寺本益英の日記

 関西学院大学で日本経済史を担当する寺本益英の身辺雑記です。経済、歴史、お茶、フードシステムの話題を中心に、思い立ったことを綴ります。受講生の質問にも答えます。

現在進めている研究

業界・企業研究セミナー(関西電力) を実施しました

 本日関西電力より人事担当者をお招きし、業界・企業研究セミナーを実施しました。この種のセミナーは、経済活動の実際を知る効果とともに、学生の将来設計を立てる際の指針を提供することにもつながり、一石二鳥の役割を果たしています。
 ここでセミナーを聞いて印象に残った点をいくつかご紹介します。まず冒頭で、エネルギーに関する最新ニュースのご紹介がありました。自分の関心ある業界についてのホットなトピックスに絶えず注意を払ってほしいというメッセージと受け止めました。これは私の授業でいつも強調していますが、新聞記事検索システムの活用に尽きます。関学の恵まれた環境を生かし、日頃から企業の動きをおさえておくことが大切です。ちなみに日経テレコンで「関西電力」と入力すると、2万9,000以上の記事がヒットします。これほど話題にのぼることが多い企業ということです。
 その後電力事業をめぐって詳細なご説明がありました。特に重要なのは、電力業界でも厳しい競争が始まっているということです。これまで電気は必ず地域の電力会社(この辺なら関西電力)から買うことになっていました。それが自由化が進み、今では私たちは自由に電力会社を選べるようになったのです。
 ここで電力小売自由化の歴史を振り返っておきます。電力小売自由化がスタートしたのは2000(平成12)年3月のことです。このときは「特別高圧」から出発し、大規模工場やデパート、大型のオフィスビルにかぎり、自由に電力会社が選べるようになりました。そのあと2004(平成16)年4月・翌年4月には、「高圧」へと範囲が拡大され、中小規模の工場やビルが自由化の対象となりました。
 そして2016(平成28)年4月からは、「低圧」区分の一般家庭へと自由化が広がります。つまり私たち消費者が自分のライフスタイルや価値観に応じて電力会社を選別できるエネルギー戦国時代が到来したのです。各社は、価格や付加価値(サービス)で激しく競うようになりました。
 では私たちが電力会社を選ぶ基準は何でしょうか。何よりも重要なのは安定供給ができる技術力です。例えば雷が落ちたり地震が起こり電気が止まってしまうと、私たちの生活は立ちゆきません。電力会社には災害にも耐えられる確かな技術力が求められます。一方付加価値(サービス)に関しては、家計管理や老人の見守りなど、各社が多様なアイディアを出しています。
 さらに電柱に防犯カメラを設置したり、少子化で国内市場が縮小する中海外(特に東南なジア)で発電所を建設するなど、業務の範囲や地域をどんどん拡大していることも印象的でした。
 セミナー後半では、各部署の説明と具体的な仕事内容のお話しもしていただき、大変有益でした。
 ゼミ生のみなさんが自分に最適の業界・企業への就職にたどりつくためには、実際その業界・企業で働いている方のお話を聞いて情報を集めるのが一番です。今後なるべくこのような機会を設けたいと考えています。

北朝鮮が核実験中止を宣言

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は2018年4月20日、「我々にはいかなる核実験、中長距離や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射も必要がなくなった。北部核実験場も自己の使命を終えた」と述べ、核実験とICBM試射を中止し、咸鏡北道豊渓里(ハムギョンブクトプンゲリ)の核実験場を廃棄することを宣言しました。これまでの情報発信は韓国を通じた間接的なものでしたが、今回は正恩氏が自らの言葉で国際際社会に対して公約した点は意義深いと思います。
 さらに6月はじめまでに行われる見通しの米朝首脳会談を成功させたいという強い意図も窺えます。アメリカ本土に届くミサイルと核の拡散は、アメリカが最も懸念する問題です。北朝鮮はトランプ大統領との会談前に、非核化の意思を示しておきたかったとみられます。もっとも総会では、具体的な非核化措置には触れられませんでした。
 党中央委総会では、正恩氏の報告を受け、経済改革と核開発を同時に進める「並進路線」が完成したことを宣言し、新たな政策決定を行いました。総会が採択した政策決定書は、核兵器や運搬手段としてのミサイルが完成したことを確認、4月21日から核実験とICBM試射を中止することを宣言しました。
 なお「核実験中止の透明性を確保する」として、豊渓里の核実験場の廃棄を宣言しています。すなわち、核による挑発がない限り核を使用しないことや核不拡散を約束することが核軍縮の重要な過程というわけです。
 しかし注意が必要なのは、すでに所持している核と大量のミサイルを手放すとは言っていないことです。米韓の対応をさらに見極める狙いがあるものと思われます。豊渓里の核実験場は、軍部隊が駐屯を始めた1980年代末から整備されてゆきましたた。2006年10月から昨年(2017年)9月まで計6回の核実験が行われたといいます。また韓国政府によれば、正恩氏が2011年末に権力を継承して以降、計61回に及ぶ弾道ミサイルの試射を行っているそうです。具体的な非核化措置の表明がないかぎり、北朝鮮の脅威がなくなったとはいえません。北朝鮮が米朝協議の長期化を狙い、核保有の既成事実化を目指す懸念も捨てきれないのです。
 北朝鮮の方向転換でいまひとつ注目すべきは、今後、経済発展と人民生活向上に集中し、朝鮮半島と世界平和のため、周辺国や国際社会との対話や連携を積極的に進めるとしたことです。正恩氏がこうした路線の実現を真剣に求めるのなら、国連決議による経済制裁の緩和が不可欠です。完全で検証可能な非核化の道を早期に示すことが肝要です。
 この点について正恩氏は、訪朝したポンペオ米中央情報局(CIA)長官に「完全な非核化の意思」を伝えていたとのことです。アメリカは、米朝首脳会談での合意に、具体的な非核化の措置を盛り込むよう水面下で交渉していたのです。
 北朝鮮の核実験中止宣言にトランプ大統領は、自身のツイッターで、「北朝鮮と世界にとって、とても素晴らしいニュースだ。大きな前進だ。我々の米朝首脳会談を楽しみにしている」と歓迎しました。そして6月上旬にも予定される米朝首脳会談の実現に強い意欲を示した。にじませました。

北朝鮮が「微笑み外交」を展開

 平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックに合わせ、北朝鮮が「微笑み外交」を展開しています。特筆すべきは、最高指導者・金正恩(キムジョンウン)氏の妹の金与正(キムヨジョン)氏の訪韓です。そのねらいは、オリンピックを契機に、韓国との友好関係を演出し、対外イメージの改善することです。 北朝鮮は選手のほかに、芸術団や、韓国側と合同応援団も派遣しています。こうした働きかけで、韓国国内の民族意識が高まり、韓国と日本・アメリカの結束に、風穴を開けようとしていることが伝わってきます。
 金与正氏と文在寅(ムンジェイン)大統領の会談は10日午前に行われました。そこで金与正氏は正恩氏の親書を手渡し、文大統領の訪朝を要請しました。これは北朝鮮の焦りのあらわれとみられます。北朝鮮の本音は、韓国を通じ、アメリカに制裁緩和や米韓合同軍事演習の縮小・中止、アメリカが攻撃を思いとどまるよう説得してもらうことでしょう。
 金与正氏の訪朝要請に対し文在寅大統領は条件を整えて実現させよう」と述べたといいます。ただちに訪朝要請を受け入れられなかったのは、北朝鮮が核武装を解除し、繰り返してきた挑発行動をやめて米朝交渉が実現する見通しが立っていないからです。
 以上のような融和ムードに対し、日本政府は警戒感を強めています。これまで日韓両国は、北朝鮮の融和的な政策に乗ってしまい、結果的に北朝鮮に核・ミサイル開発を継続させたという経験があるからです。日本はアメリカと連携し、韓国がこれ以上北朝鮮に傾斜しないよう目を光らせています。
 日米両国は北朝鮮が核放棄に向けて動き出さないかぎり最大限の圧力を継続するという方針です。オリンピック終了後の北朝鮮の出方が注目されます。

核の恐怖が支配する世界に逆戻り

 トランプ政権は2018年2月2日、これから5〜10年の新たな核戦略の指針となる「核体制の見直し(NPR・Nuclear Posture Review)」を公表しました。その骨子は第1に、核の使用条件の緩和です。すなわち通常兵器やサイバー攻撃を受けた場合の反撃として、核兵器を使う可能性を排除しません。背景には、領土的な野心を隠さないロシアや中国、核開発をやめない北朝鮮への危機感があり、これらの国々の動きを抑止するには、大統領に核使用の広範囲な選択肢が必要と判断したのです。
 いまひとつは、新たな核兵器の開発です。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)用に爆発力を抑えた小型の核弾頭や海洋発射型の核巡航ミサイルを新しく開発する方針を明記しました。これは敵国の大都市の破壊を目的とした大型の核兵器に比べて爆発力は小さいのが特徴です。敵国の基地や施設などを破壊する局地的な戦闘に使い、非戦闘員らの被害をできるだけ小さくするねらいです。位置を特定されにくい潜水艦から発射すれば、状況に応じた柔軟な運用も可能となります。
 アメリカの核能力は破壊力が極めて大きな戦略核が中心であり、事実上「使えない核」とされてきました。しかしその威力を小さくすることで「使える核」とし、アメリカがもしかすると核を使うかもしれないと相手国に圧力をかけ、危険な行動を思いとどまらせる効果を狙っています。
 トランプ大統領は声明で、「アメリカはこの10年間で核の保有数や役割を減らした。他の核保有国は備蓄を増やし、他国を脅かす新兵器を開発した」と、中ロや北朝鮮を念頭に置いて批判しました。さらにロシアに対し、「核の脅しや先制使用によって自国に有利な形で紛争をおさめられると誤認している」と、危機感を鮮明にしています。中国には「新たな核能力を獲得し、西太平洋でのアメリカの利益に挑戦しようとしている」と警戒しました。北朝鮮については「あからさまに核使用の意思を示してアメリカを脅している」と非難しています。
 前回8年前にオバマ政権が発表した「核戦略」では、ロシアとの核軍縮が進んでいたことや、通常戦力でアメリカが世界を圧倒しているという強みを背景に、核兵器の役割を減らしていくことが強調されました。しかしその後、陸・海・空・宇宙・サイバーの領域において、アメリカの優位が揺らぎ始めました。そのためトランプ政権は、オバマ政権が訴えた「核なき世界」路線を放棄したのです。
 アメリカの核政策の見直しにより、世界は再び核軍拡の方向に向かいつつあります。そして冷戦時代のように、核の恐怖が支配する世界が到来することになるでしょう。
 河野太郎外相は、NPRについて「高く評価する」との談話を発表したのには驚きました。小型とはいえ通常兵器と比べるとはるかに大きな破壊力を持った核兵器が使用されると、その影響は計り知れません。日本は広島、長崎で核兵器の悲惨さ、非人道性を身をもって体験しているはずです。また2016年5月27日、安倍晋三首相はオバマ前大統領と並んで、核なき世界を訴えたはずではなかったのでしょうか。アメリカの政権がかわっても、世界の先頭に立って核廃絶を訴えるべきであると、強く感じました。

格差・貧困をめぐる論争

 野党はしばしば安倍政権になって格差が拡大したと主張しています。すなわち若者世代を中心とした格差拡大が出産、子育てに対する不安を高めているというわけです。この点に関し11月21日に行われた参院代表質問の際の民進党・大塚耕平代表と安倍晋三首相の論争をもとに考えてみます。
 大塚氏が格差拡大の根拠としている指標は相対的貧困率です。これは国民を所得順に並べたと仮定した場合の真ん中の人の所得(中央値)の半分未満の人の割合を示しています。そこで大塚氏は中央値の悪化を問題視しました。ピークの1997年には297万円であったのが、2015年には245万円に減ったとし、「(国民が)貧しくなっている」と訴えました。そしてその背景には、物価を考慮した実質的な購買力を示す実質賃金の低下があるとも指摘しました。
 これに対し安倍首相は次のように反論しました。パート労働者の増加などで実質賃金は下がったものの、働く人の数は増えており、国民全体の稼ぎを示す「総雇用者所得」も増大していると述べました。中央値の低下の要因は所得水準の低い高齢者が増えたためだと言い、2015年は2012年の244万円)に比べると改善したと説明しました。そして「相対的貧困率は政権交代後、経済が好転する中で改善に転じた」と結論づけました。実際、2012年の相対的貧困率は16.1%であったのが、2015年には15.6%へとやや改善しています。
 ただし長期的にみれば、格差はやはり拡大しています。相対的貧困率は1985年には12.0%であったが、前述のように2012年には16.1%と上昇傾向にあるのです。国際的にみても、経済協力開発機構の2014年時点の調査で、日本は加盟34カ国中で6番目に相対的貧困率が高かったようです。
 経済が好調であれば、企業は人手を確保するため賃金を上げるでしょう。その結果労働者は消費を増やし、経済の体温計である物価が上昇し、デフレ脱却が実現します。経済をこうした好循環に導くことが安倍政権の課題といえます。



トランプ大統領、韓国国会で演説 北朝鮮にアメリカの軍事力を誇示

 アジア歴訪中のトランプ米大統領は11月8日、ソウルの韓国国会において北朝鮮問題に関する演説を行いましたた。北朝鮮が核とミサイルの開発を続けることは絶対に容認できないとし、「アメリカを過小評価するな。我々に挑んではならない」と、強く警告を発しました。また北朝鮮がアメリカ本土を直接攻撃できる核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進めるのは世界全体の脅威だと指摘し、その脅威に立ち向かうことは国際社会の責務であることを強調しました。そして北朝鮮が核兵器を放棄しないかぎり、経済、外交、軍事力を駆使し、圧力を加え続ける姿勢を示しました。
 トランプ大統領はアメリカは北朝鮮に対し、これまで何度も核兵器を放棄するよう求めてきたにもかかわらず、ことごとく裏切られてきたとも述べています。そして「北朝鮮は過去のアメリカの抑制を弱さだと理解している。しかし、それは致命的な間違いだ」と語り、アメリカに挑むのは過ちだとというメッセージを発信しました。
 トランプ大統領は北朝鮮と国境を接し、経済的にも強い影響力を持つ中国とロシアを名指した上で、北朝鮮に対する経済的、財政的な様々な支援をやめるよう訴えています。
 朝鮮半島近海に空母3隻を配備し、軍事力を全面に出して北朝鮮を威嚇する一方で、完全かつ検証可能な形で核開発を断念すれば未来への道は開かれているとも語っています。
 以上のトランプ大統領の演説に対し、北朝鮮はどのような反応を示しているのでしょうか。相変わらず強硬姿勢を崩していません。かねてから指摘されているように、北朝鮮の最大の目標は体制の維持です。最近ではとくにアメリカが朝鮮半島近海で空母による軍事演習を行っていることに危機感を示し、自主と正義のために核開発を継続し、アメリカとの力の均衡をとるということです。
 とはいえ、アメリカを本気で怒らせ、激しい攻撃を受ければ、体制維持どころではないことは金正恩委員長もよくわかっているはずです。当面は攻撃されない程度に、ギリギリのところで挑発を続けるものと思われます。

トランプ大統領の初来日と日米首脳会談

 トランプ大統領は就任後はじめて日本を訪問しています。11月5日横田基地に到着し、そのあと安倍首相とゴルフを楽しみました。本日のブログでは、翌日6日に行われた日米首脳会談についてレポートしたいと思います。ポイントは以下の3点です。
(1)北朝鮮問題と防衛装備品の購入拡大
 日本にとって最も重要なテーマは、北朝鮮問題といえます。これに対し安倍首相は、「日米が主導し、あらゆる手段を通じて北朝鮮に対する圧力を最大限まで高めていくことで完全一致した」と述べました。トランプ政権はかねてから「軍事行動を含む「すべての選択肢がテーブルの上にある」という方針をとっており、安倍首相日米が100%ともにあることを再確認したということです。トランプ大統領はオバマ前大統領時代の)「戦略的忍耐」は終わったとの認識を示し、在日・在韓米軍の兵力を挙げて、北朝鮮を牽制することになりそうです。
 北朝鮮による拉致被害者の家族とトランプ大統領の面会も実現しました。安倍首相はトランプ大統領との良好な関係を内外にアピールする好機になったと思いますし、トランプ大統領は、日米が共同歩調をとって北朝鮮に強硬姿勢を示せたと考えているに違いありません。日米協力関係の強調は、対北朝鮮政策をめぐり温度差のあ韓国や中国を説得する上でも有効です。
 予想外だったのは、アメリカ製の防衛装備品の熱心な売り込みでした 「非常に重要なのは、首相は(米国から)膨大な量の兵器を買うことだ。そうすべきだ。我々は世界最高の兵器をつくっている」と述べました。具体的な防衛装備品名まで言及し、日本がこれらを大量購入することで、アメリカに雇用が創出され、日本の防衛力は強化され一石二鳥の効果が期待できると主張しました。安倍首相はこの要請に応じる形で、「日本の防衛力を拡充していかなければならない。アメリカからさらに購入していくことになる」との見解を示しました。トランプ大統領は安保と引き換えに、アメリカ製品を買わせ、貿易赤字が削減はかりたいのかも知れませんが、このままでは日本のアメリカ追従の度合いが一段と高まる予感がします。日本はすでに2013年に閣議決定された防衛計画の大綱や中期防に基づいて最新鋭戦闘機F35Aや輸送機オスプレイの導入を進めています。陸上配備型の迎撃ミサイルシステムイージス・アショアも着実に購入する予定です。財政が危機的状況にある中で、防衛支出を高めてゆくことに違和感を感じますし、アメリカ製品の購入が際立っていることが気がかりです。さらに通常の維持整備費や訓練費にしわ寄せがくることも懸念されます。
 さらに軍事力に頼るばかりの安保政策でよいのかという疑問の声もあがってきています。北朝鮮問題をめぐり日米間では軍事的圧力強化や経済制裁強化の話しが出るばかりで、平和的解決の可能性がさぐられたことはありません。日本がアメリカから次々と高額兵器を購入する姿勢が、かえって北朝鮮を刺激しているという意見もしばしば耳にします。
(2)インド太平洋戦略の推進
 トランプ大統領のアジア歴訪において、日本が最初の訪問国となることにこだわったのは、日米共通のアジア外交戦略を世界にアピールしたかったからと言われています。安倍首相は、昨年「自由で開かれたインド太平洋戦略」を表明していますが、トランプ大統領はこれに賛同してくれたことの意義を強調しました。この考えは今後、日米共同戦略の位置づけで、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などで、各国に協力を求めてゆくことになりそうです。
 言うまでもなく日本は、中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」を意識しています。シルクロード経済圏構想を通じ、中国が独自の主張に基づいてアジア太平洋地域で権益拡大をはかることに、日本政府は警戒感を強めているのです。この地域で、日米がともに安全保障、経済の両面において、法の支配やルールづくりを浸透させ、中国の動きを牽制する狙いが読み取れます。
 トランプ大統領はこれまで一貫してオバマ前政権の政策を否定してきました。オバマ前政権はアジアリバランス構想を打ち出してきましたが、代替政策は決まっていませんでした。安倍首相が唱える新政策は、アメリカにとってもメリットがあるといえます。ただしその一方で、トランプ大統領が主張するアメリカ第一主義と合致するかどうかは不透明です。 
(3)通商問題は棚上げ
 通商問題に関しトランプ大統領は従来と同じく「アメリカ第一」の発言を繰り返しました。共同会見では「互恵的な貿易が私にとって、とても大事だ」と述べ、対日貿易赤字の削減に強いこだわりを示しました。しかし首脳会談において通称問題は「棚上げ」にされ、解決の方向性は見い出せていません。周知のようにトランプ政権はTPPから離脱しており、自国に有利な条件を引き出しやすい日米二国間の自由貿易協定(FTA)を重視する立場をとっています。しかしこれは日本の方針とは合致しません。
 前述のように日米両国は北朝鮮問題に関し、強固な協力関係を確認しています。反面、経済関係で対立するのは得策ではありません。共同会見で安倍首相は、「トランプ大統領と二国間の貿易だけではなく、アジア太平洋地域に広がる貿易・投資における高い基準づくりを主導していく」と述べています。
 日米経済関係は現時点で波風は立っていません。ただ将来しトランプ大統領が日本への圧力を高める可能性はあります。トランプ大統領は、「日本との貿易は公平でなく開かれてもいない。(赤字削減のため)我々は交渉をしていく必要がある」と述べています。

第3次安倍第3次改造内閣が発足

 安倍晋三首相は今日3日内閣改造を行い、第3次安倍第3次改造内閣が発足しました。閣僚の国会答弁で不適切な発言が相次いだことや、森友・加計学園をめぐる問題で内閣支持率は急落したため、人心一新を図り、信頼を取り戻すことが何よりの狙いです。ここで今回の人事の特徴をみます。
 まず閣僚人事は、19人の大臣のうち留任は5人にとどまり、刷新のイメージを打ち出しています。とはいえ内閣では、麻生太郎副総理兼財務大臣、菅義偉官房長官を、また党執行部では、高村正彦副総裁、二階俊博幹事長を続投させ、政権の骨格は維持しています。
 問題続きであった防衛省と文部科学省には、ベテランの議員を起用しました。防衛大臣の小野寺五典氏は、第2次安倍内閣で1年9ヶ月防衛大臣を経験しています。、また文部科学大臣の林芳正氏も防衛大臣、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、農林水産大臣を歴任しました。
 それから野田聖子氏の総務大臣起用は、「身内に甘い」という批判をかわす目的があるのでしょう。さらに河野太郎外務大臣(麻生派)は、菅官房長官によれば「将来のリーダー候補」と評価が高く、強い発信力に期待がかかっています。
 岸田派優遇も今回の人事の注目点です。改造直前まで外務大臣を務めていた岸田文雄氏は、しばしば安倍首相の後継を目指す存在と言われてきました。岸田氏は党内基盤を固めるため、政務調査会長を希望し、安倍首相はこれを受け入れました。また岸田派からの入閣は、2人から4人に倍増し、存在感を高めています。安倍首相の狙いは、来年秋の自民党総裁選挙や憲法改正議論において、岸田派の協力を得ることにあるのでしょう。(岸田氏は9条改正に慎重な立場です。)
 ここであらためて安倍内閣の支持率が急落した原因をさぐってみたいと思います。それは第一に隠蔽体質です。南スーダン国連平和維持活動(PKO)で陸上自衛隊の部隊が作成した日報を「廃棄した」としながら陸自内に保管されていた問題の真相はどうなっているのでしょうか。森友学園が大幅値引きで国有地を取得できた理由や、国家戦略特区制度で加計学園に獣医学部新設が認められた経緯がいまひとつ釈然としません。身内に甘く、批判的な勢力の言い分には耳を貸さないという姿勢に、多くの国民が失望したに違いありません。
 いまひとつ、強引な政治手法も懸念されます。「共謀罪」法を多くの問題を残したまま、参議院の委員会採決を省略して成立させたことは問題です。反面野党が再三求めている臨時国会の開催や、文書の公開、関係者の証人喚問には消極的です。
 今回の内閣改造で安倍政権の支持率は多少回復するかも知れませんが、上記のような根本的な政治不信が解消されないかぎり国民の評価は高まらないと思います。

トランプ大統領の経済政策

 4月19日の経済コラムでは、日米経済対話について取り上げました。貿易交渉を二国間で進め、自国に有利になるようにしたいアメリカと、多国間の公正なルールづくりにこだわる日本の間で、大きなギャップを感じます。具体的な話し合いはこれからですが、日本はアメリカのペースに引き込まれないか、気になるところです。さて今日は、より大きな視点からトランプ大統領の経済政策(トランポノミクス)について整理したいと思います。
 トランプ大統領がまず目指すのは雇用拡大です。とりわけ選挙戦で自らを支持した白人労働者の雇用増を重視し、「今後10年間で2,500万人の雇用を生み出し、経済成長率の目標を年4%としました。ちなみに昨年の値は1.6%にとどまっており、かなり高い目標設定です。
 次に大型減税も重要な政策です。アメリカにおいて、現行の法人税率は35%で、先進国で最も高いとされます。これを、15〜20%に引き下げることを目指します。国内企業の流出が著しいため、歯止めをかける考えです。
 また10年間で1兆ドル(約110兆円)のインフラ投資を行うことも公約しました。
 規制緩和も重要なキーワードです。トランプ氏は政府の規制のため、アメリカ経済に年2兆ドル(約220兆円)の負担が生じていると指摘します。オバマ前政権が進めた「金融規制強化法(ドッド・フランク法)」を見直し、環境規制の撤廃でエネルギー産業の活性化もはかります。
 貿易赤字の削減も重要な課題です。トランプ氏の主張は、安い輸入品が流入したため、国内産業が衰退し、雇用が奪われたというものです。そして標的にしているのは、最大の貿易赤字相手国の中国と、隣国のメキシコです。両国からの輸入品には高い税をかけると主張しています。
 今後の通商交渉の方針は冒頭でも述べたとおり二国間交渉です。多国間協議よりも二国間協議のほうが自国に有利な条件を引き出せるからです。日本など12カ国で合意した環太平洋経済連携協定(TPP)からは離脱を決定し、カナダとメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)も再交渉になります。
 トランプ大統領の念頭にあるのは、1980年代にアメリカ共和党のレーガン政権が掲げたレーガノミクスかも知れません。その骨子は、減税や規制緩和を通じて経済を刺激することでした。
 ただし上記の政策が成功するかどうかは不透明です。アメリカでは政府に予算案を出す権限がありません。したがって政策の実現には、議会との関係を良好に保ち、予算をスムーズに執行できる環境が重要です。しかし先般トランプ政権は医療保険制度改革(オバマケア)」の代替法案の採決でつまずきました。なおこの法案には、税の財源確保の狙いもありましたので、前述の大型減税の行方は不透明です。
 最後に保護主義強化政策の悪影響が懸念されます。輸入品への課税で商品の値段が上がるということは、アメリカの消費者がモノを買いづらくなり、アメリカ国内における消費や生産の落ち込みを招き、アメリカ経済が減速するでしょう。アメリカ経済の悪化は当然世界経済の悪化に波及してゆくでしょう。トランポノミクスは短期的にアメリカ経済を好転させても、中長期の視点でみれば、アメリカ経済のみならず、世界経済全体の後退を招く可能性があります。

緊迫する北朝鮮情勢

 北朝鮮の脅威が高まっています。いつ核実験や弾道ミサイル発射を行うかわからず、大変心配な毎日が続いています。この問題に日米はどう対応しようとしているのか、18日に行われた安倍晋三首相とペンス米副大統領との会談から読み取ることができます。両首脳の一致した認識は、北朝鮮は新たな段階の脅威」であり、圧力を強めて対応する必要があるというものです。ペンス氏はさらに、日本など同盟国との連携に加え、北朝鮮に影響力を持つ中国と共に外交と経済の両面で北朝鮮に圧力をかける姿勢を強調しています。
 一方安倍首相の考え方は、平和的解決を望むが、対話のための対話になっては意味がなく、圧力をかけることも必要というものです。軍事行動の可能性も排除しないというトランプ政権を支持しています。
 トランプ大統領はオバマ前政権が採った「戦略的忍耐」の政策を踏襲せず、「平和は力によってのみ初めて達成される」という考え方を持っています。なぜそのような強硬な姿勢をとるかというと、6者協議などの対話路線で北朝鮮の挑発行為を止められなかったからです。そして「すべての選択肢はテーブルの上にある」と、軍事力行使も辞さない強い態度を示しています。
 ところ先般、アメリカ軍はシリアのアサド政権の空軍施設やアフガニスタンにある過激派組織「イスラム国」(IS)の拠点を攻撃しています。より直接的には、原子力空母カールビンソンを朝鮮半島近海に派遣しました。こうした軍事力の誇示も、北朝鮮に暴挙を思いとどまらさせる狙いがあります。そして訪日の前に立ち寄った韓国においてペンス副大統領は、「北朝鮮はこの地域の米軍の力を試すようなことはしない方がよい」と警告しています。
 以上のようにトランプ大統領は軍事行動をほのめかし、北朝鮮をおさえこもうとしていますが、北朝鮮に強い影響力を持つ中国の役割も重視しています。すなわち中国が北朝鮮に対し、援助や取引を行わないように働きかけているのです。そして北朝鮮との取引をやめない中国企業に対しては、アメリカとの取引をできなくする措置も検討中です。
 しかし中国はどこまでそうしたアメリカの要請に応じるかは不透明です。習近平主席は対話と協議による解決を主張しています。
 それにしても挑発を続ける北朝鮮の本音はどこにあるのでしょうか。核戦争も恐れないと強硬な発言を繰り返していますが、体制維持のために何をしてくるかわかりません。反面、アメリカの本格的な攻撃を受ければ、壊滅的な打撃を受けることはわかっているはずです。対話のタイミングをさがしているよう気もします。
 結局国際社会、とくに中国がより強力な経済制裁=経済的圧力をかけ、ます北朝鮮を協議の場につかせることが重要です。(ただしトランプ大統領の手法で、軍事的圧力を高めるのは、偶発的衝突につながる可能性があり、危険だと思います。)そして「対話」を始め、核やミサイル開発を諦めるよう粘り強く説得する以外ありません。

「豊かさ」概念の移り変わり

 今日から新年度の講義が始まりました。春学期は月曜から金曜までのびっしりのスケジュールで忙しくなりそうですが、さしあたり夏休みを迎えるまで、日々の講義に全力投球したいと思います。
 さて毎週金曜日の夜間は、エコノミスト・コースの熱心な社会人2名を対象とした講義です。お2人の専攻が異なるため、何をテーマにするか迷ったのですが、「豊かさ」概念の移り変わりなら、共通性も高いと思い、取り上げることにしました。
 生活水準を高め、より一層豊かさを実感できる社会を築くことは、経済学の重要な課題です。具体的には、次の時期区分に従って、「豊かさ」概念について、検討するつもりです。
 まず戦前期については、日本経済史の講義で再三強調したように、明治以降第二次世界大戦に突入する前までは、実質GDPの成長がマイナスになることはなかったため、着実に豊かになっていったといえます。もっともマクロ経済指標はよくなりましたが、民主主義の浸透は不十分であったため、植民地拡大政策に乗り出し、侵略戦争を展開します。個人の自由や豊かさが制約され、国家の豊かさが優先されたのですが、結局失敗に終わってゆく経過をたどります。
 次に戦後復興期から高度成長が始まる前までは、食料や諸物資の欠乏をいかに克服するかが目標とされました。
 高度成長期は目覚ましい所得水準の上昇に歩調を合わせ、衣食住すべての面で生活水準が大きく上昇した時期です。高度成長のメカニズムは昨年度、現代日本経済史の講義で説明しましたが、さらに踏み込んで検討を加えたいと考えています。
 1970年代以降は経済の成熟期を迎え、物質的豊かさはほぼ達成されたといえます。その一方で環境破壊や長時間労働、人間関係の希薄化など、様々なひずみが目立つようになり、GDP拡大第一主義が疑問視されるようになりました。換言すると、経済データ的に測定できない、生活の質の面に焦点が当たるようになってきました。
 これまで日本経済史、現代日本経済史の講義では、政治・経済・外交の面からバランスよく日本の歩みをたどることに力を入れてきましたが、今年度の大学院の講義では、豊かさ」概念がどう移り変わっていったかに着眼して、近代史を見てゆきたいと思います。

日米首脳会談 親密ぶりをアピール

 安倍晋三首相とトランプ米大統領の日米首脳会談が、10日、11日と2日間にわたって行われました。およそ11時間時間をともにし、食事を4度と27ホールまわるゴルフを楽しみ、親密ぶりをアピールしました。トランプ大統領がこのように安倍首相を手厚くもてなしたのは、安倍首相が自身のよき理解者であることを誇示するとともに、仕手を取り込みやすくする狙いがあったと思われます。
 この会談で両首脳の信頼関係が深まったのは、望ましいことです。しかし山積するグローバルな課題とその解決策について、有意義な話し合いが行われたのかが気になります。とりわけ、これまで世界が共有していたj民主主義・自由・法の支配といった普遍的価値は、トランプ氏が強調する「アメリカ第一主義」と対立し、維持できるのかが心配です。
 中でもTPPは、多国間の枠組みでヒト、モノ、カネの自由な移動を促進し、貿易を拡大し、各国の産業発展を実現しようとするものでした。しかしトランプ氏は、アメリカのTPP離脱を表明し、二国間のディール(取引)に持ち込み、自国に有利に交渉を進めようという考えです。これに対し日本は何も抗議しませんでした。
 さらに1月27日の大統領令において、シリア、イラク、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンの中東・アフリカ7カ国の国民に入国禁止令を発しました。しかしこれは正当な理由に基づくものではなく、差別と偏見からであることは明らかです。特定の国や宗教を標的にすることは、かえって反発を招き、世界の分断と憎悪の連鎖に拍車をかけるでしょう。国際社会がそろって非難の声をあげる中、安倍首相は「入国管理はその国の内政問題なのでコメントを差し控える」と述べました。違和感を感じずにはいられません。
 安倍首相が成果を強調するのは日米同盟です。その背景にあるのは、中国の海洋進出に対する危機感です。安倍首相は日米同盟の強化こそが、東アジアの安定につながると確信し、そのためには、日本のアメリカに対する貢献(=防衛力強化)が必要と考えています。しかしこうした対米一辺倒の姿勢は、かえって中国や韓国を刺激しているのではないかと思います。
 反面、アメリカは絶えず日本と歩調を合わせ、中国に対抗してくれるかというと、疑問が残ります。トランプ大統領は、存外中国との関係を重視しているかも知れません。日本ももう少しうまく中国と付き合う方法を模索すべきだと思います。
 言うまでもありませんが、日米関係は対等の関係でなければなりません。両国は協力し、前述のような普遍的価値を追求する責任があります。そしてアメリカの考え方が誤っていると気づけば、それを指摘し、軌道修正を求めるべきです。トランプ大統領の打ち出す政策が、長期の視点でみた場合、アメリカの国益ばかりではなく、世界経済の利益にもならないことをしっかり説明しなければなりません。

マティス国防長官が来日

 4日、アメリカのマティス米国防長官が韓国に続いて日本を訪れ、安倍首相や稲田防衛相らと会談しました。会談内容でまず驚いたのは、アメリカが駐留経費の負担増を要求しなかったことです。振り返るとトランプ氏は大統領選中、日本が駐留経費を全額負担しなければ米軍撤退もありうると示唆。しました新政権がどんな要求を突きつけるのか、日本政府内には懸念していたので、ひと安心というところでしょう。
 それどころかマティス氏は、「経費と負担の分担について、日本はお手本になってきた」と称賛しました。実際、国防総省の2004年報告書によると、米軍の駐留経費負担は9カ国中、日本が最高の74.5%。ドイツの32.6%や韓国の40.0%と比べると、ずば抜けて高い値です。なおこの称賛は、日本以外の同盟国も日本並みに引き上げてほしいというメッセージにもなっているようです。
 稲田朋美防衛相は、安倍政権になって日本の防衛費は毎年伸びていることを強調しました。具体的には日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定し、集団的自衛権行使を容認した安全保障関連法を制定した実績を指摘しました。これに対しマティス氏も日本は正しい路線を進んでいると評価しました。
 なおマティス氏は、同盟関係において現状に満足してはいけないとも言っています。日米両国は、安全保障環境の変化に対応しなければならないとも述べ、日本側に一層の努力を求めました。
 安倍首相はマティス氏の意向に沿うよう今後も自主的に防衛費を増やし、自衛隊の役割を拡大させていく見込みです。アメリカからの圧力が強まれば強まるほど、自衛隊を強化する予算は増額されるでしょう。
 中国の東シナ海や南シナ海での海洋進出について懸念を共有し、尖閣諸島は「日本の施政下にあり、日米安保条約第5条の適用範囲だ」と明言しました。そしてマティス氏は、日本のような長年の同盟国が最優先とも語っています。従来の立場は基本的に継続するというアメリカの意思は確認できたといえます。
 やや気がかりなのは、上記のマティス氏の姿勢がトランプ政権全体で共有されているかどうかという点です。トランプ氏が通商と安全保障をからめる「ディール(取引)外交」を打ち出し、政権の方針が大きく変わる可能性も否定できません。
 さて、国際社会が心配しているのは、アメリカと中国との関係が不透明なことです。トランプ氏は昨年12月、台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統との電話会談に続き、中国と台湾の「一つの中国」の原則を疑問視する発言を行っています。米中間には潜在的に対立関係にありますが、貿易や投資では強い補完関係をとっています。両国はこれまで慎重に行動し安定を図ってきました。トランプ氏はその伝統を引き継ぐことができるでしょうか。
 最後に沖縄の問題を取り上げておきます。稲田防衛相とマティス長官は、沖縄県宜野湾市米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を「唯一の解決策」であると確認しました。こてに対し翁長雄志知事は、大変失礼なやり方であると不快感を示しました。沖縄県には、選挙期間中日米同盟の見直しに言及したトランプ氏にむしろ期待感を持っており、この決定は納得しがたいようです。
 あらためて述べるまでもありませんが、良好な日米関係はアジア太平洋地域の、ひいては世界の平和と安定に重要な役割を果たします。トランプ大統領は選挙期間中の同盟軽視発言を撤回し、北朝鮮の脅威を抑え、中国が東シナ海や南シナ海で暴走しないよう目を光らせてほしいものです。

鈴木商店の研究

 今年もいよいよ12月を迎えました。ついこの間新年度が始まったばかりと思っていましたが、慌ただしく毎日を過ごしているうちに、どの科目も残り4回ほどで全日程が終了です。あっという間です。
 さて9月の記事で取り上げましたように、鈴木よねさんが設立した神戸市立神港高校の生徒に、鈴木商店の話をさせていただく機会がありました。その後関学の日本経済史の講義でも詳しく取り上げました。こうした体験を通じて鈴木商店への関心が一段と深まり、折をみて関連文献を読んでいます。桂芳男『関西系総合商社の原像』啓文社,1987年、高橋亀吉・森垣淑『昭和金融恐慌史』講談社,1993年 はすぐれた文献です。また鈴木商店にゆかりある企業の方々が「鈴木商店記念館」という立派なインターネット上の博物館をつくっておられます。
 鈴木商店の研究はこれまで私が関心を持って進めてきた戦前の景気循環の研究につながります。第一次世界大戦の好況と、1920年恐慌を引き金とする戦間期の停滞は、鈴木商店の業況とぴったり重なります。どのような取引を行って業績を拡大し、なぜつまずいたのか、明らかにする必要があります。
 いまひとつ、鈴木商店といえば昭和金融恐慌を想起します。歴史を振り返ると、バブルとバブル崩壊・金融システム不安は何度も繰り返されています。歴史からの教訓を得、同じ失敗を繰り返さないことも重要です。
 手がかりとなる文献が限られているのが難点ですが、ねばり強く研究を継続してゆきたいと思っています。 

鈴木商店記念館

トランプ大統領が誕生

 アメリカ大統領選挙は、共和党のドナルド・トランプ氏が、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官を破り、当選しました。メキシコからの不法移民を強制送還するとか、イスラム教徒の一時入国を禁止するといった具合に差別的な発言が目立ち、女性蔑視の姿勢に対する批判も絶えなかったので、「資質」が問題視され、事前調査ではヒラリー・クリントン氏の優位が伝えられていました。ところがふたを開けてみると、全く想定外の結果が出たので、世界中に衝撃が走りました。さらに驚いたのは、政治家経験がない人が超大国アメリカの頂点に立ったことです。
 それにしても、トランプ氏を勝利に導いた背景は何だったのでしょうか。それは現政権あるいは既成の政治が、多くのアメリカ国民が抱く不満や憤りを解消できなかったことだと思います。グローバル化の進展に起因する格差が拡大し、中南米からの移民増加のために、白人の低所得層の人々の地位が脅かされているにもかかわらず、政策担当者は有効な処方箋を示すことができませんでした。
 そうした中、偉大なアメリカの復活、アメリカ第一主義(=国を閉ざすこと)を訴え、一貫して既成勢力を批判するトランプ氏の姿勢に共感し、変化を求めたに違いありません。
 今後のことで気になるのは、トランプ氏が公約どおりの政策をどこまで本気で実行しようとしているかです。自由貿易が格差を生み出してきたので保護貿易が好ましいというのなら、輸入品に高率の関税をかけて、自国産業を保護するはずです。その結果世界貿易は縮小均衡に向かわざるをえません。TPPも振り出しに戻ります。ただしTPPに関しては、理念は正しいですが、交渉の過程や日本に十分なメリットがあるのかどうかの説明が不十分だったので、慌てて成立させる必要もないかと感じました。また減税と財政支出拡大の同時実施は、いかにも大衆迎合的だと思いました。財政危機の引き金を引き、世界経済に混乱をもたらす懸念があります。
 ここで国防に目を向けます。在日米軍の費用を全額負担せよと言われたら日本政府はどうするつもりでしょうか。北朝鮮に対抗するため、自前で核兵器を持てとも言っており、日米同盟の再考が求められています。 
 今回の選挙結果から明らかになったのは、アメリカ社会の分断がこれまで想像していた以上に進み、深刻であるということです。超大国アメリカがひとつにまとまるのは決して容易ではありません。これまで日本はアメリカ流のやり方を手本としてきましたが、それが豊かで幸福な社会の実現には結びつかなかったということです。それならばアメリカとある程度の距離をおき、協調を重視する日本独自の経済・社会システムを開拓すべきです。トランプ大統領の誕生を、新しい日本の姿を描き、実現する好機ととらえたいものです。

訪日外国人、2,000万人を突破

 12月11日(日)実施予定の政治経済と文化研究会では、牧瀬充幸さんが「我が国における観光立国の役割」と題してご報告くださることになっています。そうした折、今日の『朝日新聞・夕刊』に、10月30日までの速報値ですが、2016年日本を訪れた外国人が、年間ではじめて2,000万人を突破したという記事がありました。年末までには2,400万人に達する見込みです。
 顧みると、ビジット・ジャパンキャンペーンを始めた2003年は512万人にすぎなかったのが、観光庁が発足した2008年には835万人に増え、2013年には1,000万人の大台を突破しました。その後3年足らずのうちにさらに倍増して、今年2,000万人を超えたのは驚きです。政府は一段と高い目標を掲げ、2020年には4,000万人を目指すといいます。
 しかしこの目標を達成するには、いくつかの課題を解決しなければいけません。まず第一は、幅を広げることです。現状では訪日客の約4分の3が中国・韓国・台湾・香港からの訪問者です。これはアジア諸国の所得水準の上昇を反映しています。ただし、アジア諸国への高依存は、リスクもともないます。アジア景気の減速や、反日感情を高める事件が起これば、訪日客は大幅に落ち込むでしょう。欧米からの観光客も、もっと呼び込む必要があります。
 次に重要なのは、外国人にあまり知られていない観光地のPRです。京都や富士山など有名な観光地を除き、まだまだ外国人の認知度が低い名所は数多くあります。外国人が美しい自然や、日本独特の歴史や文化に触れることができるスポットを洗い出し、より積極的にその魅力を発信する努力も大切です。
 三番目に留意しなければならないのは、「爆買い」に依存した観光振興はそろそろ限界にさしかかっていることです。大型クルーズ船に乗ってやってくる外国人観光客は、ランドオペレーターと呼ばれる仲介業者が選んだ免税店によって「爆買い」するのですが、仲介業者の店舗選定基準は、自分たちに高額の手数料を払ってくれるかどうかだといいます。仲介業者に高額の手数料を求められるので、立ち寄り先となる店舗では、割高な商品を売りつけられるというトラブルも多発しているようです。また地域の商店街では買い物をしないため、地域消費拡大効果はあまり見られないのが現状です。今後は研修や体験、治療といった特定の目的を持った滞在型の旅行を増やしてゆくべきです。、
 日本経済は今、少子高齢化、人口減少、地域経済の衰退など、数多くの難問に直面しています。この苦境を、訪日外国人の増加によってどこまで打開できるでしょうか。牧瀬さんのご報告をベースに、みなさんと活発な議論ができるのを楽しみにしています。

マイナス金利政策の効果は出ているでしょうか?

 25日の講演準備がようやく整いました。色々調べながら14ページほどの原稿を作りましたが、締切日直前の数日は徹夜状態で苦しい思いをしました。それだけに原稿が完成し、公民館の担当者宛てのメールで「送信」ボタンを押すときの爽快感は何ともいえません。しかし喜んでいられるのも束の間で、30日には尼崎市立園田公民館において、「世界経済の動向と黒田・日銀の金融政策 〜マイナス金利導入の衝撃〜」というテーマでの講演が控えています。もっと早くから準備しておけば、こんなにつらい思いをして原稿を書く必要がないのですが、ギリギリになって追い詰められないとエンジンがかからないのが、私の悪いクセです。
 さて今日はマイナス金利政策のプラス面とマイナス面について考えてみます。1月29日付の経済コラムで取り上げましたように、日銀は今年1月29日の金融政策決定会合でマイナス金利導入を決めました。(実施は2月16日から)それから早くも半年以上が経過していますので、この政策の有効性を判断する時期が来ていると思います。
 最初に導入にあたり、日銀が描いたシナリオを確認しておきましょう。日銀はマイナス金利政策を採用することによって、市場金利が大幅に低下し、家計の消費や企業の投資を刺激し、インフレ期待が高まって、消費者物価の2%目標が達成されると考えました。
 実際、その狙い通り、市場金利急低下してゆきました。長期金利の指標になる10年物国債利回りは年0.04%からマイナス0.1%に低下したほか、住宅ローン金利(10年固定型の最優遇金利)も0.5%前後に下がり、借り換えが活発になっています。大企業の資金調達は、これまで」以上に容易になったといえます。
 しかし経済全体に好影響を与えているかというと、そうとも言えません。何よりも、消費者物価が上昇する兆しが一向に見られないのです。
 その原因として考えられるのは、円安・株高の好循環が起こっていないことです。これまでは金融緩和緩和政策が発表されると、反射的に大幅な円安・株高となり、輸出企業の業績改善や家計の資産拡大による消費喚起につながりました。理論的に考えると、マイナス金利は海外との金利差を広げ、円安が進行してゆくはずです。しかし現実は、円相場は円高方向に動き、1ドル=100円を切って円高が進みそうな気配です。タイミングの問題もあるかも知れませんが、マイナス金利が決まったのは、中国の景気減速リスクが広がっていたときです。世界的にリスク回避ムードが強く、外貨や株式に投資資金が向かわなかったのです。
 予期せぬ円高により、多くの製造業の4〜6月期は減益決算を余儀なくされました。円安・株高が進まない中、家計は国債や預金の金利低下に不安を強め、消費行動を萎縮させてしまいました。
 いまひとつ、金融機関の利益の源泉である預金と融資の利ざや縮小も見過ごせません。3メガ銀行はマイナス金利が2017年3月期決算で少なくとも合計3,000億円程度の減益要因になると金融庁に報告しています。景気は決してよい状態ではありませので、企業や家計が不安を持っており、そうした中で貸出金利を下げても融資が伸びないという状況です。
 7月29日の経済コラムで述べましたが、日銀は9月の金融政策決定会合までに、これまでの金融緩和政策の総括を行うということです。その際、マイナス金利政策の有効性をどのように判断するか、注目したいと思います。

プラザ合意からの教訓

 定期試験の採点から解放され、ようやく腰を落ち着けて本や新聞記事を読めるようになりました。手掛けたいテーマはたくさんありますが、まずは目前に迫った市民大学の原稿作成が最優先です。月末25日には、尼崎市立武庫公民館において、「豊かさを求めて  バブルとその崩壊 ― 「失われた20 年」何が起きていたのか? ―」 というテーマでお話しすることになっています。
 政治・経済にまつわる私の最近の講演テーマはほとんどがアベノミクスですので、いささか戸惑いを感じていますが、1980年代後半の日本経済をたどる仕事は、自身が大学生として過ごした時期と重なり、感慨深いものがあります。
 さて1980年代後半のバブル経済を語る上で見過ごすことができないのはプラザ合意です。プラザ合意とは、1985(昭和60)年9月22日、アメリカニューヨークのプラザホテルに米・日・西独・英・仏の先進5ヶ国(G5)の蔵相が集まり、アメリカの深刻な貿易赤字をドル高是正(円高・ドル安)によって解決することで合意したものです。その背景には、アメリカの競争力低下の放任は世界経済全体に悪影響を及ぼし、保護主義の台頭につながるため、これをどうにか避けたいというG5の認識がありました。
 1985(昭和60)年9月以降日本銀行は継続的な円買い・ドル売り介入を行い、急速な円高が進みます。プラザ合意前の為替相場は、1ドル=240円前後でしたが、年末には1ドル=200円となりました。その後、1986年7月には1ドル=150円に達し、1987年には1ドル=120円まで上昇しました。
 このような急激な円高進行により、日本の輸出産業は大きなダメージを受けます。そこで円高不況対策として、政府・日銀は財政支出拡大と、金融緩和を推進します。それがバブル経済を引き起こしたことはあらためて述べるまでもありません。
 ところで、あの衝撃的なプラザ合意から今年で31年が経過したことになります。31年目の年にせっかく講演で取り上げることになりましたので、今日はその意義や教訓について考えてみます。
 プラザ合意にともなう急激な円高で、わが国の輸出産業は大きなダメージを受けたに違いありません。しかしそのショックを克服するため、生産拠点を海外に分散し、為替変動に強い経営を実現しました。
 もうひとつ印象深いのは、主要国の中央銀行が一致結束して行動したことです。普通は自国の利益が優先し、なかなか一致した行動はとれないものです。現状に照らし合わせるなら、この異常な金融緩和から、主要国が足並みを揃えて脱却することが重要ではないでしょうか。景気停滞の根本治療にはなっておらず、むしろ弊害のほうが目立つようになりました。少しずつでも金融を正常化してゆくべきです。小さなハンカチは簡単にたためても、大きく広げた風呂敷をたたむのは大仕事です。
 プラザ合意は私が高校3年生のときの出来事です。このニュースで、為替の変動が経済に大きな影響を与えることを知りました。複雑な経済の動きを少しでもわかるようになりたいと思ったのが、経済学部を選ぶ決め手となりました。

安保法制 3名の憲法学者が全員「違憲」を表明

 衆院憲法審査会において6月4日、各党の推薦で参考人招致された3名の憲法学者全員が、集団的自衛権を行使可能にする新たな安全保障関連法案について、いずれも「憲法違反」であるという考えを表明しました。
 参考人質疑に出席したのは、自民推薦の長谷部恭男・早大教授、民主党推薦の小林節・慶大名誉教授、維新の党推薦の笹田栄司・早大教授の3名でした。
 ここで3名の学者の見解を示しておきたいと思います。まず長谷部恭男氏はもともと憲法改正に慎重な立場です。集団的自衛権の行使を認める安保関連法案に関して「憲法違反だ」と述べ、「個別的自衛権のみ許されるという(9条の)論理で、なぜ集団的自衛権が許されるのかと批判し、武力行使がどこまで許されるのか不明確な点にも懸念を示しました。前述のように長谷部氏は自民・公明両党が推薦した参考人ですから、想定外の結果に与党は大きな衝撃を受けたに違いありません。
 小林節氏は9条改正が持論の学者です。「憲法9条2項で、海外で軍事活動する法的資格を与えられていない。仲間の国を助けるために海外に戦争に行くのは9条違反だ」との見解を示しました。さらに国会が多数決で法律をつくれば、国会による憲法軽視は明らかで、立憲主義に反するとの考えを示しています。
 笹田栄司氏は、自民党政権と内閣法制局がつくってきたこれまでの9条解釈はガラス細工で、ぎりぎりで保ってきたたとの認識を示し、いまの安保法制の定義は、(これまでの定義を)踏み越えてしまっており違憲であると指摘しました。
 さらに小林氏らは、重要影響事態法案などで、米軍などを後方支援する自衛隊が「現に戦闘行為が行われている場所」以外なら活動できるとした点についても、「(武力行使との)一体化そのものだ」などと発言しました。3名とも、違憲や違憲のおそれがあるとの認識を示しました。

2015年度 日本遺産 18件が決まる

 文化庁は4月24日、全国各地の有形・無形の文化財を、地域やテーマごとに組み合わせた18件の「日本遺産」を認定しました。歴史的な価値や魅力を伝えるストーリーを重視して決定したそうです。40都府県、238市町村から計83件の申請が出ましたが、地域バランスを考え、各府県1件に絞り、以下の18件が認定されました。

2015年度に認定された日本遺産一覧

 ゞ畧て本の教育遺産群 ―学ぶ心・礼節の本源― (茨城・栃木・岡山・大分)
◆,かあ天下 ―ぐんまの絹物語― (群馬)
 加賀前田家ゆかりの町民文化が花咲くまち高岡 ―人、技、心― (富山)
ぁ‥堯覆△)り舞う半島 能登〜熱狂のキリコ祭り〜 (石川)
ァヽい氾圓鬚弔覆絢禧垢留来文化遺産群〜御食国(みけつくに)若狭と鯖街道〜 (福井)
Α 嵜長公のおもてなし」が息づく戦国城下町・ 岐阜 (岐阜)
АゝГ觜捗斎王のみやこ 斎宮 (三重)
─“琶湖とその水辺景観 ―祈りと暮らしの水遺産― (滋賀)
 日本茶800年の歴史散歩 (京都)
 丹波篠山 デカンショ節―民謡に乗せて歌い継ぐふるさとの記憶 (兵庫)
 日本国創成のとき ―飛鳥を翔(かけ)た女性たち―」 (奈良)
 六根清浄と六感治癒の地 〜日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉〜 (鳥取)
 津和野今昔〜百景図を歩く (島根)
 尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市 (広島)
 「四国遍路」 〜回遊型巡礼路と独自の巡礼文化 (愛媛・高知・徳島・香川)
亜仝殿綟本の「西の都」 〜東アジアとの交流拠点〜 (福岡)
院々餠の島 壱岐・対馬 〜古代からの架け橋〜 (長崎)
押〜衫700年が生んだ保守と進取の文化 〜日本でもっとも豊かな隠れ里―人吉球磨〜 (熊本)

「地方創生」は成功するか

 私は研究の性格上、地方都市を訪れることがしばしばあります。その際いつも、交通の不便さ(電車・バスの本数が少なく、タクシーで目的地まで行くとびっくりするほど料金がかかる)と街の活気のなさを感じます。県庁所在地でさえ、夕方7時頃になるとすべての店が閉まり、人通りが疎らになります。食べるところやちょっとした買い物をする場所をさがしても見当たりません。別の場所に行けばあるのかも知れませんが、土地勘のない者も訪れることを想定し、せめて駅前くらいは、きちんと整備しておいてほしいと思います。
 さて安倍政権は、「地方創生」を旗印に、人口減少に歯止めをかけることにも力を入れています。第二次改造内閣では、司令塔となる地方創生担当相を新設し、地方人気が高い石破茂氏を起用しました。初閣議では、首相を本部長に全閣僚でつくる「まち・ひと・しごと創生本部」が設置されました。そして、2020年までの施策や工程表を盛り込んだ「総合戦略」もつくるそうです。
 地方では「アベノミクス」による景気回復の実感が乏しいうえ、2014年5月には、「2040年までに全自治体の半数が『消滅可能性都市』になる」との民間予測が発表され、動揺が広がりました。また現在1億3,000万人の人口は、何も手を打たなければ、2060年には8,700万人程度まで減少します。そこで政府は、次のような戦略を策定しています。
 まずは従来型のハード面の整備ではなく、地域の人口減少や人口流出の歯止めに主眼を置いたソフト面での施策充実を目指します。その骨子は第1に地方での雇用創出です。観光や農業振興、中核企業の育成や地元での創業支援などを通じ、2020年までに30万人分の雇用創出を実現するとしています。さらに東京一極集中の是正も進めます。東京圏は年間10万人の転入超過となっていますが、5年後には転入と転出を同程度になるよう調整します。そのために税制優遇で企業の地方移転の後押しや、政府機関の地方移転、地方大学を卒業してそのまま地元に就職した人には、奨学金の返済を減免するなどの施策を進めようとしています。さらに保育所の充実などにより、若い世代の結婚、出産、子育てを支援します。地域の人口減少に合わせた都市のコンパクト化も進めていく方針です。
 もっとも、国の借金が1千兆円を超えるなか、予算をばらまく余裕はありません。ムダな予算をそぎ落として、中身の濃い対策を打ち出せるかが焦点となっています。

「国民を守るために他に適当な手段がない」を、武力攻撃事態法に盛り込む方針 (2)

 その後政府は,砲弔い董崑故危機事態」という事態を作り、武力攻撃事態法に盛り込む方針ですが、◆↓は、自衛隊法に同じ趣旨が含まれているとして、条文化に否定的でした。これに対し、公明党は「存立危機事態」に加え、「他に適当な手段がない」という条件を法案に明記することで歯止めをかけようとしたのです。
 「国民を守るために他に適当な手段がない」という文言が法律に明記されることに、公明党は集団的自衛権の行使に対する「歯止め効果」を期待しています。しかし我々は、国会のチェックが十分機能するかどうか、注視してゆく必要があります。
 公明党が懸念しているのは、安倍晋三首相が集団的自衛権行使の一例と想定する中東・ホルムズ海峡での機雷掃海です。海峡が機雷で封鎖されて原油の輸入が止まり、政府が「新3要件」の,乏催すると認定したとします。この際政府は、中東以外からの輸入や外交交渉による解決の模索などに力を尽くしたか、つまり、集団的自衛権の行使に代わる手段で解決する努力を行ったのか、重い説明責任を負うことになるのです。
 さらに国会の役割も肝要です。政府が集団的自衛権の行使を決めても、承認するかどうかは国会次第です。この場合も国会は、本当に「他に手段がない」事態なのか十分に検討しなければなりません。政府の説明に納得できなければ、与党であってもブレーキをかけるべきですが、それが可能でしょうか。政府の説明を与党の多数で追認するだけで終われば、法律は形骸化してしまいます。

「国民を守るために他に適当な手段がない」を、武力攻撃事態法に盛り込む方針 (1)

 政府・自民党は昨日16日、集団的自衛権を行使する時の判断基準となる「武力行使の新3要件」のうち、「国民を守るために他に適当な手段がない」という第2要件を、武力攻撃事態法に盛り込む方針を決めました。
 ここで集団的自衛権について、簡単に説明しておきましょう。集団的自衛権とは、国際法上、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが正当化される権利です。安倍内閣は2014年7月1日、従来の憲法解釈を変更し、下記の3要件を満たせば行使できるようにしました。
 自衛の措置としての武力の行使の新三要件
 _罎国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること。
◆,海譴鯒喀し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと。
 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと。

戦後70年 −日本の過去・現在・未来を考える−

 社会再生学会のブログに、会員の西村正美さんが頻繁に投稿してくださっていますが、近代日本の歩みを総括する内容のものが多く見受けられます。(画面左上のリンク集より社会再生学会のブログをご参照ください。)
 私の日本経済史の主たる関心も日本がなぜあれほど無謀な戦争を引き起こしてしまったのかの検証にあり、ひと言で言うなら、経済の近代化には成功したが、精神的価値の近代化(民主主義の定着)に失敗した点が最も本質的な反省点であると結論づけました。
 西村さんがしばしばコラムで述べられている内容は、私が日本経済史の講義で受講生に強調していることと重なる部分が多く、大きな共感を呼び起こしてくださっています。
 さていよいよ年度末が近づき、来年度の講義や研究の計画を立てなければならない時期になりました。恥ずかしながら新年度直前というのに、確実な展望を描けていませんが、何といっても今年2015年は戦後70年の節目の年に当たりますので、20世紀における日本と世界の歩みを、政治・経済・外交の面から総合的に評価してみたいと考えています。
 概ね次のような課題に取り組んでみるつもりです。
 〔声・大正・昭和・平成と、わが国の政治・経済・外交はどのような道を歩んできたか。内閣の変遷を手がかりに検証します。
◆‐綉の歩みをどう評価するか、どのような教訓を導くべきか考えます。個人の価値観によって色々な意見が出てくると思いますので、ディスカッションを重視します。社会再生学会の会員のみなさん、ご協力よろしくお願いします。
 過去からの歩みと教訓をふまえ、日本は国際社会に対しどのような貢献ができるか、私なりの提案書をまとめたいと思います。
 来年度も2ヶ月に1回のペースで社会再生学会を開催し、市民大学でも多くの講演の機会をいただいています。戦後70年を迎え、日本のこれまで歩みの総括を行い、将来の展望を描き、みなさんにお伝えすることは、研究者としての重要な役割であると認識しています。新しい気持ちでがんばりたい思います。

消費税率引き上げ延期と衆議院解散・総選挙

 年末を迎え、街の様子が何となく慌ただしく感じられるようになりました。このタイミングでどうして 衆議院解散・総選挙なのかと、釈然としない国民も多いのではないでしょうか。
 安倍首相は2014年7−9月期のGDP統計の結果が芳しくなかったため、「消費増税10%への引き上げを延期することの是非を国民に問う」ため、衆議院の解散・総選挙を決断したといいます。しかし、景気悪化による増税先送りなら、消費増税法の改正で済む話で、反対している政党はありません。それを承知の上であえて「先送りの是非を問う」というのなら、大衆迎合主義の印象は拭えません。
 首相は2015年10月の消費増税を延期し、そこから1年半後の2017年4月には必ず10%に引き上げると断言しました。今より一段と景気が悪化していたら、どのような判断を下すのでしょうか。リーマン・ショックレベルの大不況が起これば、今以上に増税が困難になります。何を根拠に、「必ず増税する」といえるのかわかりません。三党合意を撤回し、今後給付と負担の関係はどうなるのか、説得的な説明が必要です。
 国の借金残高は、2014年9月末時点で1,038兆9,150億円になり、国民1人当たり約817万5,000円の借金を抱えている計算です。こうした状況の中で、高齢化が急速に進んでおり、社会保障費の増加は避けられません。株価対策には熱心ですが、社会保障改革の方向性が全然見えないのが不安です。
 現状は、増税も歳出削減も厳しいと思います。そうした中、安倍首相はどのようにして財政健全化をはかり、社会保障制度を維持する方針でしょうか。明確な工程表の提示を求めたいところです。

宮水の科学

 高品質の酒を造るには、仕込み水が重要な役割を果たします。その意味で宮水の発見は画期的であったといえます。宮水は1840(天保11)年、上灘魚崎郷(神戸市東灘区)の櫻正宗の6代目当主山邑太左衛門が見出したとされています。当時太左衛門は、魚崎蔵に加え、西宮にも出造蔵を持ち、酒造業を営んでいましたが、西宮のほうが常に良質の酒ができることを突き止めました。そこで太左衛門は西宮の仕込み水を魚崎に運んで酒を造ったところ、西宮と同レベルの酒ができ、宮水の重要性を確信したのでした。
 後年の水質検査、地質検査技術の向上により、太左衛門が発見した宮水がいかに酒造りに適した水であるかが科学的に証明されるに至りました。すなわちまず、酵母の増殖に不可欠のリン成分が一般的に酒造に用いられる水のほぼ10倍含まれ、カリウム、カルシウムの多さも酵母増殖をさらに促進します。加えてアルコール分解を進行させるのに有益な塩分を適度に含んでいるのも特徴です。その一方で清酒を赤茶けた色にし、香味を損なう鉄分の含有が極めて少ないそうです。以上の条件が重なり、酒造りに理想の水が生み出されるのです。
 ところで宮水は3つの伏流水が混じってできています。それらは北から流れてくる札場筋伏流、武庫川水系を源流として東から流れ込む法安寺伏流、西の六甲山方面から来る戎伏流です。札場筋伏流と法安寺伏流は、かつては海であった地層を通るため、生命維持に必須のリンやカリウム、塩分などを多く含んでいます。他方戎伏流は、急傾斜の六甲山から流れてくるため、流れが速いのが特徴で酸素を多く含みます。戎伏流の酸素の作用によって、伏流水に含まれ酒造りに悪影響を及ぼす鉄分は酸化鉄となって沈殿し、除去されます。
 現在の進んだ科学技術を駆使しても同質の水はできないそうです。こうしたことから宮水は「天与の霊水」と呼ばれているのです。

安倍内閣の支持率44% (2014年11月 NHK調査)

 NHKは、今月(2014年11月)7日から3日間、全国の20歳以上の男女を対象に行った世論調査の結果がNHKのホームページに掲載されていましたのでご紹介します。調査によると、安倍内閣を「支持する」と答えた人は、10月調査より8ポイント下がって44%を記録し、おととし12月の第2次安倍内閣発足後、最も低くなったようです。一方、「支持しない」と答えた人は、4ポイント上昇して38%となりました。
 支持する理由をみてみると、「他の内閣より良さそうだから」が41%、「実行力があるから」が19%、「支持する政党の内閣だから」が13%だったのに対し、支持しない理由では、「政策に期待が持てないから」が48%、「人柄が信頼できないから」が15%、「支持する政党の内閣でないから」が12%となっています。
 みなさんはこの結果、どう読みますか?支持者はやはり、民主党政権の迷走がひどすぎたため、自民党・安倍政権を、「他の内閣より良い」と感じているのでしょう。一方38%の支持しない人々のうち、約半数が「政策に期待が持てない」と感じていることも無視できません。つまり、相当多くの国民が「アベノミクス」を評価していないことが窺えます。
 次に重要な論点を挙げ、国民がどのような意識を持っているか見てみましょう。

1.政策の優先順位 
 6つの政策課題を挙げて、国が今、最も力を入れて取り組むべきだと思うことを聞いたところ、「景気対策」が25%、「社会保障制度の見直し」が24%、「外交・安全保障」と「原発への対応」がともに12%、「財政再建」が10%、「東日本大震災からの復興」が8%となったようです。

2.経済政策(アベノミクス)への評価
 安倍内閣の経済政策について尋ねたところ、「大いに評価する」が4%、「ある程度評価する」が43%、「あまり評価しない」が37%、「まったく評価しない」が11%でした。さらに景気が回復していると感じるかどうかについては、「感じる」が10%、「感じない」が54%、「どちらともいえない」が33%でした。

3.日銀の追加金融緩和への評価
 日銀が追加の金融緩和を決めたことが、日本経済にどのような与える影響を与えると考えているでしょうか。「良い面の方が大きい」が14%、「悪い面の方が大きい」が20%、「どちらともいえない」が56%でした。

4.食品の値上げと家計への影響について
 最近の食品の値上げが、どの程度、家計の負担になっているか尋ねたところ、「かなり負担になっている」が23%、「ある程度負担になっている」が54%、「あまり負担になっていない」が17%、「まったく負担になっていない」が2%でした。

5.「政治とカネ」をめぐって
 国会議員の「政治とカネ」の問題について、今の国会で議論を続ける必要があるかどうか聞いたところ、「必要がある」が41%、「必要はない」が29%、「どちらともいえない」が22%でした。

6.消費税の再引き上げをめぐって
 安倍首相は、消費税の税率を、来年10月に10%に引き上げるかどうか、年内に判断するとしていますが、どのような判断をすべきか尋ねたところ、「予定通り、来年10月、10%に引き上げる」が20%、「引き上げの時期を遅らせる」が41%、「引き上げをとりやめる」が33%でした。

7.衆議院の解散・総選挙をめぐって
 衆議院の解散・総選挙を行う時期について聞いたところ、「早く行った方がよい」が15%、「当分は行わなくてよい」が26%、「再来年12月の任期満了まで行わなくてよい」が50%でした。
 衆議院の解散・総選挙に関しては国民の4分の3が、このタイミングで行わなくてもよいと考えています。政権交代を託せる野党が見当たらず、現時点では安倍政権の支持が圧倒的です。これが世論調査の不思議なところで、安倍内閣を支持しない人が38%いるのだから、それとほぼ同数の人が政権交代を望んでいるかと思ったら見当違いで、早期解散を求める声は15%にすぎません。
 なお現在自民党内には、「増税を先送りにして解散すべきだ」と主張する人がいます。三党合意で決定済みとはいえ、やはり4分の3の国民は、来年10月からの再増税を望んでいません。そこで「信を問おう」というわけです。国民がこれほど嫌がっているわけですから、増税先送りを唱えれば、自民とは大勝利をおさめることになるでしょう。それは、「政治とカネ」の問題を清算し、仕切り直しすることになります。

 では、仮に解散・総選挙を行った場合、自公政権は現有勢力326(自民・295、公明・31)を維持できるでしょうか。個人的には微妙だと思います。安倍政権は来年、原発再稼働や集団的自衛権に関する法整備など、様々な難しい問題に取り組まなければいけません。こうしたテーマに現有勢力を保ったまま、望む方が有利ではないでしょうか。「近いうちに信を問うべきだ」と主張する勢力がある一方で、「あえて今やらなくても」と思っている人も多いはずです。解散は首相の専権事項。最後に決めるのは、安倍総理です。

広がる「清酒で乾杯」条例の施行 (2)

 「清酒で乾杯」条例」は西宮市とほぼ時を同じくして、私のふるさと三重県伊賀地方でも制定されていました。
  まず私の出身地伊賀市では、2013(平成25)年12月議会で、「伊賀市乾杯条例」が可決・制定されました。条例の趣旨は、伝統産業である伊賀酒と伊賀焼(陶器)の普及が狙いで、市民に協力を呼び掛け、市や事業者には普及に努めるよう求めるということです。蔵元や小売店でつくる伊賀酒類連絡協議会と、伊賀焼振興協同組合が、かねてから市議会に乾杯条例の制定を求める要望書を提出していたのが実を結びました。
 条例の全文は下記のとおりです。

伊賀市乾杯条例(平成25年12月27日条例第56号)
(目的)
第1条 この条例は、市の伝統的な地場産業である伊賀の地酒(以下「伊賀酒」という。)を伊賀焼の器に注いで乾杯する習慣を広めることにより、伊賀酒及び伊賀焼の普及を図るとともに、伝統的な地場産業に対する理解の促進に寄与することを目的とする。
(市の役割)
第2条 市は、伊賀酒を伊賀焼の器に注いで乾杯する習慣を広めるための取組みを推進するよう努めるものとする。
(事業者の役割)
第3条 伊賀酒又は伊賀焼に関係する事業を行う者(以下「事業者」という。)は、伊賀酒を伊賀焼の器に注いで乾杯する習慣を広めるために、市及び他の事業者と相互に協力して取り組むよう努めるものとする。
(市民の協力)
第4条 市民は、伊賀酒を伊賀焼の器に注いで乾杯する習慣を広めるための取組みに協力するよう努めるものとする。
(嗜好等への配慮)
第5条 市、事業者及び市民は、この条例に基づく取組み等を実施するにあたっては、個人の嗜好及び意思を尊重するよう配慮するとともに、自己の健康管理に留意し、交通ルール及び飲酒におけるマナーを遵守しなければならない。
附 則
この条例は、公布の日から施行する。


  さらにお隣の名張市でも、2013(平成25)年12月議会において、「伊賀名張の酒・名酒で乾杯を推進する条例」が可決・制定されています。条例案は名張市議会が同年9月に、市内の地域づくり委員会や名張商工会議所、市内にある4社の酒造場、の3者からの要望を受けて審議してきたものです。市内の酒造業や関連産業の発展などを目指すとともに、地酒による乾杯の習慣を広めることが目的といいます。条例は次のようになっています。

伊賀名張の酒・名酒で乾杯を推進する条例(平成25年12月4日条例第33号)

 名張市は、万葉の時代から農山村地帯が広がる自然に恵まれた地域であり、豊かな自然環境の下で生産される食料を基本に生活を営む中で、恵まれた風土を生かした酒造りが盛んに行われてきました。そして、名張の酒は、私たちの生活や社会活動と密接に繋がる伝統産業として、また、文化として発展してきました。
 そこで、古来の食文化とともに歩んできた名張の伝統的な産業や酒文化を守り、育み、地域文化の発展へと繋げなければなりません。
 ここに、本市は、市、事業者、各種団体及び市民がそれぞれの役割を果たし、自己の健康管理、交通ルールの遵守及び飲酒マナーの認識を深め、名張の酒・名酒による乾杯の普及を促進し、市の経済の振興及び地域文化の発展を図るため、この条例を制定します。
(目的)
第1条 この条例は、伊賀名張の酒(以下「名酒」という。)による乾杯の習慣を広めることにより、酒造業その他関連産業の発展及び郷土愛の醸成を図ることを目的とする。
(市の役割)
第2条 市は、名酒の普及の促進に必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(事業者の役割)
第3条 名酒の生産に関する事業を行う者は、名酒による乾杯の習慣を広め、名酒の普及を促進するために主体的に取り組むとともに、市、他の事業者及び各種団体と相互に協力するよう努めるものとする。
(市民の協力)
第4条 市民は、市、事業者及び各種団体が行う名酒による乾杯の習慣を広め、名酒の普及を促進するための取組に協力するよう努めるものとする。
附 則
この条例は、公布の日から施行する。


 伊賀市と名張市でこうした動きが起こってきた背景には、食生活の洋風化や、酒類の多様化(酒類同士の競争激化)による「日本酒離れ」があります。さらに伊賀地域の酒販売に占める地酒(伊賀酒)の割合は、バブル期(1980年代後半)には、50%を超えていたにもかかわらず、現在では10%程度に落ち込んでいるそうです。規制緩和で酒類を扱う店が増え、全国ブランドの台頭が顕著になってきたためです。つまり、同じ日本酒の中でも、激しい産地間競争が起こっているのです。両市の酒造業者が、議会に働きかけてまで「乾杯条例」の制定を求めたのは、宴会などでの乾杯は、地元産の清酒で行ってもらい、何とか劣勢を挽回したいという強い思いかあったからでしょう。

 今回外的ショックを与えてもらっていなかったら、お酒について調べることはなかったと思います。生まれ故郷の伊賀も、現在生活のベースを置いている西宮も、「日本酒乾杯条例」を制定するほどの名産地なのですから、飲める、飲めないは別にして、もっと早くから関心を持っておくべきでした。
 話は変わりますが、高校野球のシーズンになると、いつも三重県代表を応援しようか、兵庫県代表を応援しようか迷います。お酒の場合も、仮にお酒の好きな人に贈るとしたら、伊賀のお酒と西宮のお酒、どちらを選んだらよいでしょうか。高校野球の応援と同じで、競合関係にあるところが、悩みの種です。

広がる「清酒で乾杯」条例の施行 (1)

 私はこれまで、もっぱらお茶の研究を専業としてきましたので、他の商品についてはあまり詳しく調べたことがありませんでした。ところが今月はじめ、思いがけず西宮とお酒についての原稿執筆を頼まれ、いささか躊躇しましたが、がんばって挑戦することにしました。
 私の指導教授だった柚木学先生は、灘酒造業研究の第一人者でしたから、先生の研究を継いで、私もお酒の研究者になるという選択肢もありました。ところがそもそもお酒を全く飲めない私には、いまひとつ実感がわかず、ふだんから愛飲しているお茶の方を本格的に研究する道を選びました。とはいえ、酒どころ西宮にある関西学院大学に勤めながら、お酒について何も知らないというわけにはゆきませんので、遅ればせながら、文献や新聞記事の収集に全力をあげているところです。
 色々調べているうちに目に留まったのは、酒どころで有名な全国の自治体で、「清酒で乾杯」条例の施行が広がっていることです。私たちの西宮市でも、2013(平成25)年10月1日より、「西宮市清酒の普及の促進に関する条例」が施行されました。条例ではその目的として、「市及び事業者がそれぞれの役割を果たし、市民の協力をもって清酒による乾杯の習慣を広めることにより、清酒の普及を通した日本文化への理解の促進に寄与するとともに、西宮の経済の振興及び文教住宅都市としての発展
を図ること」と述べられています。なお条例は次のようになっています。

西宮市清酒の普及の促進に関する条例
(市の役割)
第1条 市は、清酒による乾杯の奨励その他の清酒の普及の促進に必要な措置を講じるよう努めるものとする。
(事業者の役割)
第2条 清酒の製造を業として行う事業者は、清酒の普及の促進に主体的に取り組むよう努めるものとする。
2 前項の事業者以外の事業者は、市及び同項の事業者が行う清酒の普及の促進に関する取組に参加するよう努めるものとする。
(市民の協力)
第3条 市民は、前条第2項の取組に協力するよう努めるものとする。
付 則
この条例は、平成25年10月1日から施行する。

第2次安倍改造内閣 地方と女性を重視する政策を展開

 いよいよ秋学期の講義開始が近づいてきました。この夏休みは本当に忙しく、どこへも出かけることができないまま、秋学期を迎えることになります。講義が始まると、90分間話せるネタを持って講義に行かなければいけません。毎週6種類、違う話題を準備してゆくのはつらいことです。しかし覚悟を決めて乗り切るほかありません。
 さて月曜2限には、新設で「現代日本経済史」を開講します。できるだけホットな経済問題を取り上げるつもりですが、何といっても安倍政権が打ち出す政策について、詳しくお話ししようと考えています。
 第2次安倍改造内閣においては、アベノミクスや外交・安全保障政策はこれまでの路線を継承し、新規政策として、高齢化、人口減少に直面して疲弊の著しい地方活性化を目指す「地方創生」を重要課題に掲げ、幹事長として地方との結びつきの強かった石破茂氏を担当大臣としました。いまひとつ重要なのは、有村治子氏を「女性活躍」担当大臣とし、「女性重視」の姿勢を打ち出したことです。安倍政権は、「2020年までに指導的立場の女性を3割に」という目標を掲げています。ちなみに女性閣僚は、過去最多だった第1次小泉政権と並ぶ5名となりました。そして政調会長の稲田朋美氏を加えると、内閣と党の要職に6名の女性を起用したことになります。この人事も、従来には見られなかったことといえます。
 今回の内閣改造において、とりわけ「地方」と「女性」に配慮したのは、内閣支持率の低下に歯止めをかけるためだと考えられます。改造前から安倍内閣の支持率に低下の兆しがあらわれていましたが、その大きな要因が「地方離れ」、「女性離れ」でした。まず「地方離れ」の原因は、アベノミクス効果が地方の隅々にまで行き渡らず、都市部との格差は広がる一方という状態が続いていることです。地方には、地元の厳しい経済状況を何とかしてほしいという不満が充満しているのです。
 加えて女性の支持率の大幅低下にも危機感を覚えているようです。これは集団的自衛権の問題が強く影響していると思われます。首相は、「お母さんや子ども達の命を守るために必要だ」とくり返し訴えてきましたが、現時点では女性の支持が得られていないように感じられます。
 地方創生、女性活躍双方とも、幅広い要望を受け止めて具体的な政策として進める力が必要です。しかし石破氏と有村氏は担当大臣で、足場になる省庁がないため、どこまで成果を出せるかは、注意して見てゆかなければいけません。

社会再生学会第12回研究会を行いました (3)

 今回の研究会の3人目の報告者は西村正美さんで、「東日本大震災が及ぼした原発事故と将来への原発のあり方について  廚搬蠅靴届誕蠶鷆,靴討い燭世ました。西村さんは、経済学部生の長澤公大君とともに、「社会再生学会のブログ」へ頻繁に記事を投稿し、活動を支えてくださっています。西村さんの記事は、政治・経済・外交にまつわるものが主流で、現在は特に「株高」に隠されて私たちが見過ごしがちな問題を取り上げ、証拠となる事実を丁寧に積み重ねながら、説得的な見解を述べられるところに特徴があります。一方の長澤君も、入会以来精力的に投稿し、ブログを盛り上げるのに大貢献してくれています。長澤君の記事は、身近な出来事とスポーツが中心で、今の大学生の生活や、考えていることがよくわかり、興味深いです。特別勉強会が終わると、すぐにレポート記事を書いてくれるのも嬉しいことです。ある日の記事に、「新聞をガンガン読み倒す」という部分があったのですが、「無制限一本勝負」の過酷な勉強会の雰囲気を伝えるのにぴったりで、感心しました。誰かに私のゼミでやっていることを話さなければいけないシーンでは、毎回拝借させてもらい、「大げさ表現」による爆笑を100%の確率で誘発しています。
 なお「社会再生学会のブログ」へは、左欄のリンク集からすぐに移っていただくことができます。私も含め、社会再生学会で活発に活動しているメンバーの意見交換や近況報告の場となっていますので、いつもこの「日記」へ訪問してくださっている方には、合わせてお目通しいただけましたらありがたいです。
 

伊賀市出身者が設立したユニーク企業 −安永− (2)

 1960年代後半以降、ミシンアームベッド事業が衰勢に傾く中で、同社は新分野の開拓をはかり、現在の主力部門の原型を形成してゆきました。
 1972(昭和47)年5月には、エアーポンプの生産を開始しています。エアーポンプは浄化槽のほか気泡洗浄装置など産業用機器、エアベッドに代表される医療用器具などに用いられています。
 1975(昭和50)年2月には、ワイヤソーの生産に乗り出しました。独自技術によって脆くて硬い素材をより薄く精密に大量切断でき、太陽電池やLED、パワー半導体生産に利用されています。
 1982(昭和57)年11月西明寺工場を完成させ、自動車エンジン部品工場として操業を開始しました。5Cと呼ばれる自動車基幹部品(コネクティングロッド、シリンダーヘッド、シリンダーブロック、カムシャフト、クランクシャフト)を顧客ニーズに応じて生産しています。
 さらに1987(昭和62)年2月には、検査測定装置の生産に乗り出しています。同社の検査測定装置は、光学センシング技術と画像処理技術を軸とし、半導体デバイス製造、各種電子部品の精密検査分野において活用されているようです。
 以上の技術は、ミシンアームベッドの精密加工技術を基礎に、より複雑化、高度化したものといえます。
 同社は1988(昭和63)年4月、株式会社安永鉄工所から株式会社安永に商号を変更し、96(平成8)年、大阪証券取引所市場第二部へ上場を果たしています。そしてつい最近ですが、2014(平成26)年6月、東京証券取引所市場第一部に指定替えされ、今日に至っています。
 なお安永のホームページは、下記のリンクをご参照ください。

安永

伊賀市出身者が設立したユニーク企業 −安永− (1)

 連日酷暑が続いており、研究室のすぐ近くにあるローソンへ買い出しに出かけるのさえ億劫です。私は依然として定期試験の採点に悪戦苦闘しています。結局自分のところに跳ね返ってくるのに、どうして学生たちの顰蹙を買うほどたくさんの設問を作ってしまったのかと反省しています。たくさん書き過ぎて、手が動かなくなったという厳しいご批判も寄せられ、申し訳ないことをしたと思っています。
 息抜きも兼ねて、今日は以前から調べている伊賀市の企業について少し書きたいと思います。
 伊賀市に大きな工場を持つ名の通った企業はほとんど本社が他府県にあり、誘致によって伊賀市に定着したという特徴があります。当然創業者も伊賀市出身ではありません。しかしこうした中、伊賀市で誕生し、今日に至るまでユニークな事業を展開する企業も見受けられます。その代表例が安永です。
 安永はエンジン部品やその加工設備、エアーポンプ、ワイヤソー、検査測定装置の製造・販売を手掛ける企業です。1923(大正12)年、安永芳房が安永鉄工所として設立しました。私の祖母が生まれたのと同じ年なのですぐに覚えられます。設立当初は農機具の製造・修理を行っていました。
 終戦後1947(昭和22)年、戦後復興の中で衣類を家庭で作る機運が高まったため、ミシンアームベッドの生産を開始しました。製品の精度を高めるため、1950(昭和25)年、治具(=工作物の所定の位置に刃物を案内する工具)工場を設立し、自給自足体制を整えます。
 1952(昭和27)年、電産(日本電気産業労働組合)・炭労(日本炭鉱労働組合)ストの影響で電力事情が悪化しました。鋳造炉の燃料であった石炭が入手困難に陥り、ミシンアームベッドの生産に大きな打撃を与えました。社内で対応を検討した結果、ミシンアームベッドの材料を自前で賄うことになり、京都の宮田鋳造所より技師を招聘して鋳造技術を確立し、翌年より銑鉄鋳物の生産を開始しました。こうして鋳物原料の安定確保が実現し、鋳物材料から機械加工までの一貫生産体制が確立されたのです。同年(1953)年7月には、鋳造部門を分離し、株式会社安永鋳造所を設立し、鋳物事業を確固たるものとしました。
 1958(昭和33)年から始まった岩戸景気、60(同35)年における池田勇人内閣の「所得倍増計画」の閣議決定に象徴される時期、日本経済は順調な発展を示しました。好況の恩恵を受けてミシンアームベッドはじめ治具、各種機械部品に対する需要も急増したため市街地に立地していた工場が手狭になってきました。こうした折1959(昭和34)年、上野市の産業振興と市勢発展を目指して工場誘致条例が公布され、同社は上野市緑ヶ丘に一万坪の工場用地を確保しました。そして同年11月よりミシンアームベッドの生産を開始しました。その後も工場の拡充を推進し、63(同38)年本社機能も上野市平野馬場先から緑ヶ丘に移転しました。
 同社のミシンアームベッド事業は1965(昭和40)年売上高7億8,351万円を記録し、ピークを迎えました。しかしその後途上国の追い上げが激しくなり、売上は一進一退を繰り返しながら下降線をたどることになります。こうした中ついに1972(昭和47)年ミシンアームベッド事業からの撤退を決断し、74(同49)年、生産・販売中止のやむなきに至りました。

国際情勢が緊迫する中、武器輸出が行われる

 国際情勢が大変緊迫しています。乗客・乗員約300名を乗せたマレーシア航空機が、日本時間17日午後11時15分頃、ウクライナ東部上空で撃墜されました。撃墜には、地対空ミサイルが用いられたようです。真相はまだ明らかにされていませんが、ウクライナ政府は親ロシア派の武装集団が撃墜したと強く非難しています。一方親ロシア派は、ウクライナ軍が撃墜したものだと反論しています。そもそも、ウクライナ政府軍と独立を求める武装勢力の対立がなければ、このような悲劇も起こっていなかったはずです。
 中東情勢に目を向けると、イスラエルとイスラム組織ハマスの対立が激しさを増すばかりです。同日イスラエル軍は、パレスチナ自治区のガザ地区に地上侵攻を開始し、大規模な交戦によって多数の死者が出ているということです。
 心が痛むのはどちらの場合も、何の罪もない一般人が犠牲になっていることです。これが戦争の悲惨さです。また技術の発展に歩調を合わせ、武器の殺戮能力がどんどん高度化しているのも恐ろしいことです。こうした中、日本製の武器が海外に輸出されることになりました。報道によると、アメリカ防総省は14日、総額110億ドルの防衛装備品をカタールに売却することで合意したと発表したのですが、これには日本から調達する部品を使った迎撃ミサイルを含んでいるそうです。安倍政権は4月、防衛装備移転三原則を閣議決定し、日本は外国への武器輸出をできるようになりましたが、その最初の案件となります。
 アベノミクスでは官民一体で武器輸出も積極的に行おうとしています。軍事産業は戦争が起こるほどよく儲かります。武器を売って儲けようとする発想自体が受け入れられません。さらにこんなことを始めたら、日本で作った武器が紛争国へ流出してゆく可能性があり、紛争を助長することになります。全く誤った政策で、憤りを感じます。
 安倍政権の諸政策で、日本はどんどん戦争に巻き込まれやすくなっています。日本が果たすべき役割は、中立国として人道支援に徹することだと考えます。

安倍内閣、集団的自衛権行使容認

 政府は昨日1日の臨時閣議において、集団的自衛権を使えるようにするため、憲法解釈の変更を決定しました。
集団的自衛権とは、たとえばアメリカのように、日本と密接な関係にある国が攻撃を受けた場合、日本が直接攻められてるわけではありませんが、武力を使って反撃する権利をいいます。日本は戦後70年にわたり、憲法第9条の解釈で、集団的自衛の行使を禁じてきました。。「専守防衛」の基本理念を守ってきた日本が、今後は直接攻撃を受けていなくても、他国の戦争に関与できようになります。
 閣議決定の要点は、次のとおりです。
 ます集団的自衛権を含む武力行使を認める新たな3要件を規定しました。それらは、〔接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、国民の生命・自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある、国民を守るために他に適当な手段がない、I要最小限度の実力行使です。
 さらに国連平和維持活動(PKO)における「駆けつけ警護」や邦人救出での武器使用が可能になります。
 加えて有事に至らない「グレーゾーン事態」に対処するため、自衛隊の出動手続を迅速にします。
 私はこの閣議決定に、多くの疑問を感じています。何よりも憲法9条の解釈を改める必要性と手続きの問題です。日本が今一番警戒しなければいけないのは、北朝鮮の核やミサイル開発の問題です。この問題に対する有効な解決策は、韓国や中国との協力関係を緊密にすることではないかと思います。しかしこの閣議決定は、関係が冷え込んでしまっている両国との溝を一段と深めることにはならないでしょうか。
 また日本国憲法の根幹である平和主義の原則が、一部政治家の意向だけで強引にねじ曲げられてよいのかと思いました。そもそも多数の国民の合意事項にはなっていません。どうしても今このタイミングで変更の必要があるというのなら、憲法96条の手続きに則り、最終的には国民投票で了解を得るべきです。
 7月1日を境に、自衛隊は「日本を守るために戦う」と思ってきた私たちの常識が覆ることになりました。今後自衛隊は海外に出て、誰かを殺し、誰かから殺されるという場面に遭遇することがあり得ます。多くの日本人がその覚悟を持ち、1日の閣議決定に納得しているとは、到底思えません。

グレーゾーン事態について考える

 集団的自衛権の行使容認をめぐる問題が、最近の政治・外交問題のメインになっているといっても過言ではありません。与党協議では、自民党は憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使できるようにしたいと考えていますが、公明党は憲法解釈変更に慎重な態度を示しています。現在のところ、ズバリ集団的自衛権についての議論は先送りにして、いわゆるグレーゾーンへ事態の対応についての協議が行われています。
 さてグレーゾーン事態とは、武力攻撃とまではいえない主権侵害に対し、自衛隊が迅速に対応できるかどうかはっきりしないケースのことです。政府は具体的に、尖閣諸島に武装した漁民が上陸したというケースを想定しています。通常は海上保安庁や警察が対処しますが、仮に漁民が大がかりな武器を所持していたらどうでしょうか。海上保安庁や警察では対処しきれず、自衛隊が出動せざるをえません。自衛隊の出動には、まず「防衛出動」があります。しかし上記の事例は、「防衛出動」をしなければいけないほど、重大な問題とはいえません。一方「治安出動」という方法もありますが、これは警察権が準用されるため、十分な効果があるか不透明です。「防衛」と「治安」の中間にあるまさに「グレーゾーン事態」が発生したとき、迅速に対処するためどのような方法があるか、検討されているのです。自衛隊法を改正し、新たに「領海警備」の任務を与える案や、従来の「治安出動」と「海上警備行動」の閣議決定を事前に済ませ、首相に権限を付与しておく案などが検討されています。
 もっとも自衛隊が強く前面に出た場合、中国などが警戒感を高め、日中関係が一段と悪化するという懸念は払拭できません。また漁民を装った武装集団が日本の離島に上陸した事例はなく、想定自体が非現実的であるという意見も聞かれます。

佐賀県茶業史の研究に取り組んでいます

 今年度は佐賀に佐賀・茶学会を設立し、本格的に活動を始めた記念の年度になりました。専門研究者ばかりではなく、市民も一緒にお茶をあらゆる角度から総合的に研究し、成果を発表することが設立の理念です。既存の諸学会でも茶は取り上げられてきましたが、研究分野が限定されすぎていて、少しでも自分の関心を外れると理解できず、全体像が見えにくいところがありました。またそのために、異分野の研究者の交流があまり進まなかった面も否定できません。こうした弊害を突破するため、全国ではじめて佐賀の地に佐賀・茶学会が設立されたのは、画期的なことだと思います。なお佐賀・茶学会の「佐賀」の意味は、佐賀に本部があることをあらわすだけで、佐賀を含む全国のお茶が研究対象となります。学会設立には私も少しだけ関わりましたので、自分が理想とする「居場所」ができたのは嬉しいかぎりです。
 上記のような経緯もあり、今年度は佐賀県茶業史の研究に力が入りました。佐賀茶業の中心地である嬉野地域の歴史と釜炒り製法の特色、明治期茶が輸出商品として脚光を浴びた時期における茶業振興への取組とその帰結、近年リーフ緑茶離れが進む中で、佐賀茶業をいかに活性化するか、茶業経営、流通面での諸課題の解決、消費拡大のための方策といった観点から種々検討しました。
 また本年度は特別研究期間を与えられたため、研究報告や実地調査の機会に恵まれました。研究報告に関しては、 2013年5月11日の「佐賀・茶学会」設立総会時のセミナーにおいて、「茶業研究の諸課題」というテーマで報告し、 9月21日には「戦前における日本茶業 −輸出の役割を中心に−」 と題して、佐賀・茶学会 第3回「佐賀県茶業史研究会で発表しました。さらに2014年2月13日には、嬉野市に出向き、佐賀県茶業振興大会において「茶業活性化・喫茶文化振興を目指して −フードシステムの視点から−」 というタイトルで、茶業関係者を対象に講演を行いました。
 元佐賀県茶業試験場・場長の村岡実先生のご厚意で、お茶にゆかりのある地を方々回れたことも大きな収穫でした。栄西が宋への留学から帰国した際にたどり着いた平戸、茶の周辺文化である「やきもの」の歴史や作風を学ぶことができる九州陶磁文化会館、秀吉が催した名護屋城における茶会の様子を明らかにできる名護屋城博物館などの実地見学は、佐賀県茶業史研究の促進に直結しました。
 佐賀のことがわかってくると、より広範囲に色々なことを調べたくなるものです。例えば、江戸時代初期以降における有明海の干拓事業、19世紀半ば、藩主・鍋島直正が推進した財政再建や有田焼・茶・石炭など特産品の振興、近代に入ってからは大隈重信らによる明治新政府の基盤整備などが挙げられますが、これらはすべて日本経済史研究の重要なトピックスです。お茶と並行して、未開拓の資料を探し当て、新事実が発見できるよう全力を尽くしたいと思います。

伊賀市の企業史について調べています

 今年度は特別研究期間を利用して、郷里伊賀市の企業史を調べました。伊賀市へは関学へ来てからあまり帰省する機会がなくなりましたが、中学3年生まで過ごした「ふるさと」ですから、やはり愛着があります。何度か戻った際には、人間の家族以上に強い信頼関係で結ばれ、大の仲良しだった愛犬との散歩道も通ってみました。以前とずいぶん光景が変わっていましたが、いつも相手になってくれ、一緒に楽しく過ごした思い出がよみがえり、懐かしい気持ちになりました。
 『伊賀市史』編纂の役割もありましたので、私は伊賀市における製造業の展開と地域経済に与えた影響に焦点を当てました。最初に全体像を把握するため、名阪国道の開通によって沿線のインフラ整備が進められ、工場誘致が活発化してゆく過程を主として『上野市広報』を手がかりにまとめました。
 続いて高度成長期以降伊賀地域に定着した企業に関し、当該企業の社史を吟味し、日経テレコンで関連記事を収集し、経過を詳細に分析しました。
 伊賀地域における最初の近代工業出現は伊奈製陶(現在のリクシル)でした。「低開発地域工業開発促進法」の適用を受け、上野市に工場進出を決定した背景について種々検討しました。1970年代半ばにおいては、自動車部品メーカーの大金製作所(現在のエクセディ)の工場設立と事業拡大の過程をみました。また森精機にも注目しました。森精機は奈良でメリヤス機械の町工場として出発しましたが、産業界の合理化・省力化投資の推進に歩調を合わせ、伊賀工場を中心にNC旋盤、MC生産を拡大してゆきます。そのプロセスを検証しました。
 一方上記3社とは性格が異なりますが、旭ダイヤモンドについても詳しく研究しました。旭ダイヤモンドは戦時経済下において軍需の高まりからダイヤモンド工具への需要が急伸し、そのニーズを背景に堅調に業績を拡大してゆきました。中心的な役割を果たしたのが上野工場でした。工場建設地に上野市が選ばれたのは、空襲を回避するためだったからです。上野工場は現在では三重工場と名称変更されていますが、戦後も同社の主力工場として規模拡大をともないながら、発展を続けています。
 その他、現在では消滅してしまった企業も取り上げましたが、戦時期から現在に至るまでの伊賀市の主要企業(製造業)の沿革、事業内容、地域経済に与えた影響などについて分析しました。
 ブログをご覧のみなさんは、伊賀市といえば「忍者の里」を思い浮かべられるかもしれません。しかし名阪国道開通後は、大阪にも名古屋にも近いという立地条件を積極的にアピールした結果、全国的に有名な企業やその系列会社が続々と進出してきました。その意味で、経済的にみるとかなり大規模な「製造業の町」と位置付けるのが正しい認識だと思います。

中国の軍事的台頭に対する懸念

 予告どおり3月16日、社会再生学会の第10回研究会で報告するため、準備を進めています。前回2月16日に行った第9回研究会では、1ヶ月もあれば、すでに種を蒔いてある5テーマくらいは完全な原稿を書けるだろうと意気込んでいたのですが、実際どうにか体裁が整ったのは、「尖閣・竹島問題」だけでした。本や新聞記事を読んで自分の頭の中で何となく理解できたという段階と、メモを文章形式に改め、みなさんの前で発表できる段階の間には、簡単に乗り越えられない壁が立ちはだかっていることを痛感します。
 ところで私たちの研究会は、今度16日の会合で節目となる10回目を迎えます。2012年7月に会を立ち上げたときは、まず10回を目標にしようと決意を固めたのですが、第一ステップの目標達成は確実となり、感慨無量です。みなさんそれぞれにご予定があり、お忙しくされている中都合をつけ、活動を支えてくださったことを嬉しく思っています。そして参加者のみなさんとの活発な意見交換は、私にとって、政治・経済・外交問題の分析力を鍛える格好の場となりました。次は手堅く20回目を目指したいところです。
 今日の話題は中国の軍事的台頭についてです。本日(3月5日)発表された中国の2014年国防予算は、前年比12.2%増の8,082億3,000万元(約13兆4,000億円)にのぼりました。ちなみに、日本の2014年度予算案の防衛費は約4兆8,800億円であり、2.7倍の規模です。伸び率は4年連続で2ケタを記録しました。とりわけ海洋進出と制空権強化を重視したものと考えられます。
 すなわち中国では2012(平成24)年より空母「遼寧」が就役し、現在は2隻目として初の国産空母を開発中であるといいます。一方、2013(平成25)年11月には、東シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定するなど、制空権強化を目指していることも明白です。
 李克強首相は2014年3月5日の全人代の演説の中で、「我々は第二次世界大戦の勝利の成果と戦後の国際秩序を守り抜き、歴史の流れを逆行させることを決して許さない」と、歴史問題に言及しています。そして2013(平成25)年12月における安倍晋三首相の靖国参拝を意識し、日本の「右傾化」を盛んに宣伝しようとしています。

株高に隠された日本が抱える諸問題 (2) (小林弘嗣さんからの問題提起)

 2月も最終日となりました。多少寒さが和らいできて助かります。今年度は、ぐったり倒れ込むほど暑い夏と、凍えそうなくらい寒い冬を経験し、体の調子を狂わされてしまい、大変だったと思います。
 今日は以前JR西日本から派遣され、関学へ勉強に来られていた安丸貴之さんが久しぶりに研究室を訪ねてくださり、話がはずみました。先般は遠く静岡から小林さん、今日は貴重な休日を割いて安丸さんと、ふだん接する機会が少なくても、気にかけてくださっている人がいるのは、ありがたいことです。こういった親密なつながりこそが、私の幸福の源泉です。
 さて今日も小林さんの問題提起を続けます。
ぁ)賃腓聞颪亮擽發鬚海里泙淙任してよいのか。
→ ご承知のとおり2013年末の国の借金残高は、1,079兆9,459億円です。国民ひとりあたり換算で、約800万円です。消費税を上げても、景気対策といって際限なく支出を増やしていたら、借金が減るはずがありません。支出を精査し、効果の期待できそうにないものは削るという意識が全く感じられません。国民に負担増を強いる一方で、政府がムダを省く姿勢を示さないのなら、いずれ信頼を失うでしょう。
ァ々睥隹充匆颪貌容するなかで、医療・年金・福祉に対する備えは万全か。
→ 消費税増税は、社会保障の充実のためであったはずです。ところが、「社会保障保障制度を持続可能なものにする」といったありふれたキャッチフレーズを唱えるだけで、具体的な制度設計は全く示されていません。非常に歯がゆい気持ちです。
Αー民党一強・野党多弱体制。野党はどのような役割を果たすべきか。
→ 社会再生学会でも問題になりましたが、野党は自民党の数の力で圧倒され、打つ手なしでふがいない状況です。一番いけないのは、私たち国民が政治・経済・外交が抱える問題点を見極められず、与党の暴走を許してしまうことです。
 小林さんのコメントと社会再生学会の西村さんの論稿が時を同じくして手元に届き、論調が驚くほどぴったりなことに、私は意を強くしました。お2人は、一見順調に見える経済の問題点を、的確に指摘されています。こうしたまっとうな言説が浸透し、市民パワーで経済・社会がよりよい方向に向かうことを願うばかりです。

株高に隠された日本が抱える諸問題 (1) (小林弘嗣さんからの問題提起)

 いつもお世話になっている全茶連情報・編集長の小林弘嗣さんから先般激励のお便りをkただき、大変元気が出てきました。お住まいが静岡なので日頃簡単にお会いすることはできませんが、昨年11月、宇治で開催された全国お茶まちづくりカレッジにおいて、ともにコメンテーターを務め、久しぶりでお目にかかりました。(昨年11月17日のブログをご参照ください。)
 小林さんはお茶に限らず、食や農、地域経済、さらには政治・経済・外交に至るまで、目についた有益な情報をいつもお知らせくださり、私の研究を強力にご支援くださっています。先般は多摩大学学長の寺島実郎氏が新年に静岡で行った講演の記録をお送りくださり、色々なことを学ばせていただきました。
 さて小林さんが送ってくださった資料に添えられていたお手紙の中に、ちょうど私たちが社会再生学会で議論しているのと同じような日本が抱えている課題が指摘されていました。ブログをご覧のみなさんにも是非お読みいただき、問題意識を共有できればと思います。
 以下では小林さんがご指摘くださった問題点を箇条書き方式でご紹介し、私のコメントも併記したいと思います。
 ヽ高によって、本来解決しなければいけない日本の問題点が隠されてしまっているのではないか。
→ 全く偶然ですが、社会再生学会の西村正美さんも同じ指摘をされています。2月18日付の社会再生学会のブログをご参照ください。私たちは高株価を維持できれば、経済が抱える問題点をすべて解決したことになると錯覚していないでしょうか?
◆^打楡権成立後の株高は、ほんの一部の富裕層によるマネーゲームの結果にすぎないのではないか?
→ 野田政権が解散を表明したとたん、安倍政権が何もしないうちから株価が急上昇したのが不思議です。私はこのときから株価と実体経済の乖離が始まったと感じています。「大胆な金融緩和」はヘッジファンドにマネーゲームの場を提供したというご指摘にも同感です。日経平均株価が1日のうちに300円以上上下することも珍しくありません。「企業を育てるために株を買う」という投資家は育たず、短期売買で利鞘をとる危険なギャンブルの様相を呈しています。
 大企業と中小・零細企業、正規雇用と非正規雇用の格差がますます拡大しているが、有効な対策が講じられていない。
→ アベノミクスの基本的発想は、強者が一層強くなれば、そこで蓄えられた富は、やがて貧しい階層にもおりてゆくというものです。今健全な景気回復が進行しているのならその期待もできますが、巨額の資金を動かすヘッジファンドが資金を引き揚げ、株価が暴落したら経済は甚大な打撃を蒙るでしょう。すぐに成果があらわれなくても、経済基盤を強固にする政策を積み重ねるべきです。

嬉野茶に関する文化財の整理を提案

 先般佐賀県の嬉野市へ講演にお招きいただき、現地をご案内いただきました。1926年10月天然記念物に指定された大チャノキ(推定樹齢300年以上といわれ、最大のもので根回り38cmの樹幹が30数本成長し、枝張りは8m、樹高4mにもなる巨木)に圧倒され、絵はがきになりそうな素晴らしい茶園の景観も楽しませていただきました。2016年4月には、「うれしの茶交流館」がオープンし、「うれしの茶」に関する歴史資料展示や体験用観光茶園が企画されているそうです。
 嬉野は歴史ある茶産地であり、全国的にみても数少ないお茶の博物館の建設が予定されているということですので、私は講演の際、文化庁のカテゴリーを参考に、嬉野茶に関する文化財の整理を提案しました。
 文化庁は文化財を次のカテゴリーに分類しています。
 〕形文化財
 歴史的、芸術的、学術的価値の高い建造物、工芸品、彫刻、書跡、典籍、古文書、考古資料、歴史資料など。
◆〔儀訴顕什
 演劇、音楽、工芸技術など、無形の文化的所産で、歴史的、芸術的価値の高いもの。無形文化財は,人間の「わざ」そのものといえる。
 民俗文化財
 衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能およびこれらに用いられる衣服、器具、家屋、その他の物件など、人々が日常生活の中で生み出し、継承してきた有形・無形の伝承で人々の生活の推移を示すもの。
ぁゝ念物
ア 貝塚、古墳、都城跡、城跡旧宅等の遺跡で、我が国にとって歴史上または学術上価値の高いもの。
イ 庭園,橋梁,峡谷,海浜,山岳等の名勝地で我が国にとって芸術上または鑑賞上価値の高いもの。
ウ 動物、植物及び地質鉱物で我が国にとって学術上価値の高いもの
 国は,これらの記念物のうち重要なものをこの種類に従って,「史跡」、「名勝」、「天然記念物」に指定し、これらの保護を図っている。そのうち特に重要なものについては,それぞれ「特別史跡」、「特別名勝」、「特別天然記念物」に指定している。前述のとおり、嬉野の大チャノキは、1926年10月天然記念物に指定された。
ァ(顕重景観
 地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの。例えば宇治の文化的景観。
Α‥租的建造物群保存地区
 城下町、宿場町、門前町など歴史的な集落・町並み。
 講演では以上の分類にしたがって、嬉野茶に関する文化財を整理し、冊子を作成したり、ホームページ等で紹介することにより、一段とブランド力が高まるのではないかと指摘しました。

森精機のセル生産方式に学ぶ多能工育成の重要さ

 このブログで時々話題提供していますが、現在私は伊賀市の市史編纂の仕事で、郷里の企業について調べています。日経テレコンで1970年代後半から現在までの記事を丹念に拾ってゆくと、工作機械メーカー大手の森精機が伊賀工場を主力工場とし、大規模な設備投資を繰り返し生産能力を高め、工程の絶え間ない効率化を推進し、発展していった経過がよくわかりました。森精機は1948(昭和23)年、奈良県大和郡山市においてメリヤス機械の町工場として出発した会社ですが、産業界が競争力強化のため、合理化・省力化投資拡大をはかる波に乗り、顧客ニーズに合致したNC(数値制御)旋盤MC(マシニングセンター)の生産に転換をはかり、見事に成功をおさめました。
 森精機のイノベーションで特に印象に残ったのは、2002(平成14)年に導入されたセル生産です。セル生産とは、製品組み立ての大半をひとりないし数人でこなす方式です。従来は工程ごとに専門工が作業する方式をとっていましたが、これでは最低工程の数だけ日数がかかり、効率が悪くなってしまいます。しかし少人数ですべての工程で作業すれば、大幅な時間短縮が可能となりました。新たなラインを新設せず、設備の改良ができるメリットもあります。
 もっともこの方式がスムーズに進捗するためには、ひとりの技術者が異なる工程に対応できる技術を身につけなければなりません。森精機では時間に余裕ができる需要減退期を利用し、多能工の育成に尽力したそうです。
 この記事を読んで、私も経済学の全分野ができる「多能工」でありたいと思いました。理論経済学、日本経済論、経済史等々経済学を構成する諸分野に明るくなり、「経済学」という機械をひとりで組み立てられるようにトレーニングを重ねたいものです。現時点では小さな部品さえ、満足に扱えていません。森精機のセル生産に触発され、経済学研究の幅を広げ、特定のテーマをより深く掘り下げて研究しなければいけないと感じました。

逆資産効果

 今日4日の日経平均株価は、4日続落し、終値は前日比610円66銭安の1万4,008円47銭で取引を終えました。1万4,000円台割れは免れましたが、2013年10月8日(1万3,894円61銭)以来ほぼ4ヶ月ぶりの安値を付けたことになります。昨年の大納会では、1万6,291円31銭をつけたのに、わずか1ヶ月あまりのうちに、2,282円84銭の下落(下落率約14%)を記録したことになります。
 昨年の反動で調整が長引くと厄介なことになります。株価の継続的下落が経済に与える影響のことを逆資産効果といいます。すなわち土地、株式、ビル、住宅、ゴルフ会員権など資産価格が持続的に下落している状況で株式や土地を保有し続けると、含み損が拡大します。含み損の拡大は個人や企業の資産内容の悪化を意味しますので、資金調達が難しくなり、消費や投資を抑制することになります。
 一方損失を覚悟で売却すれば値下がり損が発生します。昨年の大納会で、1,000万円の価値があった株式は今日の終値(14%下落)で売ったら、140万円の損失が生じたことになります。このとき人々は140万円の損失を取り戻すまで消費を控えると思われますし、心理的なダメージも大きいでしょう。消費および投資がGDPに占める割合は80%を超えており、4月以降は消費税率が引き上げられますので、両者の縮小は景気に大きなダメージを与えかねません。
 昨年株価が順調に上昇してきた結果(上昇率57%)、上記のシナリオとは反対の効果が期待できました。まず含み益の増大は、資産内容の好転を意味し、銀行は融資を活発に行うようになって、消費、投資を促進します。一方、売却して大きな売却益を得た人もたくさんいるでしょう。値上がり益(キャピタルゲイン)を得る人が増えると、消費に火がつきます。百貨店で高額品がよく売れたという話は、みなさん耳にされたと思います。このような経済効果のことを、資産効果といいます。
 ただ私は資産効果は怖い麻薬だという気がします。株の売り買いだけで大儲けできたら、これほど楽なことはありません。真面目に働いてコスト削減努力や製品の改善を行うのはバカらしくなります。勤勉さを失い、誰もがマネーゲームに走ります。市場にあふれかえった投機マネーが、本来の経済の姿を大きくゆがめ、経済の実体からかけ離れた株価や地価を形成します。その矛盾の爆発が、日本の「失われた20年」であり、アメリカの「リーマンショック」だったといえます。傷が深くなる前に、アベノミクスの再考が必要です。

第186通常国会召集

 今日24日、第186通常国会が召集され、安倍晋三首相の施政方針演説がありました。首相は今国会を「好循環実現国会」と位置付け、経済最優先の政策運営を訴えました。具体的には、企業収益の向上を雇用の一層の拡大と所得の上昇につなげ、消費を拡大し、一層の好景気を実現すようとするシナリオです。成長戦略として、医療や、子育て、教育、農政など多様な分野において、規制の見直しを行ってゆくとアピールしました。
 私は安倍内閣の高支持率の源泉は、円安・株高によってマクロの経済指標が改善していることだと思います。マクロ経済指標の改善はいずれミクロ面にも波及し、賃金も上向いてくるだろうという「期待感」で支えられています。多くの国民は、「景気が回復してきた」という実感はないのですが、「いずれ景気が回復するだろう」という期待でアベノミクスは持ちこたえているのです。
 ところがこの期待は長続きするでしょうか。消費税の引き上げで景気が悪化し、企業は賃上げどころではなくなってしまいます。一方の家計は、間違いなく消費税アップ分だけ負担が重くなります。給料は思ったとうに上がらず、電気代・ガス代・ガソリン代・食料費などが大きく上がり、実質的に生活水準が下がれば、アベノミクスへの期待は失望に変わり、「好循環」のシナリオが実現できなくなってしまいます。
 消費税率が8%に上がることによる景気の落ち込みを防ぐため、政府与党は、2月上旬に13年度補正、3月末までに14年度当初予算の成立を目指しています。総額100兆円を超える「15ヶ月予算」で景気減速を乗り切る構えです。

沖縄県名護市長選、現職稲嶺進氏再選

 沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場を名護市辺野古へ移設するかどうかの賛否が最大の争点となった沖縄県名護市長選が昨日19日行われ、移設に反対する現職の稲嶺進氏が、移設推進を掲げた新顔の前自民県議、末松文信を破り、再選を果たしました。当日有権者数は4万6,582人、投票率は76.71%の開票結果は、稲嶺氏1万9,839票に対し、末松氏1万5,684票と、4,000票余りの差がつき、「辺野古NO」の強い民意が示されたことになります。
 安倍政権は当初から、辺野古への移設に向けて準備を進めていました。まず県選出の国会議員を容認派に転じさせました。そして末松文信氏に市長選候補を一本化しています。また2014年度の沖縄振興計画では、概算要求を上回る3,460億円を計上し、オスプレイの県外拠点への配備など、基地負担軽減策も表明しました。こうした動きを受けて、2013年12月25日、安倍首相と仲井真弘多が会談し、27日、知事は 辺野古沿岸部の埋め立て申請を承認したのです。そして名護市長選において、反対派の現職が再選された場合でも、辺野古への移設計画を進める方針を示しました。選挙直前には、末松氏の応援に入った自民党の石破幹事長が、500億円規模の名護市振興基金を立ち上げる考えを明らかにしました。
 それでも名護市民は基地にNOの意思表示をしました。カネと引き換えに米軍基地を押しつけようとする政権に憤り、埋め立てを承認しながら「県外移設の公約はやぶっていない」と言う仲井真知事に強い失望を表したといえます。
 稲嶺氏は今後埋め立て工事に必要となる市長の許可などを出さず、拒否する構えです。一方政府は、すでに知事が埋め立てを認めているので、このまま予定どおり工事の段取りを進めてゆくといいます。地元の意向を無視し、強引に事業を前進させてよいのでしょうか。
 東京大学の高橋哲哉教授は、原発に象徴される経済成長と、基地に象徴される安全保障はどちらも犠牲の上に成り立っていると指摘しています。(高橋哲哉『犠牲のシステム 福島・沖縄』集英社新書,2012年)大変説得力のある論稿です。今私たちに求められているのは、犠牲のない社会をいかに構築してゆくかではないでしょうか。
 名護市長選では基地の犠牲が問われ、東京都知事選では原発の犠牲が問われています。地方選に国策に関するテーマはなじまないという意見もありますが、私は決してそうではないと思っています。

細川護熙内閣について (3)

 昨日述べたように、自民党長期政権下で政治腐敗が進み、政・官・財の癒着構造が看過できなくなっていました。そうした中で、細川内閣はまず、政治改革(選挙制度改革)を目指します。
 細川内閣は従来の中選挙区制の見直しに取り組みます。中選挙区制は、同じ政策を主張する同一政党内の候補者の争いとなり、政策より利益誘導の競い合いになりがちなことが問題視されていました。この中選挙区制の欠点は、小選挙区制の導入によって解決できると考えられました。さらに小選挙区制は、政権交代を促し、二大政党制を実現しやすい制度としても支持を集めました。
 しかしその一方で、小選挙区制のもとでは死票が増え、政党の得票率と議席数にアンバランスが生じるという短所もありました。特に小規模政党にとっては死活問題で、議席数ゼロの可能性もあり、小選挙区制の導入に強く抵抗します。
 そこで死票をできるだけ減らし、獲得票数と議席数が連動する比例代表制の導入が提案されました。そして最終的には、両者を並立する方式、すなわち小選挙区比例代表並立制の採用で落ち着くことになったのです。
 その後細川内閣は国民福祉税構想を打ち出します。大蔵省はかねてから、消費税率引き上げによる財政再建が宿願でした。大蔵事務次官の斎藤次郎は小沢一郎に働きかけ、消費税率の引き上げを検討していました。そして引き上げを行うなら、政治改革に一段落がつき、内閣支持率の高いうちにと考えたのです。もっとも消費税率を3%から7%に引き上げるのは国民の合意を得にくいと考え、消費税を廃止して、福祉目的税化して提案するのが望ましいと判断しました。
 細川首相はこの斎藤・小沢提案を受け入れることになります。(それにしても、野田内閣の消費税率引き上げにあれだけ強硬に反対していた小沢氏が、当時は増税論者だったとはびっくりですね。)
 そして1994年2月3日の深夜、与党内での調整が不十分なまま、国民福祉税構想の記者会見を行います。
 「寝耳に水」だったのが、新党さきがけ(武村正義)、民社党(大内啓伍)、社会党(村山富市)らです。世論ばかりではなく、連立与党内からも猛反発が起こり、翌日開催した連立与党代表者会議において早々と白紙撤回します。
 国民福祉税の導入に失敗した細川政権は、以後急速に求心力を失ってゆきました。また自民党は、細川氏の佐川急便からの1億円借り入れ問題に対する追及を強め、苦境に陥ります。結局4月8日、政権継続が困難になり、辞意表明を余儀なくされました。
 今回の東京都知事選において他候補は、細川氏の佐川急便スキャンダルを猪瀬前知事の徳洲会問題と重ね合わせ、攻撃を仕掛けています。細川氏はこの攻撃をどうかわそうとしているのか、今後の対応が注目されます。

細川護熙内閣について (2)

 細川政権の記事を書きながらふと頭をよぎったのですが、もうすぐ始まる入試を受けて、4月から大学生になる若者たちに、「細川護熙」という名前がピンとくるのでしょうか。ブログをご覧のみなさんのまわりに、20歳前後の人がいたら、尋ねてみてください。私のイメージでは、日本史の入試問題でギリギリ出題が許されるのが、自民党長期単独政権の終焉、あるいは1955年体制の崩壊に象徴される細川政権の成立です。(これより後の時期は歴史の出題としてはふさわしくない?)日本史の教科書にもちゃんと載っていますので、現代史まで習っている受験生は、もしかしたら入試対策として、覚えているかも知れません。そのときにはすでに都知事選の結果も出ていますが、4月新学期が始まって顔を合わせる新入生に、聞いてみようと思っています。
 さて今日は、なぜ細川政権の成立に至ったのかついて述るため、前内閣の宮沢喜一内閣が退陣に追い込まれるまでの経過をみます。
 細川政権前の宮沢喜一内閣は「政治とカネ」の問題に苦労しました。首相就任(1991年11月)から間もない92年1月、宮沢派の阿部文男議員(元北海道開発庁長官・沖縄開発庁長官)が、北海道のリゾート開発事業に絡み、長官在任中に鉄骨メーカー共和からの収賄容疑で逮捕されました。さらに同年8月、『朝日新聞』の報道により、金丸信自民党副総裁が、東京佐川急便から5億円のヤミ献金を受け取っていたことが発覚、金丸氏はこれを認め、副総裁を辞任しました。
 こうした不祥事が次々と明るみに出る中で、自民党の金権体質が厳しく批判され、政・官・財の「鉄の三角形」の癒着関係はもはや看過できないという世論が高まってきます。以上の事情で、宮沢内閣は、まず政治倫理と選挙制度改革問題に取り組まざるをえなかったのです。
 自民党を舞台とする汚職事件は、やがて政界再編へともつながってゆきます。竹下派幹部の小沢一郎・羽田孜を中心とする改革派は、守旧派の宮沢喜一と対立し、1993年6月18日、宮沢内閣に不信任案を突きつけ、これが可決されます。この結果宮沢内閣は、解散・総選挙を決断します。
 7月18日、第40回衆院選が行われました。この選挙では、自民党を離党した小沢・羽田グル―プが新生党を、同じく自民党を離党した武村正義が新党さきがけを結成して臨みました。また細川護熙は、日本新党を率いて戦いました。開票結果は自民党が223議席と過半数を維持できず、単独政権を維持することは不可能になりました。
 当時の政局に強い影響力を持ったのは小沢一郎です。彼は自民党が他党と連立を組んで政権維持をはかるのを阻止するため、社会・新生・公明・日本新党・民社・新党さきがけ・社民連・民主改革連合の8党派をまとめ、細川を首相候補とする合意を取り付けました。自民党の新総裁には、河野洋平が選ばれました。
 以上の経過を経て、8月9日に行われた特別国会において、細川護熙が首相に指名されたのです。

細川護熙内閣について (1)

 先般社会再生学会のブログに会員の西村登さんが大変興味深い自分史をご投稿くださいました。その際私の歴史研究のポリシーとして、まず自分が生きている時代をしっかり把握し、両親、祖父母の時代まで遡り、確実に理解することを心がけていると述べました。また、「自分史」という「小さな物語」を、経済・社会の動きである「大きな物語」とオーバーラップさせ、そこに歴史的な軸を加えると、我々が直面している諸問題の見方もずいぶん変わってくると感じているとコメントしました。(社会再生学会のブログ2013年12月1日の記事をご参照ください。)
 東京都知事選が近づき、小泉純一郎元首相の支援を得て立候補を表明した細川護熙(もりひろ)元首相に注目が集まっていますが、1993(平成5)年8月の細川護熙内閣の誕生は、私の「自分史」と重なりあって、よく覚えています。1993(平成5)年といえば、私が大学院・博士後期課程に入った年です。まだ20歳代の半ばで、元気一杯、体も機敏に動きました。重いスーツケースを持って階段の昇り降りも平気で、お茶の資料集めのため、全国を走り回っていた思い出があります。また学部・修士課程と経済の勉強をして、世の中の動きに強い関心を持ち始めた時期でもありました。以上を私の「小さな物語」とすれば、38年ぶりの非自民政権となった細川護熙内閣の成立は、非常にインパクトの強い「大きな物語」でした。
 今日の記事では、今からほぼ20年前に遡り、細川内閣をふりかえります。はじめに細川氏の経歴をふれておきます。1938(昭和13)年生まれ。家柄がすごく、肥後細川家直系で18代当主です。母方の祖父は、第34代首相の近衛文麿です。上智大を卒業後朝日新聞の記者をしていましたが、1971年、参議院議員に初当選しました。その後1983年に熊本県知事となり、2期8年間務めました。知事時代には、東京一極集中を批判し、地方時代の旗手の役割を果たしました。
 知事を辞めた後日本新党を結成し、1993年、今度は衆議院議員に初当選します。そして同年8月、非自民・非共産8党派の推薦を受けて、首相の座につきました。

東京都知事選の行方

 1月23日告示、2月9日投開票の東京都知事選、いったい誰が当選するのでしょうか。今日14日午後、細川護熙元首相と小泉純一郎元首相が会談し、細川氏は原発政策を主要争点に掲げて出馬する意向を示し、「脱原発」で歩調を合わせる小泉氏に支援を要請しました。ワイドショーでツーショットのインタビューに応じる2人を見ましたが、どうやら小泉氏は本気で細川氏を応援するようですね。
 これまでの選挙戦は、要一元厚生労働相が自民・公明両党の支援を受けることから、舛添氏が有利と見られていましたが、細川・小泉連合の誕生で、全く行方がわからなくなってきました。
 小泉氏は今回の都知事選を「原発ゼロでも日本は発展できるというグループと、原発なくして日本は発展できないというグループの争いだ」と位置付けていました。有権者に郵政民営化賛成か反対かを迫った郵政選挙と同じ手法をとっています。なお「脱原発」という点では、共産・社民両党が推す前日本弁護士連合会長の宇都宮健児氏の主張も同じです。細川氏と宇都宮氏の違いはどこにあるのか、有権者にわかりやすい説明が必要です。
 マスコミの論説などで、「原子力発電は、国のエネルギー政策に関わる問であり、脱原発を都知事選の争点にするのはおかしい」という見解を聞きます。私も本来は自民党が圧勝した、2012年12月16日投開票の第46回衆院選、2013年7月21日投開票の第23回の参院選で争点にすべきだったと思います。しかし自民党はデリケートな問題であるだけに、原発・エネルギー政策には何もふれず、政権基盤を盤石にしてから、国民の手の届かないところで、原発推進に一気に舵を切りました。特定秘密保護法案や憲法第9条の改正も、そういうつもりなら、選挙の際に方針を示しておくべきでした。数の力にものを言わせ、あまりにも強引な政権運営を行う現政権に歯止めをかける意味でも、今回の都知事選は、重要な意味を持つと思います。
 自民党と舛添氏の関係も釈然としません。自民党は舛添氏を支援するそうですが、舛添氏は自民党の野党時代、党を批判して除名されています。以前除名した人を支援するという感覚は理解しかねます。
 2月9日、東京都民がどのような判断を下すのか目が離せません。間違いなくいえることは、細川氏がある程度票を集めれば(当選したら)、原発政策のみならず、アベノミクスそのものが修正を余儀なくされるでしょう。さらに、脱原発を旗印に、自民党に対抗する政治勢力が生まれ、ゆくゆくは政界再編につながってゆくかも知れません。猪瀬直樹氏の退任が、「一強多弱」の日本の政治に、思いがけない影響を及ぼすことになってきました。
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