寺本益英の日記

 関西学院大学で日本経済史を担当する寺本益英の身辺雑記です。経済、歴史、お茶、フードシステムの話題を中心に、思い立ったことを綴ります。受講生の質問にも答えます。

話題の政治・経済ニュース

北朝鮮が核実験中止を宣言

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は2018年4月20日、「我々にはいかなる核実験、中長距離や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射も必要がなくなった。北部核実験場も自己の使命を終えた」と述べ、核実験とICBM試射を中止し、咸鏡北道豊渓里(ハムギョンブクトプンゲリ)の核実験場を廃棄することを宣言しました。これまでの情報発信は韓国を通じた間接的なものでしたが、今回は正恩氏が自らの言葉で国際際社会に対して公約した点は意義深いと思います。
 さらに6月はじめまでに行われる見通しの米朝首脳会談を成功させたいという強い意図も窺えます。アメリカ本土に届くミサイルと核の拡散は、アメリカが最も懸念する問題です。北朝鮮はトランプ大統領との会談前に、非核化の意思を示しておきたかったとみられます。もっとも総会では、具体的な非核化措置には触れられませんでした。
 党中央委総会では、正恩氏の報告を受け、経済改革と核開発を同時に進める「並進路線」が完成したことを宣言し、新たな政策決定を行いました。総会が採択した政策決定書は、核兵器や運搬手段としてのミサイルが完成したことを確認、4月21日から核実験とICBM試射を中止することを宣言しました。
 なお「核実験中止の透明性を確保する」として、豊渓里の核実験場の廃棄を宣言しています。すなわち、核による挑発がない限り核を使用しないことや核不拡散を約束することが核軍縮の重要な過程というわけです。
 しかし注意が必要なのは、すでに所持している核と大量のミサイルを手放すとは言っていないことです。米韓の対応をさらに見極める狙いがあるものと思われます。豊渓里の核実験場は、軍部隊が駐屯を始めた1980年代末から整備されてゆきましたた。2006年10月から昨年(2017年)9月まで計6回の核実験が行われたといいます。また韓国政府によれば、正恩氏が2011年末に権力を継承して以降、計61回に及ぶ弾道ミサイルの試射を行っているそうです。具体的な非核化措置の表明がないかぎり、北朝鮮の脅威がなくなったとはいえません。北朝鮮が米朝協議の長期化を狙い、核保有の既成事実化を目指す懸念も捨てきれないのです。
 北朝鮮の方向転換でいまひとつ注目すべきは、今後、経済発展と人民生活向上に集中し、朝鮮半島と世界平和のため、周辺国や国際社会との対話や連携を積極的に進めるとしたことです。正恩氏がこうした路線の実現を真剣に求めるのなら、国連決議による経済制裁の緩和が不可欠です。完全で検証可能な非核化の道を早期に示すことが肝要です。
 この点について正恩氏は、訪朝したポンペオ米中央情報局(CIA)長官に「完全な非核化の意思」を伝えていたとのことです。アメリカは、米朝首脳会談での合意に、具体的な非核化の措置を盛り込むよう水面下で交渉していたのです。
 北朝鮮の核実験中止宣言にトランプ大統領は、自身のツイッターで、「北朝鮮と世界にとって、とても素晴らしいニュースだ。大きな前進だ。我々の米朝首脳会談を楽しみにしている」と歓迎しました。そして6月上旬にも予定される米朝首脳会談の実現に強い意欲を示した。にじませました。

北朝鮮が「微笑み外交」を展開

 平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックに合わせ、北朝鮮が「微笑み外交」を展開しています。特筆すべきは、最高指導者・金正恩(キムジョンウン)氏の妹の金与正(キムヨジョン)氏の訪韓です。そのねらいは、オリンピックを契機に、韓国との友好関係を演出し、対外イメージの改善することです。 北朝鮮は選手のほかに、芸術団や、韓国側と合同応援団も派遣しています。こうした働きかけで、韓国国内の民族意識が高まり、韓国と日本・アメリカの結束に、風穴を開けようとしていることが伝わってきます。
 金与正氏と文在寅(ムンジェイン)大統領の会談は10日午前に行われました。そこで金与正氏は正恩氏の親書を手渡し、文大統領の訪朝を要請しました。これは北朝鮮の焦りのあらわれとみられます。北朝鮮の本音は、韓国を通じ、アメリカに制裁緩和や米韓合同軍事演習の縮小・中止、アメリカが攻撃を思いとどまるよう説得してもらうことでしょう。
 金与正氏の訪朝要請に対し文在寅大統領は条件を整えて実現させよう」と述べたといいます。ただちに訪朝要請を受け入れられなかったのは、北朝鮮が核武装を解除し、繰り返してきた挑発行動をやめて米朝交渉が実現する見通しが立っていないからです。
 以上のような融和ムードに対し、日本政府は警戒感を強めています。これまで日韓両国は、北朝鮮の融和的な政策に乗ってしまい、結果的に北朝鮮に核・ミサイル開発を継続させたという経験があるからです。日本はアメリカと連携し、韓国がこれ以上北朝鮮に傾斜しないよう目を光らせています。
 日米両国は北朝鮮が核放棄に向けて動き出さないかぎり最大限の圧力を継続するという方針です。オリンピック終了後の北朝鮮の出方が注目されます。

核の恐怖が支配する世界に逆戻り

 トランプ政権は2018年2月2日、これから5〜10年の新たな核戦略の指針となる「核体制の見直し(NPR・Nuclear Posture Review)」を公表しました。その骨子は第1に、核の使用条件の緩和です。すなわち通常兵器やサイバー攻撃を受けた場合の反撃として、核兵器を使う可能性を排除しません。背景には、領土的な野心を隠さないロシアや中国、核開発をやめない北朝鮮への危機感があり、これらの国々の動きを抑止するには、大統領に核使用の広範囲な選択肢が必要と判断したのです。
 いまひとつは、新たな核兵器の開発です。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)用に爆発力を抑えた小型の核弾頭や海洋発射型の核巡航ミサイルを新しく開発する方針を明記しました。これは敵国の大都市の破壊を目的とした大型の核兵器に比べて爆発力は小さいのが特徴です。敵国の基地や施設などを破壊する局地的な戦闘に使い、非戦闘員らの被害をできるだけ小さくするねらいです。位置を特定されにくい潜水艦から発射すれば、状況に応じた柔軟な運用も可能となります。
 アメリカの核能力は破壊力が極めて大きな戦略核が中心であり、事実上「使えない核」とされてきました。しかしその威力を小さくすることで「使える核」とし、アメリカがもしかすると核を使うかもしれないと相手国に圧力をかけ、危険な行動を思いとどまらせる効果を狙っています。
 トランプ大統領は声明で、「アメリカはこの10年間で核の保有数や役割を減らした。他の核保有国は備蓄を増やし、他国を脅かす新兵器を開発した」と、中ロや北朝鮮を念頭に置いて批判しました。さらにロシアに対し、「核の脅しや先制使用によって自国に有利な形で紛争をおさめられると誤認している」と、危機感を鮮明にしています。中国には「新たな核能力を獲得し、西太平洋でのアメリカの利益に挑戦しようとしている」と警戒しました。北朝鮮については「あからさまに核使用の意思を示してアメリカを脅している」と非難しています。
 前回8年前にオバマ政権が発表した「核戦略」では、ロシアとの核軍縮が進んでいたことや、通常戦力でアメリカが世界を圧倒しているという強みを背景に、核兵器の役割を減らしていくことが強調されました。しかしその後、陸・海・空・宇宙・サイバーの領域において、アメリカの優位が揺らぎ始めました。そのためトランプ政権は、オバマ政権が訴えた「核なき世界」路線を放棄したのです。
 アメリカの核政策の見直しにより、世界は再び核軍拡の方向に向かいつつあります。そして冷戦時代のように、核の恐怖が支配する世界が到来することになるでしょう。
 河野太郎外相は、NPRについて「高く評価する」との談話を発表したのには驚きました。小型とはいえ通常兵器と比べるとはるかに大きな破壊力を持った核兵器が使用されると、その影響は計り知れません。日本は広島、長崎で核兵器の悲惨さ、非人道性を身をもって体験しているはずです。また2016年5月27日、安倍晋三首相はオバマ前大統領と並んで、核なき世界を訴えたはずではなかったのでしょうか。アメリカの政権がかわっても、世界の先頭に立って核廃絶を訴えるべきであると、強く感じました。

格差・貧困をめぐる論争

 野党はしばしば安倍政権になって格差が拡大したと主張しています。すなわち若者世代を中心とした格差拡大が出産、子育てに対する不安を高めているというわけです。この点に関し11月21日に行われた参院代表質問の際の民進党・大塚耕平代表と安倍晋三首相の論争をもとに考えてみます。
 大塚氏が格差拡大の根拠としている指標は相対的貧困率です。これは国民を所得順に並べたと仮定した場合の真ん中の人の所得(中央値)の半分未満の人の割合を示しています。そこで大塚氏は中央値の悪化を問題視しました。ピークの1997年には297万円であったのが、2015年には245万円に減ったとし、「(国民が)貧しくなっている」と訴えました。そしてその背景には、物価を考慮した実質的な購買力を示す実質賃金の低下があるとも指摘しました。
 これに対し安倍首相は次のように反論しました。パート労働者の増加などで実質賃金は下がったものの、働く人の数は増えており、国民全体の稼ぎを示す「総雇用者所得」も増大していると述べました。中央値の低下の要因は所得水準の低い高齢者が増えたためだと言い、2015年は2012年の244万円)に比べると改善したと説明しました。そして「相対的貧困率は政権交代後、経済が好転する中で改善に転じた」と結論づけました。実際、2012年の相対的貧困率は16.1%であったのが、2015年には15.6%へとやや改善しています。
 ただし長期的にみれば、格差はやはり拡大しています。相対的貧困率は1985年には12.0%であったが、前述のように2012年には16.1%と上昇傾向にあるのです。国際的にみても、経済協力開発機構の2014年時点の調査で、日本は加盟34カ国中で6番目に相対的貧困率が高かったようです。
 経済が好調であれば、企業は人手を確保するため賃金を上げるでしょう。その結果労働者は消費を増やし、経済の体温計である物価が上昇し、デフレ脱却が実現します。経済をこうした好循環に導くことが安倍政権の課題といえます。



トランプ大統領、韓国国会で演説 北朝鮮にアメリカの軍事力を誇示

 アジア歴訪中のトランプ米大統領は11月8日、ソウルの韓国国会において北朝鮮問題に関する演説を行いましたた。北朝鮮が核とミサイルの開発を続けることは絶対に容認できないとし、「アメリカを過小評価するな。我々に挑んではならない」と、強く警告を発しました。また北朝鮮がアメリカ本土を直接攻撃できる核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進めるのは世界全体の脅威だと指摘し、その脅威に立ち向かうことは国際社会の責務であることを強調しました。そして北朝鮮が核兵器を放棄しないかぎり、経済、外交、軍事力を駆使し、圧力を加え続ける姿勢を示しました。
 トランプ大統領はアメリカは北朝鮮に対し、これまで何度も核兵器を放棄するよう求めてきたにもかかわらず、ことごとく裏切られてきたとも述べています。そして「北朝鮮は過去のアメリカの抑制を弱さだと理解している。しかし、それは致命的な間違いだ」と語り、アメリカに挑むのは過ちだとというメッセージを発信しました。
 トランプ大統領は北朝鮮と国境を接し、経済的にも強い影響力を持つ中国とロシアを名指した上で、北朝鮮に対する経済的、財政的な様々な支援をやめるよう訴えています。
 朝鮮半島近海に空母3隻を配備し、軍事力を全面に出して北朝鮮を威嚇する一方で、完全かつ検証可能な形で核開発を断念すれば未来への道は開かれているとも語っています。
 以上のトランプ大統領の演説に対し、北朝鮮はどのような反応を示しているのでしょうか。相変わらず強硬姿勢を崩していません。かねてから指摘されているように、北朝鮮の最大の目標は体制の維持です。最近ではとくにアメリカが朝鮮半島近海で空母による軍事演習を行っていることに危機感を示し、自主と正義のために核開発を継続し、アメリカとの力の均衡をとるということです。
 とはいえ、アメリカを本気で怒らせ、激しい攻撃を受ければ、体制維持どころではないことは金正恩委員長もよくわかっているはずです。当面は攻撃されない程度に、ギリギリのところで挑発を続けるものと思われます。

トランプ大統領の初来日と日米首脳会談

 トランプ大統領は就任後はじめて日本を訪問しています。11月5日横田基地に到着し、そのあと安倍首相とゴルフを楽しみました。本日のブログでは、翌日6日に行われた日米首脳会談についてレポートしたいと思います。ポイントは以下の3点です。
(1)北朝鮮問題と防衛装備品の購入拡大
 日本にとって最も重要なテーマは、北朝鮮問題といえます。これに対し安倍首相は、「日米が主導し、あらゆる手段を通じて北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全一致した」と述べました。トランプ政権はかねてから「軍事行動を含む「すべての選択肢がテーブルの上にある」という方針をとっており、安倍首相日米が100%ともにあることを再確認したということです。トランプ大統領はオバマ前大統領時代の)「戦略的忍耐」は終わったとの認識を示し、在日・在韓米軍の兵力を挙げて、北朝鮮を牽制することになりそうです。
 北朝鮮による拉致被害者の家族とトランプ大統領の面会も実現しました。安倍首相はトランプ大統領との良好な関係を内外にアピールする好機になったと思いますし、トランプ大統領は、日米が共同歩調をとって北朝鮮に強硬姿勢を示せたと考えているに違いありません。日米協力関係の強調は、対北朝鮮政策をめぐり温度差のあ韓国や中国を説得する上でも有効です。
 予想外だったのは、アメリカ製の防衛装備品の熱心な売り込みでした 「非常に重要なのは、首相は(米国から)膨大な量の兵器を買うことだ。そうすべきだ。我々は世界最高の兵器をつくっている」と述べました。具体的な防衛装備品名まで言及し、日本がこれらを大量購入することで、アメリカに雇用が創出され、日本の防衛力は強化され一石二鳥の効果が期待できると主張しました。安倍首相はこの要請に応じる形で、「日本の防衛力を拡充していかなければならない。アメリカからさらに購入していくことになる」との見解を示しました。トランプ大統領は安保と引き換えに、アメリカ製品を買わせ、貿易赤字が削減はかりたいのかも知れませんが、このままでは日本のアメリカ追従の度合いが一段と高まる予感がします。日本はすでに2013年に閣議決定された防衛計画の大綱や中期防に基づいて最新鋭戦闘機F35Aや輸送機オスプレイの導入を進めています。陸上配備型の迎撃ミサイルシステムイージス・アショアも着実に購入する予定です。財政が危機的状況にある中で、防衛支出を高めてゆくことに違和感を感じますし、アメリカ製品の購入が際立っていることが気がかりです。さらに通常の維持整備費や訓練費にしわ寄せがくることも懸念されます。
 さらに軍事力に頼るばかりの安保政策でよいのかという疑問の声もあがってきています。北朝鮮問題をめぐり日米間では軍事的圧力強化や経済制裁強化の話しが出るばかりで、平和的解決の可能性がさぐられたことはありません。日本がアメリカから次々と高額兵器を購入する姿勢が、かえって北朝鮮を刺激しているという意見もしばしば耳にします。
(2)インド太平洋戦略の推進
 トランプ大統領のアジア歴訪において、日本が最初の訪問国となることにこだわったのは、日米共通のアジア外交戦略を世界にアピールしたかったからと言われています。安倍首相は、昨年「自由で開かれたインド太平洋戦略」を表明していますが、トランプ大統領はこれに賛同してくれたことの意義を強調しました。この考えは今後、日米共同戦略の位置づけで、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などで、各国に協力を求めてゆくことになりそうです。
 言うまでもなく日本は、中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」を意識しています。シルクロード経済圏構想を通じ、中国が独自の主張に基づいてアジア太平洋地域で権益拡大をはかることに、日本政府は警戒感を強めているのです。この地域で、日米がともに安全保障、経済の両面において、法の支配やルールづくりを浸透させ、中国の動きを牽制する狙いが読み取れます。
 トランプ大統領はこれまで一貫してオバマ前政権の政策を否定してきました。オバマ前政権はアジアリバランス構想を打ち出してきましたが、代替政策は決まっていませんでした。安倍首相が唱える新政策は、アメリカにとってもメリットがあるといえます。ただしその一方で、トランプ大統領が主張するアメリカ第一主義と合致するかどうかは不透明です。 
(3)通商問題は棚上げ
 通商問題に関しトランプ大統領は従来と同じく「アメリカ第一」の発言を繰り返しました。共同会見では「互恵的な貿易が私にとって、とても大事だ」と述べ、対日貿易赤字の削減に強いこだわりを示しました。しかし首脳会談において通称問題は「棚上げ」にされ、解決の方向性は見い出せていません。周知のようにトランプ政権はTPPから離脱しており、自国に有利な条件を引き出しやすい日米二国間の自由貿易協定(FTA)を重視する立場をとっています。しかしこれは日本の方針とは合致しません。
 前述のように日米両国は北朝鮮問題に関し、強固な協力関係を確認しています。反面、経済関係で対立するのは得策ではありません。共同会見で安倍首相は、「トランプ大統領と二国間の貿易だけではなく、アジア太平洋地域に広がる貿易・投資における高い基準づくりを主導していく」と述べています。
 日米経済関係は現時点で波風は立っていません。ただ将来しトランプ大統領が日本への圧力を高める可能性はあります。トランプ大統領は、「日本との貿易は公平でなく開かれてもいない。(赤字削減のため)我々は交渉をしていく必要がある」と述べています。

第3次安倍第3次改造内閣が発足

 安倍晋三首相は今日3日内閣改造を行い、第3次安倍第3次改造内閣が発足しました。閣僚の国会答弁で不適切な発言が相次いだことや、森友・加計学園をめぐる問題で内閣支持率は急落したため、人心一新を図り、信頼を取り戻すことが何よりの狙いです。ここで今回の人事の特徴をみます。
 まず閣僚人事は、19人の大臣のうち留任は5人にとどまり、刷新のイメージを打ち出しています。とはいえ内閣では、麻生太郎副総理兼財務大臣、菅義偉官房長官を、また党執行部では、高村正彦副総裁、二階俊博幹事長を続投させ、政権の骨格は維持しています。
 問題続きであった防衛省と文部科学省には、ベテランの議員を起用しました。防衛大臣の小野寺五典氏は、第2次安倍内閣で1年9ヶ月防衛大臣を経験しています。、また文部科学大臣の林芳正氏も防衛大臣、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、農林水産大臣を歴任しました。
 それから野田聖子氏の総務大臣起用は、「身内に甘い」という批判をかわす目的があるのでしょう。さらに河野太郎外務大臣(麻生派)は、菅官房長官によれば「将来のリーダー候補」と評価が高く、強い発信力に期待がかかっています。
 岸田派優遇も今回の人事の注目点です。改造直前まで外務大臣を務めていた岸田文雄氏は、しばしば安倍首相の後継を目指す存在と言われてきました。岸田氏は党内基盤を固めるため、政務調査会長を希望し、安倍首相はこれを受け入れました。また岸田派からの入閣は、2人から4人に倍増し、存在感を高めています。安倍首相の狙いは、来年秋の自民党総裁選挙や憲法改正議論において、岸田派の協力を得ることにあるのでしょう。(岸田氏は9条改正に慎重な立場です。)
 ここであらためて安倍内閣の支持率が急落した原因をさぐってみたいと思います。それは第一に隠蔽体質です。南スーダン国連平和維持活動(PKO)で陸上自衛隊の部隊が作成した日報を「廃棄した」としながら陸自内に保管されていた問題の真相はどうなっているのでしょうか。森友学園が大幅値引きで国有地を取得できた理由や、国家戦略特区制度で加計学園に獣医学部新設が認められた経緯がいまひとつ釈然としません。身内に甘く、批判的な勢力の言い分には耳を貸さないという姿勢に、多くの国民が失望したに違いありません。
 いまひとつ、強引な政治手法も懸念されます。「共謀罪」法を多くの問題を残したまま、参議院の委員会採決を省略して成立させたことは問題です。反面野党が再三求めている臨時国会の開催や、文書の公開、関係者の証人喚問には消極的です。
 今回の内閣改造で安倍政権の支持率は多少回復するかも知れませんが、上記のような根本的な政治不信が解消されないかぎり国民の評価は高まらないと思います。

トランプ大統領の経済政策

 4月19日の経済コラムでは、日米経済対話について取り上げました。貿易交渉を二国間で進め、自国に有利になるようにしたいアメリカと、多国間の公正なルールづくりにこだわる日本の間で、大きなギャップを感じます。具体的な話し合いはこれからですが、日本はアメリカのペースに引き込まれないか、気になるところです。さて今日は、より大きな視点からトランプ大統領の経済政策(トランポノミクス)について整理したいと思います。
 トランプ大統領がまず目指すのは雇用拡大です。とりわけ選挙戦で自らを支持した白人労働者の雇用増を重視し、「今後10年間で2,500万人の雇用を生み出し、経済成長率の目標を年4%としました。ちなみに昨年の値は1.6%にとどまっており、かなり高い目標設定です。
 次に大型減税も重要な政策です。アメリカにおいて、現行の法人税率は35%で、先進国で最も高いとされます。これを、15〜20%に引き下げることを目指します。国内企業の流出が著しいため、歯止めをかける考えです。
 また10年間で1兆ドル(約110兆円)のインフラ投資を行うことも公約しました。
 規制緩和も重要なキーワードです。トランプ氏は政府の規制のため、アメリカ経済に年2兆ドル(約220兆円)の負担が生じていると指摘します。オバマ前政権が進めた「金融規制強化法(ドッド・フランク法)」を見直し、環境規制の撤廃でエネルギー産業の活性化もはかります。
 貿易赤字の削減も重要な課題です。トランプ氏の主張は、安い輸入品が流入したため、国内産業が衰退し、雇用が奪われたというものです。そして標的にしているのは、最大の貿易赤字相手国の中国と、隣国のメキシコです。両国からの輸入品には高い税をかけると主張しています。
 今後の通商交渉の方針は冒頭でも述べたとおり二国間交渉です。多国間協議よりも二国間協議のほうが自国に有利な条件を引き出せるからです。日本など12カ国で合意した環太平洋経済連携協定(TPP)からは離脱を決定し、カナダとメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)も再交渉になります。
 トランプ大統領の念頭にあるのは、1980年代にアメリカ共和党のレーガン政権が掲げたレーガノミクスかも知れません。その骨子は、減税や規制緩和を通じて経済を刺激することでした。
 ただし上記の政策が成功するかどうかは不透明です。アメリカでは政府に予算案を出す権限がありません。したがって政策の実現には、議会との関係を良好に保ち、予算をスムーズに執行できる環境が重要です。しかし先般トランプ政権は医療保険制度改革(オバマケア)」の代替法案の採決でつまずきました。なおこの法案には、税の財源確保の狙いもありましたので、前述の大型減税の行方は不透明です。
 最後に保護主義強化政策の悪影響が懸念されます。輸入品への課税で商品の値段が上がるということは、アメリカの消費者がモノを買いづらくなり、アメリカ国内における消費や生産の落ち込みを招き、アメリカ経済が減速するでしょう。アメリカ経済の悪化は当然世界経済の悪化に波及してゆくでしょう。トランポノミクスは短期的にアメリカ経済を好転させても、中長期の視点でみれば、アメリカ経済のみならず、世界経済全体の後退を招く可能性があります。

緊迫する北朝鮮情勢

 北朝鮮の脅威が高まっています。いつ核実験や弾道ミサイル発射を行うかわからず、大変心配な毎日が続いています。この問題に日米はどう対応しようとしているのか、18日に行われた安倍晋三首相とペンス米副大統領との会談から読み取ることができます。両首脳の一致した認識は、北朝鮮は新たな段階の脅威」であり、圧力を強めて対応する必要があるというものです。ペンス氏はさらに、日本など同盟国との連携に加え、北朝鮮に影響力を持つ中国と共に外交と経済の両面で北朝鮮に圧力をかける姿勢を強調しています。
 一方安倍首相の考え方は、平和的解決を望むが、対話のための対話になっては意味がなく、圧力をかけることも必要というものです。軍事行動の可能性も排除しないというトランプ政権を支持しています。
 トランプ大統領はオバマ前政権が採った「戦略的忍耐」の政策を踏襲せず、「平和は力によってのみ初めて達成される」という考え方を持っています。なぜそのような強硬な姿勢をとるかというと、6者協議などの対話路線で北朝鮮の挑発行為を止められなかったからです。そして「すべての選択肢はテーブルの上にある」と、軍事力行使も辞さない強い態度を示しています。
 ところ先般、アメリカ軍はシリアのアサド政権の空軍施設やアフガニスタンにある過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点を攻撃しています。より直接的には、原子力空母カールビンソンを朝鮮半島近海に派遣しました。こうした軍事力の誇示も、北朝鮮に暴挙を思いとどまらさせる狙いがあります。そして訪日の前に立ち寄った韓国においてペンス副大統領は、「北朝鮮はこの地域の米軍の力を試すようなことはしない方がよい」と警告しています。
 以上のようにトランプ大統領は軍事行動をほのめかし、北朝鮮をおさえこもうとしていますが、北朝鮮に強い影響力を持つ中国の役割も重視しています。すなわち中国が北朝鮮に対し、援助や取引を行わないように働きかけているのです。そして北朝鮮との取引をやめない中国企業に対しては、アメリカとの取引をできなくする措置も検討中です。
 しかし中国はどこまでそうしたアメリカの要請に応じるかは不透明です。習近平主席は対話と協議による解決を主張しています。
 それにしても挑発を続ける北朝鮮の本音はどこにあるのでしょうか。核戦争も恐れないと強硬な発言を繰り返していますが、体制維持のために何をしてくるかわかりません。反面、アメリカの本格的な攻撃を受ければ、壊滅的な打撃を受けることはわかっているはずです。対話のタイミングをさがしているよう気もします。
 結局国際社会、とくに中国がより強力な経済制裁=経済的圧力をかけ、ます北朝鮮を協議の場につかせることが重要です。(ただしトランプ大統領の手法で、軍事的圧力を高めるのは、偶発的衝突につながる可能性があり、危険だと思います。)そして「対話」を始め、核やミサイル開発を諦めるよう粘り強く説得する以外ありません。

日米首脳会談 親密ぶりをアピール

 安倍晋三首相とトランプ米大統領の日米首脳会談が、10日、11日と2日間にわたって行われました。およそ11時間時間をともにし、食事を4度と27ホールまわるゴルフを楽しみ、親密ぶりをアピールしました。トランプ大統領がこのように安倍首相を手厚くもてなしたのは、安倍首相が自身のよき理解者であることを誇示するとともに、仕手を取り込みやすくする狙いがあったと思われます。
 この会談で両首脳の信頼関係が深まったのは、望ましいことです。しかし山積するグローバルな課題とその解決策について、有意義な話し合いが行われたのかが気になります。とりわけ、これまで世界が共有していたj民主主義・自由・法の支配といった普遍的価値は、トランプ氏が強調する「アメリカ第一主義」と対立し、維持できるのかが心配です。
 中でもTPPは、多国間の枠組みでヒト、モノ、カネの自由な移動を促進し、貿易を拡大し、各国の産業発展を実現しようとするものでした。しかしトランプ氏は、アメリカのTPP離脱を表明し、二国間のディール(取引)に持ち込み、自国に有利に交渉を進めようという考えです。これに対し日本は何も抗議しませんでした。
 さらに1月27日の大統領令において、シリア、イラク、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンの中東・アフリカ7カ国の国民に入国禁止令を発しました。しかしこれは正当な理由に基づくものではなく、差別と偏見からであることは明らかです。特定の国や宗教を標的にすることは、かえって反発を招き、世界の分断と憎悪の連鎖に拍車をかけるでしょう。国際社会がそろって非難の声をあげる中、安倍首相は「入国管理はその国の内政問題なのでコメントを差し控える」と述べました。違和感を感じずにはいられません。
 安倍首相が成果を強調するのは日米同盟です。その背景にあるのは、中国の海洋進出に対する危機感です。安倍首相は日米同盟の強化こそが、東アジアの安定につながると確信し、そのためには、日本のアメリカに対する貢献(=防衛力強化)が必要と考えています。しかしこうした対米一辺倒の姿勢は、かえって中国や韓国を刺激しているのではないかと思います。
 反面、アメリカは絶えず日本と歩調を合わせ、中国に対抗してくれるかというと、疑問が残ります。トランプ大統領は、存外中国との関係を重視しているかも知れません。日本ももう少しうまく中国と付き合う方法を模索すべきだと思います。
 言うまでもありませんが、日米関係は対等の関係でなければなりません。両国は協力し、前述のような普遍的価値を追求する責任があります。そしてアメリカの考え方が誤っていると気づけば、それを指摘し、軌道修正を求めるべきです。トランプ大統領の打ち出す政策が、長期の視点でみた場合、アメリカの国益ばかりではなく、世界経済の利益にもならないことをしっかり説明しなければなりません。

マティス国防長官が来日

 4日、アメリカのマティス米国防長官が韓国に続いて日本を訪れ、安倍首相や稲田防衛相らと会談しました。会談内容でまず驚いたのは、アメリカが駐留経費の負担増を要求しなかったことです。振り返るとトランプ氏は大統領選中、日本が駐留経費を全額負担しなければ米軍撤退もありうると示唆。しました新政権がどんな要求を突きつけるのか、日本政府内には懸念していたので、ひと安心というところでしょう。
 それどころかマティス氏は、「経費と負担の分担について、日本はお手本になってきた」と称賛しました。実際、国防総省の2004年報告書によると、米軍の駐留経費負担は9カ国中、日本が最高の74.5%。ドイツの32.6%や韓国の40.0%と比べると、ずば抜けて高い値です。なおこの称賛は、日本以外の同盟国も日本並みに引き上げてほしいというメッセージにもなっているようです。
 稲田朋美防衛相は、安倍政権になって日本の防衛費は毎年伸びていることを強調しました。具体的には日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定し、集団的自衛権行使を容認した安全保障関連法を制定した実績を指摘しました。これに対しマティス氏も日本は正しい路線を進んでいると評価しました。
 なおマティス氏は、同盟関係において現状に満足してはいけないとも言っています。日米両国は、安全保障環境の変化に対応しなければならないとも述べ、日本側に一層の努力を求めました。
 安倍首相はマティス氏の意向に沿うよう今後も自主的に防衛費を増やし、自衛隊の役割を拡大させていく見込みです。アメリカからの圧力が強まれば強まるほど、自衛隊を強化する予算は増額されるでしょう。
 中国の東シナ海や南シナ海での海洋進出について懸念を共有し、尖閣諸島は「日本の施政下にあり、日米安保条約第5条の適用範囲だ」と明言しました。そしてマティス氏は、日本のような長年の同盟国が最優先とも語っています。従来の立場は基本的に継続するというアメリカの意思は確認できたといえます。
 やや気がかりなのは、上記のマティス氏の姿勢がトランプ政権全体で共有されているかどうかという点です。トランプ氏が通商と安全保障をからめる「ディール(取引)外交」を打ち出し、政権の方針が大きく変わる可能性も否定できません。
 さて、国際社会が心配しているのは、アメリカと中国との関係が不透明なことです。トランプ氏は昨年12月、台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統との電話会談に続き、中国と台湾の「一つの中国」の原則を疑問視する発言を行っています。米中間には潜在的に対立関係にありますが、貿易や投資では強い補完関係をとっています。両国はこれまで慎重に行動し安定を図ってきました。トランプ氏はその伝統を引き継ぐことができるでしょうか。
 最後に沖縄の問題を取り上げておきます。稲田防衛相とマティス長官は、沖縄県宜野湾市米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を「唯一の解決策」であると確認しました。こてに対し翁長雄志知事は、大変失礼なやり方であると不快感を示しました。沖縄県には、選挙期間中日米同盟の見直しに言及したトランプ氏にむしろ期待感を持っており、この決定は納得しがたいようです。
 あらためて述べるまでもありませんが、良好な日米関係はアジア太平洋地域の、ひいては世界の平和と安定に重要な役割を果たします。トランプ大統領は選挙期間中の同盟軽視発言を撤回し、北朝鮮の脅威を抑え、中国が東シナ海や南シナ海で暴走しないよう目を光らせてほしいものです。

2017年 日本経済の展望 (尼崎市立大庄公民館市民大学講座)

 今日は尼崎市立大庄公民館に出かけ、「2017年 日本経済の展望」というテーマで講演を行いました。今年最後の講演になります。一年の経済を振り返り、来年の展望を述べました。
  講演は概ね次の組み立てで行いました。まずGDP統計による景気の現状の確認です。内閣府が2016年12月8日発表した2016年7−9月期のGDP改定値によれば、物価の変動の影響を除いた実質で前期比0.3%増、年率換算で1.3%増となりました。11月14日発表された速報値では、年率2.2%増であったので、下方修正です。住宅投資と輸出頼み景気はゆるやかに回復していることを述べました。さらにアメリカ大統領選後の予期せぬ円安・株高で景気浮揚に弾みがつきつつあることにもふれました。
 続いて異次元緩和について、ここ1年の動向を詳述しました。とくにマイナス金利と長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入に焦点を当てました。金融政策は様々な手法が打ち出されたものの、デフレ脱却は容易ではないことも明らかにしました。
 最後に今年最大のニュースといっても過言ではないトランプ大統領誕生の背景を検証しました。そして今回の選挙結果から、アメリカ社会の分断がこれまで想像していた以上に進み、深刻なことを述べました。超大国アメリカがひとつにまとまるのは決して容易ではないことを指摘しました。
 トランプ次期米大統領の掲げる政策はインフラ投資や大規模減税です。アメリカの景気拡大への期待から、投資マネーが株式などリスク資産に流れ込み、世界景気の追い風になっています。
 トランプ政策のリスクについても論じました。トランプ氏の唱える「アメリカ第一主義」により、世界経済に様々な懸念が生じています。とりわけアメリカのTPPからの離脱は、巨大な自由貿易圏創設を消滅に導きます。アメリカが保護貿易の道を進めば、いずれ世界経済は低迷するに違いありません。
 ヨーロッパでは2017年春にフランスで大統領選、続いて秋にはドイツで総選挙と注目の時期を迎えます。トランプ現象が波及し、保護主義色の強いポピュリスト政党が勢いづくと、世界経済は一気に不安定さを増すのではないかと気がかりです。
 日本経済は先行きにも明るさが出ています。想定外の円安で輸出に弾みがつくでしょう。年明けからは事業規模28兆円の経済対策の効果が表れ、公共投資が成長を牽引しそうです。さらなる成長促進には個人消費の増加が不可欠と思われます。重要なカギは、実質賃金がどこまで上昇するか、注目したいところです。

オプジーボ50%値下げ

 みなさんは小野薬品が開発したがん免疫薬「オプジーボ」をご存知でしょうか。これはがん細胞が持つ特殊な免疫抑制機能を解除し、がんへの攻撃力を高める画期的な新薬です。日本では、皮膚がんの治療薬として2014年7月に発売されました。その後2015年12月には、肺がんの約8割を占める小細胞がんへの適用も認められました。
 オプジーボの最大の問題点は、その高価な薬価です。患者一人年間約3,500万円もかかるのです。もっともこの薬価は年470名程度の皮膚がんの患者で採算がとれるよう定めたものですが、肺がんにも適用されるようになり、対象者が1万5,000人に拡大したため、薬価が高すぎるという批判が出てきたのです。
 患者一人当たり年間3,500万円かかる薬剤費も、自己負担額で見たら少額です。一般的所得のある70歳以上の上限は約4万4,000円にとどまります。ようするにこの差額が公費や保険料でまかなわれていますので、現状が続けば、医療財政は破綻しかねません。
 そこで厚生労働相の諮問機関中央社会保険医療協議会(中医協)は、オプジーボの薬価を2017年2月より、半額に引き下げることを決めました。
 ところで薬価は2年に1度見直され、次の見直しは2018年4月のはずですが、オプジーボはそれを待たずに緊急的に引き下げられます。 厚労省は市場規模拡大に応じて随時薬価を引き下げるルールを作ろうとしています。年間1,000億〜1,500億円の販売額増大であれば、最大25%、1,500億円以上なら最大50%といった具合です。オプジーボの場合メーカーの見込み出荷額は1,260億円ですが、厚労省は流通経費などを上乗せすると1,500億円を超えると判断したようです。
 高額薬価の値下げは、医療費節減や医療保険制度維持の観点からは望ましいことです。その一方で、企業かの立場に立つと、新薬から十分な収益が得られないと、次の新薬開発に支障をきたすことになります。副作用が見つかった場合の訴訟リスクや、他社との激しい競合を考えると、製薬会社は強固な経営基盤を整えておく必要があります。
 難しい課題ですが、医療サービスの需要側(患者)と供給側(製薬会社)双方が納得できる薬価をどのように設定すればよいか、適切な制度設計が要請されています。

北方領土問題はどうなるか 

 現代日本経済史の講義では、鳩山一郎内閣と1955年体制の成立について述べたところです。さて鳩山一郎内閣といえば、1956(昭和31)年10月19日、ソビエトのブルガーニン首相との間で日ソ共同宣言に調印したことを忘れてはなりません。この条約によって日本とソビエトの戦争状態は終結し、国交回復を果たしたのです。しかしそのとき日ソ両国間の領土問題は解決されませんでした。
 さて日ソ共同宣言の第9項には、領土問題が取り上げられています。、そこでは、\犠錣奮宛魎愀犬回復された後、平和条約の交渉を継続すること、∧刃他鯡鵑猟結後に歯舞と色丹の2島を日本に引き渡すことなどが明記されているのです。
 ところが当時日ソ平和条約が結ばれなかったのは、領土の解釈をめぐり、日ソ間に食い違いがあったからです。まず日本の立場は北方4島(歯舞・色丹・国後・択捉)は日本固有の領土であり、ロシアの不法占拠が続いているというものです。とういうのも1945年8月9日、ソ連は1941年に署名され、当時有効であった日ソ中立条約を破り、4島を占領したからです。
 これに対しロシアは北方4島は第二次世界大戦で合法的に自国の領土の一部になったと言って譲りません。1945年2月、ソビエトのクリミア半島のヤルタでアメリカのルーズベルト、ソビエトのスターリン、イギリスのチャーチルが会談し、戦後の世界秩序が話し合われました。その席で米ソは、ドイツ降伏後、ソビエトは日本に参戦し、その代償として千島列島などをソビエトに引き渡すという密約を結んでいたのです。そして4島の日本帰属を認めると、日本が主張する「不法占拠」を受け入れることになるので返還には応じられないとしてきました。もし日本がヤルタからソビエト参戦の前までに戦争を終わらせていたら、北方領土問題は生じなかったかも知れません。
 このように領土問題を含む平和条約交渉は、平行線のまま今日に至っています。しかし冷戦終結後の1991年4月、やや前進の兆しが見えました。冷戦時代日本は4島一括即時返還を求めていたのですが、当時の海部首相とゴルバチョフ大統領との間で、北方四島が平和条約において解決されるべき領土問題の対象であることを、初めて文書で明記した「日ソ共同声明」に署名しました。そして「北方4島の日本の主権が確認されれば、返還の実際の時期や態様については柔軟に対処する」という姿勢を示すようになりました。
 ソ連崩壊後の1993年、当時の細川首相とロシアのエリツィン大統領が、「東京宣言」を発表しています。ロシアは日ソ共同宣言の有効性を認め、「北方四島の帰属の問題を法と正義の原則を基礎として解決し平和条約を早期に締結する」という交渉指針を確認しました。
 1997年には、橋本首相とエリツィン大統領は、ロシアのクラスノヤルスクで会談しました。そこでは「東京宣言に基づき2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」ことで合意しました。この合意の重要な意義は、北方領土問題解決の具体的な期限を定めた点です。日本政府には、エリツィン大統領との間で領土交渉が加速するという期待が高まりました。

トランプ大統領が誕生

 アメリカ大統領選挙は、共和党のドナルド・トランプ氏が、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官を破り、当選しました。メキシコからの不法移民を強制送還するとか、イスラム教徒の一時入国を禁止するといった具合に差別的な発言が目立ち、女性蔑視の姿勢に対する批判も絶えなかったので、「資質」が問題視され、事前調査ではヒラリー・クリントン氏の優位が伝えられていました。ところがふたを開けてみると、全く想定外の結果が出たので、世界中に衝撃が走りました。さらに驚いたのは、政治家経験がない人が超大国アメリカの頂点に立ったことです。
 それにしても、トランプ氏を勝利に導いた背景は何だったのでしょうか。それは現政権あるいは既成の政治が、多くのアメリカ国民が抱く不満や憤りを解消できなかったことだと思います。グローバル化の進展に起因する格差が拡大し、中南米からの移民増加のために、白人の低所得層の人々の地位が脅かされているにもかかわらず、政策担当者は有効な処方箋を示すことができませんでした。
 そうした中、偉大なアメリカの復活、アメリカ第一主義(=国を閉ざすこと)を訴え、一貫して既成勢力を批判するトランプ氏の姿勢に共感し、変化を求めたに違いありません。
 今後のことで気になるのは、トランプ氏が公約どおりの政策をどこまで本気で実行しようとしているかです。自由貿易が格差を生み出してきたので保護貿易が好ましいというのなら、輸入品に高率の関税をかけて、自国産業を保護するはずです。その結果世界貿易は縮小均衡に向かわざるをえません。TPPも振り出しに戻ります。ただしTPPに関しては、理念は正しいですが、交渉の過程や日本に十分なメリットがあるのかどうかの説明が不十分だったので、慌てて成立させる必要もないかと感じました。また減税と財政支出拡大の同時実施は、いかにも大衆迎合的だと思いました。財政危機の引き金を引き、世界経済に混乱をもたらす懸念があります。
 ここで国防に目を向けます。在日米軍の費用を全額負担せよと言われたら日本政府はどうするつもりでしょうか。北朝鮮に対抗するため、自前で核兵器を持てとも言っており、日米同盟の再考が求められています。 
 今回の選挙結果から明らかになったのは、アメリカ社会の分断がこれまで想像していた以上に進み、深刻であるということです。超大国アメリカがひとつにまとまるのは決して容易ではありません。これまで日本はアメリカ流のやり方を手本としてきましたが、それが豊かで幸福な社会の実現には結びつかなかったということです。それならばアメリカとある程度の距離をおき、協調を重視する日本独自の経済・社会システムを開拓すべきです。トランプ大統領の誕生を、新しい日本の姿を描き、実現する好機ととらえたいものです。

訪日外国人、2,000万人を突破

 12月11日(日)実施予定の政治経済と文化研究会では、牧瀬充幸さんが「我が国における観光立国の役割」と題してご報告くださることになっています。そうした折、今日の『朝日新聞・夕刊』に、10月30日までの速報値ですが、2016年日本を訪れた外国人が、年間ではじめて2,000万人を突破したという記事がありました。年末までには2,400万人に達する見込みです。
 顧みると、ビジット・ジャパンキャンペーンを始めた2003年は512万人にすぎなかったのが、観光庁が発足した2008年には835万人に増え、2013年には1,000万人の大台を突破しました。その後3年足らずのうちにさらに倍増して、今年2,000万人を超えたのは驚きです。政府は一段と高い目標を掲げ、2020年には4,000万人を目指すといいます。
 しかしこの目標を達成するには、いくつかの課題を解決しなければいけません。まず第一は、幅を広げることです。現状では訪日客の約4分の3が中国・韓国・台湾・香港からの訪問者です。これはアジア諸国の所得水準の上昇を反映しています。ただし、アジア諸国への高依存は、リスクもともないます。アジア景気の減速や、反日感情を高める事件が起これば、訪日客は大幅に落ち込むでしょう。欧米からの観光客も、もっと呼び込む必要があります。
 次に重要なのは、外国人にあまり知られていない観光地のPRです。京都や富士山など有名な観光地を除き、まだまだ外国人の認知度が低い名所は数多くあります。外国人が美しい自然や、日本独特の歴史や文化に触れることができるスポットを洗い出し、より積極的にその魅力を発信する努力も大切です。
 三番目に留意しなければならないのは、「爆買い」に依存した観光振興はそろそろ限界にさしかかっていることです。大型クルーズ船に乗ってやってくる外国人観光客は、ランドオペレーターと呼ばれる仲介業者が選んだ免税店によって「爆買い」するのですが、仲介業者の店舗選定基準は、自分たちに高額の手数料を払ってくれるかどうかだといいます。仲介業者に高額の手数料を求められるので、立ち寄り先となる店舗では、割高な商品を売りつけられるというトラブルも多発しているようです。また地域の商店街では買い物をしないため、地域消費拡大効果はあまり見られないのが現状です。今後は研修や体験、治療といった特定の目的を持った滞在型の旅行を増やしてゆくべきです。、
 日本経済は今、少子高齢化、人口減少、地域経済の衰退など、数多くの難問に直面しています。この苦境を、訪日外国人の増加によってどこまで打開できるでしょうか。牧瀬さんのご報告をベースに、みなさんと活発な議論ができるのを楽しみにしています。

関西学院大学 政治・経済と文化研究会第8回研究会 を行いました 

 日本とアメリカは同盟関係にあるといいますが、本当にそうでしょうか。実際はアメリカの従属国というのが適当かも知れません。というのも、日本の戦後は敗戦国、被占領国とし始まったからです。終戦後間もなくの頃は、対米従属の姿勢を示し、まず国際社会に復帰し、その後徐々に自立してゆこうという国家戦略だったと思われます。1951(昭和26)年吉田茂内閣のときのサンフランシスコ平和条約で占領政策を終わらせた意義は大きかったといえます。しかしこれと同時に結ばれた日米安全保障条約は、日本国内にアメリカ軍の駐留を認める一方で、アメリカの日本防衛義務は定められておらず、片務的なものでした。
 その後も冷戦の中で、日本はアジアにおける共産主義陣営進出に対抗するための拠点として、重要な役割を果たしました。1972(昭和47)年の沖縄返還は、その見返りといえます。ところが沖縄返還以降は、日本の負担は増えるばかりで、日本にとってのメリットは見当たりません。政治家は対米自立の精神を忘れ、経済、軍事、外交などすべての面で自己判断を行わず、アメリカの意向を重視してきたように感じます。沖縄の基地はもちろん、横田や厚木基地の返還の話は出てきません。
 さて中国は経済規模が世界2位の大国となり、軍事的にも大きな存在感を示しています。日本やアメリカとは政治体制が異なって共産党一党独裁であり、国防費も継続的に増大させているところです。日本の尖閣諸島周辺には中国の船や航空機が頻繁に侵入してきており、警戒が必要です。また北朝鮮は核兵器開発を進めており、日本にとっては脅威です。
 以上のような国際情勢に照らし合わせてみると、日米同盟がなくなれば、東アジアの安定と平和は崩壊するかもを知れません。アジアの経済成長は日米両国にメリットがあり、平和と安定の維持は不可欠です。
 とはいえ同盟強化のために日本の負担は急速に拡大して「平和国家」のイメージがなくなりつつあり、自衛隊のあり方も根本から変わることに危惧を覚えます。日米同盟の強化が、アメリカの世界戦略に沿って、海外での軍事行動も辞さないという日本の政策変更の表明になっていないでしょうか。
 安倍政権は「中国の脅威」や「安全保障環境の変化」を強調するあまり、中国との関係改善をはかる努力をしていないように感じられます。これはロシアのプーチン大統領とは良好な関係であるのに、習近平・中国国家主席との日中首脳会談は緊密ではないことにも反映されています。中国との対決姿勢を示すことで、支持率を高め、政権基盤の安定をはかっている感もあります。
 私は米中2大国で国際政治が動いている現在、アメリカ一辺倒になるのは好ましくないと思います。中国とも様々な分野で対話を進めていくことが重要です。

関西学院大学 政治・経済と文化研究会第8回研究会 を行いました 

 次に日米同盟と密接な関連がある普天間基地の辺野古移設問題に焦点を当てました。この件では、安倍政権と沖縄県民が激しく対立しています。
 周知のように、普天間はオスプレイなどを収容する海兵隊の基地です。そもそもどうして沖縄に海兵隊がいて、なぜ海兵隊の基地が必要なのかという議論から始めなければいけません。
 沖縄の海兵隊は、補給や医療の後方支援、司令部機能が主流です。戦闘部隊としては「MEU:Marine Expeditionary Unit」と呼ばれる2,000人規模の第31海兵遠征隊が駐留するのみで、その中の基幹となる歩兵は、1個大隊800人程度しかいません。その第31海兵遠征隊の兵員もアメリカ本土から6ヶ月交代で派遣されてくるだけです。戦車も持っていませんから、戦争はできません。中国や韓国、台湾などの在留米国人の救助を行うのがやっとです。
 沖縄との関係は深く、黒船で来航したペリーは、海兵隊を連れて沖縄に上陸しました。第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争で主力を担ったのも海兵隊でした。こうしたいきさつから、沖縄には多くの海兵隊員が駐在しているかと思われますが、定員1万8,000人のうち、イラク戦争で駆り出された部隊はそのまま戻らず、一部部隊の移転もあり、現在、実際に沖縄にいるのは1万2,000〜3,000人程度とみられています。今後も米軍再編によって規模が縮小され、2020年ごろまでに定員は1万人になる見込みです。
 さて現在、日本の防衛政策は中国の海洋進出を強く意識しています。そのため、沖縄の地理的重要性がしばしば指摘されます。
 ところで海兵隊というと海上活動のイメージが先行しますが、実際は上陸作戦を得意とする陸戦隊です。上陸には海兵隊員を運ぶ船、空中援護を行う航空隊といった具合に、陸海空の総合力が求められます。そうすると、オスプレイとヘリの部隊は普天間、戦闘機や給油機などは岩国、揚陸艦などの船舶は佐世保と、陸海空の部隊が日本各地に分散している状態は非効率的です。普天間飛行場を辺野古に移設するより、佐世保に近い自衛隊基地に移すほうがずっと効率的であるという専門家もいます。
 日本政府は「普天間の代替施設は抑止力の維持に不可欠」と主張しますが、海兵隊は強い「抑止力」ではありません。嘉手納空軍基地のF15戦闘機と横須賀海軍の第7艦隊こそが「抑止力」というのが一般的な見方です。
 私は海兵隊は戦力として決定的な力はないのにどうして必要なのかと疑問に思います。政府見解は、沖縄に海兵隊が存在していることが抑止力と言っているにすぎず、より効果のある抑止力について検討する必要があると思います。
 冷静に考えると、沖縄における基地の維持を望んでいるのは海兵隊自身であって、日本の防衛には大きな影響がありません。政府は「辺野古移転が唯一の解決策」と言う前に、海兵隊の存在意義を再考すべきです。

関西学院大学 政治・経済と文化研究会第8回研究会 を行いました 

 本日、関西学院大学 政治・経済と文化研究会第8回研究会を行いました。今回はご都合が悪く、出席できなかった会員がやや多かったのは残念でしたが、現在私の担当科目を受講中の現役学生が3名参加し、会に新風を吹き込んでくれました。世代を越えて活発な意見交換を行うことこそが私たちの会が目指すところです。これからの日本を担う若い世代のメンバー加入は嬉しいかぎりです。
 さて今日の私の話題提供は、「アジアを取り巻く安全保障環境と日米同盟」に関してです。まず最初に、2015年4月27日、18年ぶりに改定された日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を取り上げました。自衛隊の米軍への協力内容が質量とも大きく拡大したのが特徴です。日本はやはり中国の軍備増強や、東シナ海、南シナ海への海洋進出、北朝鮮の核開発などを意識し、アメリカの支援を得るために、自衛隊に実行可能なすべてのメニューを出し切った感があります。他方アメリカの立場に立てば、財政難で軍事費の削減を余儀なくされています。アメリカは中国に対抗するため、自衛隊ができることや活動範囲を広げ、米軍の肩代わりを望んでいます。ガイドライン改定は、両国の思惑が一致した結果にほかなりません。
 その後2016年3月29日、安全保障関連法が施行されたことを述べました。安倍内閣が憲法解釈を変えて成立させた安全保障関連法が動き出すことで、変わる点、これまでと変わらない点を検討しました。私がどうにも納得しがたいのが、憲法や従来の政府見解と整合性がとれていない点です。詳細は省きますが、安倍政権が集団的自衛権を「行使できる」と主張する根拠としたのは、1972年、田中角栄内閣のときに出された政府見解です。しかしこの政府見解の結論は、「わが憲法の下で、武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することを内容とする集団的自衛権の行使は、憲法上許されないと言わざるを得ない」というものです。安倍政権は、従来の見解と全く逆の解釈を行っているのですが、その理由を国民に説明していません。
 議論の際焦点になったのは、自衛隊に憲法で認められている「自衛のための武力行使」の範囲を超えて、米軍に協力すべきかどうか、という点です。多くの会員は武力行使は自衛の場合に限るべきだ、集団的自衛権の行使は日本の能力を超えている、いったん戦争に巻き込まれると、決着がつくまで戦わなければならず、リスクが大きすぎるというものでした。

マイナス金利政策の効果は出ているでしょうか?

 25日の講演準備がようやく整いました。色々調べながら14ページほどの原稿を作りましたが、締切日直前の数日は徹夜状態で苦しい思いをしました。それだけに原稿が完成し、公民館の担当者宛てのメールで「送信」ボタンを押すときの爽快感は何ともいえません。しかし喜んでいられるのも束の間で、30日には尼崎市立園田公民館において、「世界経済の動向と黒田・日銀の金融政策 〜マイナス金利導入の衝撃〜」というテーマでの講演が控えています。もっと早くから準備しておけば、こんなにつらい思いをして原稿を書く必要がないのですが、ギリギリになって追い詰められないとエンジンがかからないのが、私の悪いクセです。
 さて今日はマイナス金利政策のプラス面とマイナス面について考えてみます。1月29日付の経済コラムで取り上げましたように、日銀は今年1月29日の金融政策決定会合でマイナス金利導入を決めました。(実施は2月16日から)それから早くも半年以上が経過していますので、この政策の有効性を判断する時期が来ていると思います。
 最初に導入にあたり、日銀が描いたシナリオを確認しておきましょう。日銀はマイナス金利政策を採用することによって、市場金利が大幅に低下し、家計の消費や企業の投資を刺激し、インフレ期待が高まって、消費者物価の2%目標が達成されると考えました。
 実際、その狙い通り、市場金利急低下してゆきました。長期金利の指標になる10年物国債利回りは年0.04%からマイナス0.1%に低下したほか、住宅ローン金利(10年固定型の最優遇金利)も0.5%前後に下がり、借り換えが活発になっています。大企業の資金調達は、これまで」以上に容易になったといえます。
 しかし経済全体に好影響を与えているかというと、そうとも言えません。何よりも、消費者物価が上昇する兆しが一向に見られないのです。
 その原因として考えられるのは、円安・株高の好循環が起こっていないことです。これまでは金融緩和緩和政策が発表されると、反射的に大幅な円安・株高となり、輸出企業の業績改善や家計の資産拡大による消費喚起につながりました。理論的に考えると、マイナス金利は海外との金利差を広げ、円安が進行してゆくはずです。しかし現実は、円相場は円高方向に動き、1ドル=100円を切って円高が進みそうな気配です。タイミングの問題もあるかも知れませんが、マイナス金利が決まったのは、中国の景気減速リスクが広がっていたときです。世界的にリスク回避ムードが強く、外貨や株式に投資資金が向かわなかったのです。
 予期せぬ円高により、多くの製造業の4〜6月期は減益決算を余儀なくされました。円安・株高が進まない中、家計は国債や預金の金利低下に不安を強め、消費行動を萎縮させてしまいました。
 いまひとつ、金融機関の利益の源泉である預金と融資の利ざや縮小も見過ごせません。3メガ銀行はマイナス金利が2017年3月期決算で少なくとも合計3,000億円程度の減益要因になると金融庁に報告しています。景気は決してよい状態ではありませので、企業や家計が不安を持っており、そうした中で貸出金利を下げても融資が伸びないという状況です。
 7月29日の経済コラムで述べましたが、日銀は9月の金融政策決定会合までに、これまでの金融緩和政策の総括を行うということです。その際、マイナス金利政策の有効性をどのように判断するか、注目したいと思います。

2017年卒 大学生・大学院生が就職したい企業は?

 2017年卒の大学生・大学院生に対する経団連加盟企業の面接選考が今日1日解禁されました。面接活動が一斉に始まりました。昨年よりスケジュールが2ヶ月早くなり、人手不足による売り手市場というのが今回の特徴です。おそらくどの企業も、好感を持った学生は早くおさえようとするため、短期のうちに内々定(=採用予定通知)をもらえる学生も多くいると考えられます。
 さて2017年卒の学生たちは、どのような企業に就職したいと思っているのでしょうか。少し前ですが5月12日付の『日本経済新聞』に、文系、理系別に載っていましたので、ご紹介します。

2017年卒の大学生・大学院生 就職企業人気ランキング

文系総合                  理系総合 
 。複圍促哀襦璽廖             〔の素 
◆〜監本空輸              ◆‥貽本旅客鉄道 
 エイチ・アイ・エス            資生堂 
ぁ‘本航空                ぁ.肇茱深動車 
ァ〇杏東京UFJ銀行          ァ.汽鵐肇蝓璽曄璽襯妊ングス 
Α‥豕海上日動火災保険       Α.ゴメ 
А〇旭羹四Ф箙圈            А〔声グループ
─‥邸…漫                 ─。裡圍團如璽拭
➈ 博報堂                 ➈ 山崎製パン 
 みずほフィナンシャルグループ    ソニー

 当然ながら、文系と理系で事情が異なりますが、文系は、旅行、運輸(空運)、銀行、広告が人気です。それに対して理系は、食品、鉄道、化粧品、ITといった部門です。
 文系・理系に共通しているのは、製品やサービスにブランド力があり、ふだんの生活のなかで接することが多い企業といえるでしょう。
 私がやや意外に思ったのは、例えば電子部品や工作機械など、世界的に優れた技術を持ちながら、日常生活で接点が見出しにくい企業がランクインしていないことです。また高齢化社会の到来を見越し、医療、製薬、福祉サービスなども成長の余地があると思っていましたが、存外見過ごされています。
 上記でランクインしている企業は、華やかでスマートでカッコいいというイメージがあり、誰もが憧れる理由がわかるような気がします。ただし応募が殺到し、「狭き門」であることは確実です。
 ところで私は閑があったら、よく『日経 会社情報』を見ています。気合を入れて読んでいるわけではありませんが、これまでに知らなかった企業、珍しいものを作っている企業にいくつも出会いました。無数の企業から各自に最適の企業を選ぶのは至難の業ですが、知名度ばかりではなく、業務の内容、時代との適合性、将来性など、様々な評価基準を取り入れることが重要だと考えます。日経テレコンを利用した企業情報の収集なども、後悔のない進路を決める上で、日々心がけたい取組です。

消費税率10%への引き上げ 再延期か

 伊勢志摩サミットが27日に閉幕しましたが、安倍晋三首相が「世界経済はリーマン・ショック前に似ている」との景気認識を示したのには驚きました。その根拠として、商品価格の下落や新興国経済の低調を指摘しました。確かに、原油価格は年明けに急落しましたが、現在は回復傾向にあるし、深刻な金融市場の動揺は起こっていません。アメリカは追加利上げのタイミングをを探っているところです。世界経済がリーマン級の危機に直面しているという認識なら、利上げを考えるはずがありません。
 釈然としないのは、安倍首相過去の発言との整合性です。今年2月の衆議院予算委員会において安倍首相は、「安倍内閣の3年間でGDPは実質で1.9%、名目で5.6%伸びている」と、アベノミクスの成果を強調しました。さらにサミット直前の5月23日に発表された月例経済報告では、「世界の景気は、弱さがみられるものの、全体としては緩やかに回復して いる。 先行きについては、緩やかな回復が続くことが期待される」 という認識示されています。にもかかわらず、サミットにおいて唐突になぜ世界経済は危機的状況と言わなければならなかったのでしょうか。誰も納得する人はいないでしょう。
 繰り返しになりますが、安倍首相は突如「リーマン・ショック」を持ち出し危機を強調したのは不可解です。強引にこのような主張を表明した背景は、消費税増税を再延期です。安倍首相は28日夜、麻生太郎副総理兼財務相と谷垣禎一幹事長らに消費税率10%への引き上げを2019年10月へ再延期する考えを伝えました。安倍氏の自民党総裁任期は2018年9月までですから、自身の政権期間中に増税しないことを表明したともいえます。つまり、増税実行は次期首相の仕事というわけです。
 安倍首相は、2014年末衆議院解散総選挙の際、「東日本大震災級の大災害の発生や「リーマン・ショック級の経済危機が起こらないかぎり、消費税は2017年4月に確実に10%へ引き上げる」と断言しました。そして、財政再建の旗を降ろすことは決してない。安倍内閣のこうした立場は一切揺らぐことはない」と約束しました。したがって増税再延期は約束に反します。そこでこれを正当化するため、「リーマン・ショック級」という言葉を持ち出さざるをえなかったと思います。
 しかしサミットに参加した世界の首脳たちのみならず、我々一般市民でさえも、増税を再延期の根拠をリーマン・ショック級の経済危機で説明することに大きな違和感を覚えているに違いありません。加えて増税再延期ということは、増税できる環境を整えられなかったことを意味しますので、今後野党は「アベノミクスの失敗」として、批判を強めるでしょう。また公明党は、増税と軽減税率の導入を前提に動いてきたはずですが、公明党の理解は得られるのでしょうか。
 話は変わりますが、現在開講中の医療講座において、どの先生も口をそろえておっしゃることが、高齢化の急速な進行により、これまでどおりの手厚い医療サービスを提供するのは困難になるという見通しです。税制は、まさに社会保障と一体で考えるべき優先順位の高い問題です。それほど重要な政策課題に対し、首相の発言がブレ、行き当たりばったりの経済認識が示されたことを大変残念に思います。

サミットの歴史

 今月26、27日両日、私の郷里三重県で伊勢志摩サミットが開催されます。サミットの日本での開催は、2008年の北海道・洞爺湖サミット以来6回目になります。
 今回のサミットの中心舞台となる志摩市へは、小さいころよく出かけていました。夏休み、大好きな近鉄特急に乗って賢島まで行き、風光明媚な英虞湾めぐりをしたり、水族館(志摩マリンランド)を見物するのがとても楽しみでした。三重県民にとって、最もポピュラーな観光地でサミットが開催され、全世界の注目を集めることになるとは、当時夢にも思いませんでした。
 さて今日は、簡単ですが、サミットの歴史を振り返ってみたいと思います。サミットは1975(昭和50)年11月、パリ郊外のランブイエ城において、日、米、英、仏、独、伊6ヶ国の首脳が集まり、第1回会合が開催されました。開催を提唱したのは、フランスのジスカールデスタン大統領です。サミット開催の引き金となったのは、西側先進国の危機意識といえるでしょう。すなわち1970年代初頭、ブレトンウッズ体制が崩壊して、国際金融システムが変動相場制に移行したこと、第一次オイル・ショックによって、世界経済がスタグフレーション(インフレと不況の同時進行)に見舞われたことが挙げられます。なお第1回サミットに日本から出席したのは、三木武夫首相です。
 その後1976(昭和51)年、カナダが加わり、「G7」と呼ばれるようになりました。毎年先進国の首脳が集まり、協議をする必要性が生まれたのは、各国経済や世界経済が抱える課題が複雑化し、もはや一国で解決できず、政策協調によって乗り切るほかないという共通認識が生まれたからです。そして経済問題と並び、例えば冷戦を背景とした東西対立への対応、冷戦崩壊後の国際問題、南北問題など、政治・外交にまつわるテーマも話し合われるようになります。
 1998年にはさらにロシアが加盟し、「G8」となりましたが、2014年、クリミア半島の併合を行ったため、同年より再び「G7」の枠組みに戻りました。21世紀入ってからのサミットは、気候変動、エネルギー、金融規制、開発、医療、高齢化、女性活躍など、より広範なテーマで議論されるようになりました。
 ロシア参加停止後のサミット(G7)は、自由や民主主義など共通の価値観を共有する国の集まりとなり、話が進めやすくなったと言います。今なら特に中国の海洋進出により、「法の支配」が脅かされている事態に、G7各国は危機意識を抱いているに違いありません。
 繰り返しになりますが、1975(昭和50)年にスタートしたサミットは、私にとって現代史というよりは、リアルタイムの出来事という印象のほうが強いです。少し経済の話がわかるようになってからは、サミットの議題となるテーマが、最も緊急性の高い重要テーマであると認識し、マメに新聞記事をチェックするようになりました。私の地元三重県で行われる今回のサミット、どのような問題が取り上げられ、有効な対策を打ち出すことができるのでしょうか。また、G7の結束をアピールできるかどうかにも、深い関心を持っています。

ホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領の政治思想

 ホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領の来日が大きなニュースになっています。彼はその質素な暮らしぶりから、「世界で一番貧しい大統領」として有名です。来日に合わせ、4月1日の『朝日新聞』に、「清貧の政治思想」と題してインタビュー記事が載っていたので一読したのですが、私は深い感銘を受けました。経済学(歴史)を学ぶ根本的な意義は何か、より大きな視点では、混迷を極める日本経済、世界経済をいかに改革し、どのような方向に進むべきかというビジョンが示されていると感じました。以下彼の主張をご紹介します。
  愽呂靴た諭戮箸蓮限りない欲を持ち、いくらあっても満足しない人のことだ。
◆‖舂名暖颪隼餮擦力家颪鯊海院⊆然を攻撃していては地球がもたない、生き方から変えていこう。
 人は苦しみや敗北からこそ多くを学ぶ。失敗から学ぶことが大切。
ぁ’狂は危険。狂信は必ず、異質なものへの憎しみを生む。憎しみのうえに、善きものは決して築けない。異なるものにも寛容であって初めて、人は幸せに生きることができる。
ァ〔閏膽腟舛慮凝世蓮貴族社会や封建社会に抗議し、生まれによる違いをなくしたこと。私たち人間は基本的に平等だ、という理念の上に成り立っている。
Α\治家は、世の中の大半の国民と同じ程度の暮らしを送るべき。一部特権層のような暮らしをし、自らの利益のために政治を動かし始めたら、政治への信頼は失墜する。
А/啓由主義経済の浸透が格差拡大につながった。格差を解消するためには、政治が介入せざるをえない。政治の役割は公正な社会を目指すこと。国家には社会の強者から富を受け取り、弱者に再分配する義務がある。グローバル化が進み、世界に残酷な競争が広がっていることを危惧する。すべてを市場とビジネスが決めて、政治の知恵が及ばない状況は、まるで頭脳のない怪物のようだ。
 以上のムヒカさんの主張、みなさんはどう受け止めますか。全面的にその通りと賛同するものもあれば、理念は正しいけれども、実践は難しいと感じるところもあるはずです。ただyesかnoで簡単に割り切れるものではないこと、幸福な経済・社会の実現のため、避けて通ることのできない重要課題であることは、理解していただけたと思います。
 上記のような本質的なテーマに対し、望ましい回答を模索することが、経済学の学ぶ者にとって、第一の使命であると考えています。

短期と中長期の視点で考える経済政策の課題 (西宮市明るい選挙推進協議会(明推協)主催講演会)

 本年最後となりましたが、今津公民館において、西宮市明るい選挙推進協議会(明推協)主催の講演会で、「短期と中長期の視点で考える経済政策の課題」と題して約90分、お話をしました。明推協主催の講演会にお声掛けいただくのは昨年に続き2度目です。昨年はちょうど安倍首相が消費税率引き上げ延期の是非を問うという名目で、衆議院解散を表明したタイミングでの講演だったのですが、1年が経過し、やがて4年目を迎える安倍政権の経済政策を、総括してみました。
 今回の講演では日本経済を人間にたとえました。リーマンショック後、明らかに体力が低下しており、かなり弱っています。これを元気にするのが、名医=すぐれた政策担当者の使命です。
 安倍政権はまず大胆な金融緩和と財政支出拡大という治療法を施しました。金融面では、資金供給量(マネタリーベース)を著しく増大させ、2015年末には、355兆円まで膨張する見込みです。GDPの実に7割強に相当する水準です。金融緩和という薬の効き具合をよくするため、投与する量を大幅に増やしたわけですが、2%の物価上昇には至りませんでした。
 一方毎年の公共事業費は、1990年代、バブル崩壊後の景気対策として大盤振る舞いしていた時期とほぼ同額で、10兆円を超え、景気を下支えしました。もっとも直近の動向をみると、建設現場の人手不足、賃金・資材価格の高騰で、工事がこれ以上増やせない状態にあります。
 私は、大胆な金融緩和と財政支出拡大政策は、応急処置としては一定の効果をもたらし、景気のさらなる悪化を防いだと思います。病気の治療と重ねると、鎮痛剤で痛みをおさえているようなものです。しかし病気が根本的によくなったわけではありません。
 日本経済には長期入院で、根本的に治療しなければいけない問題があります。とりわけ、1,000兆円を超える借金問題、少子高齢化の進展、地方都市の衰退(東京一極集中)などが深刻です。これらを改善するには、かなりの「腕」が必要です。人口減少社会の到来は、需要・供給の両面で経済に悪影響を及ぼします。1人の女性が生涯に産む子供の数(合計特殊出生率)を、2014年の1.42から、1.8程度に高めることが急務です。さらに厳しい財政事情のもとで高齢化が進む現在、高福祉・低負担を望むのは困難です。高福祉を求めるなら高負担(増税)はやむをえず、低負担を希望するなら、福祉サービスの水準切り下げを受け入れざるをえません。限られたお金をいかに有効に使い、無駄を省くかが問われています。元気をなくした地方都市に、活力に溢れた産業を形成し、若者や女性、働き盛りの世代にとって魅力のある職場を生み出すことも重要なテーマです。
 政策担当者は、以上のような応急処置では治せないような長期的課題にこそ力を注ぎ、日本経済の健全化をはかってほしいと願っていると述べました。
 一般市民に加え、西宮市の関係者もたくさん駆けつけてくださり、熱心に耳を傾けていただきました。今年の締めくくりとなる講演を無事終えることができ、肩の荷がおりた気持ちです。
 

2015年度 基礎演習 確認テスト を行いました        

 本日の基礎演習の時間に確認テストを行い、下記のような出題をしました。ディベート大会で議論した原発再稼働をめぐる問題と、成人年齢引き下げの是非は、いずれも時宜にかなっており、経済学部1年生が取り組むのにふさわしいテーマだったと思います。
 12月を迎え、基礎演習の残り回数もわずかとなりました。1年間の学びの総仕上げの時期です。論理的で説得力のあるレポートを書く能力を身につけ、次の学年に進んでほしいと願っています。

2015年度 基礎演習 確認テスト         2015.12.8 実施

下記の設問AまたはBのどちらか一方を選択して解答しなさい。

【A】 原発再稼働をめぐる論争について、次の設問に答えなさい。

(1) 「経済性」を重視する論者は、再稼働を推進すべきであると主張します。 原発再稼働のメリットについて論じなさい。30点
(2) 「安全性」を重視する論者は、再稼働は危険であると主張します。原発再稼働に関し、考えられるリスクを指摘しなさい。30点
(3) (1)、(2)をふまえ、今後の日本のエネルギー政策はどうあるべきだと考えますか。あなたの見解を述べなさい。40点

【B】 公職選挙法が改正され、2016年夏の参院選より、投票できる年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられます。このことをふまえ、次の設問に答えなさい。

(1) このような制度変更は、どういった効果を期待してのことですか。「シルバー民主主義」をキーワードに論じなさい。35点
(2) 一方で、選挙年齢の引き下げを実施しても、メリットが少ないという意見も根強くあります。その理由を述べなさい。35点
(3) 選挙年齢の引き下げに合わせ、民法や少年法など、他の法律の適用年齢も引き下げるべきだという意見があります。具体的な事例を挙げ、選挙年齢の引き下げに並行して引き下げるのが望ましいものと、そうでないものについて、あなたの見解を述べなさい。30点

安倍政権の経済・財政政策 ― 評価と展望 ― (伊丹市立中央公民館市民大学講座 

 21日月曜日から、秋学期の講義が始まりました。連休の只中からの講義開始は、さすがにきついものがあります。今夏私は講演が立て込み、連日研究室に缶詰状態で、一歩も外出できませんでした。講演ラッシュがほぼ終わりに近づいたと思ったとたん、講義のスタートです。もっとも今学期は、金曜日に講義がありませんので、金・土・日とまとまった時間が使えるのがありがたいです。
 さて今日は伊丹市立中央公民館にお招きいただき、「安倍政権の検証 〜今とこれから〜 ^打楡権の経済・財政政策 ― 評価と展望 ― 」というテーマで講演させていただきました。伊丹市へは初デビューとなりましたが、公民館の担当者が私のホームページを見て、依頼のご連絡をくださいました。大変光栄なことです。ゼミ教室のような雰囲気の中で、参加者のみなさんは、メモをとったり頷きながら熱心に耳を傾けてくださり、2時間があっという間に経過した感じです。
 講座の目的は、ひことでいうと、2012年12月に成立した安倍晋三政権の経済政策を検証することです。
 まず経済政策に関しては、最新のデータで景気の現状を確認し、金融・財政政策の効果を分析しました。異次元緩和を通じ、インフレ目標を設定し、経済に大量の資金を流し込んだものの、デフレ脱却には至っていないことを述べました。また財政政策は、初期には一定の効果があったと思いますが、最近では供給制約の壁にぶつかり、一層の拡大が困難になっていることを論じました。さらに2015年度の一般会計予算を紹介しながら、プライマリーバランスの分析を試みました。
 深刻な少子・高齢化に直面する日本経済は、生産性を高めることが重要課題になっています。そのための方策として安倍政権が力を入れている企業改革、人口減社会への対策、地域活性化策など、いわゆる「第三の矢」についても検討しました。
 講義終了前には貴重な質問もいただきました。ひとつは、「大胆な金融緩和」でデフレは解消できるのかというものです。率直に言って、私は難しいと考えています。なぜなら、デフレの本質的原因は、途上国からの安価な輸入品の流入、人口減少による需要減退、企業の生産性向上にともなう製品価格の下落によるものだからです。私は実体経済が改善されないかぎり、デフレは止まらないと考えます。そのためには、日本経済の根本治療が必要です。すなわち、雇用・年金・医療・介護分野における将来不安の解消、高度成長期の家電製品や自動車に相当するランドマーク商品の開発です。安倍政権には、こういった手間のかかりそうな課題にこそ、重点を置いて取り組んでほしいと答えました。
 別の方は、年ごとに増え続ける国の借金に強い懸念を示されました。「日本は大丈夫なのか」と。講演の中で、国の借金残高は、2014年度末時点で1,053兆3,572億円に達し、国民1人当たり約830万円の借金を抱えているという現実に、大きな衝撃を受けられたようです。
 財政状態を改善するには、途は2つしかありません。すなわち、税収を増やすか歳出を削減するかです。景気が悪く、税収の劇的な伸びは期待できない現状では、消費税増税に頼るしかないと言われています。しかし、2017年4月の消費税率10%引き上げに、日本経済は耐えられるのかとても心配です。増税も歳出削減も厳しい状況で、与野党はどのようにして財政健全化をはかるのでしょうか。明確な工程表の提示を求めたいところです。
 安保関連法案を成立させるため、安倍政権は相当な体力を消耗し、経済政策が疎かになったことは否めません。しかし一般市民の切実な思いは、日本経済の経済・財政面での抜本改革であることを感じました。政治が国民の要請に応えられていないことが残念です。

安倍政権の重要課題 〜デフレ脱却・地方創生・安全保障法制をめぐって〜(尼崎市立園田公民館市民大学講座 ◆

 本日は、尼崎市立園田公民館市民大学講座において、「安倍政権の重要課題 〜デフレ脱却・地方創生・安全保障法制をめぐって〜」と題して講演を行いました。講演の主たる目的はは、2012年12月に成立した安倍晋三政権の経済政策と安全保障政策を検証することです。
 まず経済政策に関しては、最新のデータで景気の現状を確認し、金融・財政政策の効果を分析しました。異次元緩和を通じ、2年で2%のインフレ目標を設定し、経済に大量の資金を流し込みましたが、物価上昇率はゼロ%近辺で低迷したままであることを指摘しました。市場ではさらなる緩和期待が高まるに違いありません。しかし国債の一段の買い入れを行うにも限界があり、政策に手詰まり感が出てきています。デフレ脱却には、雇用の改善を通じた賃金上昇に期待するほかないと述べました。
 また財政政策は、初期には一定の効果があったものの、最近では供給制約の壁にぶつかり、さらなる拡大が困難になっていることを論じました。
 そのほか、少子・高齢化と人口減少の進展にともなって疲弊が著しい地方経済に焦点を当て、地域活性化の道をさぐりました。
 続いて安倍政権による安保政策の大転換を取り上げました。憲法改正ではなく、解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認することに多くの国民が反対し、大多数の憲法学者が違憲と主張する中、安倍首相はなぜ新しい安保政策の成立を急ぐのでしょうか。その背景を考え、様々な問題点を明らかにしました。

激しく変動する原油価格

 昨年からスタートした総合コース528 「仕事のやりがいと幸福」、今年の秋学期も開講予定です。近いうちに日程表を掲載しますので、ブログをご覧の関学生のみなさんは是非受講してください。この講座のウリは、様々な業界でご活躍の講師の先生方に、業界の特徴や動向をお話しいただき、豊富な経験や奥深い哲学についても語っていただきます。受講生にはそのタイトルどおり、 「仕事のやりがいとは何か」、「幸福とは何か」という人生の究極のテーマについて考えていただく契機になればと願っています。
 私は昨年全講義に出席し、これまであまり内情を知らなかった業界について学ぶことができ、以後の研究で、大いに役立てることができました。(株)大阪国際石油精製取締役経営企画部長・木暮英樹 先生のお話をお聞きして以降、原油価格の動きに注目するようになりました。そして、原油価格の変動から、日本と世界の景気動向がよく見えてくるようになりました。
 今、原油価格が激しく変動しています。米国指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は8月31日1バレル49ドル台まで上昇し、約1カ月ぶりの高値をつけました。31日までの3営業日の上昇率が実に27%に達しました。ちなみに8月24日には、1バルル=37.75ドルまで下落し、6年半ぶりの安値をつけています。
 急反発の原因は、アメリカでシェールオイルの生産量が下方修正され、供給過剰に歯止めがかかるとの観測が浮上したことです。さらに石油輸出国機構(OPEC)が、「原油価格を適正な水準に保つため、ほかの産油国と協議する用意がある」と表明したことも看過できません。市場ではOPECが生産調整に前向きな姿勢に転じたとの思惑が広がりました。
 もっともOPECが本気で生産調整を考えているかどうかは不透明です。ロシアやアメリカなどOPEC非加盟国が原油生産を拡大しており、逆行する動きは取りにくいからです。またOPEC内でも市場シェア争いが激しく、特にサウジアラビアは減産に消極的です。
 原油価格に影響を与えているのは、何といっても世界の景気です。今回WTIが1バレル40ドルを割り込んだのは、中国景気の減速懸念によるものです。したがって石油価格安定のための条件は、中国経済が立ち直ることだといえます。加えてヘッジファンドの行動も、相場の振れ幅を大きくします。需給が緩むとみれば大きく売り込み、引き締まる要因が見つかれば、慌てて買い戻します。今回の急反発は、新規の需要が出たわけではなく、投機マネーの買戻しによるものとみられています。
 話は変わりますが、日銀は4月30日、2%の物価目標の達成時期を「2015年度を中心とする期間」から「2016年度前半」へ後ずれさせました。2013年4月に導入した「異次元金融緩和」により、デフレ脱却が実現するのかどうか、微妙な雲行きです。経済に大量のお金を流し込んでも、石油価格が低位安定していれば、なかなか物価水準は上がりません。しかし産油国が思いきり生産を抑制し、石油価格が高騰すれば、物価目標が達成できるかもしれません。このような需要増加を伴わない供給サイドが引き起こすインフレーションをコストプッシュインフレーションと呼びます。コストプッシュインフレーションで2%の物価目標が達成できたとしても、生活が苦しくなるだけで、私たちにメリットはありません。

戦後日本の軌跡 〜 平和主義・経済発展・国際貢献を中心に 〜 (尼崎市立園田公民館市民大学講座 

 8月も終盤にさしかかりましたが、私はこれから1ヶ月あまりの間、市民講座ラッシュで正念場を迎えます。お引き受けするときはやる気満々なのですが、資料の原稿を書き始めるとなかなか思いどおり進まず、期日が近づくにつれ焦りが増幅してきます。
 さていっぱい詰め込んだ講演の初回は、尼崎市立園田公民館において「戦後日本の軌跡 〜 平和主義・経済発展・国際貢献を中心に 〜」と題してお話しさせていただきました。本格的準備には、定期試験の採点が終わった今月はじめから取り掛かったのですが、資料の完成は前日になり、また担当の方にご迷惑をおかけしてしまいました。
 本日の講演テーマは敗戦〜高度成長期の経済史です。あらためて述べるまでもありませんが、私たちは今年(2015年)、戦後70年を迎えました。そこで講演では、終戦から高度成長が終わるまでの約25年間に焦点を当て、その間の経済・社会の移り変わりをたどってみました。第二次世界大戦による犠牲者は300万人を超え、建物、機械設備、船舶などの物的損害も大きく、国富は戦争中の最大水準に比して4分の3程度にまで落ち込みました。
 戦争は日本に大きな爪跡を残しましたが、戦後復興は目覚ましく、終戦からわずか25年間で廃墟から見事に立ち直り、経済大国としての揺るぎない地位を固めるに至りました。その経過をたどるのを、今回の講座の大きな目的としました。さらに軍国主義を排除し、豊かで幸福な市民生活の土台となる民主主義を定着させた経緯にも注目しました。
 戦後史を丹念にふりかえると、現在重要な政治テーマとなっている日米関係のあり方、安全保障法制、改憲か護憲かといった課題がどうして持ち上げってきたのかがよく理解できます。例えば、今後の日米関係を考えるには、日米安全保障条約の締結まで遡る必要があります。日米安全保障条約は、サンフランシスコ講和条約調印と同じ日に調印されました。その結果、アメリカ軍は極東の平和と安全のために独立後も日本に駐留を続け、日本の防衛に寄与すると決められています。さらに翌1952(昭和27)年2月には、日米行政協定が締結され、日本は駐留軍に基地を提供し、駐留費用を分担することになりました。もしアメリカがこれまでどおり日本の防衛に力を注げないというなら、日本の様々な負担も軽減されてよいと思います。
 また日本国憲法が徹底した平和主義を唱えていることも誇りに思いました。戦力まで放棄した憲法は、主要国では他に類例をみず、改憲の必要はないと考えました。
 今の日本経済も多くの問題を抱えていますが、逆境の度合いは終戦直後とは比較になりません。今回あらためて戦後史を勉強し、敗戦から25年間で日本経済を立て直したパワーを見習わなければと思いました。

安倍首相、戦後70年談話を発表

 本日、安倍首相が戦後70年の談話を発表しました。私の講義と密接な関係がありますので、全文を掲載します。後日、私の講義のの受講生のみなさんや、政治・経済と文化研究会の会員と意見交換を行います。

 終戦七十年を迎えるにあたり、先の大戦への道のり、戦後の歩み、二十世紀という時代を、私たちは、心静かに振り返り、その歴史の教訓の中から、未来への知恵を学ばなければならないと考えます。
 百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。
 世界を巻き込んだ第一次世界大戦を経て、民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました。この戦争は、一千万人もの戦死者を出す、悲惨な戦争でありました。人々は「平和」を強く願い、国際連盟を創設し、不戦条約を生み出しました。戦争自体を違法化する、新たな国際社会の潮流が生まれました。
 当初は、日本も足並みを揃えました。しかし、世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。その中で日本は、孤立感を深め、外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった。こうして、日本は、世界の大勢を見失っていきました。
 満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。
 そして七十年前。日本は、敗戦しました。
 戦後七十年にあたり、国内外に斃れたすべての人々の命の前に、深く頭を垂れ、痛惜の念を表すとともに、永劫の、哀悼の誠を捧げます。
 先の大戦では、三百万余の同胞の命が失われました。祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦陣に散った方々。終戦後、酷寒の、あるいは灼熱の、遠い異郷の地にあって、飢えや病に苦しみ、亡くなられた方々。広島や長崎での原爆投下、東京をはじめ各都市での爆撃、沖縄における地上戦などによって、たくさんの市井の人々が、無残にも犠牲となりました。
 戦火を交えた国々でも、将来ある若者たちの命が、数知れず失われました。中国、東南アジア、太平洋の島々など、戦場となった地域では、戦闘のみならず、食糧難などにより、多くの無辜の民が苦しみ、犠牲となりました。戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません。
 何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。一人ひとりに、それぞれの人生があり、夢があり、愛する家族があった。この当然の事実をかみしめる時、今なお、言葉を失い、ただただ、断腸の念を禁じ得ません。
 これほどまでの尊い犠牲の上に、現在の平和がある。これが、戦後日本の原点であります。
 二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。
 事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。
先の大戦への深い悔悟の念と共に、我が国は、そう誓いました。自由で民主的な国を創り上げ、法の支配を重んじ、ひたすら不戦の誓いを堅持してまいりました。七十年間に及ぶ平和国家としての歩みに、私たちは、静かな誇りを抱きながら、この不動の方針を、これからも貫いてまいります。
 我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。
 こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。
 ただ、私たちがいかなる努力を尽くそうとも、家族を失った方々の悲しみ、戦禍によって塗炭の苦しみを味わった人々の辛い記憶は、これからも、決して癒えることはないでしょう。
 ですから、私たちは、心に留めなければなりません。
 戦後、六百万人を超える引揚者が、アジア太平洋の各地から無事帰還でき、日本再建の原動力となった事実を。中国に置き去りにされた三千人近い日本人の子どもたちが、無事成長し、再び祖国の土を踏むことができた事実を。米国や英国、オランダ、豪州などの元捕虜の皆さんが、長年にわたり、日本を訪れ、互いの戦死者のために慰霊を続けてくれている事実を。
 戦争の苦痛を嘗め尽くした中国人の皆さんや、日本軍によって耐え難い苦痛を受けた元捕虜の皆さんが、それほど寛容であるためには、どれほどの心の葛藤があり、いかほどの努力が必要であったか。
 そのことに、私たちは、思いを致さなければなりません。
 寛容の心によって、日本は、戦後、国際社会に復帰することができました。戦後七十年のこの機にあたり、我が国は、和解のために力を尽くしてくださった、すべての国々、すべての方々に、心からの感謝の気持ちを表したいと思います。
 日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。
 しかし、それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります。
 私たちの親、そのまた親の世代が、戦後の焼け野原、貧しさのどん底の中で、命をつなぐことができた。そして、現在の私たちの世代、さらに次の世代へと、未来をつないでいくことができる。それは、先人たちのたゆまぬ努力と共に、敵として熾烈に戦った、米国、豪州、欧州諸国をはじめ、本当にたくさんの国々から、恩讐を越えて、善意と支援の手が差しのべられたおかげであります。
 そのことを、私たちは、未来へと語り継いでいかなければならない。歴史の教訓を深く胸に刻み、より良い未来を切り拓いていく、アジア、そして世界の平和と繁栄に力を尽くす。その大きな責任があります。
 私たちは、自らの行き詰まりを力によって打開しようとした過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則を、これからも堅く守り、世界の国々にも働きかけてまいります。唯一の戦争被爆国として、核兵器の不拡散と究極の廃絶を目指し、国際社会でその責任を果たしてまいります。
 私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、そうした女性たちの心に、常に寄り添う国でありたい。二十一世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしてまいります。
 私たちは、経済のブロック化が紛争の芽を育てた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる国の恣意にも左右されない、自由で、公正で、開かれた国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化し、世界の更なる繁栄を牽引してまいります。繁栄こそ、平和の礎です。暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供するため、一層、力を尽くしてまいります。
 私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。
 終戦八十年、九十年、さらには百年に向けて、そのような日本を、国民の皆様と共に創り上げていく。その決意であります。

日本創成会議 高齢者の地方移住を提言

 毎週木曜日・4限に開講している「医療をめぐる諸問題」も、いよいよ終盤に近づいてまいりました。講義は、日本の医療現場の実態が詳細にレポートされ、様々な問題点を指摘していただき、具体的な解決策を提言するというスタイルをとって進んできました。開講の際、私は「本講座は講師がウリ」とアナウンスしましたが、そのキャッチフレーズどおり、毎回充実度の高いお話しを聞かせていただいています。
 さて毎回の講義の中で、ほぼ全員の先生が問題にされているのが、高齢化の加速です。高齢化の加速にともなって、今後わが国の医療・介護はどのようになってゆくのでしょうか。
 そうした中、日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)、6月4日、東京都と周辺の3県で高齢化が急速に進み、2025年に介護施設が約13万人分不足するとの推計をまとめました。
 みなさんもまだ記憶に新しいと思いますが、創成会議は昨年、全国896の市区町村が人口減少によって出産年齢人口の女性が激減する「消滅可能性都市」となるとの推計を公表しています。そこでこの問題をどのように解決すべきか、医療・介護分野において解決策を示したのが、今回の提言の意味です。
 さて同会議の試算では、東京圏で暮らす75歳以上の高齢者は、2025年までに175万人も増えるそうです。そのため、介護サービスへの需要は埼玉、千葉、神奈川で5割程度、東京で4割近く増えるといいます。しかし前述のように、介護施設の不足はとても深刻な状態です。
 そこで同会議は対策として、地方への高齢者の移住を提言しました。東京圏とは対照的に医療や介護の受け入れ体制が整っている41地域を候補地として挙げています。ちなみに近畿では、京都府福知山市と和歌山市が候補地です。また私が佐賀へ行く際いつも乗っている特急「かもめ」の停車駅、鳥栖市も含まれています。政府はすでに、元気なうちから地方に引っ越し、将来、十分な介護や医療サービスが受けられる日本版CCRC:(Continuing Care Retirement Community)構想を推進しています。同会議の提言はこの延長線上に位置づけることができるでしょう。
 ただし、この政策が果たしてうまくゆくか、やや心配な面もあります。なぜなら多くの人は「住み慣れた場所を離れたくない」という気持ちを持っているからです。例えば私が関学を辞めたとき、西宮から福知山や和歌山へ引っ越す勇気はありません。誰も知り合いがいなくて、コミュニティに溶け込む自信がないからです。したがって個人的には、高齢になっても、住み慣れた地域で生活できるような政策を推進してもらうほうがありがたいです。
 上記の政策、候補に挙がった自治体は基本的に歓迎ムードです。なぜなら、交付金をもらえるからです。しかしせっかく交付金をもらって土地の造成や施設の建設を進めても、その土地に移りたいというニーズがなければ、無駄遣いに終わってしまいます。財政難の折から失敗は許されません。ニーズの見極めが、大変重要になってくると思います。

安保法制 3名の憲法学者が全員「違憲」を表明

 衆院憲法審査会において6月4日、各党の推薦で参考人招致された3名の憲法学者全員が、集団的自衛権を行使可能にする新たな安全保障関連法案について、いずれも「憲法違反」であるという考えを表明しました。
 参考人質疑に出席したのは、自民推薦の長谷部恭男・早大教授、民主党推薦の小林節・慶大名誉教授、維新の党推薦の笹田栄司・早大教授の3名でした。
 ここで3名の学者の見解を示しておきたいと思います。まず長谷部恭男氏はもともと憲法改正に慎重な立場です。集団的自衛権の行使を認める安保関連法案に関して「憲法違反だ」と述べ、「個別的自衛権のみ許されるという(9条の)論理で、なぜ集団的自衛権が許されるのかと批判し、武力行使がどこまで許されるのか不明確な点にも懸念を示しました。前述のように長谷部氏は自民・公明両党が推薦した参考人ですから、想定外の結果に与党は大きな衝撃を受けたに違いありません。
 小林節氏は9条改正が持論の学者です。「憲法9条2項で、海外で軍事活動する法的資格を与えられていない。仲間の国を助けるために海外に戦争に行くのは9条違反だ」との見解を示しました。さらに国会が多数決で法律をつくれば、国会による憲法軽視は明らかで、立憲主義に反するとの考えを示しています。
 笹田栄司氏は、自民党政権と内閣法制局がつくってきたこれまでの9条解釈はガラス細工で、ぎりぎりで保ってきたたとの認識を示し、いまの安保法制の定義は、(これまでの定義を)踏み越えてしまっており違憲であると指摘しました。
 さらに小林氏らは、重要影響事態法案などで、米軍などを後方支援する自衛隊が「現に戦闘行為が行われている場所」以外なら活動できるとした点についても、「(武力行使との)一体化そのものだ」などと発言しました。3名とも、違憲や違憲のおそれがあるとの認識を示しました。

「日本経済、世界情勢と安倍政権の今後」(2) (川西市立清和台公民館市民大学講座)

 講演の後半は、安保・外交問題を取り上げました。具体的には尖閣問題と対中外交、従軍慰安婦問題と日韓関係、集団的自衛権をめぐる問題について言及しました。
 アジアとの関係改善を考えるとき、やはり歴史認識の問題は避けてとおることはできません。戦後50年の節目となる1995(平成7)年8月に、当時の村山富市首相が公式談話を発表し、日本が「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と述べ、「痛切な反省の意」と「心からのお詫びの気持ち」を表明しました。(村山談話)
 村山談話の意義は、政府の公式見解としてはじめて過去の戦争を「侵略」と表現したことです。安倍内閣は村山談話を「全体として受け継いでいく」立場をとっていますが、首相はしばしば、「私は日本が侵略しなかったと言ったことは一度もない」と二重否定の言い回しを用いており、肯定形で「日本が侵略した」と明言することは避けてきました。
 遡って、河野談話は、1993年(平成5)年8月4日発表されたものです。当時の河野洋平官房長官が、第二次世界大戦中、朝鮮半島などでの慰安所設置に「旧日本軍が直接あるいは間接に関与した」と認めたのです。また元慰安婦からのヒアリングによると、本人の意思に反して集められた事例が多かったため、強制性を認め、「心身にわたり癒やしがたい傷を負われたすべての方々に対し心からおわびと反省の気持ち」を示しました。もっとも、政府が発見した資料の中からは、軍や官憲による強制連行を裏付ける証拠は見つかっていません。
 安倍首相は河野談話について、官房長官決裁に基づいていることを強調しています。すなわち、当時の官房長官によって表明された見解にすぎず、閣議決定を経ていないとし、首相としての政治判断を明らかにしていません。
 戦後70年を迎えた今年(2015年)、安倍談話の内容が注目されます。
 さて今後の動向で気になるのは、安倍政権が憲法解釈の変更によって、集団的自衛権の行使を容認したことです。これが日中・日韓関係にどのような影響を及ぼすでしょうか。
 これまでの政権は、集団的自衛権について、憲法9条が許容する必要最小限度を超えるという考え方に基づき、権利はあるが行使を認めないという立場をとってきました。そして、自衛権を発動するための3要件は、‘本への急迫不正の侵害がある、排除のために他に適当な手段がない、I要最小限度の実力行使にとどめると規定してきました。ようするに集団的自衛権を行使できるのは、あくまで日本が攻撃を受けた場合に反撃する(個別的自衛権)に限るとしてきたわけです。
 戦後70年間継承してきた憲法9条の解釈を、一内閣の閣議決定で変更してよいものなのでしょうか。日本国民の間でさえ、合意ができていません。これからも平和憲法の精神が堅持されるのか、安倍政権による安保政策の大転換の影響を、内外ともに固唾をのんで見守っています。

「日本経済、世界情勢と安倍政権の今後」(1) (川西市立清和台公民館市民大学講座)

 今日は川西市立清和台公民館に出かけ、「日本経済、世界情勢と安倍政権の今後 − アベノミクス、格差問題、集団的自衛権、日米関係、歴史認識などを考える −」と題して講演を行いました。今回の講演は、二重の意味で緊張しました。まず第一に、今年度最初の講演であったこと。例年講演は年度後半の9月頃からが多く、年度がはじまったばかりの4月には、あまり経験がありません。春休み中、講義からも遠ざかっていたので、果たしてエンジンがかかるか、不安でした。第二は川西市への初デビューになることです。尼崎市なら勝手もよくわかっていますが、川西市はどんな感じだろうかと、いささか心配でした。
 報告タイトルは当初非常に大きなものになりましたが、公民館の担当者が適切なサブタイトルを考えてくださったおかげで、サブタイトルの中に、話のポイントを組み込むことができました。
 当日の講演では、サブタイトルに沿って、安倍政権の主要政策を取り上げました。まず経済面ではアベノミクスについて詳述しました。「三本の矢」のうち、大胆な金融緩和と機動的な財政政策は、即効性がある反面、副作用にも注意しなければならないことを指摘しました。大胆な金融緩和の結果、資金供給量は2015年末には、355兆円まで膨張するそうですが、GDPの実に7割強に相当する水準で、どう考えても行き過ぎです。またバブルが発生するのではないか、大変気がかりです。また機動的な財政政策は、やめたときの反動が心配です。今のところ、東日本大震災からの復興、オリンピックに向けての環境整備、リニア新幹線など大型プロジェクトのおかげで活況を呈していますが、少し長い目で見て、これらが終わったときの需要急減が懸念されます。
 成長戦略に関しては、最近IMFが発表した世界経済レポートをもとに、その重要性を強調しました。IMFのレポートによると、先進国、途上国を問わず、成長のスピードが鈍化していると言います。その背景にあるのは高齢化の進行で、労働力人口の減少により、潜在成長率(中長期的に持続可能な経済成長率)の低下が顕著になっているのです。
潜在成長率の低下に立ち向かうことができるのは、成長戦略しかありません。つまり、労働力となる世代の人口が減っても、GDPが拡大するような政策を追求しなければならないわけです。そのためにはまずは労働生産性(Y/N Y:付加価値、N:労働量 労働者1人当たりが生み出す付加価値)を高める方策を見出さなければなりません。それが「第3の矢」である成長戦略なのです。
 次にアベノミクスの一環として力が入れられている「地方創生」に関してもある程度時間をかけて述べました。詳細は、19日の記事をご参照ください。

「地方創生」は成功するか

 私は研究の性格上、地方都市を訪れることがしばしばあります。その際いつも、交通の不便さ(電車・バスの本数が少なく、タクシーで目的地まで行くとびっくりするほど料金がかかる)と街の活気のなさを感じます。県庁所在地でさえ、夕方7時頃になるとすべての店が閉まり、人通りが疎らになります。食べるところやちょっとした買い物をする場所をさがしても見当たりません。別の場所に行けばあるのかも知れませんが、土地勘のない者も訪れることを想定し、せめて駅前くらいは、きちんと整備しておいてほしいと思います。
 さて安倍政権は、「地方創生」を旗印に、人口減少に歯止めをかけることにも力を入れています。第二次改造内閣では、司令塔となる地方創生担当相を新設し、地方人気が高い石破茂氏を起用しました。初閣議では、首相を本部長に全閣僚でつくる「まち・ひと・しごと創生本部」が設置されました。そして、2020年までの施策や工程表を盛り込んだ「総合戦略」もつくるそうです。
 地方では「アベノミクス」による景気回復の実感が乏しいうえ、2014年5月には、「2040年までに全自治体の半数が『消滅可能性都市』になる」との民間予測が発表され、動揺が広がりました。また現在1億3,000万人の人口は、何も手を打たなければ、2060年には8,700万人程度まで減少します。そこで政府は、次のような戦略を策定しています。
 まずは従来型のハード面の整備ではなく、地域の人口減少や人口流出の歯止めに主眼を置いたソフト面での施策充実を目指します。その骨子は第1に地方での雇用創出です。観光や農業振興、中核企業の育成や地元での創業支援などを通じ、2020年までに30万人分の雇用創出を実現するとしています。さらに東京一極集中の是正も進めます。東京圏は年間10万人の転入超過となっていますが、5年後には転入と転出を同程度になるよう調整します。そのために税制優遇で企業の地方移転の後押しや、政府機関の地方移転、地方大学を卒業してそのまま地元に就職した人には、奨学金の返済を減免するなどの施策を進めようとしています。さらに保育所の充実などにより、若い世代の結婚、出産、子育てを支援します。地域の人口減少に合わせた都市のコンパクト化も進めていく方針です。
 もっとも、国の借金が1千兆円を超えるなか、予算をばらまく余裕はありません。ムダな予算をそぎ落として、中身の濃い対策を打ち出せるかが焦点となっています。

「国民を守るために他に適当な手段がない」を、武力攻撃事態法に盛り込む方針 (2)

 その後政府は,砲弔い董崑故危機事態」という事態を作り、武力攻撃事態法に盛り込む方針ですが、◆↓は、自衛隊法に同じ趣旨が含まれているとして、条文化に否定的でした。これに対し、公明党は「存立危機事態」に加え、「他に適当な手段がない」という条件を法案に明記することで歯止めをかけようとしたのです。
 「国民を守るために他に適当な手段がない」という文言が法律に明記されることに、公明党は集団的自衛権の行使に対する「歯止め効果」を期待しています。しかし我々は、国会のチェックが十分機能するかどうか、注視してゆく必要があります。
 公明党が懸念しているのは、安倍晋三首相が集団的自衛権行使の一例と想定する中東・ホルムズ海峡での機雷掃海です。海峡が機雷で封鎖されて原油の輸入が止まり、政府が「新3要件」の,乏催すると認定したとします。この際政府は、中東以外からの輸入や外交交渉による解決の模索などに力を尽くしたか、つまり、集団的自衛権の行使に代わる手段で解決する努力を行ったのか、重い説明責任を負うことになるのです。
 さらに国会の役割も肝要です。政府が集団的自衛権の行使を決めても、承認するかどうかは国会次第です。この場合も国会は、本当に「他に手段がない」事態なのか十分に検討しなければなりません。政府の説明に納得できなければ、与党であってもブレーキをかけるべきですが、それが可能でしょうか。政府の説明を与党の多数で追認するだけで終われば、法律は形骸化してしまいます。

「国民を守るために他に適当な手段がない」を、武力攻撃事態法に盛り込む方針 (1)

 政府・自民党は昨日16日、集団的自衛権を行使する時の判断基準となる「武力行使の新3要件」のうち、「国民を守るために他に適当な手段がない」という第2要件を、武力攻撃事態法に盛り込む方針を決めました。
 ここで集団的自衛権について、簡単に説明しておきましょう。集団的自衛権とは、国際法上、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが正当化される権利です。安倍内閣は2014年7月1日、従来の憲法解釈を変更し、下記の3要件を満たせば行使できるようにしました。
 自衛の措置としての武力の行使の新三要件
 _罎国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること。
◆,海譴鯒喀し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと。
 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと。

景気の現状と総選挙 (堺市ライオンズクラブ第1364回例会で講演)

 今日は谷本陽蔵先生の御高配で、堺市ライオンズクラブ第1364回例会にお招きいただき、「景気の現状と総選挙」というテーマで講演しました。経済面では景気の現状とアベノミクスの金融・財政政策の評価、政治的には衆議院解散・総選挙を決断した安倍首相の狙いはどこにあるのかについてお話しをしました。
 今回の報告で特に問題にしたのは、2015年10月の消費増税見送りと財政健全化の行方です。安倍首相は、2014年7−9月期のGDP統計の結果が芳しくなかったため、「消費増税10%への引き上げを延期することの是非を国民に問う」ため、衆議院の解散・総選挙を決断しました。ただどうも釈然としないのは、三党合意を白紙撤回した理由を、自公政権は全く説明せず、民主党も安易に同意した点です。
 首相は2015年10月の消費増税を延期し、そこから1年半後の2017年4月には必ず10%に引き上げると断言しましたが、本当に再延期はないのでしょうか。
 国の借金残高は、2014年9月末時点で1,038兆9,150億円になり、国民1人当たり約817万5,000円の借金を抱えている計算です。こうした状況の中で、高齢化が急速に進んでおり、社会保障費は増加の一途をたどっています。年金・医療・介護の給付と負担について、早く踏み込んだ議論をしてほしいものです。
 次に国際公約である2020年度におけるプライマリーバランス均衡の問題を考えました。プライマリーバランスとは、国債などの借金を除いた歳入と、過去の借金の元利払いを除く歳出を比較したときの収支バランスです。歳出が歳入を上回っていたらプライマリーバランスが赤字、逆の場合は黒字となります。 ここで2014年度の一般会計予算案をもとに財政状態を確認し、プライマリーバランスを計算してみます。収入は税収が50.0兆円、税外収入が4.6兆円、支出は、一般歳出56.5兆円と地方交付税16.1兆円、国債の元利払い23.3兆円を合わせ95.9兆円になります。したがってその差(95.9兆円−50.0兆円−4.6兆円=41.3 兆円)は、公債金収入(借金)などで賄わなければならないことがわかります。
 以上の数値からプライマリーバランスを計算すると、(50.0兆円+4.6兆円)−(56.5兆円+16.1兆円)=−18.0兆円 すなわち18.0兆円の赤字となります。
 民主党政権の2010年度、プライマリーバランスの赤字額は約32兆円でした。対GDP比率でみると6.6%にあたります。民主党政権はこれを2015年度に半減の3.3%に引き下げ、2020年度にはゼロにする目標を掲げ、安倍政権に引き継がれました。2014年度の実質GDPは522.8兆円、プライマリーバランスの赤字額は18兆円なので、対GDP比率は3.4%です。しかし増税延期で歳入が減り、景気対策で支出が増大することを考えると、2015年度の数値は悪化しないのでしょうか。
 プライマリーバランスを改善するには、税収を増やすか歳出削減しか方法はありません。景気が悪く、税収の劇的な伸びは期待できない現状では、消費税増税に頼るしかないと思います。
 増税も歳出削減も厳しい状況で、与野党はどのようにして財政健全化をはかるのでしょうか。明確な工程表の提示を求めたいところです。
 安倍首相の衆議院解散表明以降、わずかの期間のうちに3回も、アベノミクスの中間評価と総選挙の行方についてお話しさせていただく機会に恵まれました。目前に選挙を控え、政治・経済の情勢が刻々と変化するため、報告準備と資料作成が大変でしたが、ホットなテーマに乗り遅れずフォローしてゆけたのは、講演の機会を授けてくださったみなさんのおかげです。いつも感謝しています。


堺市ライオンズクラブアクティビティ


2015年 日本経済の展望 (尼崎市立大庄公民館市民大学講座)

 ずいぶん寒さが厳しくなってきました。外出がだんだん億劫になってきましたが、聴衆が熱心な市民大学なら寒さも吹き飛びます。今日は尼崎市立大庄公民館市民大学講座で、「 2015年 日本経済の展望」というテーマで講演しました。
  2012年末に発足した安倍政権は、「デフレからの脱却」を掲げ、大規模な金融緩和、公共事業など機動的な財政運営、規制緩和などを通じた成長戦略の「3本の矢」からなるアベノミクスを展開しています。
 アベノミクスにおける、金融・財政面の政策は、従来の経済学では考えられない強力なカンフル剤といえます。しかし強力な治療を施した割には、日本経済はデフレ脱却に至っていません。2014年7−9月期のGDP速報によると、成長率は-1.6%という状況であり、日本経済には増税に耐えられるほど強い体力はないことがわかりました。景気は悪化を防ぐには、金融緩和と財政拡大のカンフル剤をやめられないという気がしました。
 カンフル剤を打ち続けることによって景気は短期的に改善するはずです。しかし長期的には副作用がとても心配です。副作用はすでにあらわれていますが、円安進行にともなう物価高に賃金の上昇が追いついていません。短期のうちに1ドル=120円まで進んだ円安は、どうみても行き過ぎではないでしょうか。財政支出の拡大と消費増税先送りで、財政赤字が一段と拡大しそうです。高齢化社会に突入するなかで、年金・医療・介護に万全の備えが行われていないことに、多くの国民は不安を感じているに違いありません。無駄の見直しも、一向に進んでいません。大企業と中小・零細企業、正規雇用と非正規雇用の格差が広がり続けていることに対しても、迅速な対応が求められます。
 11月18日、安倍首相は衆議院解散を表明し、21日解散しました。首相はこの解散を「アベノミクス解散」と名付け、アベノミクスの継続を単一の争点として選挙戦に臨みます。
 講演では、衆院選の動向にも注意を払いながら、ちょうど2年が経過したアベノミクスを総括し、プラス面とマイナス面を検討し、2015年の経済動向を考えました。

消費税率引き上げ延期と衆議院解散・総選挙

 年末を迎え、街の様子が何となく慌ただしく感じられるようになりました。このタイミングでどうして 衆議院解散・総選挙なのかと、釈然としない国民も多いのではないでしょうか。
 安倍首相は2014年7−9月期のGDP統計の結果が芳しくなかったため、「消費増税10%への引き上げを延期することの是非を国民に問う」ため、衆議院の解散・総選挙を決断したといいます。しかし、景気悪化による増税先送りなら、消費増税法の改正で済む話で、反対している政党はありません。それを承知の上であえて「先送りの是非を問う」というのなら、大衆迎合主義の印象は拭えません。
 首相は2015年10月の消費増税を延期し、そこから1年半後の2017年4月には必ず10%に引き上げると断言しました。今より一段と景気が悪化していたら、どのような判断を下すのでしょうか。リーマン・ショックレベルの大不況が起これば、今以上に増税が困難になります。何を根拠に、「必ず増税する」といえるのかわかりません。三党合意を撤回し、今後給付と負担の関係はどうなるのか、説得的な説明が必要です。
 国の借金残高は、2014年9月末時点で1,038兆9,150億円になり、国民1人当たり約817万5,000円の借金を抱えている計算です。こうした状況の中で、高齢化が急速に進んでおり、社会保障費の増加は避けられません。株価対策には熱心ですが、社会保障改革の方向性が全然見えないのが不安です。
 現状は、増税も歳出削減も厳しいと思います。そうした中、安倍首相はどのようにして財政健全化をはかり、社会保障制度を維持する方針でしょうか。明確な工程表の提示を求めたいところです。

基礎演習8組 確認テスト を行いました                

 基礎演習8組で確認テストを行い、下記のような出題をしました。8組のディーベートのテーマは、死刑制度の存続か廃止かと、成人年齢を18歳以上に引き下げるべきか否かというものでした。私が関学に勤め始めた20年前からよく採択されていた課題で、非常にオーソドックスなトピックスといえます。
 採点のポイントは、説得的に理路整然とまとめられているかです。答案は点数をつけて返却するつもりです。

基礎演習8組 確認テスト  
次の1、2の設問のうち、どちらか一方を選択して解答しなさい。

1.死刑制度をめぐってはかねてから、‖限海垢戮であるという見解と、廃止すべきであるという見解が併存し、論争が行われきました。以下で作成する解答では、 ↓△修譴召譴力声圓亮臘イ覆蕕咾砲修虜拠を紹介し、最終的にあなたはどちらの立場をとるか、理由を添えて述べなさい。

2.現在日本では20歳以上を成人と定めています。しかし成人年齢は18歳以上に引き下げた方がよいという意見も根強くあります。そこで以下の解答では、仮に成人年齢を18歳に引き下げるとしたら、どのようなメリット、デメリットが生じると考えられるか、根拠も合わせて述べなさい。そして最終的にあなたは、成人年齢を20歳以上のまま据え置くのと、18歳以上に引き下げるのでは、どちらが好ましいと思いますか。理由を添えて述べなさい。

基礎演習22組 確認テスト を行いました 

 日々時間に追われる生活を送りながら、気づいてみるとあと1ヶ月で2014年が終わります。どの授業も正味12月いっぱいまでとなりました。
 1年生が対象の基礎演習、毎年色々なテーマに取り組みたいと思っているのですが、11月、学部行事としてディベート大会が行われるため、準備に相当な時間を費やします。ディベート大会が終わると、最終レポートの準備も兼ねて、個別報告をしてもらっています。
 考えてみると、通年で30回足らずの演習科目の中で取り上げることができるのは、経済のごく一部のテーマにすぎません。そこでせめてディベート大会のために学んだ知識くらいは定着させておいてほしいと思い、確認テストを行うことにしました。ディベート大会で取り上げられたのは、生活保護制度と子育て支援についてでしたので、次のような出題を行いました。みなさんの出来はどうだったでしょうか?

基礎演習22組 確認テスト  
              
次の1、2の設問のうち、どちらか一方を選択して解答しなさい。

1.資産や能力等すべてを活用しても生活に困窮している人々のために、生活保護の制度があります。この生活保護制度について、以下の設問に答えなさい。
(1)生活保護制度の主旨を述べなさい。
(2)(1)の主旨に反し、不正受給が問題視される場面がしばしば見受けられます。不正受給の類型について論じなさい。
(3)不正受給対策として、「生活保護を現物支給にすべきだ」という意見が聞かれます。この意見の長所と短所を指摘し、実現可能性についてあなたの見解を述べなさい。
(4)現物支給のほか、不正受給を防ぐにはどのような方法があるか。(2)での指摘も考慮しつつ論じなさい。

2.最近、経済政策に対する要望で、「子育て支援をもっと手厚くすべきだ」という主張をたびたび聞くようになりました。このことを踏まえ、以下の設問に答えなさい。
(1)子育て支援が経済政策の重要課題とされるのはなぜか。日本社会の現況を念頭に置いて論じなさい。
(2)子育て支援策の現状と課題について述べなさい。
(3)あなたが子育て支援策をより充実させるべきであると考える場合、どのような施策を求めるか論じなさい。
(4)日本経済や子育て支援策の現状に照らし合わせ、あなたが「子育て支援策の充実以上に優先順位が高い政策がある」と主張するならそれは何か。理由を添えて説明しなさい。

景気の現状とアベノミクスの今後  (西宮市明るい選挙推進協議会・西宮市選挙管理委員会主催講演会)

 本日は西宮市の鳴尾公民館に出かけ、西宮市明るい選挙推進協議会・西宮市選挙管理委員会主催講演会において「景気の現状とアベノミクスの今後」というテーマで講演しました。ホームグランドの西宮市でも講演の機会をいただけたことを大変嬉しく思っております。
 講演のお話をいただいたのは、9月はじめでした。そのときは、第2次安倍改造内閣がスタートしたばかりの時期でしたので、「三本の矢」をキーワードに、折り返し点にさしかかったアベノミクスを評価し、政権の後半でどのようなことを推進しようとしているのか、詳しく解説するつもりでした。
 ところが本番直前になって、ビッグニュースが飛び込んできました。内閣府が17日発表した2014年7−9月期のGDP速報によれば、物価の変動の影響を除いた実質で前期比0.4%減、年率換算で1.6%減を記録したのです。4月の消費増税後の消費低迷が長期化し、2四半期連続のマイナス成長だったのは驚きでした。
 安倍首相はGDP統計の結果が厳しくなることを事前から覚悟していたのでしょう。翌18日、来年10月に予定されていた消費税率の10%への再引き上げを2017年4月まで1年半先送りし、衆議院を解散することを表明しました。
 首相は解散の理由について、「税制に大きな変更が生じるので国民の信を問わなければならない」と主張します。しかし景気悪化による増税先送りなら、消費増税法の改正で済む話で、反対している政党はありません。それを承知の上であえて「先送りの是非を問う」というのなら、大衆迎合主義というほかありません。
 ところで一般論として考えた場合、首相が解散権を行使するのはどのような場合でしょうか。通常なら、前回の選挙で表面化しなかった重要な争点が出てきたとき、もしくは、首相と国会の対立が激化し、国会運営が行き詰まったときではないでしょうか。今回はどちらも当てはまりません。真の目的は、集団的自衛権の行使容認にともなう法整備や、原発再稼働など、世論を二分する困難な問題を「選挙で勝ったので国民の支持を得ている」と主張し、乗り切ることではないでしょうか。与党の支持率が比較的高く、野党の準備が整っていない「今」が絶好のタイミングなのです。
 突然の解散・総選挙決定の背景について述べた後、本題のアベノミクスの評価に移りました。「大規模な財政出動」、「異次元の金融緩和」という強力なカンフル剤を投じた割には、効果がうすいというのが率直な印象です。ここ1年のGDP成長率の推移(年率換算)をたどると、2013年7−9月期-1.6%、2014年1−3月期+6.7%、2014年4−6月期-7.3%、そして今回の2014年7−9月期-1.6%という状況です。1年のうちでプラス成長を示しているのは、消費税率が8%に引き上げられる直前の2014年1−3月期のみということです。ようするに絶えずカンフル剤を投与しないかぎり景気は悪化することがはっきりしました。
 カンフル剤を打ち続けることによって景気は短期的に改善するでしょう。しかし長期的には副作用が心配です。副作用はすでにあらわれていますが、円安進行にともなう物価高に賃金の上昇が追いついていないこと、財政支出の拡大と消費増税先送りで、財政赤字が一段と拡大し、国の信用力が低下することなどが気がかりです。
 私が注目しているのは、12月14日の総選挙で、自公政権は現有勢力326(自民・295、公明・31)を維持できるかどうかです。与党がどこまで取りこぼしなく戦えるか、野党がどこまで善戦するか、14日は開票速報から目を離すことはできません。

※ 事務局の担当者がわざわざ講演のもようを撮ってくださいました。会場がいっぱいになるほど多くの方が熱心にお聞きくださいました。お忙しい中、社会再生学会の西村正美さんも駆けつけていただき、感激です。また、終了後は個別的に多くのご質問を頂戴しました。やりがいのある講演会でした。市民講座へは毎日でも行きたい心境です。

鳴尾公民館

安倍内閣の支持率44% (2014年11月 NHK調査)

 NHKは、今月(2014年11月)7日から3日間、全国の20歳以上の男女を対象に行った世論調査の結果がNHKのホームページに掲載されていましたのでご紹介します。調査によると、安倍内閣を「支持する」と答えた人は、10月調査より8ポイント下がって44%を記録し、おととし12月の第2次安倍内閣発足後、最も低くなったようです。一方、「支持しない」と答えた人は、4ポイント上昇して38%となりました。
 支持する理由をみてみると、「他の内閣より良さそうだから」が41%、「実行力があるから」が19%、「支持する政党の内閣だから」が13%だったのに対し、支持しない理由では、「政策に期待が持てないから」が48%、「人柄が信頼できないから」が15%、「支持する政党の内閣でないから」が12%となっています。
 みなさんはこの結果、どう読みますか?支持者はやはり、民主党政権の迷走がひどすぎたため、自民党・安倍政権を、「他の内閣より良い」と感じているのでしょう。一方38%の支持しない人々のうち、約半数が「政策に期待が持てない」と感じていることも無視できません。つまり、相当多くの国民が「アベノミクス」を評価していないことが窺えます。
 次に重要な論点を挙げ、国民がどのような意識を持っているか見てみましょう。

1.政策の優先順位 
 6つの政策課題を挙げて、国が今、最も力を入れて取り組むべきだと思うことを聞いたところ、「景気対策」が25%、「社会保障制度の見直し」が24%、「外交・安全保障」と「原発への対応」がともに12%、「財政再建」が10%、「東日本大震災からの復興」が8%となったようです。

2.経済政策(アベノミクス)への評価
 安倍内閣の経済政策について尋ねたところ、「大いに評価する」が4%、「ある程度評価する」が43%、「あまり評価しない」が37%、「まったく評価しない」が11%でした。さらに景気が回復していると感じるかどうかについては、「感じる」が10%、「感じない」が54%、「どちらともいえない」が33%でした。

3.日銀の追加金融緩和への評価
 日銀が追加の金融緩和を決めたことが、日本経済にどのような与える影響を与えると考えているでしょうか。「良い面の方が大きい」が14%、「悪い面の方が大きい」が20%、「どちらともいえない」が56%でした。

4.食品の値上げと家計への影響について
 最近の食品の値上げが、どの程度、家計の負担になっているか尋ねたところ、「かなり負担になっている」が23%、「ある程度負担になっている」が54%、「あまり負担になっていない」が17%、「まったく負担になっていない」が2%でした。

5.「政治とカネ」をめぐって
 国会議員の「政治とカネ」の問題について、今の国会で議論を続ける必要があるかどうか聞いたところ、「必要がある」が41%、「必要はない」が29%、「どちらともいえない」が22%でした。

6.消費税の再引き上げをめぐって
 安倍首相は、消費税の税率を、来年10月に10%に引き上げるかどうか、年内に判断するとしていますが、どのような判断をすべきか尋ねたところ、「予定通り、来年10月、10%に引き上げる」が20%、「引き上げの時期を遅らせる」が41%、「引き上げをとりやめる」が33%でした。

7.衆議院の解散・総選挙をめぐって
 衆議院の解散・総選挙を行う時期について聞いたところ、「早く行った方がよい」が15%、「当分は行わなくてよい」が26%、「再来年12月の任期満了まで行わなくてよい」が50%でした。
 衆議院の解散・総選挙に関しては国民の4分の3が、このタイミングで行わなくてもよいと考えています。政権交代を託せる野党が見当たらず、現時点では安倍政権の支持が圧倒的です。これが世論調査の不思議なところで、安倍内閣を支持しない人が38%いるのだから、それとほぼ同数の人が政権交代を望んでいるかと思ったら見当違いで、早期解散を求める声は15%にすぎません。
 なお現在自民党内には、「増税を先送りにして解散すべきだ」と主張する人がいます。三党合意で決定済みとはいえ、やはり4分の3の国民は、来年10月からの再増税を望んでいません。そこで「信を問おう」というわけです。国民がこれほど嫌がっているわけですから、増税先送りを唱えれば、自民とは大勝利をおさめることになるでしょう。それは、「政治とカネ」の問題を清算し、仕切り直しすることになります。

 では、仮に解散・総選挙を行った場合、自公政権は現有勢力326(自民・295、公明・31)を維持できるでしょうか。個人的には微妙だと思います。安倍政権は来年、原発再稼働や集団的自衛権に関する法整備など、様々な難しい問題に取り組まなければいけません。こうしたテーマに現有勢力を保ったまま、望む方が有利ではないでしょうか。「近いうちに信を問うべきだ」と主張する勢力がある一方で、「あえて今やらなくても」と思っている人も多いはずです。解散は首相の専権事項。最後に決めるのは、安倍総理です。

第2次安倍改造内閣 地方と女性を重視する政策を展開

 いよいよ秋学期の講義開始が近づいてきました。この夏休みは本当に忙しく、どこへも出かけることができないまま、秋学期を迎えることになります。講義が始まると、90分間話せるネタを持って講義に行かなければいけません。毎週6種類、違う話題を準備してゆくのはつらいことです。しかし覚悟を決めて乗り切るほかありません。
 さて月曜2限には、新設で「現代日本経済史」を開講します。できるだけホットな経済問題を取り上げるつもりですが、何といっても安倍政権が打ち出す政策について、詳しくお話ししようと考えています。
 第2次安倍改造内閣においては、アベノミクスや外交・安全保障政策はこれまでの路線を継承し、新規政策として、高齢化、人口減少に直面して疲弊の著しい地方活性化を目指す「地方創生」を重要課題に掲げ、幹事長として地方との結びつきの強かった石破茂氏を担当大臣としました。いまひとつ重要なのは、有村治子氏を「女性活躍」担当大臣とし、「女性重視」の姿勢を打ち出したことです。安倍政権は、「2020年までに指導的立場の女性を3割に」という目標を掲げています。ちなみに女性閣僚は、過去最多だった第1次小泉政権と並ぶ5名となりました。そして政調会長の稲田朋美氏を加えると、内閣と党の要職に6名の女性を起用したことになります。この人事も、従来には見られなかったことといえます。
 今回の内閣改造において、とりわけ「地方」と「女性」に配慮したのは、内閣支持率の低下に歯止めをかけるためだと考えられます。改造前から安倍内閣の支持率に低下の兆しがあらわれていましたが、その大きな要因が「地方離れ」、「女性離れ」でした。まず「地方離れ」の原因は、アベノミクス効果が地方の隅々にまで行き渡らず、都市部との格差は広がる一方という状態が続いていることです。地方には、地元の厳しい経済状況を何とかしてほしいという不満が充満しているのです。
 加えて女性の支持率の大幅低下にも危機感を覚えているようです。これは集団的自衛権の問題が強く影響していると思われます。首相は、「お母さんや子ども達の命を守るために必要だ」とくり返し訴えてきましたが、現時点では女性の支持が得られていないように感じられます。
 地方創生、女性活躍双方とも、幅広い要望を受け止めて具体的な政策として進める力が必要です。しかし石破氏と有村氏は担当大臣で、足場になる省庁がないため、どこまで成果を出せるかは、注意して見てゆかなければいけません。

「安倍政権の政治・外交について考える」(尼崎市立園田公民館市民大学講座)

 今日は尼崎市立園田公民館に出かけ、「安倍政権の政治・外交について考える」というテーマで講演を行いました。園田公民館では、ちょうど2週間前に安倍政権の経済問題(アベノミクス)についてお話しし、今回は政治・外交に焦点を当てることになりました。考えてみると、この2週間で3つ市民大学を行ったことになります。一応毎回10ページくらいの原稿を準備してゆきますので、講演が短期間集中するのはさすがに堪えました。ほかの用事も重なって、この夏休みはとても苦しい思いをしましたが、講演だけは無事終えることができました。しかしあと2種類原稿を抱えており、夏休みが残り少なくなるなかで、あとひと踏ん張りしなければいけません。
 さて講演では、9月3日に発足した第2次安倍改造内閣についてお話ししました。考えてみると、2012年12月に発足した第2次安倍内閣は、ひとりの閣僚の交代もないまま1年8カ月間、職務をまっとうしました。これまでの内閣は、問題発言による辞任や、スキャンダルの発覚、問責決議を受けての改造で、閣僚がよく入れ替わりましたが、これまでの安倍氏の政権運営の安定ぶりは際だっていたといえます。
 今回の第2次安倍改造内閣の特徴は、’蛭兇離丱薀鵐垢忘擔瓦涼躇佞鯤Гぁ∪府与党の結束を重視して、挙党体制が築かれたこと、▲▲戰離潺スの継続とともに、地方創生や女性の活躍などの新たな政策を打ち出したこと、M菁4月の統一地方選挙に勝利し、9月に行われる自民党総裁選において無投票での再選を目指し、長期政権を実現する土台を整えたこと、などが挙げられると思います。講演では、第2次安倍改造内閣が直面する政策課題について、様々な角度から解説しました。
 改造内閣は今後、中国・韓国との関係改善、消費税率の再引き上げ、原子力発電の再稼働といった難問に直面します。これらはいずれも、世論が二分される一筋縄ではゆかない問題で、様々な意見によく耳を傾け、方針を確定するまでに、丁寧な説明が行われるべきだと思います。さらに戦後70年を迎えるにあたり、私たち日本人が歴史とどう向き合うかも、問われています。
 今日の講演準備を行うだけでも、私たちが真剣に取り組むべき課題がたくさん見つかりました。今後社会再生学会のみなさんとじっくり議論を深めてゆきたいと思っています。

国際情勢が緊迫する中、武器輸出が行われる

 国際情勢が大変緊迫しています。乗客・乗員約300名を乗せたマレーシア航空機が、日本時間17日午後11時15分頃、ウクライナ東部上空で撃墜されました。撃墜には、地対空ミサイルが用いられたようです。真相はまだ明らかにされていませんが、ウクライナ政府は親ロシア派の武装集団が撃墜したと強く非難しています。一方親ロシア派は、ウクライナ軍が撃墜したものだと反論しています。そもそも、ウクライナ政府軍と独立を求める武装勢力の対立がなければ、このような悲劇も起こっていなかったはずです。
 中東情勢に目を向けると、イスラエルとイスラム組織ハマスの対立が激しさを増すばかりです。同日イスラエル軍は、パレスチナ自治区のガザ地区に地上侵攻を開始し、大規模な交戦によって多数の死者が出ているということです。
 心が痛むのはどちらの場合も、何の罪もない一般人が犠牲になっていることです。これが戦争の悲惨さです。また技術の発展に歩調を合わせ、武器の殺戮能力がどんどん高度化しているのも恐ろしいことです。こうした中、日本製の武器が海外に輸出されることになりました。報道によると、アメリカ防総省は14日、総額110億ドルの防衛装備品をカタールに売却することで合意したと発表したのですが、これには日本から調達する部品を使った迎撃ミサイルを含んでいるそうです。安倍政権は4月、防衛装備移転三原則を閣議決定し、日本は外国への武器輸出をできるようになりましたが、その最初の案件となります。
 アベノミクスでは官民一体で武器輸出も積極的に行おうとしています。軍事産業は戦争が起こるほどよく儲かります。武器を売って儲けようとする発想自体が受け入れられません。さらにこんなことを始めたら、日本で作った武器が紛争国へ流出してゆく可能性があり、紛争を助長することになります。全く誤った政策で、憤りを感じます。
 安倍政権の諸政策で、日本はどんどん戦争に巻き込まれやすくなっています。日本が果たすべき役割は、中立国として人道支援に徹することだと考えます。

安倍内閣、集団的自衛権行使容認

 政府は昨日1日の臨時閣議において、集団的自衛権を使えるようにするため、憲法解釈の変更を決定しました。
集団的自衛権とは、たとえばアメリカのように、日本と密接な関係にある国が攻撃を受けた場合、日本が直接攻められてるわけではありませんが、武力を使って反撃する権利をいいます。日本は戦後70年にわたり、憲法第9条の解釈で、集団的自衛の行使を禁じてきました。。「専守防衛」の基本理念を守ってきた日本が、今後は直接攻撃を受けていなくても、他国の戦争に関与できようになります。
 閣議決定の要点は、次のとおりです。
 ます集団的自衛権を含む武力行使を認める新たな3要件を規定しました。それらは、〔接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、国民の生命・自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある、国民を守るために他に適当な手段がない、I要最小限度の実力行使です。
 さらに国連平和維持活動(PKO)における「駆けつけ警護」や邦人救出での武器使用が可能になります。
 加えて有事に至らない「グレーゾーン事態」に対処するため、自衛隊の出動手続を迅速にします。
 私はこの閣議決定に、多くの疑問を感じています。何よりも憲法9条の解釈を改める必要性と手続きの問題です。日本が今一番警戒しなければいけないのは、北朝鮮の核やミサイル開発の問題です。この問題に対する有効な解決策は、韓国や中国との協力関係を緊密にすることではないかと思います。しかしこの閣議決定は、関係が冷え込んでしまっている両国との溝を一段と深めることにはならないでしょうか。
 また日本国憲法の根幹である平和主義の原則が、一部政治家の意向だけで強引にねじ曲げられてよいのかと思いました。そもそも多数の国民の合意事項にはなっていません。どうしても今このタイミングで変更の必要があるというのなら、憲法96条の手続きに則り、最終的には国民投票で了解を得るべきです。
 7月1日を境に、自衛隊は「日本を守るために戦う」と思ってきた私たちの常識が覆ることになりました。今後自衛隊は海外に出て、誰かを殺し、誰かから殺されるという場面に遭遇することがあり得ます。多くの日本人がその覚悟を持ち、1日の閣議決定に納得しているとは、到底思えません。

グレーゾーン事態について考える

 集団的自衛権の行使容認をめぐる問題が、最近の政治・外交問題のメインになっているといっても過言ではありません。与党協議では、自民党は憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使できるようにしたいと考えていますが、公明党は憲法解釈変更に慎重な態度を示しています。現在のところ、ズバリ集団的自衛権についての議論は先送りにして、いわゆるグレーゾーンへ事態の対応についての協議が行われています。
 さてグレーゾーン事態とは、武力攻撃とまではいえない主権侵害に対し、自衛隊が迅速に対応できるかどうかはっきりしないケースのことです。政府は具体的に、尖閣諸島に武装した漁民が上陸したというケースを想定しています。通常は海上保安庁や警察が対処しますが、仮に漁民が大がかりな武器を所持していたらどうでしょうか。海上保安庁や警察では対処しきれず、自衛隊が出動せざるをえません。自衛隊の出動には、まず「防衛出動」があります。しかし上記の事例は、「防衛出動」をしなければいけないほど、重大な問題とはいえません。一方「治安出動」という方法もありますが、これは警察権が準用されるため、十分な効果があるか不透明です。「防衛」と「治安」の中間にあるまさに「グレーゾーン事態」が発生したとき、迅速に対処するためどのような方法があるか、検討されているのです。自衛隊法を改正し、新たに「領海警備」の任務を与える案や、従来の「治安出動」と「海上警備行動」の閣議決定を事前に済ませ、首相に権限を付与しておく案などが検討されています。
 もっとも自衛隊が強く前面に出た場合、中国などが警戒感を高め、日中関係が一段と悪化するという懸念は払拭できません。また漁民を装った武装集団が日本の離島に上陸した事例はなく、想定自体が非現実的であるという意見も聞かれます。
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