2-sec.壱【確実に僕を追い込んだのは、】

主治医は、
僕の咽喉から手をはなすと、わきの下を触診した。


ぐりゅ、という音が全身から耳朶を侵食する。


内臓を火かき棒でかきまぜられたように、
僕はうめいた。


胃腸の部分が激しく主張する。


主治医にすがる。


刹那、恐怖する。


主治医の目は、確実に僕を追い込んだ。
彼の目に映るその感情は、

病理を見つけられなかったから?
死が確実な病気だから?

僕は、叫んだ。その答えは、
看護婦である姉の紹介でA県N市の某国立病院への
転院を知らされたとき、気づいた。


その両方だったことに・・・


僕は、抵抗した。行くのはいい。
僕だって早く治したい。


でも、大学を休学するなんて
嫌だ!なんで僕が?!一生懸命、勉強したじゃないか!


誰も、こんなこと教えてくれなかったじゃないか!


激しい痛みは、
もはや病理によるものか感情によるものか、わからないまま、
僕はうめきつづけた。


そして、いよいよタクシーに乗り込む。
転院だ。


東京駅に、こんな地下通路があることを
車椅子にのってはじめて、知った。


新幹線に個室だって、もう一生乗ることもあるまい。


これだけの手厚い看護に身をゆだねなければ
ならない現実に僕は、
かつてないほどの不安を覚えたのだった・・・


そしてそれは、現実となる。
転院初日にあんな処置が待っていようとは
想像していなかったのだから。



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