元気な冬の野鳥(やちょう)達 (その2 鳥に言葉、文法が?)
(外国の方に、この文章は日本語検定2級、もしくはその同等程度の実力、またはそこを目指している方々にぜひお読みいただきたい文です。日本語、日本文化、日本の自然など思いつくままシリーズで掲載しています。読み方、意味の難しいと思われるところはアンダーラインなどを引いて解説をしております。
また、日本人の方々にも普段何気なく思っていた事について、“ははあ、なるほど”と思わせる話題を提供しています。)
日本語、日本文化に興味のある方、また勉強していらっしゃる皆さん。お元気ですか?
前回No.5では身近にある自然を紹介しようとして、野鳥のユリカモメを書いている間にイケメンプレイボーイの在原業平(ありわらのなりひら)さんの話題になってしまいましたが、今回は真面目?に私の住んでいる川口市近辺で見られる身近な野鳥達をご紹介します。市街地にもカラスやスズメだけでなく結構多くの野鳥達が公園、学校、マンションなどの集合住宅の植え込み、個人住宅のお庭、忘れられたような小さな農耕地などで観ることができます。
“モズ” =実は小柄で冷酷なハンター。
トップバッターは“モズ”です。漢字では百舌(もず)、鵙(もず)とも書くようです。
英語ではBlack –headed Shrike, 体長は20cm。一年中移動せずに同じ場所で生活する留鳥(りゅうちょう)と季節によって移動する漂鳥(ひょうちょう)のケースがあります。冬場は単独行動で自分の生活圏、つまり縄張り(なわばり)を持っています。
普段はキィー、キィ と鳴きますが、百舌(百の舌)と漢字で書くように他の鳥の鳴き声を真似(まね)るのが得意で数種類の鳥達の声を連続的に長々と歌い上げます。気をつけないと騙(だま)されてしまいます。さてこの鳥はかわいい姿をしているのですが、実は小柄ながらおそるべきハンターなのです。
つまり、生きているカエル、ミミズ、トカゲ、昆虫類、ネズミ、他の小鳥の雛(ひな)などを鋭く鍵状に尖(とが)った嘴(くちばし)で捕えます。その狩(かり)のスタイルは、視界の良い木の枝でじっと動かず、地面を見つめ続けます。獲物(えもの)を見つけると地面スレスレに翔(と)び)鋭い嘴に獲物を引っ掛け、その獲物を咥(くわ)えたまま、ふたたび視界の良い枝の上に止まり悠然(ゆうぜん)と周りを窺(うかが)い、獲物をいたぶるようしながら食します。
また、この鳥は面白い習性(しゅうせい)を持っています。それは捕えた獲物を食べずに木の枝などに磔(はりつけ)にしておくのです。冬によく見られるので食料の保存のためとか、自分の縄張りの意思表示なのか色々理由は考えられていますが、後で必ず食べるわけではなく、そのまま放置される場合も多く見られ、それを他の鳥が食べてしまうこともあるそうです。1,000年以上も前からこの習性は知られていたのに、未だに本当の理由が不明なのです。この習性を専門用語で特別に“モズの早贄(はやにえ)”と言います(トカゲの絵をご覧ください)。この磔(はりつけ)はモズの仲間だけに見られる本当に不可解な行為です。一体何のためにやるのか?未だにミステリーのままのようです。
注:ここまででアンダーラインを引いた言葉を簡単に説明します。
野鳥(やちょう)=ペットなど人間に飼育されないで自然界に生息する野生の鳥
英語ではwild bird.
縄張り(なわばり)=他の仲間の侵入を許さない自分の生活圏、テリトリー
悠然(ゆうぜん)と=ゆったりと落ち着いている様、余裕たっぷりの状態
いたぶる=すぐに殺さないでいじめ抜く。
習性(しゅうせい)=長いあいだの身についた行動パターン、くせ。
***************
“ジョウビタキ” =挨拶(あいさつ)好きな可愛い小鳥。
この鳥の仲間は鳴き声が石を叩くような音に、つまり火打ち石で火を起こす時の音、カタカタ、と叩くように聞こえるのでヒタキとなったようです。それに秋には常にやってくるので常鶲(ジョービタキ)と漢字では書くようですが漢字名はあまり一般的ではないようです。英文名 Daurian Redstart、体調 14cm。
冬鳥(ふゆどり)と言って、秋から冬にかけて中国北部、シベリアなどから日本にやって来て、春に帰って行きます。市街地、平野、山間地などあらゆるところで観られます。
虫、クモ、などの小型の昆虫、木の幹の間のダニ、木の実などを食料としています。
絵はオスですが、メスはもっと茶色を主体にした地味な色合いです。
何と言ってもこの鳥の特徴はオスの美しさです。頭部は銀髪(ぎんぱつ)、顎(あご)は黒、胸は鮮やかな緋色(ひいろ)、腰は薄いオレンジ、翼は黒ですが真ん中に真っ白い斑点があり、ちょうど男性の日本の準正装の紋付(もんつき)を着ているように見えます。冬はやはり自分の縄張りを持ち、単独で行動します。一日をかけて自分の縄張りを周回します。つまり同じ時間に同じ場所に訪れることが多いので観察し易いかも知れません。面白いのはこの鳥、最初に申し上げたように ヒィー、カタカタ、ヒー、カタカタと鳴くのですがカタカタと音を出すとき時々頭をさげ、前傾姿勢になりお辞儀(おじぎ)の動作をします。その際尾羽も同時に震わせます。まるで、“こんにちは”“こんにちは”とご挨拶または“ごめんなさい”“ごめんなさい”と謝っているようにも見えます。誰に挨拶しているのか、誰に謝っているのか全くわかりません。一説にはここが自分の縄張り(テリトリー)だとする示威行動(じいこうどう)との説もあるようですが、果たして?
この件“日本の鳥百科、サントリーの野鳥活動”のサイトにこの動作について古くから言い伝わるとても興味深い民話が記されています。
それによると“ごめんなさいと謝っている”ようです。詳しくはサントリーの愛鳥活動“ジョウビタキ”で検索してください。
注:ここまででアンダーライン引いた言葉の説明。
火打ち石(ひうちいし)=発火させるため叩いで火花を出させる石。
地味(じみ)=色、や柄(がら)が落ち着いていて目立たない様子。
緋色(ひいろ)=濃く、鮮やかな赤色。スカーレット
紋付(もんつき)=男性の和装の準正装で胸の部分に家紋を白抜きで入れた着物。
示威行動(じいこうどう、しいこうどう)=自分の存在や考えを他に知らしめす行為。
民話(みんわ)=民衆によって伝えられた説話、昔話。
*************
“ヒヨドリ” =パンクファッションか?
漢字名は鵯(ひよどり)ですが、これも漢字名は一般的ではありません。
英語名はBrown-eared Bulbul. 一年中一箇所に留まる留鳥(りゅうちょう)です。
体長は27cm程度。市街地、山林、などに生息。大概はグループで移動して木の実、虫、果物、トカゲ、花の蜜などほとんど手当たり次第食べるようです。特に冬の彼らの大好物は熟して地面に落ちる寸前の柔らかくなった柿の実です。これは他の鳥との奪い合いの戦争になるぐらいです。
名前の由来は明らかに“ヒィーヨ、ヒィーヨ”という鳴き声です。
全体的にはグレーの色調ですが、英語名の通り、雄も雌も、“ほっぺ”から耳にかけての赤茶色が特色でこの鳥のトレードマークです。
普段、頭のてっぺんは羽毛がおっ立っており、ボサボサでモヒカン頭のようです。ベッカム、ネイマール、ハメスロドリゲス、アエグロなどプロサッカーの一流選手が一度は決めたことのあるヘアスタイルなのであります。
ただ、このボサボサ頭は、ひとたび警戒したり、身の危険を感じるとすぐにピタッと頭部に吸い付くように引っ込みます。面白いことに、冬のさなかに咲く椿(つばき)の蜜を吸うべく、頭から花の中に首を突っ込み、頭から首にかけて花粉で真黄色になってしまいます。ちょっと恥ずかしそうにしていますが、これによって花粉を媒介し椿の受粉の手助けをしているのです。ヒヨドリは食料としての蜜をいただく、椿とっては種の保存の手助けになるのです。広く言えば共存共栄の一つのパターンでしょうか?
注:アンダーラインを引いた言葉の説明。
由来(ゆらい)=ある事がそこから起こっている事。いわれ。
ほっぺ=頰(ほお)の幼児語、子供の言葉、親しみを込めた言い方。
てっぺん=一番高いところ、場所、頂上。
モヒカン頭=頭部の左右を借り上げて、中央の部分だけ伸ばし立てる髪型。1980代にパンクファッションとして定着した。その後時代により変化を遂げているヘアスタイル。
さなか=最中と書く。状態が最も強い時期。この場合、冬の一番寒い時期。
椿(つばき)=冬から早春にかけて花を咲かせ冬でも緑の葉をつけている。果実から
椿油(つばきあぶら)をとる。油は食用もしくは髪に使用する。今では高級品。
**************
“ムクドリ” =おしゃべりでうるさい。
留鳥もしくは漂鳥、漢字名は椋鳥、英語名 White-cheeked Starling, 体長 24cm。
市街地、草原、農耕地などを生息地としている。雑食で植物の種、木の実、果実、昆虫などなんでもござれ。キュルキュル、ギュルギュルと鳴く。前述のヒヨドリと食べ物がかち合う。
特に秋口から冬場の柿の実の熟したのは大好物らしく、柿の木の奪い合いになる。筆者はこれを柿の木戦争と呼んでいるが、大概結果は群の多いムクドリの勝ち、最後はヒヨドリを追い散らして独占。困ったことは、夕方になると公園などこんもりとした大きな木などを寝ぐらにするためさらに大群が集まってくる。川口市の青木公園には数百羽になることが多く、日が落ちて暗くなるまで彼らのおしゃべりが続く。何の話題でおしゃべりをしているのか知る由もないもないがとにかく騒々しい。仲間同士で喧嘩(けんか)も始まる。ほとんど大音響と言って良い。公園の近くのマンションの住民など迷惑しているのに違いない。すでに対応をとっている都道府県もありようです。鳥の鳴き声で騒音防止条例が適用されたことはないと思いますが、いやはや今後どうなることやら?
一言(ひとこと)弁護しておきますと、彼らも野菜などを食い荒らす昆虫類なども食すので益鳥としての役割もあります。青木公園でも彼らはサッカーグランドの天然芝の害虫クリーンアップ作戦を試合のない日に毎日30分ほどやっているみたいなのです。
その点、大目(おおめ)に見てあげましょうか。
注:アンダーラインを引いた言葉の説明。
こんもりとした=木が薄暗くなるほど葉が生い茂っている様子。この場合は冬の常緑樹の大木。
寝ぐら=塒(ねぐら)とも書く。鳥の寝るところ。人の寝るところ。自宅。
大目(おおめ)に見る=被害やミスなどを厳しく責めないで寛大(かんだい)に扱う
こと。
**************
“シジュウカラ” =なんと鳴き声に文法があった、、、、、、
留鳥、もしくは漂鳥。漢字名は四十雀(しじゅうから)、英語名 Japanese Tit.
市街地、庭園、公園、住宅地などに。ツツピー、ジュクジュと鳴く。冬場は小グループで移動。昆虫、クモ、草木の種子、木の実などを採食(さいしょく)する。
頭は黒で紺色の光沢(こうたく)がある。お腹は白、翼はグレーと白、肩口から背中にかけて薄い緑色、そして喉から首、お腹にかけて一本の黒っぽいラインがあり、喉のところが太い。
前から見ると、まるでビジネスマンが白いワイシャツに濃紺のネクタイをしているように見えます。可憐(かれん)な姿とかわいい鳴き声で移動し親しまれています。
実はこのかわいい小鳥にとんでもない能力があることが、2016年3月、総合研究大学院大学の鈴木俊貴(としたか)氏を中心とした研究チームより発表されたのです。
それによると、単語をつないで文を作り、情報を他に伝達する言語能力はヒト(人類)だけに進化した性質だと理解されていました。ところがこのシジュウカラがなんと、異なる単語を組み合わせて、“警戒しろ”“集合”“警戒しながら集まれ”というメッセージを作ることが出来、さらに、この鳴き声の組み合わせを間違えると情報がうまく伝わらないということが判明したようです。つまり一定の規則、そうです人間社会でいうところの文法のようなものが存在することがわかったのです。
この研究成果は世界的な生物学、物理学、化学、地球科学などの専門的学術ジャーナル
“NatureCommunications”誌に公開されているようです。
このような研究がどんどん進むとAIなどを通じて人間が他の生物と会話できるように
なるのでしょうか? それともミステリーはミステリーとして残しておいた方が
夢があっていいような気がしないでもないですが、、、、、
注:アンダーラインを引いた言葉
光沢(こうたく)=物や表面のつや。なめらかで輝いている状態。
可憐(かれん)=姿、形が可愛らしく守ってやりたい気持ちにさせる状態
**************
別注:
1.鳥の名前について。生物学上の正式名称、学名(ラテン語)については記していません。
2.留鳥、漂鳥についてはモズの最初の部分で説明しましたが、世界中の気候の変化に伴い、生態系は常に変化する可能性がありますので絶対的とは言い切れません。
昨日まで留鳥、漂鳥だった鳥が、気候が合わなくなったり、天敵が増えたり、食料不足で止むを得ず海を渡るようになるかも知れません。何せ渡りをする鳥の仲間には何千キロ先の目的地に間違えずに到達できる驚異的なナビゲーションシステム持っているやつがいるのです。
**************
協力 日本野鳥の会のNさん。
参考させていただいたサイト。
フリー百科事典 Wikipedia 各々の鳥の項目
サントリー日本の鳥百科
日本野鳥の会 サイト
総合研究大学院大学 2016.03.09 プレスリリース“単語から文を作る鳥類の発見”
=一部文章を転用させていただきました。
資料
山と渓谷社 新番 “日本の野鳥”
山と渓谷社 “野鳥の名前”
“明鏡国語辞典”、“デジタル大辞典コトバンク”、“goo国語辞書”
**************
絵と文 川口国際交流クラブ、おおかわら。
図鑑のようにならないように今回も思い込みで書きました。文章の間違い、事実と異なることが有るかも知れません。未熟者です。ご勘弁をひらに。