寺本益英の日記

 関西学院大学で日本経済史を担当する寺本益英の身辺雑記です。経済、歴史、お茶、フードシステムの話題を中心に、思い立ったことを綴ります。受講生の質問にも答えます。

2017年11月

格差・貧困をめぐる論争

 野党はしばしば安倍政権になって格差が拡大したと主張しています。すなわち若者世代を中心とした格差拡大が出産、子育てに対する不安を高めているというわけです。この点に関し11月21日に行われた参院代表質問の際の民進党・大塚耕平代表と安倍晋三首相の論争をもとに考えてみます。
 大塚氏が格差拡大の根拠としている指標は相対的貧困率です。これは国民を所得順に並べたと仮定した場合の真ん中の人の所得(中央値)の半分未満の人の割合を示しています。そこで大塚氏は中央値の悪化を問題視しました。ピークの1997年には297万円であったのが、2015年には245万円に減ったとし、「(国民が)貧しくなっている」と訴えました。そしてその背景には、物価を考慮した実質的な購買力を示す実質賃金の低下があるとも指摘しました。
 これに対し安倍首相は次のように反論しました。パート労働者の増加などで実質賃金は下がったものの、働く人の数は増えており、国民全体の稼ぎを示す「総雇用者所得」も増大していると述べました。中央値の低下の要因は所得水準の低い高齢者が増えたためだと言い、2015年は2012年の244万円)に比べると改善したと説明しました。そして「相対的貧困率は政権交代後、経済が好転する中で改善に転じた」と結論づけました。実際、2012年の相対的貧困率は16.1%であったのが、2015年には15.6%へとやや改善しています。
 ただし長期的にみれば、格差はやはり拡大しています。相対的貧困率は1985年には12.0%であったが、前述のように2012年には16.1%と上昇傾向にあるのです。国際的にみても、経済協力開発機構の2014年時点の調査で、日本は加盟34カ国中で6番目に相対的貧困率が高かったようです。
 経済が好調であれば、企業は人手を確保するため賃金を上げるでしょう。その結果労働者は消費を増やし、経済の体温計である物価が上昇し、デフレ脱却が実現します。経済をこうした好循環に導くことが安倍政権の課題といえます。



トランプ大統領、韓国国会で演説 北朝鮮にアメリカの軍事力を誇示

 アジア歴訪中のトランプ米大統領は11月8日、ソウルの韓国国会において北朝鮮問題に関する演説を行いましたた。北朝鮮が核とミサイルの開発を続けることは絶対に容認できないとし、「アメリカを過小評価するな。我々に挑んではならない」と、強く警告を発しました。また北朝鮮がアメリカ本土を直接攻撃できる核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進めるのは世界全体の脅威だと指摘し、その脅威に立ち向かうことは国際社会の責務であることを強調しました。そして北朝鮮が核兵器を放棄しないかぎり、経済、外交、軍事力を駆使し、圧力を加え続ける姿勢を示しました。
 トランプ大統領はアメリカは北朝鮮に対し、これまで何度も核兵器を放棄するよう求めてきたにもかかわらず、ことごとく裏切られてきたとも述べています。そして「北朝鮮は過去のアメリカの抑制を弱さだと理解している。しかし、それは致命的な間違いだ」と語り、アメリカに挑むのは過ちだとというメッセージを発信しました。
 トランプ大統領は北朝鮮と国境を接し、経済的にも強い影響力を持つ中国とロシアを名指した上で、北朝鮮に対する経済的、財政的な様々な支援をやめるよう訴えています。
 朝鮮半島近海に空母3隻を配備し、軍事力を全面に出して北朝鮮を威嚇する一方で、完全かつ検証可能な形で核開発を断念すれば未来への道は開かれているとも語っています。
 以上のトランプ大統領の演説に対し、北朝鮮はどのような反応を示しているのでしょうか。相変わらず強硬姿勢を崩していません。かねてから指摘されているように、北朝鮮の最大の目標は体制の維持です。最近ではとくにアメリカが朝鮮半島近海で空母による軍事演習を行っていることに危機感を示し、自主と正義のために核開発を継続し、アメリカとの力の均衡をとるということです。
 とはいえ、アメリカを本気で怒らせ、激しい攻撃を受ければ、体制維持どころではないことは金正恩委員長もよくわかっているはずです。当面は攻撃されない程度に、ギリギリのところで挑発を続けるものと思われます。

トランプ大統領の初来日と日米首脳会談

 トランプ大統領は就任後はじめて日本を訪問しています。11月5日横田基地に到着し、そのあと安倍首相とゴルフを楽しみました。本日のブログでは、翌日6日に行われた日米首脳会談についてレポートしたいと思います。ポイントは以下の3点です。
(1)北朝鮮問題と防衛装備品の購入拡大
 日本にとって最も重要なテーマは、北朝鮮問題といえます。これに対し安倍首相は、「日米が主導し、あらゆる手段を通じて北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全一致した」と述べました。トランプ政権はかねてから「軍事行動を含む「すべての選択肢がテーブルの上にある」という方針をとっており、安倍首相日米が100%ともにあることを再確認したということです。トランプ大統領はオバマ前大統領時代の)「戦略的忍耐」は終わったとの認識を示し、在日・在韓米軍の兵力を挙げて、北朝鮮を牽制することになりそうです。
 北朝鮮による拉致被害者の家族とトランプ大統領の面会も実現しました。安倍首相はトランプ大統領との良好な関係を内外にアピールする好機になったと思いますし、トランプ大統領は、日米が共同歩調をとって北朝鮮に強硬姿勢を示せたと考えているに違いありません。日米協力関係の強調は、対北朝鮮政策をめぐり温度差のあ韓国や中国を説得する上でも有効です。
 予想外だったのは、アメリカ製の防衛装備品の熱心な売り込みでした 「非常に重要なのは、首相は(米国から)膨大な量の兵器を買うことだ。そうすべきだ。我々は世界最高の兵器をつくっている」と述べました。具体的な防衛装備品名まで言及し、日本がこれらを大量購入することで、アメリカに雇用が創出され、日本の防衛力は強化され一石二鳥の効果が期待できると主張しました。安倍首相はこの要請に応じる形で、「日本の防衛力を拡充していかなければならない。アメリカからさらに購入していくことになる」との見解を示しました。トランプ大統領は安保と引き換えに、アメリカ製品を買わせ、貿易赤字が削減はかりたいのかも知れませんが、このままでは日本のアメリカ追従の度合いが一段と高まる予感がします。日本はすでに2013年に閣議決定された防衛計画の大綱や中期防に基づいて最新鋭戦闘機F35Aや輸送機オスプレイの導入を進めています。陸上配備型の迎撃ミサイルシステムイージス・アショアも着実に購入する予定です。財政が危機的状況にある中で、防衛支出を高めてゆくことに違和感を感じますし、アメリカ製品の購入が際立っていることが気がかりです。さらに通常の維持整備費や訓練費にしわ寄せがくることも懸念されます。
 さらに軍事力に頼るばかりの安保政策でよいのかという疑問の声もあがってきています。北朝鮮問題をめぐり日米間では軍事的圧力強化や経済制裁強化の話しが出るばかりで、平和的解決の可能性がさぐられたことはありません。日本がアメリカから次々と高額兵器を購入する姿勢が、かえって北朝鮮を刺激しているという意見もしばしば耳にします。
(2)インド太平洋戦略の推進
 トランプ大統領のアジア歴訪において、日本が最初の訪問国となることにこだわったのは、日米共通のアジア外交戦略を世界にアピールしたかったからと言われています。安倍首相は、昨年「自由で開かれたインド太平洋戦略」を表明していますが、トランプ大統領はこれに賛同してくれたことの意義を強調しました。この考えは今後、日米共同戦略の位置づけで、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などで、各国に協力を求めてゆくことになりそうです。
 言うまでもなく日本は、中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」を意識しています。シルクロード経済圏構想を通じ、中国が独自の主張に基づいてアジア太平洋地域で権益拡大をはかることに、日本政府は警戒感を強めているのです。この地域で、日米がともに安全保障、経済の両面において、法の支配やルールづくりを浸透させ、中国の動きを牽制する狙いが読み取れます。
 トランプ大統領はこれまで一貫してオバマ前政権の政策を否定してきました。オバマ前政権はアジアリバランス構想を打ち出してきましたが、代替政策は決まっていませんでした。安倍首相が唱える新政策は、アメリカにとってもメリットがあるといえます。ただしその一方で、トランプ大統領が主張するアメリカ第一主義と合致するかどうかは不透明です。 
(3)通商問題は棚上げ
 通商問題に関しトランプ大統領は従来と同じく「アメリカ第一」の発言を繰り返しました。共同会見では「互恵的な貿易が私にとって、とても大事だ」と述べ、対日貿易赤字の削減に強いこだわりを示しました。しかし首脳会談において通称問題は「棚上げ」にされ、解決の方向性は見い出せていません。周知のようにトランプ政権はTPPから離脱しており、自国に有利な条件を引き出しやすい日米二国間の自由貿易協定(FTA)を重視する立場をとっています。しかしこれは日本の方針とは合致しません。
 前述のように日米両国は北朝鮮問題に関し、強固な協力関係を確認しています。反面、経済関係で対立するのは得策ではありません。共同会見で安倍首相は、「トランプ大統領と二国間の貿易だけではなく、アジア太平洋地域に広がる貿易・投資における高い基準づくりを主導していく」と述べています。
 日米経済関係は現時点で波風は立っていません。ただ将来しトランプ大統領が日本への圧力を高める可能性はあります。トランプ大統領は、「日本との貿易は公平でなく開かれてもいない。(赤字削減のため)我々は交渉をしていく必要がある」と述べています。
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