トランプ政権は2018年2月2日、これから5〜10年の新たな核戦略の指針となる「核体制の見直し(NPR・Nuclear Posture Review)」を公表しました。その骨子は第1に、核の使用条件の緩和です。すなわち通常兵器やサイバー攻撃を受けた場合の反撃として、核兵器を使う可能性を排除しません。背景には、領土的な野心を隠さないロシアや中国、核開発をやめない北朝鮮への危機感があり、これらの国々の動きを抑止するには、大統領に核使用の広範囲な選択肢が必要と判断したのです。
 いまひとつは、新たな核兵器の開発です。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)用に爆発力を抑えた小型の核弾頭や海洋発射型の核巡航ミサイルを新しく開発する方針を明記しました。これは敵国の大都市の破壊を目的とした大型の核兵器に比べて爆発力は小さいのが特徴です。敵国の基地や施設などを破壊する局地的な戦闘に使い、非戦闘員らの被害をできるだけ小さくするねらいです。位置を特定されにくい潜水艦から発射すれば、状況に応じた柔軟な運用も可能となります。
 アメリカの核能力は破壊力が極めて大きな戦略核が中心であり、事実上「使えない核」とされてきました。しかしその威力を小さくすることで「使える核」とし、アメリカがもしかすると核を使うかもしれないと相手国に圧力をかけ、危険な行動を思いとどまらせる効果を狙っています。
 トランプ大統領は声明で、「アメリカはこの10年間で核の保有数や役割を減らした。他の核保有国は備蓄を増やし、他国を脅かす新兵器を開発した」と、中ロや北朝鮮を念頭に置いて批判しました。さらにロシアに対し、「核の脅しや先制使用によって自国に有利な形で紛争をおさめられると誤認している」と、危機感を鮮明にしています。中国には「新たな核能力を獲得し、西太平洋でのアメリカの利益に挑戦しようとしている」と警戒しました。北朝鮮については「あからさまに核使用の意思を示してアメリカを脅している」と非難しています。
 前回8年前にオバマ政権が発表した「核戦略」では、ロシアとの核軍縮が進んでいたことや、通常戦力でアメリカが世界を圧倒しているという強みを背景に、核兵器の役割を減らしていくことが強調されました。しかしその後、陸・海・空・宇宙・サイバーの領域において、アメリカの優位が揺らぎ始めました。そのためトランプ政権は、オバマ政権が訴えた「核なき世界」路線を放棄したのです。
 アメリカの核政策の見直しにより、世界は再び核軍拡の方向に向かいつつあります。そして冷戦時代のように、核の恐怖が支配する世界が到来することになるでしょう。
 河野太郎外相は、NPRについて「高く評価する」との談話を発表したのには驚きました。小型とはいえ通常兵器と比べるとはるかに大きな破壊力を持った核兵器が使用されると、その影響は計り知れません。日本は広島、長崎で核兵器の悲惨さ、非人道性を身をもって体験しているはずです。また2016年5月27日、安倍晋三首相はオバマ前大統領と並んで、核なき世界を訴えたはずではなかったのでしょうか。アメリカの政権がかわっても、世界の先頭に立って核廃絶を訴えるべきであると、強く感じました。