セットか非常に複雑な条件セットのどちらかで行われます。ここで、上記の10 MHzの方形波について検証してみましょう。上図の信号が画面上の適切な位置に非常にクリアに表示される理由は、トリガが、チャネル1の立ち上がりエッジを検出できるように適切に設定されているからです。
図2
図2:自動スケールによって設定されたトリガセットアップ

最初に自動スケールを使用したことを思い出してください。これは、入力信号に対して適切なトリガソースとしきい値を選択してくれる便利な機能です。しかし、適切なトリガ設定がされていない場合、この信号はどのように見えるのでしょうか?

図3
図3:自動トリガによる10 MHz方形波。現象の変化が適切に表示されるように、チャネル1の無限残光表示をオンにしています

上の図3で、私はトリガ条件を変更して、チャネル2のエッジを検出するようにしました(この時、チャネル2には信号が接続されていません)。トリガ設定ダイアログ内の「掃引(Sweep)」セクションで自動トリガ機能がオンになっていて、これにより通常のタイムインターバルで収集が自動的に開始され、画面上で黄色く塗りつぶされた部分の信号トレースが表示されます。この画像では、信号自体は信号トレースに重なった状態でクリアに表示されています。しかし、残念ながら、これは、単なる加工されたスクリーンショットで、私が画面キャプチャーを取得した瞬間に信号が偶然並んだところが表示されたものです。実際には、自動トリガによる収集が適しているのはトリガ条件を設定するために使用する関連DCパラメータを特定する場合だけで、その他の場合にはほとんど使用できません。自動トリガ機能がオフの場合は、適切なトリガ設定を行わない限り、オシロスコープはまったく収集できないということに注意が必要です。

図4
図4:自動トリガ機能がオフで適切なトリガ設定もない場合、オシロスコープはまったく収集できません

トリガシステムは、画面上のt=0.0 sに常にトリガポイント(トリガ条件に設定されているすべての条件が適合する瞬間)を設定します。後ほど、今まで説明してきた単純な立ち上がりエッジトリガとは別の、高度なトリガ設定を使用して、発生頻度の低い、検出が困難なイベントを捕捉できる方法を説明します。


仕組み

多くのリアルタイムオシロスコープはアナログ・トリガ・システムを備えています。このシステムは実際にはアナログ回路とデジタルカウンターを寄せ集めたものですが、オシロスコープのプリアンプのアナログコンパレーターから供給される入力に依存しています。オシロスコープの中にはデジタルトリガ機能を備えているものもあり、この場合はトリガシステムが完全にデジタル方式で、ADC出力から生じる整数データを使用しています。これらのシステムは両方とも同じ機能を実行して、時間内の与えられた瞬間にすべての設定トリガ条件が適合しているかどうかを評価しています。完全デジタル方式のトリガシステムはかなり希なので、今回はアナログ・トリガ・システムに焦点を当てます。
図5
図5:一般的な4チャネルDSOのフロントエンドとトリガシステム

上の図5に、今回の話題に関する4チャネルDSO(デジタル・ストレージ・オシロスコープ)の一部とアナログフロントエンド、トリガシステムの一般的な図を示します。トリガシステムはコンパレーターからの入力をすべてのアナログチャネルで取得して、1つの出力を供給します。わかりやすいように、1つのアナログチャネルを用いた簡単な図で説明します。


図6
図6:一般的なDSOのフロントエンドとトリガシステム

図6は簡略化した図で、図5に図示されたものと同じシステムの1チャネルだけを示したものです。信号がチャネル入力に接続されると、信号が最終的に画面に到達する前に一連の変換が行われます。

- 最初に、信号は必要に応じてプリアンプによって適切に振幅調整/オフセットされます。プリアンプ出力はADCに送られデジタイズされます。

- トリガコンパレーターはプリアンプ出力を検出し、それが設定されているしきい値を超えた場合にオンになります。このしきい値はユーザー入力に基づいて設定されます。あるいは、自動スケールのような便利なルーチンによって設定されることもあります。

- トリガシステムはシステム内のすべてのトリガコンパレーター出力を確認し、与えられた条件セットをモニターできるようにそれらを結合します。これらの条件は非常に簡単な場合(例:チャネル1の立ち上がりエッジ)と、かなり複雑な場合(例:チャネル3のパルス幅が2.4 nsより広く、かつ、チャネル1パターンがHIになる前、かつ、チャネル2がLOかつチャネル4がLO、かつ、持続時間が30.0 ns~50.0 nsの間)があります。

- トリガシステムによって、指定されたトリガにすべての条件が適合していることが確認されると、出力にパルスが送信されます。この信号はシステムトリガ(System Trigger)または省略して"SysTrig"と呼ばれています。システムトリガは収集システムとタイムベース補間器と呼ばれるサブシステムによってモニターされます。  

- 収集システムによってシステムトリガのパルスが検出されると、デジタイズが開始され、処理、保存、測定、最終的なデータ表示が行われます。このプロセス全体を一般的に「収集」と呼んでいます。

- メモリに保存された収集データ(波形)が画面に表示できるようになる前に、それらがどのように水平軸に配置されるのかを知る必要があります。ここで、タイムベース補間器の登場です。補間器は、収集システムとまったく同じようにシステムトリガをモニターしています。システムトリガがHIになった時、トリガが発生した瞬間に一致する波形メモリアドレスを特定するのが補間器の役割です。この情報が収集システムに伝達されると、トリガポイントが完全にt=0.0 sの位置に配置され、画面上で期待どおりの波形が得られます!


注意を払わなければならない理由

オシロスコープサブシステム内部の動作が興味深いということにお気付きの方もいると思いますが、公平に見て、多くの方はほとんどそれに注意を払っていないと言えます。「仕組み」のセクションをすべて飛ばしてしまったとしても焦らないでください。最後にテストはありません。最も肝心なのは、トリガシステムに注意を払わなければならないことと、それを理解するための時間をとることです。なぜならば、それにより、困難な問題をデバッグでき、かなりの時間とフラストレーションを回避できるからです。
オシロスコープの基本的な使用方法、すなわち、デフォルト設定と自動スケールボタンを押す方法によって、信号について多少のことがわかります。これは手始めには簡単で便利な方法です。しかし、発生頻度の低いイベントを捕捉するのが目的の場合、あるいは、ラント、グリッチ、セットアップ/ホールド違反のような一般的な問題をデバッグするケースの多くの場合には、トリガシステムが強力なツールになります。


高度なトリガモード

この記事の最初に述べたエッジ・トリガ・モードとは別に、ほとんどのリアルタイムオシロスコープは、一般的な問題を検出するためにデザインされた高度なトリガモードを多く備えています。このようなモードとトリガ掃引(別名:自動トリガオフ)とを組み合わせて使用すれば、目的の動作だけを確実に収集/表示できます。例として、方形波のラントを検出してみましょう。信号を接続し、信頼できる自動スケールボタンを使用すると、表示されるのは方形波だけでラントは確認できません。
図7
図7:ラントの検出にはまったく不向きです…

図7からわかることは、信号にラントが存在するのではないかと疑っているのにエッジトリガでそれを検出するのは困難だということです。おそらく、少し縮小すれば表示できるのではないでしょうか?

図8
図8:水平方向に縮小してエッジトリガでラントを検出

図8に見られるように、水平方向に縮小すると何か怪しい現象が起こっていることはわかりますが、まだ完全にクリアな表示ではありません。ここで、キーサイトのInfiniium Sシリーズ オシロスコープのラント・トリガ・モードを使用して、何が検出できるのかを確認してみましょう。

図9
図9:Infiniium Sシリーズ オシロスコープのラント・トリガ・モード・セットアップ

図10
図10:ラント・トリガ・モードによるラントの検出

ラントがありました。図10の波形はクリアで安定していて、目的のイベントである間欠的なラントがちょうどt=0.0 sの位置にあります!これがオシロスコープのトリガシステムを学習する価値です。これにより、目的のイベントを、すなわち、目的のイベントだけを非常に短時間で検出することができます。この例ではラントの検出に焦点を当てましたが、グリッチ、セットアップ/ホールド違反、複数チャネルに渡る特定のデータ、クロックエッジに関連するデータパターン、エッジ遷移時間なども、適切なトリガモードを使用して、同じような方法で実証できます。


高度なトリガ機能

前述のラントモードのような高度なトリガモードとは別に、多くのオシロスコープはトリガモードと組み合わせて使用できる機能を備えています。このような機能によって、トリガが発生した時にオシロスコープに表示したい対象をさらに微調整したり、オシロスコープが自動的に行う動作を指定したりできます。

図11
図11:Infiniium Sシリーズ オシロスコープのトリガ条件ダイアログ

図12
図12:Infiniium Sシリーズ オシロスコープで使用できるトリガ動作

上の図11は、トリガ条件の一般的なオプションをいくつか示しています。図12は、トリガが発生したときにオシロスコープに自動的に実行してほしい動作を設定するものです。私が個人的に気に入っているのは「トリガ時のメール送信」機能です。非常に発生頻度の低いイベントがある場合でも、トリガを設定してそのまま週末は休んでも問題ありません。戻ってきて電子メールを開けば、必要なすべてのデータを確認できます。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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広帯域RF測定は変化していて、それに伴い、信号の意味を理解するのに必要なツールも変化しています。今日のレーダーシステムでは高い追跡分解能が要求され、通信システムでは高いスループットが要求されます。このような要求に対応するには、プロトタイプ/製品ユニットを検証するために、関連する信号に対する広帯域の変調手法が必要になります。

510 MHzという瞬時帯域幅が、シグナル/スペクトラム・アナライザの標準だった時代には、このような変調帯域幅に対応できましたが、その時代は過ぎ去りました。システムの中には、1 GHzを超え、2 GHzまで達する方式もあります。詳細な知見が得られる高品質の広帯域RF測定を実現するには、異なる手法が必要になります。

異なる手法とは何でしょうか?1つは、広い帯域幅のリアルタイムオシロスコープを使用する手法です。デジタイザやオシロスコープは、スタンドアロンであろうとオシロスコープの前段にダウンコンバーターを追加した場合であろうと、キャリア/変調信号を直接サンプリングできる十分な帯域幅とサンプリングレートを備えています。

コツは、どのような場合に何を使うのかを把握することです。広帯域測定用のオプションを検討するための1つの手段として、図に選択肢をプロットする方法があります。垂直軸はソリューションの解析帯域幅を表し、水平軸は測定できるキャリア周波数を表します。グラフを書く心配はご無用です。以下にご用意しました。

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図1. 信号キャリア周波数とスペクトラム帯域に対応したツール


ご覧のように、従来のシグナル・アナライザは最大1 GHzの解析帯域幅を備え、最大50 GHz前後のキャリア周波数に対応できます。別の選択肢としてミッドレンジのオシロスコープがあります。これは8 GHzのレンジで8 GHz近くのキャリア周波数の信号を測定でき、同時に最大8 GHzの非常に広い変調帯域幅も備えています。キャリア/変調スペクトラムがオシロスコープの帯域幅の範囲内に入っていれば、意味のある測定が可能です。 

しかし、これだけでは十分ではありません。電子戦、レーダー、監視を含む広帯域の航空宇宙/防衛アプリケーションでは、対象の信号のキャリア周波数が8 GHzを上回る場合があります。ここで、高性能オシロスコープの出番です。このようなオシロスコープシリーズは、最大33 GHzまたは63 GHzの帯域幅を備えています。当然、価格も高くなります。しかし、周波数応答のフラットネスや低ノイズのような領域で、優れた性能を発揮します。別の方法として、ミッドレンジのオシロスコープの前段にダウンコンバーターを追加する方法があります。ほとんど費用をかけずに広帯域変調された高いキャリア周波数の信号に対応できます。しかし、振幅/位相リニアリティーに何らかのトレードオフが存在します。

ダウンコンバーターを使用する第1の手段として、ミッドレンジのオシロスコープの前段に標準シグナル・アナライザを追加して、シグナル・アナライザのIFダウンコンバート経路を使用する方法があります。通常、システム全体の振幅/位相応答を全周波数に渡ってフラットにするための校正が必要になります。このようなソリューションは広範囲のキャリア周波数に対応でき、一般的に、最大50 GHzまで対応できます。

ダウンコンバーターを使用するもう1つのオプションは、ミッドレンジのオシロスコープの前段に、安価な高調波ミキサーを追加する方法です。これは「バンド別」のソリューションになります。非常に高いキャリア周波数を解析できますが、特定の高調波ミキサーが対応できるのは、通常、特定の「バンド」のキャリア周波数です。この方法は、このような特長によって、特に、5G、Wigig、車載レーダーのようなアプリケーションに便利なものになっています。

広帯域リアルタイムオシロスコープの代表的なRF性能

では、オシロスコープで、あるいは、それにベクトル・シグナル・アナライザ(VSA)ソフトウェアを組み合わせてFFTや広帯域RF測定を実行する場合は、事前に何を把握しておく必要があるのでしょうか?測定結果に主に影響を与える可能性があるのはRF特性だということを把握しておく必要があります。ですから、これを最初に検証する必要があります。

今日では、周波数レンジ全体で、内蔵の振幅/位相補正機能により優れた絶対振幅確度を実現できる、リニア位相からのずれが小さいオシロスコープを見つけられます。これが高品質のRF測定に役立ちます。このようなオシロスコープは、さらに、約-160 dBm/Hzという優れたノイズ密度、広いダイナミックレンジ、高いS/N比も備えています。次に、それらの広い帯域幅がどのように役立つのかを考えてみましょう。

それはどのように役立つのでしょうか?大信号に隣接した非常に小さな振幅の広帯域信号をその時点で確認できます。また、識別された小さな振幅の信号を測定するために、オシロスコープの感度を上げることもできます。このようなオシロスコープのタイムベース回路は、近傍位相雑音も良く、これにより大容量メモリトレースのジッタが低くなります。詳細については、表1の高性能33 GHzオシロスコープのRF特性を参照してください。


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表1. 広帯域オシロスコープの代表的なRF性能

エンベロープ/周波数/位相チャープの広帯域パルスドRFタイムドメイン測定

以上で、どのように広帯域オシロスコープを使用できるのかがわかりました。では、どうすれば、何も追加せずに広帯域パルスドRF信号のタイムドメイン測定/解析に対応できるのかを説明しましょう。使用するオシロスコープの選択は、キャリア/変調信号に含まれる最大周波数成分に依存します。例として、1 μs幅のパルスが100 μs間隔で繰り返される被試験信号を考えてみます。さらに、この信号のRFキャリア周波数は15 GHzで、リニアFMチャープは2 GHz幅であるとします。

図2は、1つのRFパルスのさまざまな測定値を示したものです。パルス全体に渡るエンベロープパラメータや周波数チャープなどが表示されています。パルスに対する安定したトリガを実現するためにトリガ「ホールドオフ」を使用しています。ホールドオフは1 μsのRFパルス幅よりもわずかに長い値に設定されています。


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図2. 1 μs幅、15 GHzキャリア、2 GHz幅のリニアFMチャープのRFパルスを33 GHzのオシロスコープでタイムドメイン測定した表示

振幅測定にはエンベロープ演算機能を使用しました。すると、パルス測定がRFパルスエンベロープ表示の真上に表示されます。周波数測定はRFパルスの真上(エンベロープの真上ではなく)に表示されます。測定トレンド演算機能はこの周波数測定を元に定義します。次に、スムージング演算機能を測定トレンドに対して実行します。その結果として、リニアFMチャープ変調のリニアランプ表示が表示されます。これも図2に表示されています。対象となる周波数スパン全体に渡るオシロスコープの振幅リニアリティーが、エンベロープ測定の品質に直接影響を与えます。影響を確認するために、33 GHz帯域幅のオシロスコープの周波数全体の振幅プロットを図3に示します。


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図3. 周波数全体に渡る、4つの33 GHzチャネルの代表的な振幅リニアリティー


スペクトラムの広帯域パルスドRFゲーティッドFFT測定

FFT振幅演算機能を方形ウィンドウを用いて定義すれば、広帯域のFFTを実行できます。次にタイミングゲート演算機能を使用して、タイムゲーティッドFFTを作成します。タイムゲーティッド演算機能を定義した後で、タイムゲート範囲内のタイムレコードから計算されるFFT演算機能を定義できます(図4参照)。


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図4. 通常FFT/タイムゲーティッドFFTの表示と、RFパルスの開始でタイムゲーティングした表示


オシロスコープとVSAソフトウェアによる広帯域パルスドRFタイム/周波数ドメイン測定

まだ、これですべてではありません。オシロスコープで捕捉した信号をVSAソフトウェアにインポートして、広帯域オシロスコープで実行したRF/FFT測定をさらに拡張することができます。VSAソフトウェアを使用するいくつかの利点を以下に示します。

  • 豊富な内蔵RF測定
  • バンドパスフィルターによるオシロスコープ入力サンプルのフィルタリング、ノイズを削減して高速に計算を行うためのFFT前のデシメートを行える機能
  • QAM16/FM復調などの、さまざまなデジタル/アナログ復調オプション
  • 処理利得によるノイズの削減により、パルスのタイムドメインベースバンドを表示可能
  • 復調器により、パルス全体の周波数/位相シフトが可能

オシロスコープの捕捉データをVSAソフトウェアにインポートすれば、これをデジタル処理でI/Qベースバンドデータにダウンコンバートして、バンドパスフィルターでフィルタリングし、その後、リサンプリングできます。これにより、測定ノイズがかなり減少します。本質的に、この処理とは、信号の中心周波数に「同調」して、変調を解析したい信号へ「ズーム」することです。これは「処理利得」とも呼ばれます。

この例では、関連ノイズを伴う元々の8 GHz測定を500 MHz測定まで狭帯域化し、3.7 GHzのキャリアを中心にして、信号復調幅よりもわずかに広い瞬時測定帯域幅で測定しています。これは次の式で表されるS/N比の向上に相当します。

10log*(オシロスコープのBW/スパン)=10log*(8E+09/500E+6)=12 dB

S/N比は10log*(オシロスコープのBW/スパン)だけ向上します。

処理利得を利用し、これにVSAソフトウェアのログ振幅スケールを使用できる機能を組み合わせて、さらにアベレージングを使用すれば、図5のように50 dB低いパルスを確認することができるようになります。これはオシロスコープで8 GHz帯域幅測定を実行した時にはディスプレイに表示されなかったものです。


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図5. VSAソフトウェアに表示された50 dB低いパルス。中心周波数3.7 GHz、スパン500 MHzに設定


対象が長時間になる捕捉と統計的なパルス解析の秘訣

オシロスコープで広帯域RF信号をサンプリングするとき、キャリア/変調信号を正確に捕捉するには十分な速度でサンプリングしなければなりません。多くの場合、非常に高速なサンプリングレートが必要になります。通常のリアルタイム・サンプリング・モードの場合、オシロスコープのメモリでは長時間の捕捉に対応できません。

しかし、別の方法があります。オシロスコープのセグメントメモリです。これを使用すれば、一般的なパルスドRFレーダー信号などのデューティーサイクルの短い信号がある場合に、対象となる有効な時間を大幅に増やすことができます。オシロスコープのメモリは、時間幅が一定の小さいセグメントに分割されます。このときの時間幅には、幅が最も広いRFパルスの幅よりも少し広めの値を選択します。オシロスコープによってイベント(例えばRFパルスの開始など)でトリガがかかると、1つのRFパルスが1つのセグメントメモリに保存されます。その後、オシロスコープはデータ捕捉を停止し、トリガをリアームして次のRFパルスを待ちます。2番目のRFパルスは2番目のセグメントメモリに保存されます。このプロセスを、オシロスコープのすべてのセグメントメモリが使用されるまで続けます。

最新のパルス解析ソフトウェアでオシロスコープのセグメントメモリを利用できます。また、ソフトウェアはパルスドRF信号向けに内蔵測定を提供しています。図6に、セグメントメモリに保存された多数のRFパルスを示します。パルス解析ソフトウェアによるパルスパラメータ測定も同時に行われています。ここでは、全パルスの1 GHzのリニアFMチャープを最適かつ理想的なリニアランプと比較し、関連する位相シフトを理想的な放物線と比較しています。周波数/位相の測定値と基準値の差が、トレースSの周波数とトレースJの位相にそれぞれ拡大表示されています。



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図6. オシロスコープのセグメントメモリに保存された測定に基づく、パルス解析ソフトウェアの計算

まとめ

シグナル/スペクトラム・アナライザの帯域幅制限により、設計者は、デジタイザやオシロスコープを使用する必要に迫られます。その際にタウンコンバーターを追加する場合もあります。エンベロープ、測定トレンド、FFTなどの演算機能のすべては、対象システムの動作/問題を理解するのに役立つことが実証されています。オシロスコープとVSAソフトウェアを組み合わせれば高度なRF測定スイートを作成して、復調、S/N比拡張タイムドメイン表示、統計RFパルス解析などの測定を実行できます。もちろん、ダイナミックレンジおよびS/N比と、使用できる瞬時帯域幅にはトレードオフがあります。それでも、多くの有用な広帯域測定を利用すれば、プロトタイプ/製品ユニットを検証できるのです。 


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アメリカの都会の流行語でS/N比(SNR)と言った場合、これはすごく簡単なコンセプトで、必要な情報と不要な情報の比を表します。皆さんの誰もが、S/N比が期待ほど高くない人をご存知でしょう。残念なことに、そのような人のS/N比を向上させられるような技術はまだありません。

その点、RF信号ではこのようなことはありません。私たちは「処理利得」と呼ばれるものを使用して、広帯域オシロスコープベースのRF測定のS/N比を向上させることができます。デジタル・ダウン・コンバートにより、特定の測定のノイズレベルを低下させて、大信号に隣接した小さなパルスドRF信号を確認できます。これは、測定がパルス全体のRFパルスエンベロープ特性であろうと周波数であろうと位相シフトであろうと可能です。

パルスドRF捕捉のダイナミックレンジの拡大

では、これはどのような仕組みなのでしょうか?トリックはベクトル信号解析(VSA)ソフトウェアの追加にあります。VSAとオシロスコープを組み合わせればS/N比を向上できます。最初にVSAが捕捉信号をベースバンドI/Qにダウンコンバートします。次にVSAは収集されたオシロスコープデータをバンドパスフィルタリングし、最後に低いサンプリングレートでデータをリサンプリングします。この結果として、低ノイズかつ広いダイナミックレンジの高いS/N比が得られるのです。

例を見てみましょう。8 GHzの広帯域オシロスコープでパルス列を捕捉します。このパルス列は、大きなパルスの直後に、最初のパルスよりも50 dB低い小さなパルスが続くものです。小さなパルスのパワーは最初のパルスの1/100,000で、電圧は約1/316(100,000の平方根)になっています。この2つのパルスシーケンスが繰り返されます。

大きなパルスは+6 dBmのパワーレベル(約1.4 mW)で、すなわち、ピーク電圧は50 Ωで633 mV前後です。これは-4 dBVpk(20log 0.633)として表示されます。また、これは、50 Ωで1,266 mVppの信号に相当します。

逆に、小さいパルスは、電圧が1/316になり、たった4 mVpp(-44 dBm、-54 dBVpk)です。

VSAソフトウェアは、オシロスコープのフロントエンドの感度も制御します。これが+6 dBm(633 mVpk)に設定されています。これは、オシロスコープの垂直レンジの1,266 mVに相当します。垂直レンジは8個に分割されているので、約160 mV/divの設定に相当します。

このような約160 mV/divの設定で8 GHzのフル帯域幅を使用した場合、8 GHz帯域幅のオシロスコープの広帯域RMSノイズは5 mV前後になります。これはデータシートのノイズチャートを補間することにより得られます(表1参照)。5 mVのノイズは概算で、RMSノイズ(ガウシアンノイズと仮定)の3倍のピークツーピークノイズに換算されます。つまり、表示されるのは15 mVのピークツーピークノイズです。
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表1. 8 GHz帯域幅オシロスコープのさまざまなV/divに対するRMSノイズレベル

小さなパルス(4 mVpp)は、測定のノイズ(15 mVpp)によってマスクされてしまいます。(声の大きい人によって、柔らかな物腰の同僚の声が簡単に聞こえなくなるのと同じです。)フル帯域幅8 GHz、リニアスケール、アベレージングなしでオシロスコープを使用して小さなパルスを測定した場合、図1のように十分に識別できません。
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図1.  8 GHz帯域幅のオシロスコープによる、+6 dBmのパルスとそれに隣接した50 dB低いパルスの捕捉(2番目のパルスは確認できません)

リアルタイム捕捉されたRF信号の解析ソフトウェアへのインポートとデジタル・ダウン・コンバート

基本的なパルスドRF測定は元来、広帯域オシロスコープで実行できます。直接サンプリングされた信号の測定が必要な場合も確かにあります。しかし、これは、そのような場合とは違います。代わりに、外部信号処理/解析を捕捉信号に対して行うことで得られる利点を探してみましょう。例えば、デジタル・ダウン・コンバートにより、広いレンジのRFパルス測定を高い確度で実行できます。これは、処理利得を使用して、存在するノイズを低下させられるからです。以下で詳細に説明します。

図2は、デジタル・ダウン・コンバージョンの基本処理を示しています。.  デジタル信号処理によって、オシロスコープのサンプリングデータは周波数fcのI/Q発振器の正弦波と余弦波で乗算されます。fcには、一般的に、対象信号の中心周波数が選択されます。事実上、入力信号の周波数に「同調」していると言えます。この処理により、時間サンプルが実数と虚数のペアに変換され、入力信号の動作を完全に表現できるようになります。ノイズを低減するために、これらのサンプルをローパスフィルターでフィルタリングし、低いレートでリサンプリングして、データセットのサイズを縮小し、後段でデータのFFT処理ができるようにします。結果として得られるデジタル・ダウン・コンバート済みのサンプルをメモリに保存して、これを別の処理に使用します。
図2. オシロスコープで捕捉されたサンプリングデータのVSAソフトウェアへのデジタル・ダウン・コンバート

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図2. オシロスコープで捕捉されたサンプリングデータのVSAソフトウェアへのデジタル・ダウン・コンバート

いくつかの重要な復調情報がこのデジタル・ダウン・コンバート処理から得られます。最初に、デジタル局部発振器の周波数Fcが変調信号のキャリア周波数に等しい時に何が起きるのかを考えてみましょう。デジタルフィルターの出力は実部I(t)と虚部Q(t)から構成されていて、これにはキャリア信号の変調を表すタイムドメイン波形が含まれています。

計算式を知りたいでしょうか?以下が捕捉された入力信号を表す式です。

=  A(t) * Cos[2fct +(t)]

ここで、振幅変調は以下の式で表されます。
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ここで、位相変調は以下の式で表されます。
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振幅フォーマットでI-Q結果を表示すれば、振幅変調の表示が得られます。位相フォーマットでI-Q結果を表示すれば、位相変調の表示が得られます。以下のように位相変調から周波数変調を導くことができます。
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ローパスフィルターの幅を調整すれば、対象信号を通過させられる広さと、多くのノイズを除去できる狭さを兼ね備えたフィルター幅になるような周波数を中心として定義スパンを設定することができます。

デジタル・ダウン・コンバートの結果と50 dB低いRFパルスに対する処理利得
簡単に言えば、処理利得とは、信号の中心周波数に「同調」して、変調を解析したい信号へ「ズーム」することです。

この例では、関連ノイズを伴う元々の8 GHz測定を500 MHz測定まで狭帯域化し、3.7 GHzのキャリアを中心にして、信号復調幅よりもわずかに広い瞬時測定帯域幅で測定しています。これは以下のようなS/N比の向上に相当します。

10log*(オシロスコープのBW/スパン)=10log*(8E+09/500E+6)=12 dB

処理利得を利用し、これにVSAソフトウェアのログ振幅スケールを使用できる機能を組み合わせて、さらにアベレージングを使用すれば、図3のように50 dB低いパルスを確認できるようになります。

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図3. VSAソフトウェアに表示された50 dB低いパルス。中心周波数3.7 GHz、スパン500 MHzに設定

図4に、スパンを狭くすることによって実現できるS/N比の向上について図示します。

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図4. VSAソフトウェアのスパン調整と時間ビューで達成可能なS/N比のプロット

図5のように、これと似たプロットを描いて、狭帯域信号を測定する際に可能なダイナミックレンジの向上を確認することができます。
図5.   FFTのダイナミックレンジ対VSAソフトウェアでの分解能帯域幅25
図5.   FFTのダイナミックレンジ対VSAソフトウェアでの分解能帯域幅

FFT表示で狭帯域信号を測定する際のダイナミックレンジの向上は、以下の式で表されます。

10log*(オシロスコープのBW/RBW)

これはスプリアス・フリー・ダイナミック・レンジ(SFDR)やオシロスコープ応答の高調波歪み特性を表すものではありませんが、FFT測定のどこにノイズフロアが存在するのかがわかります。分解能帯域幅が狭くなると、ノイズは小さいタイムバケットに分割され、ノイズフロアが低下します。

このグラフではさまざまなスプリアスによる制限は考慮されていないので、スプリアス・フリー・ダイナミック・レンジ(SFDR)は50 dB前後に制限されたままです。

まとめ
デジタル・ダウン・コンバート処理を使用すれば、オシロスコープの初期のDCから3 dB帯域幅まで、どのくらい「スパンを縮小」できるのかに応じて、オシロスコープ測定のS/N比を大幅に向上させることができます。上記の例が示しているように、通常のオシロスコープ画面では確認できなかった50 dB低いパルスが、VSAソフトウェアによる1回の処理ではっきりと確認できるようになり、これをログ振幅スケールで表示できます。この手法は、航空宇宙/防衛向けのパルスドRF信号の高速なシステム検証測定に非常に有用です。この処理によって、RFパルス列のスペクトラム、パルスエンベロープ、周波数チャープ、位相シフト特性を評価する際の測定確度が大幅に向上します。


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