寺本益英の経済コラム

 関西学院大学で日本経済史を担当する寺本益英がお届けする経済コラムです。ホットな経済ニュースにコメントし、ゼミ生の研究テーマなども紹介します。

2010年06月

菅内閣 「財政運営戦略」を閣議決定

 菅内閣は今日22日、2020年度までの財政健全化策などを示した「財政運営戦略」を閣議決定しました。特に基礎的財政収支(プライマリーバランス)については、2015年度までに赤字幅を半減し、2020年度までに黒字化する目標を設定しました。しかしこの目標を達成するための具体的な歳出削減や歳入増の手法の明記は先送りされています。また菅首相が表明した消費税率の引き上げ方針も、「税制の抜本改革で早急に具体的内容を決定する」との表現にとどめています。
 一方2011〜13年度予算の大枠を示す「中期財政フレーム」では、国債の利払い費などを除く一般歳出を今年度(71兆円)並みに抑制する方針を明記しています。
 2011年度予算での新規国債の発行額は、今年度の44.3兆円を上回らないよう「全力をあげる」と述べています
 加えて新規施策を実施する場合は、恒久的な歳出削減か歳入増で財源を確保するという基本方針を盛り込みました。
 同時に公表したマクロ経済の中長期試算では、3年間歳出を抑制したとしても健全化目標を達成するには、2015年度で約5兆円、2020年度で約22兆円の歳入不足となる見通しであり、もはや増税は避けられない状況です。
 ここであらためて国の債務残高を確認しておくと、国債や借入金などを合計した「国の借金」の総額が2009年末時点で871兆5,104億円に達しています。2008年末に比べ 24兆8,199億円増え、過去最大を更新しました。今年1月時点の推計人口で計算すると、1人当たりの借金は約683万円です。
 このような危機的状況にもかかわらず、10年もかかって財政悪化に歯止めをかけるという悠長な方針で大丈夫なのでしょうか。歳出を抑え、歳入を増やすということは国民に痛みを求めることにほかなりません。この痛みについて全くふれられていないのが気がかりです。また、いつ何%に引き上げるのか、低所得層にどんな配慮を行うのか、増収分の使途は何かなど、肝心な点が不明確で、逃げ腰の色彩が強いように思えます。

菅内閣が発足

 民主党と国民新党による菅連立内閣が今日8日、正式に発足しました。菅直人首相は就任会見で、経済、財政、社会保障を立て直して「最小不幸社会」を目指す考えを明らかにした。
 菅氏はまた、「政治の役割は、貧困や戦争など国民や世界の人が不幸になる要素をいかに少なくしていくかだ」と決意表明しました。
 さらに「強い経済、強い財政、強い社会保障を一体として実現する」という目標を示し、そのための成長戦略として、環境分野や医療・介護分野への重点配分や、アジアの成長を日本経済につなげる考えを強調しました。
 また「第三の道」と呼ばれる新成長戦略を打ち出しました。すなわち公共事業中心の政策(第一の道)と「行き過ぎた市場原理に基づき、供給サイドに偏った生産性重視の政策」(第二の道)を否定し「経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげ」るという方向性を提唱しています。

鳩山由紀夫首相が退陣表明

 鳩山由紀夫首相は今日2日午前、退陣を表明しました。国会内で緊急に開いた党両院議員総会で、沖縄の米軍普天間基地問題の迷走、社民党の連立政権離脱や「政治とカネ」の問題で混乱した責任をとって辞めると述べました。鳩山首相は民主党の小沢一郎幹事長にも辞任を求め、小沢氏も了承しました。民主党は4日に後継首相となる新代表を選出することを決めました。党内では後継に菅直人副総理・財務相らを推す声が出ています。
それにしても2006年以降、日本の首相は5年連続で交代しています。このうち衆院選の結果を踏まえた交代は昨年の鳩山内閣の誕生時だけで、他のケースは(今回も含めて)政権運営が行き詰まり、1年続かずに退陣というものです。
 鳩山首相は高い理想を持っていましたが、現実感覚が全くなく、責任感、判断力に欠けました。経済や外交の課題を正しく把握し、解決策を立案し、無理のないところから着実に実行してゆく統治能力が欠如していました。官邸スタッフに一体感はなく、各自がバラバラの発言をするばかりで、何も決めることはできませんでした。さらには内閣と党の間の意思疎通も欠き、政策は迷走を重ねました。さらに民主党色(政治主導)を出すために官僚を排除し、正確な情報や過去の経緯を分析できずに有効な戦略が立てられなかった点も看過できません。首相の指導力不足がここまで明らかになった以上、退陣はやむを得なかったといえます。
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