2010年06月01日

つづきの図書館 柏葉幸子 山本容子絵 

「つづきが知りたい」と、読み終わった本を目の前にして
思う事・・何度もある。主人公に感情移入して、まるで
自分の一部のようになってしまった時は、特に。
もしかしたら、本の方も、読んでくれた人に対してそう思って
くれてるのかも・・というのが、この物語の設定。
だから、「つづきの図書館」というのは、本の続きではなくて、
読んでいた人、読者のつづきです。

主人公の桃さんは、多分私と同じくらいの年齢。
まあ、有り体に言うと、中年のおばさんですね。
不器用な桃さんは、いろんな事がうまくいかなくて、
勤めていた会社も倒産してしまった。途方に暮れている所に、
たった一人の、病気で入院しているおばさんが、「帰ってきなさい」という。
そこで、四方山市に帰ってきた桃さんは、図書館の司書として働き始める。
しかし、そこは、本の登場人物が勝手に出てきて歩きまわるという、
不思議な図書館だった・・。

まず、最初に出てきたのが、裸の王様。彼は、桃さんに、
「青田早苗ちゃんの続きが知りたい」と頼む。
ところが、早苗ちゃんが幾つなのか、どこに住んでいるのか、
王様は知りません。そこから、桃さんの探偵役が始まっていきます。
初めは王様や、絵本から出てきたオオカミが怖くて、おどおどしていた
桃さんですが、彼らの願いをかなえてやり、共に暮らすようになって、
少しずつ心の殻を脱いでいき、自分から絵本たちの「つづき」を探すように
なります。彼らが、その絵本を愛してくれた人たちの事を、本気で
心配して、気にかけているのがわかるから。
その優しさが、「人」に対して頑なになっていた桃さんの心を溶かしていくのが
じんわり伝わってくる。柏葉さんの筆は甘すぎず、かつ、ふんわりと暖かく、
どこか不器用な桃さんと、絵本の主人公たちを包み込んでいくよう。
裸の王様だって、七匹の子ヤギのお母さんにやられてしまうオオカミだって
あまんじゃくだって、まあ、ほんとに上手く世渡りが出来てない仲間ですわ(笑)
でも、そんな彼らが、この私たちの人生を気にかけてくれるとしたら。
・・・もうね、やっぱり、心がジーンとします。

何だかねえ・・世の中、勝ち組じゃないと生きて生きにくい、ってどうなんでしょうねえ。
若い人たちの就職戦線の厳しさとか。ニュースを見ているだけで、うんざりする。
皆、自分が若い時、そんなに何でも出来たんだろうか・・。
全てが息苦しいですね、最近。そんな世の中は、若い人たちだけでなく、
私たちのような年代も実は疲弊させているんだと、最近よく思います。
桃さんが、疲れて、人間を信じられなくなる気持ち、何だかよくわかる。
自分だけが取り残されてる感じ。これは、ほんと、誰もが多かれ少なかれ
持ってる不安だと思います。その中で、誰かが、自分を気にかけてくれている。
幸せを願ってくれている。その暖かさに触れることのかけがえのなさが、
頁から溢れてきて、心を潤してくれます。
そして、ラストシーンがいいんですよねえ・・。うん。泣けてしまいました。

装丁と挿絵は山本容子さん。さすがです。
ふんわりあったかくて、ちょっと不思議で、ウイットに富んでいるこの物語にぴったり。
桃さんが、まあ、ほんとに不器用そうな人なのに、心打たれました(笑)
赤い表紙も綺麗で、奥付にまで山本さんの可愛いイラストが付いていて、
ほんとに幸せな本です。うん。「幸せな本」というのが、ぴったりだなあ。
幸せな本は、私たちをたくさん幸せにしてくれる。
これまで読んだたくさんの本たちに、「ありがとう」と云いたくなる本でした。



khghfg88 at 02:58コメント(0)トラックバック(0)外国男性作家  この記事をクリップ!

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