寺本益英の日記

 関西学院大学で日本経済史を担当する寺本益英の身辺雑記です。経済、歴史、お茶、フードシステムの話題を中心に、思い立ったことを綴ります。受講生の質問にも答えます。

学会報告・講演

2017年 日本経済の展望 (尼崎市立大庄公民館市民大学講座)

 今日は尼崎市立大庄公民館に出かけ、「2017年 日本経済の展望」というテーマで講演を行いました。今年最後の講演になります。一年の経済を振り返り、来年の展望を述べました。
  講演は概ね次の組み立てで行いました。まずGDP統計による景気の現状の確認です。内閣府が2016年12月8日発表した2016年7−9月期のGDP改定値によれば、物価の変動の影響を除いた実質で前期比0.3%増、年率換算で1.3%増となりました。11月14日発表された速報値では、年率2.2%増であったので、下方修正です。住宅投資と輸出頼み景気はゆるやかに回復していることを述べました。さらにアメリカ大統領選後の予期せぬ円安・株高で景気浮揚に弾みがつきつつあることにもふれました。
 続いて異次元緩和について、ここ1年の動向を詳述しました。とくにマイナス金利と長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入に焦点を当てました。金融政策は様々な手法が打ち出されたものの、デフレ脱却は容易ではないことも明らかにしました。
 最後に今年最大のニュースといっても過言ではないトランプ大統領誕生の背景を検証しました。そして今回の選挙結果から、アメリカ社会の分断がこれまで想像していた以上に進み、深刻なことを述べました。超大国アメリカがひとつにまとまるのは決して容易ではないことを指摘しました。
 トランプ次期米大統領の掲げる政策はインフラ投資や大規模減税です。アメリカの景気拡大への期待から、投資マネーが株式などリスク資産に流れ込み、世界景気の追い風になっています。
 トランプ政策のリスクについても論じました。トランプ氏の唱える「アメリカ第一主義」により、世界経済に様々な懸念が生じています。とりわけアメリカのTPPからの離脱は、巨大な自由貿易圏創設を消滅に導きます。アメリカが保護貿易の道を進めば、いずれ世界経済は低迷するに違いありません。
 ヨーロッパでは2017年春にフランスで大統領選、続いて秋にはドイツで総選挙と注目の時期を迎えます。トランプ現象が波及し、保護主義色の強いポピュリスト政党が勢いづくと、世界経済は一気に不安定さを増すのではないかと気がかりです。
 日本経済は先行きにも明るさが出ています。想定外の円安で輸出に弾みがつくでしょう。年明けからは事業規模28兆円の経済対策の効果が表れ、公共投資が成長を牽引しそうです。さらなる成長促進には個人消費の増加が不可欠と思われます。重要なカギは、実質賃金がどこまで上昇するか、注目したいところです。

「日本人の心と緑茶文化」(「無糖派ダイニング ひさ家」第1回 いきいき・ワクワク雑学講座において講演)

 本日、明和病院のレストラン「無糖派ダイニング ひさ家」において第1回 いきいき・ワクワク雑学講座が開催され、「日本人の心と緑茶文化」というテーマで90分ほどお話しさせていただきました。
 関学の講義でしばらく前から「医療をめぐる諸問題」という講座を開講し、医療問題に関心を持ち、望ましい医療のあり方について考えるようになりました。その際、理想の病院の姿も思い浮かべたのですが、医学的に病気を治すだけでなく、精神的な安らぎを感じられるような場を提供できなければいけないと思うようになりました。
 病気が判明すると、誰もが落ち込み、弱気に傾いてしまいがちですが、新たな知り合いを作り、情報交換や助け合いができるネットワークがあれば、回復が早まることは確実です。こうした構想をニチレクの田渕和彦社長や西村正美さんと話し合い、具体化に向けて様々な検討を進めていただいた結果実現したのが、「いきいき・ワクワク雑学講座」です。
 先駆的な取組ですから、今後様々な工夫を重ね、参加者を増やしてゆく必要があります。それでも、高齢化社会を見据えた新たな医療のスタイルを提案する画期的な試みが始動したのですから、その成功をまず喜びたいと思います。
 「いきいき・ワクワク雑学講座」、初回のスピーカーを私が務めさせていただけたのはとても光栄でしたが、大学は長い春休み期間中で、講義から遠ざかっていたため、スムーズにお話しできるか、いささか不安でした。
 さて今回は「日本人の心」に焦点を当て、喫茶史をたどることになりましたので、手持ちの文献にあらためて目を通し、感銘を受けたエピソードを再構成してみました。八十八夜を事例に、日本人は昔から季節感を大切にしてきたことを強調し、盧同の茶歌を紹介しつつ、本当においしいお茶を飲んだときの感激を述べました。
 村田珠光、武野紹鷗、千利休によって築き上げられてきたわび、さびの心、高遊外売茶翁、上田秋成、田能村竹田ら近世後期の文人たちが愛好した煎茶文化の魅力、さらには明治維新後、伝統文化の海外流出を阻止しようと茶器を収集し、茶道文化の再評価に尽力した益田孝ら有力実業家の「数寄者」としての姿などを取り上げました。
 政治・経済と文化研究会からは湯浅薫先生がご参加くださり、他の聴衆のみなさんにもゼミの雰囲気で熱心に耳を傾けていただけたので、やりがいのある講演会となりました。
 今後様々なジャンルの方のお話をお聞きし、講座のネーミングどおり、いきいき、ワクワクの日々を送りたいものです。2回目以降の企画が楽しみです。

無糖派ダイニング ひさ家 ブログ

短期と中長期の視点で考える経済政策の課題 (西宮市明るい選挙推進協議会(明推協)主催講演会)

 本年最後となりましたが、今津公民館において、西宮市明るい選挙推進協議会(明推協)主催の講演会で、「短期と中長期の視点で考える経済政策の課題」と題して約90分、お話をしました。明推協主催の講演会にお声掛けいただくのは昨年に続き2度目です。昨年はちょうど安倍首相が消費税率引き上げ延期の是非を問うという名目で、衆議院解散を表明したタイミングでの講演だったのですが、1年が経過し、やがて4年目を迎える安倍政権の経済政策を、総括してみました。
 今回の講演では日本経済を人間にたとえました。リーマンショック後、明らかに体力が低下しており、かなり弱っています。これを元気にするのが、名医=すぐれた政策担当者の使命です。
 安倍政権はまず大胆な金融緩和と財政支出拡大という治療法を施しました。金融面では、資金供給量(マネタリーベース)を著しく増大させ、2015年末には、355兆円まで膨張する見込みです。GDPの実に7割強に相当する水準です。金融緩和という薬の効き具合をよくするため、投与する量を大幅に増やしたわけですが、2%の物価上昇には至りませんでした。
 一方毎年の公共事業費は、1990年代、バブル崩壊後の景気対策として大盤振る舞いしていた時期とほぼ同額で、10兆円を超え、景気を下支えしました。もっとも直近の動向をみると、建設現場の人手不足、賃金・資材価格の高騰で、工事がこれ以上増やせない状態にあります。
 私は、大胆な金融緩和と財政支出拡大政策は、応急処置としては一定の効果をもたらし、景気のさらなる悪化を防いだと思います。病気の治療と重ねると、鎮痛剤で痛みをおさえているようなものです。しかし病気が根本的によくなったわけではありません。
 日本経済には長期入院で、根本的に治療しなければいけない問題があります。とりわけ、1,000兆円を超える借金問題、少子高齢化の進展、地方都市の衰退(東京一極集中)などが深刻です。これらを改善するには、かなりの「腕」が必要です。人口減少社会の到来は、需要・供給の両面で経済に悪影響を及ぼします。1人の女性が生涯に産む子供の数(合計特殊出生率)を、2014年の1.42から、1.8程度に高めることが急務です。さらに厳しい財政事情のもとで高齢化が進む現在、高福祉・低負担を望むのは困難です。高福祉を求めるなら高負担(増税)はやむをえず、低負担を希望するなら、福祉サービスの水準切り下げを受け入れざるをえません。限られたお金をいかに有効に使い、無駄を省くかが問われています。元気をなくした地方都市に、活力に溢れた産業を形成し、若者や女性、働き盛りの世代にとって魅力のある職場を生み出すことも重要なテーマです。
 政策担当者は、以上のような応急処置では治せないような長期的課題にこそ力を注ぎ、日本経済の健全化をはかってほしいと願っていると述べました。
 一般市民に加え、西宮市の関係者もたくさん駆けつけてくださり、熱心に耳を傾けていただきました。今年の締めくくりとなる講演を無事終えることができ、肩の荷がおりた気持ちです。
 

日本茶800年のあゆみ −宇治茶ブランドの確立・展開・未来展望− (宇治市歴史資料館で講演)

 今日は宇治市の歴史資料館に出かけ、「日本茶800年のあゆみ −宇治茶ブランドの確立・展開・未来展望−」というテーマで講演を行いました。現在好評開催中の特別展『宇治茶−トップブランドの成立と展開−』にちなみ、宇治茶800年の歴史を整理し、来館者に展示の理解を深めていただくのが目的です。講演依頼をいただいたときは、光栄で嬉しかった反面、宇治茶の壮大な歴史を90分で凝縮してお話しするのは、自分のキャパシティーを超えた課題であると感じ、いささか躊躇しました。しかしこれまで調べてきたことをできるだけコンパクトにまとめ、みなさんに宇治茶の魅力をお伝えできればと思い、背水の陣で準備にとりかかりました。
 本日の講演の目的は、日本茶・宇治茶の歴史的展開をたどり、その価値について検討することです。タイトルに日本茶と宇治茶を併用したのは、京都の宇治地方が茶の栽培・製茶技術面で絶えず先導的な役割を果たし、高級茶の産地としての評価を定着させているからです。さらに東アジアで主流の純粋飲料としての利用にとどまらず、飲むために道具(茶器)が工夫され、点て方(点前や作法)、点てる空間のしつらえにも細かな配慮が加えられてゆき、「わび」という美意識が誕生しました。茶道・煎茶道の文化は、他国にはみられない日本独自の展開を示し、京都(宇治)を中心に発展していった点に力点を置きました。
 日本茶・宇治茶の全体像をとらえ、その価値を評価しようと思えば、茶をひとつの植物(農作物)として生産面を扱うだけでは不十分であるし、栽培・製茶の技術的発展を所与として、最初から茶道や煎茶道の美意識や精神性を論じるだけでも物足りません。今回の講演の主たる目的は、総合的に日本茶・宇治茶の価値と魅力を考察することとしました。
 さらに鎌倉時代以来、800年を超える歴史と伝統を持ち、日本を代表する文化である茶道や煎茶道を育んできた日本茶・宇治茶が、現在どのような課題を抱え、その課題解決のためにいかなる手だてを講じるべきかの方向性も提案しました。
 講師の知名度の低さから、会場ががら空きでうろたえている夢を見てうなされたりもしましたが、実際には椅子をぎっしり並べ、満席になるほど多くの方にお聞きいただきました。以前関学でお茶の総合コースを受講してくださっていた藤井啓さんも駆けつけてくださり、感激でした。終了後には何人かの茶業関係者の方からも励ましのお言葉をかけていただきました。講演の出来栄えはともかく、大きな仕事が片付き、肩の荷がおりた気持ちです。
 話は変わりますが、先般宇治茶が日本遺産「日本茶800年の歴史散歩」に登録されたことは、外国人に対しても、絶好のPRになると思います。今年(2015年)1〜10月はじめの訪日外国人は1,500万人を上回り、すでに昨年の通年実績1,341万人を超える好調さです。彼らをなるべく京都や宇治に誘導し、日本遺産関連スポットを介して、その魅力をアピールすることは有意義です。私はそのプロジェクトの司令塔の役割を、宇治市の歴史資料館で担っていただきたいと思っています。スタッフのみなさんが優れた企画力と実行力を備え、貴重な史資料の蓄積があるからです。

安倍政権の経済・財政政策 ― 評価と展望 ― (伊丹市立中央公民館市民大学講座 

 21日月曜日から、秋学期の講義が始まりました。連休の只中からの講義開始は、さすがにきついものがあります。今夏私は講演が立て込み、連日研究室に缶詰状態で、一歩も外出できませんでした。講演ラッシュがほぼ終わりに近づいたと思ったとたん、講義のスタートです。もっとも今学期は、金曜日に講義がありませんので、金・土・日とまとまった時間が使えるのがありがたいです。
 さて今日は伊丹市立中央公民館にお招きいただき、「安倍政権の検証 〜今とこれから〜 ^打楡権の経済・財政政策 ― 評価と展望 ― 」というテーマで講演させていただきました。伊丹市へは初デビューとなりましたが、公民館の担当者が私のホームページを見て、依頼のご連絡をくださいました。大変光栄なことです。ゼミ教室のような雰囲気の中で、参加者のみなさんは、メモをとったり頷きながら熱心に耳を傾けてくださり、2時間があっという間に経過した感じです。
 講座の目的は、ひことでいうと、2012年12月に成立した安倍晋三政権の経済政策を検証することです。
 まず経済政策に関しては、最新のデータで景気の現状を確認し、金融・財政政策の効果を分析しました。異次元緩和を通じ、インフレ目標を設定し、経済に大量の資金を流し込んだものの、デフレ脱却には至っていないことを述べました。また財政政策は、初期には一定の効果があったと思いますが、最近では供給制約の壁にぶつかり、一層の拡大が困難になっていることを論じました。さらに2015年度の一般会計予算を紹介しながら、プライマリーバランスの分析を試みました。
 深刻な少子・高齢化に直面する日本経済は、生産性を高めることが重要課題になっています。そのための方策として安倍政権が力を入れている企業改革、人口減社会への対策、地域活性化策など、いわゆる「第三の矢」についても検討しました。
 講義終了前には貴重な質問もいただきました。ひとつは、「大胆な金融緩和」でデフレは解消できるのかというものです。率直に言って、私は難しいと考えています。なぜなら、デフレの本質的原因は、途上国からの安価な輸入品の流入、人口減少による需要減退、企業の生産性向上にともなう製品価格の下落によるものだからです。私は実体経済が改善されないかぎり、デフレは止まらないと考えます。そのためには、日本経済の根本治療が必要です。すなわち、雇用・年金・医療・介護分野における将来不安の解消、高度成長期の家電製品や自動車に相当するランドマーク商品の開発です。安倍政権には、こういった手間のかかりそうな課題にこそ、重点を置いて取り組んでほしいと答えました。
 別の方は、年ごとに増え続ける国の借金に強い懸念を示されました。「日本は大丈夫なのか」と。講演の中で、国の借金残高は、2014年度末時点で1,053兆3,572億円に達し、国民1人当たり約830万円の借金を抱えているという現実に、大きな衝撃を受けられたようです。
 財政状態を改善するには、途は2つしかありません。すなわち、税収を増やすか歳出を削減するかです。景気が悪く、税収の劇的な伸びは期待できない現状では、消費税増税に頼るしかないと言われています。しかし、2017年4月の消費税率10%引き上げに、日本経済は耐えられるのかとても心配です。増税も歳出削減も厳しい状況で、与野党はどのようにして財政健全化をはかるのでしょうか。明確な工程表の提示を求めたいところです。
 安保関連法案を成立させるため、安倍政権は相当な体力を消耗し、経済政策が疎かになったことは否めません。しかし一般市民の切実な思いは、日本経済の経済・財政面での抜本改革であることを感じました。政治が国民の要請に応えられていないことが残念です。

安倍政権の重要課題 〜デフレ脱却・地方創生・安全保障法制をめぐって〜(尼崎市立園田公民館市民大学講座 ◆

 本日は、尼崎市立園田公民館市民大学講座において、「安倍政権の重要課題 〜デフレ脱却・地方創生・安全保障法制をめぐって〜」と題して講演を行いました。講演の主たる目的はは、2012年12月に成立した安倍晋三政権の経済政策と安全保障政策を検証することです。
 まず経済政策に関しては、最新のデータで景気の現状を確認し、金融・財政政策の効果を分析しました。異次元緩和を通じ、2年で2%のインフレ目標を設定し、経済に大量の資金を流し込みましたが、物価上昇率はゼロ%近辺で低迷したままであることを指摘しました。市場ではさらなる緩和期待が高まるに違いありません。しかし国債の一段の買い入れを行うにも限界があり、政策に手詰まり感が出てきています。デフレ脱却には、雇用の改善を通じた賃金上昇に期待するほかないと述べました。
 また財政政策は、初期には一定の効果があったものの、最近では供給制約の壁にぶつかり、さらなる拡大が困難になっていることを論じました。
 そのほか、少子・高齢化と人口減少の進展にともなって疲弊が著しい地方経済に焦点を当て、地域活性化の道をさぐりました。
 続いて安倍政権による安保政策の大転換を取り上げました。憲法改正ではなく、解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認することに多くの国民が反対し、大多数の憲法学者が違憲と主張する中、安倍首相はなぜ新しい安保政策の成立を急ぐのでしょうか。その背景を考え、様々な問題点を明らかにしました。

戦後日本の軌跡 〜 平和主義・経済発展・国際貢献を中心に 〜 (尼崎市立園田公民館市民大学講座 

 8月も終盤にさしかかりましたが、私はこれから1ヶ月あまりの間、市民講座ラッシュで正念場を迎えます。お引き受けするときはやる気満々なのですが、資料の原稿を書き始めるとなかなか思いどおり進まず、期日が近づくにつれ焦りが増幅してきます。
 さていっぱい詰め込んだ講演の初回は、尼崎市立園田公民館において「戦後日本の軌跡 〜 平和主義・経済発展・国際貢献を中心に 〜」と題してお話しさせていただきました。本格的準備には、定期試験の採点が終わった今月はじめから取り掛かったのですが、資料の完成は前日になり、また担当の方にご迷惑をおかけしてしまいました。
 本日の講演テーマは敗戦〜高度成長期の経済史です。あらためて述べるまでもありませんが、私たちは今年(2015年)、戦後70年を迎えました。そこで講演では、終戦から高度成長が終わるまでの約25年間に焦点を当て、その間の経済・社会の移り変わりをたどってみました。第二次世界大戦による犠牲者は300万人を超え、建物、機械設備、船舶などの物的損害も大きく、国富は戦争中の最大水準に比して4分の3程度にまで落ち込みました。
 戦争は日本に大きな爪跡を残しましたが、戦後復興は目覚ましく、終戦からわずか25年間で廃墟から見事に立ち直り、経済大国としての揺るぎない地位を固めるに至りました。その経過をたどるのを、今回の講座の大きな目的としました。さらに軍国主義を排除し、豊かで幸福な市民生活の土台となる民主主義を定着させた経緯にも注目しました。
 戦後史を丹念にふりかえると、現在重要な政治テーマとなっている日米関係のあり方、安全保障法制、改憲か護憲かといった課題がどうして持ち上げってきたのかがよく理解できます。例えば、今後の日米関係を考えるには、日米安全保障条約の締結まで遡る必要があります。日米安全保障条約は、サンフランシスコ講和条約調印と同じ日に調印されました。その結果、アメリカ軍は極東の平和と安全のために独立後も日本に駐留を続け、日本の防衛に寄与すると決められています。さらに翌1952(昭和27)年2月には、日米行政協定が締結され、日本は駐留軍に基地を提供し、駐留費用を分担することになりました。もしアメリカがこれまでどおり日本の防衛に力を注げないというなら、日本の様々な負担も軽減されてよいと思います。
 また日本国憲法が徹底した平和主義を唱えていることも誇りに思いました。戦力まで放棄した憲法は、主要国では他に類例をみず、改憲の必要はないと考えました。
 今の日本経済も多くの問題を抱えていますが、逆境の度合いは終戦直後とは比較になりません。今回あらためて戦後史を勉強し、敗戦から25年間で日本経済を立て直したパワーを見習わなければと思いました。

「日本経済、世界情勢と安倍政権の今後」(2) (川西市立清和台公民館市民大学講座)

 講演の後半は、安保・外交問題を取り上げました。具体的には尖閣問題と対中外交、従軍慰安婦問題と日韓関係、集団的自衛権をめぐる問題について言及しました。
 アジアとの関係改善を考えるとき、やはり歴史認識の問題は避けてとおることはできません。戦後50年の節目となる1995(平成7)年8月に、当時の村山富市首相が公式談話を発表し、日本が「植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と述べ、「痛切な反省の意」と「心からのお詫びの気持ち」を表明しました。(村山談話)
 村山談話の意義は、政府の公式見解としてはじめて過去の戦争を「侵略」と表現したことです。安倍内閣は村山談話を「全体として受け継いでいく」立場をとっていますが、首相はしばしば、「私は日本が侵略しなかったと言ったことは一度もない」と二重否定の言い回しを用いており、肯定形で「日本が侵略した」と明言することは避けてきました。
 遡って、河野談話は、1993年(平成5)年8月4日発表されたものです。当時の河野洋平官房長官が、第二次世界大戦中、朝鮮半島などでの慰安所設置に「旧日本軍が直接あるいは間接に関与した」と認めたのです。また元慰安婦からのヒアリングによると、本人の意思に反して集められた事例が多かったため、強制性を認め、「心身にわたり癒やしがたい傷を負われたすべての方々に対し心からおわびと反省の気持ち」を示しました。もっとも、政府が発見した資料の中からは、軍や官憲による強制連行を裏付ける証拠は見つかっていません。
 安倍首相は河野談話について、官房長官決裁に基づいていることを強調しています。すなわち、当時の官房長官によって表明された見解にすぎず、閣議決定を経ていないとし、首相としての政治判断を明らかにしていません。
 戦後70年を迎えた今年(2015年)、安倍談話の内容が注目されます。
 さて今後の動向で気になるのは、安倍政権が憲法解釈の変更によって、集団的自衛権の行使を容認したことです。これが日中・日韓関係にどのような影響を及ぼすでしょうか。
 これまでの政権は、集団的自衛権について、憲法9条が許容する必要最小限度を超えるという考え方に基づき、権利はあるが行使を認めないという立場をとってきました。そして、自衛権を発動するための3要件は、‘本への急迫不正の侵害がある、排除のために他に適当な手段がない、I要最小限度の実力行使にとどめると規定してきました。ようするに集団的自衛権を行使できるのは、あくまで日本が攻撃を受けた場合に反撃する(個別的自衛権)に限るとしてきたわけです。
 戦後70年間継承してきた憲法9条の解釈を、一内閣の閣議決定で変更してよいものなのでしょうか。日本国民の間でさえ、合意ができていません。これからも平和憲法の精神が堅持されるのか、安倍政権による安保政策の大転換の影響を、内外ともに固唾をのんで見守っています。

「日本経済、世界情勢と安倍政権の今後」(1) (川西市立清和台公民館市民大学講座)

 今日は川西市立清和台公民館に出かけ、「日本経済、世界情勢と安倍政権の今後 − アベノミクス、格差問題、集団的自衛権、日米関係、歴史認識などを考える −」と題して講演を行いました。今回の講演は、二重の意味で緊張しました。まず第一に、今年度最初の講演であったこと。例年講演は年度後半の9月頃からが多く、年度がはじまったばかりの4月には、あまり経験がありません。春休み中、講義からも遠ざかっていたので、果たしてエンジンがかかるか、不安でした。第二は川西市への初デビューになることです。尼崎市なら勝手もよくわかっていますが、川西市はどんな感じだろうかと、いささか心配でした。
 報告タイトルは当初非常に大きなものになりましたが、公民館の担当者が適切なサブタイトルを考えてくださったおかげで、サブタイトルの中に、話のポイントを組み込むことができました。
 当日の講演では、サブタイトルに沿って、安倍政権の主要政策を取り上げました。まず経済面ではアベノミクスについて詳述しました。「三本の矢」のうち、大胆な金融緩和と機動的な財政政策は、即効性がある反面、副作用にも注意しなければならないことを指摘しました。大胆な金融緩和の結果、資金供給量は2015年末には、355兆円まで膨張するそうですが、GDPの実に7割強に相当する水準で、どう考えても行き過ぎです。またバブルが発生するのではないか、大変気がかりです。また機動的な財政政策は、やめたときの反動が心配です。今のところ、東日本大震災からの復興、オリンピックに向けての環境整備、リニア新幹線など大型プロジェクトのおかげで活況を呈していますが、少し長い目で見て、これらが終わったときの需要急減が懸念されます。
 成長戦略に関しては、最近IMFが発表した世界経済レポートをもとに、その重要性を強調しました。IMFのレポートによると、先進国、途上国を問わず、成長のスピードが鈍化していると言います。その背景にあるのは高齢化の進行で、労働力人口の減少により、潜在成長率(中長期的に持続可能な経済成長率)の低下が顕著になっているのです。
潜在成長率の低下に立ち向かうことができるのは、成長戦略しかありません。つまり、労働力となる世代の人口が減っても、GDPが拡大するような政策を追求しなければならないわけです。そのためにはまずは労働生産性(Y/N Y:付加価値、N:労働量 労働者1人当たりが生み出す付加価値)を高める方策を見出さなければなりません。それが「第3の矢」である成長戦略なのです。
 次にアベノミクスの一環として力が入れられている「地方創生」に関してもある程度時間をかけて述べました。詳細は、19日の記事をご参照ください。

景気の現状と総選挙 (堺市ライオンズクラブ第1364回例会で講演)

 今日は谷本陽蔵先生の御高配で、堺市ライオンズクラブ第1364回例会にお招きいただき、「景気の現状と総選挙」というテーマで講演しました。経済面では景気の現状とアベノミクスの金融・財政政策の評価、政治的には衆議院解散・総選挙を決断した安倍首相の狙いはどこにあるのかについてお話しをしました。
 今回の報告で特に問題にしたのは、2015年10月の消費増税見送りと財政健全化の行方です。安倍首相は、2014年7−9月期のGDP統計の結果が芳しくなかったため、「消費増税10%への引き上げを延期することの是非を国民に問う」ため、衆議院の解散・総選挙を決断しました。ただどうも釈然としないのは、三党合意を白紙撤回した理由を、自公政権は全く説明せず、民主党も安易に同意した点です。
 首相は2015年10月の消費増税を延期し、そこから1年半後の2017年4月には必ず10%に引き上げると断言しましたが、本当に再延期はないのでしょうか。
 国の借金残高は、2014年9月末時点で1,038兆9,150億円になり、国民1人当たり約817万5,000円の借金を抱えている計算です。こうした状況の中で、高齢化が急速に進んでおり、社会保障費は増加の一途をたどっています。年金・医療・介護の給付と負担について、早く踏み込んだ議論をしてほしいものです。
 次に国際公約である2020年度におけるプライマリーバランス均衡の問題を考えました。プライマリーバランスとは、国債などの借金を除いた歳入と、過去の借金の元利払いを除く歳出を比較したときの収支バランスです。歳出が歳入を上回っていたらプライマリーバランスが赤字、逆の場合は黒字となります。 ここで2014年度の一般会計予算案をもとに財政状態を確認し、プライマリーバランスを計算してみます。収入は税収が50.0兆円、税外収入が4.6兆円、支出は、一般歳出56.5兆円と地方交付税16.1兆円、国債の元利払い23.3兆円を合わせ95.9兆円になります。したがってその差(95.9兆円−50.0兆円−4.6兆円=41.3 兆円)は、公債金収入(借金)などで賄わなければならないことがわかります。
 以上の数値からプライマリーバランスを計算すると、(50.0兆円+4.6兆円)−(56.5兆円+16.1兆円)=−18.0兆円 すなわち18.0兆円の赤字となります。
 民主党政権の2010年度、プライマリーバランスの赤字額は約32兆円でした。対GDP比率でみると6.6%にあたります。民主党政権はこれを2015年度に半減の3.3%に引き下げ、2020年度にはゼロにする目標を掲げ、安倍政権に引き継がれました。2014年度の実質GDPは522.8兆円、プライマリーバランスの赤字額は18兆円なので、対GDP比率は3.4%です。しかし増税延期で歳入が減り、景気対策で支出が増大することを考えると、2015年度の数値は悪化しないのでしょうか。
 プライマリーバランスを改善するには、税収を増やすか歳出削減しか方法はありません。景気が悪く、税収の劇的な伸びは期待できない現状では、消費税増税に頼るしかないと思います。
 増税も歳出削減も厳しい状況で、与野党はどのようにして財政健全化をはかるのでしょうか。明確な工程表の提示を求めたいところです。
 安倍首相の衆議院解散表明以降、わずかの期間のうちに3回も、アベノミクスの中間評価と総選挙の行方についてお話しさせていただく機会に恵まれました。目前に選挙を控え、政治・経済の情勢が刻々と変化するため、報告準備と資料作成が大変でしたが、ホットなテーマに乗り遅れずフォローしてゆけたのは、講演の機会を授けてくださったみなさんのおかげです。いつも感謝しています。


堺市ライオンズクラブアクティビティ


2015年 日本経済の展望 (尼崎市立大庄公民館市民大学講座)

 ずいぶん寒さが厳しくなってきました。外出がだんだん億劫になってきましたが、聴衆が熱心な市民大学なら寒さも吹き飛びます。今日は尼崎市立大庄公民館市民大学講座で、「 2015年 日本経済の展望」というテーマで講演しました。
  2012年末に発足した安倍政権は、「デフレからの脱却」を掲げ、大規模な金融緩和、公共事業など機動的な財政運営、規制緩和などを通じた成長戦略の「3本の矢」からなるアベノミクスを展開しています。
 アベノミクスにおける、金融・財政面の政策は、従来の経済学では考えられない強力なカンフル剤といえます。しかし強力な治療を施した割には、日本経済はデフレ脱却に至っていません。2014年7−9月期のGDP速報によると、成長率は-1.6%という状況であり、日本経済には増税に耐えられるほど強い体力はないことがわかりました。景気は悪化を防ぐには、金融緩和と財政拡大のカンフル剤をやめられないという気がしました。
 カンフル剤を打ち続けることによって景気は短期的に改善するはずです。しかし長期的には副作用がとても心配です。副作用はすでにあらわれていますが、円安進行にともなう物価高に賃金の上昇が追いついていません。短期のうちに1ドル=120円まで進んだ円安は、どうみても行き過ぎではないでしょうか。財政支出の拡大と消費増税先送りで、財政赤字が一段と拡大しそうです。高齢化社会に突入するなかで、年金・医療・介護に万全の備えが行われていないことに、多くの国民は不安を感じているに違いありません。無駄の見直しも、一向に進んでいません。大企業と中小・零細企業、正規雇用と非正規雇用の格差が広がり続けていることに対しても、迅速な対応が求められます。
 11月18日、安倍首相は衆議院解散を表明し、21日解散しました。首相はこの解散を「アベノミクス解散」と名付け、アベノミクスの継続を単一の争点として選挙戦に臨みます。
 講演では、衆院選の動向にも注意を払いながら、ちょうど2年が経過したアベノミクスを総括し、プラス面とマイナス面を検討し、2015年の経済動向を考えました。

景気の現状とアベノミクスの今後  (西宮市明るい選挙推進協議会・西宮市選挙管理委員会主催講演会)

 本日は西宮市の鳴尾公民館に出かけ、西宮市明るい選挙推進協議会・西宮市選挙管理委員会主催講演会において「景気の現状とアベノミクスの今後」というテーマで講演しました。ホームグランドの西宮市でも講演の機会をいただけたことを大変嬉しく思っております。
 講演のお話をいただいたのは、9月はじめでした。そのときは、第2次安倍改造内閣がスタートしたばかりの時期でしたので、「三本の矢」をキーワードに、折り返し点にさしかかったアベノミクスを評価し、政権の後半でどのようなことを推進しようとしているのか、詳しく解説するつもりでした。
 ところが本番直前になって、ビッグニュースが飛び込んできました。内閣府が17日発表した2014年7−9月期のGDP速報によれば、物価の変動の影響を除いた実質で前期比0.4%減、年率換算で1.6%減を記録したのです。4月の消費増税後の消費低迷が長期化し、2四半期連続のマイナス成長だったのは驚きでした。
 安倍首相はGDP統計の結果が厳しくなることを事前から覚悟していたのでしょう。翌18日、来年10月に予定されていた消費税率の10%への再引き上げを2017年4月まで1年半先送りし、衆議院を解散することを表明しました。
 首相は解散の理由について、「税制に大きな変更が生じるので国民の信を問わなければならない」と主張します。しかし景気悪化による増税先送りなら、消費増税法の改正で済む話で、反対している政党はありません。それを承知の上であえて「先送りの是非を問う」というのなら、大衆迎合主義というほかありません。
 ところで一般論として考えた場合、首相が解散権を行使するのはどのような場合でしょうか。通常なら、前回の選挙で表面化しなかった重要な争点が出てきたとき、もしくは、首相と国会の対立が激化し、国会運営が行き詰まったときではないでしょうか。今回はどちらも当てはまりません。真の目的は、集団的自衛権の行使容認にともなう法整備や、原発再稼働など、世論を二分する困難な問題を「選挙で勝ったので国民の支持を得ている」と主張し、乗り切ることではないでしょうか。与党の支持率が比較的高く、野党の準備が整っていない「今」が絶好のタイミングなのです。
 突然の解散・総選挙決定の背景について述べた後、本題のアベノミクスの評価に移りました。「大規模な財政出動」、「異次元の金融緩和」という強力なカンフル剤を投じた割には、効果がうすいというのが率直な印象です。ここ1年のGDP成長率の推移(年率換算)をたどると、2013年7−9月期-1.6%、2014年1−3月期+6.7%、2014年4−6月期-7.3%、そして今回の2014年7−9月期-1.6%という状況です。1年のうちでプラス成長を示しているのは、消費税率が8%に引き上げられる直前の2014年1−3月期のみということです。ようするに絶えずカンフル剤を投与しないかぎり景気は悪化することがはっきりしました。
 カンフル剤を打ち続けることによって景気は短期的に改善するでしょう。しかし長期的には副作用が心配です。副作用はすでにあらわれていますが、円安進行にともなう物価高に賃金の上昇が追いついていないこと、財政支出の拡大と消費増税先送りで、財政赤字が一段と拡大し、国の信用力が低下することなどが気がかりです。
 私が注目しているのは、12月14日の総選挙で、自公政権は現有勢力326(自民・295、公明・31)を維持できるかどうかです。与党がどこまで取りこぼしなく戦えるか、野党がどこまで善戦するか、14日は開票速報から目を離すことはできません。

※ 事務局の担当者がわざわざ講演のもようを撮ってくださいました。会場がいっぱいになるほど多くの方が熱心にお聞きくださいました。お忙しい中、社会再生学会の西村正美さんも駆けつけていただき、感激です。また、終了後は個別的に多くのご質問を頂戴しました。やりがいのある講演会でした。市民講座へは毎日でも行きたい心境です。

鳴尾公民館

「安倍政権の政治・外交について考える」(尼崎市立園田公民館市民大学講座)

 今日は尼崎市立園田公民館に出かけ、「安倍政権の政治・外交について考える」というテーマで講演を行いました。園田公民館では、ちょうど2週間前に安倍政権の経済問題(アベノミクス)についてお話しし、今回は政治・外交に焦点を当てることになりました。考えてみると、この2週間で3つ市民大学を行ったことになります。一応毎回10ページくらいの原稿を準備してゆきますので、講演が短期間集中するのはさすがに堪えました。ほかの用事も重なって、この夏休みはとても苦しい思いをしましたが、講演だけは無事終えることができました。しかしあと2種類原稿を抱えており、夏休みが残り少なくなるなかで、あとひと踏ん張りしなければいけません。
 さて講演では、9月3日に発足した第2次安倍改造内閣についてお話ししました。考えてみると、2012年12月に発足した第2次安倍内閣は、ひとりの閣僚の交代もないまま1年8カ月間、職務をまっとうしました。これまでの内閣は、問題発言による辞任や、スキャンダルの発覚、問責決議を受けての改造で、閣僚がよく入れ替わりましたが、これまでの安倍氏の政権運営の安定ぶりは際だっていたといえます。
 今回の第2次安倍改造内閣の特徴は、’蛭兇離丱薀鵐垢忘擔瓦涼躇佞鯤Гぁ∪府与党の結束を重視して、挙党体制が築かれたこと、▲▲戰離潺スの継続とともに、地方創生や女性の活躍などの新たな政策を打ち出したこと、M菁4月の統一地方選挙に勝利し、9月に行われる自民党総裁選において無投票での再選を目指し、長期政権を実現する土台を整えたこと、などが挙げられると思います。講演では、第2次安倍改造内閣が直面する政策課題について、様々な角度から解説しました。
 改造内閣は今後、中国・韓国との関係改善、消費税率の再引き上げ、原子力発電の再稼働といった難問に直面します。これらはいずれも、世論が二分される一筋縄ではゆかない問題で、様々な意見によく耳を傾け、方針を確定するまでに、丁寧な説明が行われるべきだと思います。さらに戦後70年を迎えるにあたり、私たち日本人が歴史とどう向き合うかも、問われています。
 今日の講演準備を行うだけでも、私たちが真剣に取り組むべき課題がたくさん見つかりました。今後社会再生学会のみなさんとじっくり議論を深めてゆきたいと思っています。

「アベノミクスの検証 −現状と今後の展望−」 (尼崎市立園田公民館市民大学講座)

 今日は尼崎市立園田公民館市民大学講座で「アベノミクスの検証 −現状と今後の展望−」というテーマで講演しました。園田公民館では昨年12月10日、「宇治茶を世界遺産にするためには」と題し、宇治茶の文化史を中心にお話し、多数の方にご参加いただきましたが、今回も前回同様、会場が満席になるほど、たくさんの方にお越しいただけたのは嬉しいかぎりです。アベノミクスは、ふだんから動向をチェックしていますので、比較的取り組みやすいテーマでした。ただ今夏は約10日間のお盆休み中、図書館の新聞記事検索システムが利用できず、直前まで焦りました。
 さて講演では、2014年4−6月期のGDP速報にみる景気の現状についてふれ、消費税増税の反動がかなり強く統計にあらわれていることを指摘しました。その後アベノミクス「三本の矢」について、ひとひとつ細かに見てゆき、現状と問題点を述べました。
 私の現時点でのアベノミクスに対する印象は、とにかく株高と円安が進んだということです。日銀がマネタリーベースを2年間で倍増させることを宣言し、投資家たちは一斉に株高・円安が進むと予想し、誰もが日本株を買って円を売ったので、現実にそのような現象が生じました。
 期待がつくり出した株高・円安によって、資産効果が働き、消費が刺激されたことは事実です。さらに民主党政権時代の円高で瀕死の状態にあった輸出企業は、円安の恩恵を受けて息を吹き返しました。
 しかしこのような期待に働きかける政策は、賞味期限が短く、利益を求めて行動する投資家たちをつなぎとめておくには、絶えず新しい材料を提供し続けなければならないという気がします。最近注目を集めているのは、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人・GPIF(GPIF・Government Pension Investment Fund)の資産配分の見直しです。GPIFの基本的な資産構成は国内債券が60%、国内株式が12%と定められていますが、実際のところ2013年末の段階で、国内株式の比率はすでに約17%に達しています。安倍内閣はこれをさらに20%程度にまで引き上げようとしているのです。企業業績の上昇を反映しない「官制相場」が出現しつつあり、目先だけの株価対策で相場上昇が持続するかが疑問という声も耳にします。
 私は安倍内閣に対し、こうした「株高こそが命綱」という政策よりも、賃金上昇、雇用改善、デフレ脱却といった「実物経済」に好影響を与える政策を望みます。
 第二の矢である機動的な財政政策にも注意が必要です。デフレ脱却、消費増税のショック緩和を唱えれば支出内容が問われることなく、「何でもあり」になっていないでしょうか。2013年末の国の借金残高は、1,079兆9,459億円、国民ひとりあたり換算で、約800万円という現状を想起すると、放漫な財政運営は許されません。
 大企業と中小・零細企業、正規雇用と非正規雇用の格差が広がり続けていることや、高齢化社会に突入するなかで、医療・年金・福祉に万全の備えが行われていないことにも危惧を覚えます。経済団体・大企業・投資家たちが喜ぶ政策を打ち出すことに熱心な反面、立場の弱い個人に対しては、負担増を求めたり競争原理を突きつける政策は望ましくありません。

茶業活性化・喫茶文化振興を目指して (佐賀県茶業振興大会で講演)

 今日は嬉野市公会堂で開催された佐賀県茶業振興大会において、「茶業活性化・喫茶文化振興を目指して −フードシステムの視点から−」というテーマで講演しました。今月はじめ、数日寝込まなければならないほどの風邪をひき、佐賀へ出かけるまでに回復するだろうかと不安でしたが、どうにか乗り切ることができました。
 振り返ってみると、嬉野市をはじめて訪れたのはちょうど2年前の2012年1月のことでした。そのときは佐賀大学経済学部主催の講演会で、「佐賀県の茶業史と茶文化」というタイトルで講演の機会をいただいたのですが、前日現地調査の機会を作ってくださり、嬉野市の方々をご案内いただきました。次の日の講演には多くのお茶関係者がご出席くださり、温かく歓迎してくださいました。話がはずみ、市民参加型の本格的なお茶の学会を設立しようということになり、ほぼ1年半の準備期間を経て、2013年5月、佐賀・茶学会の活動がスタートしました。学会活動が軌道に乗り、お茶関係者の方々との交流が一段と深まってきたタイミングで、再度講演の機会をいただいた次第です。
 講演では、茶業関係者は、農業としての茶業活性化、生活文化・芸術文化としての喫茶文化振興という2つの視点を持たなければならないことを強調しました。
 まず農業としての茶業活性化をはかるには、茶のフードシステム全般を見渡す幅広い視野と情報収集・問題発見能力が求められます。その後、栽培・製茶技術、機械、経営(従業者の指導・監督、資金管理)、マーケティングなど、専門知識を磨くことが重要であると述べました。
 喫茶文化振興をはかるには、「日本人にとってお茶とは何か」という究極の問に答えられる一般市民を増やしてゆかなければなりません。「のどの渇きを潤す」役割だけでは、他の飲料と区別がつかないからです。茶道と煎茶道に象徴される「芸術文化」としてのお茶、コミュニケーションを深め、暮らしに潤いを与える役割を担う「生活文化」としてのお茶の役割を、日本人全体で再考しなければならないと考えています。
 もっとも経済効率第一主義の徹底により、我々は高度な精神性を重んじるだけの余裕をなくし、家族団欒の時間も減って、喫茶文化は危機に直面していることは否定できません。このような逆境を克服するには、茶にまつわるあらゆる「モノ」、「コト」を洗い出し、それらをつなぎ合わせ、新たな付加価値をつけことが求められていると述べました。
 リーフ緑茶離れに歯止めがかからず、業界に元気がないといわれるようになったのは、お茶の素晴らしい魅力を一般市民に伝えきれていないからです。それならば他の産地に先駆けて、まず佐賀が立ちあがってほしいと願っています。ソチオリンピックにあやかり、「全力応援!佐賀茶業」です。 

社会再生学会第8回研究会を行いました (2)

 最近はアベノミクス効果もあり「株価高ければすべてよし」の世相が定着しているように感じます。しかし私たちが抱く将来に対する不安やリスクが軽減されたわけではないことを、忘れてはいけません。国民年金は老後の基本的なセーフティーネットですが、保険料の未納率が約4割に達し、存続が危ぶまれます。また年金原資の半分を税金でまかなっている状況を考えると、財政健全化は緊急の課題のはずですが、「景気優先」で予算の見直しが一向に進んでいないことを問題視しました。
 わが国が世界一の長寿国であるのは、充実した医療のおかげです。「健康で長生きできる社会」が最も幸福な社会であることに異論はないと思われます。それならば、「誰でも、いつでも、どこでも」満足のゆく医療サービスが受けられ体制を絶対に守らなければいけません。しかしわが国の医療は深刻な問題点を抱えています。何よりも、高齢化社会の進展で、病気にかかりやすい高齢者の受診が増え、医療費が増加の一途をたどっているのです。厚生労働省の発表によると、2012(平成24)年度に病気やけがの治療で全国の医療機関に支払われた医療費は、前年度比で約6,000億円(1.7%)増加し、約38兆4,000億円と過去最高を記録しました。加えて、医療技術の進歩により、高価な医療機器が登場し、再生医療、移植医療なども行われるようになったことや、高額の薬剤が開発されていることも医療費増大の原因になっています。効果のうすい公共事業を実施したり、軍事力増強に使うお金があるならば、医療制度の破綻を防ぐ対策に使ってほしいと述べました。

社会再生学会第8回研究会を行いました (1)

 本日、社会再生学会第8回研究会を行いました。年内にあと1回研究会を行うことは、10月から決まっていましたが、「幸福」をどのような視点で料理すればよいか、なかなか方針が定まらず、ストーリーの組み立てに苦労しました。悩みに悩んだ結果、最終原稿の完成は前回同様、当日の朝になってしまいました。
 現在日本経済は様々な問題を抱えていますが、終戦後の約70年間に限定すれば、順調に発展してきたといえます。その最大の要因は、大きな戦争に巻き込まれず、平和を維持できたからではないでしょうか。
 順調な経済発展を実現するためには、経済政策が重要ですが、絶えず成長を目指し、計画経済ではなく、市場経済を定着させたことが功を奏したと考えています。両者は資本主義経済の基本であり、ある意味で語り尽くされた事実かも知れませんが、今私たちが享受している豊かさ・幸福の源泉であるとの判断から、私なりに再整理してみました。
 ただし、資本主義経済の問題点を是正しなければ、豊かで幸福な経済は、長続きしないでしょう。私が最も注目しているのは、飽和状態の市場に商品を投入し続けることの是非です。企業の経営者たちは、製品のモデルチェンジを頻繁にして、まだ使えるものを買い換えさせたり、必要以上に多く持たせたりしようとする戦略を打ち出しています。身近なところではテレビショッピングで「残りわずか」と消費者を焦らせる方法がとられていますが、違和感を感じます。私たちの身のまわりには、衝動で買ったものの、すぐ飽きがきて使わなくなったものが一杯です。「満ち溢れ過ぎていること」、すなわち過剰消費は資源の無駄遣いを引き起こしています。このままでよいのかと、考えさせられます。
 さらに資本主義経済は不確実性に対応できないことも再度認識すべきです。資本主義は本質的に不安定です。生産や投資活動は、企業家の予測に基づいて行われますが、その予測はまず的中しません。経済のグローバル化が進めば進むほど、不確実性は高まります。
 1990年代の日本経済を長期不振に陥れた「3つの過剰」(設備・人員・不良債権)は、基本的にはバブル期に将来予測を誤ったために生じたものです。これを打開するため、今アベノミクスが行われているのですが、出口戦略をどう設計しているのかが全くわかりません。
 競争が経済発展の原動力となってきたことは否定できませんが、最近はどこかが倒れるまで続く消耗戦になっており、あまりにも過酷です。すべての業界で一強多弱化が定着してしまった感がありますが、望ましい姿であるとは思えません。

「宇治茶を世界遺産にするためには」 (3) (尼崎市立園田公民館市民大学講座)

 ところで昨日述べたとおりの喫茶文化を支えてきたのは、宇治茶業でした。宇治茶が高級茶としての地歩を固めたのは、15世紀後半です。まず発展の第一段階として、室町幕府の保護を受けながら七名園を中心に生産を展開し、『尺素往来』(せきそおうらい)成立期には、「本茶」と呼ばれた栂尾茶を上回る評価を得るに至りました。
 発展の第二段階は、安土・桃山時代です。茶の湯は権威と権力を誇示するため、信長・秀吉に愛好されました。そして彼らが主催する茶会で用いられたのが、宇治茶だったのです。またこの頃から宇治においては覆下栽培が始まり、品質面でも高級化がはかられました。こうして、宇治茶の名声は広く知れわたるようになりました。
 続く江戸時代初期は、宇治茶が高級茶の産地として揺るぎない地位を獲得した確立期と位置づけられます。とりわけ家光の時代に制度化された御茶壷道中は、宇治茶に対し一層の権威づけを行うことになりました。
 以上に加え、1738年の永谷宗円による宇治製法の開発、19世紀前半の玉露の創製からも明らかなように、技術の先進地としての貢献も、ブランド力を高めるのに大きな役割を果たしたといえます。
 茶の歴史は京都が最も古く、日本茶の文化は京都で育まれ、技術は宇治を中心に発展してきたというストーリー性が、「日本茶・宇治茶」のブランド力の源泉であり、価値といえると思います。
 なお最後にひとつ注意を要するのは、世界遺産の対象は基本的に「形のあるもの」すなわち不動産という点です。そこで個人的には、無形文化遺産としての登録を目指すことも選択肢だと思っています。
 ユネスコによると無形文化遺産とは、「人びとの慣習・描写・表現・知識及び技術並びにそれらに関連する器具、物品、加工品及び文化的空間」を指します。ようするに無形文化遺産は形にならない人間が持つ知恵や習慣などであり、口承による伝統及び表現(言語を含む)、芸能、社会的慣習、儀式及び祭礼行事、自然及び万物に関する知識及び慣習、伝統工芸技術などが想定されているのです。
 「和食 日本人の伝統的な食文化」の無形文化遺産登録が決定したばかりであり、宇治茶も必ずしも「有形文化遺産」にこだわらなくてもよいような気もしています。

「宇治茶を世界遺産にするためには」 (2) (尼崎市立園田公民館市民大学講座)

 ここでお茶の歴史を簡単に整理しておきます。伝来〜開港にともない輸出商品として脚光を浴びるまでの歴史は、京都(宇治)の歴史といっても過言ではありません。
 まず栄西が宋からもたらした喫茶の習俗は、鎌倉時代に仏教と結びつきながら普及してゆきました。茶が仏教と深い関わりを持っていたのは、カフェインの覚醒効果が修行の助けとなったからです。
 鎌倉時代の終わり頃から、喫茶は貴族や武士社会にも支持者を広げるようになりました。これは茶が薬用としてだけではなく、社交の場における嗜好品として日本人の生活の中に定着していったことを物語っています。
 応仁の乱後開花した東山文化の中で、茶道の基礎が築かれました。茶を点て、客に供する礼法は、村田珠光によって創出され、武野紹鷗が継承し、千利休の手で大成されました。茶道は、亭主・客としての振る舞い・作法、茶道具、茶室や庭園、書と絵画、精神性までを含めた総合芸術としての地位を確立します。
 18世紀前半煎茶が開発されると、知識人たちの間で煎茶文化が広がってゆきます。彼らが求めたのは、世俗を離れ、身を清貧に保ち、文雅を友とする生き方でした。中国の文人が仙境をさすらうのを理想としたように、どこまでも自由な気風を身上としました。そして中国の明・清の時代の道具に囲まれ、上質の茶を賞味しながら、詩文・書画を鑑賞し、学問・芸術について語り合うサロンを理想としたのです。

「宇治茶を世界遺産にするためには」 (1) (尼崎市立園田公民館市民大学講座)

 今日は尼崎市の園田公民館の市民大学で、「宇治茶を世界遺産にするためには」というテーマで講演を行いました。
 現在京都府では、日本茶・宇治茶のユネスコ世界文化遺産の登録を目指して、宇治茶の振興に取り組んでいます。その目的として、宇治茶を世界的な価値として発信すること、美しい茶畑の景観や様々なお茶関連の催事の保存・維持を通し、生産体制の強化と担い手確保をはかること、宇治茶を世界ブランドとして育成し、国内消費や輸出拡大に結びつけることなどを挙げています。このブログでも何回か話題にしていますが、私は京都府の日本茶・宇治茶の世界文化遺産登録を目指す委員会の活動にほんの少しだけ関わっていますので、このようなテーマでの講演する機会をいただいた次第です。
 宇治茶の世界遺産登録を実現するためには、世界遺産の登録基準に即したストーリーをいかに組み立てるかが課題だと思います。私の見解では結局、宇治茶の歴史、栽培・製茶技術、茶道や煎茶道の文化、茶室や庭園、茶畑の景観などの文化的価値を詳細に検討してゆくことが重要であると思っています。そこで講演では、宇治茶の歴史的展開をたどり、その魅力をさぐってみることにしました。

「幸福の経済学 −豊かさ・幸福を実感できる経済を目指して−」 (尼崎市立大庄公民館市民大学講座) 

 今日は尼崎市立大庄公民館の市民大学で、「幸福の経済学 −豊かさ・幸福を実感できる経済を目指して−」というテーマで講演しました。ありがたいことに、社会再生学会の活動にご尽力いただいている湯浅薫先生も、遠方奈良から駆けつけてくださいました。
 今日このテーマでお話しすることは、年度はじめの4月からわかっていました。社会再生学会でも取り上げているし、冊子の原稿も書かなければいけないので、否応なく準備が進むだろうと思っていましたが、11月を迎えてもメモ程度のものしかできておらず、文章化には程遠い状態でした。当初の見通しが大誤算で、とにかく焦りました。メモ状態で原稿の形が見えないということは、公民館の主催者と社会再生学会のメンバーのみなさんに二重にご迷惑をかけることになります。
 これまでのんびり構えていましたが、事態が差し迫り追いつめられてきた私は、今月になってようやくエンジンがかかりました。そしてここ3週間余り、死に物狂いで本を読んでは文章化するという作業を続けました。その甲斐あって、本日午前5時、どうにか発表できる態勢を整えた次第です。
 今回の講演では、次のようなトピックスを取り上げました。まずは「経済成長(所得)と幸福」です。色々な事例を挙げながら、経済成長(GDPの規模拡大)は、長期の視点で見るほど、私たちの生活を便利なものにし、幸福度を高めてきたことを述べました。大多数の国民は、より多くの生産が行われ、より多くの所得が分配され、より多く消費できることを望んでいると考えて差し支えないでしょう。同時に環境破壊や資源枯渇など、成長の負の側面にもふれ、成長だけが私たちの幸福度が高まる方法ではないことも述べました。
 次に「リスク抑制と幸福」と題して話題提供しました。人生には様々なリスクが潜んでいますが、そのリスクを可能なかぎり抑えることが幸福につながることを、代表的なリスク抑制装置である年金と医療を引き合いに出しながらお話ししました。
 3番目のテーマとして、「つながりの強化と幸福」を扱うことにしました。人間はひとりで生きてゆくことができず、相手と良好な人間関係を保つことによって、精神的安らぎを実感したいと思っています。いうまでもなく「つながり」の強化は、幸福度を高めることになります。この点について、家族と職場を事例に考えました。
 最後に「政治・行政の質と幸福」に焦点を当てました。 政府の役割として、教科書的には、公共サービスの提供、社会資本の整備、所得の再分配、経済の安定などが挙げられ、これらはすべてが幸福と関係しています。したがって、私たちの幸福度は、政治・行政の質を高めることによって上昇させられると言えます。政治・行政の質と幸福についても様々な角度から検討しました。
 講演終了後には場所を移し、湯浅先生と5時間あまりの「延長戦」を行いました。湯浅先生には社会再生学会のこれまでの取組を高く評価していただき、個人の幸福と経済・社会の幸福を追求する仕事はエンドレスであるという認識で一致しました。一睡もしていない割には、不思議と元気が出て、幸福を感じました。

社会再生学会第7回研究会を行いました (2)

 後半、いよいよ私の出番が回ってきました。報告テーマは、「日本の安全保障を取り巻く環境変化と集団的自衛権行使問題をめぐって」です。堤さんのご報告は、経済のジャンルであったのに対し、私は政治・外交・安保に関わる緊急の課題を取り上げました。折しも10月15日に召集された第185臨時国会の所信表明演説において、安倍首相は積極的平和主義を唱えました。首相によれば、日本を取り巻く安全保障環境が変化していることを踏まえ、「平和を将来も守り抜いていくために、私たちは、いま、行動を起こさなければならない」と訴えました。
 それにしても積極的平和主義とは、結局どういう意味なのでしょうか。今私たちに問われていることははっきりしています。すなわち、戦後守り続けてきた平和憲法の理想を転換するのか、しないのかという問題です。もちろん、北朝鮮の核開発問題や、中国の軍事大国化など、安全保障上の重大な危機にも直面していることも考慮しなければいけません。だからこそ我々は、いざという時に備え、武力行使もできる体制を作っておかなかえればいけないのでしょうか。それともこれまで通りいかなる場合も武力行使は認めないのがよいのでしょうか。両者の選択を迫られています。
 この難しいテーマへの回答に少しでも近づけるよう、当日の報告では、GHQによる民主化政策と日本国憲法の制定、冷戦の展開とアメリカの対日政策の変化、日米安保、PKO活動と日本の国際貢献についてといったテーマでこれまでの経過を振り返り、みなさんと活発な意見交換を行いました。
 ここであらためて平和主義を唱えた第9条の条文を確認しておきましょう。次のようになっています。
第2章 戦争の放棄
第9条 戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認
第1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 参加者からは様々な考え方が示されましたが、最終的には今あえて憲法を改めたり、解釈を変更する必要はないという結論に落ち着きました。
 もし紛争に巻き込まれた場合でも、わが国は武力でこれ解決するのではなく、平和憲法のもとで育んできたソフトパワーを重視すべきではないでしょうか。他国から何と言われようと、これまでずっと守り続けてきた理念を曲げる必要はないと思います。  

社会再生学会第7回研究会を行いました (1)

 昨日20日、社会再生学会第7回研究会を実施いたしました。最初から覚悟はしていましたが、2日連続の講演はさすがにきついと思いました。明和病院での講演を終えてすぐに帰宅し、その後しばらく仮眠をとってから資料の最終仕上げにかかりました。そしてようやく出来上がったのは20日午前10時でした。ほかの方の報告をお聞きするだけなら多少気持ちは楽ですが、自身の報告となると、不完全でも体裁は整えなければなりません。しかし集団的自衛権行使問題をめぐる問題を明らかにするには、敗戦直後の米軍による占領政策にまで遡らなければならず、ストーリーのとりまとめが難航したのです。
 さて今回の研究会、前半はシニア自然大学の堤正克さんが、「超高齢社会の大きな課題とシニアの役割を考える」と題して話題提供してくださいました。堤さんはわが国が早急にかつ優先的に解決すべき課題として、財政再建、少子超高齢化対策、福島第一原発事故の処理問題を挙げられました。
 まず財政再建に関しては、1,000兆円もの巨額の借金を少しでも減らすためには、具体的な戦略が必要であると述べられました。そうしなければ、国際社会におけるわが国の信頼性が失われると懸念を表明されました。解決に向けての方向性は、歳入を増やし(大規模な増税を行い)思い切った歳出をカットを行うことです。とはいえ各経済主体の利害が錯綜し、「痛みをともなう改革」はなかなか実行できないのです。主役である私たち国民のコンセンサスをいかに形成してゆくか、継続的に議論することになりました。
 続いて少子超高齢社会の克服も強調なさいました。これも対応が非常に困難なテーマですが、非正規社員のウエイトを低め、若者が将来に不安を抱かなくてよい社会の構築を強く訴えられました。その一方で、地域ぐるみでの子育て支援など、少子化に歯止めがかかるまでシニア層ががんばらなければならないとおっしゃっていたのが印象的でした。
 3番目の論点は福島第一原発事故の処理です。原発を推進したのはシニア世代であるという反省も込めて、若者世代に負の遺産を引き継がないよう、対策を急ぐべきだと警鐘を鳴らされました。安倍首相がオリンピックの東京招致演説で「アンダーコントロール」と述べましたが、大部分の国民が違和感を感じたに違いありません。この問題、どうすれば根本的に収束するのか、種々の意見が出ましたが決定的な対策には到達せず、今後も引き続き検討を加えることになりました。
 堤さんから提起された3つのテーマは、誰がどう見ても、わが国が最優先に取り組まなければいけない難問です。そうした意識は私たちメンバーも共有しており、今回の研究会においても多様な意見が出されましたが、結論を得るまでには至りませんでした。それでもひとりで考えているだけでは到底見過ごしてしまうような視点が次々と示され、議論が大幅に前進したことに確かな手応えを感じました。

「お茶を通して考える日本文化の魅力  −日々の生活に生かしたいお茶の精神−」(「けんこう楽座」セミナーで講演)

 昨日19日、明和病院のレストラン「無糖派ダイニングひさ家」において、特定非営利活動法人・シニア自然大学校主催、螢縫船譽・ひさ家共催「けんこう自然楽座」セミナーが開催され、「お茶を通して考える日本文化の魅力  −日々の生活に生かしたいお茶の精神−」というテーマで講演しました。
 ひさ家は今年4月、明和病院の事務所であった場所を改装し、オープンしました。私もすでに何回か訪ねていますが、普通の事務所だったところが、おしゃれな雰囲気の素敵なレストランに変身し、驚いていました。昨日は講演が始まる少し前に到着し、まだ営業時間内でしたが、ひっきりなしにお客さんが入り、繁盛していました。店員さんがとても忙しそうにしていたのも印象的でした。講演が始まる前に椅子とテーブルを移動させて模様替えすると、サロンを行うにはぴったりの環境になります。機が熟すれば、私たちの社会再生学会も開催してみたいですね。
 さて今日の記事の本題である報告内容について、ご紹介しておきます。あらためて述べるまでもありませんが、茶はCamellia sinensisというツバキ科の常緑樹の葉を加工した飲料です。その原産地は、中国雲南省を中心とし、西はインドのアッサムから東は中国湖南省に至る東亜半月孤とされています。おそらくこれら照葉樹林農耕文化に所属する人々が、たまたま茶葉と出会い、直接食べる、あるいは、煮る、炒る、蒸す、漬ける、干すなどの加工を施し、次第に利用が広がっていったと考えられます。例えば中国雲南省、ラオス北部、ミャンマー東部、タイ北部といった東南アジアの高地地域に住む諸民族は、茶を食用とし、漬物茶を利用しています。漬物茶はタイではミエン、ビルマではラペソーと呼ばれています。またモンゴルやチベットでは、レンガのように固めた磚茶(たんちゃ)を削って煮出し、牛乳と塩を入れて飲用しています。
 以上のように茶には様々な利用法がありますが、私たち日本人は、まずのどの渇きを潤す目的で飲用します。しかしお茶の役割が「のどの渇きを潤す」というだけなら、コーヒーやジュースなど、他の飲料との違いを明確に説明できません。私の理解では、お茶が他の飲料と本質的に違う点として、伝来以来1200年続く歴史、日本史の教科書に登場する有名人たちが引きつけられた文化的魅力、私たちの日々の生活にも取り入れたい素晴らしい精神性などを挙げることができると思います。栄西が宋から茶を持ち帰り、禅の精神と相互に影響を及ぼしながら普及していったこと、応仁の乱後の東山文化の中で、侘び茶が成立・発展していったこと、桃山時代、信長・秀吉ら権力者も茶の湯を愛好し、そのアドバイザーであった千利休によって茶の湯が完成させたこと、江戸時代後期には茶の湯批判としての煎茶が文人たちの間に浸透していったことなど、喫茶史を語る上で欠かすことができないトピックスを、できるだけ多くのエピソードをまじえながらお話ししました。
 文化史の切り口でお茶を調べるようになったのは、学位論文『戦前期日本茶業史研究』をまとめ終えた後からで、研究期間は15年くらいです。喫茶史の基本的な文献を読んだ後、東京や京都の博物館へ何度も出向き、お茶や周辺文化に関わるすぐれた作品を鑑賞しているうちに、だんだんと興味を感じるようになってゆきました。とはいえ、満足のゆく研究成果を出せるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。1日たとえ5行でも原稿が進むよう、努力を重ねてゆかなければと決意を新たにしました。

戦前における日本茶業 −輸出の役割を中心に− (佐賀・茶学会で報告)

 彼岸に入り、さわやかな秋晴れに恵まれています。8月の40℃を超える猛暑、今月2度も立て続けに近畿圏を襲った強烈な台風がうそのようです。この3連休、私は佐賀を訪れ、佐賀・茶学会で報告したり、お茶にゆかりの地を訪ねることになっています。

尖閣諸島・竹島問題の過去と未来 (尼崎市立小田公民館市民大学講座)

 今日は尼崎市立小田公民館の市民大学で、「尖閣諸島・竹島問題の過去と未来」というテーマで講演しました。小田公民館でほぼ1年前の8月22日、「あなたは賛成? 反対? もう待ったなし! よくわかるTPP参加問題」と題して、お話しさせていただきました。昨年のTPP問題は基本的には経済のジャンル、今回の尖閣・竹島問題は、領土問題ですが、いずれも政治・外交が複雑に絡み、それぞれの立場での利害対立もあって、解決は容易ではありません。また対応をめぐっては、国論が二分されていますので、時間をかけて慎重に取り組まねばならない課題といえます。前回も今回も猛暑の時期でしたが、会場が満席になるほどたくさんの方が参加してくだいました。
 講演の組み立ては下記のとおりです。
はじめに
機\躋嫐簑
1.戦前・戦後の歴史
(1)戦前の動向
(2)戦後の動向
2.尖閣諸島沖における中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件
3.中国漁船衝突のビデオ流出事件
4.レアアースをめぐって
5.尖閣諸島国有化
6.一段と緊張が高まる日中関係
供|歸臾簑
1.歴史的経過と日韓両国の主張
(1)日本の立場
(2)韓国の立場
2.李明博大統領の竹島上陸
3.解決を困難にしている障害
(1)従軍慰安婦問題
(2)植民地支配
(3)自民党内を中心に、河野談話、村山談話を疑問視する声も
おわりに

社会再生学会第6回研究会を行いました

 本日、社会再生学会の第6回研究会を行いました。事前にこのブログでもふれましたが、本学会は今月から第2年目の活動に入ります。人間にたとえれば、まだよちよち歩きの赤ちゃんです。これから大きく成長してもらわなければいけません。そこで若い学生会員は、少し年の離れた兄弟の面倒をみるつもりで、中堅世代のみなさんは、子供を立派に育てる親の気持ちになって、さらにシニアの方々は、孫をかわいがるように、学会活動を一層強力にご支援くださいとご挨拶しました。
 さて今日は私が、「アベノミクスで私たちは幸福になれるか?」というテーマで話題提供しました。本論に入る前に2点反省点を述べておきます。まず第一に、報告しようと思うと準備が大変ですね。なかなかうまくまとまらず、資料の完成は当日朝にまで、もつれこみました。七転八倒しているさなか、野沢久信さんがお電話くださり、「できたところまでで十分」と慰めていただいたので、ずいぶん気持ちが楽になりました。これま私以外のメンバーのみなさんに報告をお願いしてきましたが、いざ自分に順番がまわってくると、なかなか気がすすまないものですね。これほどプレッシャーのかかる報告を、みなさん今まで快く引き受けてくださったものだと感謝しています。せめてもの罪滅ぼしに、以後数回は、私がアベノミクスについて、さらに踏み込んでお話しすることになりました。
 もうひとつ後悔しているのは、会員の方々を過酷な無制限一本勝負に引きずり込んでしまったことです。たいていの研究会・講演会は、いくら長くても2時間程度で終了します。それを何と5時間を超えて話し、意見を求めました。アベノミクスの論点が多岐にわたり、ついつい欲を出してしまったのですが、経済の話を休みなしに5時間以上も聞かされるのは耐え難かったのではないでしょうか。気の毒なことをしてしまいました。
 研究会では、「三本の矢」を中心にアベノミクスの内容をたどり、リスクや問題点がないか検討しました。その後、日本社会、個々人の人生がより豊かで幸福になるための方策について意見交換を行い、社会再生学会が目指すべき方向を議論しました。
 本学会、いよいよ第2年度の活動が本格化します。運営方針はとてもシンプルで、個人が抱く様々な「日本をよくしたい」という思いについて深く掘り下げ、参加者相互の活発な意見交換を通じ、より洗練され、説得的な見解として磨いてゆくのが目標です。望ましい社会を築くには、一般市民の構想力と実行力が最も大切です。引き続き会員のみなさんのご協力、よろしくお願いいたします。

「アベノミクスと今後の日本経済について」 (神戸市立神港高校で講義)

 今日は社会再生学会でも大変ご尽力いただいている神戸市立神港高校の島田融先生の授業にお招きいただき、「アベノミクスと今後の日本経済について」というテーマで講義しました。
 一般的に高校生活の3年間は、受験勉強一色で、現実の社会・経済問題に全く触れずに卒業するというケースが多いのではないかと思います。しかし高校生も社会の一員である以上、今の政治・経済・外交の状況がどうなっているか、全く無関心では困ります。島田先生は、現状の高校教育で見過ごされているこのような点を補うべく、随時特別授業をカリキュラムの中に組み入れていらっしゃいます。卓抜の見識であり、こうした傾向が全国的に広がってほしいと思います。
 高等学校の1コマは50分と短く、十分とはいえませんが、自民党が政権奪還後、安倍晋三首相が推進する「アベノミクス」についてなるべく平易に解説しました。「3本の矢」である 大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の内容を詳述しました。
 個人的には、大胆な金融緩和、機動的な財政政策が適切な政策がどうか疑問を感じています。まず大胆な金融緩和ですが、経済に大量にお金を流しこんでも、実物投資にまわらなければバブル(資産価格の高騰)を引き起こすだけです。最近の株価上昇は企業(経済)のファンダメンタルズを反映したものではなく、バブルの兆候がみられるのではないかという気がします。
 財政支出拡大に関してはどうでしょうか。景気が悪いときの財政支出増大には即効性があります。しかし1990年代に経験したとおり、その効果は一時的なものでした。むしろ財政赤字を増やすという副作用のほうが大きく、すでにGDPの2倍を上回る政府債務を抱えるに至りました。日本にとって、財政支出を継続的に増やしてゆくことは不可能です。ギリシャ危機は対岸の火事ではありません。
 日本経済を本格的な回復軌道に乗せるには、下落基調が続く賃金を持続的上昇に転じさせる必要があります。そのためには、賃金の原資である企業収益が上昇する環境を整えなければなりません。各国と経済連携協定を結んで輸出を促進したり、法人税率を引き下げ、規制緩和を行って、企業が新規事業を行いやすくすることが重要です。「第三の矢」である成長戦略の具体化こそ、政策の中心といえるのではないかと思います。
 講義終了後は、社会再生学会の今後の活動について意見交換しました。もう少し詳細をつめる必要がありますが、画期的なアイディアを出していただいています。再生学会の活動も楽しみです。

「日本文化と茶の湯の伝統」  (西宮市生涯学習大学「宮水学園」で講演)

 今日は西宮市の生涯学習大学「宮水学園」において、「日本文化と茶の湯の伝統」というテーマで講演しました。50名ほどの市民のみなさんが、熱心に耳を傾けてくださいました。入試期間中比較的時間があったので珍しく資料は1週間前に完成したのですが、昨日何回もリハーサルをしていると、細かい修正点が気になり、朝の4時頃まで眠れませんでした。濃いお茶を3回ほど入れ替えたのも、目が冴えてきた一因かも知れません。私にとってのお茶は、夜を昼に変えてくれる特効薬です。いざというシーンでは欠かせません。
 今回の「宮水学園」の講演では、2回に分けて喫茶文化史をお話しすることになっています。1回は90分ですが、2回できるのでトータルの時間は3時間。いつもは2時間でおさめている話を3時間かけてできるため、ゆっくり進められるのはありがたいことです。第1回目の本日は、平安時代〜安土・桃山時代を取り上げました。
 具体的には、弘仁・貞観文化の時期、唐の文化のひとつとして、喫茶の習俗が伝わったけれども、日本人の嗜好に合わず、定着しなかったこと、その後鎌倉時代、栄西が宋から茶を持ち帰り、鎌倉仏教と結びつきながら僧侶の間で普及していったこと、鎌倉時代終わりには「会所の茶」が誕生し、貴族や武士の社交に利用されたこと、南北朝〜室町時代はじめには、「闘茶」が流行し、ギャンブル的要素が強かったこと、応仁の乱後の東山文化の中で、侘び茶が成立・発展していったこと、桃山時代、信長・秀吉ら権力者も茶の湯を愛好し、そのアドバイザーであった千利休によって茶の湯が完成されたというところまでを、色々なエピソードをまじえながら丁寧にあとづけました。
 ちょうど今の時期にぴったりですが、利休の侘び茶の心は、藤原家隆(1158〜1237)の「花をのみ 待つらん人に 山ざとの 雪間の草の 春を見せばや」に表れています。これは、「世の中の人たちは、どこの山、かしこの森の花がいつ咲くだろうか、いつ咲くだろうかと探し求めている。そのような人々に、山里の積もった雪の少し溶けたところに芽を出した草を見せ、春の訪れを感じてほしいものだ」という意味です。
 まだまだ寒い日が続きますが、立春も過ぎて、季節は確実に春へ向かっています。暖かくなり、満開の桜の下で花見を楽しむのもいいですが、長くきびしい冬を乗り越え、一面真っ白な雪の中、所々で青い新芽が顔をのぞかせているところに、春の訪れを感じたいものです。これこそが日本人特有の繊細な美意識なのです。
 次回は少し間をおいて3月5日(火)です。「近世後期における煎茶文化の展開」と題して煎茶道の世界の奥深さについてお話しします。

「2013年 日本経済の展望」 (尼崎市立大庄公民館市民大学講座)(2)

 今後の注目点ですが、自民党は、2009年の選挙で敗北した教訓を生かし、政権運営や政策を実施してゆけるかどうかです。自民党はじめ各党の取組は、来年夏の参議院選挙において再度評価されることになると指摘し、講演を締めくくりました。
 講演を終え、ポートアイランドにある兵庫医療大学へ急行し、90分間経済学の講義を行いました。そして講義終了後は、西元町にある大井牛肉店本店へ向かい、再び野沢久信さんとお兄様の奥村隆信先生(富山国際学院理事長)と会食し、とても楽しいひとときを過ごしました。大井牛肉店といえば、明治村にある瀟洒な洋風建築がすぐ頭に浮かびます。日本で最も歴史ある牛肉店です。(下記のひとつ目のリンクをご覧ください。野沢さんのお心遣いで、このような素敵なお店を手配してくださいました。)奥村先生は私のブログをいつもお読みくださり、私も先生のブログを毎日拝見して、関心の広さと深さに驚嘆しています。お互い近況は把握していますが、富山と西宮ということもあって、しばらくお会いできていませんでした。久しぶりでお目にかかり、3人で時間の経過も忘れて話がはずみました。(下記の2つめのリンクで、奥村先生のブログも是非ご覧ください。)
 奥村先生と別れたのは、午後11時すぎでした。野沢さんと高速神戸駅から乗ったの列車は最終列車になっていました。もう少し遅かったら帰れなかったねと、電車の中で顔を見合わせ照れ笑いしていました。
 大庄公民館で講演、兵庫医療大学で講義、そして奥村先生、野沢さんとの充実した会食。この1年で最も予定が詰まった1日といっても過言ではないと思います。講演と講義でかなりのエネルギーを使いましたが、最後の会食で疲れも吹き飛び、元気が出てきました。

明治村・大井牛肉店
奥村隆信先生のブログ

「2013年 日本経済の展望」 (尼崎市立大庄公民館市民大学講座)(1)

 今日は尼崎市立大庄公民館での市民大学で、「2013年 日本経済の展望」というテーマで講演しました。年末、大庄公民館でその年の経済を回顧し、次の年の動向についてコメントするという講演は、ここ7〜8年の恒例イベントとなっています。年末のお忙しい中、社会再生学会のメンバーである西村正美さん野沢久信さんが聞きに来てくださいました。大感激です。どれだけ元気づけられたかわかりません。
 さて講演の内容ですが、最初に第46回衆院選を総括しました。自公両党で総定数の3分の2を超える325席を獲得し、約3年3ヶ月ぶりの政権奪還を果たした一方で、民主党は惨敗でした。
 ところで今回の選挙は、多くの有権者が自民党を積極的に支持したとは言えないと思います。それよりも、3年3ヶ月間に及ぶ民主党の政権運営に対する国民の失望がいかに大きかったか反映していると思いました。そこで、民主党の政権運営にどのような問題があったのかを明らかにしました。
 講演の後半では、たっぷり経済の話をしました。まず最新のGDP統計と日銀短観を紹介し、足元の景気の厳しさを解説しました。加えてバブル崩壊後の日本経済低迷の原因は、基本的にデフレの悪循環にあることも強調しました。
 その後自民党・安倍晋三総裁がどのような政策で景気回復をはかろうとしているのか詳説しました。安倍晋三総裁が目指す政策は、リフレーション(reflation)政策と呼ばれています。ひと言で述べれば、中央銀行による積極的な金融緩和を通じて景気の回復を図り、緩やかなインフレ(物価上昇)を生み出すことを目標としています。資金供給量が経済に及ぼす影響を重視したものです。ただしインフレが制御できなくなると、経済に様々な弊害をもたらします。個人的にはかなりの「劇薬」と受け止めていますので、深刻なインフレで経済が大混乱に陥った事例も紹介しました。 

飽食から食料危機へ 〜時代はどう応えるか〜 (尼崎市立園田公民館市民大学講座)(1)

 今日は尼崎市立園田公民館へ出かけ、「飽食から食料危機へ 〜時代はどう応えるか〜」というテーマで講演しました。園田公民館での講演は、2006年以来で久しぶりです。朝からあいにくの雨で、開始時間の午後1時半になってもあがっていなかったので、聴衆は少ないだろうと覚悟してゆきましたが、いつもと変わらず、50名くらいの方が参加してくださいました。
 講演では概ね次のようなことをお話ししました。まず現代人の食生活について種々のアンケート調査などの結果を紹介し、「飽食」を通りこして「崩食」になっていることを強調しました。食が昔ながらの基本スタイルを失い、何でもありのメニューが登場していることを述べました。さらに食を軽視する傾向が強まり、食の外部化・簡便化の進展も顕著であることを指摘しました。個人の価値観の問題なので何とも言えませんが、食費をできるだけ切り詰めて、レジャーやファッションにお金をかける人が多くなっています。コンビニやファミリーレストラン、あるいはお弁当屋さん(中食)が発展しているため、自宅で食材を調理して料理をつくるという意識が希薄になっていることも事実です。具体的な事例をできるだけ多く取り入れながら、一見豊かに見える日本の食が、様々な問題を抱えている実態を明らかにしました。
 続いて、食の安全が脅かされていることにも言及しました。中国の毒入りギョーザ事件に象徴されるような、意識的犯罪行為(食品テロといっても過言ではないかも知れません)が、あとを絶ちません。食品テロについては、監視を徹底し、発覚した場合には、罰則を厳しくすることによって抑止するほかありません。ただし安全確保のためには防犯カメラの増設など、コストがかかります。企業はいずれそのコストを価格に上乗せせざるをえませんから、消費者の負担が増大します。何ともやりきれない話です。
 一方で食料供給システムにおいて、将来の安全性が十分確保されない問題は対応が非常に困難です。例えばGMO(遺伝子組み換え作物)は、他の作物や環境への影響が十分解明されておらず、この先どんな深刻な被害が起こるか予想できません。BSEの場合も、BSEに罹患した牛の内臓を原料とした肉骨粉が原因であることはわかっていますが、発生メカニズムが完全に解明されているわけではありません。GMOやBSEは、食の安全に関わるより本質的な問題であるといえます。科学的根拠に基づいて、安全かどうかが明らかにされなければいけません。

日本文化に親しみ、心を豊かにするお茶の話 (西宮市立西宮東高校木曜講座で講演)

 今日は西宮市立西宮東高校木曜講座「お茶、どうぞ」で、「日本文化に親しみ、心を豊かにするお茶の話」というテーマで講演しました。扱い慣れたテーマなのですが、これまでとは多少組み立てを変え、新しい話題も取り入れなければと思ったら、力が入りすぎて、なかなかうまく原稿がまとまりませんでした。連日深夜まで喫茶文化史の文献を読み直したり、展覧会の図録に参考になる記述はないかさがし、原稿に反映させました。そして水曜日にようやく配付資料が出来上がりました。平時はお茶を愛飲し、様々な魅力を感じていますが、講演前の「非常時」は、どうしてお茶でこんなに苦労しなければならないのかと、涙がこぼれそうになってきます。飲料としては大好きなのに、研究対象と受け止めると、間口が広く、奥行きも深いため、なかなか手ごわい相手です。とても「お茶、どうぞ」という心境にはなれず、「お茶、もう結構」と思うほど、苦しんで、苦しんで、苦しみぬいて、当日を迎えました。
 これまで尼崎市主催の市民大学では何度も講演の機会をいただいており、リピーターの方もたくさんいらっしゃいます。しかし西宮市主催の市民対象講座は、確か2003年にアクタで「インターカレッジ西宮」を数回担当した程度です。したがって、ほとんどの聴衆がはじめて私と接するわけです。全く知らないところにひとりで乗り込むのはかなり不安だったのですが、ありがたいことに湯浅薫先生野沢久信さんが「付添人」として同行してくださいました。不安と緊張でどうなることかと心配していたので、どれだけ心丈夫だったかわかりません。
 以下では講演のストーリーを簡単に述べます。まず最近の日本茶業は活力を失い、深刻なリーフ緑茶離れが進んでいることを指摘しました。そこで考えなければならないのは、日本茶を危機から救うためには、どうすればよいかということです。
 人間が1日にとることができる水分の量は2,500〜3,000ccですから、競合飲料からの移行に期待するほかありません。単純ですが、日本茶の他飲料にはない魅力をアピールすることが、消費回復のための王道です。すなわち、最近の科学研究の成果から明らかになっている保健効果を強調し、茶がいかに健康によいかを知ってもらうことが大切です。加えて、その文化性・精神性についても広く訴え、ブランド力向上を目指すべきことを力説しました。
 日本茶は平安時代における伝来から今日に至るまで、時代に応じた存在価値を持ち、日本を代表する文化を形成してきました。歴史に名を刻んだ人たちは茶に親しみ、清く穏やかな心の修養を求めました。私たち現代人は、喫茶文化を担ってきた人々の足跡をたどり、その生き方・考え方から多くのことを学ぶことができます。その作業によって、心豊かに生きるためのヒントが得られると思いました。
 2時間の講演時間はあっという間に過ぎましたが、鎌倉時代〜幕末開港期の喫茶史をたどり、日本茶の魅力を再検討したつもりです。
 決して満足のゆくできではありませんでしたが、私にとっての大イベントが無事終わり、ほっとしました。帰宅後に飲んだお茶は格別でした。平時に戻り、「やっぱりお茶は最高!」と思い直しました。

戦争の経済学  −戦争ほど儲かる商売は無い− (尼崎市立武庫公民館市民大学講座) (2) 

 昨日述べたビジネス面での動機に加え、政治的動機も看過することはできません。シフは当時、アメリカにおけるユダヤ系経済人のリーダー的役割を果たしていました。彼はユダヤ人に対する差別や偏見をなくし、地位向上をはかることに使命感を感じていたのです。
 さて1880年代以降ロシアではポグロムが多発していました。ポグロムとは簡潔に言うと、ロシア人のユダヤ人に対する集団暴力行為です。1861 年の農奴解放後、農民の土地不足と貧困、ユダヤ人とロシア人との両ブルジョア勢力の競争が激化してゆきました。そうした中、 1881 年 3月、皇帝のアレクサンドル2世の暗殺事件が起こります。この衝撃を引き金とし、ウクライナ一帯で出稼農民や日雇労働者によるユダヤ人襲撃が深刻化しました。政府はこれを取り締まるどころか、ユダヤ人=搾取者説に乗り、反ユダヤ政策を強化しました。アメリカとパレスチナへのユダヤ人の移民運動がはじまるのはこの時期です。
 1903〜06年にかけても大規模なポグロムが起こりました。1903年4月にキシニョフ市で起きたユダヤ人への大規模な略奪・殺害事件では、政府高官と地元当局が陰で事件を扇動していたのです。アメリカのユダヤ人社会では救援委員会をつくり、シフはローズヴェルト大統領やヘイ国務長官に書簡を送り、ロシアに対して強く抗議するよう求めました。
 このような情勢の中で日露関係は緊迫してゆき、戦争は不可避の事態となりました。シフは戦争が帝政ロシアにダメージを与え、体制変革につながることを期待しました。またそれほど強いインパクトはないとしても、国内で政治改革が行われ、ユダヤ人迫害政策が改められるであろうと考えたのです。日本は100%正しく、ロシアは100%誤っているというのが、彼の信念であったといえます。

戦争の経済学  −戦争ほど儲かる商売は無い− (尼崎市立武庫公民館市民大学講座) (1) 

 今日は尼崎市立武庫公民館の市民大学で、「戦争の経済学  −戦争ほど儲かる商売は無い−」というテーマで講演しました。日露戦争に関しては、日本経済史の講義でいつも解説していますが、特に深く掘り下げているわけではありません。今回の講演は相当詳しく経過をたどらなければいけませんでしたので、20冊以上の文献の該当箇所に目を通しました。どんなテーマを調べるときにも当てはまりますが、1冊や2冊の資料を読むだけでは、記述が平板になり、満足のゆく成果は出せません。書棚の奥のほうからもだいぶ多くの本を引っ張り出し、狭い机の上に積み上げて、(ときには地面から積み上げて)原稿を書いていました。先週から講義が始まって忙しくなり、1日に5行くらいしか書けない日もあって泣けてきそうになりましたが、ギリギリのタイミングで辛うじて原稿がまとまりました。
 さて主催者から依頼があったときは、戦費調達に奔走した日銀副総裁・高橋是清と、日本の国債を引き受けたクーン・ローブ商会のヤコブ・シフについて、詳しく取り上げてほしいということでした。しかし色々調べてみると、このエピソードだけで日露戦争の全体像は明らかにできないと思いました。そこでなぜ日露両国は戦争になったのかという戦争前史から出発し、戦局の展開、日露戦争後の国際関係、日露戦後経営などについても述べました。ありがたいことに、社会再生学会会員の野沢久信さんが聞きにきてくださいました。野沢さんは尼崎市民ではありませんが、一連の講座に申し込んでくださっています。よく知った方に聴講していただくと何となく安心感が出ます。ただ時間を割いて、遠方からお越しいただくのを大変申し訳なく思っています。
 それにしてもヤコブ・シフは、なぜ東洋の小国日本を支援したのでしょうか。まず直接的な理由は、外債引き受けによって利益を得るためだったと思います。シフは戦争中5回にわたり日本国債の発行に関与しています。その総額は、1万700ポンド(=10億7,000万円にのぼります。シフは相当な利子収入を得ることができたに違いありません。
 シフのクーン・ローブ商会は、そもそも対外投資に積極的でした。イギリスやヨーロッパ大陸の銀行家たちからの資金と情報は、シフのもとに集まり、高い収益が見込める新興国への投資を活発化させてゆきました。1880年代のメキシコ・カナダから始まって、中米諸国、アジア諸国、オスマントルコへと対象国を拡大していったのです。

「お茶の心と人権思想 −豊かで幸福な生き方を求めて−」(堂松北地域ブロック研修会で講演) (2)

 人間の欲望には限りがありませんが、あまり度が過ぎると、必ず破綻をきたします。我々は早くそのことに気づくべきです。簡素に生きることを説く禅の教えを指針とし、物欲・金欲をある程度のところで抑えるよう努めたいところです。
 ほかにも色々ありますが、お茶の精神を豊かで幸福に生きる、あるいは、人間関係の希薄化や職業倫理の低下など、現代社会が抱える諸問題を解決するための手がかりとして捉えなおすとき、数多くの示唆を与えてくれるように思います。
 講演全体を通しては、自己流のやや強引な解釈があったり、十分熟していない見解をお聞きいただくところがあったのではと反省しています。しかしそれでも、自分では全く考えつかなかった視点でお茶の文化史をたどることができましたので、このような機会をお授けくださった主催者には、大変感謝しています。今回に限らず、尼崎市の公民館で実に多様なテーマで講演させていただけることが、どれだけ私の研究領域の拡大につながっているかわかりません。また熱心に耳を傾けてくださる聴衆がいることも大きな励みになっています。苦しい徹夜の毎日もあまり気にならないのは、メモをとり、大きくうなずきながら聞いてくださる方ばかりを前に話をできるからです。
 あと数日で秋学期の講義に突入しますが、今月27日には、尼崎市の武庫公民館において、「戦争の経済学  − 戦争ほど儲かる商売は無い −」というタイトルでの講演を控えています。日露戦争のシリーズなので、「戦争」というのは日露戦争のことです。戦費調達に奔走した高橋是清と、クーン・ローブ商会のジェイコブ(ヤコブ)・シフの物語を中心にお話しする予定です。試練はまだまだ続きます。

「お茶の心と人権思想 −豊かで幸福な生き方を求めて−」(堂松北地域ブロック研修会で講演) (1)

 今日は尼崎市の水堂総合センターに出向き、「お茶の心と人権思想 −豊かで幸福な生き方を求めて−」というテーマで講演しました。人権啓発のプログラムに対し、私の能力で十分なお話しができるかどうか、いささか不安な気持ちがあったことに加え、研究室を出る直前に空が真っ暗になって激しい雨が降り、雷も鳴ってきましたので、果たして何人くらいの方が来てくださるのだろうかと心配になってきました。
 午後6時半頃会場に到着しました。幸い雨はあがっていましたが、不安定な天気であることに変わりありません。主催者にお尋ねすると、事前申し込み制をとっていないため、参加者数はよくわからないということでした。ただ、過去の経験から言うと、30名あまりだろうという予想でした。準備された机と椅子の数もそんな感じでした。それが開始10分前には、机のある席はいっぱいになり、それでも続々と聴衆が来てくださって、急遽別室から椅子を運びこまなければならない状況になりました。開始時刻の午後7時には、会場が追加の椅子でいっぱいになっていました。ありがたいことにスタッフのみなさんも総出で参加してくださり、当初予定の2倍の60名くらいの方に聞いていただいたことになります。これほどたくさんの方にお聞きいただけるとは、全くの想定外でした。
 今回の講演はいつものように喫茶文化史そのものをたどるのが目的ではなく、人権思想もある程度強調する必要がありましたので、多少組み立てを工夫しなければいけませんでした。例えば栄西の話をするとき、禅の精神についてふれるのが定番です。しかしそれだけにとどまらず、強欲資本主義への反省という視点を取り入れてみました。アメリカの住宅バブルとその崩壊を象徴するリーマンショックは世界経済に非常に深刻な打撃を与えました。村上ファンドによる阪神株の買い占めや、堀江貴文氏のライブドア事件は、金儲けのためなら手段を選ばなくてよいのかと、国民の顰蹙を買いました。朝から晩まで働きづめに働いても生活に精一杯という人もいる中で、彼らは株を左から右へ流すだけで莫大なお金を手にできたのです。村上・堀江両氏の行為も、日本社会に計り知れないひずみをもたらしたのではないかと思います。

「あなたは賛成? 反対? もう待ったなし! よくわかるTPP参加問題」 (尼崎市立小田公民館市民大学講座)(2)

 TPPのルールづくりは実際、アメリカ主導で行われていることは事実です。リーマンショック後のアメリカ経済は停滞しており、成長が見込まれるアジア市場への輸出を促進し、経済を活性化することがねらいです。そして日本が交渉に参加すれば、ほかの参加国とは比較にならないほど大きな日本市場の開放を強く迫ってくるでしょう。しかしアメリカのこれまでの姿勢は、他国に市場開放を求める一方で、自国市場の自由化には慎重であるという側面が否定できません。日本は他の交渉参加国と連携し、アメリカの専横を抑えられるかどうかは疑問です。
 普天間基地問題で冷え込み、オスプレイ配備をめぐってぎくしゃくする日米関係を少しでも改善するため、ある程度の不利益を見過ごして交渉に参加すべきという意見もあります。対中国では尖閣問題、対ロシアでは北方領土問題、対韓国では竹島問題とった具合に日本外交の地盤沈下は甚だしくなっています。こうした中、やはりアメリカと良好な関係を保つことが日本の国益にかなうというのが参加することの最大のメリットです。これまでのFTAでは、「譲れない一線」を主張し、自国の意に沿わない事項に妥協しない国もみられました。日本の参加の条件は、日本に不利になるような取り決めにはに応じないことです。しかしそれだけの外交能力が備わっているとは思えません。
 民主党政権になり、外交はこじれる一方で、諸外国からは政権の弱体化を見透かされています。このようなタイミングでTPP参加を表明しても、メリットは得られないと感じています。
 私は、TPPの参加・不参加にかかわらず、独自の視点で経済活性化戦略や構造改革を推進してゆくべきだと考えます。「外圧」なしの経済改革を望みたいものです。

「あなたは賛成? 反対? もう待ったなし! よくわかるTPP参加問題」 (尼崎市立小田公民館市民大学講座)(1)  

 今日は尼崎市立小田公民館に出かけ、「あなたは賛成? 反対? もう待ったなし! よくわかるTPP参加問題」というテーマで講演しました。小田公民館はJR尼崎駅のすぐ近くの、大変便利なところにあります。館長さんのご尽力もあり、今年度の小田市民大学は大人気で、一部申し込みをお断りしなければならないほど、盛況だそうです。今日も酷暑にもかかわらず、会場いっぱいたくさんの方にご参加いただきました。そして、うなずいたりメモをとりながら、熱心に聞いてくださっていましたので、大変やりがいがありました。
 TPP参加問題、世論を二分する重要なテーマです。結局日本は参加するのでしょうか、しないのでしょうか。現時点で明らかなのは、情報が不足しているという点です。参加によって経済にどのような影響が及ぶのかはっきりせず、国民の理解も得られていません。私は、このような状態での参加は時期尚早と思います。また主食のコメの生産が壊滅的な打撃を受け、食品の安全基準や医療制度などがゆがめられる可能性があるのもデメリットです。参加するのであれば、デメリットを受ける問題にどう対応するか、道筋を示すべきだと思います。
 さらに現時点ではアメリカの影響力が強すぎ、アジアの中国や韓国は参加を表明していません。中国や韓国を抜きにして、アジア・太平洋地域の自由貿易圏構想は語れません。
 もっとも賛成派は、TPP交渉の内容を知るには、まず話し合いに参加することが重要であると反論しています。早期に話し合いに加わることで、日本の立場をルールに反映することができると考えています。政府は今年12月に予定されるTPP関係国会合より交渉に参加する道を探っていますが、交渉参加には関係国すべての同意が必要となります。特にアメリカは議会の同意を得るのに最短90日かかり、8月末までに参加表明しなければ、年内参加は不可能になります。ただしアメリカは11月に大統領選を控えている上、保護主義台頭の傾向があり、TPP交渉自体が停滞するかも知れません。

宇治茶の魅力 −おいしさと文化的価値の視点から− (東南アジア学会で報告)

 ここ1週間は、もう倒れそうと思うほど忙しい毎日を過ごしてきました。色々ありましたが、何よりの大仕事は今日の東南アジア学会での報告です。私は学会員ではありませんので、みなさんがどんなスタイルで研究されているのか気になりましたし、普通は2時間程度かかる宇治茶の歴史の報告を30分に濃縮するのも大変でした。また西宮を出て、近鉄京都線の向島駅にある京都文教大に9時半までに着くには、遅くとも7時には家を出なければなりません。寝過して遅刻したら示しがつかないと思うと、1時間おきに目が覚めました。ふだんの講義をして研究室で調べ物をして終わる1日と、特別な1日ではこれほど差があるものかと感じました。
 あれこれ考えて落ち着かないまま本番を迎えましたが、休日にもかかわらず、ニチレクの西村正美さんが報告を聞きに来てくださっていました。そのおかげで不安は一気に吹き飛びました。
 今日の報告で強調したかったのは、宇治茶業を飲料というモノづくりの視点でとらえるのではなく、消費者に感動を与える価値づくり産業として位置づけなければいけないということです。のどの渇きを潤す飲料(=モノ)としてみるのであれば、他の飲料との差別化ははかれません。実際飲料業界は過当競争が起こっており、「価格の安さ」のみが勝敗の決め手になっているように思います。かねてから主張していることですが、宇治茶はそのような土俵で戦うべきではありません。なぜならば、単なる飲料ではない素晴らしい文化的価値を備えているからです。鎌倉仏教との結びつき、茶道・煎茶道の文化と精神性、建築、作庭、陶芸など関連文化の発展などを考慮に入れると、日本文化のすべての魅力が喫茶文化の中に凝縮されているといっても過言ではありません。そしてその喫茶文化展開の舞台となったのが、宇治・京都であったことを強調しました。宇治茶業界は、消費者が宇治茶の文化的価値を認識するまでの過程に入り込むため、様々なPR活動を行わなければいけないと考えています。
 満足のゆく報告ができたわけではありませんが、何とか役目を果たすことができ、肩の荷がおりました。なお今回私に報告の機会をお授けくださったのは、『全茶連情報』編集長の小林弘嗣さんと主催校・京都文教大の森正美先生です。お2人にはとても感謝しています。

「経済学の常識を再考する」 (2012 チャペルトーク)

 今週は綱渡りの毎日が続いています。火曜日は神港高校で授業、そして今日はチャペルトーク、あさって日曜日には東南アジア学会で報告です。講義がない時期でもこれだけイベントが重なると大変なのに、結構多くのコマ数をこなしながらの原稿作成は非常に堪えます。特に今日のチャペルトークはどんな話をしようか悩みに悩み、わずか3,000字の原稿が完成したのは朝7時でした。2時間余りの睡眠で本番に臨みました。テーマは、「経済学の常識を再考する」としました。
 具体的な内容は、パナソニックやソニー、シャープなど、素晴らしい製品開発力を備え、日本経済を牽引してきた企業が何千億という巨額の赤字を計上しなければならい経済環境の変化に大きな衝撃を受けたというものです。そこで今日のチャペルでは、企業の行動原則と市場第一主義について再考しなければならないのではという私の思いを述べてみました。
 企業の行動原則は教科書的には、競争に打ち勝つこと、あるいは利益を追求し、株主価値を最大にすることです。しかし順調な経済成長が望めなくなり、アジア勢との競争が熾烈を極めている昨今、この行動原則は考え直す必要があると感じています。まず参考になるのは利益追求と道徳の合一を説いた渋沢栄一の経済思想です。利は「自己のみに偏せず、公利を害せぬやうに心掛け、道理に照らし義に従うて事を行へば他より怨(うら)まるるはずなし」と道徳に基づいた経済活動を説いています。しかし今の経営者はわれ勝ちに自社の利益を得ることだけに汲々とし、社会全体はどうなってもよいと思っていないでしょうか。「私利を追わず公益を図る」が本来の企業の存在価値です。
 またハーバード白熱講義で有名なサンデル教授も、最近の『日本経済新聞』に「市場第一主義と決別を」というコラムを掲載していました。市場主義の議論からは、生きる価値や社会の共通善、正しい社会、よき社会とは何かといった課題への解答は得られません。家族やコミュニティで確かな絆を感じ、相互に責任を持てる社会はどうあるべきかといった問題は、経済成長や市場主義の徹底などで解決することはできないのです。
 私は経済学を学ぶ究極の目的は、幸福が感じられるような社会をつくることだと思っていますが、そこには経済理論だけではなく、道徳的・宗教的信念が必要だと考えています。家計・企業・政府の最適化行動の条件を数式的に導くだけでは無味乾燥です。それよりも、哲学的な基盤の上で議論してみる必要があるのではないでしょうか。私たちひとりひとりが善き社会とは何かを構想し、健全な議論に根差した言説を形成してゆくことが大切だと思っています。またこういったテーマに対し、しっかりした見解を述べられる点で、「関学生らしさ」を発揮してほしいと願っています。
 聞き手は舟木先生ひとりだけと覚悟してゆきましたが、40名くらいの学生が来てくれました。そして最後に大きな拍手をいただきました。拙い話を熱心に聞いてくださった参加者のみなさんには、感謝の気持ちでいっぱいです。

緑茶のフードシステムと茶業活性化戦略 (神戸市立神港高校課題研究授業)

 今日は神戸市立神港高校の島田融先生の課題研究授業にお招きいただき、高校生を対象に、「緑茶のフードシステムと茶業活性化戦略」というテーマで講演しました。神港高校を訪れるのは今回がはじめてですが、神戸高速鉄道の大開駅が最寄り駅です。あいにくのお天気で、往復とも真っ暗に曇り、強い雨が降り、雷まで鳴っていました。しかし道を歩いているときは、それほど強い降りではなかったので助かりました。
 講演では、茶のフードシステムについて説明し、それぞれの段階でどのような問題を抱えているかについて述べました。茶に対するニーズは、価格、品質(外観・香気・水色・滋味)、産地、簡便性、安全・安心など多岐にわたっています。消費動向調査を行い、年齢、地域、季節、価値観、飲用シーンなどを綿密に分析し、こちらから飲み方を提案することの重要性を強調しました。
 さてこの課題研究を受講している生徒は、生活のどのような場面でお茶を飲用しているのか尋ねてみました。多かったシーンは、食事時とクラブ活動の後でした。食事時といえば、玉露や上級煎茶ではなく、ゴクゴク飲めるお茶が適しています。またそもそもパン食にお茶というのは合わないので、ご飯食を推進することも重要です。
 クラブ活動(スポーツ)の後は、のどが渇いているため、すっきりと飲みやすい味わいの冷茶が好適です。冷茶には夏場の消費の落ち込みを防ぐ役割も期待されていますが、作り方があまり知られておらず、十分普及していません。容器を工夫すると、一段と清涼感を引き出すことができます。冷茶のおいしい淹れ方は、来月、湯浅薫先生のセミナーで勉強することになっています。
 淡平さんでお茶にマッチするお煎餅を開発していただけるのも楽しみです。湯浅先生からおいしいお茶の淹れ方を学び、お煎餅と一緒に提供できるようになれば理想です。お客さんの感想が聞ける実践の場をさがしているところです。 

市民参加型の「武庫川学」構築を目指して −新聞記事を参考に− (第1回武庫川市民学会で報告)

 今日は関西学院大学で、第1回武庫川市民学会が開催されました。事前のPRや、『読売新聞』で大きく案内していただいたこともあり、当初の想定を大きく上回る100名超の参加者がありました。新しく誕生した学会の第一歩が関学で踏み出されたことを大変光栄に思っています。
 以下では、時間を追って今日1日の出来事を整理してみます。まず10時30分より11時まで設立総会が行われ、規約や役員、事業計画などが承認されました。
 その後11時から12時10分までは、松木洋忠・国土交通省姫路河川道路事務所長の記念講演「河川管理者と市民との協働による川づくり」をお聞きしました。国民ひとりひとりの自覚に基づく「自助」、地域社会やコミュニティを主体とする「共助」、国や自治体による「共助」の連携というユニークな観点から、川づくりがどうあるべきか、ご提案がありました。弥生時代から現代に至るまでの超長期の視点に基づき、河川管理がどのように行われてきたかという分析も行われ、一段と興味をそそられました。的確な歴史分析が含まれた報告には、説得力があります。この分析手法は、自身の研究にも取り入れたいと思っています。
 昼食休憩をはさみ、午後1時から5時すぎまで計14本の個別報告を聞きました。ふだんあまり接しない河川管理・生物・環境・水質といったジャンルが主流で、実験の方法や結果の読み方に関しては、予備知識がないと難しいと感じる箇所もありましたが、大筋では理解したつもりです。
 関学が会場となっていますので、朝からずっと張りつめた気持ちで過ごしてきましたが、午後3時半、緊張はピークに達しました。私の報告の順番がまわってきたのです。「市民参加型の「武庫川学」構築を目指して −新聞記事を参考に−」というテーマで10分あまりお話ししました。最近20年間の新聞記事を手がかりに、ダム建設中止に至るまでの経緯、ダムの代替案、洪水・渇水といった自然災害への対応、武庫川流域の自然保護と街づくりなどについて、駆け足で取りまとめました。
 そして最後に今日誕生したこの学会が何を目指すべきか述べました。私は本学会の目標は、「武庫川学」の構築を通じて、会員や流域住民の幸福度を高めることにほかならないと考えています。その際のキーワードは、幸福度指標にも含まれている関係性です。自然とのつながり、地域とのつながりを深めるため様々な活動を行ってゆくのが大切です。
 さらに付け加えるなら、市民の共感が得られるような研究成果を生み出すことも常に意識しなければいけません。「市民学会」としての存在価値は、市民感覚を研ぎ澄まし、今よりもよい状態に導くことにあるのではないでしょうか。研究者中心の学会の場合、どんどんと細かいテーマに入り込み、本質を見失い、現実離れした分析や解釈に終始してしまっているような印象を受けます。しかしそれでは社会貢献につながりません。
 5時半からの懇親会も楽しい時間を過ごせました。神港高校の島田融先生は、研究発表会だけでなく、懇親会にまでご参加くださり、恐縮してしまいました。島田先生とは、この学会と同じ精神で、喫茶文化振興のプロジェクトを企画しています。島田先生とのプロジェクトも、私の研究生活の中では大きなウエイトを占めており、やりがいを感じています。

「関西で生まれた喫茶文化 日本人の心に欠かせないお茶文化」(尼崎市立大庄公民館地域・現代学講座で講演)

 今日は尼崎市立大庄公民館の地域・現代学講座において、「関西で生まれた喫茶文化 日本人の心に欠かせないお茶文化」というテーマで講演しました。大庄公民館で講演するのは、今年度4回目ですが、同じ年度内に同一主催者のところで4回も講演させていただけるのは、多分生涯塗り替えられることのない新記録だと思います。大庄公民館のスタッフのみなさんには、ずいぶん色々とお世話になってきました。
 一般市民のみなさんを対象にした講座は、私の研究生活の中で大きなウエイトを占めています。まずわが国の政治・経済の現状、および問題点に関しては、一番よく依頼のあるテーマですが、講演会を目指して、新聞記事を徹底的に読みこなすクセがつきました。目まぐるしく変化する政治・経済の動きに絶えず注目するようになったのは、公民館の講座のおかげであり、関学や兵庫医療大での講義にも役立っています。
 一方、これまであまりタッチしたことのない課題に関しては、研究領域を広げるのに寄与しています。「面白そうなので調べてみよう」という感じで、新しい本を買ってまとめてゆく作業は、充実感が得られます。担当者の方には、自分では探せない(見過ごしている)テーマへと誘導していただいているわけです。会社が注文を受けて、新製品の開発を手がける感覚と似ているかも知れません。
 さて今日の講演は、お茶の文化史です。今年度、繰り返し繰り返し加筆・修正してきたテーマです。お茶の歴史は、嵯峨・清和天皇時代の弘仁・貞観文化、鎌倉文化、足利義政の時代の東山文化、信長・秀吉の時代の桃山文化、俵屋宗達や本阿弥光悦が登場する寛永期の文化、尾形光琳が琳派を起こした時期の元禄文化、そして田能村竹田の活躍した文化・文政文化といった具合に、日本文化史のメインの流れそのものなのです。何回もの講演の機会に恵まれ、各時代の文化の特徴や、時代背景と重ね合わせながら、喫茶文化の持つ意味を考えられたのは、とても意義深いことでした。
 講演終了後、たくさんの方から貴重なご意見をいただきました。茶道の先生もいらっしゃり、おいしい抹茶も点ててくださって大感激です。日頃の苦しいトレーニングが報われたと思う嬉しいひとときです。
 今日の講演で、2011年度の私の講演は全部終わりました。ほっとしました。あと1ヶ月あまりの春休み、大急ぎで講義ノートの作成です。

「佐賀県の茶業史と茶文化」(佐賀大学経済学会主催講演会) (4)

 佐賀大学での講演ということで、売茶翁の話にずいぶん時間を費やしましたが、その後、上田秋成や田能村竹田・頼山陽についても取り上げ、煎茶文化の展開を詳述しました。
 煎茶を愛好した近世後期の知識人たちが求めたのは、世俗を離れ、身を清貧に保ち、文雅を友とする生き方であったといえます。中国の文人が仙境をさすらうのを理想としたように、どこまでも自由な気風を身上としました。そして中国の明・清の時代の道具に囲まれ、上質の茶を賞味しながら、詩文・書画を鑑賞し、学問・芸術について語り合うサロンが広がっていったのです。
 17日の記事でご紹介した村岡実さん主宰の「背振山茶談議」は、上記の文人サロンの再現です。売茶翁の心が佐賀において300年以上を経た今日まで引き継がれているのは特筆すべきことであり、サロンのメンバーを増やしながら、末長く継承してゆかなければいけないと思います。
 さて報告資料はA4用紙16ページほどのものを作成していったのですが、私の時間配分がまずく、正規の時間の90分では、栄西と売茶翁を中心とした文化史的なお話ししかできませんでした。消化できたのは11ページまでで、「嬉野茶のブランドを確立してゆくためのポイント」を述べた5ページほどが残ってしまいました。ちょっと欲張りすぎたかなと反省しましたが、山本先生のご配慮で、次の90分を「アフターセッション」として準備していただいてあったので、そこで補うことにしました。「アフターセッション」にも、多くの茶業関係者が参加してくださり、活発な意見交換が行われました。
 そこで強調したのは、お茶の評価はます本質的価値によって決まるので、高品質のお茶づくりを目指さなければいけないということです。すなわち、形状・色沢・水色・香気・滋味が決め手になります。
 さらにいくらよいお茶を作っても、そのよさを発信しなければ消費者に気づいてもらえません。お茶の歴史性・文化性・精神性をアピールするイメージ戦略も欠かせません。
 その際ユネスコの遺産活動の視点が参考になると述べました。お茶にゆかりの深い建造物など有形遺産、製茶技術や喫茶の作法、伝統行事、思想などの無形遺産、古文書や文献などの記憶遺産を整理・保存し、博物館を創設したりホームページを充実させて発信します。佐賀のお茶の歴史と伝統を知ってもらい、イメージアップをはかるのです。
 最後に、茶業振興や地域経済活性化の成否を握っているのは「人材」であることを強調しました。フードシステム全体を見て、それぞれの段階にどのような問題があるか明らかにする発見能力、その問題を専門知識を駆使して解決する解決能力を備えた人材育成が大切です。そして最終的には、単なる飲料の生産者ではなく、日本文化の担い手であるという誇りが、茶業発展の原動力になると思っています。今回の訪問でお目にかかった多数の意欲旺盛な関係者のみなさんと知恵を出し合いながら、様々な取組にチャレンジし、成果をあげなければと、決意を新たにしました。

「佐賀県の茶業史と茶文化」(佐賀大学経済学会主催講演会) (3)

 柴山元昭は57歳までほぼ佐賀で過ごしたのですが、今流に言う定年退職の高齢になって、どうして京都に出て、売茶活動を始めるようになったのでしょうか。それはひとことで言うなら、禅僧社会の腐敗・堕落があまりにもひどかったからです。「禅僧は様々な謀をもって、信者の施しをむさぼっている。施しをしてくれる者がいると、ただ媚びへつらって、自分の師や目上の者、それに父母よりも彼らを大切にする。そのような有様だから、信者は多少の施しに対してでも、恩着せがましくふるまうのだと」と憤っています。
 三輪空寂という言葉があります。これは、布施を行う場合、布施する主体(施者)、布施する相手(受者)、布施する物品(施物)の価値、この三つの要素に執着するなという意味です。厳しい修行を積み重ねてきた柴山元昭は、この精神が形骸化していることに我慢ならず、何とかしなければならないと思ったに違いありません。
 「茶銭は黄金百鎰より半文銭までは、くれ次第、ただのみも勝手、ただよりはまけもうさず」のキャッチフレーズは奇抜でユーモアがあっていいですね。売茶翁こと柴山元昭の茶は、営利目的の一服一銭茶でもなく、一般人が近づきがたいような高い精神的境地を求めるものでもありませんでした。
 ところで江戸時代後期の文人たちは、石川丈山(1583〜1672)に憧れました。丈山は1641(寛永18)年一乗寺に詩仙堂を建て、隠遁生活を始めます。(なお石川丈山については、2011年11月1日の記事もご参照ください。)
 渡らじな 瀬見の小川の 浅くとも 老の波そふ 影ぞはずかし 
 「瀬見の小川」とは、下鴨神社糺森(ただすのもり)の南で賀茂川に入る小さな川です。丈山は「私はもうこの川を越えて京都の街に足を踏み入れません」と、俗世を離れ詩仙堂で悠々自適の生活を送る決意をしました。京都の人々と積極的に交わり、お茶を広めていった売茶翁とは、タイプが異なります。丈山と重なるのは橘曙覧です。松平春嶽が橘曙覧に是非登城して歌や古典の講義をしてほしいと頼んだのですが、曙覧は次のような歌で辞退します。(2010年10月25日の記事をご参照ください。)
 花めきて しばし見ゆるも すずな園(その) 田ぶせの蘆(いほ)に 咲けばなりけり 
 「すずな」(漢字では菘と書きます)というのはかぶらのことです。曙覧は、いってみれば自分はかぶらの花で、田園に咲いているから美しく見えるだけです。登城は似つかわしくありませんと、辞退したのです。
 私は売茶翁的な社会批判の目は、私たちが暮らす現代社会にも欠かせないと思います。政治はこんなままでいいのでしょうか。オリンパスや大王製紙で明らかになったように、統治がガタガタになっている企業もありますが、日本のコーポレートガバナンスは大丈夫なのでしょうか。本来あるべき正しい姿とは何かを絶えず心に留め、そこからはずれていった場合は、警鐘を鳴らし、軌道修正する勇気が必要です。社会が活力を失い、方々で不祥事が続出するのは、売茶翁のような正義感や批判精神を持つ人が少なくなったからだと考えています。

「佐賀県の茶業史と茶文化」(佐賀大学経済学会主催講演会) (2)

 昨日に続き、佐賀大学での講演のレポートです。講演には山本先生の講義の受講生のほか、嬉野市を中心として、たくさんの茶業関係者が参加してくださいました。佐賀県内のみならず、わざわざ福岡から来ていただいた方もあり、とても嬉しく思いました。山本先生と村岡さんの広範なネットワークでPRしてくださったおかげですが、ほとんどが佐賀大学の学生さんだと思っていましたので、嬉しいサプライズでした。また若い学生さんも、社会人のみなさんもとても熱心に耳を傾けてくださり、講演者としてこれ以上ありがたいことはありませんでした。
 講演では文化史的なことを中心にお話ししましたが、何といっても売茶翁の功績に力が入りました。なお彼が売茶翁と呼ばれるようになったのは、57歳で佐賀を離れ京都に拠点を移した後、東福寺や三十三間堂などの名所で煎茶の立ち売りを行なった頃からです。したがってそれまでは、本名の柴山元昭と呼びたいと思います。
 柴山元昭は1675(延宝3)年、佐賀市蓮池町に生まれました。父は佐賀藩の支藩のひとつ蓮池藩の初代城主鍋島直澄と二代目藩主鍋島直之に仕える御殿医の柴山杢之進です。
 元昭は11歳のとき、巨勢町の龍津寺に入りました。ちなみに龍津寺は黄檗宗萬福寺の独湛(1628〜1706)の弟子化霖(1634 〜 1720)の開山です。その後13歳になると、化霖に連れられ萬福寺を訪ねる機会があったそうです。元昭と面会した独湛は、彼の優れた才幹に驚嘆したといいます。
 元昭は以後も龍津寺で学問と修行に励みましたが、22歳で痢病を患いました。病が治らないのは修行が足りないためだと考え、数年間佐賀を離れて江戸や仙台を行脚し、各地の名僧に学んだそうです。福岡・佐賀県境の雷山(いかずちやま)で断食苦行なども経験し、再び龍津寺に戻りました。
 元昭と茶の出会いは1707(宝永4)年33歳で長崎に出かけたときのことでした。中国人が茶を煮るのを見て、関心を抱いたようです。

「佐賀県の茶業史と茶文化」(佐賀大学経済学会主催講演会) (1)

 今日は佐賀大学経済学部主催の講演会で、「佐賀県の茶業史と茶文化」というテーマでお話しさせていただきました。
 西宮市に住む私が遠方の佐賀で講演の機会をいただけたのは、佐賀大学経済学部の山本長次先生の御高配のおかげでした。山本先生は日本経営史のご専門で、特に鐘紡の武藤山治研究の第一人者です。また佐賀の地域経済活性化にも熱心に関わっていらっしゃり、嬉野茶業発展のためにも尽力されています。山本先生と私は、メインの所属学会が同じ、かつ茶業史や茶業振興にも取り組んでいるという点で重なるところがあり、今回、先生の経営史のご講義の1コマを割いて、講演のチャンスをお授けくださった次第です。
 先生には2日間の滞在期間中至れり尽くせりのお心遣いをいただき、恐縮してしまいました。お茶や佐賀の話題で話が盛り上がり、時間の経過を忘れてしまうほどでした。さらに先生の幅広いネットワークを通じて、たくさんの熱心な茶業関係者をご紹介くださり、また、充実した視察のプランも立てていただいてありました。お茶にゆかりの地の見学や、茶業関係者のみなさんとの交流に関しては、あらためて述べるつもりですが、2日間の佐賀滞在でこれほど有意義な時間を過ごさせていただけたのは、山本先生の勿体ないご厚情があればこそでした。
 もうひとり、格別のお世話になったのは、佐賀県茶業試験場の場長を務めていらっしゃった村岡実さんです。村岡さんとお目にかかるのも今回がはじめてですが、私が『茶の文化』に寄稿した論文や、『茶大百科』の原稿を詳しく読んでくださってあり、大感激でした。地元の方なので地理に明るく、自動車を運転して方々の史跡をご案内くださり、丁寧に解説していただきました。また、「通説を疑え」の精神で、史料を綿密に検証され、繰り返しフィールド調査を行っていらっしゃいます。研究に向かう姿勢にも、大いに感銘を受けました。
 村岡さんは「背振山茶談議」という勉強会兼お茶愛好者の交流会を主宰されています。会の雰囲気をお聞きすると、ちょうど近世後期の文人サロンと同じです。売茶翁の志を彼の出身地である佐賀で、村岡さんが引き継いでいらっしゃるのは素晴らしいことです。私も是非メンバーの一員に加えていただきたいと思っています。

「2012年 日本経済の展望」 (尼崎市立大庄公民館の市民大学講座で講演)

 今日は尼崎市立大庄公民館の市民大学講座で、「2012年 日本経済の展望」というテーマで講演しました。概ね次のようなお話をしました。
 日本経済は東日本大震災による深刻な打撃から立ち直りつつあります。しかしEUの一部の国の債務不履行を背景に国債が売られ、金融市場が大混乱に陥っています。EUで起こっている危機の根底にあるのは、巨額の財政赤字です。財政の危機が金融の危機としてあらわれています。したがって財政健全化を急がないかぎり、市場は落ち着かないと思われます。
 GDPに対する政府債務の割合が200%を超える日本の場合、EU以上に事態は深刻といえるかもしれません。国債の暴落を未然に防ぐには、財政再建が待ったなしです。野田佳彦首相が、「不退転の決意で臨む」と意欲を示す社会保障と税の一体改革の議論はどうなるのか、詳しく検証しました。
 米欧景気の減速、円高と株価低迷の長期化は、企業収益の重荷となっています。もっとも復興需要の本格化が内需を下支えすることも期待できると思いますが、外需(輸出)は縮小気味です。このような環境の中で、2012年の日本経済はどのように推移するのか考えました。
 話は変わりますが、インターネットのニュースで、大修館書店が国語辞典に載せたい新しい言葉を中学・高校生から募集したところ、「枝る」という言葉がランクインしたそうです。意味は、極限まで睡眠をとらないこと寝る間も惜しんで働くことらしいです。原発事故の状況報告で、ほとんど寝ないで記者会見を行った枝野幸男元官房長官の姿を思い出します。
 実は私も講演が立て込み、ここ1ヶ月ほどは連日で「枝って」いました。期日が近づいてくると焦りも高まり、「枝る」日が続くのはしかたないのですが、疲労困憊です。しかしそんな過酷な毎日でもどうにか乗り越えられるのは、熱心にうなずきながら聞いてくださる聴衆がいるからです。年末のお忙しい中をご参加くださったみなさん、本当にありがとうございました。

東日本大震災がフードシステムに与えた影響について (関学食文化研究会主催 第3回 食文化フォーラムで講演)

 たくさんの予定が集中し、この1週間は連日で徹夜に近い毎日が続いています。昨日は大雨の中大阪城へ出かけ、「はなやか関西茶会記」に参加していましたので、講演資料を整える時間がありませんでした。
 このような切羽詰まった状況の中で、今日、関学食文化研究会主催 第3回 食文化フォーラムが開催され、「東日本大震災がフードシステムに与えた影響について」というテーマで講演しました。午後1時半スタートでしたが配付資料の完成はちょうど12時。直前に資料のセットとホッチキスどめを事務局の方にお手伝いいただき、作業が終わってすぐ講演開始という綱渡りでした。極限のしんどい経験をして、時間の大切さを痛感しました。「あのときの1時間が ………」と、ついだらだらと過ごしてしまったシーンが思い浮かび、しきりに反省しています。
 さて今回の講演の目的は、戦後最大の国難である東日本大震災がフードシステムに与えた影響を明らかにし、壊滅的な打撃を受けた漁業・農業再建のための方策を検討することです。東北経済において漁業・農業は重要な役割を担っており、地域経済と従事者の生活基盤立て直しが急がれます。また両産業の再生が遅れると、国民に対する食品の安定供給が危ぶまれます。(量的な問題)さらに原発事故の影響で、食品に放射性物質が検出されことがあり、安全性確保をめぐっても課題山積です。(質的な問題)
 上記のとおり私たちはこの震災によって生じたフードシステムの量的・質的問題を解決する必要があります。量の問題の解決にあたっては、漁業・農業の再建を急ぐほかありません。その際重要な視点は、若い世代の人たちも魅力を感じるよう、両産業の競争力を高め、収入が安定して儲かる仕組みを作ることです。6次産業化、食品のブランド力向上、企業参入の許可など、このところしばしば耳にする方策について紹介しました。
 一方質的問題といえば、福島第1原発の事故による食品の放射性物質汚染問題です。このような深刻な事故は前例がなく、安全基準そのものが不安視されています。生産、流通業者は、全数検査を実施し、消費者の不安を払拭しようと努めていますが、技術的にもコスト的にも限界という悲鳴があがっています。食べても大丈夫という数値はいくらなのか、またそれが決まったとして、安全を証明するためのコストを誰が負担するのかという重い課題を突きつけられています。
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