2-sec.弐【生への執着】

「ふざけるな!俺は元気じゃ!ちゃんと学校に行けるし!

「立派な大人が、なんでこんなところで●●せなあかんのじゃ!
 絶対に嫌じゃぁ!」



夜の血液内科病棟に、きっと響き渡っていただろう、
僕の叫び。


自分がかつて聞いたことのない不思議な声が
目の前を通り過ぎていった。


かすれている。


ありったけの声をふりしぼったのに、それは
死者が未だ「生」に執着している様を連想させた。


僕は、自分の変わり果てた声に驚き、みるみるうちに
目頭が熱くなるのを意識した。


無意識的に「死」を思った。
顕在した怒りをぶつけたのはまず、姉だった。





ポータブルトイレを目の前にして、
僕は2人部屋の【なかで】排泄するようにいわれた。
看護婦である姉が、医者からの話を聞いたうえで
僕に説明する役目だったのだが、
最初が、ポータブルトイレの説明だったのだ。


「冗談もたいがいにしてくれ!
 今は隣の人もおらんけど、犬畜生と違うんや!」


苦痛よりも、尊厳という言葉を借りた【生への執着】を
僕は選んだ。
姉は辛抱強く、僕を説得した。
しかし僕は、ポータブルトイレを頑なに拒み続けた。


共用トイレを使うことが許されたのが唯一、
僕が誰にもぶつけることのできなかった怒りの
矛先だったのかもしれなかった。


しかしそれも数時間でおわった。
共用トイレに向かう途中、ついに倒れてしまったからだった・・・



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